ただひたすらに疾走(はし)り、爆走(はし)り、紛争(はし)り……未来(マエ)に進んだ。
俺には安息など必要無い。俺には平和など必要無い、俺には…家族なんかイらない。
求めるは命を縮める闘争。求めるは血飛沫が舞う致命傷(キズ)。それだけしか無い。
だから走り続けた。命ある限り前に。命を削って生命を攻め切る。命を失うまで、止まることの無い鼓動。
その時の俺の瞳は…狂気に塗れていただろうか?あるいは何も写すことの無い虚空だったのか。
そんなイキザマを数年続けたある日…伝説と言う言葉を聞いて…俺はカードを手に取ることになった。
昔の俺は、デュエルをしていても頑なに自身のデッキを持とうとはせず、手近な敵のデッキをディスクごと強奪し戦っていた。どんな武器(デッキ)でも扱い切れる。
だから本来俺にはデッキを持っている必要は無かった。
ふと眼を閉じる。目の前には鏡が在って、俺の手の中には何も無い。
だが、鏡の中に居る俺の手にはデッキが握られている。それはまるで生まれたころから一緒だったかのようなデッキ。それを持っている。持って鏡の中に居る。鏡の中に居る。
居る。
イる。
???「………オ前ハ、誰ダ…。」
遊戯王~Fake Origin~ 15
飛娘と王城のデュエルが終盤に差し掛かった頃。
飛娘 LP2100
手札2枚
CNo.106 溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600
伏せ一枚
大蔵寺 王城LP6600
伏せモンスター×1
長かったデュエルも終盤に差し掛かった。
王 飛娘の手札は2枚。場にはカード効果の発動時に表側の全てのカード効果を握りつぶす溶岩掌。そして伏せカードが一枚。
一方、相手は伏せモンスターが一枚。
この状況で多少のライフ差はアドバンテージにもならない。それがデュエルモンスターズ。デュエリストの日常。
敵側のギャラリーは全員諦めムードであり、飛娘も勝ったつもりでいる。
だが、この場に1人だけ、未だ飛娘の勝利を確信できないデュエリストがいた。
レナ「…………。」
味方側で唯一無傷のレナ・ファムグリットだけが難しい顔をして、大蔵司 王城の一挙手一投足を観察していた。
レナ(この状況、飛娘ちゃんの勝ちはかなり近い…。ただ、気になるのは飛娘ちゃんの手札。
1ターン前には伏せカードなんて伏せなかったのに『七皇の剣』を使った後に伏せたってことは、既に手札に持っていたということ。飛娘ちゃんのデッキはシンクロデッキ。なら、あの伏せカードがエクシーズのサポート用カードとは考えにくい。前のターンに明らかに劣勢だったのにリバースを伏せなかったのは…何故なのか)
飛娘「ワタシのターン、ドロー。」(モンスターが来ない…手札にも無い。仕方ない。壁だけでも削る!)
飛娘「このままバトル!ジャイアント・ハンド・レッドで攻撃」
溶岩の如き灼熱の腕が、秘められたモンスターの姿を暴きだし、襲い掛かる。
伏せられていたモンスターは…
『マスマティシャン』
王城「このカードが戦闘で破壊された時、カードを一枚ドロー出来る。ドロー」
飛娘「たかが一枚のドローくらい…っ。ターンエンド」
王城「ワシのターンだ!!ドロー」
王城の手札は二枚。
ここで何も出来ずにいれば飛娘の勝率は跳ねあがる、だと言うのに焦りは見せずにいる。
一方飛娘も自身の三枚の手札を見て口元をほころばせる。
王城「……ワシはリバースカードを二枚伏せてターンを終了する」
場に伏せられた二枚のカード。それは、ただのリバースカード。解き放たれるその瞬間まで明かされることの無いデュエリストの闇。一定の警戒は当然であり、。それを怠るならばデュエリストでは無い。
しかし、その二枚のカードに尋常ならざる殺気を感じ取った者が1人いた。
飛娘「苦し紛れのリバースカード。フフっ。もはや万策尽きたアルね!!アッハッハッハッハー!!」
レナ「飛娘!!」
飛娘「‐‐ッッ!??」
敵勢の男達「「「‐‐!???」」」
‐‐レナ・ファムグリット。
天才と称される剣道の腕を持ち、文武両道・才色兼備の成人に成りきっていない少女。
その姿は可憐にして美しく、年齢相応の幼さと年齢不相応の色香を醸し出す彼女の笑顔に虜になる男は、近所の小学生から軟派な大学生や、手を出せば明らかに法律で罰せられる年齢の者たちまで数知れない。
誰が想像するだろうか?そんな彼女の表情が今‐‐戦場を駆け抜け死線を潜り抜けた『戦士』を連想させるほど厳しくも凛々しいもの変わることを。
あまりにも平常と違いすぎるレナの雰囲気に、敵側である男達は勿論、仲間の飛娘ですら腰が引けている。これでもし彼女の声質が少女よりも女性のものに近しいものであったならば、王 飛娘はその場でへたり込んでいたことだろう。
レナ「いつまで思いあがっているつもりなのよ!自分の置かれてる状況が判断出来なくなるほど脳みそ筋肉に持って行かれたんじゃないでしょ!ピンチなのは貴方の方よ!!」
敵側の将であるヤブイヌは思う。何故、と。
飛娘の手札は三枚。そして王城は0枚。
もはや何も行動が出来ない王城に対し、次ターンには手札が四枚になる飛娘があの二枚の伏せカードに対処する確率はそう低くは無いハズなのに、と。
だがレナ・ファムグリットはもはやこのデュエルを見通していた。
飛娘の三枚の手札は
『魔法・罠 破壊カード』が無い。
在るならば既に『ナンバーズ・ウォール』の破壊に使用してるハズだから。
効果を無効にする類の『カウンター罠』が無い。伏せカードも然り。
そうでなければ『真剣勝負』で破壊されたチャンバライダーが無駄死になどと言う言葉で言い表せないほど愚かなプレイングだ。勝ち目は無い。
『モンスターカード』は無い。在るならば彼女の性格上召喚しているはずだ。
また、上級モンスターの線も薄い。
いわゆる【ジャンド】に該当する彼女のデッキは下級モンスターの効果と魔法カードのコンボで回すものである。魔法カード「調律」のサーチ対象にでき、「シンクロン」の名を持つ「クイック・シンクロン」等を除けば大抵レベル5以上のモンスターを採用する意義はほとんど無いと言っていい。
‐‐‐では、王 飛娘の手札は何だと言うのだ?
この全ての条件を満たさないカードとは……?
飛娘「レナ・ファムグリット…お前」
レナ(手に取るように分かる。貴方の手札は、全て腐りきった『死に札』だ……!!)
『死に札』
それは、デッキに投入されていながら現状では役目がないカードのことだ。
デッキに入れているのに役目が無いとはどういうことか?
例えば、相手が効果を持たないモンスターのみで構築したデッキで戦うのであれば、モンスター効果を無効にし、なおかつ相手のモンスターしか効果対象に選択出来ない『ブレイクスルースキル』
飛娘の手札は。
既にサーチ対象の存在しない『調律』。
現状発動が許されず、発動したところで打開策を加えられない『アームズ・ホール』。
必殺技カード『スクラップ・フィスト』
これらの情報が開示されたなら、デュエリスト全員に伝わる筈だ。
このデュエルは絶望的だと。
飛娘が次に何を引こうとも、自身のカードによって、効果を無効にしてしまうジャイアント・ハンド・レット。
一方敵には二枚の伏せカード。どちらかを犠牲にどちらかを発動できる。
勿論苦し紛れのブラフかもしれない。
それでも、少なくとも王城は、次のターンは高確率で生き残れる。
以上が、レナがデュエリストとプレイングを観察して見通した、デュエルの現状だ。
一見飛娘が有利に見えて来たこのデュエルは、全く持って誤解であり、どちらかと言えば王城に若干の分がある。
もし、彼女と同じ見解を、この情報が開示される前に読みとれたものがいたのなら、それは彼女と同じく天才なのかもしれない。
???「フ…フフフ…ッ!」
その時、その場に居ながら一度たりとも口を開かず、傍観を貫いていた『蛇柄の皮ジャンを着た男』が笑いだした。
その様子に、男以外の全員が目を見開いた。
皮ジャンの男「おい、サレンダーなら早くしろ。どの道このデュエルは終わった。」
飛娘「なんだと…?」
蛇柄の男の侮辱とも言える発言に、飛娘は目を細める。
皮ジャンの男「こっちからはそこの木偶の手札が丸見えでなぁ…終わってるぜ。このデュエル、そこの中国人(チャイニーズ)の勝ちは無い。ククク…」
飛娘「言わせておけば…!」
皮ジャンの男「なら試してみろよ。どの道このままなら、お前に勝ちは無い」
自覚はしていても、否。自覚しているからこそ、この発言を聞き流すことが出来なかった。
ついでに仲間に自分の不利をあっさり悟られたことも手伝って、自暴自棄に近いものになってしまった
飛娘「上等ネ!!ドロー。そのままバトル!!」
レナ「…………。」
レナ(うわーん。さっき気を付けてって注意したばっかりなのに……飛娘ちゃんのばかー。単純。単細胞ー)
助言を完全にふいにした仲間に苦笑しながら心で泣くレナであった。
CNo.106 溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600 大蔵寺 王城LP6600
王城「リバースカードオープン、『ディメンション・ウォール』! 」
ディメンション・ウォール
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。この戦闘によって自分が受ける戦闘ダメージは、かわりに相手が受ける。
王城を狙うジャイアント・ハンド・レッドの前に時空を歪ませる孔が現れる。
飛娘「ジャイアント・ハンド・レッドの効果発動!!場のカード効果を全て無力化」
その宣言と同時に孔はジャイアント・ハンド・レッドの手によって無理やり閉じられていく。
だが、ここまでは誰もが想像しうる当然の展開。誰もが予見できる当たり前の未来。
問題はその先にあるものだ。無効化されるカードを囮に、どうやってジャイアント・ハンド・レッドを倒すのか。
その場に居る者の多くが、次の一手に注目した。
レナ「………。」
皮ジャンの男「……七皇、つまらないデュエリストだったな」
既に飛娘の敗北を予知した二人のデュエリストは、もはやデュエルに興味すら失っていて、仲間のレナは苦い顔をして、敵側の男すら、その勝利に何の関心も抱かない。
同じ未来を予見したデュエリストは、それぞれデュエルから視線を背けた。
飛娘(フッフッフッフッ…何とでも言えばいいアル。今とっておきのカードを引いたネ。『禁じられた聖衣』。
禁じられたシリーズのカードがあれば、怖いもの無しネ)
飛娘「さあ、何でも来るアル!そんな囮カードでジャイアントを破壊出来るならネ。アッハハハハー!!」
王城「………おい、貴様。」
飛娘「何アル?」
王城「デュエリストのデッキに、囮カードなど無いわ、この戯けがァ!!
リバースカードオープン『禁じられた聖杯』!!」
飛娘「………え?」
王城の解き放たれたリバースカードにより出現した聖杯の中身がジャイアント・ハンド・レッドに浴びせられると同時に、ジャイアント・ハンド・レッドが効果を失い、ディメンション・ウォールの孔が飛娘の背後に繋がると‐‐
飛娘「ぎゃふん!??」
飛娘 LP 0
そのままジャイアントのグーパンが飛娘の後頭部にヒットし、敗北が決定した。
レナ「あ~あ…負けちゃった。って‐‐わわわわわっ!?」
一体どういう物理法則なのか?斜め上から後頭部を殴られたはずの飛娘は衝撃によって吹っ飛ばされていた。
向かう先は、川。そりゃ川辺なのだから川が近くに在るのは当然だが、今飛娘が飛んでいる川とジャイアント・ハンド・レッドが飛娘を殴った方向は90度の誤差がある。本来ありえないはずの現象がここにある。
などと言っている内に飛娘が今にも頭から地面に激突しそうになっている。因みにその速度もまた、物理法則を超えてグングンと速くなっている。何故だ。
それに気づいたレナは地面を強く蹴って、一息の内に飛娘の着地地点に移動し、飛娘の頭を庇う形で受け止めた‐‐
レナ「キャッチ!!」
飛娘「ぼふっ!?」
そして‐‐
レナ「おわっぷ!?」
飛娘「ぷぎゃっ!??」
バッチャーン!
思いっきり川辺に落ちました。