春。それは新しい季節。入学式だ。
桜の花びらが空を舞い、学校へと続く坂道を桃色に染め上げる。
だが、今俺の意識は桜では無くパンチラを求めている。
そして、先を歩く女子はミニスカである。だと言うのに…。
「帰りたくなって来ちゃったな」
桜の花弁の桃色にくらべる、俺の心は灰色だ。
新しい季節だの、ピンク色の坂道だの、そんなことどうでもいい。
「くそっ…!何でだよ。何でこうなるんだよ…っ」
「どうしたの?にー。
朝はあんなにウキウキだったのに。」
「妹よ…この絶望はお前には理解し難い物なんだ……。だが、聞いてくれるか?」
「うん。聞いてあげるよ」
ニッコリと微笑む双子の妹の聖母のような慈悲に甘えて、俺は心の内をさらけ出した。
「じゃあ、聞いてくれ…。何で女子は皆スカートの下に短パンを履いているんだ!!?
俺はこの坂の下から毎朝パンチラを見ながら登校するためだけに、この伝統だけで何の取り柄もない学校に入学したのに!!」
「うわ~やっぱり聞かなきゃよかったかも。」
「毎朝勉強したんだ!!!ノイローゼになるほど!
物を見るたびに名前が漢字で浮かび上がるほど書き取りしたし、数字を見るたびにそれ以下の数字の素数の数が分かるほど計算したし、学校で習う薬物は全部教科書無しで調合出来るようになった!!!世界史に出てくる全ての人物の肖像と名前と生年没年も覚えたぞ!」
「頑張ったねーところで効率って知ってる?にー」
「全ては坂の下からパンチラを見ながら登校するために!!それなのに…っ!!!
見渡す限り短パンと野郎のケツ。俺が見たかったのは、こんな絶望の光景じゃねえ…っ」
「よーしよし、レナさんが慰めてあげよう。にーは頑張ったねーなでなで」
「もう俺帰る…家で自宅警備員の試験受ける」
「ニートの試験って何するの?」
「親の涙や白い目にめげずにクズになるテスト。」
「ついでにレナさんも非難してあげるねー。」
妹に慰められて涙ぐむ自分…涙で視界が歪む。もう短パンすら見えねえ…。
「終わった…俺の学園生活。」
「新入生の皆さん。もうすぐ始業式が始まります。急いで体育館に移動してください」
女教師が体育館の前で生徒達に呼び掛ける。
これから校長だの来賓だのの似たような長話が始まって、在校生の挨拶だの新入生代表のアイサツが始まるのだろう。
生徒の大半は既に親しくなったクラスメイトとヒソヒソと話したりしていて、ハナから入学式になんざ興味は無い。
俺だってそうだ。学校だの社会だの、今時そんなものに真面目に参加する奴は少ない。
「ハア…まじ帰りてえ。」
どうやら兄妹そろって考えは同じようだ。レナも外を眺めるだけで、校長の話なんて聞いちゃいねえ。
《校長先生、ありがとうございました。続きまして、来賓の皆さまからご挨拶を賜りたいと思います。》
何となくレナの見ているものが何なのかとか考えてみた。
アイツの目に視えている景色が何なのか。兄弟とはいえ他人の考えとか、そいつの目に世界がどう映ってるのかとか、マジで考えてる俺は、シャレにならないくらい暇人だろう。
レナは『出会った』時から剣道をやっていて、中学で三年連続全国制覇した天才美少女剣士とか呼ばれるやつだが、俺には何も無い。
打ち込む趣味も、人に褒められる才能も、何にも無く、暇なだけだ。女子のパンチラ追いかけるくらいしかない。それも短パンによって全て潰された。おのれ短パン、許すまじ。
《それでは続いて、部活紹介に移ります。部の代表の生徒は、準備をお願いします。》
「なあ、レン。見てみろよ、水泳部。女子が水着で出てるぞ!」
「……俺はスク水よりパンツ派なんだよ」
隣に座っていたスク水フェチの旧友その1。鈴木はやたら目を輝かせている。
「うむ!あの部長。実にケシカランおぱーいであるッ!!」
一方その隣では、寺の後継ぎであるおぱーいマニア。旧友その2、朝倉が1人自己主張の激しいおっぱいに興奮していた。
「けっ!この変態共が…」
ポカッ!
「にーが言うなー」
後ろにいたレナに殴られた。外を観るのに飽きたのかこいつ。
「お前、さっきまで何見てたわけ?」
「ん~?滅びのバーストストリームだよ?」
「え?何ソレ」
「さっき空に上がったんだよ。ドカーンって。多分誰かがデュエルしてるんだね~。
レナさんも参加したいっ!」
「えーマジで?誰かバックれてんじゃんそれ!」
「ゴホン、ボイン。しかし『滅び爆裂疾風弾』とは、また無駄に使い辛い魔法カードであるな。
世界に三枚しか無い『青眼の白龍』も今は昔。世界中から消息を絶った幻のレアカード専用カード。
ダイアモンドガイでも無ければそも発動不可能という存在意義を疑われたカードであると言うのに。
通か?」
「違うよ。アレ、魔法カードのバーストストリームじゃ無い。
本物のブルーアイズのバーストストリームだよっ」
「何?そんなはずはなかろう。第一何故分かるのだ。ボイン妹?」
「中学の時、めちゃくちゃバーストされたもん。」
「・・・・・・・・・」
「ほむん、ボイン。なるほど。フカシであるか」
「フカシてないよ!!」
「いやいや~レナちゃんや。幻のレアカードを持ったデュエリストが身近にいたとかーちょーっと盛り過ぎっしょw」
「ぶー本当なのに~ブルーアイズを倒したことだってあるんだよ!……デュエルは負けたけど」
「そーいやレナちゃんデッキ何系?」
「ふっふっふ~レナさんデッキは戦士族統一のデッキなのだ!」
「・・・・・・・・・」
「何でドヤ顔?」
「ふむん、ボイン。戦士族と聞くと『真六武衆』の悪夢を思い出すのう…」
「それあるわ~ってかむしろそれしかないわ~
ありえないっしょーアレ。何で『真』付いただけであんなガチ化しちゃったわけ?
あそこまで露骨だと最早『六武衆』ただの落ちこぼれレベルまで要らない子じゃね?」
「まったく同意じゃ。拙僧、ぶっちゃけ最初『真』なんて只の名前じゃと思うとった。
なのにフタを開ければなんじゃアレ。絶望のあまり気を失いそうになったわい」
「そんなこと言っちゃかわいそうだよ~カードは全部必要な役割が出てくるんだよ。
環境次第で(ボソッ」
「「身も蓋もねえ!!!」」
そんな無駄な話をしていると、部活紹介の部で、聞きなれない部活名が聞こえた。
《続きまして……えっと……『でゅえる部』?の紹介です。部長の坂上みくさん。お願いします。》
「……デュエル……部…?フリント・ロック銃でも撃つのか??」
欠伸を噛み殺しながら檀上を見ると、カチューシャをした美少女が出てきた。
《待たせたわね新入生!!あたしがあなた達が入るべき『でゅえる部』の部長、坂上みくよ!!
我が部は優秀な部員も、無能な部員も分け隔てなく迎え入れるわ!
何にも心配なんかしないで、黙ってあたしに付いて来なさい!
そうね、新入部員の中で最も優秀な者は、あたしから直々にご褒美をあげてもいいわ。
放課後入部届けを持って部室に来なさい。我が部の雑用が強さを測ってあげる。それから――》
ただ、パッと見美人なのに、何か残念なオーラを感じる。
「ほむん…それは察するにおっぱいぱいが断崖絶壁だからではないか?戦闘力5のゴミだな」
「自然な流れで人の心を読むんじゃねえ、生臭坊主」
「これは異なことを。迷いを抱く者に対して悟りの手を差し伸べるのは坊主である拙僧の天命である」
「煩悩の塊が悟りを語るな。」
「おっぱいとは宇宙の真理と見つけたり。
小賢しい知恵で理性を封殺した賢しい『つもり』の莫迦猿(イエローモンキー)には、この真理は分からんのですよ」
「とても坊さんの吐く説法(ねごと)とは思えねえ言葉(ざれごと)だなオイ……」
「あははっ。にーも言外の本音が隠し切れて無いよ~」
《ちょっとそこの新入生!!私の有り難い挨拶を無視してんじゃないわよ!!》
「「「へ?」」」
いま何かマイク越しで誰かに話しかけられたような…?
《しかも今、私の身体的なごく一部分に対して言っちゃならないことを言ってなかった……?》
「……マジかよあのでゅえる部部長。
檀上からマイク越しで、初対面の相手に堂々と喧嘩売ってやがる。しかも部活紹介で」
「ほむん。ボイン。なんとも度胸の据わったご仁よ。あの人を寄せ付けぬ断崖絶壁の無いムネには、拙僧らが及びもつかぬ器のデカさを備えておるのやもしれんな。パイおつは小さいが。おっぱいパイは小さいが。大事なことなので(ry」
「上等じゃないの!!この私に喧嘩売るなんて良い度胸してるわね!!登って来なさい!赤髪の一年!!」
入学早々から物凄いことになったな。朝倉。
言いながら坊主用に髪が反られた頭を撫でる。
「あれ?今あの女、赤髪って言わなかったか…?お前ハゲじゃん」
「ほむん、ボイン。確かに赤髪と明言したぞ。拙僧は…見ての通りベリーショートである。ハゲとか言うな」
「じゃあレナか?」
「レナさんメジャーな金髪ポニーテール。それに…レナだって一応女の子なんだよ?」
「じゃあお前か鈴木。そのロン毛」
「えぇ?オレ呼ばれちゃった感じ?
檀上上がるとか初体験だわ~でもやっぱ違くね?
オレっちずっとスクミズの先輩達観ててぶっちゃけ今何起こってんかわかんねーべ?」
「じゃあ一体誰を……」
「アンタよ、アンタ!!」
「ダレヲヨンデルノカワカラナイナー」
見上げた空は快晴。きっと今日も良い1日になるだろう。女子は全員短パンだったけど、明日こそはパンチラが見られると信じて今日と言う素敵な1日をーー
「無視してんじゃ無いわよ!!」
目の前に残念美人の顔がどアップで出て来た。
見れる顔してたのが救いだな。ブサだったら顔パン確定だぞこの距離。
「何ですかセンパイ。
部活説明しないんですか?」
「このあたしが直々に説明してやってんのに私語なんかしてる
「誰が
「ほむん、ボイン!その通り!!Cカップ以下は女に在らず!無いムネに勃たせる ピー は無い!豊胸して出直してくるがいいわ!!!」
「……いや、俺そこまで言って無い」
「ムッキィー!!!上等じゃない、そこまで言ったからには死ぬ覚悟くらい出来てるんでしょうね!!?」
「ほむん、ボイン!当然である!何を隠そうこの男、クリスマスに巨乳と付き合っていたリア獣をひたすら狩ることによって黒かった髪が真っ赤に染めた
赤髪のレンと呼ばれた男よ!!!」
「ねえよ!そんな経歴!!ヘアカラー染めだバカ野郎!!」
「な、何ですって……あの伝説の血色のサタンクロース作戦を実践した猛者がいたって言うの!」
「テメェも何言ってんだ糞アマがぁっ!!!」
「そこまでの猛者だったと言うのなら、尚更あたしの下僕として調教しておかなくちゃね!あんた、あたしとデュエルしなさい。あたしが勝ったら、あんた、あたしの奴隷よ」
壇上の美人がちょっと残念だなと思ってたらいつの間にか俺、奴隷にされそうになってやがるんだが。
「おお~レナさんのにーが、高飛車な女の奴隷にされそうになってる」
「つかレナちゃん。オレら置いてけぼりじゃね?寂しいわwww」
(……だったら替われや、コラ)
「デュエルは明日の放課後!部室に来なさいよね。逃げたら死刑だからね!!!」
「そんなもん行くわけーー」
「「「おおー!いいぞ坂上ー!!」」」
「負けんなよいちねーん!」
「明日見に行ってみよーぜ!」
パンチラ目的で長く高い坂があるだけの伝統校に入学したレン・ファムグリットは、女子が全員スカート下に短パンを履いていたことに絶望した。
更に新入生部活紹介で残念な美人部長に絡まれたレン・ファムグリットは、己の人間としての尊厳を賭けて、全校生徒の前でデュエルをさせられることになったのだが……?
「……カードが無い」
「「「は?」」」
放課後、ただでさえ長ったるいだけの坂を足取り重く降る一行の足を完全に止める発言が出た。
「ほむん…どういう意味じゃ?巨乳モンスターで組んだデッキでなければ嫌と言うことか?」
「言葉通りの意味だ生臭坊主。あと巨乳モンスターって何だ」
「ほむん…BMGを筆頭にした一切のシナジーと戦略を否定し男の欲望のみを肯定したハーレムデッキである。作り方はまず…」
「いらん。そんな戯言。」
「カードが無いって割りと聞くけどさ~案外押し入れとかに当時のデッキとか漬け込んでたりすんじゃん?発掘してみればいんじゃね?」
「ねえよ」
「諦めるなよwどうしてそこで諦めりゅー……かみまみた」
「お前ら全員、何で俺が遊戯王カード持ってたテイでナシ進めてんだよ」
「「「ハハハーそんなの遊戯王だからに決まってるじゃん」」」
「何その初心者殺し。超理不尽じゃねーかコラ」
「ほむん。だがしかし、本当にカードが無いならば仕方がないな。明日、水泳部の更衣室に忍び込んでキャメラを仕掛けてこようと思っているのだか、同行せんか?レン」
「……そうだな、たまには良いか。侵入経路はどうなっていrーー」
「ダメだよ。にーはこれからレナさんとお買い物行かなきゃだもん」
急に腕を捕まれてバランスを崩したレンを抱きしめるレナ。
「買い物だぁ?何か切れてたか?冷蔵庫の中身は昨日俺が買い足ししたし、トイレットペーパーの特売は明後日だぞ?」
「うわー…カードゲームの主人公が滅茶苦茶所帯染みてるとか引くわwいや、良いことだけどもさ」
「ほむん…不良が家事に精通しているとは、これはアレじゃな。ボインな女子のハートとパイおつをわしづかみにするための策略であるとみた」
「テメーら全員頭割るぞ。あとレナもいい加減離せ。その無駄な脂肪が俺の顔を圧迫してんだよ」
心底メンド臭そうな表情で頬に密着しているレナの胸部を手でどかすレン。
「ほむん…相変わらず何ともケシカランパイおつであるな、ファム妹よ」
「えっへん!レナさんはナイスバディーなのだ!ボォーン、キュッ、ボーン!」
「げへへへ…姉ちゃんエエカラダしとるのお…」
「あ、おさわりはNGで~」
「フフフ。良いではないか良いではないかー」
「あははは~つかまえてごらんなさーい」
「いつもどーりの下校風景なー。レン」
「そうだな。中坊の頃から大して変わりゃしねえ……」
「大きな変化って制服とレナちゃんの胸ぐらいじゃね?ぶっちゃけどうよ、兄としてあの成長ぶりは?」
「カラダはもういいから、脳ミソとか中身とか磨いてしいな。真剣に。
部屋の中にはなんかよく分らんモンスターのフィギュアがあったり、脱いだ服は脱ぎ散らかすで、片付ける身になってほしい」
「……何か、だんだんレン君のヤンキーっぽいイメージが崩れてきたんだけど…」
「ああ?俺がヤンキー?何でさ」
「いや、だって髪赤いし、しゃべり方アレだし、喧嘩上等って感じじゃん?
あと、暴走族が着るような服とか持ってんじゃん?」
「特攻服か?アレ着るとバイクのエンジンが調子よくなるんだよ。もう5年の付き合いになる」
「僕たち、ついこないだまで中学生だったんですけどね……」
いつも通りのメンバーで、いつもように他愛もない話をして。それが日常。
(これからも変わらずに続くんだろう。きっと、いつまでも……)
「っと、さあみんな!!到着だよ~!!」
「……ん?どこに着いたって?」
「ほむん、お主ついさっきあの残念美人に喧嘩売られとったの忘れたのか?」
「あと、アレじゃん。戦うためには武器がいる。的な?」
「どういう意味だ?」
「だから、今日はここに来たんだよ!」
レナが指さす方向を見上げると、そこにあった看板は
カードショップ――ATM
「………銀行?」
「じゃなくって、カードショップ。だよ!」
「お主、本当に遊戯王やったことないんじゃのお。
ちなみに、ATMの読み仮名はアテムである。何の略かはその内分かれ」
「いらねえよそんな情報。」
「はいはい。まずは中に入ろうよ!こんにちわーレナさん他三名様でーす」
「他とは何だコラ……ってか、買い物ってこれのことか」
「いらっしゃいませYOー無駄乳女と坊主とチャラ男ご来店アルー」
レン以外の三人が入店すると、店員とは思えない言い草でレジの奥にいた中国人女性が出迎えた。いきなり毒舌の中国人が登場したことで、若干店の治安に不安を覚えたレンだけは、ショーウィンドウのカードを見るだけに留まった。
「久しぶりだね、
「ええ、ゲンキだったヨ。そのサイコーにムカつく乳袋の脂肪見るまでわネ!!
ワタシあなたに言ったはずネ!次会うまでにその牛乳そぎ落として来いト!!」
「ほむん。ボイン!!そのような暴挙、仏が許容しても拙僧が許さんぞ。まな板チャイニーズ!!!
断崖絶壁など女子に非ず!!!」
「ヨロシイ、戦争ヨ生臭ボウズ!!」
「ハア……何であいつは次から次へと騒ぎを起こすんだよォ」
「さあ?譲れないものとかあるからじゃね?火種のレナチャンが全く気にせずカード見に行ってるけどね」
中々店に入らないレンを迎えに来た鈴木が、ヘラヘラと笑いながら答えた。
「あいつら実は側にいないほうが良いんじゃねえか……」
「グンバツでDQNっぽいレン君がマジで一番苦労してるって図は好きだよオレwwまあ…時々同情するけど。
ほら、まずは店入るべ?」
「ああ、そうだな。
いつまでも放っておくと本当に
「オラ、その辺にしとけや朝倉」
話で事態を収めるのが面倒だったので、軽めに蹴り飛ばして強制退場させる。
「ギャフン!!」
「ギャフンって…マジで言う奴はじめて見たぞオイ」
「あ、アイヤー!
どちら様アル!??この不良は!?
いきなり攻撃したアル!」
「紹介するね、
この人はレナさんのお義兄さんのレン・ファムグリットさんです。
趣味は夜遊びで好きな物はお酒。愛用してる煙草の銘柄はーーあ痛ッ!?」
「人の個人情報を駄々漏らすんじゃねぇ!!!
あと最近まで受験勉強に缶詰めだったから夜遊びはしてねえよ」
「あww他はやってるんだ。夜遊びだけはギリ警察に逮捕されない可能性があるラインなのに。
ソコだけ止めちゃったかぁ…お酒とタバコは二十歳になってからっしょ」
「うぅ…いつもはクールなフリしてるけど、気に入らないことがあるとゲンコツしてくる手の早い
にーです…」
「ど、どっからどう見ても不良アル!この店には渡せるようなお金は無いアル!!店長が稼ぐ度にバクチでスって来るから毎日スかんピンアルよ!!?」
「ーーろくでもねえ店だなオイ!?」
「ヒィィィィー!!不良が怒ってるアル!ワタシ、ぺたんこダカラ何処にも売れるとこ無いアルよぉ!?」
「こっちのチャイニーズ姉ちゃんは身の保身のためならコンプレックスすら武器にするんだね…」
「……ほむん、ボイン。た、たしか…に。断崖絶壁に…出すお布施など………ガク」
「……ヒィィィー(ガクガクガクガク)」
「うぅ…あたま痛ぃ」
「……オイ、どうしてこうなった」
「コホン。改めまして、こちらは
「お友達じゃないアル。
あなた、ワタシの敵アルよ!」
「だってよ?レナ」
「ヒィッ!?で、でもワタシ悪い子じゃないアルよおニイさん?虐めないでほしいデスよぉ…!!」
涙目になりながらレンと距離をとる飛娘。
立っているのも精一杯なようで、凄まじく怯えている。
「オイ何で俺こんなビビられてんだよ?若干ウザいんだけど」
眉を潜めながら、頭を掻きむしるレン。
「ご、ごごごごメンなさいー!」
「あのね、にー。
飛娘ちゃんは、子供の時に怖い人達にお金で売られて来たの。だから、暴力振るう男の人が怖いの。だから苛めないであげてね?にーは只でさえ顔怖いんだからね!」
「………あ?怖い??」
「ほらーまた怖い顔する」
「うぅ…おっかないアル……っ」
いつの間にかレナの後ろに隠れていた飛娘が一層怯えている。
「……なぁ、レナ」
「なぁに?」
「俺、顔怖いのか?」
「うん!」
満面の笑みで返されると、レンは二人から少し離れた場所にあるテレビの方へ歩み寄った。
「あれ?にー何処に行くのー?」
「………結構凹むな」
「あー…ごめん、ごめんね?にーがまさかそんなに繊細だとは」
「下着脱ぎ散らかして兄に洗濯させる女に比べりゃ、誰だって繊細だバカ野郎…」
「落ち込まないでーほーら、よしよし。撫でなで~あ、ほらほら、テレビやってるよ~」
「ほむん…もしやこれは、前回の前々回の大会の映像ではないか?
確か、大会優勝者とディフェンディングチャンピオンが戦うという」
「お~この店大会の映像なんか流してんの?
……あれ?つーかこの人って、伝説のデュエリストとか言われてる人じゃね?」
「お客サンお目が高いアル!
この人はまさに真のデュエリストに相応しいアルヨ!!
大会中に完全試合を幾つも決めたり、フィールドにあの『青眼の白龍』を三体揃えてみたりしたヨ!」
伝説アル!!」
「……伝説?」
「うん。そうだよ。
にーの大好きな『伝説を残した人』だよ」
「………」
レンの視線が大会中のデュエルに向けられた。
《いかにキミが伝説のデュエリストと言われていても、ここからの逆転など不可能だろう!
ついにこの私が伝説になる時が来たのだ!フハハハハハ!!!!》
テレビの中の対戦相手は、勝利を確信していた。
場に存在しているのは 『幻獣機 ドラゴサック』 と 『幻獣機トークンが二体』
そしてリバースカードが一枚。
LP2700
一方、伝説のデュエリストの方は……。
場は空っぽ、手札が三枚。LP100
追い込まれている。
「なあ、レナ。これはピンチなのか?」
「………」
レナもテレビに見入っているのだろうか。レンの言葉にすぐには反応しなかった。
「…レナ?」
「………ん。なぁに?にー」
もう一度声をかけると、今度は反応した。
「これはピンチの状況なのか?」
「んーそうだね。『普通の人』には、少し厳しい状況かもね。」
「……そうか。あのリバースカードは、『奈落の落とし穴』か何かだろうか……」
「……デュエルは知らないんじゃなかったのかな?レン君」
「……自分のカードが無いだけさ。ダチから借りたカードでやってたことくらいは、な」
「そっか。じゃあよく見ててね。あの人の…ライアス・ヴァーレントのデュエルを」
「……ライアス・ヴァーレント、か」
《……俺のターン。ドローカード》
≪さあ、ここで歴戦のデュエリスト、ライアス・ヴァーレントのターンです。
過去から現在に至るまで、他の追随を許さないデュエルを我々に見せてくれた伝説のデュエリストがこの状況をどう覆すのか!注目のターンです≫
《フフフ…ありえないよ。ここから見られるのは彼が私の前に跪く姿だ!》
≪おおーっと、挑戦者-ロイド・マケルノーダ選手、ここで早くも勝利宣言だ!!
このセリフにチャンピオンどう応えるのか!?≫
《………》
≪あの~チャンピオン…?≫
《………手札から、モンスターを召喚。》
《フフフ…どうやらショックで口も利けないようだね。
無理もない。キミの伝説は今日、終わりを迎えるのだから!!
せいぜい最後のターンを楽しむがいい!》
《……チューナーモンスター『デブリ・ドラゴン』》
「チューナー?」
「シンクロ召喚のためのモンスターだよ。」
「シンクロ召喚?」
「うん。融合召喚とは異なる、モンスター同士の組み合わせで行える新しい召喚方法だよ」
「でも、チャンピオンの場にはあの鼻の長いドラゴンしかいないじゃないか」
「すぐに分るよ。よそ見してる内に見逃さないようにね?」
《『デブリ・ドラゴン』のモンスター効果発動。
墓地に存在する攻撃力500以下のモンスターを特殊召喚できる》
《フフフフ…何が来ようとも恐れるに足らず!》
《『ダンディ・ライオン』を特殊召喚》
「へえ、ドラゴンの次はライオンかよ。何か花みてえなモンスターだな。」
「だってタンポポだもん」
「――ああ、ライオンってそういう事か」
《さあ、シンクロしたまえライアス・ヴァーレント!》
《……レベル3の『ダンディ・ライオン』にレベル4の『デブリ・ドラゴン』が調和する!》
《ククク…レベル7でのシンクロモンスターなどたかが知れている。
『DDB』が良いところだろう。だが届かぬ!!私のライフは尽きぬ!!》
「ほむん。この後あんなカードが出てきたのも、こうして当時を振り返ると、この死亡フラグの乱立のせいだったのかのお……」
「いや、死亡フラグだけでああはならないっショ」
「……何だ急に?」
「まあ見ておれ」
「……?ああ。」
《約束はこの大地に、誓いはこの種に。結ばれた子種の邂逅は、未来を切り開く華を咲き誇らせん。
シンクロ召喚!!深紅の華竜『ブラック・ローズ・ドラゴン』!!》
この瞬間、会場に真っ赤な華竜(はな)が咲いた。
《な、なぁに…これ?》
《咲き誇るは血飛沫の
《ブ、ブラック・ローズ・ドラゴンだって!?何だそのカードは!??聞いたことも無いぞ!!》
《泣きわめいている暇は無いぞ。『ブラック・ローズ・ドラゴン』は大地に根付く命を養分とし、現世の全てをその身もろ共冥府へと誘う奈落の華。
場の全てのカードをシンクロ召喚時に破壊する!》
《く…だ、だが私の場の『幻獣機ドラゴサック』は、『幻獣機トークン』が場にある限り破壊されない!!
更に、リバースカードオープン!『禁じられた聖衣』!このカードの効果により、場に存在する『幻獣機トークン』を効果破壊から護る!これで貴様の目論見は外れた!!どこで手に入れたか知らんが、存在を知られていないカードであっても、効果さえ分れば対処は容易い!!》
《フン…その通りだ。どんなカードにも必ず対処方法は存在する。しかし、この世にはどうしようもないこともある》
《何…!?》
《カードそのものに対しては対処は可能だ。しかし、それを使うデュエリスト本人の力量の差は、一朝一夕には埋まることは無い。人が神にひれ伏すようにな……リバースカードオープン。
決して届かぬ境地にてその力は奮われる。さあ、天を仰ぐが良い――『超融合』!!!》
《融合……超、融合?》
《俺のデッキには、この地上に知られていない幻のレアカードが湯水の如く溢れている。
さあ、ここに至れ竜たちの始祖よ!!『始祖竜ワイアーム』を融合召喚!!》
《そ、そんな…融合素材なんてどこにも……!??
わ、私の『幻獣機トークン』が!?》
《貴様の場のカードを、融合素材として使ってやった。これで貴様の幻獣機は、華竜の開く冥府の渦に飲み込まれる》
ワイアームの召喚により対象を失った『禁じられた聖衣』は不発となり、『ブラック・ローズ・ドラゴン』の全体破壊効果が適用される。
自身の身を守る盾を無くした『幻獣機ドラゴサック』も耐性を失い、崩壊していく。
《ぐっ…だが!貴様の融合したワイアームも、その華に飲み込まれて…!!》
《竜の始祖たるは、この世に生きうる全ての存在の頂点であると同義であると知れ。
始祖竜はその膨大な寿命により得た知識と経験は、モンスターが得た全ての効果に対して対処が可能だ。
よって、『始祖竜ワイアーム』は、モンスター効果を受けない》
《そ……そんなイカれたカードがあるかァ!!!》
《落ちろ、驕り高き者よ。己が未熟さを恥じるなら、力を付けて奈落の底から這い上がって見せろ》
《――ッッ!?》
《終幕だ。『始祖竜ワイアーム』の攻撃。天解息吹波(ラグナロク・バースト)!!》
《おのれ…おのれェ……!!!必ず這い上がって――》 LP0
勝利目前で理不尽に敗れた挑戦者に出来るのは、心が潰れてしまわぬように、声を上げることだけだった。
「……なんだこりゃ」
大会の様子を見終わったレン・ファムグリットは、驚愕していた。
チャンピオンの戦術にでは無く、子供のころに遊びで行っていたデュエルの記憶とのあまりのギャップに驚いていたのだ。
「モンスターを召喚するモンスター?
場のカードを全て破壊する?
相手のターンに融合召喚?
全てが違いすぎる。俺の知っていた頃の遊戯王と……あの時のデュエルが、まるで、子供のじゃれ合いじゃねーかよ、オイ」
「びっくりした?にー
これが現代のデュエルだよ」
「ほむん。子供の遊びとは過去の話。
今となっては知識力、財力、運命力、発想力、洞察力、直観力、判断力。
おおよそ人が生きる上で欠かすことの出来ない全ての要素をプレイに要求される、云わば人間としての本質を試される競技である。
デュエルは子供の遊びと言う大人もおるが、子供の遊びなら大抵は大人が勝てるようになっとる。
しかし、これは子供が大人に簡単に負けるゲームだ。ゆえに興味深い。研鑽する価値がある」
「………人間力…か…成程なァ」
「にー?」
「………伝説…人間としての…
……………ああ、くそ。負けられねえじゃねえかよ」
その言葉がトリガーだった。レン・ファムグリットにとっては。
それまで、ここに来るまで一度も見せなかった、戦う男の貌を見せた。
「久しぶりだね。にーがそういう顔するの」
「うう……不良のオニーサン。益々怖くなたアルぅ…」
「ほむん。気合の入ったTSU☆PPA☆RIの表情じゃ」
「っべー顔してる、レン君ww
これアレじゃん?何かこれから学校戻って校舎のガラス全割してくるかんじだべ?」
「でもレナさん。こういう活き活きしたにーが一番好きっ。
これから楽しみだよ」
「さて、レンよ。先ずは何をする?」
「………決まってる。先ずは俺のいない間に増えたシンクロ召喚の勉強だ。」
「ほむん。見かけによらず、堅実じゃのお。慢心の無いその心意気が、ワシは気に入っておるよ。
協力しよう。ワシは最新召喚法として『ペンデュラム召喚』を教えてしんぜよう」
「んじゃ、オレは家からカードカタログ持ってくるべ。
今まで発売された公式カタログ全部もってっからさ~調べるなら役立つじゃん?
つーかエクストラ増えたのシンクロだけじゃねーしさ~」
「じゃあレナさんは、待ってる内ににーがデュエル出来るように新しい召喚方法をコーチします。
『エクシーズ召喚』を教えたげちゃおう。」
(伝説…俺がまだ知らない人間の境地……。
俺が興味を失った世界が、あそこまで進化を遂げているのなら、俺も……。)
こうして、自称平凡のつまらない男、レン・ファムグリットは、伝説のデュエリスト、ライアス・ヴァーレントのデュエルを見たのを機に、デュエルの世界に足を踏み入れることになる。
それが、自分の人生に幕を下ろすための、自殺行為だと知る由もなく。
「おもしれえ。伝説……上等だ」
翌日。
でゅえる部部長、坂上 みくが入学したての一年生とデュエルする。
その情報はたった一日で学園中に知れ渡り、なんやかんやあって場所が体育館ステージに変更されていた。
体育館のステージは着々と装飾が進められていて、体育館内にはすでに物好きな生徒たちで座席は満席になっており、更にどういうわけか、体育館内を埋め尽くす勢いで出店が並んでいた。
ポップコーンやたこ焼き、焼きそばに綿あめ、人形焼き等、レパートリーは本物の祭りと大差が無いクオリティーになっている。既に多くの生徒が出店の食品に手を出しているため、売り上げは上々と言ったところだろう。
そんな誰もがお祭り気分で騒ぐ体育館の中に、一人だけ心配そうな顔をしている女生徒がいた。
「これは大変よろしくないよ……にーが来てないよ」
今回のデュエルの主役の一人、レン・ファムグリット――の妹、レナ・ファムグリットだった。
「ほむん。小僧の頃からの付き合いだが、お主がそこまで青い表情しとるのは初めて見るな。
妹よ、お主が慌てることもないのではないか?」
ファム兄妹の友人寺、朝倉 英心が綿あめを舐めながら言った。
「慌ててるんじゃないよ、英心君。レナさんは最悪の未来を危惧してるんだよっ!」
「と、言うと?」
「レナさんの知る限り、にーはやるって言ったら絶対やる人なんだよっ。遅刻とかしない人なんだよ。
………あることさえしてなければ」
「あること?………ほむん。理解した、自慰だな」
「G??ゴキのこと?」
「性格には自身の高ぶりを己が手にて封じ込め、最終的に一気に解放する
男特有の儀式であるところのオナ――」
「それ以上言ったら、エーシン君レン君に殺られるんじゃネ?」
「ファム妹よ、今言ったのは無しの方向で」
「え~~!!途中で止められたら気になるよ!」
公共の場において適切ではない会話をギリギリで止めたのは友人その2、波平 鈴木(なみひら りんぼく)だ。
話し方、見た目、共にチャラ男丸出しの男子学生だ。
「で、レナちゃん。レン君がナニシてるって?」
「あ!うん。そうだよ大変だよリンリン君!!
にーがこういう時に遅刻してきてるのは大変なんだよ!!」
「うんうん。もうちょっと分りやすくヨロ」
「ちょっと!!そこのアンタ達!あの赤髪の男はどうしたのよ!!
どこにも居ないじゃない!」
レナがまさに状況を説明しようとした時に突然、一人の美少女が現れた。
「ほむん。何かと思えばぺちゃパイの部長殿では無いか。
貧乳に用など無い。しっし!」
「ひんにゅ――!?アンタ…喧嘩売ってんなら買うわよ!??」
「ちょ!?ま!!あんたはどうしてそう断崖絶壁に対して喧嘩上等な訳さ!?エーシン君。」
「小は大を兼ねない!!言わば出来そこないであり、欠陥品であり、劣等種である!!!
貧乳は猿とでも子作りしておれい!!」
「あんた本当に寺の跡継ぎか!??人種差別ってレベルじゃねーッスよ!!」
「――ッ!!………ッッ!!」
「うわぁ…部長さんショックで声もで出なくなった……」
「可哀そうだよ、英心君。身体的特徴で誰かを苛めるなんて、人としてやっちゃダメなことだよ。
部長さんだって、好きでおっぱいがペチャンコなわけじゃないんだからね。
大丈夫だよ、部長さん。おっぱいが小さくたって、部長さんは出来そこないなんかじゃないよ。
もしも大きくならなかったら、今は豊胸手術だってあるから心配ないよ。
貧乳でも生きていけるよ!」
「………ッッッ!!!う……うわああああああああぁーーーん!!!
見てなさいよデカ乳女!!!アンタ達の仲間あたしの奴隷にしてやるんだからあああああああーー!!!
うわあああーーーん!!!」
とうとう耐えきれなくなったでゅえる部部長は、物凄く泣いて走り去って行った。
「英心君、後でちゃんと謝りに行こうね?レナさんも行くから」
「………ほむん。そうじゃのう。妹は少し、やり過ぎかもしれんのう…なあ、鈴木よ?」
「………うん。何て言うか…。
圧倒的に『持つ者』から送られる心からのエールって、持たざる者を一番傷つけるんだーって感じ?
マジべんきょーになったわ。あと、レナちゃんは後でレン君と一緒に謝りに行くべ」
「あれ!??何でいつの間にかレナさん悪者なのっ!?何でぇー!?」
同時刻、学校近くのコンビニから一人の学生が出てきた。
「懐かしいなー
ほら、昔カード買う時ってさ、大体コンビニだったじゃん?
んでさ、レア抜き出来る奴とかヒーローだったじゃん?
久々にヤっちゃったぜ」
「………。(ガクガク)」
赤い髪を揺らしながら、幼少の頃の思い出に僅かに浸る学生。
そもそもの来店の目的は、只の買い食いだったのだが、たまたま視界に入ったカードパックに後ろ髪惹かれ、つい眺めている内に時間が経ち過ぎてしまっていた。
「人間いつ死ぬか分らないからこそ、思い出は美しいに越したこと無いし、たまに浸るべきだよな、うん」
「………。」
全く意味の分らない言い訳を自分にしながらカードパックを購入し、ついでに肉まんを二つ買った。
「ありがとうございましたー」
久しぶりに思い出に浸り、少し上機嫌な学生は、そのまま家に帰るため、自転車をこいだ。
右に左にペダルを踏み続け、スピードに乗った自転車で風を切る。
「単車もいいけど、たまにはチャリで飛ばすのもいいな」
「………。」
気持はふわふわと浮いて行き、風は心地よく肌を撫では後ろへ吹き抜ける。
ここまで心安らかだと思えるのは、いつ以来だっただろうか。学生は心のアルバムを開き考える。
仲の良かった仲間や友達と、尊敬していた先輩の顔が浮かんだ。
そして、最後に今の仲間たちが浮かぶ……。
「………あ。今日ってあの残念な人とデュエルじゃん」
ほぼ家に着きかけたころ、赤髪の少年、レン・ファムグリットは、初めて今日の予定を思い出した。
時刻を遡ること15分前。
レン・ファムグリットは、いつもの三人が教室に残っていないことを確認すると、特に探すこともせずさっさと家路に着くことにした。
元々単独行動を好む彼は、周囲に友達がいなくても気にしない。
一人には1人の楽しみがある。
先ず最初に寄ったのはパチンコ。
慣れた手つきで千円札を入れて、5分もすれば噴く。金額にして大体三万円前後の勝ちを拾う。が、彼はそれをお金ではなく全て景品のドロップにつぎ込む。
一つだけ口に入れると次に向かうのは喫茶店。ゴンザレスと呼ばれるマスターが経営する寂びれた店だ。
入店するたびに舌打ちして『チッ、客が来やがった』と言うのがお決まりだ。そして心底めんどくさそうにコーヒーを煎れ始める。五分ほどで飲み干すと、コンビニへ寄った。
肉まんを二人分と、カードパックを一つ買うと、一旦自宅へ寄ってから、昨日に寄ったカードゲーム屋へ足を運んだ。
ブンブンブンブンブン……!!
景気良く音を鳴らす紅いバイクを店の前に止めると、それまで一言も話さなかった少女に話しかける。
『………。』
『おい、着いたぞ。中国人』
『………わ、ワタシ、お家帰して貰えるアルか……?』
『ああ。用事思い出した。付き合ってくれてありがとな。これお土産。』
さっき買った肉まんを手渡す。
『うう……ワタシ、無事に帰ってこれたアル……おかあさーん!!』
最後にパチンコへ行く前に偶然出会って拉致した王・飛娘を送ってあげた。
以上、レン・ファムグリットの放課後。
「さすがにこのままじゃ遅刻だな。」
すでに十分に遅刻しているレンだったが、一応待ち合わせをしていたこともあって急ぐことにした。
移動中の今の彼の状況を簡単に説明しよう。
暴走族が着る特攻服(赤)。背中には刺繍入り。
ノーヘル。
信号は無視。法定速度は無視。交通規制は無視。
そして背後には……。
≪そこの暴走車!!直ちに停まりなさいッ!!!!≫
ボディを白黒に塗った車が、サイレンを鳴らして付いてきていた。
「ポリ公共が煩いな…まったく、近所迷惑だろうに。暴走行為は慎まなきゃいかんだろうに……」
レンは後ろの追跡車を振り切るためにアクセルを開ける。
メーターには120kmを超えた数字が出されている。無論、ここは公道である。
並木道を5秒で通過し、赤信号を突破し、立体歩道橋を潜り抜ける。
その時――誰かから声を掛けられた。
「そこの明らかに色々な法律を犯してる人ー!!犯罪次いでに二人乗りさせてくださーい!!!」
すると、次の瞬間。
立体歩道橋から坂上学園の制服を着た少女が飛び降りてきた。 少女はそのままバイクに着地すると、レンにしがみ付いた。
「はじめまして。レン・ファムグリットさん」
少女は笑顔であいさつすると、自己紹介を始めた。
「私、坂上学園新聞部部長、文月 ひよの 二年生です。あなたを取材したくて探していたんです!」
「……取材?この状況でか?」
「そうですねーさすがにこの状況じゃ無理ですねー。メモも取れませんし。
とりあえず、坂上学園まで行きましょう!です!」
良い笑顔で滅茶苦茶な事を言う女生徒は、何故か既に自前のヘルメットをかぶっている。
つまり彼女は最初からレンがバイクに乗っていることを知っていたのだろうか?
というか、立体歩道橋から時速120kmを超えるスピードのバイクに飛び乗れる人間がこの世にいるのだろうか?
更に彼女は何故自分の居場所を見つけられたのか?
様々な疑問が浮かんでいたレンが出した答えは――。
「 ……ようこそ共犯者。目眩く逃亡生活への入り口へ」
(もうどうでもいいからさっさと学校戻ろう。そんなことよかデュエルだ)
極めて適当で投げやりなものだった!!
「逃亡生活はいやです!私は嫌だって言ったのに、この人に無理やりー!
あとイヤラシイこともされそうになりましたー!私の魅力に当てられてんですねー!!」
「降ろすぞテメェ」
「………コホン。
改めて運ちゃん、坂上学園までよろしく!です」
「良い時代になったもんだなオイ。今時はこんなナリして単車乗り回してても、雇ってくれるタクシー会社があんのかー……ゼッテーそこ潰れるわ…。因みに俺、持病があってノーライセンスだが、そんな奴でも大丈夫かァ?」
「大丈夫です!バレなきゃ犯罪じゃないですよ!!スピード違反とノーヘルと二人乗りは見つかっちゃってるから擁護出来ませんけどね!!」
「最後のはアンタのせいだろ」
気がつくと、後ろの車は電信柱に当たったりしてクラッシュしていた。おそらく数時間は渋滞だろう。お気の毒に。
「で、アンタ俺に何の取材したいんだ?」
後ろを気にする必要が無くなったレンは、速度を落として運転し始めた。
ついでなので、取材とやらも受けることにした。元々悪い気もしていなかったのが理由だが。
「もちろん決まってるじゃん。入学早々に全校生徒の話題と関心をかっ攫ったレン・ファムグリット君と、出来立てほやほやの部であるでゅえる部の部長にして、学園長の孫娘であらせられる坂上 みくさんとのデュエルですよ!!」
「ふーん。物好きだなアンタも。騒ぎになっただけで、面白味も無いだろうに」
「そんなことありませんよ?
坂上 みくさんはデュエルを初めてたった三カ月で全国でも指折りのデュエリストのロイドさんに勝った才女ですから」
「へえ…あの残念な美人がねえ」
「おやおや、レンさんは坂上部長のような女性がタイプですか。メモメモ」
「タイプか…抱いた女は沢山いるが、惚れた女はあんな感じじゃないな。
髪は長かったけど、ウェーブが掛ってたし。乳は無かったけど、背は低かったし。
性格は大人しい子だったよ」
「ふむふむ。今は好きな人いないんですか?」
「最初からそいつしかいないよ。今じゃ遠くにいるから会えないけどな」
「おお~遠距離恋愛ですか!ヤンキーみたいな恰好してるくせに一途なんですね!!
これは反響ありそうです!!です!!!」
「どんな反響だか……っと、着いたな。学園」
「みたいですね。いや~優秀な運ちゃんでした。出来れば専属ドライバーになってほしいです。ですです!」
「乗せるたびに犯罪(二人乗り)を犯す専属ドライバーなんざ聞いたこともねえな。ほら、降ろすぞ」
校門を潜ってバイクを止める。
少女を降ろしてみると、意外と身長が低いことに気がついた。
「最後に、一言お願いします」
「何だ?」
「デュエルへの意気込みをどうぞ!」
ご丁寧に録音機まで準備されていた。
「………。」
「………。」
お互いに沈黙が続く。
何を言えばいいのかと考えるレンと、レンが口を開くまで急かさずに待つつもりのひよの。
そして、長い沈黙の後、レンはようやく口を開いた。
「勝つ!!」
そう一言だけ答えたレン真剣な表情に、ひよのは一瞬だけ魅入っていた。
「………素晴らしい答えですっ。私、キミのこと応援することにします。
がんばるのです!!」
ひよのは、満足したような笑顔でエールを送ると、走り去って行った。
と思ったらまた戻って来た。
「まだ何かあるのか??」
「レンくん。これあげます!!ひよのからの『頑張れのプレゼント』なのです!!」
その小さな手に持っていたのは、一枚のカードだった。
「『白き龍は勝利をもたらす。されど、黒き竜がもたらすのは可能性なり。』
このカードも、勝利はもたらさないけど、可能性を導くのです。」
「勝利の可能性…か」
「ただ、召喚条件があるので、どんなデッキでも使えるわけではないのですが……ごめんなさいです」
「いや、せっかくだ。デッキに入れておくわ」
使えるかわからないカードを、レンは迷わずデッキに入れた。
「レンさん……優しいですね。」
「別にそんなんじゃないさ。枠が余ってたから入れても入れなくても同じってだけさ。
だったら折角だから入れるのも一興だと思っただけだよ」
「そうですか。フフッ」
「じゃあ、行くか。どうせ観に来るんだろ?一緒に行こうぜ」
「もちろんです。しっかり取材させてもらいますよ!!」
「………。」
「………。」
「遅い…遅い……遅ーい!!!!」
レンとひよのが会場に着くと、痺れを切らした坂上みくが暴れまわっていた。
辺りには壊された出店や飾りが無残に散らかっている。
「うがああああああああああーー!!!!」
その姿を目の当たりにしたレンは……。
「なあ、センパイよぉ……。」
「はい。なんでしょうかレンさん?」
「………帰っていい?」
「ダメです」
「マジで?アレもう人じゃないぜ?めっちゃ暴れてるぜ?誰だよ動物園からゴリラ逃がしたの」
「女の子にそんなこと言っちゃダメですよ。デリカシーに欠けますよ?」
「………アレを女の子扱いするくらいなら、アンタをレディとか呼称する方がまだ救いがある……いや、無いか」
「失礼ですよ!私は背が低いだけで出るとこは出てます!!マニア垂涎のロリ巨乳なんですよ!!」
制服のブレザーを脱いでみせるひよの。確かに出るとこは出ている。でゅえる部部長、哀れ。
「そのそこそこ立派な乳は隠しておけ。あそこに巨乳マニアの生臭坊主いるから。襲われるぞ」
「それは嫌です。」
サッと上着を着なおそうとしたようだが、かなりもたついている。自分で服着られないのだろうか。
「さてと……おい、そこのゴリ―――ゲフンゲフン!!!―――でゅえる部部長。
待たせたな。デュエルの時間だぞ」
「あああああ!!!待たせたなですって……って、ええェー!?」
待ち人来る。さんざん待たされたみくは、怒り心頭だったがレンの恰好を見て血の気が引いた。暴走族御用達の特攻服姿である。ちょっとビビってチビった。
「遅刻したのは悪かったよ。ほら、土産だ」
「わわ!??って、何よこれ!!ドロップ!?」
「パチンコの景品だ。なんならコンビニで買ったコーヒーも付けるか?ブラックでよければ」
「あんた……あんたねえ………!!!この私を待たせておいて……パチンコして……コンビニ行ってたわけ?」
「ああ。あと、家帰って着替えて、ショップに寄って女を1人送ってから来た。」
「どれだけあたしのことバカにすれば気が済むのよーー!!バーカああああああぁぁぁー!!!!うわあああああーーん!!!!」
「あーわかったわかった。ウザいから泣くな。ウザいから」
「アンタ、絶対…ぜったい……負かして奴隷にしてやる……っっ!!
誓いなさいよね!!あたしが勝ったら、あんたは一生あたしの奴隷よ!!」
その言葉に、レン・ファムグリットの目つきが変わった。
「ああ。誓う」
「いい度胸ね!!じゃあさっそく――」
「お前はどうするんだ?」
「………は?」
「お前は、俺に負けた時…その人生と幸福を、全て俺の都合のために浪費できるのか?
一生奴隷になると言うのは、家族にも友達にももう会えなくなるんだ。お別れも言えない。
それどころか、自分が今どこにいるのか。生きているか死んでいるのかさえも知られずに、忘れられていく。
――その覚悟がお前にあるのか」
その言葉には、泣く子も黙る重みがこもっていた。
「…………っっ!?」
「まあいい。俺が勝ったら、好きにさせてもらう。アンタの人生を。
まあ、気に住んなよ……アンタが勝てばいい話だからな……。
はじめようか?」
「そ、そうよ。あたしは…負けない。負けないんだから!!!」
「「決闘(デュエル)!!!!」」
これから行われるのは、文字通りの決闘。
自分の人生を賭ける戦い。
もちろん、坂上みくは、そこまで深く考えてなどいなかった。悔しかっただけ。見返したかっただけ。
何も相手の人生を狂わせようとしたわけじゃない。
だが、レンは違う。完全に本気に捉えていた。
『この決闘の敗者は、人生を相手に譲渡する』
自称平凡な男の何処にそんな冗談みたいな言葉を本気にする要因があったのか?
ここにいる誰一人、それを知る者などいなかった。
実はつい最近、このSSが検索しても出てこないようになっているという致命的な設定がされていることに気付きました。本気で絶望した……そりゃ見てもらえねえッスよね。
感想・ご意見などお待ちしております。
ディスっても良いのよ?