私たちは憧れているがゆえにここにいる   作:ヒデヲ

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……?

 

 次第に強くなる違和感に目を覚ます。手足がしびれ、寒気がする。特に胸に感じる違和感は強まり、痛みに変わってきた。頭は朝起きたばかりのように鈍かったがこの嫌悪感を確かめるために目を開く。すると一番最初に見えたものは雪だった。

 

……雪?

 

 自分の状態を確かめてみると、どうにも雪の上で倒れているらしい。らしいというのは倒れている現状に覚えがなく、自らのことだと受け止め切れなかったからだ。自分の手のひらを見ると、白い雪とは対照的に薄暗い中でも真っ赤に霜焼けしていることがわかった。少し周りを見回すとそこはレンガ造りの壁にはさまれた路地裏である様だ。あたりは暗く、電灯の明かりがちょうど自分を照らしていた。

 

いったい俺に何が起きたんだ?

 

 いまだに鈍い頭を動かして思い出そうとしても何も浮かばない。少しの間考え込んでいたが風が吹きつけ、より一層雪の冷たさを感じ、自分が雪の上で寝転がっている状況を思い出した。そこでとりあえず立ち上がろうと腕に力を入れるが体を持ち上げることはできなかった。

 

な、なんで?

 

 何度やっても体を起こすことができず、雪を掻き分けることしかできない。それどころか体を動かしたせいか、胸の痛みは強くなり、目がかすんできた。

 

……助けを呼ぼう

 

 しかし口からは助けを求める声はでず、痛みをこらえる嗚咽だけが漏れた。

 

だ、だれか……

 

 より視界が狭まっていく。それに対して音と痛みは鮮明になっていくようだ。きっと寒さのせいで真赤になっているだろう耳に神経が集中していく。すると

 

 

 

……足音が聞こえたような気がした。

 

 

 

 決死の力で声を出そうと試みたが姿勢を崩し、仰向けに転がるだけであった。泣きたくなった。いや、もう泣いてるのかもしれない。足音は頭の方から聞こえるようであり、起き上がり声をかけたかったが腕を伸ばすので精一杯だった。しかし転がった時に音が出たおかげか足音が止まった気がする。

 

 

ああ、これでなんとかなるだろ……

 

 

 人がいることに安堵すると急に眠くなってきた。痛みも鈍くなっているように感じる。腕も下ろし、寒さに耐えるように丸くなった。

 

 

「……こんな辻斬りのような形で申し訳ない。こちらもギリギリなんだ。きっと局員の仲間もすぐ助けに来てくれるだろう」

 

 意識がなくなる前に女性の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

…ここはどこだ?

 

 暖かく、やわらかい感触につつまれながら目を開けてみると自分の部屋ではないことに気がついた。首を動かし、周りを確かめると点滴があり、自分の腕へとチューブが伸びていた。室内はガランとしており周りの機材から一人部屋の病室であることが分かった。

 目線を下げてみると今まで自分を温めてくれた布団の下に、病衣を着ている自分がいることに気がついた。すると雪の上で倒れていたことを思いだす。きっとだれかが救急車を呼んでくれたのだろう、お礼を言わないと。そんなことを思いながら体をほぐそうと腕を伸ばす。

 

ん!?

 

 なんか固い。というより重い。そんなに寝込んでいたのだろうか? そう思い腕をまじまじと見る。

 

…なんでこんなに細くなってるの?

 

 あまり運動に明け暮れ筋トレに励んだわけでもないが、大学生の男子としては標準的な筋肉はあったはず。ちょっとやそっとの減量なんてもんじゃないだろうこれは? 一体どれだけの期間、俺は寝込んでいたらこうなるんだ?

 ため息をはきながら腕を下ろし、また布団をかぶり、今の状況を整理しようと頭を回す。雪の上に倒れる前に覚えていることはあの娘話していたことぐらいかな、だけど話した内容が思い出せない。また彼女と別れた覚えもない。どうなっているんだ。

 雪の上で倒れていた痛みを思い出し、胸をさすってみる。少しめくって見てみるとそこには少し白いが健康的な肌があった。手術とかしなかったんだろうか? まぁしないで済むならそれに越したことはないだろうけど。

 

 しばらくぼーっとしているとノックの音が聞こえた。

 

 

「あら?」

 

 ドアを開く音がして入ってきた女性は看護師さんだろう。こちらと目が合うと笑顔で近くまで歩いてきた。黒いショートの髪が笑顔と相まってよく映えている。

 

「目が覚めたんですね。ご気分やお体で痛いところなどはございませんか?」

 

「ぃ…んっんー?あーあーあれ?」

 

声が出にくいな。それになんだか高い気がする。まぁ大丈夫だろ。

 

「たぶんある程度は大丈夫だと思います。体が固くなったり、声が出にくい程度ですよ」

 

「そうですか。でも一応大事をとって先生に見てもらいますので少し待っててくださいね。あ、のどが乾いてますよね。ついでに水差しも持ってきますよ」

 

 笑顔が眩しいなー。看護師さんはドアの方へ戻っていくが、ふと思い出すようにこちらを振り返った。

 

「そういえば、君ってお名前なんていうの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 看護師さんに名前を伝えた後に病院の先生から俺の容態を聞いた。俺は3日間寝込んでおり、その間に診察したが凍傷以外に異常は見られなかったらしい。胸が痛かったことを伝えて診断を受けたが原因はわからず、今は痛んでいないことから俺も気にすることをやめてしまった。しかし俺が目を覚ましたことでわかった問題が三つある。まず最初に右足が動かなかったのだ。先生は凍傷による神経系の異常だと考えているが詳しいことはわからないらしく、そのことを俺に謝ってくれた。身元もわからない俺に親切にしてくれて本当に良い先生だと思う。……そう、身元がわからなかったのだ。俺は自分のことを先生に伝えたが住所や大学といったこと内容が一致しなかったのだ。すると俺は記憶に混乱があると判断され、凍傷なども治りきっていないため病院で保護されることになった。そして最後に……

 

「目が覚めたら体が縮んでしまっていた……か」

 

 俺は平均的な大学生くらいの体格をしていた。しかし鏡で確認してみるとそこに映っていたのは中学生ほどの姿をした子供が居た。これを見たとき正直怖かった。記憶に混乱があると判断されながらも自分では正常だと思っている矢先にこれである。頭の中には大学生までの思い出が詰まっている。しかしここにいるのは中学生ほどの子供なのだ。俺は記憶は正常なのだろうか。記憶が正常だとしても体が正常ということはないだろう。俺は心か体のどちらか、もしくは両方の異常を抱えているのだろうか、という思いをひたすらに抱え込んでいた。そんな様子を先生と看護士さんは心配してくださったのだろう。毎日会いにきてくれて、暇だとおもって本を持ってきてくれた。その内容自体はよくあるファンタジーものだったが、本を読むという行為に少し前までやっていたことを思い出した。そう、俺は医者になりたいんだ。

 

 

「熱心だね、でもあんまり勉強をやりすぎると気が滅入るからほどほどにしないとだめだよ」

 

 声の聞こえた方向に目をむけると苦笑いしている先生が見えた。

 

「大丈夫ですよ先生。しっかり休憩を取ってますし、やってる範囲もそう難しいところじゃないので」

 

 俺は先生にそう答えるとテキストを閉じた。俺は心と体について悩むことを止め、医者になるために勉強することにした。周りが俺を中学生位の年だというが、今やっているテキストは大学入試対策のものだ。これを解くことができるだけでも自分のアイデンティティを持つことができた。むしろ中学生でここまでできることは周りより一歩どころではなく何歩も進んでおり、以前まで所属していた大学よりも良いところにいけるだろうと確信していた。

 

「君がこの病院にきて三ヶ月がたったね」

 

……そうか、もうそんなに経ったのか。毎日勉強ばかりしていたから時間の流れがきにならなかったな。でもなんだろう? いきなりそんなことをいうだなんて。

 

「今日は君にニュースを持ってきたんだ」

 

 先生は俺にうれしそうに伝える。

 

「どうかしたんですか」

 

「実はね、君の知り合いがきているんだ」

 

「知り合い……ですか」

 

 俺の知り合いは今の俺の姿を見て俺だとわかるのだろうか。

 

「ああ、イギリスの子でね。日本語も流暢に使ってるようだから日系なのかな、驚かせるのも悪いから君に一言入れてから会ってもらおうと思ってね」

 

 イギリス人……? イギリス人に知り合いは居なかったけど、だれなんだ。

 

「それでどうだろう、一応私も立ち会うから通してもいいかな」

 

「……ええ、お願いします」

 

 そう答えると、先生は病室の扉を開き誰かを招き入れる。すると今の俺と同じくらいの背丈の子が部屋に入ってきた。その子は少し青みがかった黒髪をしており、中性的な顔立ちをしていることもあって凛としていた。俺はベッドのそばにある椅子を勧めるとその子と同じくらいの目線になった。その子は先生が居ることを確かめるとこちらの方を見た。

 

「僕のことは覚えているかな、記憶に混乱が見られるようだから自己紹介をしておくよ。僕の名前はクロノ。クロノ・ハラオウンだ」

 

 

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