雑書 4 連載版   作:ふしどり@すずめ

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お題「信号」


いつはやると思っていました

 俺が雨美を拾って一週間。

未だに雨美は一言も喋っていない。

何度も話しかけているのだが、不思議そうな顔でこちらを見つめるだけだった。

 

「はぁ……

 流石に根負けするよなぁ……。 」

 

テレビを見る彼女を後目に俺は独り言を呟いた。

どうやらその独り言は彼女に聞こえていたようで、彼女はテレビから俺に視線を移し、不思議そうに俺を見つめた。

まるで『なんでこの人は疲れた顔をしているのだろう』と言うような目で。

 

「あー、うん、何でもないよー。

 ただちょっと俺のコミュニケーション能力の無さに落ち込んでるだけだよー。 」

 

 そう言うと彼女は何かを納得したようにテレビに視線を戻した。

俺が言ってることは伝わってくれているようだ。

喋れないだけじゃなく、俺の言葉も理解できないのではと最初は不安だったものだ。

 

「いつまでも落ち込んでないで洗濯でもするかー……。 」

 

 そう言って立ち上がると呼び鈴が鳴った。

雨美もそれに気づいたようで、ドアの方を見つめている。

 

 宅急便か何かだろうか?

はいはいとやる気のない返事をしつつドアを開ける。

するとどうだろう、宅急便とは程遠いサプライズが待っていたではないか。

 

「涼くん来たよー。

 生きてるか怪しかったから食料買ってきたよー。 」

 

 全体的にふんわりとした雰囲気の女性がドアの向こうに立っていた。

手には近所のスーパーで買ったと思われる野菜や調味料が入っている。

 

 彼女の名前は静香。

俺の幼馴染で小学校から大学まで同じだった腐れ縁だ。

大学卒業後も料理を作りに来たり部屋を掃除に来てくれたりと何かと世話になっている。

 

 正直食料の消費が二倍以上の速度になっていたので食料支給はありがたい。

しかし、このタイミングでの来訪は非常に危ない。

 

「いやぁ、ごめんね最近来れなくて~

 仕事がいっそがしくてさ~。 」

 

 など言いながら部屋に上がってくる。

まずいじ、今俺の部屋には雨美がいる。

この状況を静香が見たら何をされるかわからない。

 

俺は相槌を打ちつつ居間へと続くドアの前に立ち、彼女の進軍を防ぐ。

雨美が静香に見つかることはどうしても避けたい。

 

「涼くん?

 どうしたの? 」

 

 静香は不思議そうな顔で俺に尋ねる。

そりゃあいきなりドアの前に立ちはだかったら不思議に思われる。

 

 

「あー、うん。

 あの、ちょっと今散らかってって……。 」

 

「あー、そんなこと?

 大丈夫大丈夫、散らかってるのはいつものことだし私が片づけてあげるからー。 」

 

静香はそう言うとドアに手を掛けようとする。

今日だけはその女神のような発言が悪魔のささやきに聞こえる。

 

「あー!!

 あ、あの、あのちょっと今忙しくてだな……! 」

 

 彼女が部屋に入る前に言葉を紡ぐ。

こういう時は忙しいと言うのに限る、

きっと静香なら間に受けて帰ってくれるはずだ。

 

「えー、そうなの?

 じゃあ仕方ないかな……

 取りあえず買ってきた物はここに置いておくね。 」

 

 そういうと静香は手に持っていたビニール袋を地面に置いた。

よかった。どうやらわかってくれたらしい。

さすが俺の幼馴染だ。

 

 そう安心した瞬間。

突然後ろのドアがガチャリと音を立てて開いた。

その瞬間、背筋が凍る感触がした。

 

 犯人は静香ではないし、もちろん俺でもない。

とすると候補者は一人しかいない。

 

 恐る恐る後ろを振り返るとそこには案の定雨美が立っていた。

不思議そうな顔で俺と静香を交互に見つめている。

 

「りょ、涼くん……?

 そ、その子は誰……? 」

 

 静香が俺に尋ねる。

見つかってしまった。

おそらくどう答えても無駄だろう。

「そこら辺で拾いましたテヘペロ! 」とか言っても信じてもらえそうにない雰囲気である。

 

「涼くん……いつかはやると思っていたけど……。 」

 

 幼馴染に言われると結構くるものがあるが、今更だろう。

取りあえず何か弁明しておかなかければ俺の身柄が危ない。

通報でもされたらシャレにならない。

 

「あー、うん、あの。

 い、従妹だよ! 」

 

「涼くん、従妹に年下いないよね? 」

 

「あの、違う間違えた。

 親戚の子で……。 」

 

「私今までそんな子見たことないんだけど? 」

 

 まさかこんなところで幼馴染という属性が仇になるとは。

小さいころからずっと一緒にいたので、お互いのことはだいたい全部知っている。

だから俺に年下の従妹がいないことも、親戚の子で女の子がいないことも全部バレている。

万事休すだ。

 

 俺が諦めて全てを白状しようしたとき、後ろにいた雨美が急に居間の窓へと走っていった。

もうそんな時間か、と一人納得していると、静香が俺の頭を強引に掴み、こそこそと訪ねてくる。

 

「ねぇちょっと。

 あの子何してるの? 」

 

「あぁ、午後三時になるといつも窓から外見るんだよ。

 外っていうか……空?

 一時間くらいずっと……ていうか痛いから手離してくれ。 」

 

静香はへー、そうなんだと納得しながら俺の頭から手を離す。

そして一言。

 

「宇宙人なんじゃない? 」

 

 見ず知らずの子をいきなり宇宙人呼ばわりできる彼女を俺は少しだけ尊敬する。

多分俺には一生たどり着くことができない境地だろう。

 

 しかしまぁ、あながち間違えじゃないかもしれない。

宇宙から地球の調査のために派遣された宇宙人で、三時になると母船から命令信号が飛んでくる……とか。

 

そんなよくわからない妄想をしながら、俺は結局静香の説教を聞くはめになるのだった。

 

 

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