”他力本願な不死”と”自由気ままな指揮者”も来るそうですよ?   作:バリアリーフ

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五か月ぶりの更新となりました。
お待ちいただいた方々にお詫び申し上げます。


これまでの内容憶えてねーよって感じでしょうし、
自分でも久しぶり過ぎて出来が判断できません。
プライベートでやらかして、書きあがったのも結局やらかしてる。

それでも読んでやるよ、
という優しい方々はごゆっくりご覧ください。


覚醒と誕生

「悪いなあスク水っ娘、Dカップ超えてから出直して来な」

 

「ぐわあああああやられTa~~~~~」

 

 折り返して樹海に戻った先頭のフェイス・レスの騎馬に特攻を仕掛けた”      ハーメルン”のゲシュタルトだったがサポーターのポルトスによってあえなく返り討ちにされる。

 お子様体型であることを受け入れて(認めて)なおかつ誇ってすらいる彼女だけが水着を切り裂くフェイス・レスに接近できる唯一の存在だったが、元魔王とは言えそもそもゲシュタルトは物理戦闘ができるタイプではない、ようするに弱いのだ。

 

「まあ期待はしてなかったけど。

黒ウサギ、私たちは此処でこのゲームを棄権するわ」

 

 騎乗していたラッテンが降参を宣言して、その横をフェイスの騎馬が通過する。

 

「賢明な判断です」

 

まだ(・・)勝てない、それだけよ」

 

「挑戦を楽しみにしていますよ」

 

「スタイル抜群だなネーちゃん今度飲もうぜ」

 

 社交辞令―――一人はただのナンパ―――を残して早々とレースの続きを行く。

 虚仮にされたわけではない、そうだと分かっていてもその(・・)距離が遠くなっていく感覚が悔しい。

 

「タルト、本拠に戻ったら覚悟しておきなさいね」

 

「あたしもやられっぱなしは趣味じゃないからNe」

 

 使用人業が忙しかった等というのは言い訳でしかない。

 ”ノーネーム”の主力たちは遊んでいながらも時間を見つけてはゲームに参加したりギフトの練度を上げるために動いていたのを間近で見ていた。

 それと同じように、いやそれ以上に研鑚を重ねるだけだ。

 

 そして上り詰めるのだ。

 

 

「任せました」

 

「オジサン張り切っちゃうよー!!」

 

 折り返しの樹海を越え視界が開けた”女王騎士”の眼前に巨大な岩が飛来した。フェイスは蛇腹剣や剛弓では洩らしが生まれ、槍で砕いた場合上がるしぶきで僅かに失格の可能性が生まれることを即座に判断(理解)してポルトスに両断させる。

 

「どーよこの見事な斧捌き断面がツルツルスベスベ金属系鉱物ならそのまま鏡としても使えちゃうときたもんだフェイスちゃん惚れ直してもいいんだぜ?」

 

「言葉は正しく使いなさい誰も一度たりとも惚れてなどいませんついでに足止めも任せましたよ」

 

「ん?」

 

 両断した巨岩の間をまるで割られることを想定していたコースで迫る耀の姿があった。

 耀にとってこの強襲は一度目のアンダーウッド襲撃の際に竪琴を奪い取った実績のある攻撃方法であり、飛行能力持ちとして有効な基本戦術として研いてきた方法でもある。

 そしてこの軌道は自然界においても鳥たちが世代を経て積み重ねてきた狩りの功績(軌道)でもある。

 

「嬢ちゃんの一撃は舐めちゃいけねえな」

 

 一騎当千の実力を持つ耀もまだまだルーキーから脱却できてはいない。元々持っていた恩恵(貯金)によって現在大戦果を挙げているが、それもポルトスから見ればまだまだ経験不足。されど火力自体は彼も一撃喰らっているので油断しない。

 "三銃士(同志)"達以外知らないことで誰も信じないだろうが、ポルトスはどれほどにふざけていたとしても、否、常に真剣に生き真剣にふざけ真剣であるために油断をしない。自ら決めて手を抜くことは在ろうとそれ以外は全力である。

 不真面目であることにすら真剣。それがポルトスという男だった。

 

持ってる(・・・・)なぁ~少年」

 

 本当にポルトスは油断していなかった。

 耀の強襲その一撃を完全に殺すように大戦斧の面で受ける構えを取り、その上で弾き飛ばすように腕に力を込めたタイミング。

 正にその瞬間に十六夜が追い付き振るった拳が向けられた背を打ち貫く。

 それは回避不可避の一撃でポルトスが知覚したのは十六夜の拳が触れた瞬間で。

 

 ポルトスが零した「持ってる(・・・・)」という言葉は十六夜の神がかり的な挟撃のタイミングを指した言葉ではない。

 

 ポルトスが自身の身体を通し受け流して耀にダメージを肩代わりさせた十六夜の攻撃力を指した言葉だった。

 自身の身体を通す際に減退させて斧から耀に伝える際に分散させていなければ死なずとも耀の耐久力を持ってしても後遺症を残しかねないだろう威力に対するポルトスなりの賞賛であったのだ。

 

「春日部さんっ!!」

 

「おぉ?」

 

 ポルトスの妙技によって弾き飛ばされた耀を心配する飛鳥の声が下の河から聞こえる。

 耀の戦線離脱を代償に飛鳥の騎馬がフェイスを追う射程に送り込むことが出来た。だがこれより始まるのは前後からの”女王騎士”による挟撃。

 ポルトスが飛鳥の騎馬に追いつけばそれこそ”一撃”で失格にされてしまう。

 これを十六夜は押さえこまねばならない、そして飛鳥単身でフェイス・レスに挑み勝たなければならないことを意味する。

 

「素質は十分、だが惜しいなぁ」

 

 ポルトスにとって十六夜クラスの強敵は珍しいものではない。その中でも原石(・・)としてなら十六夜は間違いなく彼の経験上、上位に入る素質があると見切った。

 だが所詮は原石(・・)。まるで研かれていないのだ。

 

 ポルトスの持つ”一撃”の二つ名はヒト種の限界を圧倒的なまでに凌駕する馬鹿力に起因する。一手に込められる火力に限れば彼は”三銃士”で一番だ。だがそれだけでは外界まで語り継がれるような活躍足りえない。彼は”天賦(アトス)”と”万能(アラミス)”という豪傑と競い合いながら己を研いてきた。

 

 その圧倒的な経験値の差が十六夜の前に立ちはだかる。

 そして今の十六夜は彼の短い人生で最も脆い。危うい。

 十六夜は「獲った」そう確信した一撃が受け流され、あまつさえ耀への攻撃に利用され継闘不能に追いやられたのだ。

 勝てない。

 それが事実として理解させられたのだ。

 これまで小手先の技をしゃらくせぇと真正面からパワーで討ち破ってきた十六夜は、真逆に技によってパワーが完全に討ち破られたという事実に衝撃を受けたのだ。耐えるか十六夜以上のパワーで返してくると考えていた思考が凍りついた。

 

 不安定(ヒビ入り)だった十六夜の心が折れた。

 

「うん、通してもらおうか」

 

「させるかっ」

 

 それでも十六夜は戦うことを止めない。

 約束をした、矢面(先頭)に立って戦うと。だからその約束までも折られるわけにいかないからだ。大人に立ち向かう子供のそれは全ていなされ弾かれ、一方的だ。

 客席に映るそれは一見すれば十六夜が攻めたてポルトスが防戦一方になっていると見える。が、実力者たちは真に理解している。巨龍にとどめを刺した十六夜が遊ばれているのだと。

 

「少年より蛟の字と()った方が面白かったか。それに大食いの嬢ちゃんにも悪いことをした」

 

「っ?」

 

もっと手加減してやれば(・・・・・・・・・・・)よかったなぁ」

 

 ポルトスにとって十六夜たちは未熟ながらも強者の道を往く、その入り口を越えてきた者たちであり、その道を先に進みはじめた彼からすれば興味深い存在だった。

 だから手加減をしてせめて自分と戦うことで僅かにでも経験を積ませたいという思いから出た言葉だった。

 

 十六夜はそのようには受け取らなかった。

 

 手加減をより必要とするほど春日部耀は弱い。十六夜にとってはそう侮辱されたのだ。

 少し前は十六夜自身も耀はまだ強敵とやり合うには不安が残ると思っていた。しかし十六夜は考えを改めた。そして春日部耀は自分に並ぶ強者だと知らず認めていた。

 そして気づかされたのだった。湧き上がる怒り。それはグリフィスの侮辱で起きた怒りを上回っている。

 十六夜にとって特別(・・)となっていた春日部耀を侮辱されたのだ。

 

「撤回しろポルトス」

 

「いいねぇそう来なくちゃな」

 

 ポルトスの進路を塞ぐように立つ十六夜は、巨龍の心臓を撃った極光を、全身に燐光として纏い、サラに貰って扱いのある槍と相対するように斧を掛け合わせたハルバート状に極光をきらめかせている。

 

「十分だ少年、今から追いかけても追いつくよりもどっちかのゴールのが早い」

 

 ポルトスはそれまで片手(・・)で振り回していた大戦斧を両手でしっかりと握り構えた。数多の戦闘経験からゲーム前に縛った手加減を解いて戦うべきと判断したのだ。

 ポルトスの持つ”断龍(ダンリュウ)”は文字通り龍を、それも純血の龍を屠った経験を持つ武具である。対する十六夜の極光は直近巨龍を倒す要であった。

 地力、武器のポテンシャルはこのゲームにおいて互角と言っていいだろう。勝ちを拾うのは経験値(ポルトス)か、はたまた伸びしろ(十六夜)か。

 

「試合うか」

 

瞬間激突。双方の切っ先がぶつかり力比べの相を見せ、フッとポルトスが笑み力をずらして”断龍”の面で極光のハルバートを滑り十六夜の手が狙われる。刹那十六夜の纏う燐光がハルバートを掴む手を覆う。意志の力で集めたような動きではない、一方で消えた燐光が手に前から再び発光し始めたと言えばいいだろう。

 断てぬと理解するやポルトスは”断龍”を翻して担ぎあげ自身にかかった重量を利用した踵落としを十六夜の肘に見舞う。これも燐光によって防がれるが、ポルトスは燐光を足場に落とした踵を踏んばって態勢を整え、十六夜の顔に膝を入れた。

 肘に燐光が集中していたため十六夜はまともにこれを受け吹き飛び、一回転して体制を戻し地面を滑って止まると駆けてポルトスに飛び込む。この時ハルバートは姿を騎乗槍、円錐をとがらせた突撃特化に変えていた。

 先ほどのようにぶつけては危ないとスウェーしたポルトス、それを読んでいたと十六夜がキッと口角をつり上げて笑った。騎乗槍は既に一振りの刀となってポルトスの首目がけて迫ってきている。

 ”断龍”の柄を器用に操ってこれを防ぎにかかる。触れて一手目と同じく響くはずだった音はない。

 

 柄を軸に触れた刀が曲がった、しなった(・・・・)のだ。

 

 頼華の持つ”禁鞭”は打ち据える鞭、競走馬にいれたり罰を与えられたりするときに使われるタイプ。これは長さ遠心力などを利用した中距離武器でサーカスなどで見られるようなもの。

 

 ポルトスは極光の先端に側頭を打ち据えられるまでの僅かな時間に、首を傾けそして柄を押し支店を遠ざけることでダメージ軽減に全力を注ぐ。結果少しの髪と羽根飾りの帽子を吹き飛ばされるだけに済ませた。それでも打突の衝撃からまともに喰らうべきでない威力を改めて察し冷や汗が零れる。

 

 ポルトスもまた自らを一撃で倒す可能性を秘めた攻撃などそうそう出会って来たわけではない。

 衝撃を使用して距離を取る。向けた視線の先の十六夜は先ほどの怒り等といった表情ではない。どこか達観している、そんな表情だ。

 

「どうにもいけねえ。俺らしくないっって言えばいいのか? ゲームルールもそうだがどうやら俺は水難の相でもあるのか事あるごとにびしょ濡れになるんだ」

 

「だったらさっさとびしょ濡れになって失格しちまえよ」

 

「そうだが俺だけただ負けちゃあ同志に何言われるか分かったもんじゃねえ。て事でだポルトス」

 

「いやいやオジサンのマネしないでほしいなって思うわけなんだが」

 

 十六夜の極光は今、大槌となっている。それでゴルフでもするかのように振りかぶっており。

 

「いやマネじゃねえさ、ただ自分が以前やった二番煎じで面白くねえってだけでな」

 

 十六夜が極光の大槌を叩きつけ、河の流れが消え(・・)衝撃で波になるを通り越し飛沫の散弾が二人を襲う。それは雨を躱しながら歩くに等しい。体の構造(かたち)を変えられなければ不可能だ。だがポルトスは爆心地からの飛沫を防ぐための大戦斧がある。

 

「やってくれたなあ少年」

 

 それは十六夜が白雪姫とのゲームでとった行動だ川の流れをぶち壊して行うこれぞというような力技。

 人は誰かと接することでその誰かの影響を大なり小なり受けて自己を少しずつ変化成長させてゆく。どこかの誰かが似た状況になればこう言うことだろう。

 

「”躱されるんですか? だったら躱す発想が生まれない方法で行きましょう”。俺も随分とひねた考え方をするようになったもんだ」

 

 既にびしょ濡れとなって失格が決まった十六夜は悠長に言う。

 

「今回は確かに俺の負けだ、流石は”女王騎士”にして”三銃士”の一人だな!」

 

 とてもいい笑顔でポルトスを称えサムズアップをした十六夜。

 

「そんな気ねえだろこの負けず嫌いがあ!!」

 

 ”断龍”を盾に飛沫から逃れたポルトスの周りを取り囲むように戻ってきた河が押し寄せ、大槌を振るったときに十六夜は一部を手首のスナップで上空に揚げていた。それが今シートのように拡がり脱出の隙間を塞いで水のドームが完成した。

 

《おんしらずいぶん余裕じゃのう。まるで優勝はどちらかと決まっておるかのように》

 

「かぁー流石は(びゃく)の姐さんだ」

 

 先に失格となった十六夜の負けなのだろう。だがそれでもしっかりと足止めに成功し結果失格も掠め取った。コミュニティとしての勝利の為に、自分の敗北を選べるようになった。成長の片りんと共に十六夜は次のステージに一歩進んだ。

 

 

 

 

 河に呑まれ”断龍”を担いだまま泳いで岸に上がったポルトスは先に上がっていた十六夜に声をかけた。

 

「手際がいいな少年」

 

「言ったろオッサン、事あるごとにびしょ濡れになってんだって」

 

「突然のオッサン呼ばわり!?」

 

 問題児筆頭の十六夜に敬意を求めるなんて望んではいけない。必要であれば十六夜は当たり前に敬い礼を尽くす。共に濡れ鼠、つまり今そんな必要は無いのだ。

 

 程なくゲームの決着、”ノーネーム”久遠飛鳥が勝利したことが音響ギフトによって伝えられる。

 

「何だよフェイスちゃんも負けたの!? いやほんとにオジサンビックリしたわ、あの色々とお堅いフェイスちゃんがねぇ」

 

「ちょっと締まらねえが表彰には顔出さなきゃな。行くぞオッサン」

 

「だから……まあいい。少年」

 

「なんだ?」

 

「”水も滴る言い男”。お前さんは何某かの加護があるんだろうぜ。”恩恵”以前にな」

 

「だといいんだが」

 

 

 

***

 

 

 

 ゲーム勝者の表彰、その場において賭け通りグリフィスを始めとした”ノーネーム”を侮辱した”二翼”――怪我で動けなくなっていたもの以外はゲームに参加していた――が壇上で土下座謝罪をし、グリフィス及び部下数名はそのまま”アンダーウッド”を去った。

 続いて白夜叉が壇上に上がり、後ろに翠が追従している。翠は豪華な飾りのついた盆を持っており、”鷲獅子の龍角”が見える。柏手を打った白夜叉は注目を集めて話し出す。

 

「収穫祭一番の”ヒッポカンプの騎手”の勝者も決まった。本来ならここでそちらの恩恵授与を行うところじゃが、

事情により後程時間を設けて話すこととなった。よってこの場で南の”階層支配者”の任命及び”鷲獅子の龍角”の授与を執り行おうと思う!」

 

 白夜叉の言葉に”アンダーウッド”中が沸きあがった。その声を受けサラが壇上に上がり白夜叉の前で片膝立に身を屈めて頭を垂れる。

 

「只今を以てサラ=ドルトレイクを”階層支配者”とし、又、”アンダーウッド”復興を始めとした”龍角を持つ鷲獅子”連盟の功績に対して代表サラ=ドルトレイクにこの”恩恵”を授けるものとする」

 

 白夜叉の隣に進み出でた翠、彼女の持つ盆から白夜叉が”鷲獅子の龍角”を持ち、サラの折れた龍角に繋ぐように与えた。

 それを連盟の各コミュニティの代表たち、それに”ノーネーム”の主要メンバー達が最前の特等席から。蛟劉、フェイス・レス、ポルトスは壇上脇から眺めていた。

 

 龍角がサラのモノとなった瞬間に、炎の嵐が巻き起こり大樹を内より煌々と照らした。

 馴染むまでには少し時間を要するそうだが、サラの瞳に宿る自信と穏やかな表情が更なる振興を約束すると物語っている。

 

「皆、私を信じ付いて来てほしい。改めてよろしく頼む!」

 

 最高潮の歓声がそれ以外の音の一切をかき消すようで、箱庭に生きるモノにとっての最高の吉事を祝うにふさわしいものだった。

 それが自然に収まるまでに感極まったサラの瞳尻にうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「では皆の衆、この後も収穫祭を大いに楽しみ盛り上がって欲しいと思う。そしてこのめでたい席にもう一つ、祝い事がある故、興味のある者は是非このまま聞いていってくれ!」

 

 白夜叉の言葉を受けて壇上の前にいた頼華がヒョイと上がりマイクを受け取った。

 

「初めましての人もそうでない人も、どうも”ノーネーム”の周防院頼華で~す。時間貰っちゃってごめんね~。でもオレにとって、オレの大事な人にとって大切なことなんだ。だから少しだけ付きあって下さいお願いします」

 

 収穫祭の間だけで”ノーネーム”の主力たちは特に有名になっており、頼華の事も知れ渡っていたが、それが今壇上で真剣に言葉を紡ぐ姿が意外だったらしく会場も他の宴会場でも多くの者たちが静かに次の言葉を待っている。

 

「ありがとう。みんなももう知ってる通りこの前の巨龍はオレの大好きなレティシアだ」

 

 ナイーブな問題に頼華は真正面から切り込んだ。これは連盟の者たちも参加者たちも皆ざわついた。先ほどまで頼華の隣に並んで階層支配者の任命を祝福したレティシアは表情を曇らせ俯いた。

 彼らはほとんど被害者で、そこから守るために戦った勇者が大好きというのが加害者だからだ。簡単に割り切れないものも居るだろう問題だ。

 

「レティシアはもう魔王になることはない、だから許してくれなんて言えないことは分かってる。だから―――」

 

 溜めてめいいっぱいの想いを頼華は叫んだ。

 

 

 

 

「レティシア! 今この場でオレと結婚してくれえ!!」

 

 

 

 

 白夜叉が祝い事があると前置きはしていた。それでも沈黙が、”アンダーウッド”に訪れた。

 彼らの考えを言葉にするなら。

 

「「「「「「「「「「んん!?」」」」」」」」」」

 

 正にこれだ。

 全く以ての理解できない展開に沈鬱な空気など全部吹っ飛ばし、先ほどとはまた違ったざわつきが起こる。

 

「順序を飛ばし過ぎだバカ!」

 

「仕方ないだろオレスピーチ(こういうの)慣れてないんだから!」

 

「頼華、それで結婚してどうするのかを説明しないと!」

 

「それ! 結婚してオレは頼華=ドラクレアに、吸血鬼の一族になってレティシアを助けたい。”ノーネーム”に同志はいっぱいいるけどレティシアの仲間は、吸血鬼はもうほとんど残ってないって聞いた。だからレティシアの家族になってそういう意味でも一緒に居てあげたい。それで残って散り散りになってる他の吸血鬼が集まって来れるようにしたい。だからオレは吸血鬼たち”箱庭の騎士”の地位だとか居場所だとかを”此処”みたいに復活させたいんだ。それで”ノーネーム”の活動と”箱庭の騎士”の活動って似た感じだしお詫び代わりにオレも頑張るし―――」

 

 覚束ない言葉でそれでも必死に想いを語り、目の前に広がる傷ついた人たちに許し認めてもらおうと話しかける頼華。

 

 彼に出会って泣き虫になってしまった少女は、周りにいる同志たちの視線がとても穏やかで温かいことに感謝する。自分たちは応援し祝福する。異議を唱えるような奴は蹴散らしたっていい。そんな物騒な同志達のサプライズに、最愛の彼のプロポーズに少女は―――。

 

 次第に増えていく応援の声や拍手。それらに押される形でレティシアは壇上の頼華の前まで進んだ。

 

「私は」

 

 レティシアの口から出始めた言葉を聞き洩らさぬように何度かになる沈黙。

 

「わたしは今でもそんな資格は無いと思っている。それでも」

 

「資格なんかしるか! たとえイヤだって言われてもオレはレティシアを幸せにするって決めたんだ!」

 

「ライカ」

 

「レティシア、俺を吸血鬼に、君の家族にしてくれ」

 

 弾けるようにレティシアは頼華に抱きついて、二人は唇を交わす、想いを確かめるように熱く長く。

 

 少女は彼の唇を啄むように甘く、だがしっかりと噛んで彼の血を吸った。

 

 吸血鬼となった彼も同じように少女の唇から血を吸った。

 

 甘い血の味のファーストキスと共にこの瞬間、”吸血姫の花婿”が生まれた。

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