胡蝶の夢 遊戯王GX世界   作:くらげ(仮)

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最近禁止制限がどうなるか戦々恐々としています。
ネフィリム帰ってこないかなぁ……でもミドラーシュは禁止にならないで欲しいなぁ……あとイビリチュアガストクラーケを準制限に……相手の人に見せるたび忘れられている感じが凄まじいし……(我儘)

追記
変更なしだそうで。


19話 VS七星

「――何故だ、何故立ち上がれる!?」

 

 自らの精霊と抱き合ったと後、よろよろと立ち上がった少女に、長は驚愕の叫びを上げる。

 この闇のゲーム、一見、お互いにダメージを受ける平等なゲームに見えるがその実体は大きく異なる。

 周囲の墓守たちの呪詛により試練を与えるもののダメージは小さく、試験を受けるもののダメージは大きくなっているのだ。

 通常の試練では使用しない仕掛けだが、墓守の試練をあのような間違った闇の力の使い手に突破させるわけには行かない。彼はそのために外道になる覚悟があった。

 普通の闇のゲームを超える凄まじい衝撃と精神的疲弊が彼女を苛んでいるはずだ。体力の無い人間ならなおさらである。

 

「ドロー」

 

 ぎこちない動きで彼女はカードをドローする。

 まるで下手な人形遣いが操る人形のようだ。まるで隣の精霊が操っているかのような……

 そう考えた瞬間、彼の頭の中におぞましい推測が浮かぶ。

 

「――まさか貴様――人形に――!」

「……私は《シャドール・ファルコン》を反転召喚。その効果により《エルシャドール・シェキナーガ》を裏側守備表示で特殊召喚しまス」

 

シャドール・ファルコン

ATK600 DEF1400

 

 少女は何も答えず、ただ淡々とカードを操る。

 その身体の節々から闇が噴出し、彼女の身体を黒く染めていた。

 それが、答えだった。

 

「さらに《影依融合》ヲ発動しマす。――場の《シャドール・ファルコン》と手札ノ《シャドール・ビースト》を融合シ――『さがしもとめるもの』――《エルシャドール・ミドラーシュ》を融合召喚シマす」

「――時間はない!取り込まれる前に決めてっ!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ

ATK2200 DEF800

 

 緑の髪を持つ人形が彼女の場に降臨する。

 必死の表情で手の糸を繰りながらの登場ということは、恐らくこの精霊が操っているのだろう。

 

「ぐ……!」

 

 人形と大筒持ちの攻撃力の差分は800。400しかない長が耐えることは不可能である。

 しかし、精霊が自ら場に登場するということは彼女を守護するものはなにもいないということだ。

 彼は歯を食いしばると、後ろの人間達に指示を下した。

 

「仕方あるまい!攻撃せよ!」

「――!?」

 

 長の指示に従い、多数の武器が栞へと殺到する。

 槍が、矢が、爆薬が、銃が、短剣が投擲され、その身体を貫かんと暴威を振るう。

 

「――ムダ、でス」

 

 だが、その暴風は彼女を捉えることなく、ぐにゃりと歪んだ闇に呑まれ、消えていく。

 質量を持つほどに濃度を持った闇が栞の足元から溢れ、周囲を穢していく。

 闇に触れる彼女の身体は硬質化し、人形のようになっていく。間接が球体になり、目は硝子をはめ込んだようだ。

その異様な光景に周囲の人間が一人、又ひとりとひいて行く。

 その様子を長はただ呆然と見つめるのみ。

 もはや障害は殆ど無い。

 

「――《エルシャドールミドラーシュ》で《墓守の大筒持ち》を――」

 

 そう、彼女の肉体の限界を除いて。

 

「――栞っ、栞――!?」

 

 影糸に支えられたまま、彼女は目を閉じてそのまま動かなくなった。

 

 

――

 

 

「――ココハ?」

「目を覚ましたか」

 

 眠りから覚めた私の瞳にうつったのは見知らぬ天井だった。

 石で出来たそれは、炎の揺らめきでちらちらと光っていた。古びた薬品と埃のにおいが鼻をつく。

 声の主のほうへ首を回そうとするが動かせない。

 痛みこそ感じないが、体がそれを拒否していた。

 

「動くな。今動かれると折角治療したというのに水の泡だ」

 

 それでも一生懸命視線を動かそうとすると、再び声がかけられる。

 どこかで聞いたことがあるが、その声の主を思い出せない。

 普段から聴いた声であるはずなのに、何か物理的要因によって強引に思い出す機能を封じられているかのようだ。

 

「ここは私の工房――詳しい場所は言えないが精霊界ではない。安心しろ」

「は、ハあ・・・・・・」

 

 声はため息を一つつくと、私の額に指を置く。

 重さこそ感じるものの、殆ど触覚がないのが恐ろしい。

 言葉を発するときも、何か普通とは異なる発音をしており、自分の声でないみたいだ。

 

「負ける可能性は想定内だったが、まさかこのような顛末とはな――全身くまなくの火傷に外傷、内臓系も呪詛によって乱されていた――間違いなく私が治療しなければ死んでいただろう」

「……」

「さらに言うならば精霊と無茶な同調をして、身体の各部が完全に精霊化している――こちらを放置したら本当にカードと化していた可能性すらある」

 

 指先が私の右腕を叩くと、硬質なものと爪がこつこつと触れる音がした。

 死か人形か、私には恐らくどちらかの運命しかなかったのだろう。

 恐らく、勝ったとしても、負けたとしても。

 ぞっとする話である。

 

「……まあいい。結果としてお前の命は一命を取り留めた。その命の使い道はお前次第だ――。だが」

「――?」

「治療費は請求させてもらうぞ」

 

 彼の声はやや、怒気をはらんでいた。

 何か、癪に障ることでもしたのであろうか。

 この状況では指一本動かせない。生殺与奪は彼に握られている。

 実験素材にされてしまうのだろうか。

 冷や汗が私の頬を落ちた。

 

「――エエト、ドノクライ……?」

「……納豆と海産物だ」

「はにゃ?」

 

 恐る恐る聞く私に、彼は思わぬ単語を言い放った。

 海産物と、納豆。一体どのような関係なのか私は心の中で首を傾げる。

 

「海産物ト、納豆――?」

「そうだ」

 

 こちらからは見えないが、相手は大きく頷いたようだ。

 軽い風圧が私の頬を撫でる。

 

「今後、レッド寮の食事においてそれらを自重すること――それが条件だ」

「は、はぁ……」

 

 レッド寮の食事と私の治療費に何の関係があるのだろうか。

 私は思わず曖昧な返事を返す。

 

「分かったな!」

「ハ、ハイっ!?」

「――宜しい。では、少し記憶を弄って……学園の保健室のほうへと運んでおく」

 

 彼の声とともに、視界が暗くなっていく。

 薄れていく景色の中、私が見たのは大徳寺先生に良く似た男の顔だった。

 

 

 

――

 

「栞!今日も来てやったぜ」

「俺も来てやったぞ」

「わざわざすみません」

「いいっていいって。困ったときはお互い様だろ?」

「……ふん、近かったから寄ってやっただけだ」

「全く、万丈目のアニキは素直じゃないんだからぁ。わざわざ心配だって言って付いてきたくせにぃ」

「っ!何を言ってるんだこのボンクラ精霊がっ!」

「こら!保健室で五月蝿くしないの!叩き出すわよ!」

 

 アカデミア保健室。十代と万丈目さんからプリントを受け取った私は頭を下げる。

 身体を動かすと、鈍い痛みが内臓に走る。

 この調子では、完治はまだまだ先になりそうだ。

 今の私は完全に保健室の住人と化していた。

 

(うう……わ、分からない……)

 

 日付を確認して小さくため息をつく。

 プリントの内容が伝わらないほどに授業から遅れているようで、今後付いていけるか本当に心配になる。

 私の記憶は対抗戦前日、三沢と十代のデュエルが行われる直前からすっぱりと抜け落ちていた。

 何か大怪我をするような事態があったのは間違いがないのだが、そのことについて思い出そうとすると黒い靄が思い出させるのを止めるのだ。

 

「うにゅう……」

 

 しかし、対抗戦を見逃してしまったのは本当に残念だ。

 代表決定のための三沢と十代のデュエル、代表戦の万丈目さんのデュエルは本当に見ごたえのある物だったと翔君と三沢ががターン経過とプレイ内容を渡した紙を渡してくれたが、本当に死闘と呼ぶものに相応しかったと思う。特に手札をなくした十代が《ホープオブフィフス》で3枚ドローから《E・HEROバブルマン》でさらにドロー、三沢の《大天使クリスティア》の効果を墓地の《ブレイクスルー・スキル》で無力化、その後《融合》《ミラクルフュージョン》と展開し《E・HEROアブソルート・ZERO》《E・HEROジ・アース》を融合召喚、《E・HEROジ・アース》の効果で《E・HEROアブソルート・ZERO》をリリース。全てのモンスターを破壊した上攻撃力を5000とした《E・HEROジアース》でトドメの流れはまさに十代という感じである。生で見たらさぞかし迫力があったに違いない。

 ちなみに万丈目さんは対抗戦が終わったらなぜか帰ってきていた。しかし出席が足りないのでレッド寮である。――私と同類といったら確実にキレるので言わないが。

 

「――この程度も分からないとは――まあ、俺が少しは教えてやってもいいがな!」

「いや、万丈目これ分かるのかよ。『あの』佐藤先生のプリントだぜ?」

「……う、其れはだな……ええい!この万丈目さんに不可能は無い!《疾風のゲイル》と《ガーディアン・デスサイス》の裁定など恐れるに値しない!」

「だから病人の前でそんなに叫ばないの!」

 

 叫ぶ万丈目さんに保健室の主である鮎川先生が手をさしはさむ。

 その声色には本当に私を心配しているという感情がありありと浮かんでいた。

 

「――平然として居るように見えるけど遊崎さんは普通に重症だったのよ、ここに運び込まれたときも『なぜか命だけを繋いでいる状態』だったんだから。本当だったら本土の病院に連れて行くべきなのだろうけれども……」

 

 鮎川先生は言葉を切る。

 その視線は私の枕元に置かれた黄銅色の欠片に注がれていた。

 

「七星門の守り手に選ばれてしまったものね……」

「何、この万丈目サンダーが貴様の番に回す間もなく全員片付けてやる!」

「おいおい!オレだって戦いたいぜ!どんな決闘者かワクワクするな!」

「貴方達!静かにしなさい!」

 

 鮎川先生が二人の背を押して保健室から強制退出させる。

 その様子を確認し、私は枕もとの欠片を手に握り締めた。

 

「……はぁ……」

 

 七星門の鍵。

 これはこの学園に封じられている【三幻魔】のカードを封印するのに使われている7つの呪物だそうだ。

 その鍵の一つが私の握り締めている欠片である。

 何でもこの鍵を狙ってセブンスターズと言う闇の決闘者がこの学園に潜伏しているのだそうだ。

 リアルファイトでは確実に遅れをとる(相手が決闘者であれば小学生にも負ける)私だが、何でもこの鍵は決闘によって奪わなければ意味がない代物だそうで、決闘の強い存在が守り手に相応しいそうだ。事実、私以外の面子は十代、三沢、明日香さん、丸藤先輩に万丈目さん、クロノス教諭など強力な決闘者が目白押しだ。

 ――それでも病人に渡すものではないと思う。だが、校長先生相手に病床で抗議という所業を行った結果、何と理事長が直々に私を指名したとの事が判明した。

 相手はこの学園で二番目(一番は恐らくあのオーナー)に偉い存在である。一般生徒の私ごときが敵うべくも無い。私は首を縦に振るしかなかった。

 軽くため息を付きつつ、私は懐からカードを取り出す。十代に頼んでリュックサックを持ってきてもらっているのでここでもデッキの構築は可能だ。

 恐らく強力な決闘者が相手となる。

 緊張した手で、カードを吟味し、デッキへと投入する。

 

「むー」

「……ウィンダ」

「ふんっ!」

 

 構築の最中に視線を感じて後ろを振り返る。

 《エルシャドール・ミドラーシュ》の精霊であるウィンダは、私と視線を合わせると大きく鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。

 私が帰還してからずっとこの調子だ。

 『こんな無茶して!心配ばっかりさせて!しばらく口なんか利いてあげないんだから!』と涙目で言われてから、本当に口を利いてもらっていない。

 

「……むー。分かってない。絶対分かってない……」

 

 と、言いつつもしっかり私のことを見守ってくれている。

 其れが、私にとっては嬉しかった。

 

(何時ごろになったら、普通に話せるようになるのでしょうか……)

 

 とはいえ、話せないのは普通に悲しい。

 ……何かいい方法は無いかと私は思考を別方向に向けたのだった。

 

 

――

 

 セブンスターズの侵略は思ったよりも早く訪れた。

 保健室で眠る私を起こしたのは、全身に走る浮遊感、そして引っ張られるような感覚であった。

 数瞬後、私は火山の火口、その上に作られたフィールドに立っていたのだった。

 私の視線の先には、仮面をつけた長髪の男が立っていた。

 その右腕には決闘盤が装着され、彼が決闘者であることを示していた。

 ――もしかしなくても、セブンスターズなのだろう。

 

「我が名はダークネス。七星門の守り手よ、我が決闘を受けるがいい」

「いきなりですか……」

「――一番弱そうなものを狙うのが戦いの鉄則だ」

 

 どうやら、私はセブンスターズにいきなり目を付けられたらしい。

 しかも彼の言動からすると、今後もいきなり狙われそうで怖い。

 

「弱そう?栞が弱い訳ないでしょ!」

「――それはどうかな」

 

 弱いという言葉に反応したウィンダに対してダークネスはにやりと笑い、自らの首元を指差す。

 そこには精緻な黄銅色の細工がかけられていた。

 中心の紅い宝石が溶岩の光を照り返し妖しく煌く。

 

「お前が手に入れることが出来なかった精霊界に伝わる闇のアイテムをこのとおり私は入手している。それだけでもお前との格の差は知れる、と言うものよ」

「――少なくとも十代と同レベルですか」

 

 その物品に私は覚えがある。

 十代が首から同じ物をさげていたことを私は思い出す。

 『墓守の精霊界』の秘法、試練を突破できたもののみが手に入れられる物品。

 彼は其れを墓守から託されたのだという。『正しき闇の力を持つ者』として。

 ――だとすれば彼もまた『正しき闇の力』の持ち主なのだろうか?

 

「――さあ、はじめようか!逃げ場は無いぞ!この決闘ではお前だけでなくお前の仲間の命がかかっているのだからな!」

「ゆ、遊崎!?」

「栞さんっ!」

「翔君、隼人君――!?」

 

 戦慄する私を威圧するようにダークネスが叫ぶ。

 その背後に、囚われた翔君と隼人君の姿があった。

 囚われているのは火口の上だ、私がもし敗北、もしくは逃走すれば間違いなく落下してしまうのだろう。

 逃げ場はない。私は左手のディスクをセットする。

 

「ウィンダ、お願いします」

「ちょっと!?私は力を貸すなんて――!?」

 

 慌てるウィンダを横目に、デッキをシャッフルしてセットする。

 ダークネスも其れに倣い、デッキをセットする。

 

「――決闘!」

 

ダークネス

LP4000

 

遊崎 栞

LP4000

 

 こうして、セブンスターズとの戦いは幕を開けた。

 

 

――

 

「私のターン!ドロー!私は《真紅眼融合》を発動!――このカードは手札、フィールド、デッキの中のカードを使用してレッドアイズモンスターを融合するカード。ただしこのターンの間他の召喚を行うことはできない」

「で、デッキの中から融合!?」

「いんちき効果もいい加減にするんだな!?」

「――真紅眼――!」

 

 朱色の渦がダークネスの場に荒れ狂い、巨大な力を呼び起こさんと鳴り響く。

 その様子に、栞は奥歯を噛む。

 真紅眼の黒竜、それは青眼と並び立つ強力なモンスターである。攻撃力は2400と上級モンスターに倒されてしまうほどのモンスターだがその本質は進化。

 多くのモンスターと融合して、その真の力を解き放つのだ。

 

「私はデッキの《メテオドラゴン》と《真紅眼の黒竜》を融合――!現れよ!《メテオ・ブラック・ドラゴン》!」

 

メテオ・ブラック・ドラゴン

ATK3500 DEF2000

 

 隕石の炎を纏った黒竜がダークネスの場に現れる。

 獰猛な空気を纏った竜は場を切り裂くが如き咆哮を上げた。

 

「そ、そのカードは・・・・・・!」

 

その竜の出現に隼人が驚愕の声を上げる。

まるでありえないものを見るかのような瞳だった。

 

「……どうしたっスか隼人君。確かに凄く強いカードだけど、そんなに驚く程じゃ……」

「――いや、ありえない、ありえないんだな」

 

 翔の疑問に、隼人は何度も首を振る。

 カード好きである彼には、そのカードが持つ本当の意味が分かる、分かってしまう。

 このカードが示すこと、それはカードの強さではなく――

 

「あのカードは、大会の準優勝者のためにペガサスさんが作った、世界で4枚しか存在しないはずカードなんだな――!」

「それって青目と同じ――!?」

 

メテオ・ブラック・ドラゴン。

ペガサスが手ずから作り上げたこのカード、持っているのは世界大会の準優勝者のみ。

この世界において手に入れたレアカードを自ら手放すものは殆ど居ない。居たとしたら、それはカードをアンティで奪うほどのツワモノくらいだろう。

つまり、メテオ・ブラック・ドラゴンが示すことは――。

 

「つまり相手は、世界大会準優勝者――なんだな!?」

「栞さん!?」

 

 恐ろしい事実を知り、驚愕の表情を浮かべる翔と隼人。

 それを受けてダークネスはにやり、と笑みを浮かべた。

 

「ふふっ……そのような肩書きもあったようだが、今この場では関係のないことだ――私は《黒炎弾》を発動!このカードは場に《真紅眼の黒竜》が居るとき、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「――最低でも2400のバーン!?でも、ダークネスの場に《真紅眼の黒竜》はいないはずじゃ――?」

「くっくっく……《真紅眼融合》で召喚されたモンスターの名前は《真紅眼の黒竜》として扱う!そして私の場の《メテオ・ブラック・ドラゴン》の攻撃力は……3500!」

「先攻から3500のバーンなんだな!?」

「さあ喰らうがいい!『バーニング・ダーク・メテオ』!」

「……っ、あっ……にゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

LP4000→500

 

 黒竜のブレスが栞の肉体を直撃する。

 彼らが行っているのは肉体へのダメージが発生する闇の決闘。

 その焔は容赦なく彼女の体を焦がし、肌を焼く。

 苦悶の表情を浮かべながら彼女は膝をつく。

 

「――私はカードを二枚伏せてターンエンドだ!」

「私のターン……」

「……」

「……」

 

 煙の影響でややかすれた声を上げながら栞は立ち上がる。

 何かに持ち上げられるようにして体勢を立て直す様子はさながら操られる人形のような不気味な光景だった。

実際には傍らで彼女の精霊が文句を言いながらも肩を貸しているのだが生憎この場で精霊が見えるのは栞しか居ない。

 

「ドロー……私は《ガスタ・ガルド》を通常召喚」

「……なんだ?その弱小モンスターは」

 

ガスタ・ガルド

ATK500 DEF500

 

 彼女の指示に従い、緑の鳥が栞の場に出現する。

 《メテオ・ブラック・ドラゴン》に比べてあまりにも貧弱な姿に、ダークネスは思わず嘲笑を漏らす。

 

「――さらに魔法カード《強制転移》を発動します。このカードはお互いにモンスターを一体選択し、そのコントロールを交換するカードです。それぞれの場にモンスターは一体。故に私は《メテオ・ブラック・ドラゴン》のコントロールを得ます」

「……何だと!?」

 

 しかし、その表情は彼女が次に宣言した魔法カードによって崩れ去る。

 限定的とはいえ強力なモンスターと弱小モンスターを交換するそのあまりの効果に彼は歯軋りをした

 

「――バトルフェイズ、《メテオ・ブラック・ドラゴン》で《ガスタ・ガルド》を攻撃します」

「ぐ……おのれ……!」

 

ダークネス

LP4000→1000

 

 隕石のブレスがモンスターごとダークネスの身体を直撃する。

 その衝撃を受けた彼は膝こそつかないもののたたらを踏んでその攻撃を耐える。

 彼は怨嗟の声をあげながら、栞を睨みつけた。

 

「さらに《ガスタ・ガルド》の効果が発動します。このカードがフィールド上から墓地に送られたとき、デッキからレベル2以下のガスタと名のつくモンスターを召喚します。デッキより――《ガスタの巫女ウィンダ》を特殊召喚」

 

ガスタの巫女 ウィンダ

ATK1000 DEF400

 

 続いて栞の場に降臨したのは緑の髪と瞳を持つ美しい少女だった。

 その姿は彼女がかつて召喚していた《エルシャドール・ミドラーシュ》に酷似している。

 シャドールに堕ちる前、ガスタの一族として戸惑いながらも戦った少女は、自らの杖に緑風を纏わせ、栞を守るべく並び立っていた。

 

「攻撃力は1000なんだな!このまま攻撃が通れば――」

「遊崎さんの勝ちっス!」

 

 翔と隼人の喜びの声に合わせるようにして、彼女は杖先から風の刃を生み出し、栞のほうを見る。

 その姿に栞は小さく頷いた。

 

「《ガスタの巫女ウィンダ》でダイレクトアタック――」

「おのれぇ!このままやらせはせん!速攻魔法発動!《銀龍の轟咆》を発動!墓地の《真紅眼の黒竜》を召喚!」

 

真紅眼の黒竜

ATK2400 DEF2000

 

 風の刃がダークネスを貫こうとした瞬間、突如として現れた黒竜が彼女の刃を止める。その攻撃力の差分は1400。攻撃することは出来ない。

 攻撃し損ねた巫女は彼女の場に戻り、杖を構えなおした。

 

「私はカードを二枚セットしてターンエンドです」

「私のターン、ドロー!くくく……このまま《真紅眼の黒竜》でその弱小モンスターを攻撃してやってもいいがそれでは私の溜飲は落ちぬ……貴様には更なる絶望を見せてやろう!」

 

 引いたカードを見てダークネスはにやりと笑う。

 自らのエースカードを奪うという不遜な存在にはそれなりの罰を与える必要がある。静かな怒りと嗜虐心が彼の心を満たしていた。

 

「私は《紅玉の宝札》を発動!手札の《真紅眼の黒竜》を墓地に送り二枚ドローし《真紅眼の黒炎竜》を墓地に送る!さらに《未来融合-フューチャーフュージョン》を発動!《FGD》を指定し《真紅眼の黒炎竜》《伝説の黒石》《真紅眼の黒竜》《真紅眼の飛竜》《エクリプス・ワイバーン》の5枚を墓地に送る!さらに《エクリプス・ワイバーン》が墓地に送られたためデッキより《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を除外する!さらに墓地の《エクリプス・ワイバーン》と《伝説の黒石》を除外して《ダークフレアドラゴン》を特殊召喚!さらに《エクリプスワイバーン》が除外された事により手札に《レッドアイズダークネスメタルドラゴン》を手札に加える!」

「攻撃力2400……!」

 

ダークフレア・ドラゴン

ATK2400 DEF1200

 

 攻撃力2400のドラゴンの出現に翔が苦い顔になるが、ダークネスにとってこの程度は全くの準備段階に過ぎない。

 圧倒的なデッキ圧縮と墓地肥やし、自らの展開を思い浮かべダークネスは笑みを深める。

 

「――私は《ダークフレア・ドラゴン》を除外して《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を特殊召喚する!」

 

レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン

ATK2800 DEF2400

 

 闇と金属に包まれた竜がダークネスの場に君臨する。

 あってなきがごとき特殊召喚条件、そして凶悪極まりない能力を持つその竜は『金属』『闇』の二つ名を冠するに相応しいモンスター。

 その威圧感に周囲の空気が重苦しく変化する。

 

「――《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》の効果発動!墓地よりドラゴン族モンスター一体を蘇生する!私は《伝説の黒石》を蘇生!さらに《伝説の黒石》の効果を発動!このモンスターを生贄に捧げ、デッキからレッドアイズモンスターを特殊召喚する!私は《真紅眼の凶雷皇‐エビル・デーモン》を特殊召喚!」

 

真紅眼の凶雷皇‐エビル・デーモン

ATK2500 DEF1200

 

 金属竜の咆哮によって復活した卵から、巨大な悪魔が場に現れる。

 かつて決闘王が使っていたデーモンに酷似しているが、紅い瞳、として、ドラゴンのものと思しき翼を持つそのすがたはより荒々しいものを感じさせるものだった。

 

「――《真紅眼の凶雷皇‐エビル・デーモン》はデュアルモンスター!再度召喚し効果を発動!このモンスターの攻撃力――2500以下の防御力を持つモンスターを全て破壊する!」

「――っ!」

 

 悪魔の口より吐き出されるブレス、そして角より繰り出される雷が栞の場を焼き払う。

 《メテオ・ブラック・ドラゴン》の守備力は2000。そして《ガスタの巫女ウィンダ》の守備力はさらに低い400。成す術なく彼女を守るモンスターは消え去る。

 これでダイレクトアタックすれば一撃で終わりである。

 だがこの程度で彼の怒りが鎮まる訳がなく、更なる展開を行っていく。

 

「――私は伏せていた永続罠《真紅竜凱旋》を発動する!このカードは墓地よりレッドアイズを蘇生するカード!私は《真紅眼の黒炎竜》を蘇生する!」

 

真紅眼の黒炎竜

ATK2400 DEF1000

 

 真紅眼の黒竜に酷似する竜が彼の場に展開される。

 かつて作られた《真紅眼の黒竜》が時代に合わせ進化した姿は、炎を纏い、さらに荒々しい姿であった。

 

「そして《真紅眼の黒竜》を生贄に捧げ《真紅眼の闇竜》を特殊召喚する!」

 

真紅眼の闇竜

ATK2400 DEF2000

 

 真紅眼の黒竜が彼の言葉に合わせて闇を纏う。

 ダークネス、彼の名と闇を持つ竜は精神を侵すような咆哮を上げる。

 その咆哮にあわせるようにして、影がその肉体を覆う。目をこらせば、それは墓地に居る竜の姿をしていた。

 

「このモンスターの攻撃力は墓地のドラゴン族×300アップする!」

「ダークネスの墓地にドラゴン族は8体――2400上がるわけだから……」

「攻撃力……4800……!」

「――まだ終わりではない!私のドラゴンを返して貰うぞ……《死者蘇生》を発動!墓地の《メテオ・ブラック・ドラゴン》を蘇生する!《真紅眼の闇竜》の攻撃力は下がるが充分な値だ――」

 

真紅眼の闇竜

ATK2400→4500

 

メテオ・ブラック・ドラゴン

ATK3500 DEF2000

 

 真紅眼を持った5体の強力なモンスターが彼の場に揃う。

 その光景はまさに絶望と呼んでも差し支えないものだった。

 自らが作り上げたフィールドを満足げに一瞥したダークネスはとどめを刺すべくモンスターに攻撃の指令を下した。

 

「これで終わりだ!《真紅眼の闇竜》でダイレクトアタック――!」

「栞さんっ!?」

「遊崎っ!?」

 

 

――

 

「罠カード発動《レインボーライフ》。このカードは手札を一枚捨てて発動できます――そしてこのターン、私が受けるダメージは回復になります4500のLPを回復します」

「おのれ……小ざかしい真似を……!」

 

LP500→5000

 

 竜の攻撃を虹の障壁が防ぎ止める。

 あふれ出したエネルギーが光となり私の身体を癒していく。

 本来は別の用途で投入したカードだが、緊急回避としても何とか作用したようだ。

 ほっとした私は小さく息を吐く。

 

「だが、この圧倒的な場を突破することは出来まい!私はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

「私の……ターン……」

 

 ダークネスがターンエンドを宣言する。

 ボードアドバンテージは圧倒的に負けている。手札は《レインボーライフ》で一枚使ってしまった。

 

「栞……」

 

 ウィンダが静かに声をかけてくれる。

 口を利かないといったのは何所へやら、強い瞳で私のことを支えてくれていた。

 人形の指が、私の指と重なる。

 泣いても笑っても恐らくこのドローがターニングポイントだ。

 

「――ガスタの力、見せ付けてやれっ!」

「ドロー!」

 

 デッキトップから引き抜かれたカードは、私の望んでいたもの。

 

 

「まずは永続罠カード《零式魔導粉砕機》を発動します。このカードは手札の魔法カードを墓地に送ることで相手に500ダメージを与えることの出来るカードです」

「くくく……手段に事欠いてバーンカードか……確かに手札のうちの二枚が魔法であるならば私にトドメを刺す事が出来る。場が負けているならば正しい選択なのだろうな……だが!私は《神秘の中華鍋》を発動する!《真紅眼の闇竜》を生贄にその攻撃力分LPを回復する!これで私のLPは5500……残念だったな!」

 

ダークネス

LP1000→5500

 

 巨大な中華鍋が竜を飲み込むというシュールな光景が繰り広げられ、彼のLPが大幅に回復する。

 単純にこのカードで削るためには11枚ものカードが必要となる。

 普通ならばここで絶望し、手を止めるところだ。

 ――だが、この状況でもまだ可能性は残されている。私は奥歯を噛み締めてカードを発動する。

 

「――私は手札の《ガスタ・グリフ》を捨てて《ワンフォーワン》を発動します。デッキから1レベルモンスターを特殊召喚――《メンタルマスター》を召喚します」

 

メンタルマスター

ATK100 DEF200

 

私の場に現れたのは脳をパックに包んで、小さな機械に包んだ奇妙なモンスター。

私が元居た世界では禁止カードに指定されていたはずだが、この世界においては未だ雑魚カード扱い、普通に積むことが出来る。シンクロカテゴリーであるガスタを、シンクロを使わず生かすべく、私は良心の呵責を無視し、このカードを投入していた。

 

「はっ!何だその弱小モンスターは!」

「さらに手札から墓地に送られた《ガスタ・グリフ》の効果を発動します。デッキよりガスタと名のつくモンスター……《ガスタの静寂・カーム》を特殊召喚します」

 

ガスタの静寂・カーム

ATK1700 DEF1100

 

 ダークネスの嘲笑を聞き流しながら私が召喚したのは薄緑の髪を持つ美しい女性。

 かつてリチュアの奇襲に逢い、その命を散らしたはずの彼女は、私のほうを見てにっこりと微笑んでくれた。

 その手に風が集まり、私の手をデッキトップへと向かわせる。

 私の耳に小さく『大丈夫だから』と囁きが聴こえた。

 

「《ガスタの静寂・カーム》の効果を発動します――墓地の《ガスタ・ガルド》と《ガスタの巫女ウィンダ》をデッキに戻してカードを一枚ドローできます……私はドローした《脳開発研究所》を発動します。このカードはサイキック族モンスターのコストをカウンターを一つ置く事によって肩代わりするカードです」

 

 引いたカードは、このデュエルのエンドカード。

 相手に伏せカードがないのであれば、遠慮をする必要は無い。私はコンボの始動を宣言した。

 

「――私は《メンタルマスター》の効果を発動します。《ガスタの静寂カーム》を生贄にデッキより《ガスタの巫女・ウィンダ》を特殊召喚します。この際コストとして800LPを払う必要がありますが《脳開発研究所》にカウンターを乗せて無効にします」

 

ガスタの巫女 ウィンダ

ATK1000 DEF400

 

 

「モンスターを生贄にさらに攻撃力の低いモンスターの召喚――?」

「何をやっているんだな!?」

「くくく……血迷ったか」

 

 翔君と隼人君がほぼ同時に悲鳴を上げる。

 確かに傍目から見れば狂気の所業なのだろう――だが、私の隣に居るウィンダだけは静かな笑みを浮かべていた。

 

「さらに《メンタルマスター》の効果を発動します。《ガスタの巫女・ウィンダ》を生贄に《ガスタの静寂カーム》を召喚します。コストは《脳開発研究所》にカウンターを載せて踏み倒します……そして《ガスタの静寂 カーム》の効果を発動、墓地の《ガスタの静寂カーム》と《ガスタの巫女・ウィンダ》をデッキに戻し、カードを一枚ドローします」

 

ガスタの静寂・カーム

ATK1700 DEF1100

 

「元の状況に戻った……?」

「みたいなんだな……」

「……まさか……貴様……!」

 

 巫女の姿が掻き消え、再び女性が場に舞い戻る。再び現れた彼女は私の手にカードを握らせた。

 あっけに取られた顔をする翔君と隼人君。

 だが、ダークネスだけが驚愕の表情に染まる。

 やはり、大会優勝者だけあって察しがいい。

 ……もう、分かったところで止めようのないことであるが。

 

「――《メンタルマスター》の効果を発動します。《ガスタの静寂カーム》を生贄に《ガスタの巫女ウィンダ》を召喚します。そしてもう一度発動、《ガスタの巫女ウィンダ》を生贄に《ガスタの静寂カーム》を召喚。効果を発動し墓地の《ガスタの静寂カーム》と《ガスタの巫女ウィンダ》をデッキに戻し1ドロー。《メンタルマスター》の効果は《脳開発研究所》の効果で踏み倒します。さらに《メンタルマスター》の効果を発動……」

 

 《メンタルマスター》のコストを《脳開発研究所》で踏み倒しウィンダとカームを交互に召喚、墓地に落ちればカームで回収。

 これだけであればただ脳開発研究所のリスクを挙げるだけの行為に過ぎないが、変わっているものはもう一つだけある。

 

「栞さんの手札が……」

「増え続けているんだな……!」

 

 カームは墓地のガスタと名のつくカードをデッキに戻し、カードを一枚ドローする。故にループを回すたびに私の手札は一枚ずつ増える。

 

「おのれ……!このような手に……!」

「《ガスタの静寂カーム》の効果を発動。墓地の《ガスタの巫女ウィンダ》と《ガスタの静寂カーム》をデッキに戻して一枚ドローします……」

 

 私のデッキの枚数が半分を切り、シャッフルできないほどになったとき、漸く私の手札に充分なカードが出揃う。

 あとは、焼き払うのみ。

 

「《零式魔導粉砕機》を発動します。手札の魔法カードを11枚捨て5500ダメージを与えます……!」

「ぐうあああああああああああっ!?」

 

ダークネス

LP5500→0

 

 場にあった機械が眩いばかりの光を発射し、ダークネスを貫く。

 闇の決闘におけるダメージは実際のダメージに相当する。闇の力をもっていたらしい仮面が攻撃を弾き返していたが、それでもワンショットできる光の威力は止まらない。

 びしり、という音とともに仮面が吹き飛ばされる。

 仮面が割れ、その下にあった素顔は私の知っている誰かに酷似していた。

 

「天上院……さん……?」

 

  私は心当たりのある人物の名前を口にしつつ、意識を失っていた。

 




メンマスループ。
フィニッシュは《零式魔導破砕機》を使用していますが実際はエクゾディアでわぁい、コンボー!するのが正しいと思われます。
……メンマスはターン1付ければ帰ってこられそうな気もします。ただ、サイキック族と言われると最近新規を見ていないような……
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