俺の転生日記~なんでいったい俺なんだ~ 作:やわらかチキンカツ
とりあえず『俺の日記』についてわかったことがある。
ひとつは何かしらのアクションを起こせばそれが書き記されるということ。
以上!
いや,これは仕方ない。
だってまだ二ページしか書かれてないんだぜ。他はぜーんぶ白紙。
確実に意味がわかることと言ったらそれくらいのものだ。
もっと簡単な事ならいくつかわかったこともある。
メモ用紙には使えないってことと,火にぶちこんでも燃えないってこと。
普通のペンでは歯もたたないし爪痕も残らない,灰にもならないし傷だってつかない。
だったら捨ててしまおうか……そう思っていた時期が俺にもありました。
『俺の日記』って,捨ててもいつの間にか目の前に帰ってくる素敵仕様なんだ。
いらねーよ,そんな機能。
若干疑う部分はあるが,これが俺のもらった特典のひとつであることは間違いないだろう。
で,これが空白にしていたみっつめの特典なのだろう。
実は神様とやらに出会った記憶はぼんやりとだが覚えている。
俺がいま五歳の誕生日を迎えたばかりで,転生者だと気付いたのがここ一年前ほどだから別に不思議ではない。
衝撃的だった夢は意外に記憶に残っているものだし,それほど長すぎる時間は経っていない。
夢の中で俺はふたつ願いをかなえてもらっていたのだが,神様はみっつめがあるかと聞いてきた。
そこで俺は特に思いつくものもなかったし――そう,適当によろしくと頼んだのだ。
結果がこれとは……いやいや,これは仕方がない。
まさか本気で転生するとは思ってなかったのだから俺は悪くぬえぇ!
ただ,代わりに疑問が浮かぶ。
たとえばもし本当に『俺の日記』に書かれていることが真実なら――普通の人生を歩んだ俺はどこに行った?
覚えがないぞ,この幼稚園児の頭の中には。
書かれていることはすべて嘘――ありえる話だ。
適当にでっち上げた文章を書いて俺を惑わせるとは笑止千万!
いたずら心のこもり過ぎている特典だぜまったくよ!
HAHAHAHAHAHAHA……はぁ。
仮に――日記に書いてあることが本当だとしても確かめる方法がない。
証拠は日記の文章だけ,目撃者というよりも当事者の俺には記憶がない。
八方ふさがりの迷宮入り事件ですな,これは。
疑問が尽きない限りでうれしくない盛りですよ,マジで。
まぁとりあえずその辺りの難しいことはぽいっとしとこう。
せっかく引っ越しをしての新天地。さらに言えば俺の部屋も貰えたんだ。
流石だぜ親父,かっこいいぜ親父。
これまではアパートだったからなー,プライベートはからっきしでしたよ。
父親と母親の乳繰り合いは見ててどんな顔すればいいかわからないの……
ひとりで寝られると言えば母親が涙目になっていたのはちょっぴり罪悪感だったが,とーにかく自由なスペースができたというのは嬉しい。
関東圏というのが少し不安だが,麻帆良からは離れているし問題なしだろ。
しかし甲賀の里が滋賀にあったとは……選ばなくてよかった。
忍者さんとお知り合いになるかもとかあの中では安牌だった気もするが――今の選択よりも素晴らしいものはきっとなかったのだ!
ここは関東某県にある名無市,ななしのしと読むらしい。
まったく聞いたこともないぜこんな場所はさぁ!
フラグじゃないよな? きっと大丈夫だと信じて突っ込んだ大穴,信じてるぜ!
……嘘です。
思わず名無市がいいと母親に泣きついた俺ですが,今になってから後悔しています。
滋賀にすればよかったなぁ,きっと一番良心的なキャラ――もとい人物だったもんなぁ。
こんなことになるならもっと原作を読んでおくべきだった。
ざっくりとした道筋しか覚えてないよ俺はさぁ。
そうだ,覚えているうちに書き出しとくか。
記憶力にはあまり自信もないことだしな。
ペンだ! 紙とペンを用意しろ!
◆◇◆◇◆
~俺の日記~
タイトル:思い返す麻帆良での日々
時期:引っ越しして部屋でのんびりする幼稚園のお休みの日
ひっこしがおわりました。
おとうさんにへやをもらったので,これからはひとりでのんびりできると思うとうれしいです。
あたらしい土ちでこれからさきがふあんなので,よしゅうすることにしました。
ねぎくんはいろんなつらいおもいをしてきてせんせいになります。
くらすのひとたちはみんないいひとたちで,つよい人たちもなん人かいました。
きんぱつのことたたかってきょうとにいって,わるいひとのぶかにあいます。
そのあとでしいりして,がくえんさいでは大もりあがりでした。
ふあんがほんとうにならないように,できるだけはなれて生きて聴けるようになりたいです。
○先生のコメント
先生は君を甘く見ていたようです。先のことを考え自分の知識を整理する。行き当たりばったりではない計画性に,前向きになった君の一歩に今日は心が躍る気分です。同時に君を見くびったことを謝罪させてください。本当に申し訳ありませんでした。
これだけで及第点は確実なのですが,せっかくの君のやる気に先生から少しだけ助言を送りたいと思います。そうは言ってもあまり多くを教えるのは問題になるかもしれないので,黒幕の組織の名前だけ教えておきます。これだけできっと君はやるべきことを理解するはずです。
黒幕の組織の名前は『完全なる世界』。この事を君の人生をよくする方向に役立てていってくれればうれしく思います。と,きっと君には無用な心配でしたね。
これからの君の人生が幸多く,たくさんの人々から愛され尊敬されることを願います。
◆◇◆◇◆
更新されてら,『俺の日記』。
やはりなにかしらのアクション――さっきまで考えていたことを加味すれば原作漫画に関わることをすれば更新されるのか。
う~む,逃れたい俺からすれば何ともリスキーな特典。
まぁ思うだけならタダだよな,俺の頭の中のことだしさ。
とにかく俺の知識を確認しよう。
カレンダーの裏とクレヨンしかくれなかったぜ……
主人公は葱――もといネギ少年だ。
たしか麻帆良で教師をするようにった少年で,魔法使い。
で,主人公よろしくツラい過去持ちながら強くなっていく――王道展開だな。
ヒロインは受け持ちクラス。
ネギ少年は女子中の担任になるんだ。
これだけ聞けばハーレム羨ましっ! となるが,俺が実際にとなると荷が重そうだなぁという感想しか浮かばんがね。
で,クラスの生徒たちが凄いスペック持ちが多かったはずだ。
覚えているのはツインテールがなんだかんだネギ少年の面倒を見ること。
京娘が凄いこと,護衛になんか鳥とのハーフの剣士がついていること。
中華娘がネギ少年の師匠になるくらい強いこと。
忍者娘は大人びで強いこと,褐色高身長が銃を撃っていたこと。
金髪の子がすごい魔法使いだったってこと
それとクラスの誰かが未来人だってことだ。
話の流れは着任,金髪の子とバトル,忍者に慰められる……なんで忍者覚えてんだ?
あー……ドラム缶風呂だ!
ネギ少年が巨乳のねーちゃんと風呂入ってたんだ。
なるほど,わかりやすくインパクトに残るところで覚えているな俺も。
で,その次が京都行く,褐色高身長が銃を撃って中華娘が暴れて剣士が羽だす,金髪の子がすごい魔法使う――ほんとインパクトのところしか覚えてねーや俺。
大丈夫かね? いやいや,関わる気が無いんだしきっと大丈夫に違いない!
これはあくまで最悪関わることになった時の予習なわけだし。
その後がネギ少年弟子入り,学園祭で未来人大はしゃぎ。
並べてみれば穴だらけだな。
何人かは名前も覚えているけれどそれ以外は――
しかし逆を返せばいくらか知識があるってことだ。
すっぴんでやるんじゃないんだから,そこんところはありがたく現状を受け入れておこう。
それと『完全なる世界』だったか。
多分これが黒幕ってやつで,ネギ少年の越えなければいけない壁なんだろう。
バトル漫画風に考えれば次の巨大組織とか出てきそうで怖いけど……出ないよな?
でもそれも『俺の日記』で一番意味の分からない先生のコメント欄を信用するならば,って注釈がつくわけだが。
誰だよ先生って?
もしかして幼稚園のほわほわおっぱい山本先生か?
土田の野郎には絶対に渡さねぇよ俺はっ!
……不毛な妄想は辞めよう。
それにコメント欄の書き方も妙にこう……なんかむかつく。
でも情報が足りない俺は素直に受け取っちゃおうと思う。
別に,ツンデレチックな思考が脳裏をよぎったからではなく――本気で悪寒みたいなものが走ったからだ。
さて,これからどうするか……もう一度現状を整理しなおそう。
ベッドの上で腕を組み,床に並べたカレンダーを見ながらうなってみる。
父親の転勤に合わせて麻帆良から離れた土地に来た。
おそらくだが原作には登場していないしこれからかかわることのない土地だが油断はできない。
原作知識をひねり出した。
俺が憶えているのはざっくりした知識とざっくりした流れだけだ。
『俺の日記』について考えてみた。
原作に近づくアクションを起こせば更新されて,コメント欄がムカつく。
それと書いてある一部を覚えていないことから信用度はいまいちだ。
俺が魔法にかかわりあいたくない理由――痛いのは嫌だからだ。
命かけてやり合うような修羅場には俺は無縁だと思うし,おまけみたいな第二の人生は転生前に出来なかった普通の生活を送ってみたいわけだ。
見返してみて,やはり俺には手札が少ない。
例えば,例えばの話,もし俺が麻帆良に行かなければならなくなった場合,俺はどうなる?
バトル漫画の世界観に戦闘力皆無な俺が近づかなければならなくなった場合,俺はどうする?
答えは火を見るよりも明らかだ。
もちろん,そうはならないように努力するつもりだが,思い通りにいかないのが人生だということはよく理解している。
つまり俺は切り札が欲しい。
出すか――ふたつめの特典を。
どんと立つ。
立ったのはなんとなく気分が出そうだからで,それ以上には意味はない。
しかし……どうするんだろうな。
二次創作とかだったらどいつもこいつも簡単そうに魔力やら気やら特殊能力やら使ってるが,どーやってたんだろうな。
あーっ! こんなことだったら修行描写とか読み込んでおくべきだったぜ!
……ってあれ?
俺は屋内にいた,うん,間違いなく俺の部屋だ。
なのに風が吹いてる。びゅーびゅー,そりゃびゅーっと吹いてる。
せっかく並べたカレンダーがぐーるぐる。
ちっちゃい台風が部屋の中にある感じだ。
そしてどんっと胸を打つ感覚。
早鐘みたいに打ちまくる心臓――許容回数越えてるんじゃないのかと疑いたくなるくらいだね。
思わず目を覆って,徐々に開けた視界に移ったのは金色の髪に青色の服。
整った顔立ちがゆっくり俺の方を向く。
肌は病的なほど白くて,その眼は馬鹿みたいに深く暗い。
やべっ,眼が合った。
何か先に一言かけてやらない――
「ねぇねぇ,どこか知っているにおいのお兄ちゃん,あのねー,お兄ちゃん……」
背筋が凍る。
唇が渇いて喉の奥もからっから。
つまり声が出ない。
「死んでくれる?」
◆◇◆◇◆
~俺の日記~
タイトル:かわいいあの子とファーストコンタクト
時期:現状を整理した幼稚園児
きょうはじぶんのげんじょうをせいりしました。
ふあんがほんとうにならないように,いっしょうけんめいかんがえました。
でも,いまのじぶんのちしきではふあんがかいしょうされないことがわかりました。
だから,もしまきこまれたらいやなので,きりふだをもつことにしました。
かのじょはよそうしていたよりもずっとちいさくてかわいかったです。
かのじょのめいぜりふをきけてよかったです。
○先生のコメント
女性というものがまだまだわかっていませんねといわざるを得ません。彼女は確かに幼いです。しかし間違いなく彼女も一人の女性。出会った時には男性の方から声をかけてもらいたいと思うのが本当のところでしょう。
とはいえ,君が踏み出した一歩は小さいかもしれませんが,前に進むための確実な一歩です。今回はロリツルペタ金髪魔人という素晴らしい属性に目を付けた君の熱意に私情を込めて(笑),さらなる発展を願っています。
これからの君の人生が幸多く,たくさんの人々から愛され尊敬されることを願います。
転生特典その2
金髪青服のかわいい幼女を旅に道ずれ,情けはないぞ。
愛らしい彼女は遊ぶのが大好き,お願いはできるだけ聞いてあげよう。
転生特典その3
ポイントポイントで日記がつけられているぞ。。
なぜだかわからないが平和に過ごした形跡があるけど,今回はかかわっていく予感がするぞ。
先生のコメントはしっかり聞くように気を付けよう。