「はっはっは!気絶しちまいやがった!――お笑いだぜえ!」
倒れ伏す二人を見てロットンは哄笑を上げる。
実際には万丈目が疲弊したところを倒す予定であった。デュエルを出し惜しみをしているが、彼自身も強力なデュエリストである。十全でない万丈目なら倒す自信があった。
栞が勝利した場合、居る時間は短時間、少し我慢するだけでこの学園の頂点が手に入る。
どちらに転んでも彼には美味しい話であった。
しかし、現実は彼にとってさらに都合の良いものだった。
「おい!この二人のデッキを奪って氷原に叩きだせ!」
「は?」
「何でお前なんかに!」
一部の生徒たちが不平の声を上げるのを彼は一瞥する。
五月蝿いだけの奴らだ。
実力では全く苦にならない。兵隊として取っておくにも不要な戦力だ。
「デュエルで不満のある奴全員を相手してやる!――いっせいにかかって来な!」
「何だと!?」
「なめやがって!」
「オレが相手してやる!」
「いや、俺が万丈目さんの敵をとる!」
「5対1だ!かなうわけがない!」
腕に覚えがある5人がロットンの前に躍り出る。
良い展開だ。
ロットンは軽く舌なめずりをした。
「5対1か。じゃあ、ハンデとして先攻と手札を5倍要求するぜ!」
「チッ!いいだろう!」
相手が了承したのを見て、ロットンの笑みはさらに深まる。
25枚引けば、1ターン5キルなどたやすい事だ。
「デュエル!」
ロットン
LP4000
生徒A
LP4000
生徒B
LP4000
生徒C
LP4000
生徒D
LP4000
生徒E
LP4000
「俺のターン!ドロー!俺は《ガトリングオーガ》を召喚!さらにカードを5枚伏せて効果発動!伏せたカードを墓地に送りその枚数×800のダメージを与えるぜ!」
ガトリングオーガ
ATK800 DEF800
「何だとっ……!?」
ガトリング砲を背負った鬼がロットンの場に出現する。
場の伏せカードは5枚。
LP4000があっという間に削り落とされる値だ。
「さあ粗挽き肉団子にしてやるぜぇ!『ガトリングファイヤー』!」
「ぐわぁぁぁぁあぁっ!?」
生徒A
LP4000→0
ガトリング砲が発射され、一人の生徒が倒れ伏す。
周囲の生徒達は声もない、といったところか。
その様子を見てロットンは口角を吊り上げる。
「まだまだ弾は一杯あるぜ!俺はカードを5枚伏せて再び効果発動!『ガトリングファイヤー』!」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」
生徒B
LP4000→0
「さあ三人目……」
「ひ、ひぃっ……やめろ……、来るなっ……!」
二人目が倒れたことで、後ずさる生徒をロットンは嗜虐的な笑みで眺める。
さっきまで威勢よく啖呵を切った奴が哀れに命乞いをする姿を見るのはたまらない快感だ。
「カードを5枚伏せて効果発動!『ガトリングファイヤー』!」
「うぐぁぁぁっ!?」
生徒C
LP4000→0
「さあ次はお前だ!」
「さっさと来い、その時がお前の最期だ!」
「けっ!面白くねえ!さっさと吹っ飛びやがれ!『ガトリングファイヤー』!」
「後は、任せた……!」
生徒D
LP4000→0
倒れ伏す四人。
そして残るのは一人。
「さて、お前の番だが――」
「ロットン、お前と言えど25枚もドローしてガトリングオーガ以外が全部罠と魔法で埋まっている筈がない――あいつらは俺を生かしてくれた」
「けっ、当たりだよ」
自信満々に宣言する生徒にロットンはやれやれと嘆息する。
まったくもってそのとおりだ。
だが、甘い。
「――俺は《手札抹殺》を発動!さらに《天使の施し》を使用――カードを2枚セットしてターンエンドだ」
「俺のターン!」
ロットンを見据えながら生徒が吼える。
しかし、ロットンの勝利は既に確定していた。
「トラップ発動!《マジカルエクスプロージョン》と《残骸爆破》だ」
「何だとっ!?」
「俺の墓地の魔法は10枚。そして墓地のカードは30枚以上ある――よって4000ダメージだ!」
「ぐうぁぁぁぁぁっ!?」
生徒E
LP4000→0
5人の生徒が倒れたのをロットンは満足げに見据える。
周囲の生徒は声も出ない、と言った風だ。
「他に文句のある奴は居ないよな……?」
「はい!ボス!」
ねめつける様に生徒を見渡すロットン。
彼がこの学園の支配者となった瞬間だった。
――
「ん……」
「起きたか。本当に面倒な女だなお前は!」
「起きたのねーん。ホント心配したんだからぁ」
「はにゃっ!?す、すみません万丈目さん」
冷たい氷の感触で私は目を覚ました。
目を開けると、万丈目さんの顔が極度に近づいていてなんだか恥ずかしく――
「っ――!そうだ、デッキ、私のデッキは――」
「ぐあっ!?」
感じる前に私は起き上がって左手のディスクをチェックする。
途中で万丈目さんの顎に額が命中したような気がするが、まずはデッキである。
ディスクの中はカラになっていた。
「――私のデッキが……ない……」
「この馬鹿野郎!まずはこの万丈目さんに謝れ!」
「そうよ!アニキのメンタルは案外脆いんだからぁ!ちゃんとケアしてあげないと!」
「すみません、万丈目さん」
「分かればいい!……全く、手間のかかる奴だ」
上着の中を探って感触を確かめる。
――良かった、【シャドール】と【影霊衣】の二つのデッキは私の手元にある。
なくなったのは――ディスクに収められた【リチュア】デッキだけだ。
……体がだるい。
まるで魂の半分がかけたような感覚。
肉体に問題はないが、精神がなくなってしまったような虚脱感が私を襲っていた。
「やっと起きたの?栞」
「――ウィンダ」
【シャドール】デッキに触れると、私とともに戦ってくれる精霊――エルシャドール・ミドラーシュことガスタの巫女ウィンダが出現する。
彼女は全身から不満げな空気を出して、私の頭を杖でこつんと叩いた。
「全く!ちゃんと注意してデュエルしないからこうなるのよ!――まあ、ちゃんと全部取られないように学習してデッキを上着の裏地に隠したのは褒めてあげるけど。それはそれ!これはこれ!」
「うう……すみません……」
「――おい」
「早く行こうよ、今度は私が戦うんだから!」
「はい。何とかして取り戻さないと……」
「――おい!」
「デッキ調節は出来てる?ライロ混色とかじゃなくていいかな?」
「いえ、ネフィリムが禁止なので、このままで行こうと思います」
「――おい!!お前ら、この万丈目サンダーを無視するな!」
「はにゃっ!?す、すみません万丈目さん」
大声で叫ぶ万丈目さんに頭を下げる。
万丈目さんは大きく鼻を鳴らすとウィンダを睨みつけた。
「お前もだ!そこの精霊!」
「――へえ、私が見えるんだ?」
「そりゃアニキはオイラが憑いてるから見えるも見える、バッチリ見えるわーん」
「ええい!こういう場面で出てくるな鬱陶しい!バッチリ見えるし触れるに決まってるだろ!」
万丈目さんの目線に、ウィンダがにやりと笑う。
その隣で黄色いモンスターの精霊がくねくねと腰を曲げていた。
確か――《オジャマ・イエロー》だったはず。
攻撃力0だが、状況次第ではかなり凶悪なカードだ。……3兄弟と生き別れのいとこ&はとこが揃っての話ではあるが。
「全く!この万丈目サンダーがデッキを取り戻すのに協力してやるといっているのに無視するとはな!」
「きゃー、アニキかっこいいーん」
頭の後ろをかきながら万丈目さんが立ち上がる。
「ほら!ついて来い!」
「はにゃっ!?」
「ねえそっちはノース校と逆方向――!」
手を引っ張られ、氷原へ向けて歩き始める。
ずかずかと大またで歩くので、私の足が引きずられる。
「俺のデッキはなくなったんだ!手伝ってもらうぞ貴様ら!」
「え……っ!?」
「使えるものは使う!流石万丈目のアニキは外道なんだからぁ」
「それくらい自分でやりなさいよ……」
「五月蝿いぞ精霊ども!あとそこの雑魚は何故か弱すぎて奪われなかったんだ!忘れるな!」
「酷いわアニキ!?」
――
「あっ!アレは一枚で爆アド――《強欲な壷》ですっ!」
「でかした遊崎っ!行け雑魚!」
「酷いわアニキッ!?オイラに熊を一頭伏せてターンエンドなんて出来ないわ!?」
「お前が熊をひきつけている間に俺が回収する!場合によっては喰われてもかまわん!むしろ喰われろ!」
「いや、もっと被害の少ない方法にしなさいよ……」
私が白熊の後ろのカードを指差すと。万丈目さんは即座に自らのカードを投擲しようとする。そのカードの精霊が一生懸命万丈目さんの腕を掴んでいやいやしている。
そんな様子を見て、ウィンダは特大のため息をついていた。
結局私は万丈目さんのデッキ作りを手伝っていた。
本当は直行したかったのだが、『部下を倒せと言われれば一回ごとに気絶するお前じゃ絶対にロットンを倒せない』という万丈目さんの至極全うな意見により、万丈目さんを手伝うことになったのだ。
ちなみにデッキを貸し出したらどうかというおジャマイエローによる提案もあったが、却下である。デッキを渡すのは心細いし、何よりウィンダが怒る。
「――これで30枚か!」
「オイラを勘定に入れてよアニキ!?」
「お前なんかデッキに入れるかこの弱小カードが!」
そして数時間後。
比喩抜きで氷原を歩き回り(私は途中からウィンダに乗せてもらった)、凍った海を渡り(私はウィンダの人形に手伝ってもらった)、山を登り(ウィンダに手伝ってもらった)、万丈目さんの手元には31枚のカードが握られていた。
「はぁっ……はあっ……」
「私は人形だから大丈夫だけど、栞は生身だからきついはずよ」
「俺は無視か……というかお前は精霊に頼りすぎだ!」
荒い息を吐くと、ウィンダが私を暖めるように後ろから寄り添ってくれた。
体温のない人形と言えど、その心が温かい。
手伝ってもらったとはいえ、デュエルマッスルのない身に氷原はこたえる物だった。
元々虚脱感に襲われていることもあって、歩くのも億劫になってくる。
「……まあ、あと8枚には俺に良い案がある」
「良い案、ですか」
「ああ、ここには強力なデュエリストが現れると言う噂があってな。勝てばその切り札をくれるのだそうだ――サポートカードを含め8枚ものカードが手に入る」
「ですが、万丈目さんのデッキはまだ完成していないですし――」
「……まさか」
私の言葉をウィンダが継ぐ。
なにか、猛烈に嫌な予感がする。
「お前が戦って8枚手に入れればいいのだ!そのためにつれてきた!」
「……」
「……」
「……アニキ」
全員が万丈目さんをみつめると、彼はばつの悪そうに視線を逸らした。
「――まあいい!とにかく、俺の認めたデュエリストである遊崎、貴様ならあのデュエリストを倒すことだって――!」
「誰を倒すだって?」
「誰だっ!」
不意に現れた侵入者に私達が振り返る。
顔中に包帯を被った不審者がそこにいた。
彼は両腕を組みながら高笑いをしていた。
「私はこの学園、伝説のカードの守護者!挑戦者よ!カードが欲しければかかってくるが良い!」
「――ふっ!言われなくてもそうするつもりだ!行けっ!遊崎!」
「は、はにゃ!?」
こうして、万丈目さんのデッキを完成させる戦いが始まった。
「デュエル!」
――
遊崎栞
LP4000
包帯男
LP4000
「私の先攻、ドロー。私は《影依融合》を発動。手札の《シャドール・リザード》と《シャドール・ビースト》を融合し――ウィンダ、お願いします。『さがしもとめるもの』、《エルシャドール・ミドラーシュ》を融合召喚します」
「今回は最初から出番ね。さっさと決めるんだから!」
エルシャドール・ミドラーシュ
ATK2200 DEF800
栞の隣に緑の髪の人形が現れる。
特殊召喚に制限をかける上に破壊耐性を持つ強力なモンスター。
万丈目は隣に居る自らの精霊をまじまじと眺める。
レベル2、効果なし、攻撃力0。
「何考えているのか分かるわアニキ!?」
「ええい!まだ何も言っていないだろうが!」
「さらに《シャドール・リザード》の効果でデッキから墓地に《シャドール・ファルコン》を送り、裏側守備表示で特殊召喚します。墓地に送られた《シャドールビースト》の効果で1ドロー……カードを1枚伏せてターンエンドです」
「私のターン!ドロー!……ふむ、手札消費を抑えて融合を行うか……中々いいタクティクスだ!私は《バイスドラゴン》を特殊召喚!このモンスターは相手の場にモンスターが居て自分の場にモンスターが居ない場合能力を下げて特殊召喚できる!」
バイスドラゴン
ATK2000→1000 DEF2400→1200
「高レベルモンスターを特殊召喚!?だが能力は下がる、遊崎のモンスターには負けるぜ!」
「そう急くな。私は《バイス・ドラゴン》を生贄に《アームドドラゴンLV5》を生贄召喚!」
「LVモンスターだと!?あのキングオブデュエリストが愛用したと言う伝説のカード群!」
「そう、これが私の切り札、レベルモンスターだ!」
アームドドラゴンLV5
ATK2400 DEF1700
現れたのは全身を武器に包んだ異形の竜。
大きな口を開くと内部には巨大なミサイルポッドがマウントされていた。
その銃口は全て《エルシャドールミドラーシュ》、栞がウィンダと呼ぶ精霊に向けられていた。
「バトルフェイズ!《アームドドラゴンLV5》で《エルシャドール・ミドラーシュ》を攻撃っ!」
「っ――ウィンダっ!」
「栞……今は集中……っ!」
「《エルシャドール・ミドラーシュ》の効果発動……!墓地から《影依融合》を手札に加えます」
ミサイルが人形を貫き、爆発四散する。
自らの精霊の宿るカードを破壊され悲鳴のような声を上げる栞に、彼女の精霊は優しく声をかけた。
栞
LP4000→3800
「カードを1枚セット。エンドフェイズにアームドドラゴンは進化する!現れよ《アームドドラゴンLV7》!」
アームドドラゴンLV7
ATK2800 DEF1000
巨大な竜が男の場に出現する。
その全身にはさっきの竜を越える無数の武装が鈍い煌きを放っていた。
凶悪な咆哮を上げ、巨竜は栞を睨みつける。
「――私はこれでターンエンド!」
「私のターン。ドロー……《シャドール・ファルコン》を反転召喚、効果で《エルシャドール・ミドラーシュ》を裏側守備表示で蘇生します。さらに《マスマティシャン》を通常召喚。墓地へ《シャドール・リザード》を送り効果で《シャドールドラゴン》を墓地へ送ります。――墓地に送られた《シャドールドラゴン》の効果で伏せカードを破壊します」
「……伏せていたのは《強制脱出装置》!チェーンして発動。《エルシャドール・ミドラーシュ》を手札にもどせ!」
「ちっ!フリーチェーンだったか!」
「……《影依融合》を発動します。《マスマティシャン》と《シャドールファルコン》を融合し『えいこうのゆみ』、《エルシャドール・シェキナーガ》を守備表示で融合召喚します」
エルシャドール・シェキナーガ
ATK2600 DEF3000
「私はターンを終了します」
「よしっ、守備力3000ならば早々破壊はされない!」
出現した巨大な人形に万丈目は拳を握る。
あの青眼すらも素では破壊できない数値である。
さらに効果破壊を行えば逆に無効化し、破壊する効果持ちである。
「私のターン!ドロー!――随分と守備力の高いモンスターを出したな。だがそれも無駄なことよ!私は《アームドドラゴンLV7》を墓地に送り、最終形態、《アームドドラゴンLV10》を特殊召喚!さらにフィールド魔法《デザートストーム》を使って風属性モンスターの攻撃力を500アップ!」
アームドドラゴンLV10
ATK3000→3500 DEF2000→1600
「これが最終形態……!」
「ヒイーン!?アネキがピンチなのぉ!?」
攻撃力3000を超える凶悪な竜が降臨する。
全身が武装された竜。相手を屠ることにのみ特化した機能美。
砂交じりの乾いた風が、全員の頬を撫でる。
「《エルシャドール・シェキナーガ》は強力なモンスターだが効果を使わない戦闘破壊なら問題はない!――バトルフェイズだ!やれ!《アームドドラゴンLV10》!」
機械の腕が人形に激突、人形は一瞬抗うそぶりを見せたが、徐々に皹が入り、耳障りな破砕音を氷原に響かせる。
「ぐ……墓地から《影依融合》を手札に加えます」
「さらに速攻魔法発動!《レベルダウン!?》――《アームドドラゴンLV10》を生贄に墓地の《アームドドラゴンLV7》を特殊召喚!ダイレクトアタック――!」
「……トラップ発動《影依の原核》です。このカードは罠モンスターとなり場に召喚されます」
「――ダメージは与えられないか!だが破壊させてもらうぞ!」
アームドドラゴンLV7
ATK2800→3300 DEF1000
影依の原核
ATK1450 DEF1950
栞に攻撃が届く直前。
いくつもの顔を持つ木の竜が攻撃を食い止める。
主を守った竜は精神を侵すような咆哮を最後に墓地へと消えた。
「私はこれでターンエンドだ!さあお前の場はがら空き!ここからどうする!」
「――私の、ターン」
(性格は似ていないが、ああいうところはあのバカそっくりだな)
万丈目は栞のほうを見る。
全くあきらめた様子のない、まっすぐな瞳。
それは、かつて彼を倒した二人のデュエリストに酷似していた。
「ドロー。私は《月の書》を発動、《アームドドラゴンLV7》を裏側守備表示に変更します」
「ぐっ……その弱点を突いてきたか……!」
「裏側守備……そうか!莫大な攻撃力を持っていても《アームドドラゴン》の防御力はたった1000。破壊はたやすい!」
「《影依融合》を発動し、手札の《溶岩魔神・ラヴァゴーレム》と《シャドール・ビースト》を融合――『みはるもの』、《エルシャドール・エグリスタ》を融合召喚します。
エルシャドール・エグリスタ
ATK2450 DEF1950
糸でできた翼を持つ淦の人形が栞の隣に出現する。
その肉体には、原核と呼ばれたモンスターが張り付き、まるで髪のようにうねっていた。
「墓地に送られた《シャドール・ビースト》の効果で1ドローします――バトルフェイズ、セットモンスターに攻撃します」
「ぐっ……私の《アームドドラゴンLV7》が……!」
「ターンエンドです」
がら空きになった場を見て、包帯の奥から男――ノース校校長は栞を睨みつける。
(本校のスパイ……これほどの腕とはな)
本来、彼を倒してアームドドラゴンを手に入れた生徒をノース校代表にする。そういう考えで彼は氷原に潜伏していた。
しかし、彼を三つの誤算が襲う。
釣れたのがアカデミア本校の生徒であることが彼の第一の誤算。そして、軽く倒して力の差を思い知らせようとして、逆に追い詰められているのが第二の誤算。
(――面白い!)
そして、デュエリストとしての血が滾り、全力で叩き潰そうと考えてしまっているのが第三の誤算である。打算でも、今後の未来のためでもない、ただ、目の前のデュエリストにおのれの全てをぶつける喜びを、彼は思い出していた。
「――だが、小娘!その程度でこのノース校の秘宝は渡さん!私のターン!ドロー!――《強欲な壷》で二枚ドローだ!」
ドローブーストによって手に入れた二枚のカードに、彼は笑みを浮かべる。
相手がそれを察したのか険しい瞳で見据えていた。
「私は《死者蘇生》を発動!《アームドドラゴンLV10》を蘇生――!」
「《エルシャドール・エグリスタ》の効果で特殊召喚を無効にします。効果で手札の《シャドール・ヘッジホッグ》を墓地に送り《シャドール・リザード》を手札に加えます」
特殊召喚された武装竜が糸に絡め取られ、墓地へと還っていく。
だが、それは彼の想定内。
「なれば《レベル調整》を発動!相手が二枚ドローする代わりに再び蘇れ《アームドドラゴンLV10》!」
「何っ!?二度の連続蘇生だと!?」
アームドドラゴンLV10
ATK3000→3500 DEF2000→1600
重い制約つきだが、再び機械の竜が彼の場に降臨する。
どんなに妨害されようが、デュエリストは自らの戦術を貫くのだ。
「このターンは攻撃できない。ターンを終了する――さあ見せてみろ、お前の真価を」
「私のターン、ドロー」
栞のドローを校長は静かに見つめる。
彼女の手札4枚。
それだけあればデュエリストは何でも出来る。
「私は《ファイヤーハンド》を通常召喚します」
ファイヤーハンド
ATK1600 DEF1000
現れたのは炎を纏った手。
校長は思わぬ弱小モンスターの出現にため息をつく。
だが、その近くで見る万丈目は厳しい顔をしていた。
「さらに《影依融合》を発動。手札の《ダーク・クリエイター》と《シャドール・リザード》を融合し――ウィンダ。お願いしますね――《エルシャドール・ミドラーシュ》を融合召喚」
「おっそーい!もっと早く呼んでよ!」
エルシャドール・ミドラーシュ
ATK2200 DEF800
「バトルフェイズに入ります――《ファイヤーハンド》で《アームドドラゴンLV10》を攻撃!」
「何っ!?自爆する気か!?」
栞
LP3800→1900
炎の手が巨竜と激突、爆発する。
――直後、竜も苦しみにもだえるようにして消滅していた。
「――《ファイヤーハンド》は、戦闘で破壊され墓地に送られたとき、相手のモンスターを破壊します!」
「何だとっ……!」
「残る二体のモンスターでダイレクトアタック――!」
「ぐあああああああぁぁっ!?」
校長
LP4000→0
「決まったな」
攻撃を終え、倒れる栞の身体を支えながら、万丈目が呟いた。
この小説を書き始めてから筆者のシャドールのデッキがやたら回るようになりました。
……というよりも今まで1ターン目にミドラーシュを呼べない私の運が悪かったのか…