胡蝶の夢 遊戯王GX世界   作:くらげ(仮)

17 / 23
風邪をひいた為投稿が低速になりそうです


17話 VS早乙女レイ

「そうそう、神楽坂の話なんだが、何とか退学は免れたそうだ。今度はちゃんと自分で考えたデッキで戦いたいと言っていたぞ」

「――そうですか」

 

 三沢の言葉にそっけなく返しながらドローパン(メロン味)を頬張る。

 メロンパンに似た甘い味が口の中に満ちるが、私の心の中は苦い。

 あの後私は1日ずっと寝込む事となり、決闘王のデッキ展示会に行くことが出来なかったのだ。入手したチケットの意味がなくなり、悔しいことこの上ない。

 

「まあ、遊崎は決闘王のデッキと戦えたんだからいいじゃないか。十代の奴、物凄くうらやましがってたぞ」

「――う、それはそうですけれど」

「さらに言うなら俺だってやりたかったな――あの場に居た全員がそうだったんじゃないかな」

「うにゅう……」

「たしかにこの状況は同情するけどな――ほら、ドローパン奢りだ」

 

三沢の言葉にがっくりと肩を落とす。

あの場には決闘王のデッキをフライングして見るべく多くの生徒が訪れていたそうだ。

私が倒れた後、生徒達によってデュエルの内容が拡散。結果として『あれだけのハンデスを喰らっても戦える決闘王のデッキとそれを回した神楽坂は偉い』という風潮が流れ、私は悪役扱いである。

さらに次の日寝込んだため、またもや出席日数が減ってしまった。

クロノス教諭、そして佐藤先生の補習によって事なきを得たものの、『こういう事になるんだったらもっと予習をしておくノーネ!』『まったく、君が英雄になってしまったらどれだけ悪影響が出るんだろうね』と釘を刺され、それもまた私の心に暗雲を落としていた。

 

「新しいデッキ、組もうかな……」

「ガスタ使いなさいよ」

 

 ウィンダの言葉に首を振りながら、私は自らのデッキに思いをはせる。

 リチュアはコントロールとハンデス、影霊衣はメタビート、シャドールは簡易ロックが持ち味、影霊衣とシャドールはHEROやブンボーグを混ぜたりしてビートダウン色を強めては居るものの、どれも純粋なビートダウンとは言いがたい。

 ちなみにガスタデッキ自体は持っているのだが、シンクロ召喚が普及していないこの世界において使うのはあまりにも危険だ。……そもそもガスタデッキ自体純粋なビートダウンとは言いがたい別の何かなのは間違いない。大体《ダイガスタ・スフィアード》のせいだ。

 そんなことを考えながら私は三沢に渡されたパンを一口齧り――

 

「はにゃっ!?」

「そのパンはまさか……!」

 

 不意に舌に感じた刺激に思わず叫び声をあげる。

 甘い、辛い、しょっぱい、苦い、酸っぱい。様々な味の混沌が口の中で融合し、凶悪極まりない衝撃が私を襲う。

 まず襲い掛かるのは甘み。舌の水分を取り去るが如く強烈過ぎる甘さが粘膜を破壊する。その直後、ネクローシスを引き起こす辛味が口の中を蹂躙しつくす。そうして崩壊した口内を塩気がさらに擦り込まれ、咽喉を苦味が支配する。最後に果物を何度も煮詰め、悪臭になるまで放置したかのような酸味を含んだ香気が鼻を通り抜ける。

 見れば、ドローパンの断面は7色に染まっていた。

 

「レインボーパン――!」

 

 レインボーパン。

 黄金の卵パンに並ぶ、伝説のドローパンである。

 その味はありとあらゆる味を混合して出来上がる、カオスの極み。どれかの味を感じさせられなければレインボーではないということで、ありとあらゆる味が濃く調整されている。

 咽喉が飲み込むことを拒否し、食道が焼けるような痛みを放つ。

 涙が止まらず、顔が紅潮する。口にしたものは飲み込むよう教育を受けてきたおかげで吐くことはないものの、地獄の苦しみが続く。

 

「み、水……!」

「待ってろ!今もって来る!」

「栞!?しっかりして、栞――!?」

 

 必死の形相で走り去る三沢、そして私の身体を揺さぶるウィンダ。

 私の意識が凄まじい勢いでかなたへと飛んでいく。

 

(レインボー……そういえば、あのデッキならビートダウンでしたね……)

 

 私の意識が途切れる前、現実逃避する私はあるデッキを想像していた。

 

 

 

――

 

「ええと、亮様はオベリスクブルーだから、ここからだと所要時間が……」

「うにゅう……」

「あ、起きた?」

 

 聴きなれない声で、私は目を覚ました。

 身体を包むのは、私の部屋の布団。どうやら気絶しているうちに三沢が運んでくれたらしい。いつもの事ながら三沢に頭が上がらない。

 目を開けると、見たことのない少年が私のことを見下ろしていた。

 私並に華奢な体格、大きな帽子、丸い瞳は女の子といっても問題はなさそうだ。男性用の制服を着ているからかろうじて男と判断しているが、服装を変えれば少女と判断していただろう。

 制服はレッド寮のものだが、見た覚えがない。レッド寮は狭いため、大体の生徒は食堂で顔を合わせる。そのため、殆どの生徒の顔は覚えられるのだが……。もしかして、降格組みだろうか。

 首を傾げる私に、彼は大きくため息をつく。

 

「ええと……」

「あ、まだ自己紹介してなかった。ボクは早乙女レイ。アカデミアに編入してきたんだ。で、あんたとは同室。これからよろしく」

「は、はい……私は……」

「知ってるよ。遊崎栞、いくつかのデッキを使うマルチデッカー。レッド寮最強の座を二部する女。そして決闘後気絶する特異体質――そうでしょ?」

「え、ええそうです……ただ……」

「あのカイザー、丸藤亮様にも勝利したことのある数少ない決闘者の一人。一説に寄ればその後も決闘を秘密で行っているとの話がある。本当だとしたら何時、何所でやってるの?今から誘えば来てくれる?というよりも亮様をどうやって決闘に誘ったの?」

「……」

 

 あまりのマシンガントークに気圧される私。

 思わずウィンダのほうを見るが、彼女は訝しげに彼を見るばかりで私の窮状には何も言わない。

 その様子に気づいた彼は、帽子を深く被りなおして右手を差し出した。

 

「ごめんごめん。とにかく、これからよろしく」

「は、はい」

 

 右手を握り返すと、とても暖かい。

 まるで小学生みたいだな、と、とても失礼なことが頭の中に浮かんだ。

 しかし、女子と男子を同室にするあたり、アカデミアは中々凄まじい場所である。着替えなどのことを考え、小さくため息を吐く。

 それとも部屋が足りなくなったのだろうか。だとしたら一部屋占拠してしまっている私は大分迷惑をかけていたに違いない。

 

「女子と同室で、色々勝手が違うかも知れませんが、どうかよろしくお願いします」

「――大丈夫、ボクもおん……いやっ、なんでもないっ!女の人と良く一緒にいたから慣れてるから大丈夫!」

「はあ……」

 

 どうやら、彼は女性の中で生活するのに慣れているらしい。

 きっと私の部屋に配属されたのもそれが原因だろう。

 首をかしげながら考える私の姿に、彼の顔が何故か青くなる。

 

「じゃ、じゃあボクはちょっと外出するからっ!」

 

 慌てて部屋を出る彼を無言で見送る。

 私の隣でウィンダは大きくため息をついた。

 

「まさか、栞……気づいてないの?」

「?……何のことですか?」

「――あの子、女の子よ」

「は、はにゃっ!?」

 

 

 

――

 

「失礼します」

 

豪奢なドアを軽くノックをして中に人が居ないことを確認した私はため息を付いた。

懐から合鍵を取り出し、ノブを開け中に入る。

 

(何度きても慣れませんね……)

 

オベリスクブルー男子寮の最上階、カイザーの部屋にたどり着いた私は、がっくりとうなだれる。

ここにたどり着くまでの間、突き刺さる視線の痛さが半端ではなかった。

カイザーとの決闘の後、私はこうしてたびたび彼の部屋を訪れるようになっていた。

デッキの構築を行う上で場所がないと嘆く私のために彼は自らの部屋を使うのはどうかと提案してくれたのだ。

また、構築したデッキを用いてカイザーと即座にテーブルデュエルが出来るというのも大きい。テーブル上なら気絶しないで済むため、試合後の検討が出来ることも嬉しい。私がたどり着いたとき彼が居なかったときのために合鍵まで用意してくれる豪華特典つきである。

こんなにしてもらって大丈夫なのかと彼に聞いた事があるが「むしろ、遊崎と優先的に決闘が出来るほうが役得だ」と言っていた。

ちなみに戦績は121勝119敗と勝ち越してはいるもののほぼ互角。ワンキルされた回数は私のほうが多い。

 

「さて、彼が来る前に構築をしますか」

 

 リュックをあけ、一連のカード群を取り出す。

 今回のデッキは私としては珍しいワンキル重視のビートダウン。普段ワンキルされてばかりの私だが、今回は牙を向いてみせる。

 デッキのギミック自体は割りと単純だが、通常モンスターを採用しなければならない関係上、慎重に比率を見る必要がある。サーチカードを入れてもいいが、持久力のないカテゴリーであるため2ターン目立っていられる保障は何所にもない。

 《ラヴァルバルチェイン》を入れたい衝動に駆られつつ採用カードを絞り、投入していく。

 

「ええと、こんな感じでしょうか……」

 

 デッキをくみ上げ、エクストラデッキを眺めているとエースとなるカードの精霊が、私の隣に顕現していた。

 金剛石の鎧を纏った高潔な騎士。

 かつて端末世界において平和と平穏を望み、其れを成すことなく散った存在。

 

「――ふむ、我らを使うのか。遊崎栞よ、我らの誇りにかけて汝に勝利をもたらそうではないか」

「ありがとう御座います」

「何、礼を言う必要はない。普段敵対しているものとの共闘と言うのも悪くはないからな」

「こらっ!栞は関係ないでしょ!」

「う――すまなかった」

 

 彼の言葉に目を伏せる私と、怒り出すウィンダ。そして謝り続ける彼。 

 そんな状況ゆえか私は声をかけられるまで、侵入者の存在に気づくことはなかった。

 

 

――

 

「ここが亮様の部屋――」

 

 オベリスクブルー寮の木に登り、二階のベランダへと降り立つ。

 部屋に入るべく、窓を丁寧に叩いて鍵を少しずつずらして開け、音をさせず開ける。

 

「ふふ、やった」

 

 早乙女レイはにやりと哂い、丸藤亮の部屋へと潜入した。

 そもそも彼女がこの学園へ編入したのは彼に会うためである。

 男だと偽り、厳しい編入試験を突破、さらに彼の部屋などの情報収集。それらの作業を即座にこなすのはまさに一途なゆえか。

 

(情報アドをあつめて、告白を成功させるんだから……!)

 

 初恋の相手に告白を成功させるためなら何だってする。恋する乙女は中々に過激だ。

 思い人のデッキを探すべく彼女は部屋の中に歩を進め――

 

「ええと、《激流葬》と《奈落の落とし穴》、《神の宣告》《聖なるバリア・ミラーフォース》に《強制脱出装置》と汎用罠を入れて……」

「……なにやってんだよ、あんた」

「へ?……はにゃあっ!?」

 

 見覚えのある後姿を見つけ、思わず声をかけてしまう。

 紅い服、一部を結った長い髪、しばらく同室を過ごした少女である遊崎栞がなぜか思い人の部屋でデッキを弄っていた。

 レイの姿に気づいた彼女は口をぱくぱくさせ、目を大きく見開いていた。

 まるで疚しいことがあるかのようなその態度が余計レイをイラつかせる。

 

「さ、さ、早乙女ちゃん……じゃなくて君、どうしてここにっ!?」

「質問しているのはこっちだ!」

「はにゃっ!?」

「あんたはどうしてここに居るんだ!ここは亮様の部屋だぞ!どうやって入った、そもそも目的は何だ!」

 

レイは栞の襟を掴み、ガクガクと揺さぶる。

体格差こそあるもののそこは決闘者、筋力ではレイのほうがはるかに強い。さらに言うなら思い(嫉妬)の力で強化されている。元々一般人である栞では対処の仕様がなかった。

 

(だ、だれか助けてください――!?)

 

 栞の脳裏に様々な言い訳が浮かぶが、どれも彼女を納得させられる気がしない。

 そもそも言葉を発することが出来る状況ではない。

 彼女に出来ることは、只管助けが来るのを待つことだけであった。

 

「――入るぞ」

「ひっ!亮様!?」

 

 栞の顔が青くなる寸前、存外早く助けは訪れた。

 部屋の主である丸藤亮が、戻ってきたのだ。

 ノックの音を聞いたレイは、即座に身を翻すと窓を突破、二階から飛び降り草陰へと消えた。まるで忍者か特殊部隊のようなその動きに、思わず栞はへたり込んだ。

 

「――どうしたんだ?遊崎」

「丸藤先輩……」

 

 涙目になりながら、栞は亮のほうを見る。

――どう説明したら良いのだろうか。

 下手なことを言えば間違いなくレイに恨まれ、酷い目にあうのは間違いがない。姿こそ見えないが、話を聞いている可能性が高い。

 とはいえ、何も言わなければ怪しまれる。

 気まずい沈黙が流れ――

 

「……」

「……分かった、デュエルをしよう」

「……っ!?」

 

 カイザーの一言によって沈黙が破られる。

 驚いて口をパクパクさせている栞にカイザーはゆっくりと首肯してみせる。

 

「――デュエルで嘘をつくことはできない。語りたくないことならば口で語らなくても良い――それに、手のそれは新しいデッキだろう?」

「は、はあ……」

 

 なんともいえない表情でカイザーを見る栞。

 カイザーの顔には『そんなことよりデュエルしたい』と書かれていた。

 

 

――

 

「ふう……」

 

 丸藤先輩とのデュエルで負け越しとは行かなくとも、貯金0になるまで勝ちを吐き出した私は軽くため息を付きながらオベリスクブルー寮を出た。

 西日が目に染み、歩みがフラフラする。思考しようとしただけでも鈍い頭痛が後頭部を襲い、顔をしかめる。

 20回を超える連続デュエルは、いくらテーブルとはいえ身体に負担がかかる。

 ほとんどがワンショットキルで時間の消費自体が少ないのが唯一の救いだ。夕食前の寝る時間くらいは確保できそうである。

 

(今日はもうおなか一杯ですね)

 

 本当は構築の手直しもしたいところだが、体が求めているのは休息だ。

 ぼやける視界の端にレッド寮がうつり、ほっと息をつく。

 毎度思うが、この学園とレッド寮の距離は本当にしんどい。十代は毎日遅刻スレスレで全力疾走するが、私の場合それをしたら確実に持たないだろう。

 寮に戻り、階段を登る。

 さて、部屋のベッドで早く睡眠を……

 

「なあ、あんた」

「……」

 

 取ることは出来なかった。

 襟を引かれ、強制的に振り返らされる。

 私の後ろには同室の早乙女レイちゃんが真剣な表情で立っていた。

 襟は未だに凄い力で掴まれており、どう考えても私を放すつもりはなさそうである。

 

「どうして亮様にボクのことを話さなかった?」

「ええと……」

 

(――デュエルのことで手一杯で話す余裕がなかったからです)

 正直に話す訳にもいかず、軽く目を逸らす。

 その様子が気に食わないのか、レイちゃんは大きくため息をつき……

 

「――まあいい。デュエルしよう」

「!?」

 

 右手のデュエルディスクを構えた。

 まるで意味がわからんぞ!?

 訝しげな表情をする私に、彼女は不思議そうな顔をしていた。

 

「デュエルだったら何も誤魔化せない。話をしても聞き出せないならデュエルしかないでしょ」

「は、はあ……」

 

 十代あたりがいいそうな理屈を盾に、デュエルディスクを私に渡すレイちゃん。

 どうやら、逃げ場はなさそうた。

 

「お、もうデュエルするのか!」

「二人とも、頑張るんだな!」

「ほ、ほんとにデュエルが始まってるっス……!?」

 

 そんな私達のことを、けしかけた当人である十代と、レッド寮の二人組が観戦していることを私は知る由もなかった。

 

――

 

「デュエル!」

 

早乙女レイ

LP4000

 

遊崎 栞

LP4000

 

 夕闇に染まるレッド寮の前に二人の少女が立つ。

 小柄な少女――早乙女レイが鋭い瞳で相手を見据えるのに対し、もう一人の少女、遊崎栞は静かにたたずむのみだった。

 

「しかしアニキ、本当に大丈夫っスかね?これ……」

「大丈夫だって!デュエルしたら疑惑も晴れるって!」

 

 寮の部屋からその二人を見下ろす翔の疑問に、十代は笑顔で答える。

 先刻、レッド寮に戻った彼らがであったのは顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくっているレイだった。

「私の、私の亮様があんな女に……」とうわごとのように呟く彼女(外面を気にせず泣いていたため、帽子が取れて完全に女だとバレていた)から話を聞いた十代が提案したのは、「遊崎栞とのデュエル」である。

 無論、十代は色恋沙汰が全く出来ない栞とカイザーの二人に恋人関係があるとは思っていなかったが、どう説明したところで彼らの疑惑が解けるとは思わない。特に早口で話されたら言葉を返せなくなる栞と、元が無口であるカイザーの二人には絶望的だ。

で、あれば言葉以外の解決方法――魂のぶつかり合いであるデュエルで説明するのがもっともスマートだと彼は考えたのだった。

 

「ボクのターン、ドロー!ボクは《恋する乙女》を召喚!」

「か、可愛いモンスターっス」

 

恋する乙女

ATK400 DEF300

 

 ぽんっ、とコミカルな音を立てて茶色の髪を持つ少女がレイの場に出現する。

 フリルを纏った可憐な姿は、まさしく少女マンガの主人公のようだ。

 可愛いモンスターの登場に翔は一瞬頬を染めかけるが、自らの《ブラックマジシャンガール》のことを思い出し、すぐに首を振って真顔に戻る。

 

「でも攻撃力400で攻撃表示っスか……?」

「カードを5枚伏せてターンエンドだ!」

「ご、5伏せっ!?」

「絶対罠が仕掛けられているんだな……」

「これで手札0、中々破天荒なデュエリストだぜ!」

 

 攻撃力の低いモンスターを攻撃表示で出すプレイングに疑問を呈した直後、カードを五枚伏せるプレイングに翔と隼人が驚愕の声を上げ、十代はにやりと笑う。

 どれかがブラフである可能性こそ高いものの、五枚の伏せの圧力は中々に凶悪だ。罠カードは魔法と比べ初動が遅いものの凶悪な効果を持つカードが多い。翔の背筋に汗が一筋垂れていた。

 

「私のターン、ドロー。永続魔法、《ブリリアント・フュージョン》を発動。デッキの《ジェムナイト・ラズリー》《ジェムナイト・ルマリン》《ジェムナイト・サフィア》を墓地に送り《ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ》を攻守を0にして融合召喚します。さらにこの魔法カードが場を離れたとき、この効果で召喚されたモンスターは破壊されます」

「で、デッキから融合召喚だって!?」

「攻撃力守備力が0――だけど、油断は出来ないんだな」

「へえ!栞また新しくデッキ組んだのかあ!ワクワクするぜ!」

 

ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ

ATK3400→0 DEF2000→0

 

 対する栞の場に現れたのは金剛石の貴婦人のようなモンスター。

 攻撃力守備力こそ0になっているものの、元もとの攻撃力は3400.その圧力にレイの顔が少しだけ歪む。

 

「いきなり巨大なモンスターか!でも攻撃力守備力は0!それじゃあ呼んだ意味はないね」

「――素材になった《ジェムナイト・ラズリー》の効果発動。手札に墓地の《ジェムナイト・サフィア》を加えます――そして《吸光融合》を発動。デッキから手札に《ジェムナイト・オブシディア》を加えます」

 

 虚勢をはって叫ぶレイを無視するように栞は淡々とプレイングする。

 クールで冷淡に見えるその様子は、実際には連続デュエルに疲れきっていて答える余裕がないだけだがレイには知る由もない。より鋭い目で栞を睨むだけだ。

 

「《ジェムナイト・フュージョン》を発動します。《ジェムナイト・オブシディア》と《ジェムナイト・サフィア》を融合し――《ジェムナイト・アメジス》を融合召喚します。さらに《ジェムナイト・オブシディア》は手札から墓地に送られた場合、墓地からレベル4以下の通常モンスターを召喚できます――私は《ジェムナイト・ルマリン》を特殊召喚します」

 

ジェムナイト・アメジス

ATK1950 DEF2450

 

ジェムナイト・ルマリン

ATK1600 DEF1800

 

 2度目の融合召喚によって現れたのは紫水晶の騎士と、トルマリンの騎士。両者とも上級とは言い切れないものの下級モンスターで太刀打ちできるギリギリの数値のモンスターである。

 圧力に気圧されるかのように一歩下がりかけるレイ。だが、すぐさま持ち直してディスクを構える。恋する乙女はこの程度の状況で諦めたりはしない。

 

「《ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ》の効果を発動します。このモンスターは自分フィールド上のジェムナイトモンスターを一体生贄にすることで、ジェムナイト融合モンスターを特殊召喚できます。場の《ジェムナイト・アメジス》を生贄に捧げ《ジェムナイト・マスターダイヤ》を特殊召喚します。」

「融合モンスターを生贄に!?」

 

通常モンスターを生贄にすると思っていた矢先、まさかの融合モンスターを生贄に捧げる行為に三人が驚きの叫びを上げる。

攻撃力も通常モンスターより高く、わざわざ消費の大きい融合モンスターを生贄に捧げる行為、何をやっているんだと隼人が言いかけたその瞬間、紫水晶の渦が、場を荒れ狂っている事に気づく。

 

「《ジェムナイト・アメジス》の効果を発動します。このカードは場から墓地に送られたとき、伏せカードを総て持ち主に戻します」

「――っ!?罠発動!《ダメージダイエット》と《ホーリーエルフの祝福》を二枚!このターン受けるダメージを半分にする!さらにLPを1000回復!」

「《ハリケーン》と同様の効果……!」

 

早乙女レイ

LP4000→6000

 

 

効果を聞いたレイは慌てて伏せカードの二枚を発動する。

場に残ったモンスターの攻撃力の合計は3400と1600。戦闘破壊されない《恋する乙女》の能力があっても、伏せカードもなしで喰らえば即座にゲームエンドとなる数値だ。亮様と渡り合った決闘者は伊達ではないと小さく頷く。

だが、これ以上展開されることは殆どないはず――。そう考えたレイの心を栞の言葉が打ち砕く。

 

「墓地の《ジェムナイト・フュージョン》の効果を発動します。墓地のジェムナイトモンスターを除外することで、手札にこのカードを戻します。私は《ジェムナイト・アメジス》を除外し《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加えます」

「回収能力――!?」

「凄まじいんだな……」

「て、手札が減ってないッス……」

 

手札に融合カードを回収した栞の姿を見て、レイは驚愕する。

栞の手札は5枚。

手札の数は可能性に等しい、まだ展開できるとばかり栞はディスクにカードを差し込んでいく。

 

「《ジェムナイト・フュージョン》発動、手札の《ジェムナイト・ラズリー》と場の《ジェムナイト・ルマリン》を融合し――《ジェムナイト・パーズ》を融合召喚します」

 

ジェムナイト・パーズ

ATK1800 DEF1800

 

 光の渦が出現し、栞の場に現れたのは、トパーズの輝きを持つ戦士。

 攻撃力は下級モンスター並だが、二回攻撃能力と《フレイムウィングマン》と同様の能力を持っており、中々侮れない。

 だが、この程度で終わるわけがない、翔は静かに唾を飲み込む。

 

「《ジェムナイト・ラズリー》が墓地に送られたため、手札に墓地から《ジェムナイト・サフィア》を加えます。――さらに墓地の《ジェムナイト・ラズリー》を除外し《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加え、そのまま発動します。場の《ジェムナイト・パーズ》と手札の《ジェムナイト・サフィア》を融合し《ジェムナイト・プリズムオーラ》を融合召喚します」

 

ジェムナイト・プリズムオーラ

ATK2450 DEF1400

 

 黄色の輝きと赤の輝きに包まれると同時に、現れたのは水晶の騎士。

 《ジェムナイト・マスターダイヤ》と似た雰囲気があるものの、そのたたずまいは大きく異なる。全身から生えた水晶、機械の盾。そして人工宝石であるオーラプリズムの輝きは、美しさと同時にどこかまがまがしいものを感じさせた。

 

「さらに墓地の《ジェムナイト・オブシディア》を除外して《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加えます。そして《ジェムナイト・プリズムオーラ》の効果を発動。手札のジェムナイトと名の付くカードを墓地に送り相手フィールド上の表側のカードを一枚破壊します。私は《ジェムナイトフュージョン》を墓地に送り《恋する乙女》を破壊!」

「《恋する乙女》……!」

 

 水晶の戦士の剣から放たれた雷が乙女を貫き、破壊する。

 戦闘破壊をされない《恋する乙女》だが効果破壊の前には無力である。

 成す術もなく墓地に送られる自らのエースに悲鳴に似た声でレイが叫ぶ。

 これで彼女を守るものは何一つない。

 

「さらに墓地の《ジェムナイトレディ・ラズリー》を除外し《ジェムナイトフュージョン》を墓地から手札に、そして《手札断札》を発動します。お互いのプレイヤーは手札を二枚捨て、二枚ドローします。さらに、《強欲な壷》で二枚ドロー。墓地の《ジェムナイト・ラズリー》を除外して《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加えてそのまま発動。手札の《ジェムレシス》と《ジェムナイト・ラピス》を融合し《ジェムナイト・ジルコニア》を融合召喚します」

 

ジェムナイト・ジルコニア

ATK2900 DEF2500

 

「攻撃力2000超えが3体……!?」

 

 4度目となる融合召喚によって呼び出されたのは人工ダイヤモンドによる巨大な腕を持つ戦士。やはり《ジェムナイト・マスターダイヤ》と似た雰囲気こそ纏っているが、その殺気の荒々しさはその比ではない。

 手札使いが荒いはずの融合召喚による大量展開。それを1ターン目で成すまさに暴挙と呼べる光景である。

 

「――私はまだ通常召喚を行っていません。《ジェムナイト・アレキサンド》を通常召喚。さらに《ジェムナイト・アレキサンド》の効果を発動します。このモンスターを生贄に捧げることでデッキからジェムナイトと名の付く通常モンスターを特殊召喚します。私は《ジェムナイト・クリスタ》を特殊召喚します」

 

ジェムナイト・クリスタ

ATK2450 DEF1950

 

水晶の騎士が天を割るようにして現れる。

その姿は、場にあった総ての騎士の原型のような姿をしていた。

プリズムオーラのような禍々しさでも、ジルコニアのような殺気も、マスターダイヤのような覇気も纏わないその姿は、きっと彼がそれらの原型であったことを匂わせていた。

 

「バトルフェイズに入ります――《ジェムナイト・クリスタ》でダイレクトアタックします」

「うっ……だけど、《ダメージダイエット》でダメージは半減されている!」

 

レイ

LP

6000→4775

 

水晶の騎士の攻撃を不可視の盾が止める。

レイを守るのは実質12000となったLPである。

計算上は守りきれると腕を十字に組んで攻撃に耐える。

 

「さらに《ジェムナイト・プリズムオーラ》《ジェムナイト・ジルコニア》でダイレクトアタックします」

「くっ……あっ……!」

 

レイ

LP4775→3550→2100

 

禍々しき騎士と、巨腕の騎士の一撃が不可視の壁ごと打ち砕かんとばかりに炸裂する。

残るは金剛石の騎士の攻撃のみ。

彼が剣を構えた瞬間、栞は高らかに彼の効果を宣言した。

 

「《ジェムナイトマスターダイヤ》は墓地のジェムと名の付くモンスター×100だけ攻撃力をアップします」

「攻撃力アップ――!?でも墓地のジェムは6枚だから攻撃力は3500。まだ半減されればボクのLPは400残る!」

「そして《ジェムナイトマスター・ダイヤ》もう一つの効果を発動します。墓地のレベル7以下のジェムナイトモンスターを除外してその効果をコピーします。私は《ジェムナイト・パーズ》を宣言――それによってこのモンスターは2回攻撃可能となります」

「何だって!?」

 

ジェムナイト・マスターダイヤ

ATK2900→3400

 

 瞬時、金剛石の騎士の剣がトパーズの輝きを放ち、二重の煌きを宿す。

 圧倒的な力の奔流の前に、レイは一歩後ずさっていた。

 

「《ジェムナイトマスター・ダイヤ》でダイレクトアタックします!」

「きゃぁぁぁぁっ!?」

 

レイ

LP2100→400→0

 

金剛の騎士の攻撃によって、レイのLPは0を刻んでいた。

思わずへたり込むレイの耳にとさり、と倒れる音が響く。それは対戦相手である遊崎栞が倒れた音だった。

 

――

 

「――どうだった?レイ」

「どうもこうもないよ……」

 

 倒れこんだ栞の前でおろおろするレイに十代は声をかける。

 その背中は、学園に来たときよりも小さく、すすけて見えた。

 

「こんな人が亮様の恋人あったなんて……ボクじゃ叶わないよ」

「そうじゃない。栞とのデュエルでもっと大切な事に気づかなかったか?」

「――どういうこと?」

 

 しょぼくれるレイの答えに、彼は首を振る。

 怪訝な顔をする彼女に、十代は笑って見せた。

 

「こいつはデュエルの最中、ずっとレイに集中していたはずだ。ここまで一途な奴が、色恋沙汰って感じはしないだろ?」

「……たしかに」

 

 決闘の最中、栞は只管レイのことを見続けていた。言葉こそ返さないものの、静かな闘志がカードを通じて伝わってきたのを覚えている。

 

「じゃあ、もしかして亮様と栞は……」

「ああ、デュエルする仲だけどそれだけってこと。強敵を求めるのはデュエリストの性だからな」

「たしかに、恋愛とは遠そうだものね」

 

 十代による断言に、レイの顔が綻んだ。

 大分失礼なことを言われている栞だが、気絶している彼女が知る由もなしである。

 

「――よしっ!今度こそ頑張る!」

「よっしゃ!その意気だ!」

 

 拳を握り締め、レイは気合を入れなおす。

 彼女の瞳には再び光が宿っていた。

 

「――あはは、栞さんには飛んだとばっちりっスね……」

「なんだな」

 

 その様子を見つめる翔と隼人は、微妙な苦笑いを浮かべるのだった。

 




本当はNTRされるジェムナイトを書きたかったのですがプレイングをなおすうちにワンキルになってしまう不思議。
流石ワンキル特化……



おまけ【貧乏ジェムナイト】
作成者:栞

メインデッキ
《レスキューラビット》×2
《ジェムナイト・パーズ》×2
《ジェムナイト・サフィア》×2
《ジェムナイト・オブシディア》×1
《ジェムナイト・ラズリー》×2
《ジェムナイト・ガネット》×2
《Emダメージジャグラー》×2
《Emトリッククラウン》×2
《HC強襲のハリベルト》×2
《HCサウザンドブレード》×1
《ゴブリンドバーク》×1

《ブリリアント・フュージョン》×3
《ジェムナイト・フュージョン》×2
《サイクロン》×2
《吸光融合》×2
《死者蘇生》×1
《おろかな埋葬》×1
《ブラックホール》×1
《増援》×1
《闇の量産工場》×1

《神の宣告》×1
《激流葬》×1
《聖なるバリア・ミラーフォース》×1
《強制脱出装置》×2
《奈落の落とし穴》×1

エクストラ
《ラヴァルバル・チェイン》×1
《希望皇ホープ》×1
《希望皇ホープ・ザ・ライトニング》×1
《狂装覇王ラプソディインバーサーク》×1
《ジェムナイト・パーズ》×1
《ジェムナイト・ルビーズ》×1
《ジェムナイト・アクアマリナ》×1
《ジェムナイト・ラピスラズリ》×1
《ジェムナイト・プリズムオーラ》×1
《ジェムナイト・ジルコニア》×1
《ジェムナイト・セラフィ》×2
《ジェムナイト・アメジス》×1
《ジェムナイトマスター・ダイヤ》×1
《ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ》×1

栞:動かし方が簡単でなおかつ安いジェムナイトは初心者の味方……
ウィンダ:安く済ませたいからって《レスキューラビット》と《ジェムナイト・フュージョン》をケチるのはどうなのよ、栞……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。