俺の転生日記~なんでいったい俺なんだ~ 作:やわらかチキンカツ
あの雪の日以来,俺はアリスと一緒にボランティアに励んでいる。
といっても清掃だとか植林だとか,そんな感じの普通のボランティアとは少し違う。
ふわふわそこらで浮いている,幽霊専門のお助け家ってやつだな。
実は俺,幽霊が見えるんだ。
いや,これはマジな話でな。
現在幽霊にカテゴライズされているアリスが見える俺は,他の幽霊も派生的に見えるってわけだ。
ボランティアしようと思ったのも単なる思い付きから。
幽霊はもう死んでるわけだからアリスのお友達になれんじゃね? って軽い気持ちからだったんだ。
生きている人間には迷惑かけないしアリスは遊び相手もできる,俺はアリスがお友達と遊んでいる間に普通の人間の友だちと遊べる。
これはお買い得,今がチャンスですよ奥さん!
そんなわけで,俺はボランティアに励んでいる。
アリス自身も楽しんでいるようで,いろんな友達を紹介してくれる。
でもねアリスさん,腕が吹っ飛んだり足が吹っ飛んだ幽霊連れてこられても俺は金魚の真似しかできませんよ,ぱくぱく。
ちなみに小遣い稼ぎにもなっている。
幽霊が原因の怪現象を解決すればお礼が貰えたりもするわけだな。
幽霊は意外に話の通じる友好的な相手が多いし,大半の幽霊は一人ぼっちで寂しがっている場合が多い。
まぁ。何かしらの無念があって留まっているのが幽霊の本質で,俺とかアリスが話を聞けば満足してくれたりする。
成仏したいというなら力になることも出来る。
もちろん,すべてがすべて,幽霊が友好的ってわけでもない。
中には逆恨みしてきたり,盲目的に募った恨みをぶつけてくる相手もいる。
俺にはアリスがついているんで何の問題もないんですがね。
どんなにでかい声で叫んでも,どんなに激しくポルターガイスト現象が起きようとも,アリスのワンパンで余裕ですわ。
いやーしかし,本当に帝都の守護者かGSまがいのことをしてるとは……世の中ままならんな。
あぁ,俺が願った普通の学生生活,普通の結婚,普通の人生がこうも露と消えるとは……
度胸だけは無駄についたし……夢の中で適当に答えた俺のアホーっ!
もっと言えば転生なんてさせやがった神様のあほーっ!
正直わかってましたよ,人生はままならないものだなんてことは。
なんてったってこれでも二度目の人生だからな!
一度目の時にしっかり経験してるからな! 耐性だってちゃんとついているんだからな!
そんな件のアリスは俺の部屋で楽しそうに遊んでもらっている。
なんでも最近一番仲良しのお友達――幽霊なんだそうな。
その子はアリスよりも少し年上で,前は昔風なぱっつん,後ろは腰近くまで伸ばしている白い髪が特徴的。
愛らしい女子用の黒い制服に身を包み,ちょっぴり幸薄そうな顔立ち。
「今日は世界樹に登ろうよーさよちゃん」
「はい! お友達と登るのははじめてです!」
麻帆良在住の地縛霊,相坂さよちゃんでした。
――わかってる,皆まで言わずともわかっている。
俺の部屋があるのが麻帆良の男子寮の一室だってことも,運よく角部屋だから一人ってことも,俺が麻帆良男子中等部に通っているってことも,事実だってことはわかってる。
そうです,起きちゃったんです,バタフライ効果が。
蝶の羽ばたきが未来を変えるように,まーったく麻帆良に縁もゆかりもない人生を送るはずだった俺は運命のいたずらに翻弄されて……
まぁ。父親の勤め先が麻帆良学園都市と懇意にしていて,良ければ息子さんを通わせてみない? って誘われたみたいで。
ひとり暮らしをするのは人生の糧になると,麻帆良では最新の教育が受けられるからと,出来たら夫婦でいちゃいちゃしたいからと説得されてここにいるわけだ。
不満はないよ? 両親の希望は叶えて上げたいと思うのは本心だし。
本当だよ? 不満はないんだ。うん。ないんだ……
そして俺は気づいた。
『俺の日記』のムカつくコメント欄に書かれていた一文がこれを意味していたんだと。
曰く,『大きな分岐点に切れ目を入れることは後の道が激しく変わることを意味しています』。
つまりあの雪の日,義心に誘われて悪魔をアリスに倒してもらったことが俺の現状を生み出したわけだ。
『俺の日記』の更新条件は原作に近づく行動をとること。
つまりあの一件が俺を麻帆良へといざなったんだよ!
「探偵さん大丈夫?」
あー,大丈夫ですよー,心配してくれるなんてやっぱりアリスは良い子。
ちょっと現実を受け入れられなくて――もう遅いだろって年月を麻帆良で過ごしてるけど,整理してみて改めて打ちひしがれているだけだからさ。
もう麻帆良から逃げるってことは諦めた。
代わりに出来る限り,原作に近づかないように逃げられる力をつけようではないか。
頭の方には自信はないがアリスといっぱい遊んできたからな,運動神経にはちょっとばかり自信がある。
アリスと一緒に一体どれだけの山を越え森を越え川を越えたものか……過去の俺に拍手を送りたいね。
「じゃあアリス,夕飯までには帰って来いよー」
「はーい。さよちゃんもいっしょに食べようね」
「今日も良いんですか?」
「うん。良いよね探偵さん」
いや,良いけどね。
おじさんそーゆーことは先に伝えてほしかったかな。
ひらひら手を振れば二人は壁を抜けてすっと外に。
これを見ると幽霊なんだと改めて思い知らされるね。
しかし……ある意味,現状は最良の結果だったのかもしれない。
何故かって? たかが見たこともない悪魔をアリスが倒したくらいで必死に逃れようとしていた俺が麻帆良で生活を送る羽目になったんだ。
つまり,仮にもしも,もしも俺があの時思い浮かんだ悪魔の発想。
黒幕である『完全なる世界』をどうにかして探し出して,アリスと一緒に乗り込んでいたとすれば……
はっはー。想像したくもないね。
実は俺の両親は魔法使いで滅ぼされた国の王族の末裔で俺に眠った力ががが,といった事態になりかねん。
実はネギ少年ともう知り合っていて憧れ満載にいだかれているなんててて,とかいった事態になりかねん。
実は許嫁がいてそれは原作の主要登場人物で昔からお慕いしていましたたた,とかいった事態になりかねん。
と,かなり二次創作に偏った考え方だったな。
反省しよう……orz
それはゴミ箱に丸めたティッシュにくるんで捨てておいたとしても,だ。
きっとかなりの影響を世界に与えることになったのは間違いないだろう。
具体的には想像もつかんが。ネギ少年が悪者になるとかかな?
現状は最良の選択の結果。
結果おーらい,のーぷろぐれむ。
そう信じるしかないもんな。
――相坂さよ――
はじめまして。長い間麻帆良で幽霊をやらせていただいています,相坂さよといいます。
麻帆良学園中等部の教室で幽霊を続けています。
幽霊歴約六十年! 結構なベテランだと思っています。
……ごめんなさい。いきなり嘘をついてしまいました。
本当は幽霊なのに全然幽霊の才能がない落ちこぼれなんです。
暗いところは嫌いなので夜になると教室から抜け出してコンビニとか明るいところで時間をつぶしていますし,脅かそうと思っても誰にも気づいてもらえないし。
同じ幽霊さんにも気づいてもらえなかったりもするんです。
正直,本当に寂しかったです……
そんな時でした!
ある夜のことです。月がきれいだったのを覚えていますよ。
私がいつものように暗い教室から抜け出してコンビニに行くと,買い物をして出てきたひとりの男の子が見えたんです。
桜の時期でしたし,新入生さんだなーって思っていたら目が合ったんです。手を振り返してくれたんです!
最初は私の後ろに友達がいるのかな? って思いました。
でもぐるぐる辺りを見渡しても周りには誰もいなくて……
私,うれしくなってちょっぴり脅かしてやろうって思ったんです。
気づいてくれていなかったらそれはそれで。
でももし気づいてくれていたなら,幽霊っぽく脅かしてみたかったんです。
幽霊の血がうずいたんです!
ふわふわっと彼の後ろに回り込んで,かさかさっと木の葉を揺らしてみて。
くるっと私の方に振り向いたときに……ばぁ!
「お姉さん,探偵さんのお友達だち?」
その瞬間に私は悟りました。
私,死んだなーって。
死んでいるんですけどね,六十年近く前に死んでいるんですけどね。
さっきの男の子のすぐ傍にいた金髪のかわいらしい女の子。
彼女の眼を見た途端,私は音もなく消えてしまうんじゃないかと思ってしまいました。
幽霊歴だけ無駄に長い私は怨霊というものに出会ったことがあります。
生前の恨み,辛み,憎しみ,怒り。
ありとあらゆる負の感情が凝縮し,坩堝となって周囲のそれと取り込んで増大する。
心を削られるような叫び声を私は聞いたことがあります。
でも,目の前の女の子は,そんなものの非じゃありません。
入口は無垢で無害な幽霊。
そこに一瞬でも手をかけただけですべての感覚が消え去ってしまう錯覚を受けさせる。
途方もなく禍々しく,底を考えたくもなくなるほどに圧倒的な狂気。
女の子の一言が私のすべてを支配するように。
鈴のように弾む声が私の終焉を知らせているようでした。
「いや,俺もはじめて会うな。あいさつしないと」
「はしめましてー,アリスだよ」
そして私に幽霊になってはじめての友だちができました。
「世界樹はおっきいねー」
「ふわー,ほんとですね」
今では大の仲良しです! ……まだちょっぴり怖いけど。
――超鈴音――
「成功だ! 大いなる一歩ネ!」
その日はワタシの人生にとて重要な節目となる一日だたネ。
二十二年周期で起こる麻帆良の世界樹大発光。
集また魔力を利用し,世界十二箇所の聖地を連動させ世界中に魔法を認識させるための一大プロジェクト。
理を変える大望を胸に,実行へと踏み出した第一歩目。
時空を超えるのは科学の結晶『カシオペア』。
短いスパンでの時間跳躍は何度も実験として繰り返してきた。
ただ,百年以上の長距離移動は正直ぶつけ本番なところもあたヨ。
触媒である世界樹の欠片は大ぶりなものはひとつしか手に入らなかたからネ。
到着地点にワタシが選んだのは関東圏にある名無市
山の中にある今は廃墟となたお堂を選んで,ワタシはその地を座標にして過去に私は降り立たネ。
この地の空気を肺に吸い込み深呼吸する……良い空気だネ。未来とはまるで違うヨ。
背中に背負った巨大なリュックから印刷した過去の写真を取り出し周囲の景色を見比べてみる。
持ってき過ぎたかな,荷物。
うむ,写真と何ら変わりはない!
間違いなく私はタイムスリップに成功したんだヨ!
「転移魔法ってやつか? 俺ははじめてみるぜ」
「いやいや,そんな選ばれた人間にしか使えない魔法とは違う。ワタシが使ったのは科学の力の結晶ネ!」
「科学とな?」
「ああ,このカシオペアを使て……」
と,そこまで話したところでふと気づいたネ。
さきまでワタシ,誰と話していた?
ぎぎぎ。自分でもびくりするくらい首が回らなかたヨ。
目の前にいるのはワタシよりいくつか年上の少年。
それと,傍でアリの巣をつぶしている金髪少女――あれは幽霊だろう。
少年は感心した様子で微笑んできた。
「!?」
まさかワタシの計画がばれていた?
いや,そんなはずはない。
未来のワタシの協力者たちが情報を漏らしたとは考えにくいし,反対勢力が過去にメッセージを送た……これも荒唐無稽だネ。
では高名な預言者が私を歪みとして捕えた。
そして彼は魔法使いによて歪みを正しにやてきたエージェント。
いや,それもないネ。
目の前の彼からは魔力は感じられないし,立ち振る舞いからいくらか武術の心得がみてとれるが……気があるわけでもない。
後ろにいる少女の幽霊も力を秘めているようには見えない。
本当に,どこにでもいそうな幽霊ネ。
そう考えると目の前の彼は――魔法使いの存在を知るただの一般人。
この表現が正確なはずネ。
「そう! ワタシこそカシオペアを起点に巡る旅の魔法使いなのだネ!」
「あーなるほど。北極星を見つけるのに科学の力を使うわけだ」
「その通りヨ!」
意外に博識だネ,この少年。
そういう時期ということかな?
さて,はてどうするか。
記憶を消すにもワタシにそんな魔法は使えないし,電極でも差し込むかネ?
いや,そこまで鬼畜科学者にはなれないネ。
では,ふむ……どうするか。
せかく知り合た最初の過去の人間。
私の計画の妨げになるとは思えないし……夢のために,協力してもらおうかネ。
――――
久々の連休だったので,両親に顔見せをしようと名無市に帰ってきていた。
家に入ってまずびっくりしたのは母親のおなかが膨れていたことだ。
太ったわけじゃない。
二の腕とかは変わらず細いままだし,腹だけが限定的に出ている感じだ。
そこから導き出される答えはたったひとつ!
俺,お兄ちゃんになります。
……言えよ。
どう考えたって妊娠二か月目って感じじゃねーぞ。
臨月越えてるんじゃないかってくらいパンパンです。
なんで連絡くれないのさ!
「連絡したわよー寮長さんに」
携帯ですか? 両親の方針で持ってません。
高校生からというのが我が家のルールらしいです。
確かにあったよ連絡。
寮長からも聞いたよ電話があったってさ。
たださ,急ぎの用事じゃないけど時間あったら電話してって,俺は聞いてたわけでして。
嫌われてんのか俺?
そう思ってついつい家を飛び出して,裏にあるアリスといつも遊んでいた廃墟のお堂にやってきた。
アリスは好きなひとり遊びのひとつ,アリの巣つぶしをやっている。
人としてどうなんだそれは。ってアリスは人じゃないのか。
はぁ。ため息が漏れたのは仕方ない仕方ない。
母親はあーゆー性格なのは昔から昔から。
父親は新婚気分だと調子に乗ってたんだろう――後で一発入れとこう。
がしがし頭をかくと,アリスがふっと指を差す。
「探偵さん,その辺なにか変だよ」
指さされたのは何もない空間。
幽霊か? そう思って見渡してみるが何もいないね。
と,アリスにも間違うことがあるんだなーと明後日のことを考えていた時だった。
めきびり。
親方ー! 何もないとこから女の子がー!
ずりずりっと顔をのぞかせたのは中華風のお団子ヘアーの女の子。
俺よりいくらか年下だろうか。
背中には身長よりずっと大きなリュック。ぱんぱんに詰まっているのがよくわかる。
「成功だ! 大いなる一歩ネ!」
深呼吸して,リュックから写真を取り出して,周囲を見渡して。
やることがいっぱいありそうで忙しそうだな。
しかし恐らくこれは……来る時が来たということか。
「転移魔法ってやつか? 俺ははじめてみるぜ」
フランクにいこう。
アリスの時もそうだったが,女の子にはまずこっちから話しかけるのが先決だからな。
「いやいや,そんな選ばれた人間にしか使えない魔法とは違う。ワタシが使ったのは科学の力の結晶ネ!」
「科学とな?」
「ああ,このカシオペアを使て……」
ぎぎぎ。油の切れた人形みたいにゆっくりと女の子はこっちを向いた。
ぐるり。上下左右に黒目が動いて。
「そう! ワタシこそカシオペアを起点に巡る旅の魔法使いなのだネ!」
なるほど,予想通り魔法使いみたいだ。
ついに俺も魔法にかかわる時が来てしまったのか……
長かったようで短かったようで,訪れてほしくなかったようでもう諦めていたようで。
「あーなるほど。北極星を見つけるのに科学の力を使うわけだ」
「その通りヨ!」
まぁ。年齢よろしく色々調べていたことは否定しない。
しゃーないやん! 男の子にはそーゆー時期は必ずあるんだい!
俺のクラスでも秘められた力が……とか言ってるリーゼントいるぜ。
新たな流派を開いたのだ! とか言ってるイケメンもいるぜ。
みんなが通る,デリケートな時期だからな。
しかし初めて知り合った魔法使いが俺より年下とは。
まぁいいや。この子ぐらいだったら適当に距離を取りながら魔法の話も聞けるだろう。
幽霊を助けるボランティアをしている以上,いずれ魔法使いとかち合うことになるかもしれない。
事前準備が結果を作る。
アリスの存在が問題にならないように,出来うる限りでやってみますか。
「じゃあ疲れてそうだし,うちで飯でも食うか?」
そういって彼女のリュックを片手げひょいっと。
ぽかーん顔だな。アリスに付き合わされたからか,俺はこれでも力持ちだぜ?
「いろんな魔法の話を教えてくれよな」
◆◇◆◇◆
~俺の日記~
タイトル:幽霊麻帆良魔法使い
時期:麻帆良男子中等部の頃
雪の日以来,俺は幽霊を助けるボランティアにはげんでいます。
アリスの友だちができ,お礼金も偶に貰える割のいい活動だと思っています。
活動の中で,アリスに仲良しの幽霊も出来ました。
アリスの友達は麻帆良在住の相坂という名前の地縛霊です。
ちなみに俺は今,麻帆良学園に通っています。
雪の日の事件に関わったことがこの現状を引き起こしていると思うので,これからはバタフライ効果に気を付けながら生活していきたいです。
それと,初めて魔法使いの知り合いができました。
年下ですが思った以上にしっかりしている子なので,俺も負けないようにしなければと思います。
○先生のコメント
まずは前回の謝罪から。先生,あれから考えましたが少し言い過ぎました。間違ったことを言ってはいるとは思いませんが,言い方を考えるべきでしたね。
さて,今回ですが先ず伝えておきましょう――及第点を越えての合格ですね。前回の先生の話を聞いてくれているようで嬉しいです。徐々に,じわじわとかかわっていくことは良い事ですね。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ,とは昔から伝わる格言ですが,正しくそれを実戦で来ているのではないでしょうか。
この瞬間を踏み台にさらに裾野を広げていけるよう,これまで以上の努力を重ねてくださいね。
これからの君の人生が幸多く,たくさんの人々から愛され尊敬されることを願います。
アリスちゃんの見え方
一般人から:見えない
魔法使いから:どこにでもいそうな普通の幽霊
幽霊から:あれ? 私,死んでるのに死んじゃう?
高位存在から:幽霊の皮をかぶったもっと禍々しいナニカ
ちなみに四六時中一緒にいる主人公にはアリスのニオイがしっかりとこびりついている。