胡蝶の夢 遊戯王GX世界   作:くらげ(仮)

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20話 VS吸血鬼

 

「罠カード発動《激流葬》です。場のモンスターを全て破壊――」

「ここが使いどころかな?僕は《神の宣告》を発動して無効化するよ」

「……う、分かりました……」

「――うーんと、じゃあ僕は効果を使い終わった《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を生贄に《アドバンスドロー》を発動して二枚ドローするよ。さらに《真紅眼凱旋》の効果を発動!《レッドアイズダークネスメタルドラゴン》を蘇生!さらに効果を使って《真紅眼の黒炎竜》を蘇生!このモンスターを再度召喚してデュアル効果を使えるようにするね……あと、《サイクロン》を使ってその最後のセットカードを破壊するけどいいかな?」

「う、《聖なるバリア・ミラーフォース》が……」

「……あちゃー」

「うにゅう……」

 

 保健室のテーブルの上に次々と展開されるドラゴンを見て私とウィンダはため息をつく。

 LPは《レッドアイズダークネスメタルドラゴン》で蘇生された《真紅眼の黒竜》と《黒炎弾》によって半分以上削られて居る状況でデュアル召喚された《真紅眼の黒炎竜》である。

 当然私の《ガスタの巫女 ウィンダ》で耐えられるわけもなく……

 

「さあ、フィニッシュだ!《真紅眼の黒炎竜》で《ガスタの巫女ウィンダ》を攻撃『黒炎弾』!」

「……《ガスタの巫女ウィンダ》が破壊されます――そして《真紅眼の黒炎竜》の効果が発動してしまうので……」

「そう、2400のダメージが発生するから君のライフは0。僕の勝ちだね」

「負けました……」

 

 テーブルの上に置いたカードを指差しながら、私の対戦相手――元ダークネス現天上院明日香さんの兄で同級生こと天上院吹雪さんはにっこりと笑った。

 あの後闇のデュエルのダメージにより仲良く保健室に運び込まれた私達は、そのまま保健室の住人となっていた。

ちなみに私のほうが重症だったらしい。鮎川先生に凄まじく怒られた。『せめて今度戦うときはノーダメージで勝ちなさい!』とは彼女の言葉である。その言葉を聞いて即座に『じゃあ練習決闘をここでやっていいよね』と言ってしまう吹雪さんは中々に凄まじい。

『日がな一日、女の子の隣で寝てるだけってのも胸キュンポイントが足りないし……どうせなら決闘しようよ――女の子が決闘している姿っていうのも中々だからね』というのは彼の談。結果として、朝から晩まで構築を練ってはデュエル漬けというのが今の状況だ。

 

「うーん、でも総計だとまだまだキミの勝ち越しだから……僕もまだまだだね」

 

今日のデュエルの結果は40戦して21勝19敗。

プレイングミスを誘発しそうな回数だが、彼の動きに全くプレイングのよどみは見られない。途中から疲れで妙なプレイングをしそうになってはウィンダの視線に気づいて大慌てで修正する私とは大違いである。

見舞いに来てくれた明日香さん曰く吹雪さんはカイザーと肩を並べるほどの決闘者だそうだが、それも頷ける実力である。一緒に来た丸藤先輩との決闘もまさに学園の頂上決戦と言う感じだった。観客が私と明日香さんしか居なかった分かなり得した気分である。

 

「ふああ……」

「まったく、女の子がこんなだらしないところ見せてどうするのよ……」

「ああ、もうこんな時間か」

 

 はしたないと知っていながらも大きなあくびを一つつくと、吹雪さんは小さく苦笑した。

 時計を見れば既に良い時間が過ぎていた。

 普段だったら夢も見ずに熟睡している時間だ。

 

「――じゃあ、お休み」

「はい、お休みなさい」

 

 間仕切りのためのカーテンを閉めてからベッドに横になる。

 蛍光灯を消すと、時計の音と静かな呼吸音だけが保健室に響く。

目を閉じて、深呼吸を一つ。

瞼の裏の暗闇に、過去の光景が浮かぶ。

廃寮、墓守、そして吹雪さんとの決闘――自らの命をベッドにした闇のゲーム。

一歩間違えば全てが死に直結していた。

戦っている間は興奮と集中によって誤魔化される恐怖が、今更になって私のうえにのしかかる。

いつもだったら決闘で気絶した時間が睡眠時間と化しているのだが、自らベッドに入り込む時間だとそうもいかない。闇のゲームの代償として発生したダメージ…傷の痛みがじわじわとしみこんで来る。

闇に喰われ、消失した姿が、呪詛により棺に埋葬される姿が、溶岩の海へと沈む姿がありありと想像される。

相手がドローしたのが《デーモンの騎兵》だったならば、《ファイアーボール》でなく《火炎地獄》だったら、そして《黒炎弾》を二連打されていたら……私はここに居ない。

 

「――う、うう……」

 

 自らのベッドを力一杯掴む。

 強くなければ、強くならなければこの先私は確実にゲームの生贄となる。

 一度負の方向に動いた思考を正に戻すのは難しい。

 嫌な考えばかり浮かんでしまう。

 

「――まったく、自分を大切にしなさいと言ったでしょ?」

 

 震える私の頭にひやり、とした感触が触れる。

 少し硬質な人形の指が私の髪を優しく梳いていた。

 

「……ウィンダ」

「ほら、少しだけ頭上げなさい」

 

 言われるがままに頭を上げると、その下に硬いものが差し込まれる。

 目を開けると、硝子の瞳が私を覗き込んでいた。翠色のそれは、月明かりを写して優しく煌いていた。

 あまりに近くて何だか恥ずかしくなってしまう。

 

「……ちょっと硬いです」

「悪かったわね……ったく人の善意を何だと思っているんだか」

「あいたっ!」

 

 恥ずかしさのあまり軽口を叩くと、デコピンが直撃する。

 ウィンダはこれ以上ないくらいむくれた表情をしていた。

 

「さっさと寝なさい――少しは元気でたんでしょ?」

「ええ、ウィンダ……ありがとう御座います」

 

 左手を伸ばして、彼女の手を握り締めるとウィンダは指を絡ませた。

 体温こそ感じられないが、私にとってはとても暖かい手だった。

 その指の感触を手繰るようにして、私は夢のない眠りの中へと落ちていった。

 

「……」

 

彼女が小さな声で紡いだ言葉を、私は聞き取ることが出来なかった。

 

――

 

「ワタシは、絶対にお前たちのような存在を認めるわけにはいかないノーネ!ワタシの生徒を傷物にした責任、きっちり取ってもらうノーネ!」

「――ふふ、存在するものを否定するなんて……教職にあるまじき狭量ね」

 

 数日後、新たなセブンスターズが学園を襲撃していた。

 カミューラとなのる妙齢の女性の襲来。セブンスターズの魔の手は私の傷の治療など一寸も待ってくれない。敵に自らの都合を求めるのは間違っているとは言うものの、それでも辛い。

 連絡を受け、身体を引きずった私が到着した頃には既に守護者全員が集まっていた。

 そのうちの一人、クロノス教諭がセブンスターズの一員の前に立つ。

 

「ワタシの役割は生徒を守ることなノーネ……それに、闇の決闘、そんなものは存在してはいけないーノ!」

「……ふふっ、必死に否定するなんて……怖いだけなんじゃないの?」

「ワタシはこの程度のことを恐れたりはしないーノ!さあ、特別授業の時間なノーネ!遅刻寸前のドロップアウトボーイ&ガールズはしっかり見学するがいいーノ!ワタシは栄えあるデュエルアカデミア実技最高責任者!生徒には指一本触れさせないノーネ!」

 

 威圧するようにカミューラを見据えるクロノス教諭と、その視線をいなす様に艶然と笑むカミューラ。

 殺気と狂気が交錯する。

 二人の決闘者は決闘盤を構え、対峙した。

 

 

「「決闘!!」」

 

クロノス教諭

LP4000

 

カミューラ

LP4000

 

「ワタシのターン、ドローなノーネ!ワタシは《トレード・イン》を発動!手札の《古代の機械巨竜》を墓地に送って二枚ドロー!そして《テラフォーミング》を発動!手札に《歯車街》を加えるにょ。さらに《イエローガジェット》を通常召喚すルーノ」

 

イエローガジェット

ATK1200 DEF1200

 

「ガジェットか……クロノス教諭らしい」

「……そうっスね、機械族といえばまずガジェットっス」

「ああ、確実にアドバンテージを取れるモンスター群だ。低能力でも強力なモンスターと見ていいだろう」

 

黄色い歯車がクロノス教諭の場に現れる。

お互いがお互いをサーチする能力を持つがゆえに手札消費をせずに呼び出せるモンスター。同じ機械族の使い手である丸藤兄弟がこくりと頷く。

除去ガジェット、代償ガジェットと言う形からはじまり、後にレベル4エクシーズにつなげたりペンデュラム召喚を行ったりと何らかの形で関わりを持ち続ける古参モンスター。決闘は能力だけではないことを証明するモンスターの一匹だ。

 

「《イエローガジェット》の効果を発動!手札に《グリーンガジェット》を加えるノーネ。そして《マシンナーズ・フォートレス》と手札に加えた《グリーンガジェット》を捨てて墓地から《マシンナーズ・フォートレス》を特殊召喚!」

 

マシンナーズフォートレス

ATK2500 DEF1600

 

 次に現れたのは機械で出来た巨大なロボット。

 戦闘破壊すれば相手の場を荒らし、効果の対象になればハンデスという強力な効果を持つ上、実質手札から機械族とこのカードを捨てるだけというゆるい条件から特殊召喚も容易と言ういいことずくめのモンスターである。

 

「さらにフィールド魔法《歯車街》を発動!カードを二枚セットしてターンエンドなノーネ!」

 

 【古代の機械】特有のフィールド魔法が場を覆う。

 リリースを軽減する上、破壊されれば古代の機械をリクルートと、中々に強力なフィールド魔法だ。私が居た世界ではマスタールール3の移行、張替えのルール変更に伴い弱体化したが、この世界においては未だマスタールール2、張替えで簡単に特殊召喚できる。

 

「私のターン、ドロー……やはり弱いわ貴方……私はまず《生還の宝札》を発動……さらぬ手札を一枚捨てて《ライトニング・ボルテックス》を発動。これで貴方の場のモンスターは全滅ね」

「ぐっ……!」

 

 雷がクロノス教諭の場をなぎ払う。

 対象を取らない破壊に《マシンナーズ・フォートレス》が効果を発揮せずに墓地へと落ちる。

 サンダーボルト調整版のカード。コストこそ重いが、いざという時の威力は絶大である。

 

「――さらにフィールド魔法《ヴァンパイア帝国》を発動《歯車街》を塗り替えよ!我がヴァンパイアの王国よ!」

「何を馬鹿なことをしてるノーネ!ワタシは墓地に送られた《歯車街》の効果を発動!デッキから《古代の機械巨竜》を特殊召喚するーノ!」

 

古代の機械巨竜

ATK3000 DEF2000

 

 歯車で出来た街が崩れ落ち、巨大な城砦が立ち上がる。

 月夜をバックに浮かび上がる古城は、吸血鬼の棲む東欧の風情を感じさせる。

 城に押しつぶされた歯車はクロノス教諭の元へと集まり、巨大な竜を形作っている。

 だが、その様子を見て、カミューラはただ笑う。自らの準備が整ったとばかりに。

 

「くくく……これで準備は整った。墓地の《ヴァンパイアソーサラー》を除外して効果を発動するわ。このターン1度だけ必要な生贄無しで上級ヴァンパイアを召喚できる……現れよ《ヴァンプオブヴァンパイア》!」

 

ヴァンプオブヴァンパイア

ATK2000→2500 DEF2000

 

 カミューラの場に現れたのは美しい女性の姿をしたモンスター。

 不健康なまでに白い肌は、月明かりを受けて妖しい魅力を放っていた。

 その唇から覗く二対の牙が彼女がヴァンパイアであることを如実に示していた。

 

「攻撃力2000……?《古代の機械巨竜》には届かないが……」

「レベル7であの能力、間違いなく何かの能力がある……!」

「このカードは、相手の場に自分より攻撃力の高いモンスターが居るとき、そのモンスターを装備し、その元もとの攻撃力を自らの攻撃力に加算することが出来る!」

「マンマミーア!?ワタシの《古代の機械巨竜》がっ!」

 

ヴァンプオブヴァンパイア

ATK2500→5000

 

歯車で出来た巨大な竜がヴァンパイアの魔力に絡み取られ、その身を震わせる。

ヴァンパイアは嫣然と笑みを浮かべ、巨竜の背にしがみつく。細腕を歯車の中へと突き立てる。見た目こそは美しい女性だがその膂力はバケモノのそれだ。ぎちぎちという歯車の軋む音とともに、彼女はその駆動系を圧殺、自らの僕へと変えていた。

 

「攻撃力……5000!」

「しかも場ががら空きっス!?」

「――行けっ我が僕よ!《ヴァンプオブヴァンパイア》でダイレクトアタック!ついでに《ヴァンパイア帝国》の効果で攻撃力がダメージステップ時500上がるけど、今は関係ないわね」

「やらせはしない!罠発動!《聖なるバリア‐ミラーフォース》なノーネ!相手の攻撃表示モンスターをすべて破壊するーノ!」

「よしっ!」

 

クロノス教諭の発動したトラップを見て三沢がガッツポーズをする。

強力な汎用罠が発動してカミューラの場をがら空きにする。攻撃反応型と言う欠点があるものの全ての攻撃表示モンスターを破壊するミラーフォースは強力なトラップだ。

衝撃が吹き荒れ、カミューラの場ががら空きになる。

 

「チィッ!……だが、ヴァンパイアは不死!《ヴァンプオブヴァンパイア》は自らの効果で装備したモンスターを装備した状態で墓地に送られたとき墓地から復活するわ!さらに《生還の宝札》の効果で一枚ドロー!」

 

ヴァンプオブヴァンパイア

ATK2000 DEF2000

 

「最後に《墓守の使い魔》を発動してターンエンドよ」

「ワタシのターン!ドロー!《強欲な壷》で二枚ドロー!ワタシは《古代の機械城》を発動してから《グリーンガジェット》を召喚すルーノ!効果で《レッドガジェット》を手札に加えるノーネ!さらに永続罠《血の代償》を発動!このカードはLPを500払うごとに通常召喚を行うことが出来るカード!《レッドガジェット》を召喚して手札に《イエローガジェット》を加えさらに召喚すルーノ!効果で《グリーンガジェット》を手札に!」

「代償ガジェット・・・・・・!」

 

イエローガジェット

ATK1200 DEF1200

 

グリーンガジェット

ATK1400 DEF600

 

レッドガジェット

ATK1300 DEF1500

 

クロノス

LP4000→3000

 

強欲な壷と同じく私の世界ではもはや禁止カードとなったカードの威力に私は息を呑む。サーチカードと召喚権の増加の組み合わせは本当に強力だ。

 

「LPを削って弱小モンスターばかり……壁を呼んで時間稼ぎのつもり?」

「ワタシは《古代の機械城》の効果を発動するノーネ!通常召喚を行ったたびカウンターをおき、その数と同じ数の生贄を代用できる!――《古代の機械城》を生贄に現れろ《古代の機械巨人》!」

 

クロノス

LP3000→2500

 

古代の機械巨人

ATK3000 DEF3000

 

「来たっ!クロノス教授のエースモンスター!」

「《古代の機械巨人》は通常召喚しか行えない代わりに攻撃時にトラップを発動させない……。流石クロノス教諭だ……!」

「――バトルフェイズ!《古代の機械巨人》で――!」

「《墓守の使い魔》の効果で攻撃前にデッキトップのカードを墓地に送りなさい!」

「ッ……!デスが《古代の機械巨人》で攻撃を行うノーネ……デッキトップのカードを墓地に送る……ノーネ」

「ふふっ、このタイミングで《ヴァンパイア帝国》の効果を発動!相手がデッキからカードを墓地に送ったとき、相手の場のカードを一枚破壊する……《古代の機械巨人》を破壊するわ」

「ぐぐ……!ターン、エンドなノーネ」

 

 墓地のカードに反応した城が妖しい輝きを放ち、《古代の機械巨人》を破壊する。

 その様子をカミューラは満足げな様子で見つめていた。

 

「――ぐ、ずるいっス。効果の説明をしないなんて」

「いや、それを責める事は出来ない。あくまでもテキスト読み上げはプレイヤーの任意。狡いが優秀な手段ではある……」

 

 悲鳴を上げる翔君に対し、三沢が苦虫を噛み潰したような顔で説明する。

 クロノス教諭に残されたのは3体のガジェット。

 耐え切れるかどうかは怪しい。

 私は思わず唇を噛み締めていた。

 

「――私のターン、ドロー……私は《ヴァンパイア・レディ》を召喚するわ」

 

ヴァンパイア・レディ

ATK1550 DEF1550

 

カミューラの場に緑色の肌を持つ美しい女性が召喚される。

攻撃力は低いものの、専用サポートカードのおかげで攻撃力は上級モンスターに届く。

 

「バトルフェイズよ!《ヴァンパイアレディ》で《イエローガジェット》を攻撃!」

「ぐ……ぐう……っ!認めない!認めないノーネ!」

「クロノス教諭っ!」

 

クロノス

LP2500→1650

 

衝撃に耐えるようにクロノス教諭は腕を交差する。

闇のゲームによるダメージは現実に直結する。血交じりの風が私達を通り過ぎた。

 

「相手にダメージを与えたことで《ヴァンパイアレディ》の効果を発動!うっとうしい罠カードを一枚デッキから墓地に送ってもらおうかしら」

「っ……分かったノーネ……」

「これで《ヴァンパイア帝国》の効果も発動!《グリーンガジェット》を墓地に送ってもらうわ――さあ《ヴァンプオブヴァンパイア》!残る歯車も破壊しておしまいなさい!」

「っ……ぐ……っ!」

 

クロノス

LP1650→350

 

先ほどよりも威力の高い一撃にクロノス教諭は思わず膝をつく。

その様子を見て、カミューラは嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

「私はこれでターンエンド……ふふっ……やっぱり弱いわね……貴方」

「違う!クロノス先生は強い!」

「……そうです、クロノス教諭は弱くありません!」

「ドロップアウトボーイ&ガール……!」

 

私達の声に、よろめきながらクロノス教諭は立ち上がる。

その瞳に写るのは、闘志。

たとえ場のカードが残されていなくても、手札が1枚でも、彼は諦めない。

 

「見せてやるノーネ!デュエルとは光と希望をもたらすもの!決して苦痛と闇をもたらすものではないということを!ドロップアウトーズ!いや、シニョール十代!シニョーラ栞――このクロノス・デ・メディチ、光の決闘を――!」

「先生……!」

「ワタシのターン、ドロー!――《貪欲な壷》を発動!墓地の《古代の機械巨竜》《イエローガジェット》《レッドガジェット》《グリーンガジェット》《古代の機械巨人》をデッキに戻して二枚ドロー!《グリーンガジェット》を召喚、《レッドガジェット》をサーチしてターンエンドなノーネ!」

「クロノス先生!?」

 

グリーンガジェット

ATK1400 DEF600

 

明日香さんが悲鳴のような声を上げる。

グリーンガジェット程度の攻撃力で凌ぐことは不可能だ。さらにセットカードも存在しない。普通では耐え切れない布陣である。

しかし、私と十代はその様子を静かに見つめるのみ。

恐らく、クロノス教諭のことだ、何かを持っているに違いない。

 

「くくく……大口を叩いてその程度なのね……私のターン、ドロー……私は《ヴァンパイアレディ》を生贄に《ヴァンパイアロード》を召喚!」

 

ヴァンパイアロード

ATK2000 DEF1500

 

「バトルフェイズ!《ヴァンパイアロード》でそのセットモンスターを攻撃!」

「墓地の《超電磁タートル》を除外して効果を発動!バトルフェイズを終了させるノーネ!」

「――ちっ!《墓守の使い魔》で墓地に送っていたとは運の良い奴……ターンエンドよ……!」

「ワタシのターン、ドロー!ワタシは《テラフォーミング》を発動!《歯車街》サーチして発動!ヴァンパイアの帝国よ!消え去るが良いノーネ!」

 

「私の王国を汚した罰は重いわよ……人間……!」

「――《歯車街》が存在するとき、アンティークギアの生贄に必要なモンスターを一体減らすことが出来る!《グリーンガジェット》を生贄に現れよ《古代の機械巨人》!」

 

古代の機械巨人

ATK3000 DEF3000

 

「バトルフェイズ!《墓守の使い魔》でデッキトップを墓地に送りつつ《古代の機械巨人》で《ヴァンプオブヴァンパイア》を攻撃!『アルティメットパウンド』!」「小ざかしい真似を……!」

「良しっ!」

 

カミューラ

LP4000→3000

 

「ワタシはターンを終了するノーネ!」

「ぐ……調子に乗って……!私のターン、ドロー!《強欲な壷》でさらに二枚ドロー!私は《生者の書‐禁断の呪術》を発動!貴様の墓地の《マシンナーズ・フォートレス》を除外し……蘇れ《ヴァンプオブヴァンパイア》!《生還の宝札》の効果で一枚ドロー!

 

ヴァンプオブヴァンパイア

ATK2000 DEF2000

 

「ぐ……また現れたノーネ……」

「言ったでしょう?ヴァンパイアは不死だって……さらに《ヴァンパイア・キラー》を攻撃表示で召喚!これにより《ヴァンプオブヴァンパイア》の効果が発動する!」

 

ヴァンパイア・キラー

ATK1600 DEF1600

 

出現したヴァンパイアに反応してヴァンパイアの女性は妖しく笑い、再びその駆動系を制するべく機械の巨人へと走る。

 

「あわわ、ここで吸収効果を発動されたら終わりっス……!?」

「大丈夫なノーネ!墓地から罠発動!《スキルプリズナー》!このカードを除外することによって《古代の機械巨人》はこのターンモンスター効果を受けない!」

「流石クロノス先生!」

「当然なノーネ!シニョール十代!ワタシは闇のデュエルに屈したりはしないノーネ!」

 

だが、その指が届く寸前、光の障壁がその一撃を防ぐ。

墓地発動の罠。

ヴァンパイアの効果で墓地に罠を送ったことが逆利用されたカミューラはいらいらした様子で額に手を置いた。

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンド……しつこい男性は嫌われるわよ……!」

「ワタシのターン!ドロー!《マジック・プランター》を発動!《血の代償》を破壊して二枚ドロー!魔法カード《大嵐》を発動するノーネ!場の魔法罠を全て破壊するーノ!」

「――ぐ……!やるわね……!」

「破壊された《歯車街》の効果を発動!デッキより《古代の機械巨竜》を召喚!さらに《レッドガジェット》を召喚して《イエローガジェット》をサーチ!《イエローガジェット》と《マシンナーズフォートレス》を捨て《マシンナーズフォートレス》を墓地から特殊召喚するノーネ!」

 

古代の機械巨竜

ATK3000 DEF2000

 

レッドガジェット

ATK1300 DEF1500

 

マシンナーズフォートレス

ATK2500 DEF1600

 

「凄い……!」

「言ったろ、クロノス教諭は強いって!」

「……ぐ……!」

 

クロノス教諭の場があっという間に機械で埋め尽くされる。

その様子を鋭く見つめた彼は自らの僕に攻撃の指令を下した。

 

「バトルフェイズ!《古代の機械巨人》で《ヴァンプオブヴァンパイア》に攻撃するノーネ!『アルティメットパウンド』!」

「……ぐあっ……!」

 

カミューラ

LP3000→2000

 

「まだまだ!《古代の機械巨竜》で《ヴァンパイアロード》を攻撃――!」

「この……私が……!お前ごときに……!」

 

カミューラ

LP2000→1000

 

「さらに《マシンナーズフォートレス》で《ヴァンパイアキラー》を攻撃!」

「……っ……!お前ごときにぃぃぃっ!」

 

カミューラ

LP1000→100

 

「これでフィニッシュ!《レッドガジェット》でダイレクトアタックするノーネ!」

「相手のダイレクトアタック時、手札から《バトルフェーダー》を特殊召喚して効果を発動!バトルフェイズを終了するッ!」

「――くっ……決まらなかったノーネ。ワタシはカードを一枚伏せてターンエンドなノーネ」

 

バトルフェーダー

ATK0 DEF0

 

鐘を持った悪魔が耳障りな音をかき鳴らし、歯車の攻撃を止める。

当初の余裕を失ったカミューラはギラついた瞳でクロノス教諭を見据えていた。

端正な顔だった彼女の口が裂け、その内から牙が覗く。まさに怪物と呼ぶのに相応しい顔であった。

 

「私のターン、ドロー!……くくく……くくくくく……!」

「……!」

 

彼女はドローしたカードを見て哄笑を上げる。

その声は夜であることもあいまって、ぞくり、と生物学的な恐怖をもたらすのに充分なものだった。

 

「私は魔法カード《幻魔の扉》を発動!このカードは相手の場のモンスターを全滅させるッ!」

「――ナンですって!?」

「《サンダーボルト》と同じ効果……!?」

 

彼女の後ろの登場したのは物々しい扉、扉から噴出した闇が機械を飲み込み、その腸へと収めていく。

そして、扉の中から現れたのは機械の巨人。

巨人は元もとの主であるクロノス教諭ではなく、カミューラの場に立ち上がっていた。

 

「さらに、墓地のモンスター一体を私の場に召喚条件を無視して特殊召喚できるっ!」

「インチキすぎるっス!そんなカードあってたまるかっス!」

「《サンダーボルト》と《死者蘇生》の効果を兼ね備えるだと……!そんなカードならば相応のコストがあるはずだが……一体どんなコストが……!」

「くくく……いいところに気づいたわね……」

 

 三沢の疑問にカミューラが哂う。

 その声は、私の後ろから聞こえていた。

 慌てて振り向く私の身体をカミューラはぎっちりと拘束していた。

 

「このカードのコストは魂。もし召喚したモンスターが破壊されたり、私が敗北したりすればその魂は幻魔の生贄となる……。丁度良い魂があるからこの子を使わせてもらうわ」

「――っ!」

「シニョーラ栞ッ!?」

「栞っ――!」

 

私の身体を扉から出てきた光が拘束する。

ウィンダが慌てて光に突撃するが、ちょっとやそっとで壊せるものではないらしく、ひびが入るにとどまってしまう。

 

「諸君――良く見ておくノーネ、そして約束するノーネ」

 

クロノス教諭が私の方を見て静かに告げる。

その瞳には、普段と違う、優しい光が宿っていた。

 

「バトルフェイズ、《古代の機械巨人》で攻撃ィ!」

「闇は決して光を凌駕することは出来ない。ボーイ!そしてガール!光のデュエルを……!」

 

その言葉を言い切るか言い切らないかのタイミングで機械の巨人の一撃は彼を貫いていた。

 

クロノス

LP350→0

 

「くくくくく……ははははははっ!!」

 

カミューラの哄笑に併せ、倒れ伏すクロノス教諭の姿が徐々に変化する。

空気を抜かれた風船のように、全身が小さく変化していく。

急速にしぼんだ彼の身体は手乗りの人形サイズになっていた。その隣に七星門の鍵とデュエルディスクが転がっていた。

 

「不細工ね……こんなのは要らないわ」

「っ!っと」

 

カミューラは七星門の鍵ごとクロノス教諭を持ち上げると、人形と化したクロノス教諭をぽいと投げ放った。十代は滑り込むようにしてそれをキャッチする。

 

「――次はオレが相手だ!」

「……もし私を倒したければ、今度は私の城まで来る事ね。がっつくのは嫌いじゃないけど、はしたないわ」

 

カミューラは哂いながらその姿を蝙蝠へと変えていく。

蝙蝠たちが飛び去った先は、湖の上にいつの間にか出来ていた古城であった。

 

「――クロノス先生……!」

 

放置されていたデュエルディスクを三沢は持ち上げる。

彼が伏せていたカードは《次元幽閉》であった。

 

――

 

「……《暗闇を吸い込むマジックミラー》、《封魔の呪印》……いえ、相手がデッキを変えていた場合は……」

「ねえ……栞」

 

その晩、私は保健室でカードの吟味をしていた。

吹雪さんはもう退院してしまっているため、基本的に私はたった一人だ。落ち着いてカードを選ぶことが出来る。

ピンポイントなメタカードを投入することも考えるが、もし相手がチェンジしてしまえば空振りである。

 

「うーん、どう思いますか?ウィンダ」

「だから栞ってば……」

 

 大会であればサイドチェンジしても上限があるが、このデュエルは大会ではない。カードを変えたところで咎められることはない。

 とはいえ、彼女は恐らくヴァンパイア、であれば《暗闇を吸い込むマジックミラー》を採用するのは悪くないとも思う。

 

「……でも割合を変えてしまうとデッキの回転にも影響を及ぼしますし……」

「もう栞ってばっ!」

「はにゃ!?」

 

 こつん、と頭を叩かれて私は思わず顔を上げる。

 見ればウィンダが渋い表情で私を見ていた。

 

「――もしかして、あいつに勝負を挑みに行く気じゃないわよね!」

「……あいつ?」

「あの、いけ好かない、吸血鬼女よ!」

「ええ」

「馬鹿じゃないの!?わざわざ火中のスポーア拾いに行く真似をするなんて!あんな奴十代当たりに任せとけば何とかなるわよ!だから……!」

「しかし、私のせいでクロノス教諭は……」

 

まくし立てるウィンダに私は、目を伏せる。

彼が伏せていたのは《次元幽閉》。私のことを考えなければ彼が勝っていた公算は高い。私が捕らえられなければ、彼が人形になることはなかったのだ。

この戦いをすることは私の責任でもあるのだ。

 

「うっ……でも!栞はあの鬼畜魔法カードどうするつもりなのよ!?」

「そちらについても考えはあります……具体的には……」

 

《封魔の呪印》《禁止令》《魔法使いの里》などのカードをサイドデッキに戻しつつ、私は答えを返す。その答えにウィンダはこの上なく不機嫌な顔になりつつも頷いてくれるのだった。

 

「馬鹿の発想ね。間違いなく馬鹿で阿呆よ、栞」

「……自覚しています」

「してないっ!絶対してない!」

 

デッキをディスクに収め、私は鮎川先生の目を誤魔化すべく保健室の窓に手をかけ、外へと飛び出す。

吹雪さんも良くやっていた手である。保健室自体は1階なので特に問題なく脱出可能だ。そのまま湖に向けて歩を進める。距離的にレッド寮より保健室の本校からならばはるかに近い、ほどなく、私の目の前に古びた城が映る。

……そのときの私は、急ぐあまりとある可能性に気がついていなかった。

 

「――栞さん、まさか一人で――」

 

近くの木陰で小さく呟かれた声は、私の耳に届かなかった。

 

――

 

「……ううん、良い香りじゃないの」

「……は、はあ」

 

カモミールティーのカップを上機嫌で傾けるカミューラさんに私は曖昧な答えを返す。林檎に似たふくよかな香りが夜の闇に溶ける。

決死の覚悟で城に入った私が見たものは、机に寄りかかってうたた寝するカミューラさんの姿であった。

クロノス教諭をあんな姿に変えた犯人だったとしても、この姿はちょっといただけない、思わず肩を小さく叩くと寝ぼけた声で『かあ様、朝のお茶は……?』と言い出す始末。

 

「かあ様には劣るけど、中々の腕ね……蜂蜜もうひとさじ貰えるかしら」

「ええと……はい」

「うん……カモミールティーにはやはり蜂蜜ね」

 

仕方なく城で見つけた厨房で茶を淹れ、カミューラさんの所へ持っていって今へと至る。ウィンダは『何やってんのよこの阿呆は……』とため息をつきっぱなしである。

茶を一通り楽しんだ(おかわりまでした)カミューラさんはカップを置くと私に胡乱げな目を向けた。

 

「……で、何しに来たの貴女。てっきり仇討ちに来て茶に毒の一つでも混ぜたのかと思いきや全然そんな気もないし……」

「いえ……あのデュエルを……」

 

茶に毒を混ぜる、そういうのもあるのか。

隣でウィンダがぽんと膝に手を置く。もしそんなことをしたらクロノス教諭が元に戻らない可能性が高いので却下なのに彼女は気づいているのだろうか?

とはいえ仇討ちなのは事実、私は小さく頷いた。

 

「ふうん……そうね……」

「……」

 

そんな私をねめつけるように上から下まで見た彼女はため息を一つ。

それから悪戯を思いついた悪童のような笑みを浮かべるのだった。

 

「……貴女、ドレスコードって分かるかしら?」

「はにゃ?」

 

私は今日一番、気の抜けた声を出した。

何故決闘の申し込みがドレスコードの話になるのだろうか……?

 

「折角の城なのだからそれなりの格好、して貰うわよ?」

 

――

 

 

「人間の割りに中々似合っているじゃない。流石私の見立てと言った所かしら?」

「は、はあ……」

「人形に着せ替えるのもアリだけど、こういう服はやはりこの大きさで見ないと駄目ね……人形にしたときの出来にも関わるのよ……」

「や、やっぱり人形なのですね……」

 

城の中にしつらえられた舞踏場で私達は対峙する。

慣れないドレスに戸惑いながらも、ディスクを構えてデッキをセットする。

私が纏うのは紅のドレス。黒の縁取りと金糸による刺繍が成されたそれは肌触りだけで一級品だと分かる代物である。その装いに対してアカデミアのディスクは恐ろしいほど似合わなかった。

 

「――決闘」

 

カミューラ

LP4000

 

遊崎 栞

LP4000

 

「私のターン、ドロー!私は《天使の施し》を発動!3枚ドローし手札を2枚捨てる――手札から《処刑人マキュラ》を落として効果発動!このターン私は罠カードを手札として使えるようになる!さらに《第六感》を宣言!二つの数字を宣言しダイスを振って宣言した数字だった場合その分カードをドロー。外したらデッキのカードを出た数だけ減らすわ。数字は5か6よ――ダイスの目は――5!よってカードを5枚ドローする!さらにもう一回《第六感》、宣言するのはもちろん5か6――残念、出目は4だったからデッキトップからカードを4枚送るわ」

「――!?」

「相変わらず凄まじいドローソースね……!」

 

(やはり、来ましたか……)

 カミューラさんが手札から捨てたカードに対し、ウィンダは悲鳴に近い声を上げ、私は奥歯を噛む。

《処刑人マキュラ》、罠カードを手札から発動する危険なカードである。禁止カードに指定されており、同じく禁止カードの《第六感》と相性が良い。

手札の枚数は10、これだけあればいろいろ出来るだろう。

 

「――私は《生還の宝札》、さらに《ミイラの呼び声》を発動!手札から《精気を吸う骨の塔》を特殊召喚するわ――そして《精気を吸う骨の塔》を通常召喚、それから《死者蘇生》を発動して《精気を吸う骨の塔》を特殊召喚するわ。《生還の宝札》で一枚ドロー」

「【アンデッドデッキデス】――!私は手札から《エフェクトヴェーラー》を捨てて効果を発動します。《精気を吸う骨の塔》1体の効果をエンドフェイズまで無効化します」

「――やるわね、貴女――!だけど2枚デッキを破壊してもらうわ」

 

精気を吸う骨の塔

ATK400 DEF1500

 

ゴブリンの骨で出来たおぞましい形の塔が私の前に出現する。

アンデッド族を特殊召喚をするたびにデッキを二枚捨てさせるカード。

通常であれば相手の墓地肥やしにしかならないカードであるが、特化させれば話は別。凄まじい勢いでデッキを破壊する。

 

「私は墓地の《馬頭鬼》の効果を発動!このカードを除外して墓地より《ヴァンパイアロード》を特殊召喚!デッキを4枚破壊!《生還の宝札》で一枚ドロー!さらに《ヴァンパイアロード》を除外し――現れよヴァンパイアの始祖!《ヴァンパイアジェネシス》を特殊召喚!デッキを4枚破壊!」

 

ヴァンパイアジェネシス

ATK3000 DEF2100

 

紫の肌を持つ人型のモンスターが現れる。

長い牙、そして巨大な肉体――日光や流水の力すら受けないというヴァンパイアの始祖。その威圧感はまさに怪物と呼ぶのに相応しい異形であった。

……素材となった《ヴァンパイアロード》の方が強いとか考えてはいけない。

 

「さらに《ヴァンパイアジェネシス》の効果を発動!手札の《バーサーク・デッド・ドラゴン》を捨て墓地より現れよ《ヴァンパイアデューク》!デッキを4枚破壊!さらに《ヴァンパイアデューク》の効果に発動!罠カードを一枚墓地に送ってもらうわ、そして《生還の宝札》で一枚ドロー!」

 

ヴァンパイアデューク

ATK2000 DEF0

 

「さらに《トランスターン》を発動!《ヴァンパイアデューク》を破壊して《ヴァンパイアロード》を特殊召喚し、デッキを4枚破壊!」

 

ヴァンパイアロード

ATK2000 DEF1500

 

「カードを2枚伏せて《アンデットワールド》を発動、これによりお互いが召喚するカードはアンデッド族として扱い、《精気を吸う骨の塔》の効果を受ける――私はこれでターンエンドよ」

「私の、ターン――ドロー」

 

《アンデットワールド》によって作られた重い空気を振り払うように私はデッキトップをドローする。

私の手札は5枚。デッキから墓地に送られたのは使ってしまった《エフェクトヴェーラー》を含めて20枚。デッキ枚数の残りは半分を切った15枚。

しかも《アンデットワールド》の効果により、私も特殊召喚するたびにデッキのカードを6枚ずつ落とされるのだ。無策のまま三回特殊召喚すればデッキが完全に破壊され、私は敗北してしまう。

だが、ここで引けば私に残された道は自滅のみ。

嗜虐的な笑みを浮かべるカミューラさんを、必死で見据える。

 

「私は墓地の《影霊衣の降魔鏡》と《ヴァルキュルスの影霊衣》を除外して《影霊衣の万華鏡》を手札に。さらに《影霊衣の万華鏡》と《ユニコールの影霊衣》を除外して《影霊衣の降魔鏡》を手札にサーチします」

「ふふ……破滅に近づいてなお、手札を整えようとするのね……その諦めを感じさせない瞳が、どう変わるのか、楽しみね」

「――私は《サイクロン》を発動します、場の《アンデットワールド》を破壊――」

「――罠発動!《魔宮の賄賂》よ。破壊を防ぐ代わりに一枚ドローしなさい」

 

サーチを連打して手札を整える。これで私のデッキは12枚。

大分薄くなったデッキを私は静かに撫でる。

LPこそ失われていないが、闇の力によって私の中の何かが奪われるような虚脱感が私を襲っていた。

 

「--私は《ミラクルフュージョン》を発動します。墓地の《クラウソラスの影霊衣》と《E・HEROエアーマン》を融合し――極寒の英雄――《E・HEROアブソルートZERO》を融合召喚します」

 

E・HEROアブソルートZERO

ATK2500 DEF2000

 

「ふふ……中々に強力なモンスターみたいだけど、攻撃力じゃ《ヴァンパイアジェネシス》には敵わないじゃない。さあ、カードを6枚墓地に捨ててもらうわ!」

「うっ……!」

「栞っ!?」

 

骨の塔が妖しく揺らめき、私の体の力ががくん、と抜けた。

とっさに足に力を入れたおかげで、ぎりぎり倒れずに済んだ。しかし、視界が一気に狭まる感覚が私を襲っていた。

 

「――《影霊衣の反魂術》を発動します。場の《E・HEROアブソルートZERO》と墓地の《儀式魔神ディザーズ》を生贄とし《トリシューラの影霊衣》を儀式召喚します」

「愚かな――!《精気を吸う骨の塔》の効果を――」

「《E・HEROアブソルートZERO》は場を離れたとき、相手のモンスターを全て破壊します――!」

「何ですって!?」

 

絶対零度の嵐が吹き荒れ、カミューラさんの場を一掃する。

 

トリシューラの影霊衣

ATK2700 DEF2000

 

「さらに儀式召喚された《トリシューラの影霊衣》の効果を発動します。相手手札と、場のカード、墓地のカードを一枚ずつ除外します。――一番左の手札と《アンデットワールド》、墓地の《馬頭鬼》を除外します」

「ちっ――!可愛さ余って憎さ100倍ってところかしら」

 

氷の剣がおどろおどろしい空気を消し飛ばし、砕く。

《精気を吸う骨の塔》が存在しないとはいえ、アンデットのように透き通ってしまった《トリシューラの影霊衣》の姿は悲しいものだ。

私は小さく手を握り締めた。

 

「《影霊衣の降魔鏡》を発動します。墓地の《儀式魔神リリーサー》《影霊衣の舞姫》を生贄とし――《グングニールの影霊衣》を儀式召喚します。《影霊衣の舞姫》の効果で除外されていた《ユニコールの影霊衣》を手札に加えます」

 

グングニールの影霊衣

ATK2500 DEF1700

 

「《グングニールの影霊衣》の効果を発動します。手札の《影霊衣の万華鏡》を墓地に送りセットカードを破壊します」

「罠発動!《強制脱出装置》よ!《グングニールの影霊衣》を手札に戻しなさい!」

「……手札から《ユニコールの影霊衣》を墓地に送り墓地の《ディサイシブの影霊衣》を手札に加えます。そして《影霊衣の万華鏡》を発動。手札の《影霊衣の術師・シュリット》を生贄に《ディサイシブの影霊衣》を儀式召喚します、《影霊衣の術師・シュリット》の効果でデッキより手札に《トリシューラの影霊衣》を加えます」

 

ディサイシブの影霊衣

ATK3300 DEF2300

 

消費を度外視しての連続儀式召喚。巨大な武装を纏った竜と氷の剣を持つ戦士が場に出揃う。

その攻撃力の合計は6000.

初期ライフを削り飛ばすのには充分な値である。

ウィンダに小さく頷きを返し、私はカミューラさんを見据える。

 

「カードを一枚伏せてから――バトルフェイズ《トリシューラの影霊衣》でダイレクトアタックします」

「ぐっ……!」

 

カミューラ

LP4000→1300

 

「さらに《ディサイシブの影霊衣》でダイレクトアタックします――!」

「墓地の《ネクロガードナー》を除外して攻撃を防ぐわっ!」

「ターンエンドです」

「私のターン――ドロー!スタンバイフェイズにヴァンパイアは蘇る!出でよ《ヴァンパイアロード》!」

 

ヴァンパイアロード

ATK2000 DEF1500

 

「そして《強欲な壷》で二枚ドローするわ……ふふ!ふふふ!はははははははは!

 

鬼気迫る表情でカミューラさんはデッキをめくり、そして哄笑を上げる。

口の端から覗く牙が敵をもとめぎらぎらと光っていた。

 

「私は《生者の書-禁断の呪術》を発動!貴女の墓地の《クラウソラスの影霊衣》を除外し――《精気を吸う骨の塔》を再び召喚する――!」

 

精気を吸う骨の塔

ATK400 DEF1500

 

骨で出来た塔が再び現れる。

私のデッキは残り5枚。

3回の特殊召喚を行われれば私は敗北する。

背中から嫌な汗が流れた。

 

「――貴女、中々良い戦術だったわよ」

「……どういうことですか?」

「昔を思い出すのよ。本当に昔の話――」

 

カミューラさんはふと真顔に戻って私を見据える。

その瞳に映るのは――懐古、であろうか?

私の何が懐かしいというのだろうか。

 

「――私が引いたカードは《幻魔の扉》。そしてこのカードは魂と言う代償を求める――知っているわよね」

「ええ」

 

カミューラさんの言葉に私はこくり、と頷く。《サンダーボルト》と《死者蘇生》の効果を持つ上に、他者の命を人質にするという危険極まりないカード。忘れるはずがない。

故に、私はこのカードの対策をしてきたのだ。

 

「普通だったら《封魔の呪印》や《禁止令》を考えるところよね……事実私が蝙蝠で見た三沢って子はそんな対策を練っていたわ」

「……」

「――だけど、貴女は違う。このカードのコストそのものを考えていた」

 

その言葉にも私は頷く。

発動するのに必要なものが揃わなければ、カードは使えない。

故に私は――

 

「だから、貴女はたった一人で勝負を挑んだ。――私にこのカードを発動させないためにね」

「――ええ」

「私の……かあ様は私を守るため、たった一人で吸血鬼狩り共に挑んだのよ――私の存在を完全になくすため、私を棺の中に閉じ込めて」

 

カミューラさんは静かに瞳を閉じた。

そして、震える声で告げる。笑いと、寂しさ、狂気のこめられた声色。

 

「この状況、あの時と一緒なのよ」

「……どういうことですか?」

「私は、あの時かあ様とはなれたくなくて、勝手について来てしまったのよ」

 

その言葉にウィンダは何かに気づいて息を呑む。

直後、私の後ろで聴こえる足音。

 

「――栞さん――!」

「翔君――!?」

 

思わず振り返ると、水色の髪の少年がかけてきた。

その顔は必死そのもので、私のことを心配しているのがありありとわかる表情だった。

 

「私はそこの少年の魂をコストに――!」

 

その背後で、絶望を告げるカードをカミューラさんは発動していた。

 

 

 

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