お題が合えばですが。
お題「喋る○○」
ある日雨の降る日。
俺は一人の少女を拾った。
人間を拾うなんておかしいと思われるであろうが、俺は本当の意味で"拾った"のだ。
いつものようにバイト終わりの道を傘をさして歩いていると、彼女はそこに居た。
中学生くらいの女の子だろうか?
捨て犬や捨て猫と同じように電柱柱近くのみかん箱に入ったそれは、透き通ったサファイアのような瞳をしている。
例えるなら、そう、美少女。
そう例えるのが適しているような女の子だ。
彼女は長い黒髪を濡らし、ただ通りすがった俺を見つめている。
しばらくの間。
俺と彼女は見つめ合っていた。
何もない空白に耐えかねた俺が手を彼女の方に伸ばすと、彼女は静かにその手をとった。
こうして俺は、雨の降る日に一人の少女を拾った。
本当に自然な流れで拾ったのだ。
今冷静になって考えてみると馬鹿な事をしたと思っている。
面倒なことになると分かっていながら、いつの間にか手を伸ばしていたのだから仕方ない。
俺は、彼女を拾った場所から家に帰るまでの間、どうやってこの誘拐事件とも間違われかねない場面を切り抜けるかを考えていた。
10分ほど経ち、何もいいアイディアが浮かばないまま家に着いた。
自宅を通り過ぎて町内をもう一周くらいすればいいアイディアが思いつくだろうか?
いや、多分思いつかないだろう。
警察に行くことは勿論考えた。
しかし、ずぶ濡れになった彼女を連れて警察署に行くと危ない方向に勘違いされてしまう。
それに見たところ彼女は身分を証明するような物は持っていないし、彼女が誘拐されたと証言するだけで間違いなく俺は刑務所に入れられるだろう。
家のドアに手をかけながら考えていると、彼女は俺の心配を察する様子もなくただ不思議そうに俺を見つめている。
そのあどけなさに思わず考えることが馬鹿らしくなり、半ば諦めつつドアを開いた。
いつもよりはるかに重いドアの先には、いつもと変わらない我が部屋が広がっている。
しかしそれも今日までだ。
自分でも良く分からないが、おそらくこの日常とはしばらくの間おさらばになるだろう。
そんな気がする。
彼女を部屋に招き入れると、ずぶ濡れの彼女を着替えさせる。
年頃の女の子の服など当然持っているわけなく、自分のスウェットを着せることにした。
ぶかぶかだが、ずぶ濡れの服をずっと着せているわけにもいかないだろう。
「あっー……と。
スウェットでよかったかな……? 」
尋ねるも、彼女は答えない。
五分待てども十分待てども彼女は口を開かない。
ただ真っ直ぐに窓の外を見つめているだけである。
「あの、名前とかは……?」
彼女はその声に反応すると、こちらを見つめた。
しかし、何も喋らない。
もしかしたらこれは、彼女の意思表示なのではないか?
「えっと、何か喋ってくれるとありがたいんだけど…… 」
彼女は黙って俺を見つめている。
察しろということなのか、俺が発した言葉を理解していないのか。
「うん、あー……
言いたくないならいいや。
取り敢えず『うみ』って呼ぶよ。
『雨』に『美しい』と書いて雨美。」
俺を見つめる瞳が、そんな雰囲気を醸し出していたのでそう呼ぶことにする。
彼女はしばらく俺を見つめていたが、一瞬だけ考える素振りをしてまた視線を窓へと戻す。
おそらく彼女は言葉を話すのが苦手……または話せないのであろう。
ここまで頑なに言葉を発しないのはそういうことなのだろう。
そう納得しないと俺の心がもたない。
とすると、彼女の過去に秘密があるのだろうか。
もしそうだとしたら……いや、もしそうだとしても首を突っ込むべきではないのだろう。
女性の過去を詮索する男は嫌われると相場が決まっている。
だが俺は多分、いずれ首を突っ込むのだろう。
彼女に言葉を発して欲しいから。
会話をして欲しいから。
言葉が多くのものを奪うのと同じで多くのものを救ってくれる。
俺がそうだったように、彼女にも知ってほしい。
喋る喜びを。