”他力本願な不死”と”自由気ままな指揮者”も来るそうですよ? 作:バリアリーフ
ちょっとした宴をその晩開くことになった。
普段と違い豪勢に数多くの料理を並べ、
子供たちも一緒に食卓を囲む。
”ペルセウス”を倒したとき以来の豪華な食事会となり、
黒ウサギが採ってきた魚をメインに乾杯した。
子供たちも皆にも好評だったが十六夜が
「酢漬けにした方が美味い」
という一言でいろいろ台無しになり、
祭、レティシアの即席タッグにより
「だったら作ってみようじゃないか」
と急遽、酢漬けににした料理を用意。
結果好みが分かれる食材であることが分かり、
十六夜に強制謝罪の罰ゲームが執り行われるという一幕が盛り上げた。
宴も終わって自室に戻った耀はベッドに座って三毛猫と共にいた。
「私は収穫祭が始まってからになったよ」
『・・・・・・残念やったなお嬢」
「仕方ないよ。十六夜は本当に凄いから。
・・・・・・うん。本当に」
膝に乗せた三毛猫の背を撫でながら話す声はどこか沈んでいる。
「水源を手に入れて、十六夜がいなかったらアルゴールも倒せなかっただろうし、
ゲームの謎も簡単に解いちゃって、今朝も魔王を一人で相手に大活躍。
ここまで凄いともうお手上げ。
ホントにとんでもなく凄いんだなあって感心しちゃった」
『お嬢・・・・・・』
「ううん。十六夜だけじゃない。
飛鳥も祭も頼華も凄いんだ。
飛鳥はボロボロでどうしようもないと思ってた土地を復活させちゃった」
『ワシらのおった所じゃ大したことあらへんやったやないか』
「それは技術が発達してたから。
それだけじゃない、祭はコミュニティの先の先のことまで考えて、
ゲームに勝つためにいろいろ考え出して、みんなが頼りにしてる。
頼華も遊んでばっかりいるようでとても気が付く子だし、
子供たちとも楽しく過ごせるように架け橋になってくれたり彼の明るさに助けられることも沢山。
本当に皆は凄いね」
『どないしてもうたんや・・・お嬢?」
「なんでもないよ・・・なんでも」
(ホントなら”外門利権証”が返ってきたときに黒ウサギやジンにおめでとうって言ってあげなきゃいけなかったのに苦しくて言えなかった)
「私ね皆の役にたちたくて頑張ったんだ。
これで収穫祭に一日でも長くいれば多くの幻獣に出会うチャンスがある。
それでもっとたくさんのギフトを手に入れればもっと役に立てる。
皆が”ノーネーム”のためにいろいろして頑張ってる。
だから私は今度の収穫祭で沢山の種や苗を手に入れて、
皆でこの農園を甦らせたんだって言いたかったんだ」
『そんなん全部の日程やなくても手に入れられるんやないんか?』
「そうなんだけどね・・・・・・」
(でも一番頑張ったって胸を張れる何かが欲しかったんだけど。
やっぱり十六夜が一番だなあ)
「ジャックたちに勝って、あのキャンドルホルダーを手に入れたときもこれで!
って思ったのに、あっさり十六夜に逆転されちゃった」
『お嬢は悪うないで、あんなもん予想できるかいな。
今まであんな奴おらへんかったんやから、しゃあないで』
「うん」
(十六夜みたいな凄い男の子、私たちの居た時代でもいなかった。
箱庭に来なきゃ十六夜と会うこともなかったんだ。
ホントに凄いのに、それを自覚してて偉ぶらないんだもん。
私ならできないかな?カッコいいなあ)
「あれ?」
『ん?どないした?』
(カッコいいとか何処から出てきた?十六夜の事カッコいいと思ってる?なんで?確かに十六夜は凄いし強いし頭もいいしちょっとエッチで最初怖いと思ってたけど優しい事も知ってるしやり過ぎなくらいからかうけどホントに嫌がるような酷いことは絶対にしないけど十六夜のノリとか戦った後の気持ちよさそうに笑ってるとこなんて素敵だとは思うよ?でもそれだけでカッコいい?ああでも黒死病で倒れてた時に十六夜が謎が解けて駆け出していくのはちょっとカッコ良かったかも?・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・もしかして私・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
十六夜が好き?)
「違う違う違う違う違う違う違う!!絶対に違う!!」
突然立ち上がって否定を連呼し始める耀。
そのせいで三毛猫は膝の上から弾き飛ばされ、何とか床に着地する。
『お嬢落ち着くんや!!どないしてん!?まずは深呼吸してやなっ!!』
ベッドでゴロゴロとなっていた耀も三毛猫の言葉で落ち着こうと深呼吸する。
「大丈夫、何でもないから」
『そうは見えへんで、ワシに話してくれへんか?』
(話すなんて、勘違いで暴走したなんて言えるわけがないし。
ああもう十六夜の顔がじゃまで考えがまとまらない。
何でニヤニヤしてんの!
黒ウサギに抱きつかれた時も嬉しそうにしちゃって、
何で私が十六夜に嫉)
「そんなこと考えてない!!私が十六夜に!!?
そんなことない!絶対にない!!私はそんなこと考えてないのーーーーー!!!」
枕をボフンボフンと何度もたたきつけ、軽く錯乱状態ともいえる状況の耀。
終いには布団を頭からかぶりミノムシのように籠ってしまう。
これまで耀のここまで荒れた状態を見たことがない三毛猫は、
驚きのあまり言葉を無くし、心配そうに布団団子のそばに行くのみだ。
(なんでなんで今になって気づいちゃうかな私の馬鹿!
確かに頼華とレティシアが二人で楽しそうにおしゃべりしてたり、
飛鳥の照れたり嬉しそうにしてたりとか見て、恋人ってどんなだろうって考えたけど。
だからって十六夜の事が好きになってるなんて!!
飛鳥やレティシアに可愛いなあってニヤニヤしてた自分を説教したい)
春日部耀は頭の回転が速い娘である。
突然理解したため受け入れきれてはいないのだが、それは人生経験がものをいう領域。
14歳の少女がいきなりそれをできることはそうはないだろう。
「こんな気持ちのままじゃ顔会わせられないよ・・・」
蚊が鳴くように零した言葉で、誰に言ったわけでもない。
気が動転してしまった耀は三毛猫の存在が頭から抜け落ちていた。
『お嬢・・・・・・今はゆっくり休んだらええ』
ヒョイとベッドを降りた三毛猫は何か覚悟を決めたように部屋を出て行った。
(小僧め、お嬢をここまで苦しませた罪は重いぞ!)
耀の持つ”生命の目録”は動物、幻獣を問わずコミュニケーションが可能である。
とはいってもそれは、言語による会話を用いることには変わらず決してテレパシー等ではない。
もちろん三毛猫も耀の言葉が分かるだけで(ギフトに関係なく分かっていたが)、
耀が言葉にしていない気持ちまでは想像するしかないのだ。
何が言いたいのかといえば、三毛猫は壮絶なまでの勘違いをしている。
部屋に一人残った耀はパンク寸前の頭と火照りきった体のせいか急激な睡魔に襲われていた。
「十六夜には・・・・・
・・・・・・・・いるのかな・・・?・・・」
*
消灯作業で廊下を歩いていた子供たちの話から十六夜は風呂場にいるようだ。
気配と足音を殺して三毛猫は脱衣所に潜り込んだ。
(小僧一人かと思ったら気の抜けた小僧と吸血鬼のねーちゃんに狐の嬢ちゃんも一緒か)
脱衣所の籠を見るに頼華、レティシア、リリも一緒に入っているようだ。
(つがいの小僧とねーちゃんは分かるがそれと一緒に入っとるとは・・・。
小僧の服を毛塗れにするのもええがチトぬるい)
十六夜の服が畳まれた籠に飛び込んで物色を続けると、
固いものが籠の底から現れる。
(小僧が何時も着けとるヤツか、調度ええ)
ソレを咥えて三毛猫は脱衣所を飛び出した。
*
「ごめん、さっぱりついてけない」
片や”箱庭の騎士”として多大な経験と知識を有するレティシアと、
片や多種多様な知識に圧倒的な思考速度と知恵を持つ十六夜。
その二人が最強種である龍の純血について話しているのだが、
偏った知識と人並みレベルの思考力しか持たない頼華には理解ができなかったようである。
どう説明したものかとレティシアは熟考するも十六夜があっさりと、
「龍の純血は、強い・デカい・いきなり出てくる。
子供はクローン作るか、父母息子娘になるかってことだ」
「なんとなく理解した~」
まだ?は残っているが一応の理解はできたらしい。
箱庭生まれのリリも知ってはいるものの理解はできていなかったようで、
二人の解説で納得できたようだ。
「じゃあレティシアにも龍の血が流れてんの~?」
「そう言うわけではない。
仮に流れていても私に流れているのは薄まっていてそれほどの影響はない。
どちらかといえば創造主という位置が適切か」
「サンドラちゃんやマンドラ様なんかが龍の血を濃く継いでいます。
他にも”サラマンドラ”でお見かけした方々が亜龍と呼ばれることになります」
「お~リリちゃん賢~い!」
「頼華も少しくらいはココの事勉強しといたほうがいいぞ」
十六夜に言われ笑って頷く。
頼華の知識量も多いのは多いのだが、ひどく偏っているのだ。
アニメや漫画、ゲーム等で多くの幻獣や武器や神話の神々の名前を知っていたりする。
しかしそれが即ち、箱庭世界に住む者達と同じというわけではない。
中には共通するものもあるがそれでも僅か。
頼華は
『難しいのは十六夜と祭に任せてやれることやればいいや~』
という考えだったが、今朝十六夜が一人で戦うことになったことで、
自分だったら勝てなかっただろうと今までを真面目に反省したのだ。
以前までであれば「へぇ~」と聞き流していただろうが、
今回はとにかく理解しようとしている。
「でもまず勉強ってのがやったことないから分かんないんだよね~」
「軽く聞いたが学校なんかにも行ってなかったんだろ?」
「金持ちしか行けなかったね~」
「ならライカは独学で文字や計算を覚えたのか。
それもまたスゴイことだが」
「”ノーネーム”だと年長組の子らよりモノ知らないから、
最近はいろいろ読んでるかな~。
十六夜はどんな方法で勉強してたの~?」
「俺か?」
思わぬ切り返しに十六夜は驚く。
「私も前々から気にはなっていたのだ。
五人の中でも特に十六夜は博識だ。
故郷ではそういったことを専門的に学んでいたのか?」
「本を読むのは好きだが、興味本位で学んでただけだ」
話したくない訳ではないが説明するのに時間がかかったり面倒なことがある。
リリには悪いがダシに使わせてもらうことにする。
「リリも逆上せる前に上がっちまうぞ。
あんまり夜更かしして寝坊でもしようもんなら怖え奴らがいるからな」
言われてリリの顔が少し赤いことに気付く。
リリもちょうどよく温まったのだろう、気持ちよさそうに風呂を出て、
十六夜と共に脱衣所へ向かった。
「オレはもうちょっと浸かってるけどレティシアどうする~?」
「そうだな、私は・・・・・・?」
レティシアが答えるより先に脱衣所からリリの慌てた声が聞こえてきた。
「仕方ないし上がろっか」
「ああ」
二人もまた騒動が起きたであろう脱衣所へ。
*
翌朝。
出発直前になって現れた十六夜を見て驚いた。
「十六夜さん、それ」
「収まりが悪くてな代用品だ」
脱衣所から消えたヘッドホンの代わりに十六夜はヘッドバンドを着けている。
「ごめんね、お待たせ」
「オレの代わりに春日部が全日程で行く事になったから」
トランク鞄を引きやってきた耀を指さし十六夜はそう告げた。
「でも本当に良かったの?」
「今さら無しだなんて言わねえ。
壊れたスクラップだがないと困るんだよ。
それより南は幻獣が多いらしいから友達100匹は作ってこい!」
「分かった!十六夜の分も頑張ってくる!」
「良かったわね春日部さん」
「うん!」
とても嬉しそうな耀を見て飛鳥も微笑む。
「捜索の続きは祭たちに任せた~」
「僕たちが行くまで戦果は残しておいてくれよ」
「じゃあレティシア!行ってくるね~」
「ああ、気を付けて。
ヴェーザーみんなの身の回りのことは任せたぞ」
「承知しましたよっと」
全員分の荷物を軽々とヴェーザーが抱え出発した。
前夜祭からの出発は、ジン・黒ウサギ・飛鳥・耀・頼華・御付でヴェーザーとなった。
「ヘッドホンの件だが、これだけ探して見つからねえんだ。
隠した本人にしか分からない場所か、
そいつがずっと持ってるかしかないと思うんだが祭はどう思う?」
「その意見には賛成だ」
「お前なら隠し場所に困ることはないよなあ」
「確かにそうだなあ」
「ちょっと待て十六夜、まさか祭の事を疑っているのか」
「そうではないですよレティシアさん」
「コイツならもっとうまくやる」
「ただの嫌味ですよ」
「嫌味?」
「途中から戦果報告してなかったろ」
「やっぱりバレてたか」
「お前があれだけだとか、それこそ嘘だろ」
「でもヘッドホン一つで辞退するとまで思わなかったよ」
「まあ素人の作ったもんだが一応、な」
「まさか知人が作ったのか!?」
「ああ~、故郷の話か?」
「それは僕も気になるかな」
「なら朝食が先だ。
それから茶うけといい緑茶を所望する!
話の対価だ、それくらいは用意してもらうぜ?」
「なら朝食は私がよりをかけて作ろう!」
「いい緑茶なら口止め料も兼ねて”ロイヤルブルーティー”を」
「ちょっと待て!?なんでもってやがる!」
「だから口止め料」
「ふふ、私もいっぱい戴けるかな?」
「十六夜が特別を出すんですからいいでしょう」
三人はのんびりと本拠へ戻ってゆく。
*
「なんでもいいがどれだけ詰め込んでんだよ!」
境界門の起動を待つ”ノーネーム”の出発組、
ヴェーザーのツッコミが入る。
「あら?まさか重かったの?」
「重さはどうでもいい、パンパンで持ちにくいんだよ」
「まあまあせっかくの旅行でもあるんだしさ~」
「お前のが一番おかしいからな!?」
トランクを持っていない頼華の荷物はリュック三つ。
「ご機嫌ですね耀さん!」
「うん。せっかく十六夜が順番替わってくれたんだから頑張らないといけないしね!!」
(ヘッドホンしてない十六夜も新鮮だったなあ)
「何かお礼をした方がいいかしらね?」
「うん。そのつもり」
(そう、あくまでも変わってくれたお礼。
プレゼントを渡すのもお礼だから。
でも喜んでくれるもの探したいなあ)
「ところでこの訳分かんねえ彫像はどうするんだリーダーさんよ?」
「収穫祭が終わったらイの一番に取り除くに決まってるじゃない」
「うん。それでジンの彫像に変える」
「待ってください!!本気で止めてください!!」
「でも他に”ノーネーム”で売り出せるものってなるとね~」
「黒ウサギね!」
「なんで黒ウサギを売り出すんですかっ!!」
「じゃあ黒ウサギを売りに出そう」
「勝手に売らないでくださいっ!!」
「じゃあレンタル~?」
「貸し出しもしてません!!」
「「「じゃあ」」」
「いい加減にして下さーーーい!!!」
いつも通りハリセンを叩き込んで肩で息をする黒ウサギ。
「ホントお前らといると退屈しねえわ」
「ヴェーザーさんも止めてください!!」
「そこまでの義理はねえよ」
「本音は~?」
「ほっといた方が面白い」
「あなたもお馬鹿様です!!」
スパンとヴェーザーにハリセンが叩き込まれる。
因みにこれがヴェーザーの初ハリセンだった。
そして図ったかのように境界門の起動タイミングであった。
自分の気持ちに突然気づいて、動揺して否定するも、やっぱり好きでテンパりまくってグルグルしちゃったりな春日部耀ちゃんでした。
かなり前から構想してた。
(完全に個人の趣味です)
石投げは禁止です。
全国の春日部耀ファンの皆さん。
うちではこんな感じになります。