デュエルアカデミアの校長室。
いきなり呼び出しを喰らった私は、鮫島校長とクロノス教諭の話を聞いていた。
「ノース校への一時的な遠征、ですか」
「ウィンターバケーションとはいっても、学生の本分は勉強なノーネ。しっかり学んでドロップアウトをさっさと卒業するーノ!」
「ええ、ノース校へ、冬休みの残りの時間を使ってノース校への一時的な留学を行ってください。勿論交通費などはこちらが負担します」
てっきり出席日数の件でついに退学などの処罰が下されたのかと内心では怯えていた私は心の中で安堵のため息をついた。
ちなみに第一回以降の月一試験はすべて現状維持である。同じ程度の実力と言うことで十代とデュエルするのだが未だに私は勝てていない。十代は昇格を拒否してレッドに居座るので、私は昇格できないという状況だ。
「しかし、どうして私なのですか?」
「はい、疑問を持つのは無理もありませんね――表向きは留学、という形なのですが今年の対抗戦を行うに当たって、敵情視察といきたいところなのです。特にノース校の代表生徒は冬休みを学校で過ごし修練に励んでいると言います。故にそれなりの腕を持つデュエリストを送り込みたい所です」
一旦言葉を切り、校長が私を見据える。
「遊崎さん、君はレッド寮の中でも十代君に近い実力の持ち主です。――オシリスレッドの出席規定はイエローに比べて大分ゆるいですからね。レッドに実力者が居る、というのはありがたい話です」
「それに、ドロップアウトガール。ガールの単位の件もあるノーネ。バケーションのうちにこのような課外授業を取ることによって何とか進級させるという考えもあるノーネ」
「――ありがとう御座います」
単位の補填。確かにこれはありがたい。
クロノス教諭に深々と頭を下げる。
その様子を見て、クロノス教諭はにんまりと笑った。
「ベネ!じゃあサクッと準備するーノ!」
「頼みましたよ、絶対に!何かを掴んできてください!」
やたら必死な表情の校長先生。手を強く握り締め、汗を滲ませてすらいる。
そういえば対抗試合では何か色々勝ったほうにご褒美があるという話だ。
普段は稚気を宿す彼が力説するとは、褒美はそれほどのものなのだろう。ウィンダは「そうせ碌なものじゃない気がするけどね」と肩をすくめていたが。
「失礼しました」
再び頭を下げ、私は校長室を後にする。
冬休みの後半、私の留学が決定した。
――
一旦決定すると、デュエルアカデミアの行動は早い。この学園のオーナーに似た即断即決である。
デッキの構築をなおす時間も無く、即座に潜水艦に詰め込まれての移動。
十代たちに報告する時間も無かった。今頃私を探してくれているのでは?と少し心配になる。
そして、潜水艦で十数時間の移動を経て、私はノース校にたどり着いていた。
氷の世界の前に置かれた分厚い門。
デッキを持つものしか開かないと言うそこに、私は手をかざす。
軋みを上げ、開く扉。
――その奥の世界は――
「……なあにこれえ」
西洋……否、開拓時代と表現するのが正しい町並みが広がっていた。
土煙を上げる道、木製の看板の店、うらぶれたバー。そして枯れ草が転がっていく。わずかな血と硝煙の香りすらする。
ウィンダがおもわずこぼすが、私も同様の気分である。何をどうしたらこのような場所になったのだろうか。本当にここは教育機関なのかと首を傾げたくなる。
数人の住人――随分歳を召して居るようだが、生徒なのだろうか?――が私を見てにやにやと笑っている。その手にはバーボンやテキーラと思しき酒瓶が握られていた。
「おいおいこんな時期に来るなんてよぉ」
「おうおうおう、えらいハリキリガールがやってきたじゃねぇか」
男二人が立ち上がり、私に声をかける。
茶色のベストにシャツを着込み、カーボウイハットを被ったその姿は生徒には見えない。というよりも堅気に見えなかった。
(本当にここはデュエルアカデミアの分校なのでしょうか……?)
絶対に違うと思いたい。
さっき門にデュエルアカデミアノース校と書いてあったがきっと気のせいだ。
私、もしくは潜水艦の操舵手が間違った、そうに違いない。
「え、ええと……アカデミア、ノース校を探しているのですが……」
「あ!?ここに決まってんだろ!ふざけてんのかこのアマ!」
「いっちょもんでやろうか?」
「見せてもらおうじゃないか、ハリキリガールの実力をよお!」
(あ、やっぱりここであっていたのですね)
軽い絶望感に苛まれつつ、周囲を見回す。
デュエルをすること自体に問題はないが終わった後が問題だ。
こんなところで気絶したら間違いなく駄目な気がする。
棺桶に詰め込まれて連れて行かれたり、その先で鉱山労働させられたりするに違いない。
「あの、その……ええと……」
「あ!?デュエルできないってのか?」
「その左手のディスクとデッキは飾りかよお!?」
「このノース校では力が全てだ!デュエルできないってんならそのデッキをもらおうじゃねえか!」
「……っ!」
何か言葉を返す暇もなく腕を掴まれ、拘束される。
必死にもがくが、私程度の筋力では男二人を剥がすのは至難の業だ。
「栞っ!」
ウィンダが叫ぶのが聴こえる。
奴らの手が私の左上、デッキに伸びている。
左手のディスクが剥がされ、デッキが奪われる光景。それを私は見ることしか――。
「――おい、デュエルしろよ」
私を救ったのは一人の男だった。
黒い髪を後ろで束ねた精悍な人物だった。
彼は不敵な笑みを浮かべ、自らのデュエルディスクを構える。
「何だお前は――って橘か」
「お前程度の実力で俺達にかなうとでも思っているのか?」
「――たとえかなわなくても、人のデッキを奪うような奴に俺は負けない」
「はっ!言うじゃねえか!使えないデッキを使う浪漫野郎がよ!」
「俺のデッキをバカにする奴は、誰であっても許さん!」
橘――そう呼ばれた男と、私のデッキを取り上げようとしていた男。二人はデュエルディスクを構える。
もう一人の男は未だに私を拘束したままデュエルを見つめている。
振り払おうともがくが、筋力差はいかんともしがたい。
結局私はデュエルを見ることしかできなかった。
「「デュエル!」」
ノース校生徒
LP4000
橘 一角
LP4000
「俺のターン!ふふ……大口を叩いた代償は高くつくぞ!まず《天使の施し》を発動して三枚ドローして二枚捨てる――そして《切り込み隊長》を通常召喚!効果によって戦士族モンスターの《バルキリーナイト》を特殊召喚!」
切り込み隊長
ATK1200 DEF400
バルキリーナイト
ATK1900 DEF1200
現れたのは金髪の男性と女性。
どちらも攻撃を自分に引き寄せる効果があるため、実質的に攻撃できない状況が完成する。
「俺はこれでターンエンドだ。さあ浪漫野郎。さっさとお前のターンを始めるんだな!それとももうサレンダーか?」
「抜かせ!俺のターン――ドロー!」
橘さんが手札を確認し――にやりと笑う。
「見せてやる!俺の一撃必殺を!俺はモンスターカードをセットし《太陽の書》を発動!モンスターを表側表示に変更する――《大王目玉》を反転召喚!」
大王目玉
ATK1200 DEF1000
巨大な目玉を全身につけた悪魔が、ぎょろりと橘さんのデッキを睨み、デッキトップのカードを弄り始める。
このモンスターが持つのはデッキトップの5枚を確認し、任意の順番に並べる能力。
とはいえ、サーチカードが主流の時代においてはデッキの順を並び替えてもシャッフルによってすぐに入れ替わる。
二枚のカードを使ってまで即座に確認する理由が思い浮かばず私は首を傾げる。
「――ふふ、最高だ!俺の必殺コンボを見せてやる!《一撃必殺!居合いドロー》を発動!コストとして手札一枚と場のカードと同じ枚数デッキからカードを捨てて発動する。デッキトップを確認し、そのカードが《一撃必殺!居合いドロー》であった場合そのカードを墓地に送り、場のカードを全て破壊。破壊したカード×1000のダメージを相手に与える!」
「けっ!ギャンブルカードじゃねえか!安全に発動するために《大王目玉》を使ったことは褒めてやるがそれだと3000ダメージ止まり。次のターンでお前は終わりだ!」
橘さんが4枚のカードを墓地に送る。
《一撃必殺!居合いドロー》は発動したこのカードも墓地送りの枚数に含めてしまう。しかも破壊したダメージに含めることはできない。
男のいうとおり《大玉目玉》を使った安全な発動では一撃必殺は望めず、召喚権を使った彼には次のターンを凌ぐのは難しい。
だが、橘さんは不敵に笑う。
「それはどうかな!」
「――何っ!?」
「俺が墓地に送ったカードには《ライトロード・ビーストウォルフ》が含まれていた!このカードは墓地に送られたとき特殊召喚できる!」
ライトロード・ビーストウォルフ
ATK2100 DEF300
「場にモンスターが4体――!」
「そして、カードをドロー!俺がドローしたカードは当然!さっき操作した《一撃必殺!居合いドロー》だ!」
「なん……だと……!」
橘さんがカードを引く。その動きはまさに居合いのようだ。
現れた閃光が視界を覆い、モンスターを砕き散らす。
「破壊したカードは4枚!4000ダメージを食らえ!」
「ぐぅあああぁぁぁっ!?」
ノース校生徒
LP4000→2000
「これで……満足したぜ……!」
土煙が上がり、二人の姿が掻き消える。
だが、LPが0になったことを知らせるブザーはなっていない。
「――いやあ素晴らしいコンボだったぜ。だが、俺はダメージを半分しか受けていない」
「何ぃっ!?」
「俺は墓地からトラップカード《ダメージダイエット》を――発動していた。このカードの効果により俺の受けるダメージは半分になった」
「――く、俺はカードをセットしてターンエンドだ!」
橘さんがターンを終了する。
既に場はがら空き、4000のLPがあっても厳しい状況。
彼の表情は苦悶に染まっていた。
「俺のターン、ドロー!――浪漫野郎!確かにお前の新たなデッキは素晴らしかった!コンボも!戦術も!だけど、全然!この俺を倒すのには程遠いんだよねぇ!――俺は《切り込み隊長》を召喚!効果で《コマンドナイト》を特殊召喚!」
切り込み隊長
ATK1200→1600 DEF400
コマンドナイト
ATK1200→1600 DEF1900
「《コマンドナイト》の効果により戦士族の攻撃力は400アップする!」
「ぬう……!だが、それだけでは俺のLPを削りきることは出来ない!」
「良い顔だ橘ぁ!コンボ成功と言う希望から、その希望を奪われて、絶望に染まったその表情!最高だぜぇ!――永続魔法《一族の結束》を発動!このカードは墓地のカードの種族が一種類の時のみ俺のフィールドのモンスターの攻撃力を800アップする!」
切り込み隊長
ATK1600→2400
コマンドナイト
ATK1600→2400
「さあ攻撃だ!二体のモンスターでダイレクトアタック!」
「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」
橘 一角
LP4000→0
「けっ!浪漫カードなんかに頼るからこうなるんだ!」
「ちくしょう!あのカードさえ引けていれば……」
「――さあて、ここから先はお楽しみだな」
男が橘さんの手を踏みつける。
そしてその左腕からデッキを抜き取り地面にばら撒く。強風が吹き荒れ、カードが散らされていく。
「俺のデッキに何を――っ!」
「はっ!雑魚になんて用はねえ!」
「そのとおりだ!屑は屑カードしかもってねえんだからよ!さっさと捨てちまうんだな!」
「――ぐはっ……!」
カードを拾おうとはいずる彼に蹴りが加えられる。
大切なデッキを捨てられ、嘲笑される。
その光景を見て、私の中の何かが――弾けた。
私を拘束していた男に、話しかける。
「――デュエルしませんか?」
「っ!――おい!大丈夫なのかアンタ!」
「はい、ここの流儀は理解しました」
橘さんの言葉に私は頷く。
彼に甘え、ここでデュエルを避けたとしても、何も意味はない。
さっきの男の話を総合すると、ここではデュエルの力が全て。
ならば、自らの強さを証明し、居場所を作り出すしかない。
私の雰囲気に気圧されたのか、拘束が緩む。
軽く振り払い、橘さんを庇うような位置でディスクを構える。
「ここで一番強い人を――連れてきてください」
「あ!?お前ごときに出せるかってんだ!この江戸川が相手になってやる!」
バーの中から一人の風体の大きな男が現れる。
周囲の人間が「終わったな」「元生徒会長が出るとは……」と呟くところをみるとそれなりの実力者のようだ。
――さっきから思うのだがこの人たちは本当に生徒なのだろうか。
「分かりました、はじめましょう――」
デッキをセットし、前を向く。
相手と私の間を枯れ草が通り過ぎていった。
「デュエル!」
江戸川
LP4000
遊崎 栞
LP4000
「アレだけ大口叩いたんだ!俺が先攻をもらうぜ!ドロー!……俺は《古のルール》を発動してレベル5以上のモンスターを特殊召喚する!出でよ《デビルゾア》!」
デビルゾア
ATK2600 DEF1900
相手の呼び出した高レベルモンスターに周囲が沸く。
どうやら本当に実力者のようだ。
「さらに《おろかな埋葬》で《処刑人マキュラ》を墓地に送り、手札からトラップを発動できるようにするぜ!《デビルゾア》に《メタル化-魔法反射装甲》を装備!メタル化したこのカードを生贄に真の姿を呼び出すぜ!出でよ!《メタル・デビルゾア》!さらに《リビングデットの呼び声》を使って《デビルゾア》を蘇生だ!」
メタル・デビルゾア
ATK3000 DEF2300
デビルゾア
ATK2600 DEF1900
そして、もう一体現れたのは金属の鎧を纏った悪魔。
視界の端ではやや心配そうな顔をした橘さんが居た。
その視線に私は頷きで返す。
「俺は、これでターンエンド!泣いて謝るなら今のうちだぞ?」
「私のターン。ドロー」
手札を確認し、ウィンダに目配せをする。
このターンで終わらせる。
「私は《マスマティシャン》を通常召喚します。効果を発動してデッキから墓地に《シャドールリザード》を送り、その効果によりさらにデッキから《シャドールビースト》を墓地に送ります。その効果で1ドロー」
マスマティシャン
ATK1500 DEF500
眼鏡をかけたおじいちゃんと言って良い見た目のモンスターが場に現れる。
あの日、三沢から譲ってもらったカード。
召喚するだけで《おろかな埋葬》とほぼ同格の能力を持つ優れたモンスターだ。
「バトルフェイズ――私は《マスクチェンジ・セカンド》を使用し、手札を一枚――《シャドールヘッジホッグ》を捨て《マスマティシャン》を変身させます《M・HEROダイアン》を召喚!――《シャドール・ヘッジホッグ》の効果で《シャドール・ドラゴン》を手札に加えます」
M・HEROダイアン
ATK2800 DEF3000
《マスマティシャン》がマスクを被り、騎士のような鎧を纏ったダイアの英雄に変化する。
元がおじいちゃんなので少しだけよぼよぼな動きだが、そこはご愛嬌だ。
「けっ!攻撃力2800じゃ《メタルデビルゾア》は倒せないぜ!」
「――速攻魔法、《禁じられた聖衣》を発動して《メタルデビルゾア》の攻撃力を600下げます。《M・HEROダイアン》で《メタルデビルゾア》を攻撃します。『ディスバージョン』!」
メタルデビルゾア
ATK3000→2400
江戸川
LP4000→3600
「ちっ!俺のモンスターが……!だが!次のターンで追い上げて――!」
「まだバトルフェイズは終わっていません。《M・HEROダイアン》の効果発動。このモンスターが相手モンスターを破壊したとき、デッキからレベル4以下のE・HEROを呼び出すことができます。《E・HEROシャドー・ミスト》を特殊召喚。効果により《マスクチェンジ》を手札に加えます」
E・HEROシャドーミスト
ATK1000 DEF1500
「弱小モンスターじゃねえか!《デビルゾア》には届かないぜ!」
「速攻魔法、《マスクチェンジ》を発動します。《E・HEROシャドーミスト》を変身させ、《M・HERO闇鬼》にします」
M・HERO闇鬼
ATK2800 DEF1200
現れたのは闇の英雄。
バトルフェイズ中に行われる連続召喚に、周囲の人間が驚愕の表情を浮かべる。
「攻撃力……2800!」
「《M・HERO闇鬼》で《デビルゾア》を攻撃します――『暗黒鬼蹴』」
「く……俺のモンスターが……全滅!?」
江戸川
LP3600→3400
「《M・HERO闇鬼》がモンスターを破壊したので効果を発動します。デッキから《マスクチェンジ》を手札に加えます。そしてさらにそのまま発動!《M・HERO闇鬼》を変身させ、《M・HEROダーク・ロウ》を召喚します」
M・HEROダーク・ロウ
ATK2400 DEF1800
「またHEROを呼ぶだと……!」
「《M・HEROダーク・ロウ》でダイレクトアタックします――『HEROスマッシュ』!」
「ぐ、ぐあ……!」
江戸川
LP3400→1000
HEROたちの連続攻撃が相手のLPを一気に削る。
その一撃を喰らいながらも、相手は口角を吊り上げる。
「――攻撃時の効果はなしか!なら次は俺のターンだ。俺の手札には《死者蘇生》がある!そいつで終わりだ!」
「まだ、バトルフェイズは終わっていません」
その言葉に相手は驚愕の表情を浮かべる。
ウィンダに目配せをすると、彼女はこくりと頷いた。
「速攻魔法《神の写し身との接触》を発動します。場の《M・HEROダーク・ロウ》と手札の《シャドールドラゴン》を融合し――《エルシャドール・ミドラーシュ》を融合召喚します」
エルシャドール・ミドラーシュ
ATK2200 DEF800
このターン最後の融合召喚。
現れたのは、私と一緒に戦ってくれる精霊――ウィンダだ。
彼女は私の指示を待つように、杖を構える。
「――ダイレクトアタック!」
「ぐぁぁぁぁぁ!?」
江戸川
LP1000→0
ウィンダの杖が、相手を貫く。
その光景を見ながら私の意識は闇へと堕ちる。
「――凄いな……あれが1ターンキル……っておい!大丈夫か!?」
最後に聞いたのは、橘さんの心配そうな声だった。
「万丈目さん!ノース校で何があったんですか!?ブルーの頃の貴方はもっと輝いていたはずです!」
「堕ちたのさ、闇より深い……地獄にな」
……と嘘予告してみます。