俺の転生日記~なんでいったい俺なんだ~ 作:やわらかチキンカツ
そうだ! 先に黒幕を倒せばいいじゃないか!
ばん。机をたたいて立ち上がった俺にアリスから不思議そうな視線が注がれる。
良いぜそんな目で見てくれたってさ、今の俺は小躍りしたい気分だからな。
そうだよ、なんで気づかなかったんだ。
とっとと黒幕を倒せばネギ少年ががんばる必要もなし、たとえば麻帆良に近づいたってバトル漫画風味にならず。
一石二鳥どころか一石いっぱい鳥、この案は素晴らしいね。
「いいことあったのー?」
アリスは不思議の国のアリスを読みながら――すごい妙な言葉回しだな。
頭痛が痛いにちょっぴり通じるところがあるね、間違いない。
とにかくお気に入りの絵本を読みながら、首だけこっちに向けてきた。
俺にはアリスがいるわけだ。
頼めばきっと協力してくれるだろう、全力でお遊びしてくれる相手がいるっていえばさ。
……いや、ちょっと待て。
バタフライ効果が起こる気がする、創作ものでよくあるアレだ。
蝶の羽ばたきが世界を変えてしまうように、原作の黒幕――『完全なる世界』だったか。
それを倒してしまえばネギ少年の一生に半端ないほどの影響が起きる気が……
まてまて、『俺の日記』にはループ機能があるかもしれないわけだし、俺にリスクは少ないんじゃないか。
何か起これば戻ってこられる――おそらくだが俺が死ねば戻ってこられる。
戻る場所は以前に更新されたところ。
適当に自殺をすれば……リスクすげー高かったわ。
自殺とかないわー、うん、怖いわー。
どーするか、あーするか、こーするか。
まぁ。『完全なる世界』とやらがどこにいるかわからんし、触らぬ神に祟りなしか。
せっかく小学生をもう少しで終われるまで、何事もなしに過ごせたわけだからな。
それに明日から旅行ですよ、旅行!
場所はなんと初海外! 親父も頑張った! イギリスらしいね。
ネギ少年は海外出身らしいが、まさかピンポイントに旅行先で会うなんてことはないだろ。
これまで魔法使いに一度も会わなかったのに、いきなり主人公に会うとかないないない。
「あのねー探偵さん、こっちいきたいな」
うー寒い寒い。
イギリスでも冬は寒いのな。
雪も普通に降っているし、嫌いじゃないけど芯から冷えるね。
それとおなか痛い。
旅行だからって食べ過ぎたー。
「はーいはい、こっちね森の中ね」
そう、それはいつものわがままだった。
アリスのわがままに連れて連れられやってきて、ホテルのそばの森を抜けてみる。
歩いて走って進んでみて、ふっと目の前に広がるのは火の海。
火の海? 夕陽に染められた赤い海じゃなくて? 火の海?
あ、ほんとだ、熱いわ。
ってマジだー、燃えてんじゃねぇか! 村が焼けてる!
おけー素数を数えよう。素数はきっと俺を落ち着かせてくれるはずだから。
1,3,5,7.11,13……うん、やっぱり火の海だ。間違いないね。
「探偵さん、やっぱり悪魔がいるよ」
しかも悪魔ですと!
AKUMA、漫画の中だけでしか出てこない悪魔! 人間を堕落させる悪魔!
まるっきり魔法に関係してる悪魔!
……逃げるか。
俺はただの小学生ですし、魔法の力なんてまるでないですし、悪魔なんて倒せないですし。
くるっと振り返ってみなかったことにしよう。
「悪魔倒さないの?」
「アリスよ、なんで俺が悪魔倒すの?」
「だって探偵さんはどんな時でも悪魔から人間を守ってるんだよね」
それは歴代最強の十四代目のお話だろ、俺は違うでしょ。
「いろんなところで守ってるんだよね、だから連れてきたんだよ?」
いやいやそれはゲームの話。
なんでそんな純粋に俺を見るわけさ?
嘘ですごめんなさい、何となくアリスの発言の理由はわかります。
俺が神様に望んだのは色々なシリーズで仲魔にしていたアリスと一緒に遊びたい、ってことだ。
で、色々なシリーズの主人公――アリスの中では俺の分身――は悪魔から人々を守ってたいたわけで、仲魔だったアリスも当然一緒に戦ってきたわけで。
「いかないの?」
うっ、なんといたいけな目だろうか。
この金髪美少女がゾンビさん大好き少女とは信じられないまなざしだ。
おーけー、了解、わかりました。
アリスがそれを望むならそれを演じてみよう――アリスに丸投げしそうだけど。
俺だって目の前の人間見殺しにするほど冷血漢なつもりはないわけで。
「悪魔退治としゃれ込みますか」
「しゃれこもー」
普通の人生、俺のせいとはいえ遠のきそうだなぁ。
――スタン――
それは雪が降る特別寒い日のことじゃった。
ちょうどそう、ネカネが魔法学校から帰ってくる日のこと。
相変わらずナギに似てやんちゃ坊主のネギはこんな日だというのに一人で釣りに行ったそうだ。
……まぁ、それも仕方あるまい。
この村はナギを慕って集まったものが多いが、それ故にあのバカの息子に少し距離を置いておる。
皆,ネギ自体を嫌っておるわけではない。
ただ、慕っておるナギが死んでしまったために、どこまで親身になって接してよいかわからぬわけで。
いや、それは弱いワシらの言い訳じゃの。
距離を近く保っておるのは幼馴染のアーニャと従姉のネカネだけ。
やはり、若いということは素晴らしい限りだわい。
そんな日に、急にそれはやってきた。
蝙蝠のような翼を生やし、異形の姿を持つ彼らは悪魔。
大方この村に恨みのある誰かの仕業じゃろう。
慕う相手と似て、この村の住人はクセのあるものが多かったからの。
人払いの結界を張り隠匿されている村の中,見渡す限りに悪魔があふれかえっておる。
下級の悪魔ばかりじゃろうが、あっという間に村は火の海に包まれておった。
本来ならば一個大隊程度の力は持ち合わせておるはずじゃというに、襲った術者の力がうかがえるの。
「老いは悲しい。なぜなら未来の可能性がないからだ」
目の前の、詩人気取りの悪魔が偉そうに喚く。
杖を握り、切り札の小瓶を手の中に隠して、石化しかけた身体で悪魔を見据える。
紛れ込んでおった上級悪魔か……隙がないのぅ。
「時間が割くのが惜しい。したがってすみやかに死んでもらおうか」
ナギとの約束を、ネギを守るという約束をワシは守れたのか。
振り上げられた悪魔の拳に思わず目を見開き、最後の瞬間を訪れるのを待った。
じゃが、一向にそれは訪れなかった。
代わりに視界に映ったのは金の髪に青い服の少女。
「ねぇねぇおじさん、死んでくれる?」
そして幼い彼女の拳で沈黙させられた上級悪魔の姿じゃった。
――――
さすがアリス、ゲームの中とはいえ鍛えこんだアリス。
そこらの名もなき悪魔じゃあ相手にならないみたいだな。
小さな手を振るえば悪魔がちぎれ飛び、小さな足を振れば悪魔が吹き飛び、ちょいと呪文を唱えれば一面の火の海が氷漬けに。
……うん、よかった。
好き放題遊ばせなくてよかった、これまでたくさん遊んできてよかった。
本気で来られていたら俺の骨とか簡単にへし折れてそうだ。
やっぱりいい子、手加減できるアリスはいい子だなぁ。
俺? 俺は何もできないんでアリスが作った死屍累々の道を歩いてますよ。
顔がばれて悪魔から報復とか受けたくないからマフラーで顔をぐるぐる巻きにして。
「えっぐ,ひっくっ」
泣いてる赤毛の少年の手を引きながら。
まったく,まだまだ小さい子供を一人で遊ばせるとは……保護者出て来いと言いたいね。
ネグレクトってやつですか? かーっ,これだから最近のファッション感覚で子供作る親は信用ならんのですよ!
少しは俺の両親を見習ってほしいね!
俺みたいに歳不相応に落ち着いてるガキでも愛情たっぷりに育て上げてくれるんだから,あの二人を見せてやりたいもんですよ,この子の親に。
「ほれほれ,泣くな泣くな。怖い悪魔はもうみーんな俺の友だちが倒してくれるからな」
言っててちょっと無理を言っていることは自覚している。
そら生まれ育った村が火に包まれて――もうアリスの力で沈火しているが,悪魔を見ればビビるよな。
でも俺には俺のできることを。
ってことで慰めてやらねば。
しかし顔をさらせば悪魔の報復が……
いや,アリスがいれば心配ご無用なことは頭じゃ理解してるが,どうも心がついてかないね。
俺も初めて見る悪魔とアリスの無双っぷりに,ぷるぷる足は小鹿のようだからな。
「ぼくのせいだ」
「いやいや,そんなわけないぞー少年」
「でもぼくがピンチになればお父さんがきてくれるってねがったのがわるいんだ!」
……なるほど,なぁるほど。
今理解した,頭じゃなく魂で。
ここまで自分の子供に思わせるとか,こいつの親父はアホ以外の何者でもないな。
アリスに頼んで一発殴ってもらうか――他人任せなのが俺の悲しいところ。
「安心しろ。少年はまだ小さいからわかんないかもしれないけど,悪いことする奴が一番悪いからな」
「だからぼくがっ」
「それは違うぞ少年。悪いのは村を襲ってる悪魔だ。少年はお父さんに会いたかっただけなんだろ?」
こくりと涙目でうなずく。
素直でいい子だ,頭を撫でてやろう。
「だったら少年は悪くない。少年はむしろ良い子だ」
「……でも,ぼくは……」
「良い子なの。俺が良い子だというからには良い子,悪いのは悪いことをした悪魔,りぴーとあふたみー」
「ぼくはいいこ?」
「そうそう,続けて続けて」
「わるいのはわるいことをしたあくま」
うん。やっぱり素直で純粋な子だな。
お兄さん涙ちょちょぎれそうですよ。
そんなこんなしているうちに,周囲の音も段々と静かになってきた。
アリスがほとんど倒しちまったのか。
本当にありえない位の戦闘力だな。
まぁ,ゲーム準拠のスペックを持っているなら神話の天使や悪魔とやり合ってたわけだもんな。
「じゃあ少年の知り合いを探しに行くか」
「うん。あのっ,助けてくれてありがとう……お兄さんは?」
「俺? そうだな,名無のヒーローだ」
トンビに油揚げだって?
いいじゃねぇかちょっとくらいかっこつけたってさ。
まだ小学生だけれども,男の子はいつだって厨二病なところがあるものさ。
「こんなところにガキ? どちらにせよ道をあけろぉっ!」
そんな俺と少年の前に大きなお口の持ち主が……悪魔だー!
アリスー俺だー助けてー!
――ネギ――
とある雪の日。
僕はその日のことを決して忘れられないと思う。
悪魔に襲われていた村の中で僕の手を引っ張ってくれたお兄さん。
赤いマフラーで顔をぐるぐる巻きにして,お兄さんは自分のことをヒーローだといった。
それと――
「大きくなったな」
大きな悪魔を魔法で倒したお父さんに出会ったことを。
「お父さん!」
抱き付けば撫でてくれる。
やっぱりお父さんは死んでいなかったし,かっこいい英雄だったんだ!
「この杖をお前にやろう」
そういって杖を僕に手渡すと空に浮き上がる。
そしてお兄さんの方を向いて,
「お前は……」
「それよりもひとついいですか? 自分の子供ならしっかりとそばにいて面倒を見ることが父親の――」
あ,飛んで行った。
お父さん! もっとお話がしたいよお父さん!
――――
「まったく,なんて野郎だっ」
「探偵さん怒ってる?」
おうともよ,これが怒らずにいられるかって感じに怒ってるよ俺。
想像道理のDQN風味な父親だったねアレは。
強いのかもしんないよ? 魔法使いなのかもしれないよ?
だとしたって形見を預けてはいおさらばー……ありえねぇ。
親としての自覚以前に人としての人格を疑いたくなるわ。
「私がびゅーんっておいかけてこようか?」
なんて良い子だアリス。
なでなでしてやろう。
「えへへー」
ほっとけほっとけあんなヤツ。
どーせ変なとこで変なことになっているのがオチだ。
それよりも心配していた村の人たちを助けることの方が先決だ。
少年は駆け寄ってきた金髪美少女に預けてきた。
おねーちゃんと少年自身言ってたいたからきっと身内なんだろ。
今,俺たちは村のはずれにいる。
お礼を……とかいわれたが逃げてきた。
魔法魔法しているとこに引きずり込まれるのは嫌だし,ヒーローはしゅっと去ったほうがかっこいいし。
第一ホテルを抜け出してきているんだ。
両親をあまり心配させるのも問題だし,とっとと帰ろ。
「ところでアリス,石になってた人たちもいたみたいだが治せる?」
「できるよー」
ぺかー。いつも純粋無垢に輝いているアリスが物理的に光りだす。
おおっ,なんか俺も元気になってきた。
張ってたおなかがすっきりしていく感じだ。
うんうん。今日は良いことしたなー俺,何もやってないけどすがすがしい気分だ。
アリスの遊び相手探すこともかねて,困っている人を助けるのも悪くないのかもな。
出来るだけ,魔法にかかわらない方向で。
――ところでさっきの光。
石になってた人を治せるってことは『常世の祈り』か『メシアライザー』か。
流石としか言いようがないアリスだな。
◆◇◆◇◆
~俺の日記~
タイトル:燃える村でアリスの大進撃
時期:小学生の時に行ったイギリス旅行
今日は家族でイギリス旅行。
あまりおいしくないと聞いていた料理もついつい調子にのって食べ過ぎてしまいました。
そのあとアリスと二人で散歩に行くと,悪まにおそわれた村が燃えていました。
なのでアリスに悪まをたおしてもらいました,やっぱりアリスは強かったです。
そのと中で赤毛の少年と会いました。
少年のお父さんがお姉さんみたいにちゃんと少年の面どうを見てあげたらいいなと思いました。
あと,少年のおじいさんや村の人が石になっていたみたいなので直してあげておきました。
ま法にかかわるのはできるだけさけたいけれど,今日みたいに力になれることはうれしいなと思いました。
○先生のコメント
先生は今回怒っています。理由は聞かなくてももちろんわかっていると思います。大きな分岐点に切れ目を入れることは後の道が激しく変わることを意味しています。この後の展開が予測不可能になったら君は一体どうするのですか? 少しは先生の気持ちも考えてほしいと思います。
ですが君自身の意思で魔法にかかわったこと,これは大いに評価せざるを得ません。力をきちんとふるったことは素晴らしい。よって今回は特例中の特例として,赤点を免除します。本来ならば赤点確実ですが,先生最後の温情です。これ以上はないのできちんと注意してください。
これからの君の人生が幸多く,たくさんの人々から愛され尊敬されることを切に,切に願います。
アリスちゃんスキル大公開
そのいち:絶対零度
氷結系大ダメージを複数回。
燃えてる村なんて一瞬で氷漬けだ!
そのに:常世の祈り,あるいは,メシアライザー
味方全員を全回復プラス状態異常を回復。
さすが我らが天使,上級悪魔の石化なんていちころだ!
それと作中で主人公とネギ君が普通に話していますが,細かいことは! の精神で見ていただけるとありがたいです。