PSO2引退小説 「束の間の休息”Who nailed him?”」 作:sutegeri
ふとしたストレスから、周囲の人全てが血まみれの肉塊になれば良いと思った事はないか。
体液と血液によるコーティング。
顔の潰れた、立ち尽くしたままの死体。
むっとした、生暖かく、湿気た内容物の腐臭。
生が停滞し、死の充満した空間。
だが、想像する事はあっても、現出しない。
相応の力と犠牲がなければ。
なら、それがもしも、あれば?
極僅かな怒りから、致命的な舌打ちが漏れる様に。
極僅かな嫌悪から、彼は殺戮の意思を漏らしてしまった。
フォトンで焼かれ、ほぼ頭だけのダガンが、残った一本足で空を引っかく。
必死に飛ぼうと羽を震わせるエルアーダが、もう一枚の羽と共に攻撃手段である爪も尾も失った事に気付かない。
台座だけのカルターゴが、オブジェのように積み上げられている。
その上に乗せられたヘイズドラールの頭は、飾りのつもりだろうか。
頭が、口にあるべき下顎が存在せず、上顎に張り付いた歯を晒している。
明らかに研究職といった不健康そうな顔は、最期に浮かべた疑問の顔のままだ。
甚振られた者、ダーカーの群れに投込まれた者、切断、貫通、プレス、焼却、そして咀嚼。
骨にへばり付いたままの肉や、腸管や内臓が辺りに散乱し、怨恨を叩きつけられた人間の死体が何人もあった。
坑道の道の左右から、血は垂れ流れていく。
その音がポタポタと静かに響く。
犠牲は、敵だけではない。
両腕を失った。
装備の一切合財を失った。
今まさに殺戮に使用した凶器、愛器が、失われた。
自ら捨てた。
しばらくすれば財産も、アークスとして居る権利すら失うだろう。
殺す為に、気の赴くまま破壊する為に、自らの死を選んだのだ。
どうしてこうなってしまったのだろう。
悔やみ、過去に俯いた。
スピット本社のバドラスは緊張していた。
(友人を失う事になるかもしれない。)
(だが…それでも…)
首を振って最悪の考えを追い払う。
(しっかりしろ!…いくぜ。)
彼は、アークスでいう所の、「ささやき」に近い暗号通信を飛ばす。
「よう、今からクエストだな?」
(あぁ。)
再現度は低いながらも、いつもの冷たい声が返ってきた。
「最終確認だ。」
「今回使用許可を出しておいた兵器、『鬼子』、『4つのリミッター』、『SUVウェポン』に異常は無いな?」
(『鬼子』か…。奴は落ち着いている。)
(今後の廃棄に関する決心…とまではいかないが、選択肢は絞りこんだ様だ。)
(作戦に支障は出まい。)
(リミッターに関しては、前回の試験運転から触ってない。)
(SUVウェポンに使用する『手』は、開発者から受け取った所で、試運転していない。)
(だが遮断試験は充分な数字を出した。複数のPAにも耐えられそうだ。)
「おう。…ところでスカーフィ。」
「突然で悪いが、2つ程注意しておく。」
(これだけの兵器を持ち込むんだ。覚悟はしていた。)
(なんだ?)
「一つ。今回の『爆発物処理』、詳細が伏せられている。確実に乱入者が居る。その時は…」
(分かっている。出来る限り穏便にやらせてもらうさ。)
「も一つ。どうもこのクライアントオーダー、元々スピットに頼まれたものじゃないらしい。」
(なら何故、スピットのオレは、このオーダーをこなせと指示された?)
「知らん…すまない。」
(…まぁいい。お前が『知らない』というなら、『そういう』事だな。)
「んじゃ、今後どうするかは知らんが、節目のクエストだ。幸運を祈るぜ。」
(いってくる。)
「ふぅ…。」
バドラスは一息つく。
だが、彼の計画はまだ始まったばかりだ。
「鬼、悪魔、竜、機甲、生物兵器、ダーカー…殺し合いの役者は揃った。さぁて、イノセントナイル事件の再来だぜ…!!」
彼は立ち上がる。
友を失うリスクを犯してまで起こす、戦争の火種。
それは一体何の為なのか。
(たっぷり経験してくるがいいさ…!!)
「イノセントナイルの再来…?」
暗号通信を切ったと思わせて、盗聴を行っていたスカーフィ。
「…知る筈の奴がしらばっくれる時点で、臭いとは思っていたが…」
(人の事を言う権利はないが、奴まで罪人にはさせない。)
彼はそう決めた。
「だが奴が何をするのか分からなければ…」
思考が煮詰まった所で頭を振る。
とりあえず今やるべき事をこなそうと席を立った。
それこそが、事件を起こす切っ掛けとも知らずに。
決別の刻は近い。