「えー貴方達はエリートのデュエリストとして――」
数ヶ月後、私はデュエルアカデミアに居た。
長々と続く校長先生の話をややシャットアウトして前を見ることに集中する。
一縷の希望を託してリュックを漁ったところ、印鑑と預金通帳その他諸々私がかつて暮らしていた世界のもの+今まで買ったカードすべてが出てきたのだ。
それだけでは学費には届かないが、そこで私の持っていたカードたちが役に立った。
この世界においてカードは私の思って居るよりもはるかに高い値段で取引されている。カードはかぶっても一切売らない主義なのだが、ここばかりは仕方がない。
「……まさか《ブラックマジシャン》一枚で3年分の学費が払えるなんて……」
カードショップの店長にこのカードを見せたときのリアクションは筆舌に尽くしがたい。
おかげで、何とか糊口を凌いだ私は今デュエルアカデミアに新入生として入学したのだ。
……売ってしまった《ブラックマジシャン》は4枚目とはいえ悪いことをしたと思う。お金をもうける手段を見つけたら何とかして取り戻そう。
「では、解散!」
校長先生の話にしたがって私達は自らの寮へ向かう。
「お、やっぱり遊崎も来たか」
「ギリギリだけど、通ったみたい」
帰り際、三沢君に声をかけられた。
どうやら彼も合格したらしい。
黄色い制服を着ているということはラーイエローに入ったのだろう。外部生としては間違いなく上位に入る。
「みたいだな。しかし女子はみんなオベリスクブルーと聞いていたが、オシリスレッドか」
対して私の制服は赤。ドロップアウトが集まるオシリスレッドだ。
場所の僻地振りがその扱いを物語る。
「まあ、頑張れよ。成績がよければ昇格もあるらしい」
「ありがとうございます」
二、三カードがらみの雑談をしてから、彼に背を向ける。
これも、友達なのかな。
だとしたら彼が私の初めての友達である。
なんとなく足取りも軽く私はオシリスレッドへと向かうのだった。
――
「失礼します」
「お、ヨロシクな!」
「よろしくッス!」
寮の部屋を確認がてらあいさつ回りに向かう。
友人を作るには、まず勇気を出して話しかけることだ。
オシリスレッドの薄いドアを開けると既に三人の住人が居た。
「どうも宜しくお願いします。私は隣の部屋に住まうことになった遊崎 栞と申します」
「ご丁寧にどうも。俺は遊城十代。十代でいいぜ。同じオシリスレッド同士、ヨロシクな!」
にっこりと太陽のように笑う彼は、遊城十代。
いいかげんな私の記憶が正しければ遊戯王GXの主人公にしてHERO使いだったはずだ。
そして無類のデュエル好きである。
「同じくレッドの丸藤翔っス」
水色の髪が特徴的な少年は確か丸藤翔。
機械族融合使いにして、十代の弟分。
「前田隼人なんだな」
そしてベッドの上に寝転がる前田隼人。
デスコアラに良く似た獣使い。
カードの腕はいまいちだが、カードが好きで別の道を志すはずだ。
「まさか女の子が居るとは思わなかったっス」
「あはは……」
なんとも正直な丸藤君のセリフに私は苦笑する。
女子は基本的にオベリスクブルー女子寮。オシリスレッドに女子が入るなど前代未聞だろう。それだけ私の成績が悪かったのか。そう考えると頭が重くなる。……まあ筆記試験を受けた覚えはないのだけれど。
「よし、デュエルしようぜ!」
へ!?
いつの間にか十代が私の腕をしっかり掴んでいた。
「たしか栞ってクロノス教授倒してたもう一人の受験生だろ?きっとスッゲー強いはずだ!」
「いや、あの、その……」
ずるずると引きづられそのまま寮の前に出る私達。
流されるままにデュエルディスクをつけた彼と対峙する。
「長ったらしい自己紹介より、こっちのほうがデュエリストらしいだろ?」
「……たしかに、そうかもしれません」
観念した私もデュエルディスクを構える。
確かにデュエリストはデュエルしたほうが自己紹介になるだろう。
「でははじめましょう!十代!」
「おう!」
冗長な言葉より一つのデュエル。
この世界における真理なのかもしれない。
それにもしかしたら、また友達が出来る可能性だってある。
「デュエル!」
夕闇に染まる寮の前で、私の二回目のデュエルが幕を開けた。
――
十代 LP4000
栞 LP4000
「オレの先攻、ドロー!オレは《融合》を発動!手札の《E・HEROフェザーマン》と《E・HEROバーストレディ》を融合!さあ来いマイフェイバリットHERO《E・HEROフレイムウィングマン》!」
翼をつけた緑のヒーローときつめの印象を受ける赤のヒーロー。
二人のヒーローが融合して現れるのは赤と緑の翼を纏いし精悍なヒーローだ。
E・HEROフレイムウィングマン
ATK2100 DEF1200
「さらに《悪夢の蜃気楼》を発動してからカードを2枚伏せてターンエンド!」
十代がこちらを見てにやりと笑う。
これからのデュエルを本気で楽しもうとする顔だ。
ならば私も全力を尽くすのみ。
「私のターン。ドロー」
「オレはこのタイミングで《悪夢の蜃気楼》の効果で4枚ドローするぜ。さらに速攻魔法《非常食》を発動!《悪夢の蜃気楼》を破壊して1000回復だ!」
十代 LP4000→5000
デメリットの大きな《悪夢の蜃気楼》だが、《非常食》のコストで回復してしまえば問題はない。
手札損失なしでLPを稼ぐまさに理想的なコンボ。
「私は《影霊衣の万華鏡》を発動。エクストラデッキの《E・HEROCore》を墓地に送り《ブリューナクの影霊衣》と《クラウソラスの影霊衣》を儀式召喚」
《ブリューナクの影霊衣》
ATK2300 DEF1400
《クラウソラスの影霊衣》
ATK1200 DEF2300
「すっげー!一枚の魔法で二体も呼んじまうのか!しかも強そうなモンスター!」
(間違いなく大枚はたくかいのあるカードですよね)
目をキラキラさせる十代に私は上機嫌で頷く。
一枚の魔法で二体のモンスターを召喚する。
万華鏡は生贄に捧げられるカードが一枚に強制される代わり、同時に何枚も儀式モンスターを呼び出せる優秀なカードだ。
……私の財布を破壊したという意味でも強力なカードである。
「さらに《ブリューナクの影霊衣》の効果により、《E・HEROフレイム・ウィングマン》を手札にバウンスします」
「なんだって!?」
氷結界の龍、ブリューナクを模した鎧の戦士が剣を一振りすると、突風が十代のフィールドに荒れ狂う。ヒーローは一瞬抗ったが、じりじりと風に煽られやがて消滅した。
融合カードの弱点。それは手札には戻れずデッキへと戻ってしまうことだ。
普段こそサーチにしか使われない彼だが、その効果も中々凶悪なのだった。
「カードを1枚伏せてからバトルフェイズ。《クラウソラスの影霊衣》で攻撃」
「トラップ発動!《ヒーロー見参》!このカードは相手が手札をランダムに選び、それがモンスターカードだった場合オレの場に召喚できる!さあ、カードを選んでもらうぜ」
「……右端のカードで」
「よし、効果で《E・HEROエッジマン》を召喚だ!」
E・HEROエッジマン
攻撃力2600 守備力1800
主の危機に現れたのは黄金のHERO。
その攻撃力は私の場に居るモンスターのどれよりも高い。
4枚あった手札の中でこれを引き当てる十代がすごいのか、それとも私の運が悪いのかそれともどちらもなのか、とりあえずため息をつくしかない。
防御に不安しかない状況だが現状私が打てる手はない。
「――攻撃中止。ターンを終了します」
「よし、オレのターンだな!ドロー!《E・HEROスパークマン》を召喚するぜ。さらに《スパークガン》を装備!」
《E・HEROスパークマン》
ATK1600 DEF1400
今度現れたのは光のHERO。
稲妻を纏い、その手にはアサルトライフルのような銃が握られていた。
「《スパークガン》の効果で《ブリューナクの影霊衣》を守備表示に!――バトルフェイズ《E・HEROエッジマン》で《ブリューナクの影霊衣》を攻撃だ!パワーエッジアタック!さらに《E・HEROスパークマン》で《クラウソラスの影霊衣》を攻撃!スパークショット!」
「くっ……ブリューナクとクラウソラスが……」
栞 LP4000→2800→2400
貫通効果持ちのエッジマンによってLPが半分近く削られる。
ソリッドビジョン越しとはいえ凄まじい迫力だ。思わずふらつきそうになる足を必死で抑えながらもカードを宣言する。
「トラップ発動。《ヒーローシグナル》――味方の危機にHEROが駆けつける。風のヒーロー《E・HEROエアーマン》召喚。さらに効果によりデッキから《E・HEROブレイズマン》を手札に加えます」
「ヒーローだって!?」
私の場に現れたのは送風機を背負ったHERO。
彼は私を護るように十代を睨みつける。
サーチ効果と伏せ破壊効果を持つ、唯一の制限ヒーロー。
E・HEROエアーマン
ATK1800 DEF300
「カードを1枚セットしてオレはこれでターンエンド!――新たなヒーローかあ、栞もHERO使いだったんだな!」
「そうですね、みんな大好きなカードたちです」
正確にはカードを無節操に買った結果である。
カードショップには絶対悪魔が居るに違いない。
ケース越しに眺めるカードは3割り増しで魅力的だ。
「私のターン。ドロー!」
デッキからカードをドローする。
そのカードがあまりにも理想的で目を見開いてしまう。
HEROだったらこれを使いたい。そんなことを考えて引いてしまうあたり私のドロー運は中々なのかもしれない。
アニメだったらカードに選ばれすぎい!と叫ぶところだ。叫ばないが。
「――私は《ミラクルフュージョン》を発動。墓地の《E・HEROCore》と《クラウソラスの影霊衣》を墓地融合!極寒のHERO《E・HEROAbsoluteZero》を召喚します」
E・HEROアブソルートZero
ATK2500 DEF2000
「さらに《E・HEROブレイズマン》を召喚。効果により手札に《融合》を加え、そのまま発動《E・HEROエアーマン》と《E・HEROブレイズマン》を融合!風の英雄降臨――《E・HERO Great TORNADO》」
E・HERO Great TORNADO
ATK 2800 DEF2200
「すっげー!一気にヒーローが2人かあ。やるな!栞」
白い衣を持った氷結の英雄にマントを纏う風の英雄。並び立つ二人のHEROを見て十代は嬉しそうに笑う。
それに釣られて私まで笑ってしまう。本当にデュエルは楽しい。
「さあ《E・HERO Great TORNADO》の効果発動。召喚時、相手モンスターの攻撃力、守備力を半分にします『ダウンバースト』!」
「げえっ!そんなのありかよ!?」
E・HEROエッジマン
ATK2600→1300
E・HEROスパークマン
ATK1600→800
「二体のHEROで攻撃――『瞬間氷結』&『スーパーセル』!」
「うわあああっ!?」
十代
LP5000→3800→1800
「私はこれでターンエンド」
「オレのターン!ドロー!――新たなワクワクするHEROたちを呼ぶなんてお前はすげえぜ栞!でもな……HEROだったらオレだって負けてないぜ!《死者蘇生》発動!――蘇れ《E・HEROエッジマン》!」
《E・HEROエッジマン》
ATK 2600 DEF1800
即座に場に現れる黄金のHERO。
――HEROはピンチになると何処からだって現れる。除外されても墓地に送られても、時にはデッキの中でさえ。
……たまには休ませてあげるのもありだとは思うが。
「さらに《H-ヒートハート》を発動だ!これで攻撃力500アップ!さあ《E・HERO Great TORNADO》に攻撃!『パワー・エッジ・アタック!』」
「ぐ、ぐう……」
栞
LP2400→2100
「カードを一枚伏せてターンエンドだ!」
「私のターン。ドロー!」
フィールドに素早く目を走らせる。
十代の場には伏せカードが一枚。そして《E・HEROエッジマン》。
私の場は《E・HEROアブソルートZERO》のみ、手札は三枚。
……勝利への筋道はある。
「私は《影霊衣の万華鏡》を発動します。場の《E・HEROアブソルートZERO》を生贄に捧げ《クラウソラスの影霊衣》と《カタストルの影霊衣》を儀式召喚!」
「HEROを材料にするだって!?」
「――そして、氷結の英雄最後の力を発動します。このカードは場を離れたとき相手のモンスターを全て破壊する!」
「まじかよっ!?」
霧状に舞う氷結の粒子が触れるもの全てを凍らせ砕く。
禁止カード《サンダーボルト》と同威力の所業である。
氷霧が晴れ、現れるのは人型の龍と、怪鳥を模した鎧を纏った戦士だ。
《クラウソラスの影霊衣》
ATK1200 DEF2300
《カタストルの影霊衣》
ATK2200 DEF1200
「二体のモンスターで攻撃します!」
「――まだだ!速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》!《ハネクリボー》を特殊召喚して攻撃を防ぐ。そして《ハネクリボー》は破壊されたときターン終了時まで受けるダメージを0にする!」
獣人の爪は、十代の目の前に現れた茶色い毛玉によって寸前のところでそらされる。
「ターン終了です。クラウソラスは融合モンスターの攻撃力を0にし、効果を無効にする能力を持っているしカタストルは影霊衣モンスターに融合モンスターをダメージ計算なしで破壊する能力を付与する!――さあ、十代!この布陣突破できますか?」
「勿論やってやるに決まってるだろ?こんなワクワクするデュエルはこの程度で終わらせないぜ!――オレのターン!ドロー!……まずは《強欲な壷》で2枚ドローするぜ。さらに《天使の施し》で3枚ドローし2枚捨てる!」
これで手札は4枚。
十代が不適に笑う。
「オレは《ミラクルフュージョン》で《E・HEROワイルドマン》と《E・HEROネクロダークマン》を融合!現れろ《E・HEROネクロイドシャーマン》!」
《E・HEROネクロイドシャーマン》
ATK1900 DEF1800
「このカードは特殊召喚された瞬間に効果を発動する。――《クラウソラスの影霊衣》を破壊するぜ」
「クラウソラスっ!?」
「さらにもう一つの効果を発動!相手の墓地のモンスターを相手の場に復活させるぜ《E・HERO ブレイズマン》を相手の場に召喚!」
《E・HERO エアーマン》
ATK1800 DEF300
「わざわざ《E・HEROブレイズマン》を……と言うことはまさか十代!」
「そう、そのまさかだ!まず《融合破棄》を発動して墓地に《E・HEROフレイム・ウィングマン》手札から《E・HEROフェザーマン》を召喚!――そして《ミラクルフュージョン》をもう一回だ!墓地の《フレイムウィングマン》と《スパークマン》を融合!――究極の輝きを放て!《シャイニング・フレア・ウィングマン》!」
《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》
ATK2500→3700 DEF2100
輝きをはなつHEROが十代の場に現れる。
それは攻撃力を墓地のHEROの数だけ上げる強力なHERO。
「『シャイニングシュート』!!」
「ひゃああっ!?」
栞LP2100→200
ソリッドビジョンの迫力に私は思わず尻餅をついてしまう。
だが、このモンスターの攻撃はこれでは終わらない。
「《シャイニングフレアウィングマン》は相手モンスターを破壊したときその攻撃力分のダメージを相手に与える!」
即ち《フレイム・ウィングマン》と同じ効果。
破壊されたHEROの攻撃力は2800。
手札0の私には勿論それに耐えられるはずもなく――。
「はにゃああっ!?」
栞LP900→0
光のHEROによる追い討ち。
私のLPはしっかり0を刻んだのだった。
「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」
「同じく。負けてしまったのは悔しかったですが、私も楽しかったですよ」
すごくいい笑顔で決めポーズをする十代。
負けてしまったというのに、私の口元にも笑みが浮かんでいた。
彼ともう一回デュエルしたい。
今度こそ勝ってやりたいなんて思いが芽生えている。
でも、その前に私が言うべきことはきっとこんな言葉だ。
「ねえ、十代」
「何?どうしたんだよ、そんなかしこまって」
「――私と、友達になってくれませんか?」
その言葉に彼は一瞬だけきょとんとした顔になって――にっこりと笑ったのだった。
「応!」
カードショップに行くと散財する(断言)
デュエル内容修正しました。