機動戦士ガンダムSEED⇔(ターン)   作:sibaワークス

6 / 41
PHASE 6 「敵軍、ストライク」

 『友人たちの言葉には、ただ感謝するしか無かった。

  ただ、その言葉を思えば思うほど、

  キラ・ヤマトの言葉も一緒に思い浮かんできてしまうのだった』

 

------------------------------

 

 ヴェサリウスのミーティング・ルームでは、

 ネオやナタルなどのブリッジクルーと、パイロットの全員が、ヘリオポリスから持ち帰った各種映像を検証していた。

 

 潜入した者の中には、カズイのジンが撃破されるまでの一部始終を撮影した者もいて、

 その映像はキラの面持ちを沈痛な物に変えていた。

 「敵兵器のビーム・サーベルとフェイズ・シフト装甲については、コチラでも技術は持っていた。

  しかし、実用化までには到っていない代物だ。

  ま、正直"お偉方"はナチュラル相手にそんな物は不要だと思っていたらしいがね。

  それよりかは、この機体の持つ運動性能そのものが驚異的だな」

 

 ネオはイージスの、その性能が如何に脅威かを指摘した。

 

 「オリジナルのOSについては、諸君らも既に知っての通りだ。

 どうやら、最後の一機については、動かしながら動作を調整してる様子だが……。

 次に出てくるときは完全な状態である可能性も高いだろう。 

 また、この機体には変形機構など未知の部分も多い。 まぁ、ますます見過ごせない状態になったわけだ。

 各員、十分、警戒するようにな」

 「ハッ!」

 

 ネオの言葉に、パイロット達は敬礼した。

 

 「ルークとゲイルは出撃準備――ビーム砲、バルルスの使用許可が出ている。直ちに取り掛かれ!」

  ナタルがパイロットに檄を飛ばす。

  出撃を命じられたパイロット2名は、ミーティングルームに併設されたパイロット・ルームに流れていった。

 

 (カズイ……)

 

 キラは映像の中のジンを何度も見返した。

 カーキ色に塗装された、カズイの機体が、赤い敵機に両断される様を……。

 (アスラン……)

 そして、そのたびに、かつての親友の顔も思い出してしまうのだった。

 

 「バジルール艦長! 僕も出撃させて下さい!」

 「なんだと?」

  キラは、居ても立っても居られず、出撃を申し出た。

 「機体が無いだろ? それにお前はもう、あの機体の奪取という重要任務を既に果たしたんだ。

  ……カズイの事はわかる。だが、それなら余計にお前を出させるわけにはいかんな」

 ネオが言った。

 「今回は譲れ、ヤマト。他の者たちも仲間をやられた悔しさがある」

 ナタルにもそのように諭される。

 「ハッ……」

 キラは唇を噛んで、モビルスーツデッキへと向かった。

 

 「――ザフトならでは、だな?」

 「ハッ?」

 「いやなに……キラ・ヤマトみたいな連中が多いという事だよ」 

 「はぁ……?」

 ネオの言葉を、ナタルは理解することが出来なかった。

 

------------------------------

 

 アークエンジェルのブリッジでは、バルトフェルドとクルーゼが、今後の事について話し合っていた。

 「取り敢えずあの少年達は、しばらくは艦に置いておこうと思う。 既にシェルターもLV9に移行して封鎖されている様だしな」

 バルトフェルドが言った。 

 「致し方あるまい、 だがまあ、イージスの力も必要だ」

 「――というと、また彼をアレに乗せる、ということか?」

 クルーゼの発言にバルトフェルドが聞き返す。

 「無論だ。 あのモビルスーツの力なくして、此処からの脱出はありえんよ」

 「……君が乗るわけにはいかんのか?」

 「――すぐにあの機体の性能を引き出せ、というなら到底不可能だよ。船の代わりの的になれ、というなら、出来るがね?」

 「フム……」

 こうなるのであれば、もっとあの子らを早く、解放すべきだったな――。

 バルトフェルドは大きく息を吐いた。

 「大尉殿がそれでどうするのですかな? まだ船は宇宙へ出てもいない」

 「わかっているよ」

 

 バルトフェルドはブリッジの電話機を取った。

 アイシャに少年たちの様子と、物資の積み込み作業の進捗を確認するためだ。

 やらざるを得ない状況がある。

 自分はそれをやるだけだ。

 

 それは良かった。

 

 ただ、そこにまで、子供を巻き込むのは、バルトフェルドにとって酷く不満だった。

 

 

------------------------------

 

 「貴方は……クルーゼ大尉?」

 船室に座り込むアスランの元に、サングラスをかけた男……ラウ・ル・クルーゼが現れた。

 

 「アイマン軍曹が探していたぞ? アレの整備、手伝ってもらえんかとな」

 「アレ――ガンダムのことですか?」

 「? ……ああ、そういう呼び方もあるのだったな。私からも頼みたい。アレは君の機体だ」

 「俺の機体……!? 俺の機体とはどういうことですか!?」

 アスランが声を荒げた。

 「今はそういうことになっているということだ」

 しかし、クルーゼは一方的にアスランに告げる。

 

 「それって、もう一度アスランにあれに乗れって言ってるワケ?」

 ディアッカがクルーゼに言う。

 「そのつもりだ……敵部隊はまだこのコロニーの近くにいる。今この艦を守れるのはアスランだけだ」

 クルーゼはそう言い放つ。

 「それは脅迫ではありませんか?」

 イザークがクルーゼに噛み付くように言った。

 「だが、事実だ」

 「ひどい話……」

 ニコルもそう呟いて、クルーゼを睨む。

 「俺は……元はプラントのコーディネイターですが、戦争に参加したくなくて!それを……」

 「それはわかる話だ。だが君はもう巻き込まれてしまった。このまま何もせず、巻き込まれたまま死ぬかね?

  君には選択肢がある。 今言ったとおり、このまま何もせず死ぬか。

  それともこの状況を打破するために、積極的に行動するかだ」

 クルーゼは淡々と言った。

 「卑怯だ……」

 アスランは震えながら言った。

 

 これではプラントに居たときと同じじゃないか。

 

 アスランは思った。

 

 

 

 

-----

 

(……これは、アレックスは、スペシャルだ……我らコーディネイターが新人類であることの証明なのだ!)

 

 あの日、ジンのテスト機に乗っていた日、連合のモビルアーマー部隊の、突然の襲撃を受けた日。

 

 『アレックス機!健在! 残っているのはグゥド・ヴェイアの機と、この機体のみです!』

 

 アスランは生き延びてしまった。

 それからは、父に言われるがままにモビルスーツに乗る日々が続いた。

 実戦はそのときを除くと一回。

 しかし、その一回は地獄だった。

 

(……アレックス、なぜ戦おうとしない?……臆病者が!)

(貴様は仲間の死を見てなんとも思わんのか?撃つんだ、アレックス!)

(母の仇は目の前のナチュラルどもだ!殺せ!アレックス!)

(お前は選ばれた素質、"SEED"なのだ、アレックス!)

(貴様はそうやって…逃げて、ごまかしているだけにしかすぎん…失望したぞ、アレックス)

 

 何度も何度も、アスランは父に言われた。

 

-----

 

 

 

「逃げてない……」

「ン?」 

 

 アスランは、自分で自分の肩を抱きかかえるようにうずくまったが――周りを見た。

 

 自分を心配して避難もせず飛び出してきたイザーク。

 こんな状況を気にするな、と言ってくれたディアッカ。

 かばいだってくれたニコル。

 

 (打破する……行動か)

 

 自分はあの時、状況を打破する為に動いていたのだろうか?

 わからない、今はわかりたくはない。

 だが、この心に残っているもの、自分は――父から逃げているのだろうか?

 という感触。

 そして――今心から、必死で忘れようとしているもの。

 

 かつての親友――キラ・ヤマトの姿。

 

 アスランは、少し考えた後、息を整え、立ち上がった。

 「わかりました……俺がやります」

 「そんな、アスランいいんですか!?」

 ニコルが驚く 。

 「でもクルーゼ大尉……。俺が乗るのは、ここに居る友達の為と自分の為です!」

 アスランは立ち上がり、クルーゼの前へ向かう。

 

 「アスラン、お前……」

 イザークがアスランの肩を叩く。

 心配ないさ、とアスランはイザークに向けて微笑んだ。

 「良い面構えだな。アスラン・ザラ」

 クルーゼが言った。

 「……」

 アスランはクルーゼを睨んだ。

 しかし内心、アスランは、クルーゼのその言葉が嫌ではなかった。

 「フッ……」

 クルーゼが微笑した。

 

 こういう状況でなければ、嫌いな人ではないかもしれない、とアスランは思った。

 

 

----------

 

 「機体のデータバンクのハッキング、完了」

 「メンテナンスデータの解析も完了しました」

 

 ヴェサリウスのドックでは、奪取した機体――GAT-X105の解析作業がほぼ完了していた。

  

 その作業の中にはキラの姿もあった。

 彼はパイロットでありながら、優秀なエンジニアでもあった。

 

 「ゲイル機、カタパルトへ」

 オペレータのアナウンスがドックに鳴り響く。

 エアダクトがしまり、発進カタパルトにジンが進んでいく。

 

 「アスラン……」

 キラは無重力のドックの床を蹴って跳んだ。

 

 X-105のコクピットでは、エンジニアが作業をしている途中だった。

 「この機体、使えそうなんですか?」

 「いえ、OSが酷い状態でして……」

 「見せて……」

 キラは、コクピットに乗り込む、と……

 「すいません!」

 「うわっ?」

 キラは突然、メカニックを跳ね飛ばし、コクピットのハッチを閉めた。

 

 「本当に全然……調整が終わってない!」

 キラは、コンソール画面を表示させると、メンテナンス用のキーボードを取り出し、OSの操作を始めた。

 

 「なんだ!」

 「ヤマトが突然!」

 「この機体を使うのか!?」

 「ムリだろ!?」

 外ではメカニック達がそれを見て騒いだ。

 

 

------------

 

 

 「さすがだな~コーディネーター様ってのは」

 「……」

 「あ、ごめんごめん。嫌だよな? 俺、ブルーコスモスとかそういうんじゃないから、安心してよ?」

 

 メカニックのミゲル・アイマン軍曹に指示されながら、アスランは機体の設定を急いでいた。

 

 「あ、アイマン軍曹、アンテナの所、さっきの戦闘で故障したんで」

 「ハイよ……換えの部品が無くていけるかね?」

 「振動による接触不良だと思うんで、大丈夫だと思います」

 「……お前、機械好きだろ?」

 「え?」

 「いやさ……なんとなくね」

 「まあ……」

 ミゲルは先程からアスランに気さくに話しかけてくる。 どうにも軍人らしくない男性だった。

 「OSの設定、終わりました」

 「1時間足らずでか、流石だな? コーディネイターってのは、ミンナそうなの?」

 「……人に、よります」

 「そういうもん? ……じゃ、俺、おやっさんに報告してくるわ」

 「あ、アイマン軍曹……ザフトは?」

 「あー、ミゲルでいいよ。――多分、あちらさんの補給も終わる頃だ。そう何度もコロニーの中まで仕掛けてくるかはわからんケド……」

 

 

---------------

 

 「大丈夫だ……基本はジンの応用でいける」

 キラはOSと、機体の情報を凄まじいスピードで解析していく。

 

 「キャリブレーション取りつつ、ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定

  疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結!

  ニュートラルリンケージ・ネットワーク、再構築!

  メタ運動野パラメータ更新!フィードフォワード制御再起動、伝達関数!

  コリオリ偏差修正!運動ルーチン接続!システム、オンライン!ブートストラップ起動……!」

 

 ――出来た。

 キラは、キーボードを仕舞った。

 

 作業開始してから完了するまでのその間、5分であった。

 

 General

 Unilateral

 Neuro-Link

 Dispersive

 Autonomic

 Maneuver

     Synthesis System

 

 GAT-X105 STRIKE

 

 

 OSのメイン画面が表示された。

 「ガンダム?……ストライク」

 ――X-105、ストライクが起動する。

 

 「動いた!? コイツもやっぱ出るのか?」

 「聞いてないぞ!?」

 

 「ゲイル機、ルーク機……出撃どうぞ!」

 ――部隊のジンが出撃した。

 ……ハッチが開いている今がチャンスだ!

 キラはストライクを無理やりカタパルトに運ぶと、発進準備を取った。

 

 「武装は――ランチャーストライカーパック、これが使えるか!」

 

 キラは武装を装備すると、カウント・ダウンを省略し、

 先に発進したジンに追って、ヴェサリウスを出た――本当にあの機体に乗っているのがアスランなのか――それ確かめる為に。

 

 

 「――何!? キラ・ヤマトが奪取した機体でだと!? 呼び戻せ!すぐに帰還命令を!」

  すぐさま、ヴェサリウスのデッキに、キラの無断出撃が知らされた。

 「あのバカ……ボウズを止めろ! 間に合わんかッ!?」

 「ロアノーク隊長!」

 「念のため俺のシグーの整備を急がせろ! 今のアイツは危険だ、奪取した機体も、

  ウズミ議長の大事な跡継ぎも、無駄死にさせるわけにはいかん!」

 「ですが、隊長の機体はメインスラスターが……それにあの敵機、

  推定ですが、変形すると我が軍のジンの通常の3倍の推力があります!」

 「大丈夫だって、それでも俺の機体は十分速いさ――急いでくれ!」

  ネオはナタルに告げた。

 

 (しかし、あのキラが、命令違反……ヘリオポリスで何かあったのか?)

 

  普段は温厚で、命令に忠実なキラのらしく無い行動に、ネオは疑念を抱くのであった。

 

---------------

 

  アークエンジェルに警報が鳴り響いた。

 「コロニー全体に電波干渉、Nジャマー数値増大!」

 「来たか!?」

 ブリッジが急に慌しくなる。

 「やはり……黙っていてはくれないか……ヤツめ」

 「クルーゼ大尉……またヘリオポリス内で仕掛けてくると?」

 「私ならばそうしますな……こちらは撃てず、向こうは撃ち放題だ」

  クルーゼは言った。

 「……予想していた事態ではあるが」

 「それとバルトフェルド大尉……艦長は貴官にやっていただきたい」

 「俺が…?」

 「先任大尉は私だが……私はパイロットだ」

 「やれやれ、仕方がないか。総員戦闘配置……アスラン・ザラには承諾を得ている、イージスの発進準備を。 

  ――で、パイロットのクルーゼ大尉殿のモビルアーマーは?」

 「……まだ出られん」

 「となれば、虎の子のイージスと、この戦艦のみか……ならクルーゼ大尉はCIC、アイシャはイージスのオペレートを!」

 「ハッ!」

 「了解した」

  アイシャとクルーゼはブリッジの担当席に着座する。

 「接近する熱源あり!ジンです!別方面から部隊の進入も確認しました!

  しかも…拠点攻撃型重爆撃仕様一機、対艦砲撃用が一機です!」

  カークウッド伍長が報告する。

 「厄介だねえ……さすが紫電(ライトニング)……手加減なしだ。だがこちらもみすみすやられるわけにはいかない!」

  バルトフェルドは声を張り上げた。

 「目的はあくまでコロニーからの脱出だ……極力コロニーに傷をつけるな!アークエンジェル発進だ!」

 

---------------

 

 「三番コンテナだ! シールドとビームライフルをイージスに装備させろ!」

 チーフメカニックのマッド・エイブスが怒鳴った。

 「アスラーン! 三番だ!三番!」

 ミゲルもコクピットのアスランに叫ぶ。

 

 ――そのアスランは、コクピット内部で再び緊張に震えていた。

 

 「イージスは機動力に優れた機体ヨ。ジンよりもかなり早く動けるワ」

 

  アイシャが、先程からアスランにイージスのスペックについて説明していた。

 

  アスランは、ビーム・ライフルをイージスに握らせる。

 「ライフルのE-CAPが切れると本体との直結に切り替えになるワ、残弾数に常に気を配っテ」

 「了解……」

 「……シェイシェイ、アスラン。 頑張っテ」

 「ハイ」

 アイシャ中尉はウインクした。

 

 この人も随分と軍人らしくない。

 チャーミングな女性だ。

 アスランは少し、緊張が安らいだ。 

 「イージスの想定出力はジンの5倍……それに変形機能……か」

 

 (コレを、ナチュラルが……)

  アスランは思った。

 恐らく、未だにザフトが完成させていないだろう技術を、連合はもう作り上げていた。

 (カレッジでも思った事だが……ナチュラルとコーディネイター、それほど違うものなのだろうか?)

 そうは思えない。

 だが、そうであるならば、何故この戦争は起きたのか?

 父はどうして……。

 

  しかし、アスランは考えるのを止めた。

 (今は、ただ目の前の戦いに集中するだけだ――仲間を守る)

 

 「イージス、発進!」

 アイシャが発進を告げる。

 「アスラン・ザラ、出ます!」

 アスランはリニア・カタパルトに機体を載せると、イージスを発進させた。

 

---------------

 

 先頃、ネオが脱出したルートから、二機のジンが進入してきた。

 ――そしてもう一機。

 「この照合パターンは! X-105、ストライクです!」

 メイラム伍長が、レーダーの反応をバルトフェルドに告げた。

 キラの乗るストライクだった。

 「何!? もう実戦に!?」

 「今は敵だ! 撃たねばやられるぞ!」

 クルーゼが叫ぶ。

 

 

 

 「中立国と言いながらアレを隠していたんだ。 コロニーへの多少の被害は止むを得まい――キラ、ついてきたんだ! 根性を見せてもらうぞ」

 「ハイ!」

 「ヘヘッ、ロアノーク隊長には一緒に謝ってやる。 あの足つきの船、沈めるぞ!」

 ジンとストライクが、アークエンジェルへ向かって飛ぶ。

 

 と、そこへ、赤い、目を引く彩色の機体が現れた。

 アスランのイージスだ。

 

 「あれが連合のモビルスーツか! おまえら、行くぞ!」

 すぐさま、ジンのパイロットは、アスランのイージスに照準を合わせる。

 「落ちろーッ!」

 バルルスと呼ばれる、試作ビーム兵器を装備したジンが、イージスに向かって砲を放つ。

 

 ビシュウッ!

 

 緑色の光を放つビーム粒子が一直線に飛んでいく。

 

 が、

 

 「かわしたっ!?」

 「映像で見るより速いぞ!」

 

 イージスはそれを難なく避けて見せたのだ。

 

 「くそ!」

 ジンのパイロットはイージスの影を必死に追っては引き金を引いた。

 

 ビシュウッ! ビシュウッ!

 

 コロニー内に緑の光線が何度も引かれる。

 

 「ルーク! いくらなんでも!」

 「ルークさん!」

 

 キラと、もう一人のパイロット、ゲイルが叫ぶ。

 「チッ……!」

 ジンのパイロット――ルークは舌打ちする。

 さすがにマズったか――?

 ルークは自分の攻撃が思いのほかコロニーに損害を与えている事に気がつく。

 

 「っ……コロニーが!?」

 一方アスランは、自分の避けたビーム砲が、全てコロニーのダメージとなっていることに気がつく。

 

 ゴォオオオオオオン!!

 

 運悪く、ビーム砲の一発がコロニーのメインシャフトに命中していた。

 円筒型コロニーの遠心力のバランスを保つ、重要なパーツである。

 コレが破損した事によって、ミシミシと音を立てて、コロニー全体が歪んだ。

 太陽光を取り入れる超硬度ミラーの一部に、ヒビが入る。

 

 「くそ、このままじゃコロニーの重力が保てなくなってしまう! ジンを止めなくては!」

 

 アスランは、止むを得ず、ジンに近づいていく。

 

---------------

 

 「ミサイルは使うな! ゴットフリートを使え!」

 バルトフェルドが叫ぶ。

 「メイン・メガ粒子砲ですか!? アレも威力が……」

 ダコスタが言う。

 「アレは威力を調整できる! それにストライクにミサイルは効かん!」

 「なら、マニュアルで照準をよこせ。 私が狙い撃つ」

 クルーゼが言った。

 

 アークエンジェルのカタパルトの上部にある、ハッチが開く。

 中から巨大な砲台が現れる。

 アークエンジェルの主砲である、メインメガ粒子砲「ゴットフリート」である。

 

 

---------------

 

 「ルークさん! ゲイルさん! モビルスーツは僕が引き受けます! あの足つきの船を!」

 「キラ!出来るのか?」

 「同じタイプ機体です! 追いつけるはず!」

 「わかった! そいつの性能、見せてくれ!」

 キラは、ジンに乗る二人のパイロットにそう通信すると、イージスへストライクを向けた。

 

 

 

 

 「!? 白い機体が……」

 一方ジンを止めようとしたアスランは、突然現れた白い機体、ストライクに戸惑った。

 「この機体、もしかして……」

 工場で見た、キラの乗った機体と似ている、と思ったからだ。

 

 「……アスランなの?」

 「キラ……が乗っているのか?」

 お互い、中のパイロットを感じながら、手が出せない。

 距離をとりつつ、牽制の用のバルカンすら撃てなかった。

 

 

---------------

 

 「ゴットフリート、照準――撃てっーーー!」

 「――ッ!」

  バルトフェルドの指揮に従い、クルーゼがゴットフリートを放った。

 

 バシュウウウン!

 

 大口径のメガ粒子が収束され、まっすぐにジンに向けて放たれる。

 

 「おわっ!?」

 「ゲイルー!?」

  

 二機の内、一機のジンがビームの光に飲まれ、爆散した。

 ――艦砲に当たるはずがない、そう思っていたジンのパイロットであったが、

 クルーゼの照準が、ジンのコースを先読みしていた為、避け切れなかったのだ。

 機動性を落とす、拠点攻撃用の重装備をしていた事も災いした。

 

 だが、

 

 「なんだと!?」

 クルーゼが叫ぶ。

 拠点攻撃用の大型ミサイルをジンは抱えていたのだが、ビーム砲によってそれが暴発してしまったのだ。

 

 ドォオオオオオン!!

 

 大爆発が起きて、コロニーの外壁に大穴が開く。

 

 ゴオォオオオオ!!

 

 コロニーの中の空気が抜けていく。

 そして、円筒の中の張り詰められた空気が、その一点から抜けようとする事で、

 コロニーの中に暴風が巻き起こる。

 その力は凄まじく、コロニーの円筒が歪んでいく――。

 

 「な、これ以上はマズイ! コロニーが持たん!」

 バルトフェルドが叫ぶ。

 「――撃つのをやめろというのか!? ジンはまだ一機居るぞ!」 

 「だが――!」

 

---------------

 

 「アークエンジェル、どうしたんだ! ……コロニーが!?」

 異常を察知したアスランが、アークエンジェルの方を見る。

 見ると、コロニーに大穴が空き、そしてアークエンジェルの砲撃が止んだように見えた。

 

 「やられるのか!? アークエンジェルが!」

 そんな――イザークが、ニコルが、ディアッカがアレに乗って――。

 

 アスランはストライクを気にしつつも、機体を反転させて、アークエンジェルへと向かう。

 

 

 「足つきにゲイルさんがやられた!? イージスもそっちに!? 待てっ!」

 キラも、イージスを追おうとする、が、

 

 「変形した!?」

 

 アスランのイージスがモビルアーマーへと変形したのだ。

 推力が大きく違うため、キラのストライクでは追いつけない。

 

 そして、キラは、中のパイロットが気になる余り、後ろから撃つ事も出来ない。

 

 「ルークさん!」 

 キラがルークに無線で知らせる。

 「何!?」

 モビルアーマーに変形したイージスが、まっすぐにジンへと向かう。

 「真正面だと、なめるな――!」

 

 ジンのビーム砲が、アスランのイージスを狙う。

 アスランは接近する直前、変形をといて、モビルスーツへと姿を戻した。

 

 バシュウウッ!

 

 その刹那、砲が放たれる。

 バァアアアン!と、音がして、イージスがビーム粒子の光に包まれる。

 

 「やったか!?」

 ルークが叫ぶ。

 しかし、

 

 「――トゥオオオーッ!」

 

 イージスは、ビームをABC(アンチ・ビーム・コーティング)シールドで防いでいた。

 そして、そのまま、イージスはビームサーベルを展開させ、ジンに切りかかる。

 「ちぃ!」

 ジンは咄嗟に、持っていたビーム砲、バルルスを盾にした。

 

 ズバァッ!

 

 バルルスをイージスのビームサーベルが真っ二つに引き裂く。

 ドォオンと、バルルスが爆発して目くらましになる。

 今だ! とルークは思って、その隙にジンをイージスから離そうとした。

 ――だが、

 「!?」

 イージスは爆風を物ともせず飛び込んできた。

 

 そして――

 

 「ヘアァッー!」 

 

 イージスが、蹴りを突き出してきた。

 「――足に!?」

 そして、その時になってルークは気がついた。

 

 イージスは腕だけでなく、足にもクロー・バイス・ビームサーベルが搭載されている事に――。

 

 「う、うわああぁあーッ!」

 

 ルークは叫ぶと同時に、ジンのコクピットごと、イージスの脚部ビーム・サーベルに切り裂かれていた。

 

 ドォオオオン!!

 

 

 「ルークさん!?」

 ルークのジンが、爆発する。

 

 

 「う……うわああぁあああ!」

 

 

 キラは、二度目の仲間の死を見る事になった。

 そして、キラは――。

 

 

 

 「うわあああああ!!」

 

 思わず、持っていたビーム砲の引き金を、引いた。

 

 「ッ!?」

 イージスが、それに気づき、回避運動を取る。

 

 バッシュウウウウウ!!

 

 「アレは?」

 「ストライクのアグニか!?」

 ランチャー・ストライクパックという、ストライク用の砲撃装備である。

 そのメイン装備であるビーム砲アグニの火力は、イージスのスキュラと同じく――大型戦艦の主砲に匹敵する。

 

 

 そのビームが、イージスを――素通りし、コロニーのメインシャフトに、当たった。

 

 流れ弾でも、コロニーに穴をあけるような、強大な火砲が、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、コロニーの耐久力は、限界を超えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。