誓いのハイスクール Dragon×Durandal   作:七海香波

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05.初修行は紫空の下で

 

 帰宅してから時間は飛ぶように過ぎていき、気付けば夜になっていた。

 オカルト研究部から無事生還した後、同居するティアの日用品を買いそろえるのに付き合った後、俺とティアは両手に多くの紙袋を抱えながら家に戻って晩飯を食べていた。

 ちなみに買い物の最中のティアは変装として、仕事の出来るキャリアウーマンへと姿を変えていた。その豊満な胸を魔法で消し、髪を首元の辺りで切りそろえ、灰色のスーツと金縁の眼鏡を身につけている。

 ……失礼ながら、女性って、一部が変わるだけでイメージがガラリと変わるものなんだな。特に、目立つ一部が消えるだけで全然違うようだ。

 

 とまあ、そんなこんなで今、俺達は二人で作った晩飯を食べている。

 ティア曰く、居候の身で何もしないわけにもいかないということで、せっかくなのだから飯作りや洗濯などの家事仕事をこなすことにしたらしい。それでも今度は逆に、俺が何もしないというのも納得がいかない。そういうわけで、結局半々でこなすことになった。

 

「むぐむぐ……美味い。で、修行って言っても何からするんだ?あれか、漫画みたいに光線とか出したりするのか?それとも魔術を使うために死の淵を歩かなきゃならないのか?」

「まああながち間違ってはいないな」

「間違ってないのかよ……」

「まずは魔力と気の使い方だな。これを使えるか使えないかで結構差が出てくるから。その後に応用編で、その他の事は――後でいいだろ。まあ気にするな。最終的に辿り着くところは同じなんだから」

「いや全然違うよな?効率を考えるだけで掛かる時間とかは全然違うんじゃないのか?」

 

 俺達は互いの作ったおかずに手をつけながら、今日の修行の事について話す。

 気、そして魔力か……。年頃の男の子ならあこがれる存在だよな。虚空瞬動とか闇の魔法とか、いつになってもそういうのはやっぱり使ってみたいものだと思う。

 

「ちなみに私はどっちも使えるからなー。頑張れば何とか教えられるだろ。気合だ気合」

「そんな適当でいいのかよ」

「いいんだよ」

 

 ……先生がひどすぎる。頑張って何とか出来るようなものじゃないだろ。漫画なんかでも、肉体を極限近くまで鍛えてようやくうんぬんかんぬんだし。どこぞの悟空さんもさんざんな修行をやってようやく身につけてたし。最近の少年漫画だったらストーリーの流れで自然に身につけているけれど。

 

 まあ、今使えない俺が何を言っても変わらないか。

 

 深く考えるのは止めよう。それにティアに何か言ったところで考えは変わらないだろうし。――しかし、どんな場所で修行するんだろうか?下手な所を選ぶとメンドイ事になるだろうし。

 

 もしかしたら明日の朝刊に載ったりするんじゃなかろうか。

《高校生による爆破事件!~本人は「気の練習」だと言い張っている~》みたいな見出しで、近隣の山一つが吹き飛びましたとか。

 ……洒落にならないぞ、ティア。

 ホントにこの後の修行は彼女に任せても大丈夫なのだろうか。

 そんな事を考えながら、俺は彼女の作ったシチューへと新たに手を伸ばすのだった。くそ、なんでこんな典型的パワー馬鹿なのに作る飯は美味いんだろう。

 

 

 

 

 食事を終え、特に会話もなく二人で食器を洗う。そうして食器に残った水滴をタオルで拭き取って、今日の家事は大体終わりだ。

 タオルで手を拭いてから、俺達は動きやすい服装へと着替え、リビングの中心に戻る。

 

「じゃあ行くぞ?」

 

 ティアが右手を前に出し、その足下から緋色の魔法陣が広がっていく。これは記憶が確かなら昨日見たものと同じ、恐らく転移魔法のものだろう。あの時は荒々しい魔力の嵐と共に広がっていったが、今回のは光が収まっておりそこまで視界を塗りつぶすものではなかった。

 ちなみに部屋の中に張られた結界のお陰で、ここでなら魔法を使っても外部には察知されないらしい。……魔法の知識が無い俺としては心配しても何も出来ないのだが、それでもグレモリー先輩達に察知されないか気になる。

 少しだけ、玄関の方に彼らが入ってこないかどうか目を向ける。

 そんな俺に気付いたのか、ティアは俺の頭を少しだけ乱暴に撫でた。

 

「そう心配そうな顔をするなって、和真。これでも私は魔法も得意だからな――行くぞ。転移!」

 

 足下の魔法陣が一層明るく輝き、俺たちの体が光に包まる。

 俺の視界が入れ替わり――そして、赤い月が浮かぶ、紫色に染まった空が目に入った。

 ……。

 

「何処なんだ、ここは?」

 

 鳥らしきものが飛んでいるが、あれは鳥ではない。見たところ、多分四本足だ。それに加えて翼って事は、グリフォンか?そんな伝説上の動物が普通にいる場所って……。信じられないような景色の空間を見る俺の口から漏れ出た言葉に、ティアは笑って答える。

 

「冥界だ♪」

 

 ……どうやら俺は生きている間に冥界に辿り着いてしまったらしい。

 まさかこんな所で修行するとは。確かに孫悟空も死んだ後も修行してたけどさ。

 もしかしてここから界王に会うためにひたすら走り続けるのかよ?

 

「正確に言えば、以前手に入れた領地の隅だな。周囲には散々罠を張っておいたから魔王とか専門の研究者じゃないと砕けないだろうし、そこまでするほど悪魔は土地に困ったりしていないから誰もいないだろ。それじゃ、まず気の使い方から説明するぞ」

 

 適当な妄想を繰り広げている俺を尻目に、ティアはその横で説明を始める。

 ティアが軽く左手を握りしめると、その手に周囲に何らかのオーラらしきものが放射されてきた。余りよく見えないのだが、その辺りだけ不自然な力が感じられると言うか、何かが変わったのがハッキリと肌で感じ取れる。

 

「これが気と呼ばれるものだな。基本的に、凄まじい修行などで自然と身について来るんだが……、そんな事をしている暇はない。というか(私が)メンドクサイから、ちょっと無理矢理な方法でお前の中の気を呼び起こす。文句は聞かんから、ほら。さっさとその手を貸せ」

 

 そう一息にまくし立てた後、彼女は俺が出す前に向こうから手を取って強く握ってきた。女性特有の柔らかさが感じられたが、次の瞬間に俺の中に手を通してゆっくりと何かが入ってくることでその感触が一気に吹き飛ぶ。

 

 ……これが気か?

 なんとなくだが、イメージとしては生暖かい水のような感じだ。

 どこぞの漫画のように荒々しい感じはない。ちなみに俺の頭が発光して逆立つなんてことも無かった。まああんな不良のような筋肉達磨にはなりたくなかったので内心ほっとした。

 

「感じ取れたか?今、お前に私の気を流し込んだんだ」

「まあ一応。で、コレに何の意味が?」

「それに似たような力を、自分の中から探してみろ。見つけたら、そいつを手の方に押し流す感じで絞り出せ。半端なイメージじゃ出てこないぞ」

 

 目を閉じ、体の中心を見つめるようなイメージを持つ。

 ……心臓の辺りに、なにか似たような力が渦巻いているのが感じ取れる。何となくだが、ティアのに比べるとより熱いように感じられる。俺はそこに意識を集中させて、自身の気らしきを右手の方に押し出すようにして流し出そうとする。

 が、全く流れ出そうな気配がない。

 

「ほら、さっさと出せ。さもなきゃ殺すぞ」

「何でそうなるんだよ!?」

「え、だって、ほら?本気出せないなら死ぬしかないだろ」

「その二択はどっからどうみても極端すぎるよ!なんで出来なかったら俺が死ななきゃならないんだ?」

「流石に死を感じたら死ぬ気で頑張るかもしれないかなーって。な?」

「な、じゃねーよ……」

 

 ともかく、このままだったら本気で殺されかねないため、俺は必死になって右手と心臓の間に意識を集中させ、力を込める。

 すると、力を淹れ始めて五分ほど経ったところで、ようやく右手から僅かに赤い透明な気らしきものが浮かび上がってきた。

 

「……ほう。やるじゃないか」

 

 ティアは俺の右手をとり、顔の近くに近づけてマジマジと観察する。

 その目には純粋な賞賛が含まれているようだ。どうやら俺は成功したらしい。

 

「これが気なのか?」

「そうだ。個人的にはもう少しかかると思っていたのだがな、まさかこんな早く見つけるとは。だが、和真。気付いてはいないだろうが、お前のそれは若干違う力が混じっているぞ。純粋な気なら、私のように透明なはずだからな。その赤いのは、闘気と呼ばれるものだ。戦闘に特化した気の一種だが、お前はそこまで体を鍛えていたのか?死ぬような境地にまで自分を何回も追い込むぐらいじゃないと使えないハズなんだがな……」

 

 どうやら、ティア曰くこの赤いのは相当凄いらしい。

 しかし今一実感が湧かないんだよな。これを出している俺の感じとしては、今はその源から闘気が濁流のように流れ出しているといった具合だ。最初こそ出すのに発想を四苦八苦させたものの、今となっては堰が崩れた水流のように俺の右手から大気中へと流れ出ていっている。

 俺の隣ではティアが何故か顎に手をやって真剣に考え込んでいる。

 その光景が余りにも不思議だったので、俺は彼女にこれってそんなに凄いのか、と問いかけた。

 すると彼女は顔を上げて、軽く頷く。

 

「ああ。私も出せるんだが……」

 

 ティアが俺より更に濃密な、真っ赤なオーラを出す。

 多分これは、闘気の純度が増した状態なのだろうと思う。薄い桜色の俺のものとは違い、圧倒的な力の塊だと言うことをひしひしと感じさせてくる。

 それを払うように消し去ったティアは呆れたような顔を浮かべて問いかけてくる。

 

「私でも、三年山に篭もって死にものぐるいで鍛錬して、ようやく身についたんだ。悪魔の体力でな。お前は一体、どういう修行をしてきたんだ?」

「そんなことを言われても……。俺、修行をした記憶なんて無いんだが」

「は?そんなわけないだろ。だったら今の気は何なんだ」

「マジだって。小中高、一切修行らしい修行なんてした覚えがない。そんなことをする暇があったら家でダラダラ過ごしてたし」

「そのさらにその前は?」

「あー、幼稚園の頃か?……悪いんだけど、俺って実はその頃の記憶がないんだ。全く覚えていないんだよ」

「……はぁ?」

 

 ティアが、ジト目でこちらを見る。

 そんな目で見られても、これは本当の事なのだから仕方がない。

 

「本当なんだよ。日本に来る前には確かイギリスにいたんだけど、それも中学の時に親から聞いて始めて知ったってぐらいなんだ。本当に何も覚えてないんだよ」

「……本当か、八岐大蛇?」

 

 彼女が問いかけると、神器が勝手に出てきて話を始めた。

 

《ああ、本当だろう。俺も神器の中からずっと此奴を見ていたが、間違いは無い》

「そうか、本当なら別にいいんだが」

「最後の記憶は確か……ああ。そのイギリスから日本へ来たときに、別れ際に青髪の女の子にキスされたって事ぐらいだ」

 

 それを聞いた途端、ティアの目が変わる。

 ……しまった。女子はこういう話が大好きなんだっけ。いくら悪魔とはいえ、種族を超えてもそれは同じ事だったらしい。

 彼女はいかにも愉快と言った笑みを浮かべながら、俺の側へとゆっくりとにじり寄る。

 俺も後ずさりをするが、ここは森の中。直ぐに近くの木の幹に退路を断たれてしまった。

 

「なるほどなるほど?つまりそいつはお前に惚れていたってことか」

「……いや。五歳の頃だったし、普通、恋愛なんて分からないだろ。別れてこっちで戻ってくるときキスをしたのは話を聞いて思い出したんだけど、そんなモンじゃなかったぞ。あくまで挨拶っぽく、軽くだったような気がする」

「馬鹿だなー、お前は。女の子はそう言うことはよく覚えているもんだぞ?ちなみに和真、日本では、それは確かフラグというモノだったよな」

 

 ティアがニヤニヤ笑いながら顔を近づけて脇腹を肘でつついてくる。

 クソ、明らかに面白がってるなコイツ。話題も話題で端麗なお前の顔が近くにあるから、妙にそういうのを意識してしまうだろうが。

 彼女をとりあえず一旦両腕で押し返し、俺は次にするべき事を質問する。

 

「そんな事はほっといて、次は何するんだ?」

「ちぇっ、話をそらすなよー」

 

 彼女は少し口をすぼめて俺を非難してきたが、俺は敢えて無視した。これ以上反応するさらにからかわれるのは目に見えている。

 あくまでシラを切り通そうとする俺に、彼女はやがて諦めた。

 

「……まあいいか。で、闘気まで使えるんならそれはそれで良い。次は、魔力だ。また同じようにするぞ」

 

 今度は先ほどとは違って藍色のオーラがティアの手を包む。

 その手が俺の手を握り、またも同じようにしてその中に流れてくる。今度は先ほどに比べて、どこか冷たい感じがする。

 

「魔力は個々によって色や感じが違うからな。気よりは難しいぞ」

 

 ティアの言葉を聞きながら気を見つけたときのように魔力の源を身体の中から探していくと、渦巻いている気の源の近くに同じように渦巻いているものがあった。

 そこに意識を向けて、気と似たような感じで無理矢理こじ開け、左手へと流し出す。

 ――それで一応、出たことには出た……のだが。

 それを見たティアが早速感想を漏らす。

 

「……真っ黒だな。しかも、若干赤い上になんかおぞましいな。和真お前、もしかして魔力と気とかそう言うものの前に、開いちゃいけない扉を開いちゃったんじゃないか?」

「そんな言い草はないだろ!」

「いやだって、ホラ。お前、私の魔力とそれ、同じものに見えるか?確かに私は個人によって感触は違うと伝えたが、そこまで違うわけないだろう。お前の種族は人間だし、悪魔でも何でもないんだからそんな魔力が見られるはずがない。どう考えても明らかに別物だろ……」

 

 俺の手の魔力から溢れていた魔力は彼女が言うように、ドス黒い色をしていた。例えて言うなら飢餓状態の狂暴竜の身体に浮き出る龍属性のエネルギーだろうか。

 俺自身にとっても害があるように思える。なんなんだよコレ。

 

「……試しに何かに当ててみるか」

 

 とっさに思いつき、魔力を纏った手でそこら辺にあった木に触れてみる。

 その結果、木は――。

 

「――おいおい。洒落にならないな。グレモリーの消滅の魔力と同じぐらい恐ろしい代物じゃないのか、コレ?」

 

 生命力が枯渇したかのように、一瞬で枯れてしまった。

 試しにもう片方の手で幹をつついて見ると、簡単に折れた。倒れて地面につくと、その衝撃だけで完全に砕けてしまった。何というか、燃え残った炭をつつくと一気に灰になったかのような感じである。

 

「……もうこれだけで十分戦えるじゃん」

「……そうだな。ところで、間違っても私にそれを向けるなよ。早く消せ」

 

 その手を向けた瞬間、ティアが後ろに下がる。そこまで怖がらなくても……。

 若干ショックを受けながら、何とかして源を抑え込み、掌に残っていた魔力を散らす。

 完全に消えたのを確認するとティアはまた魔法陣を準備し始めた。

 

「なんだ、まだやりたそうな顔をして。そう言っても、初めての魔力や気の運用だったんだ。気付かないだけど相当負荷は掛かってるはずだぞ。今日はこれだけやれば十分だよ。まあ気や魔力の実践的な使い方は漫画を参考にすれば何とかなるさ。さ、帰って寝よう」

「まだまだやれると思うんだけどな……」

「黙れ。お前は明日も学校だろうが」

「……そうでした」

 

 集中してやっていたためか、今ふと腕時計を見てみるともう時刻は午前一時になっていた。頭の中じゃ精々数十分だと思っていたのだが……。いつまで経っても変化のない冥界の紫空の下では、時間の変化にも疎くなるのかもしれない。

 修行を始めてもう三時間もたっている。

 今から寝ても六時間ぐらいしか寝られない計算だ。

 

「転移!」

 

 また光に包まれて家の中に俺達は転移する。

 本当に集中していたようで身体はいつのまにか汗でびっしょりと濡れており、俺達は風邪を引かないためにもさっさと交代で風呂に入り寝ることにした。ちなみに今度はティアがベッドで俺が自前の寝袋だ。

 あれだけ注意したんだ……こうすればアイツも来ないだろう。

 明日こそは静かな朝になると信じて、俺は灯りの消えた部屋の中でゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 ――しかし、そんな期待は今度も儚く夢に散り。

 結局、今度は何故か気付けば俺がベッドに引き込まれていた――織城家に朝から説教の声が響き渡るのは、もはや日常になるのかもしれない。

 

 

 

 

 

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