『友人たちの言葉には、ただ感謝するしか無かった。
ただ、その言葉を思えば思うほど、
キラ・ヤマトの言葉も一緒に思い浮かんできてしまうのだった』
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ヴェサリウスのミーティング・ルームでは、
ネオやナタルなどのブリッジクルーと、パイロットの全員が、ヘリオポリスから持ち帰った各種映像を検証していた。
潜入した者の中には、カズイのジンが撃破されるまでの一部始終を撮影した者もいて、
その映像はキラの面持ちを沈痛な物に変えていた。
「敵兵器のビーム・サーベルとフェイズ・シフト装甲については、コチラでも技術は持っていた。
しかし、実用化までには到っていない代物だ。
ま、正直"お偉方"はナチュラル相手にそんな物は不要だと思っていたらしいがね。
それよりかは、この機体の持つ運動性能そのものが驚異的だな」
ネオはイージスの、その性能が如何に脅威かを指摘した。
「オリジナルのOSについては、諸君らも既に知っての通りだ。
どうやら、最後の一機については、動かしながら動作を調整してる様子だが……。
次に出てくるときは完全な状態である可能性も高いだろう。
また、この機体には変形機構など未知の部分も多い。 まぁ、ますます見過ごせない状態になったわけだ。
各員、十分、警戒するようにな」
「ハッ!」
ネオの言葉に、パイロット達は敬礼した。
「ルークとゲイルは出撃準備――ビーム砲、バルルスの使用許可が出ている。直ちに取り掛かれ!」
ナタルがパイロットに檄を飛ばす。
出撃を命じられたパイロット2名は、ミーティングルームに併設されたパイロット・ルームに流れていった。
(カズイ……)
キラは映像の中のジンを何度も見返した。
カーキ色に塗装された、カズイの機体が、赤い敵機に両断される様を……。
(アスラン……)
そして、そのたびに、かつての親友の顔も思い出してしまうのだった。
「バジルール艦長! 僕も出撃させて下さい!」
「なんだと?」
キラは、居ても立っても居られず、出撃を申し出た。
「機体が無いだろ? それにお前はもう、あの機体の奪取という重要任務を既に果たしたんだ。
……カズイの事はわかる。だが、それなら余計にお前を出させるわけにはいかんな」
ネオが言った。
「今回は譲れ、ヤマト。他の者たちも仲間をやられた悔しさがある」
ナタルにもそのように諭される。
「ハッ……」
キラは唇を噛んで、モビルスーツデッキへと向かった。
「――ザフトならでは、だな?」
「ハッ?」
「いやなに……キラ・ヤマトみたいな連中が多いという事だよ」
「はぁ……?」
ネオの言葉を、ナタルは理解することが出来なかった。
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アークエンジェルのブリッジでは、バルトフェルドとクルーゼが、今後の事について話し合っていた。
「取り敢えずあの少年達は、しばらくは艦に置いておこうと思う。 既にシェルターもLV9に移行して封鎖されている様だしな」
バルトフェルドが言った。
「致し方あるまい、 だがまあ、イージスの力も必要だ」
「――というと、また彼をアレに乗せる、ということか?」
クルーゼの発言にバルトフェルドが聞き返す。
「無論だ。 あのモビルスーツの力なくして、此処からの脱出はありえんよ」
「……君が乗るわけにはいかんのか?」
「――すぐにあの機体の性能を引き出せ、というなら到底不可能だよ。船の代わりの的になれ、というなら、出来るがね?」
「フム……」
こうなるのであれば、もっとあの子らを早く、解放すべきだったな――。
バルトフェルドは大きく息を吐いた。
「大尉殿がそれでどうするのですかな? まだ船は宇宙へ出てもいない」
「わかっているよ」
バルトフェルドはブリッジの電話機を取った。
アイシャに少年たちの様子と、物資の積み込み作業の進捗を確認するためだ。
やらざるを得ない状況がある。
自分はそれをやるだけだ。
それは良かった。
ただ、そこにまで、子供を巻き込むのは、バルトフェルドにとって酷く不満だった。
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「貴方は……クルーゼ大尉?」
船室に座り込むアスランの元に、サングラスをかけた男……ラウ・ル・クルーゼが現れた。
「アイマン軍曹が探していたぞ? アレの整備、手伝ってもらえんかとな」
「アレ――ガンダムのことですか?」
「? ……ああ、そういう呼び方もあるのだったな。私からも頼みたい。アレは君の機体だ」
「俺の機体……!? 俺の機体とはどういうことですか!?」
アスランが声を荒げた。
「今はそういうことになっているということだ」
しかし、クルーゼは一方的にアスランに告げる。
「それって、もう一度アスランにあれに乗れって言ってるワケ?」
ディアッカがクルーゼに言う。
「そのつもりだ……敵部隊はまだこのコロニーの近くにいる。今この艦を守れるのはアスランだけだ」
クルーゼはそう言い放つ。
「それは脅迫ではありませんか?」
イザークがクルーゼに噛み付くように言った。
「だが、事実だ」
「ひどい話……」
ニコルもそう呟いて、クルーゼを睨む。
「俺は……元はプラントのコーディネイターですが、戦争に参加したくなくて!それを……」
「それはわかる話だ。だが君はもう巻き込まれてしまった。このまま何もせず、巻き込まれたまま死ぬかね?
君には選択肢がある。 今言ったとおり、このまま何もせず死ぬか。
それともこの状況を打破するために、積極的に行動するかだ」
クルーゼは淡々と言った。
「卑怯だ……」
アスランは震えながら言った。
これではプラントに居たときと同じじゃないか。
アスランは思った。
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(……これは、アレックスは、スペシャルだ……我らコーディネイターが新人類であることの証明なのだ!)
あの日、ジンのテスト機に乗っていた日、連合のモビルアーマー部隊の、突然の襲撃を受けた日。
『アレックス機!健在! 残っているのはグゥド・ヴェイアの機と、この機体のみです!』
アスランは生き延びてしまった。
それからは、父に言われるがままにモビルスーツに乗る日々が続いた。
実戦はそのときを除くと一回。
しかし、その一回は地獄だった。
(……アレックス、なぜ戦おうとしない?……臆病者が!)
(貴様は仲間の死を見てなんとも思わんのか?撃つんだ、アレックス!)
(母の仇は目の前のナチュラルどもだ!殺せ!アレックス!)
(お前は選ばれた素質、"SEED"なのだ、アレックス!)
(貴様はそうやって…逃げて、ごまかしているだけにしかすぎん…失望したぞ、アレックス)
何度も何度も、アスランは父に言われた。
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「逃げてない……」
「ン?」
アスランは、自分で自分の肩を抱きかかえるようにうずくまったが――周りを見た。
自分を心配して避難もせず飛び出してきたイザーク。
こんな状況を気にするな、と言ってくれたディアッカ。
かばいだってくれたニコル。
(打破する……行動か)
自分はあの時、状況を打破する為に動いていたのだろうか?
わからない、今はわかりたくはない。
だが、この心に残っているもの、自分は――父から逃げているのだろうか?
という感触。
そして――今心から、必死で忘れようとしているもの。
かつての親友――キラ・ヤマトの姿。
アスランは、少し考えた後、息を整え、立ち上がった。
「わかりました……俺がやります」
「そんな、アスランいいんですか!?」
ニコルが驚く 。
「でもクルーゼ大尉……。俺が乗るのは、ここに居る友達の為と自分の為です!」
アスランは立ち上がり、クルーゼの前へ向かう。
「アスラン、お前……」
イザークがアスランの肩を叩く。
心配ないさ、とアスランはイザークに向けて微笑んだ。
「良い面構えだな。アスラン・ザラ」
クルーゼが言った。
「……」
アスランはクルーゼを睨んだ。
しかし内心、アスランは、クルーゼのその言葉が嫌ではなかった。
「フッ……」
クルーゼが微笑した。
こういう状況でなければ、嫌いな人ではないかもしれない、とアスランは思った。
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「機体のデータバンクのハッキング、完了」
「メンテナンスデータの解析も完了しました」
ヴェサリウスのドックでは、奪取した機体――GAT-X105の解析作業がほぼ完了していた。
その作業の中にはキラの姿もあった。
彼はパイロットでありながら、優秀なエンジニアでもあった。
「ゲイル機、カタパルトへ」
オペレータのアナウンスがドックに鳴り響く。
エアダクトがしまり、発進カタパルトにジンが進んでいく。
「アスラン……」
キラは無重力のドックの床を蹴って跳んだ。
X-105のコクピットでは、エンジニアが作業をしている途中だった。
「この機体、使えそうなんですか?」
「いえ、OSが酷い状態でして……」
「見せて……」
キラは、コクピットに乗り込む、と……
「すいません!」
「うわっ?」
キラは突然、メカニックを跳ね飛ばし、コクピットのハッチを閉めた。
「本当に全然……調整が終わってない!」
キラは、コンソール画面を表示させると、メンテナンス用のキーボードを取り出し、OSの操作を始めた。
「なんだ!」
「ヤマトが突然!」
「この機体を使うのか!?」
「ムリだろ!?」
外ではメカニック達がそれを見て騒いだ。
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「さすがだな~コーディネーター様ってのは」
「……」
「あ、ごめんごめん。嫌だよな? 俺、ブルーコスモスとかそういうんじゃないから、安心してよ?」
メカニックのミゲル・アイマン軍曹に指示されながら、アスランは機体の設定を急いでいた。
「あ、アイマン軍曹、アンテナの所、さっきの戦闘で故障したんで」
「ハイよ……換えの部品が無くていけるかね?」
「振動による接触不良だと思うんで、大丈夫だと思います」
「……お前、機械好きだろ?」
「え?」
「いやさ……なんとなくね」
「まあ……」
ミゲルは先程からアスランに気さくに話しかけてくる。 どうにも軍人らしくない男性だった。
「OSの設定、終わりました」
「1時間足らずでか、流石だな? コーディネイターってのは、ミンナそうなの?」
「……人に、よります」
「そういうもん? ……じゃ、俺、おやっさんに報告してくるわ」
「あ、アイマン軍曹……ザフトは?」
「あー、ミゲルでいいよ。――多分、あちらさんの補給も終わる頃だ。そう何度もコロニーの中まで仕掛けてくるかはわからんケド……」
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「大丈夫だ……基本はジンの応用でいける」
キラはOSと、機体の情報を凄まじいスピードで解析していく。
「キャリブレーション取りつつ、ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定
疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結!
ニュートラルリンケージ・ネットワーク、再構築!
メタ運動野パラメータ更新!フィードフォワード制御再起動、伝達関数!
コリオリ偏差修正!運動ルーチン接続!システム、オンライン!ブートストラップ起動……!」
――出来た。
キラは、キーボードを仕舞った。
作業開始してから完了するまでのその間、5分であった。
General
Unilateral
Neuro-Link
Dispersive
Autonomic
Maneuver
Synthesis System
GAT-X105 STRIKE
OSのメイン画面が表示された。
「ガンダム?……ストライク」
――X-105、ストライクが起動する。
「動いた!? コイツもやっぱ出るのか?」
「聞いてないぞ!?」
「ゲイル機、ルーク機……出撃どうぞ!」
――部隊のジンが出撃した。
……ハッチが開いている今がチャンスだ!
キラはストライクを無理やりカタパルトに運ぶと、発進準備を取った。
「武装は――ランチャーストライカーパック、これが使えるか!」
キラは武装を装備すると、カウント・ダウンを省略し、
先に発進したジンに追って、ヴェサリウスを出た――本当にあの機体に乗っているのがアスランなのか――それ確かめる為に。
「――何!? キラ・ヤマトが奪取した機体でだと!? 呼び戻せ!すぐに帰還命令を!」
すぐさま、ヴェサリウスのデッキに、キラの無断出撃が知らされた。
「あのバカ……ボウズを止めろ! 間に合わんかッ!?」
「ロアノーク隊長!」
「念のため俺のシグーの整備を急がせろ! 今のアイツは危険だ、奪取した機体も、
ウズミ議長の大事な跡継ぎも、無駄死にさせるわけにはいかん!」
「ですが、隊長の機体はメインスラスターが……それにあの敵機、
推定ですが、変形すると我が軍のジンの通常の3倍の推力があります!」
「大丈夫だって、それでも俺の機体は十分速いさ――急いでくれ!」
ネオはナタルに告げた。
(しかし、あのキラが、命令違反……ヘリオポリスで何かあったのか?)
普段は温厚で、命令に忠実なキラのらしく無い行動に、ネオは疑念を抱くのであった。
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アークエンジェルに警報が鳴り響いた。
「コロニー全体に電波干渉、Nジャマー数値増大!」
「来たか!?」
ブリッジが急に慌しくなる。
「やはり……黙っていてはくれないか……ヤツめ」
「クルーゼ大尉……またヘリオポリス内で仕掛けてくると?」
「私ならばそうしますな……こちらは撃てず、向こうは撃ち放題だ」
クルーゼは言った。
「……予想していた事態ではあるが」
「それとバルトフェルド大尉……艦長は貴官にやっていただきたい」
「俺が…?」
「先任大尉は私だが……私はパイロットだ」
「やれやれ、仕方がないか。総員戦闘配置……アスラン・ザラには承諾を得ている、イージスの発進準備を。
――で、パイロットのクルーゼ大尉殿のモビルアーマーは?」
「……まだ出られん」
「となれば、虎の子のイージスと、この戦艦のみか……ならクルーゼ大尉はCIC、アイシャはイージスのオペレートを!」
「ハッ!」
「了解した」
アイシャとクルーゼはブリッジの担当席に着座する。
「接近する熱源あり!ジンです!別方面から部隊の進入も確認しました!
しかも…拠点攻撃型重爆撃仕様一機、対艦砲撃用が一機です!」
カークウッド伍長が報告する。
「厄介だねえ……さすが
バルトフェルドは声を張り上げた。
「目的はあくまでコロニーからの脱出だ……極力コロニーに傷をつけるな!アークエンジェル発進だ!」
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「三番コンテナだ! シールドとビームライフルをイージスに装備させろ!」
チーフメカニックのマッド・エイブスが怒鳴った。
「アスラーン! 三番だ!三番!」
ミゲルもコクピットのアスランに叫ぶ。
――そのアスランは、コクピット内部で再び緊張に震えていた。
「イージスは機動力に優れた機体ヨ。ジンよりもかなり早く動けるワ」
アイシャが、先程からアスランにイージスのスペックについて説明していた。
アスランは、ビーム・ライフルをイージスに握らせる。
「ライフルのE-CAPが切れると本体との直結に切り替えになるワ、残弾数に常に気を配っテ」
「了解……」
「……シェイシェイ、アスラン。 頑張っテ」
「ハイ」
アイシャ中尉はウインクした。
この人も随分と軍人らしくない。
チャーミングな女性だ。
アスランは少し、緊張が安らいだ。
「イージスの想定出力はジンの5倍……それに変形機能……か」
(コレを、ナチュラルが……)
アスランは思った。
恐らく、未だにザフトが完成させていないだろう技術を、連合はもう作り上げていた。
(カレッジでも思った事だが……ナチュラルとコーディネイター、それほど違うものなのだろうか?)
そうは思えない。
だが、そうであるならば、何故この戦争は起きたのか?
父はどうして……。
しかし、アスランは考えるのを止めた。
(今は、ただ目の前の戦いに集中するだけだ――仲間を守る)
「イージス、発進!」
アイシャが発進を告げる。
「アスラン・ザラ、出ます!」
アスランはリニア・カタパルトに機体を載せると、イージスを発進させた。
---------------
先頃、ネオが脱出したルートから、二機のジンが進入してきた。
――そしてもう一機。
「この照合パターンは! X-105、ストライクです!」
メイラム伍長が、レーダーの反応をバルトフェルドに告げた。
キラの乗るストライクだった。
「何!? もう実戦に!?」
「今は敵だ! 撃たねばやられるぞ!」
クルーゼが叫ぶ。
「中立国と言いながらアレを隠していたんだ。 コロニーへの多少の被害は止むを得まい――キラ、ついてきたんだ! 根性を見せてもらうぞ」
「ハイ!」
「ヘヘッ、ロアノーク隊長には一緒に謝ってやる。 あの足つきの船、沈めるぞ!」
ジンとストライクが、アークエンジェルへ向かって飛ぶ。
と、そこへ、赤い、目を引く彩色の機体が現れた。
アスランのイージスだ。
「あれが連合のモビルスーツか! おまえら、行くぞ!」
すぐさま、ジンのパイロットは、アスランのイージスに照準を合わせる。
「落ちろーッ!」
バルルスと呼ばれる、試作ビーム兵器を装備したジンが、イージスに向かって砲を放つ。
ビシュウッ!
緑色の光を放つビーム粒子が一直線に飛んでいく。
が、
「かわしたっ!?」
「映像で見るより速いぞ!」
イージスはそれを難なく避けて見せたのだ。
「くそ!」
ジンのパイロットはイージスの影を必死に追っては引き金を引いた。
ビシュウッ! ビシュウッ!
コロニー内に緑の光線が何度も引かれる。
「ルーク! いくらなんでも!」
「ルークさん!」
キラと、もう一人のパイロット、ゲイルが叫ぶ。
「チッ……!」
ジンのパイロット――ルークは舌打ちする。
さすがにマズったか――?
ルークは自分の攻撃が思いのほかコロニーに損害を与えている事に気がつく。
「っ……コロニーが!?」
一方アスランは、自分の避けたビーム砲が、全てコロニーのダメージとなっていることに気がつく。
ゴォオオオオオオン!!
運悪く、ビーム砲の一発がコロニーのメインシャフトに命中していた。
円筒型コロニーの遠心力のバランスを保つ、重要なパーツである。
コレが破損した事によって、ミシミシと音を立てて、コロニー全体が歪んだ。
太陽光を取り入れる超硬度ミラーの一部に、ヒビが入る。
「くそ、このままじゃコロニーの重力が保てなくなってしまう! ジンを止めなくては!」
アスランは、止むを得ず、ジンに近づいていく。
---------------
「ミサイルは使うな! ゴットフリートを使え!」
バルトフェルドが叫ぶ。
「メイン・メガ粒子砲ですか!? アレも威力が……」
ダコスタが言う。
「アレは威力を調整できる! それにストライクにミサイルは効かん!」
「なら、マニュアルで照準をよこせ。 私が狙い撃つ」
クルーゼが言った。
アークエンジェルのカタパルトの上部にある、ハッチが開く。
中から巨大な砲台が現れる。
アークエンジェルの主砲である、メインメガ粒子砲「ゴットフリート」である。
---------------
「ルークさん! ゲイルさん! モビルスーツは僕が引き受けます! あの足つきの船を!」
「キラ!出来るのか?」
「同じタイプ機体です! 追いつけるはず!」
「わかった! そいつの性能、見せてくれ!」
キラは、ジンに乗る二人のパイロットにそう通信すると、イージスへストライクを向けた。
「!? 白い機体が……」
一方ジンを止めようとしたアスランは、突然現れた白い機体、ストライクに戸惑った。
「この機体、もしかして……」
工場で見た、キラの乗った機体と似ている、と思ったからだ。
「……アスランなの?」
「キラ……が乗っているのか?」
お互い、中のパイロットを感じながら、手が出せない。
距離をとりつつ、牽制の用のバルカンすら撃てなかった。
---------------
「ゴットフリート、照準――撃てっーーー!」
「――ッ!」
バルトフェルドの指揮に従い、クルーゼがゴットフリートを放った。
バシュウウウン!
大口径のメガ粒子が収束され、まっすぐにジンに向けて放たれる。
「おわっ!?」
「ゲイルー!?」
二機の内、一機のジンがビームの光に飲まれ、爆散した。
――艦砲に当たるはずがない、そう思っていたジンのパイロットであったが、
クルーゼの照準が、ジンのコースを先読みしていた為、避け切れなかったのだ。
機動性を落とす、拠点攻撃用の重装備をしていた事も災いした。
だが、
「なんだと!?」
クルーゼが叫ぶ。
拠点攻撃用の大型ミサイルをジンは抱えていたのだが、ビーム砲によってそれが暴発してしまったのだ。
ドォオオオオオン!!
大爆発が起きて、コロニーの外壁に大穴が開く。
ゴオォオオオオ!!
コロニーの中の空気が抜けていく。
そして、円筒の中の張り詰められた空気が、その一点から抜けようとする事で、
コロニーの中に暴風が巻き起こる。
その力は凄まじく、コロニーの円筒が歪んでいく――。
「な、これ以上はマズイ! コロニーが持たん!」
バルトフェルドが叫ぶ。
「――撃つのをやめろというのか!? ジンはまだ一機居るぞ!」
「だが――!」
---------------
「アークエンジェル、どうしたんだ! ……コロニーが!?」
異常を察知したアスランが、アークエンジェルの方を見る。
見ると、コロニーに大穴が空き、そしてアークエンジェルの砲撃が止んだように見えた。
「やられるのか!? アークエンジェルが!」
そんな――イザークが、ニコルが、ディアッカがアレに乗って――。
アスランはストライクを気にしつつも、機体を反転させて、アークエンジェルへと向かう。
「足つきにゲイルさんがやられた!? イージスもそっちに!? 待てっ!」
キラも、イージスを追おうとする、が、
「変形した!?」
アスランのイージスがモビルアーマーへと変形したのだ。
推力が大きく違うため、キラのストライクでは追いつけない。
そして、キラは、中のパイロットが気になる余り、後ろから撃つ事も出来ない。
「ルークさん!」
キラがルークに無線で知らせる。
「何!?」
モビルアーマーに変形したイージスが、まっすぐにジンへと向かう。
「真正面だと、なめるな――!」
ジンのビーム砲が、アスランのイージスを狙う。
アスランは接近する直前、変形をといて、モビルスーツへと姿を戻した。
バシュウウッ!
その刹那、砲が放たれる。
バァアアアン!と、音がして、イージスがビーム粒子の光に包まれる。
「やったか!?」
ルークが叫ぶ。
しかし、
「――トゥオオオーッ!」
イージスは、ビームを
そして、そのまま、イージスはビームサーベルを展開させ、ジンに切りかかる。
「ちぃ!」
ジンは咄嗟に、持っていたビーム砲、バルルスを盾にした。
ズバァッ!
バルルスをイージスのビームサーベルが真っ二つに引き裂く。
ドォオンと、バルルスが爆発して目くらましになる。
今だ! とルークは思って、その隙にジンをイージスから離そうとした。
――だが、
「!?」
イージスは爆風を物ともせず飛び込んできた。
そして――
「ヘアァッー!」
イージスが、蹴りを突き出してきた。
「――足に!?」
そして、その時になってルークは気がついた。
イージスは腕だけでなく、足にもクロー・バイス・ビームサーベルが搭載されている事に――。
「う、うわああぁあーッ!」
ルークは叫ぶと同時に、ジンのコクピットごと、イージスの脚部ビーム・サーベルに切り裂かれていた。
ドォオオオン!!
「ルークさん!?」
ルークのジンが、爆発する。
「う……うわああぁあああ!」
キラは、二度目の仲間の死を見る事になった。
そして、キラは――。
「うわあああああ!!」
思わず、持っていたビーム砲の引き金を、引いた。
「ッ!?」
イージスが、それに気づき、回避運動を取る。
バッシュウウウウウ!!
「アレは?」
「ストライクのアグニか!?」
ランチャー・ストライクパックという、ストライク用の砲撃装備である。
そのメイン装備であるビーム砲アグニの火力は、イージスのスキュラと同じく――大型戦艦の主砲に匹敵する。
そのビームが、イージスを――素通りし、コロニーのメインシャフトに、当たった。
流れ弾でも、コロニーに穴をあけるような、強大な火砲が、である。
――そして、コロニーの耐久力は、限界を超えた。