”他力本願な不死”と”自由気ままな指揮者”も来るそうですよ? 作:バリアリーフ
感謝感謝
振り返り見たそこにいたのは美麗と評するにふさわしい顔立ちと、褐色の肌、
たなびく赤紙に二本の立派な角を持った女性。
サラ=ドルトレイクであった。
「久しいなジン。後ろの”箱庭の貴族”殿は一応初めましてか」
「お久しぶりです!」
「皆よく来てくれたな、中へ入って話すとしよう。
キリノも遊んで来い」
「え?でも私が受付を離れたら御挨拶にいらっしゃった方が」
キリノと呼ばれた木霊の少女は責任感から食い下がろうとする。
「私が中にいるのだ。大方のコミュニティは到着している。
主催者側にも収穫祭を楽しむ権利はある」
「は、はい!ありがとうございます」
表情を明るくさせキリノは飛鳥たちに一礼して収穫祭へ向かって行った。
微笑ましいとキリノを見送ったサラは一同を本陣内へ招いた。
「改めて収穫祭へようこそ。
”一本角”頭首を務めているサラ=ドルトレイクだ。
ご存じのとおり元”サラマンドラ”の一員でもある」
「じゃあ水晶の水路は」
「私が作った。だが私が独自に生み出したもので技術の流用ではないぞ。
流石に出奔したとはいえ”サラマンドラ”の名に泥を塗るような真似はせんさ」
「そうでしたか」
ジンは胸をなでおろした。
気がかりがなくなったことで表情にも余裕がある。
「さて両コミュニティにも自己紹介を求めたいが、
ウィラは来ていないのか、ジャック」
「ええ、滅多な事では領地を離れることはしませんからね」
「北側の下層最強のプレイヤーに是非とも会いたかったが」
「北側最強?」
「私たちのリーダー!ウィラ=ザ=イグニファトゥスの事さ!!」
アーシャが自慢げに話しだすがジャックがそれを遮って話を進め出す。
「私たちの事よりも皆さんのご挨拶も済まさねばなりませんよ」
「そうだったな、うむ。
ジン殿達”ノーネーム”のこともよく存じている。
”サラマンドラ”を救ってくれたコミュニティでもあるからな」
「ここに襲った犯人の一人がいま~す!」
真面目な空気に耐えられなかったか頼華は爆弾を投下する。
「ああ、だいたいのことは知っている」
「謝罪をする気はないぞ。俺達は魔王のコミュニティとして恥じるような真似をしたわけじゃない」
「承知している。顛末を聞き察するに『上』を目指す真っ当なコミュニティであることも。
方法を認める気はさらさらないがな」
「魔王にも真っ当とかあるのね」
「当然だ。ただの気まぐれでゲームを開催して蹂躙してつまらないと
「修羅場ると思ってたんだけど」
「サラ様は皆さんと違って大人なんです。
少しは見習って慎みを持って行動してください」
黒ウサギの言葉にムッとする三人。
この辺り煽り耐性の低さが目に見えてサラとの差が出ている。
「皆さん、ここに来た目的は農園を豊かにするための種子や牧畜を求めてですよ。
ケンカなら収穫祭が終わって本拠に帰ってからにしてください!」
「そう言えばそうね」
「そう言うことであれば、下で店が数多く出ている。
そこで探すといいだろう。
”六本傷”が南特有の種を数多く用意したと言っていたからな」
「じゃあラビットイーターって」
「在るわけないでしょう、そんな悪ふざけはなはだしい怪植「在るぞ」在るんですか!?」
「「「じゃあブラックラビットイーターは!」」」
「黒ウサギをダイレクトに狙わない「在るぞ」だから何で在るんですか!!?」
「何でといわれても発注書が在る以上」
黒ウサギはサラが執務机から取り出した発注書をひたっくって読む。
『対黒ウサギ型プラント:ブラック★ラビットイーター。八十本の触手で対象を淫靡に改造す
グシャ☆
握りつぶした。
「・・・・・・・・・・・・確認するまでもありませんでした。
こんなことやらかすお馬鹿様なんて一人しかいないというのに。
起訴も辞さないのですよッー!!」
「因みにそれって一枚だけ~?」
「崩れるとめんどくさいことになるくらいには積まれていたな」
「ウガーーーーーーッッッ!!!」
「あ、暴走モード」
「サラ様現物ハドコニ?」
「ラビットイーターなら最下層の展示会場にあるはずだ」
「アリガトウゴザイマス。サア、皆サン行キマスヨ」
「え!私たちも!?」
「ちょっと待って黒ウサギ!私まだサラさんに聞きたいことが」
首根っこを鷲掴みにされ強制連行される四人。
「あー、流石にほっとく訳にいかねえから俺も失礼するわ」
「我々もごあいさつを済ませましたのでお暇致します」
取り残され唖然としていたヴェーザーが言うとジャックもそれに続いて退室しようと立ち上がり、
「ああいや、お前たち走り去った彼らにも話が在ったのだ。
また夕食時に来るように伝えてくれないか」
「了解しました頭首様」
「では一度失礼いたします」
三人が退室し閉まった扉を見つめサラがこぼす。
「実力者とは皆ああなのか?」
*
ズドォォォォン!!
とどろく雷鳴に撃ちぬかれた食兎植物が奇声を発し燃え崩れてゆく。
「酷いわ黒ウサギ!あの子だって生きてるのよ!」
「黙らっしゃい!!こんな奇妙奇天烈な怪植物は存在するべきではないのです!
燃えて肥やしになるのが一番なので御座いますっ!!」
「可哀そうに、もっと生きたかったよね、もっと弄りたかったよね」
こと切れる寸前のラビットイーターの最期を看取るように、
手を伸ばした耀、そして応えるかのように一本の触手が伸びそれを確かに手に取る。
まるで遺言でも託すかのように上げられた奇声が哀愁を感じさせる。
「あなたの分も黒ウサギは弄りきって見せるから」
「いい加減になさい!!」
ハリセンと金剛所の二刀流。
これがラビットイーターの止めとなった。
*
その後バザーなど散策を済ませて宿舎の方へ戻った一同。
それぞれが夕食までの間、自由行動として別れた。
飛鳥は再び収穫祭の本陣へ来ていた。
「失礼するわね」
「む?君は確か”ノーネーム”の」
「久遠飛鳥よ。ちゃんと自己紹介もできなくてごめんなさい」
「状況が状況だったからな。気にしていない」
何かの書類を手にしていたサラだったが、机の中にしまった。
「仕事の途中だったなら出直すけれど?」
「いや、ほんの確認程度のことだ。
何の用事かな?」
「”火竜誕生祭”であなたの作品を目にしたの。
それであなたと会えたら是非話をしたいと思っていたのよ」
「私の作品?」
「テクタイトできた”サラマンドラ”の初代様の彫像よ」
「ああアレか。
いったい、いつの作品を引っ張り出しているんだマンドラの奴は」
「そんなに前の物なの?」
「マンドラがサンドラと同じ年のころと言えば分かるか?」
「えぇと、ずいぶん前であることはわかったけど、
よく残っていたものね状態も良かったし」
「そうだな外界の価値観でいえばそうだろうが、
箱庭では保存状態なんかはたやすく解決できる問題だ。
悪く思わないでほしいが、
時間感覚でも君たち人間より長寿である種が多いためこれも大したことではないな」
「頭では分かっているのだけれどね」
「箱庭には寿命を延ばすことができる、それに繋がるギフトもある。
手にするのは難しいかもしれないが探してみてはどうだ?」
「気が向いたら、かしらね」
飛鳥は正していた姿勢を崩し椅子に背を預けて、
以前祭が話していた考察をサラに聞かせた。
「それほどまでに正確に読み取れるとはな、正直驚いた。
その祭という人物には是非”一本角”に来てほしいものだな」
「何を言ってるのよ!
祭君は”ノーネーム”の大切な同志よ!!」
「フフ。優秀な
それに
「なっ!!?」
「私もまだ若僧だがそれくらいはわかるさ。
無理やり引き抜くことはしないよ、
飛鳥も共に来てくれるならその限りではないがな」
サラは立ち上がり備え付けられた茶器の下へ、
部屋の造りと趣が異なるのは、これもサラの自作だからだろうか。
「少し悪戯が過ぎた。
お詫びにいい紅茶があるのだが、どうかな?」
「淹れ始めてから言うことでもないのではなくて。
追加でいろいろと聞かせてくれるなら構わないわよ」
「落としどころとしてはそんなところか」
サラの淹れた紅茶は美味しく、
二人の会話はとても有意義で楽しいものとなった。
*
あてがわれた自室で耀は寛いでいた。
藁葺きの匂い、水樹をくりぬいて作られた部屋の樹の匂い。
自然そのものの匂いが鼻をくすぐる。
「この部屋を作った人はいい仕事してる」
藁葺きにシーツを広げたベッドに寝転がり深呼吸をするだけでも癒される。
旅行として楽しむなら”火竜誕生祭”で訪れた北側も悪くない。
だが休暇をのんびりと過ごすのであれば此処は正に最適だろう。
うっかり心地よさに引きずられまどろんでしまったなら起きる自信がない。
少し名残惜しいが耀は起き上がり、
もう一度散策の準備を始める。
(今日だけでは無理かもしれないけどたくさん友達を作らないと!
十六夜が来るまでにはホントにたくさん作って驚かせたいな!)
”ノーネーム”としての春日部耀は貴重な牧畜や種子を手に入れるという目的がある。
だが個人として、十六夜に順番を譲ってもらった耀には別の目的があった。
彼女のギフト”生命の目録”は交流を持った動物、幻獣の力を分けてもらうことができる。
そして南側には多くの幻獣が生息しているため彼女にとってここは魅力あふれる場なのだ。
「ペリュドンには近づくなって言われたけど、
”アンダーウッド”の中だけならそんなに危険な幻じゅ
耀の世界が突然停止した。
出かけるための支度として荷物の整理をしていた。
彼女のカバンから彼女のあずかり知らぬものが顔を出したからだ。
それは此処にあってはならない。
ましてや春日部耀の荷物から出てくることだけは絶対にならない代物。
炎のエンブレムの見慣れたヘッドホン。
逆廻十六夜が順番を譲ってくれる原因となったものだった。
彼が大切にしていたもの。
「・・・・・・ぇ。
・・・・・・・・・・ぅぁ・・・・・・
・・・なん・・・・・・・・違!」
『それより南は幻獣が多いらしいから友達100匹は作ってこい!』
笑顔で送り出してくれた十六夜の顔が声が、
今の耀には呪いのように心をエグる。
いくら頭を振り回してもその笑顔が離れない。
ヘッドホンの重さが鎖に繋がれているかのように重い。
(知らない知らない知らない知らない。ホントに知らない。
私じゃないの十六夜。だから・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だからお願い)
「耀さん!緊急事態でございます!」
バタン!と勢いよく扉が開けられ黒ウサギが飛び込んでくる。
「”アンダーウッド”に現在、魔王の残党が」
黒ウサギは状況を伝えようと口早に言おうとしたが、
目の前の光景に言葉が続かなかった。
耀の顔が青ざめ、涙があふれ、今にも消え入りそうな声で謝り続け、
その手には本拠に残った同志の物が。
黒ウサギもまた戸惑った。
片や緊急性が高い襲撃事件。
片や同志の心を壊しかねない異常事態。
即断を要求され黒ウサギは。
パシンっ
平手一発。
「しっかりとして下さい!
今”アンダーウッド”は襲われています。
そのように腑抜けたままでは弁解も何も出来ぬまま、
蹂躙され死ぬことになりますよ!」
黒ウサギの叱責に耀の瞳に焦点が戻り始める。
「耀さんがやったなんて誰も思いません!
それを、同志を信じれぬというならこのまま泣き続けていなさい!」
踵を返し部屋を出て迎撃に向かう。
「待って!」
涙をぬぐい立ち上がる音が聞こえる。
内心これでよかったのかと震えていた黒ウサギは安堵と共に振り返った。
「戦えますか」
「誰に言ってるの黒ウサギ。
私は”ノーネーム”の春日部耀だよ」
その瞳に宿る闘志を見て黒ウサギは状況の説明を再び。
「敵は人類の幻獣」
言葉はココで絶たれた。
二人の間に宿舎をぶち抜いて現れた巨腕によって。
「巨人!!」
「YES。
ギフトゲームを無視して襲ってきた無法者でございます!」
二人はすぐさまこの腕の持ち主を迎撃する。
そして開けた視界には既に戦闘の様子と破壊された町の一部が映った。
「二人とも無事!?」
宿舎に戻ってすぐの襲撃に驚いた飛鳥も駆けつけた。
「私達は無事です。
他のみなさんは!?」
「分からないわ。
でも探してる余裕もないわね迎え撃ちましょう!」
ギフトカードを取り出した飛鳥。
「お待ちください!
この地下都市内でディーンは」
「分かってるわよ!」
飛鳥が身に着けたのは”踊る騎士”。
「外からの侵入を阻まないとジリ貧になるわ。
春日部さん行ける?」
「捕まって!」
巨人に空けられた穴から飛鳥を掴んで飛翔する。
「都市内の掃討はお任せください!
ご武運を!」
それぞれが動き出す。