私の事について説明する前に、この世界について。
此処、私達が『スタンダード次元』と呼んでいるこの世界とは別に、3つの世界があり、それらの世界でもスタンダード同様にデュエルモンスターズが盛んだけど、其々の世界で独自に発展した召喚方法がある。
その内、私達『エクシーズ次元』で発展した召喚方法が『エクシーズ召喚』、さっきの公式戦で見せた召喚方法ね。
他に『融合次元』で発展した召喚方法が『融合召喚』、『シンクロ次元』で発展した召喚方法が『シンクロ召喚』。
其々の召喚方法(スタンダード以外)の名前が付いた世界同士が接触する事は今までなく、其々が独自の文化を築いていた。
その状況が変わったのは3年位前の事だったかな。
突如エクシーズ次元に、融合次元のデュエリスト達が大挙して侵入、デュエルを仕掛けて行っては、破った相手をカードに変えたり、殺害したり、その過程で建造物を破壊していった。
私達が住んでいた都市『ハートランド』もまた例外では無く、私にとって身近な人達が次々と融合次元の連中の餌食となって行った。
私の両親も、私が恋い慕っていた『双子の弟』、
『姉ちゃん!此処は僕に構わず逃げてくれ!早く!』
『何馬鹿なこと言っているの、遊児!私も戦う!姉としてデュエリストとして、遊児を放って逃げる訳には行かないわ!』
『良いから逃げてくれ!父さん、姉ちゃんを頼む!』
『分かったぜ、遊児!さあ遊香、こっちだ!』
『遊児!?遊児!?嫌!放して、父さん!』
今でも、ふとした瞬間に思い出してしまう。
遊児が融合次元のデュエリスト達に単身立ち向かって行った、あの光景を。
私を逃がすべく、父が外へと連れ出して、身を挺して敵に立ちはだかった、あの光景を。
そして、
『これ、遊児のヴォルカニック・バーンデッキ…』
『それに、母さんのエヴォルドデッキに、父さんの炎星デッキ…』
『嘘、だよね?父さんと母さん、遊児が、そんな…』
『い、嫌ァァァァァァァァァァァァァァ!』
嵐が過ぎ去った後に残っていた物は、家族の皆が使っていたデッキだけだった。
私はあの日、大事な存在全てを失った。
けれど私には、失った悲しみにくれる暇すら与えられなかった。
『まだネズミがうろちょろしていたとはな。丁度良い』
『っ!お前達が、お前達が皆を!』
残党狩りと称し、ハートランドに残っていた融合次元のデュエリスト達との戦いの日々が、始まった。
そんな時、
『ブレイズ・キャノン―トライデントの効果で、モンスターを破壊し、500ポイントのバーンダメージ(ズギャァァァァン!)え…?』
『ギャァァァァァァ!?』
あの時は偶然、遊児が使っていたヴォルカニック・バーンデッキを使用していた。
そんなデュエルの最中、ブレイズ・キャノン―トライデントの効果でバーンダメージを与えようとした時の事だった。
ブレイズ・キャノン―トライデントの砲撃が、相手の腹部をごっそりと抉り、相手はそのまま死に絶え、デュエルも相手の遅延による反則勝ちとなった。
此処スタンダード次元には、質量を持った映像『ソリッド・ビジョン』というシステムによって、実際にモンスターやフィールド魔法を実体化させる事は出来るし、エクシーズ次元にもモンスターの立体映像を映し出すシステムは存在する。
融合次元の連中だって破壊行為に、実体化させたモンスターを用いている。
けれど、あれ程の殺傷力、いや、破壊力には遠く及ばなかった。
なんと表現すればいいのかは分からないけど、私があの時使ったのと、今挙げたそれとは根本的に違うと言って良いかもしれない。
どんな力による物なのか、今でも分からないけど、手掛かりらしき物はある。
『わ、私?私、なの?』
デュエルの最中にブレイズ・キャノン―トライデントの砲撃で相手を殺害した直後、ふと側にあったカーブミラーに映った私の、『髪と眼が赤く染まった』私の姿が目に見えた。
と思ったら、髪は元の白髪に、目も黒目へと色を戻していった光景が、目の前で繰り広げられた。
そして、私の感情が高ぶったり、相手を殺害するという意志を固めたりする事で、髪と眼が赤く染まり、あの時の現象を再び起こせるようになった。
つまりこれは、私の感情とか思考がキーとなって発動される、いわば超能力みたいな物、カードの力を具現化して物理的な干渉を引き起こす超能力なのかもしれない。
その力の使い方とかさえ分かれば後は簡単だった。
カードの力を具現化させて、ある時は連中を狙撃したり、ある時は爆弾を投げ込んで一網打尽にしたり、ある時はデュエル中に殺害しつつ遅延行為による反則を誘発させたり、つまりはテロ行為ね。
無論そんな事を短期間に繰り返したら連中にマークされるのは明白(実際、今日の相手には私の二つ名らしき物で呼ばれたし)なので、対策を立てるべく思案していた時の事。
エクシーズ次元、それもハートランドの英雄として名が知られている『
オービタル7の高性能振りを語る上で最も重要なのが、時空停止機能。
光子制御によって時間の流れを操作し、所有者と対象の時間の流れを10000分の1程度にまで遅く、うーん、分かりやすく言うならクロックアップね。
この機能があれば、周囲に察知されずに事を成せる、そう思った私は設計図を基に必要な機能を絞り込み、試作ロボットを改造、苦心の末にネックレス型端末『オービタルX』を作り出す事に成功した。
流石に天城カイトの様な凄まじい位の知能は私に備わってなくて、どうしても必要だった時空停止機能しか備える事が出来なかったけど、代わりに普通のネックレス程の大きさに縮小する事に成功、更にある程度の省エネも達成して、連続での使用にも耐えられる様になった(とは言っても、太陽光を丸1日浴びた状態で、最大30分が限度だけどね)。
流石に融合次元の連中を射殺しているのがどんな奴か、というのは隠ぺいし切れなかったけど、オービタルXのお蔭で、それが私であるという事は未だ割れていない。
それによって油断さえしなければ正体が明かされない、という状態でテロ行為を繰り返していた、そんな或る日の事だった。
『ネズミ共がスタンダードに逃げ込んだらしい』
『なんだと?スタンダードの連中など敵では無いが、ネズミ共が逃げ込まれたとなると厄介だな…』
『上からの話だと、元よりスタンダードにも攻め込むらしい。その斥候として何人か既に送り込まれている様で、そいつらからの情報だそうだ』
何ですって!?エクシーズ次元だけじゃ飽き足らず、スタンダードまで手に掛けようと…
激昂した私はそいつらを何時も通り射殺しつつ、その残党たちが使ったらしき転送装置の在処を探し回って見つけ出し、無事スタンダート次元に辿り着いて今に至る、という事。
此処は、荒廃したエクシーズ次元とは違ってまだ戦火は回っていない、逆に言えば治安組織が機能している以上、砲撃によるドンパチは出来ないという事。
故に私は融合次元の連中を、オービタルXの時空停止機能『封絶』によって『デュエル中の誤作動によって射殺』する、この方針でテロ活動を続けている。
私の家族を、恋い慕っていた存在を奪い取った事への恨み、憎しみは当然ある。
今でもその事を思い出すだけで、憎悪がふつふつと湧き上がって来る。
同時に、
「ねぇ、遊児?もし、もし私が貴方に告白していたとしたら、貴方は受け入れてくれた?」
大切な人を失った悲しみ、あの時ああすればよかったという後悔、それらも思い出してしまい、つい『If』を想像して、いない筈の弟に問いかけてしまう。
なんで、この想いを伝える事が出来なかったの…
なんで、遊児を残して逃げたの…
なんで、なんで…
『たられば』なのは分かっている、そんな事をしたって両親は、遊児は戻って来ないのも分かっている。
けれど、私には頭では理解出来ても、心は未だ納得出来ていなかった。
私を愛してくれる両親、私が愛を捧げたかった遊児…
なんで、なんでこんな事に…
寂しいよ、辛いよ、寒いよ、父さん、母さん、遊児…!
けれど、いや、だからこそ、こんな辛い想いをする人をこれ以上増やしたくない。
こんな想いをするのは、私達で最後にしたい。
だから、今私がやっているのは『自衛戦争』。
此処に送り込まれた融合次元の連中を悉く暗殺する事で、暗殺者への恐怖感を植え付け、他次元へ攻め込む気をなえさせて撤退させるのが目的の『守る為の戦い』。
私に恐れをなして、融合次元へ逃げ帰るなら良い、それに深追いして侵入する気は毛頭ない。
融合次元にだって、罪の無い一般市民はいる、そんな人たちがいる場所に入ってドンパチをやらかしては、連中と同じ人種になる。
だけど、懲りずに攻め込むと言うのなら、手加減はしない。
今よりもっと残虐な手段を持って殺害し、その映像を送りつける等の『威嚇行為』によって恐ろしさを見せ付けてやる。
来ると言うなら、容赦しないわ、融合次元のクズデュエリスト達、そしてそれを統括している『プロフェッサー』