胡蝶の夢 遊戯王GX世界   作:くらげ(仮)

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時期はずれ&ソリティア回。



10話 VS前田隼人

「さて、俺達は発つわけだが……遊崎は残るんだな」

「ええ、ご家族とのひと時を過ごしてください。レッド寮には十代や翔君、隼人君もいますし寂しくはないです」

「女の子なのに、実家に戻らないのは――いいえ、なんでもないわ、ごめんなさい」

 

 絶海の孤島に立つデュエルアカデミア唯一の出入り口――船着場で三沢と握手をする。

 南海ゆえに感じ辛いが季節は冬。学生最大の楽しみ、長期休暇である。特にこの学園で家族に会える唯一と言って良い機会。年越しくらいは家族の顔を見て過ごしたい人が多いだろう。

 明日香さんが一瞬何かを言いかけるが、すぐに止める。

 こういうとき、すぐに人に配慮できるのが彼女の美点だと思う。

 

「ありがとう御座います、明日香さん」

 

 私の家族は遠いところに居るとだけ話している。

 別の世界とも言わず、なんとも取れるニュアンスのこの言葉に、突っ込んだことを聞いてくる人はいない。その心遣いに感謝だ。

 

「あ、そういえば二人に渡したいものがあったんです」

「渡したいもの?」

 

 とはいえ、せっかくの冬休みなのだ。

 湿っぽい雰囲気のまま終わるのも無粋と言うものである。

 

「ええ、ちょっとはやいですけど――クリスマス・プレゼントです」

 

 懐から何枚かのラッピングされたカードを取り出し、彼らに渡す。

 こうやって贈り物をするのも初めてなので、上手く包めたのか不安だが、彼らは受け取ってくれた。

 

「――へえ、これは――!」

「ちょっと三沢、今開けるの?」

「墓地に天使族が四体か……だがこれは特殊召喚条件であって生贄召喚やヴァルハラにも対応している。となれば……」

 

 その場ですぐに包みを開ける三沢に明日香さんが少しジト目を送る。

 だが、彼女も決闘者。中身が気になるらしく、包みを指先でちょっと開けてみようかと悩んでいるのが分かる。

 

「別に、今あけても良いですよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて――これは――!」

 

 おずおずと袋を開けた明日香さんの目が驚愕に染まる。

 二人とも時を忘れたようにもらったカードを真剣に見つめていた。

 

「しかし、自分のメタカードになりうるカードを渡すとは。自信の表れかな?」

「いえ、あの、その……三沢の役に立ちそうなカードだったので、喜んでもらえるかな、と」

 

 先に我に返ったのは三沢だった。

 その口元には不敵な笑み。今すぐにも決闘したくてたまらない、といった感じだ。

 

「勿論だ。こんなカードをもらったらすぐにデッキを組みたくなる。俺の新たな光デッキ――冬休みの間にくみ上げて見せる」

「――ええ、すごく良いカードね。でも、本当にいいの?このカード、凄く高いと思うのだけど」

「貰ってあげて下さい。きっとこの子達も使ってくれる人を待っていますから」

 

 私が用意したプレゼントは、三沢には《大天使クリスティア》と《マスターヒュぺリオン》、明日香さんには《ブリザードプリンセス》と《氷の女王》だ。

この世界では最上級モンスターは高価で取引され、中々入手する機会がないとのこと。私の予想通りどうやら喜んでもらえたようだ。

 

「――じゃあ、かえって来たらデュエルしましょう!」

「行ってくるわ」

「ああ!絶対デュエルしよう!」

 

 手を振る二人に私も精一杯手を振る。

 彼らの姿が見えなくなるまで、私は波止場にたたずんでいた。

 

「ねえ、栞」

 

 船を送った帰り道。不意にウィンダが口を開いた。

 真剣な表情に、私もいつの間にか真顔になっていた。

 

「この世界に来て、良かった?」

「――」

 

 言葉を出さず、ゆっくりと私は首を縦に振った。

 

 

――

 

 そして数日後、時期は聖夜である。

 パーティを終え、みなが寝静まる深夜を待つ。

 小規模ながら楽しいパーティだった。

 トメさんが特別に焼いてくれたケーキを囲み、笑顔のみんなの姿を思い出して、私は思わず口角を吊り上げた。

(……そろそろですね)

 時刻は午前0時。クリスマスの日。

出来うる限りの忍び足でレッド寮の十代たちの部屋へと忍び込む。

 音をさせずに扉を開けると、十代がちょうどよくいびきをかいていて私程度の足音なら打ち消してくれそうだ。

 

「メリー・クリスマス」

 

 小さく呟き、寝返りで折れないよう、細心の注意を払って枕元に綺麗にラッピングしたカードを置いていく。

 ついでに十代の毛布を直して行くサービスつきだ。

 翔君には《ブラック・マジシャンガール》を。そして十代には属性融合HEROと《E・HEROブレイズマン》《E・HEROジアース》などの漫画版HEROセット。

 そして隼人君には――。

 

「あれ?隼人君は――」

 

 カードを置こうとして、ふと気づく。

 隼人君の布団の中はカラだった。

 何処かにいったのかと周囲を見回す。

 

「こっちなんだな。栞」

 

 振り返った私に、隼人君が小さく手招きしていた。

 

「ちょっとだけ、付き合って欲しいんだな」

 

――

 

「なあ、俺カードが好きなんだな」

「――ええ」

 

 寮の外に出て、二人で歩く。

 ウィンダが「何?色恋沙汰?」と喜んでいるが聞かないことにする。

 そんな言葉を封殺するほどに、彼は思いつめた顔をしていた。

 

「だから、遊崎栞に絶対聞かなければならないと思っていたことがあるんだな」

 

 一旦隼人君が言葉を切る。

 その空気に、私は一瞬気圧される。

 

「あの月一試験の時。俺は――見てしまったんだな。周囲が白いカードと黒いカード。融合とも儀式とも違う別の召喚カード」

「――!」

「勝手に見てしまったことは悪いと思っているんだな」

 

 隼人君が軽く目を伏せる。

 あの日、デッキ盗難事件の時、私のカードは部屋中にぶちまけられていた。

 憔悴しきった私にカードを片付けてくれた隼人君が見ていない可能性のほうが低い。

 

「――このことは誰にも言わずに居たかったんだな。でも、知らないカードがあったらどうしても知りたい。その思いも本物なんだな。絶対に他言はしないと誓う。俺だって男なんだな」

「……」

 

 拳を握り締める隼人君。

 彼がカードを愛していることは私も知っている。

 テストの点数こそよくないが、カードの絵柄、背景世界については三沢以上に詳しいと思わせるときがある。

 周囲は既に森の中。時刻は既に深夜。見るものは誰も居ない。

 

「……ねえ、隼人君」

 

 私はデュエルディスクを構える。

 懐から取り出したのは、この世界で使うことはないと思っていたデッキ。

 聖なる夜に使うのにある意味ぴったりなモンスターたち。

 デッキを確認したウィンダがやれやれと首を振っているのが見える。

 分かっている、私は甘すぎる。

 こんなことをすれば、私が何者なのかと言う大きな謎を生み出すだけだ。私にとって易のない話である。

 

「――デュエル、しませんか?」

「――分かったんだな」

 

隼人君も察してくれたのか自らのデッキを取り出す。

私の一挙手一投足を逃すまいと、獣のような鋭い瞳が私を見据えていた。

 

「デュエル!」

 

聖夜。誰にも知られない一戦が始まる。

 

――

 

前田 隼人

LP4000

遊崎 栞

LP4000

 

「俺のターン!ドローなんだな!――まず《手札抹殺》で手札を交換してから、モンスターを裏守備表示で出してカードを二枚セット。ターンエンドなんだな」

 

 隼人は自らのターンを早々に終える。

 彼は彼女のデュエルの殆どを見てきている。

 同じレッド寮とはいえ太刀打ちできるとは限らない。むしろ下手なイエローの生徒よりも重苦しい圧迫感が彼を支配していた。

 

「私のターン。ドロー。――《召集の聖刻印》を使用し手札に《聖刻龍トフェニドラゴン》を加えます。さらに《儀式の準備》で墓地から手札に《祝祷の聖歌》とデッキから手札に《竜姫神サフィラ》を加えます……相手の場にモンスターがおり、私の場にモンスターがいないため《聖刻龍トフェニドラゴン》を特殊召喚」

「攻撃力2100がいきなり――!」

 

聖刻龍トフェニドラゴン

ATK2100 DEF1400

 

 白く、美しい龍が夜空に浮かぶ。

 亮の愛用する《サイバードラゴン》と同じ能力。

 だが、隼人は攻撃できない制約効果を見てほっと息を吐く。

 これだったらこのターンは……。

 

「さらに《聖刻龍トフェニドラゴン》をリリースして《聖刻龍シユウドラゴン》を特殊召喚します。このモンスターは聖刻と名のつくカードをリリースすることで特殊召喚できます。さらに効果によりデッキから通常モンスター……《ガードオブフレムベル》を攻撃力、守備力を0にして特殊召喚します」

「攻撃力2200と……攻撃力0の通常モンスター!?」

 

聖刻龍シユウドラゴン

ATK2200 DEF2100

 

ガード・オブ・フレムベル

ATK100→0 DEF2000→0

 

 隼人は混乱していた。

 蒼い龍を召喚したのは分かる。攻撃を出来ないデメリットの打消しかつダメージの上昇だろう。

 だが、彼女が次に行ったのは炎の龍――攻撃力0のモンスターをなにか効果があるわけでもなく、ただ召喚するだけ。

 壁にするならまだしも彼女は攻撃表示で召喚している。殴ってくれと言っているようなものだ。どんな弱小モンスターだって殴り勝てる。

 チューナーと言う文字があるが、彼には知る由もない。

 

 

「《聖刻龍シユウドラゴン》をリリースし《祝祷の聖歌》を発動!――白き翼の竜姫よ、聖なる詩とともに降臨せよ――《竜姫神サフィラ》を儀式召喚します」

 

竜姫神サフィラ

ATK2500 DEF2400

 

妙なる音色とともに美しい龍が降臨する。

儀式召喚、それは隼人も見慣れたものだ。やや緊張しながら彼は栞を見据える。

なぜ通常モンスターを生贄にしないのか、その考えが隼人の中を回り続けていた。

 

「リリースされた《聖刻龍シユウドラゴン》の効果で《ラブラドライドラゴン》を攻撃力0守備力0で特殊召喚します」

 

ラブラドライドラゴン

ATK0 DEF2400→0

 

「また、攻撃力守備力0の通常モンスターなんだな」

 

 現れたのは美しい鱗を持つ龍。

 だが、さっきの炎の龍と同じく攻撃力守備力は0。

 何をする気なのかと隼人が訝しげに栞を見たとき、それは始まった。

 

「私はレベル6の《ラブラドライドラゴン》と同じくレベル6の《竜姫神サフィラ》でオーバーレイネットワークを構築――聖なる刻印を持つ龍を束ねし王よ、降臨し龍を呼び出せ――」

「オーバーレイ――な、何が起こっているんだな!?」

 

 同じレベルのモンスター二体が、地面に出来た渦に吸い込まれる。

 直後、新たな黄金の龍がその場に降臨していた。

 

「ランク6《聖刻龍王アトゥムス》をエクシーズ召喚します!」

 

聖刻龍王アトゥムス

ATK2400 DEF2100

 

「エクシーズ召喚!?」

 

 それは隼人がかつて見た黒いカードの一枚。

 同じレベルのモンスター二体を揃え、召喚されるモンスター。

 

「だ、だけど攻撃力は下がってるんだな」

「エクシーズ召喚。それは同じレベルのモンスター二体をオーバーレイ・ユニットとし、その上に重ねて召喚できるモンスターです。彼らはそのオーバーレイユニットを消費することで力を振るいますオーバーレイユニットとなったサフィラを墓地に送り、デッキから《レッドアイズダークネスメタルドラゴン》を攻撃力0守備力0で召喚します」

 

レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン

ATK2800→0 DEF2400→0

 

 もはやおなじみになった攻撃力守備力0での特殊召喚。だが今回は効果モンスターも可能である。呼び出された黒の龍のただならぬ雰囲気に、隼人は冷や汗をかく。

 

「《レッドアイズダークネスメタルドラゴン》の効果発動。墓地より《聖刻龍シユウドラゴン》を蘇生します」

 

聖刻龍シユウドラゴン

ATK2200 DEF2100

 

黒の龍の吼え声に従い、再び墓地より舞い戻る蒼き龍。

しかしなぜ《龍姫神サフィラ》を戻さないのかと隼人はいぶかしみ、その直後その理由を知る。

 

「手札から《巨竜の羽ばたき》を発動。《レッドアイズダークネスメタルドラゴン》を手札に戻し、場の魔法、トラップを全て破壊しますそして場の《聖刻龍シユウドラゴン》を除外し《レッドアイズダークネスメタルドラゴン》を特殊召喚します。そして効果により墓地から《竜姫神サフィラ》を特殊召喚します」

「う……場のカードが!?」

 

 黒い龍が羽ばたき、隼人の場の罠を全て破壊する。

 そして手札にもどるや否や再び場に現れ《龍姫神サフィラ》を蘇生。

 しかも龍自体も完全に能力が戻っている。あまりに簡単かつ凶悪な効果に隼人は目を見張る。

 

「私はレベル10《レッドアイズダークネスメタルドラゴン》にレベル1《ガードオブフレムベル》をチューニング――集いし星よ、希望を示し天翔ける翼となれ――」

 

 呼び出したモンスターを栞は即座に素材にする。

 レベルが足されるエフェクト。

 炎の龍が輪となり、その内側を黒き龍が駆け抜ける。

 隼人はそれをただ眺めるしかなかった。

 

「――シンクロ召喚。レベル11《星態龍》!」

 

星態龍

ATK3200 DEF2800

 

 現れたのは星を抱く紅の龍。

 獰猛さと美しさ、両方が混在したモンスター。

 隼人が見た白いカード。

 

「これが、シンクロ召喚――!」

「チューナーモンスター。そしてそうでないモンスターのレベルを足し合わせる。それがシンクロ召喚です――さらに《龍の鏡》を発動します。墓地の《ガードオブフレムベル》と《手札抹殺》で墓地に送られた四龍を融合し――五つの首持つ龍よ!その力を持って制圧者となれ――《FGD》を融合召喚!」

 

FGD

ATK5000 DEF5000

 

 鏡が墓地を取り込み、現れたのは五つの首を持つ巨大な龍。

 デュエルモンスターズ史上最強火力を持つモンスターの一角、《FGD》が隼人を見下ろしていた。

 

「《聖刻龍王アトゥムス》は効果を使ったタイミングでは攻撃が出来ません――ゆえに《聖刻龍王アトゥムス》でさらにオーバーレイネットワークを再構築します。ランク7《迅雷の騎士ガイアドラグーン》をエクシーズ召喚します」

 

迅雷の騎士ガイアドラグーン

ATK2600 DEF2100

 

 再び現れた黒い渦に紫の龍が吸い込まれ、現れたのは緑の龍騎士。

 その周囲には素材となった《聖刻龍王アトゥムス》が回転している。

 

「――バトルフェイズに入ります」

「……」

 

 隼人は静かに後ずさる。

 攻撃力3200のシンクロモンスター星態龍。

 攻撃力2600のエクシーズモンスターガイアドラグーン

 攻撃力2500の儀式モンスター、竜姫神サフィラ

 攻撃力5000の融合モンスター、FGD

 そのすべてが強力なドラゴン族モンスターであり、彼のモンスターで止める手立てはない。

 隼人には見えていないが、栞の隣でウィンダがやれやれと首を振っていた。

 

「――《迅雷の騎士ガイアドラグーン》でセットモンスターに攻撃!」

 

 聖夜の決闘は、こうして幕を閉じた。

 

――

 

「エクシーズ、そしてシンクロ……」

 

 倒れた栞の身体を支えながら隼人は考える。

 デュエルの内容は完敗だった。

 しかし、得るものも多かった。

 新たな二つの召喚方法。それを目の前で見ることができた幸せをかみ締める。

 

「あれは、きっと――」

 

 未来のモンスター。そういいかけて彼は口を閉じる。

 だとすれば、栞は未来人と言うことになる。

 なんとなくそれは違うように思えた。

 だとすれば――。

 

「異世界から来た…?」

 

 それは、あまりにとっぴな考え。

 しかし、それがあまりにもしっくりと来て、隼人は苦笑した。

 




栞、社長ごっこをする。

最初はセフィラの予定だったのですが、《エンシェント・フェアリードラゴン》で《セフィラの神託》を使いまわす程度のコンボしか思いつかず断念しました。

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