胡蝶の夢 遊戯王GX世界   作:くらげ(仮)

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21話 VS精霊

「《幻魔の扉》を発動――!」

「う、うわぁぁぁ――っ!?」

「翔君!?」

 

カミューラさんのカードの発動により、翔君の全身が光に包まれる。

倒れこむ彼から何か――恐らく彼の魂が扉の中へと吸い込まれていく。

 

「――このカードの効果により、貴女の場のモンスターカードを全て破壊し、その後墓地のカードを蘇生させるわ!」

「手札から《グングニールの影霊衣》を捨てて効果を発動します――《ディサイシブの影霊衣》はこのターン戦闘、効果による破壊を受けなくなります――!」

 

扉からあふれ出す旭光。戦士を焼き尽くした暴威が竜に迫る直前、私の手札から現れた赤髪の女性がそれを受け止める。

鎧にひびが入り、その身を焼かれながらも光に抗う女性。その身を破滅させんと威力を上げる旭光――。

光が止んだ時、そこには無傷の竜だけが残されていた。

 

「――ハンドトラップで守った――流石ね。だけど、《幻魔の扉》の効果により私の場に《ヴァンパイアジェネシス》を蘇生する!《精気を吸う骨の塔》の効果によりデッキを二枚破壊!さらに《生還の宝札》で一枚ドロー!さらに《ヴァンパイアジェネシス》の効果発動!手札から《ヴァンパイアロード》を捨て《ヴァンパイアレディ》を守備表示で特殊召喚!デッキを二枚破壊して私は一枚ドロー!」

「――うっ……ぐっ……!」

 

ヴァンパイアジェネシス

ATK3000 DEF2100

 

塔から放たれる闇が私のデッキを直撃する。

膝からかくん、と力が抜けて私は無様に倒れこむ。

デッキに残された私のカードはたった一枚。

 

「――ふふ……私はこれでターンエンドよ。貴女は良く戦ったわ。だから、人形になって頂戴?」

「……」

「栞……」

 

カミューラさんが嫣然とした笑みを私に向ける。

デッキを組んだのは私だ。最後の一枚がどのカードか、私は知っている。

――私は引いた後のカードを書き換える能力持ちではない。

故に、その結果は確定している。

 

「私のターン――ドロー」

 

引いたカードを、私は見つめる。

そこにあったカードは《ディサイシブの影霊衣》。

手札から捨てることで攻撃力を1000上げるカード。

幸か不幸か彼女は《ヴァンパイアジェネシス》を攻撃表示で特殊召喚している。

攻撃力4300になった《ディサイシブの影霊衣》で《ヴァンパイアジェネシス》を攻撃すればカミューラさんのLPは0となり、私は勝利する。

 

「――翔君」

 

しかし、その選択は出来ない。

《ヴァンパイア・ジェネシス》には、《幻魔の扉》によって翔くんの魂が込められている。

もし、このモンスターを破壊すれば翔君の魂は永遠に失われるのだろう。

 

「――」

「――栞」

 

何も出来ず、動けなくなって居る私に対しウィンダは静かに声をかける。

その声は私の背筋をぞくりとさせる物がこめられていた。

 

「――攻撃しなさいよ、栞」

「ウィンダ……」

「ここで栞が負けたら栞はずっと人形なんだよ、分かってるの?」

「……」

「この馬鹿!何でうつむいているのよ!」

「ですが……翔君が……」

「ですが、じゃない!他人よりまず自分を大切にしなさいよ!」

 

ウィンダの声は悲鳴に近いものだった。

その言葉に私は答えることが出来なかった。

 

「……もういい!栞がその気なら――!」

「ウィンダっ!?何を――」

 

手を強くつかまれると、何かが私の身体に入る感触がした。

直後、私の肉体からさらに力が抜ける。

 

「影糸……!」

「そうよ!私が決着をつける!たとえ恨まれても……!私は栞を守る!」

 

ぎちり、と全身が縛り付けられる感覚。

影糸が私の身体を拘束する。

操られた私の指が、攻撃をするべく勝手にディスクへと動く。

 

「……っ……ぐ……!」

「馬鹿っ……!なんで抵抗するのよっ!?」

 

全身を痛みが貫く。

糸に逆らおうとするたびに、肉が裂け、骨が軋みを上げるのが分かる。

 

「……ウィンダ。ごめんなさい」

 

痛みを無視し、私はディスクに向かう指の方向をデッキへと変える。

デッキトップに指を置く。

その行為は『サレンダー』を意味する。

 

「ごめんなさい」

 

デッキに。

カードたちに。

泣いてくれる精霊に。

助けに来てくれたはずなのに人質にされてしまった翔君に。

一つしか義務を果たせなかった守護者の仲間達に。

仇討ちを果たせなかったクロノス教諭に。

 

「サレンダー、します」

「――っ!」

 

ウィンダが声にならない叫びを上げる。

全身が軽くなったのは影糸が切れたからだろうか。

 

「……そう」

 

カミューラさんが小さく呟くと私の意識はさらに遠くなる。

視界がどんどん狭くなる。

人形に、されている。

 

「貴女は私のそばでコレクションしてあげるわ。ずっとね」

 

それが、私が聞いた最後の言葉だった。

 

 

 

――

 

「……何所へ行く気だ」

「兄さん……」

 

栞が敗北し、カミューラのコレクションと成った次の日の夜。

レッド寮を一人抜け出した翔は湖の前に居た男に呼び止められた。

男の名は丸藤亮――丸藤亮の兄であり、この学園最強の決闘者だった。

 

「――レッド寮からも程遠い。すでに消灯時間も過ぎている――早く帰って寝ることだ」

「……違う」

「では、何をしに行く気だ」

「……栞さんを助けに行くっス」

「どうしてお前が行く必要がある。これは七星門の守り手の問題だ」

「七星門とか関係ないッス!これはボクの、ボクの問題でもあるっス!……ボクのせいで栞さんは負けてしまった!だから……!」

「カミューラはクロノス、遊崎と強いデュエリスト達が悉く返り討ちにあっている相手だ。もし行った所で今のお前では厳しい。ここは大人しく俺に任せて……」

「違う!勝つか負けるかじゃない!」

「……」

 

自らの言葉を強く否定された亮は小さく口ごもる。

弟がこれほどまでに強い拒絶を示すのは初めてだった。

普段のせせこましい姿は完全になりを潜めていた。

 

「――これは、ボクの魂の――決闘者としての問題なんだ!後ろで守られているだけじゃ、決闘者としての魂は濁ってしまう――!ダークネスのときも!カミューラの時も!その前からずっとボクはアニキや栞さんの後ろにいた!甘えるだけじゃ駄目なんだ……!」

「――!」

 

亮は大きく目を見開く。

その瞳に写る翔の姿は、すでに一人の決闘者であった。

 

「だから、今日はボクに行かせてほしいっス……兄さん……!」

「……分かった」

 

強引に通るのもやむなしとディスクを構える翔を見て、亮は静かに頷いた。

ぽかんとする翔の手を掴み、七星門の鍵を握らせる。

 

「これをもって行け――」

「……兄さん?……これは!?」

「お前はこの丸藤亮の弟……そしてその前に決闘者だ……!」

 

その言葉に、翔は強く頷いた。

 

「うん……行ってくる……兄さん……!いや!丸藤 亮……!」

 

城へと駆け出す翔を見届け、亮は静かにきびすを返す。

その勝利を信じながら。

 

――

 

「まさか、貴方が来るなんてね……」

「――」

 

舞踏場、二人の決闘者が対峙する。

片方はカミューラ、この古城の主、セブンスターズの一角。

そして挑むのは丸藤翔、彼は七星門の鍵を首にかけ、カミューラを睨みすえた。

 

「――あの時貴方は無様に逃げ出したのにね……その鍵はどうしたのかしら?」

「……これはボクのお兄さん、丸藤亮に託された鍵っス」

「あら……あの子と戦うのを楽しみにしていたのに……残念ね」

 

翔は自らの鍵を握り締める。

絶対に栞を助け出す。その一心で彼はここに立っていた。

 

「――この丸藤翔!決闘を申し込む!」

「……いいわ。あなたの兄が来ない分楽しませてもらおうじゃないの……掛け金は貴方の魂と七星門の鍵――」

「そして栞さん、クロノス先生の魂っス!」

 

お互いがディスクを構える。

最早語るべき言葉はなくなっていた。

 

「「決闘!!」」

 

丸藤翔

LP4000

 

カミューラ

LP4000

 

「ボクのターン、ドロー!カードを3枚セットしてターンエンド!」

 

 

「威勢が良い割に消極的ね……私のターン、ドロー!私は《苦渋の選択》を発動!指定したカードは《馬頭鬼》《馬頭鬼》《処刑人マキュラ》《処刑人マキュラ》《ヴァンパイアソーサラー》よ!」

 

《苦渋の選択》の発動に翔は眉を歪める。

5枚の中から1枚を相手に選ばせ、それを手札に加え残りを墓地に送るカード。

その実情は一度に4枚と言う圧倒的墓地肥やしとサーチを行えるという恐ろしいカードである。

以前こそ気にもかけないカードであったが、十代、栞や三沢との幾度とない決闘の中、墓地の大切さは見に染みて分かっている。

 

「……《ヴァンパイアソーサラー》を手札に入れるっス」

「《処刑人マキュラ》の効果により罠カードを発動できる!私は《第六感》を発動、出目は5か6を指定……1!?」

「よし……!」

 

最上級のドローソースであり、さらには墓地を肥やす効果を持つ《第六感》だが、その実体はギャンブルカード。3分の1の確率で爆発的なアドバンテージを稼ぐが、6分の1で墓地にデッキを一枚無差別に送るだけのカードとなる。

翔は自らの幸運に小さくガッツポーズをした。

 

「……!だけどまだ動けるわ!私は《おろかな埋葬》を発動!デッキから《ヴァンパイアグレイス》を墓地に送る――さらに《ヴァンパイアソーサラー》召喚!そして手札から《ヴァンパイアシフト》を発動するわ!このカードは場にフィールドカードがなく、アンデット族モンスターのみが私の場に居るときに発動できる!効果によりデッキより《ヴァンパイア帝国》を発動し、墓地より《ヴァンパイア・グレイス》を特殊召喚する!」

 

ヴァンパイア・ソーサラー

ATK1500 DEF1500

 

ヴァンパイア・グレイス

ATK2000 DEF1200

 

吸血鬼の魔術師が魔術を唱えると、巨大な城が出現。

中から現れたのは青白い顔を持った吸血鬼の貴婦人。

《ヴァンパイア帝国》にはダメージ計算時ヴァンパイアの攻撃力を500上げる効果がある――つまり攻撃力の合計は既に最大LPより上、翔の背中に汗がひとすじつつ、と落ちた。

 

「さらに《ヴァンパイアグレイス》の効果を発動!このカードの特殊召喚時、相手のデッキのカードを一枚墓地に送ることが出来る。――魔法カードを送ってもらうわ!」

「……くっ……!」

「さらにデッキのカードを墓地に送ったことで《ヴァンパイア帝国》の効果を発動!相手がデッキからカードを墓地に送った時、相手の場のカードを一枚破壊する!右のセットカードを破壊!」

「――伏せていたのは《威嚇する咆哮》!故にそのまま発動!このターン相手は攻撃宣言できない!」

 

凄まじい轟音が城の中を響き渡り、ヴァンパイアたちが身をすくめる。

フリーチェーンの防御カードのため汎用性は中々に高い。

 

「ちっ……、面倒な真似を……!私はカードを1枚伏せてターンエンドよ」

「ボクのターン、ドロー!ボクは墓地の《ギャラクシー・サイクロン》を除外して《ヴァンパイア帝国》を破壊するっス!」

「墓地から罠、墓地から魔法……鬱陶しいことこの上ないわね……!」

 

墓地から吹き上がる嵐がヴァンパイアの城を砕く。

あわよくば相手のカードを二回破壊できる《ギャラクシーサイクロン》。カミューラが墓地におくる能力を連打することを知っていたため、彼は使いにくさを覚悟してこのカードをメインデッキから投入していた。

 

「さらに罠カード《チェーン・マテリアル》を発動!このカードはデッキ・墓地・手札のカードを除外することで融合素材とすることのできる融合補助カード!ただし、このターンボクは攻撃することは出来ず、モンスターはターン終了時に破壊される!」

「何よそのカード……見た目だけじゃないの」

「ボクは《ビークロイド・コネクション・ゾーン》を発動!このカードはビークロイド専用の融合カード!《ドリルロイド》《トラックロイド》《エクスプレスロイド》《ステルスロイド》をデッキから除外して――現れろ!《スーパービークロイド・ステルス・ユニオン》!」

 

スーパービークロイド・ステルス・ユニオン

ATK3600 DEF3000

 

翔の呼びかけにこたえるようにして現れたのは巨大合体ロボ。それを翔は頼もしげに見つめる。自らの持っているカードとこのカードがコンボできる、かつてパックで当てたこのカードを見掛け倒しとしてストレージにしまおうとする彼の手を止めたのは栞だった。その使い方を聞いて、何度も頷いたことを彼は覚えている。

 

「――ぐっ……見掛け倒しとはいえ、迫力だけはあるじゃないの……」

 

4体を融合と言う最上級に重い条件を持つそのカードは強大な威圧感をもってしてカミューラを睨見据えた。

一瞬気圧される彼女であるが、次のターンには居なくなっているという事実を考え、強い瞳で睨み返す。

 

「このモンスターは1ターンに1度相手のモンスターを自らの装備カードとすることが出来る!《ヴァンパイア・ソーサラー》を装備!」

「……攻撃できなくても、効果は使えるって訳ね……!」

 

巨大なロボットがアームを展開。

餌食となったヴァンパイアの術者はその身に取り込まれる。

墓地を介さない除去は墓地での効果や破壊されたときの効果を使わせない最上級のものだ。カミューラは不快そうに目を伏せた。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

「ターン終了時になれば破壊され……何っ!?」

 

ターンエンドを宣言する翔の場を見て、カミューラは目を見開く。

《チェーンマテリアル》の代償で破壊されるはずのロボットは、彼の場でその十全な形をさらしていた。

驚きの表情を浮かべるカミューラに、翔は静かに告げる。

 

「《ビークロイド・コネクション・ゾーン》で召喚されたモンスターは効果で破壊されない」

「――コンボ、と言う奴ね……生意気な……!私のターン、ドロー!……《天使の施し》で三枚ドローして二枚捨てる!さらに《トレード・イン》で手札の《ヴァンパイアジェネシス》を捨て二枚ドロー!……墓地の《馬頭鬼》の効果を発動!墓地のこのカードを除外して墓地からアンデットを特殊召喚する!《ダブルコストン》を特殊召喚!」

「罠発動!《激流葬》!場上のモンスターを全て破壊する!ただし、《ビークロイドコネクションゾーン》で召喚したビークロイドはカード効果で破壊されない!」

「リバースカードオープン!《禁じられた聖槍》を発動!攻撃力を800ダウンさせる代わりに罠と魔法の効果を受けなくするわ!」

「くっ……召喚されたか……!」

 

ダブルコストン

ATK1700→900 DEF1650

 

現れたのは二つの影を持つモンスター。

その名のとおり闇属性のカードの生贄にするとき二体分の生贄となるモンスターである。

直前の手札交換の連打から彼女が高レベルモンスターを手札に持っている可能性は限りなく高い。翔の予想を裏付けるかのごとく、カミューラは笑みを深めていた

 

「ふふふ……行くわよ!私は《ダブルコストン》を生贄に《ヴァンプオブヴァンパイア》を召喚する!そしてその効果を――!」

「罠発動!《スキルドレイン》!LPを1000払うことで、場上のモンスターの効果を全て無効にする!」

「本当に……鬱陶しい……!」

 

ヴァンプオブヴァンパイア

ATK2000 DEF2000

 

LP4000→3000

 

ヴァンパイアの女性がロボットに駆ける寸前、翔の前に現れた罠がその動きを止める。

場の上のカードの効果を無効化する《スキルドレイン》。強力な反面自らのモンスターの効果を封印してしまうこのカード。

その強力さは幾度となく栞とぶつかり合う三沢が栞を苦しめ続けたので良く分かる。そして《ビークロイドコネクション・ゾーン》で呼び出したモンスターは効果を無効化されないので気にせず行動できる。三沢の助言によって彼はこのカードを投入していた。

 

「――カードを一枚セットしてターン、エンドよ」

「ボクのターン、ドロー!ボクは《スーパービークロイドステルスユニオン》の効果を発動!相手の《ヴァンプオブヴァンパイア》を装備する!そして《スチームロイド》を通常召喚!」

「おのれ……!」

 

スチームロイド

ATK1800 DEF1800

 

翔の場に新たに現れたのは鉄道がおもちゃになったようなモンスター。

相手モンスターを攻撃の時するときのみ攻撃力が500上昇し、相手から攻撃されれば下がってしまうという、彼の性格を現すようなモンスター。

強くなろうと決意してから、かつての自分の性格――調子に乗りやすく、その上すぐ弱腰になる――を示されているようで何度もこのカードを抜こうとした。だが、長年使っていた愛着、そして栞が愛用する《エルシャドールミドラーシュ》や十代のフェイバリット《フレイムウィングマン》を一方的に殴れる強さから彼はこのカードを抜くことは出来なかった。

自らの弱さと向き合わなければ、目を背けていては前に進めない――。

そう、《ブラックマジシャンガール》が彼に語りかけたような気がした。

 

「バトルだ!《スーパービークロイドステルスユニオン》でダイレクトアタック!行けっ!『ブロークンマグナム』!!」

「――甘いわッ!速攻魔法《月の書》を発動!《スーパービークロイドステルスユニオン》を裏側守備表示に変更!」

「じゃあ《スチームロイド》でダイレクトアタックだッ!」

「ぐっ……私がダメージを受けるなんてっ……」

 

カミューラ

LP4000→2200

 

「ボクはこれでターンエンド!」

「私のターン、ドロー!……くくく、鬱陶しい戦いもこれで終わりよ!」

「《幻魔の扉》――!でも、コストはどうする気だ!ここにはボクとお前しか居ない!」

「私の――誇り高き吸血鬼の魂を幻魔にベッドすればこのカードは発動できる!残念だったわね!」

「自らの命までもてあそぶ――!?でも、何故!そんなカードを使わなくてもアンタは充分強いっス!どうして……!」

「――私が負けられないからよ……!」

 

翔の言葉に、カミューラは鬼気迫る表情で答える。

言葉にこめられたのは決意と狂気――。

その迫力に押され、翔は一歩だけ後ずさる。

 

「私はヴァンパイア一族最後の生き残り。かつて誇り高く優雅に暮らしていた私達は人間によって滅ぼされた――かあ様もじいやも、家族たちみんなが戦火によって飲み干され、私だけがかあ様の最後の力によって棺に封印された……だけど、最近ある男が私を復活させた、幻魔の力を使って一族を復興させないか、とね」

「……」

「だから、私は負けるわけには行かないのよ。どんな手を使っても、一族を再興するまで私は負けるわけには……!」

「理屈は分かったっス――だけど、ボクも負けるわけには行かない!サイバー流の誇りのため、そしてアンタの犠牲になった栞さんとクロノス先生のためにも!……」

 

そしてカミューラは自らのカードを発動する。

 

「私は自らの魂を捧げ――《幻魔の扉》を発動!《ビークロイドコネクションゾーン》で召喚されたとしても裏側守備表示であれば問題なく破壊できる!消え去れッ鬱陶しい機械共――!」

「ぐっ……!」

「そして、墓地より出でよ《ヴァンパイアジェネシス》!」

ヴァンパイアジェネシス

ATK3000 DEF2100

 

ヴァンプオブヴァンパイア

ATK2000 DEF2000

 

「さらに墓地の《馬頭鬼》を除外して《ヴァンプオブヴァンパイア》を特殊召喚!バトルよ!《ヴァンパイアジェネシス》でダイレクトアタック――!」

「――手札から《速攻のかかし》をすてて効果を発動!バトルフェイズを終了させる!」

 

ヴァンパイアの圧倒的な攻撃を案山子が食い止める。

その様子をただ苦々しい表情でカミューラは見ていた。

 

「ターンエンドよ」

「ボクの、ターン……!」

 

翔はデッキトップに指を置く。

ここが逆転できるかどうかの剣が峰。

弱気の虫が心の奥で疼き出す。

 

(アニキ……!)

 

弱気になりかける心に頼れる兄貴分の十代の姿がフラッシュバックし、翔は閉じかけた目を見開く。

彼だったら、きっとこのドローを引くとき。恐怖ではなく、ただワクワクとした、デッキを信じる気持ちをこめるはずだ。

 

「ドロー!《強欲な壷》の効果で二枚……ドロー!」

 

そして、彼が引いたのは。

 

「――ボクは《死者蘇生》を発動!蘇れ《スーパービークロイド・ステルス・ユニオン》!」

 

スーパービークロイド・ステルス・ユニオン

ATK3600 DEF3000

 

「ぐっ……運のいい奴め……!」

「まだだ……!ボクは速攻魔法《リミッター解除》を発動!攻撃力を2倍にする!」

 

スーパービークロイド・ステルス・ユニオン

ATK3600→7200

 

巨大ロボットが彼の心に共鳴するかのごとく、唸りを上げる。

攻撃するとき弱気になるその能力は《スキルドレイン》のおかげで完全に失われていた。

 

「……攻撃力7200ですって……!?」

「これで、終わりだぁぁぁぁっ!《ヴァンプオブヴァンパイア》に攻撃『ブロークンマグナァァァム』!」

「――そんな、馬鹿なっ貴方ごときに――っ!?」

 

そして、唸りを上げたロボットの一撃が、カミューラの肉体を貫いていた。

 

カミューラ

LP2200→0

 

「私が……負けるなんて……!」

「……あれは……!」

 

膝をつくカミューラの後ろに扉が現れる。

それは《幻魔の扉》だった。敗者の魂を取り込むべく、光が彼女の身体を包み込む。

 

「――貴方っ!さっさとこれを受け取りなさい!」

「――っ!?これは……」

 

カミューラが投げたものを翔は思わずキャッチする。

紅い服を着た人形。

それは、遊崎栞をかたどった物だった。

もう助からないと判断したカミューラが最後にとった行動は彼女の解放だった。

 

「人形になった人間は、私が居なくなればすぐにもとに戻るわ――それを持って早く逃げなさい!この城が崩れるわよ!」

「な、アンタは逃げないんスか!?」

「――私はもう、幻魔に囚われているから無理よ……それにしてもこんな所で人の心配をするなんてホント甘いわね……ホント。でも、それがとっても魅力的に見えるのは、なぜかしらね……」

 

それが、カミューラの最後の言葉だった。

光に取り込まれ、彼女の体が消失すると同時に城が崩壊を始める。

翔は出口に向けてひた走るのだった。

 

 

 

――

 

 

「――うにゅう……」

 

お湯に全身をつけると全身の力がゆっくりと抜けていく。

保健室にいた頃は殆どシャワーのみ、レッド寮時代は私が入っている時間の間入れない他の男の人への考慮で殆ど烏の行水な環境で過ごしてきた私にとっては数ヶ月ぶりの体験である。

アカデミア名物ジャングル温泉。活火山が存在するため、その泉質はまじりっけなしの天然かけ流しである。皮膚から染み渡るような感覚が心地良い。全身を伸ばして身体を漬けていく。

本来、温泉に日帰りで漬かることは体力を減らすだけの行為である物の、この快楽は中々に代えがたい。

長らく保健室の住人であり清拭剤と共用シャワー暮らしの私を気遣ってジャングル温泉の使用券を渡してくれた鮎川先生に感謝だ。

 

「ウィンダも入ったらどうですか?気持ち良いですよ」

「……」

 

私の言葉に返事するものは居ない。

カミューラさんとの闇の決闘以降。彼女は私の前に現れることがなかった。

たまに(今も)強い視線を感じるので居るのは間違いないのだが、私の声に彼女が答えることはない。

私としては早く仲直りしたい。

しかし、私には許されないだけの理由がある。

 

「――はぁ・・・・・・」

 

私は腕に浮かんだ傷跡をなぞる。

影糸に締め付けられた傷はお湯によって温められる事で赤い線として腕に張り付いていた。傷口の両端には影糸が体内に侵入した細い穴が開いており中にお湯が染みるとひりひりと痛んだ。

それだけ、彼女は必死に私を引きとめようとしていた。

その気持ちを踏みにじった私は、到底許されるものではない。

――何より同じ状況になったら私はきっと同じことをしてしまうだろう。そんな人間の謝罪が受け入れられるとは思っていない。

 

「――どうすれば良いのでしょうか……」

 

呟きを一つして、お湯の中に身体を沈めていく。

口元まで沈み込んだせいで小さな泡が水面に立った。

 

「ん?だれか居るのか?」

(はにゃ!?)

 

不意に返事が返ってきて思わず息を吐く。思わず咽そうになるが、全力で息を殺す。

白く染まる視界に目をやると、遠くのほうで十代がきょろきょろと周囲を見回していた。

同じく風呂に入っているらしく、意外と鍛えられた腹筋が見える。局部が湯煙で見えないのは僥倖そのものだ。

 

(十代!?な、なぜここに!?)

 

「そうっスね。何かあっちのほうから聞こえたような……」

「もしかしたら先客かもしれないんだな。今日はレッド寮が使用できる少ない日の一つなんだな」

「――ふん、どうせ聞き間違いだろ。風呂では静かに過ごすんだな」

 

(翔君と隼人君、万丈目さんまで……っ!)

 

当時の私には知りえないことであったが、鮎川先生が出した申請と十代が出した申請はシステム上発生してしまった悲しいブッキングである。

どちらの申請もレッド寮として出された。そしてアカデミアにはブルー女子を除いて女子が居ない。そのためレッド寮同士ならば問題ないという形でコンピュータは受理したのだ。レッド寮唯一の女子である栞という例外のプログラミングなどされては居ない。

 

「だったら挨拶しようぜ。ほらレッド寮同士の裸の付き合いって奴だ。普段と違う顔も見られるかもしれないぜ!」

「勝手にしろ」

「アニキ、付いてくッスよ」

「挨拶は大事なんだな」

「おーい!誰か居るのかー!」

(こ、こっち来た!?)

 

水音がまっすぐにこちらに向かうのを察知して私はできる限り音を立てないように移動する。体育の類は全般的に苦手だが水泳だけは得意だ。行儀こそ悪いが緊急回避ということで全力移動。目指すのは隠れやすい岩がおいてある場所だ。

 

(はぁっ……はぁっ……!)

「――ありゃ?誰も居ないぞ?」

 

岩の後ろに隠れるのと、私が元々居たあたりの場所から声がするのはほぼ同時だった。岩陰から伺うと十代、そして翔君の二人が不思議そうな顔で周囲を見回していた、遅れて大きな水音を立てながら隼人君が追いつく。

 

「みたいなんだな」

「うーん、音はしたから誰か居るとは思うっスけどねえ」

「……とにかく、お湯に入って落ち着くんだな」

「そうっスね。ちょっと疲れちゃったし」

「おいおい、確かめないのかよ……」

(これなら、なんとかなりそうですね……)

 

熱気でやや汗を流しながらも私は岩陰に戻る。

会話自体は聞こえないものの、全員がお湯に浸かるのが見えた。この調子で行けば、バレずに済みそうである。

 

「「ふう……」」

 

逃げ切ったことを確信して小さくため息をつく。

私は岩側を背に、お湯に浸かりなおし――。

 

「……っ!?」

「……ウィンダ?」

 

彼女と、目が合っていた。

翠色の瞳、同じ色の髪、整った顔、真っ白で硬質な肌。球体の関節。

いつもの紫色の服を着ていないのは、彼女もこっそり入っていたということなのだろう。

会わなくなって数日しかたっていないというのに、とても懐かしい。

何かを口にしようとするが、なにも口に出来ない。

言葉をなくしたまま私達は呆けたような表情で見つめ合っていた。

 

「ふんっ!」

「――あっ……!」

 

どれほど時間がたったのだろうか。先に我に返ったのはウィンダだった。

顔を背け、そのままどこかへ歩き去ろうとする。

 

「――待っ……はにゃっ!?」

 

追いかけようとした瞬間、不意に私の足元が消失しているのに気づく。

踏み出した足が地面ではなく水の中へと吸い込まれていく。

いくら泳ぎが得意だといっても急激な変化には弱い。バランスを崩して大きく倒れこむ。盛大な水音が周囲に響いた。

 

「何だ今の音は!?」

「あっちのほうっス!……って栞さん!?」

「溺れてるんだな!」

「ゆ、遊崎だとっ!?」

 

沈む。沈んでいく。水面が遠くに見える。

随分深いらしく、未だに底に足は付かない。

 

「――栞っ!」

 

必死の形相で手を伸ばすウィンダの姿が見える。

私は彼女に向けて一生懸命腕を伸ばす。

二つの手はつながりそうで、つながらない。

 

「……!」

 

一瞬だけ彼女の手に触れ、そして剥がされる。

彼女の手に触れる感触を最後に私は気を失った。

 

 

――

 

「ここは……?」

 

そこは、周囲が青く染まった場所だった。

境界が曖昧で、霧に満ちた空間。目を凝らしてみるが果ては見えない。

 

(服、何時の間に……)

 

さっきまで温泉でタオル一枚だったはずなのに、いつの間にか服を着ている事に気づいて驚愕する。

普段着ている赤い制服、なぜかデュエルディスクまで完備されている。

デッキを引き抜くと制服の裏に入れていたはずの【影霊衣】のデッキが収まっている。逆にディスクに入れていたはずの【シャドール】が何所にもない。

 

「――きゃぁぁぁっ!?」

「うにゅっ!?」

 

そんなことを考えている私の頭上から悲鳴、直後に衝撃が私を襲う。

ごつん、と大きな音を立て、宙から落ちてきたウィンダが私を直撃していた。

思わず尻餅をつきながらも全力で抱きとめて彼女へのダメージを軽減するように努める。

 

「……うう、何なのよここは……。ってこの空間はまさか……っ!?」

 

私の体の上で周囲をきょろきょろと見回す彼女は何かに気づいたらしく。戦慄の表情を浮かべた。

 

「……ええと、どこなのでしょうか?」

「……カイバーマン……」

 

私と絶交したことも忘れ、彼女が指差した先に居たのは白い仮面を被った男だった。

この学園のオーナーである海馬社長の髪を伸ばして彼が愛して止まない青目白竜の仮面をかぶせたらこういう見た目になるのだろうか?

 

「ふははははははははははっ!無様だなっ!」

 

この学園のオーナーに似た高笑いが、青い空間に響き渡った。

 

――

 

「ふぅん……さっさと始めるがいい!」

「……ちょっと待ってください」

「待たん!」

「私だって同感よ。どうして私が栞と戦わなきゃいけないのよ」

「理由だと……?笑止!認め合えぬだけであれば決闘を行って魂をぶつけるしかあるまい!」

 

ウィンダと私が曖昧な空間で対峙する。

その中央に立つのはカイバーマンだ。

彼は私とウィンダの抗議を受け付けずに高笑いするのみ。

まさに本家本元譲りの強引さである。

 

「――仕方ないわね」

 

ウィンダは小さくため息をつくと彼女の右腕に闇が出現する。

黒い靄のようなそれは、彼女の腕にまとわりつくと同時にディスクの形を模っていた。

 

「やればいいんでしょ!やれば!」

「ふぅん……いや、そんな態度で望まれても意味はないな……ここは、褒美の一つでも考えてやるか」

「褒美、ですか……」

「そうだ。勝ったものは負けたものに何か一つ断れない命令が出来る。ということにしてやる」

「――そう」

 

その言葉にウィンダが大きく頷き、ディスクを構える。

どうやら彼女は完全にやる気になったようだ。

私の逃げ場は何所にもない。ならば、押して通るのみ。

それに、私は彼女にどうしても頼みたいことがあるのだ。

 

「決闘!」

 

遊崎 栞

LP4000

 

ウィンダ(エルシャドール・ミドラーシュ)

LP4000

 

「私の先攻。ドロー……スタンバイフェイズ、メインフェイズ……私は《クラウソラスの影霊衣》を手札から捨て《影霊衣の反魂術》をサーチします。そして《影霊衣の反魂術》を発動。手札の《儀式魔神リリーサー》を生贄に――《クラウソラスの影霊衣》を墓地より守備表示で儀式召喚します」

「いきなりやってくれるじゃないの……!」

 

クラウソラスの影霊衣

ATK1200 DEF2300

 

私の出したモンスターにウィンダが苦々しげに呟く。

生贄となることで相手モンスターの特殊召喚を封じる《儀式魔神リリーサー》。特殊召喚を行わないモンスターが少ないこのゲームにおいて強力な存在となる。

 

「カードを二枚セットしてターンエンドです」

「私のターン!ドロー!スタンバイ、メインまで……私はモンスターを守備表示でセット!カードを二枚伏せてターンエン……」

「エンドフェイズに伏せていた《サイクロン》を発動、セットカードを破壊します」

「……ホント、一旦決闘が始まると容赦ないわね……今度こそターンエンド」

 

ウィンダがやれやれと首をすくめる。

落ちたカードをディスクで確認すると《激流葬》が伏せられていたようだ。

私は安堵のため息をつく。

 

「私のターン。ドロー。スタンバイフェイズ……メインフェイズ。私は伏せていた《影霊衣の降魔鏡》を発動します。手札の《影霊衣の術師・シュリット》を生贄に《トリシューラの影霊衣》を儀式召喚します。このカードは儀式召喚に成功した際相手の場、手札、墓地のカードを一枚ずつ除外することが出来ます」

「その効果待った!私は手札から《エフェクトヴェーラー》を捨てて《トリシューラの影霊衣》の効果を無効にするわ!」

 

トリシューラの影霊衣

ATK2700 DEF2000

 

戦士から放たれた氷の一撃を翼の生えた少女が食い止める。

その力を発揮することが出来ず、ぎりりと歯をかむ音が聞こえた。

 

「生贄になった《影霊衣の術師・シュリット》の効果でデッキから手札に《トリシューラの影霊衣》を加えます」

「耐性をつけるって訳ね……」

「バトルフェイズに入ります。セットカードに《トリシューラの影霊衣》で攻撃します――!」

「でも甘いっ!私は伏せていた《皆既日蝕の書》を発動するわ。場のモンスター全てを裏側守備表示に変更するわ」

 

攻撃指令を下そうと指を伸ばした瞬間、ウィンダのセットカードが攻撃を阻む。

してやったりとばかりに彼女は笑みを浮かべる。

お互いのモンスターを裏守備表示にする《皆既日蝕の書》。攻撃を止めるだけであれば《威嚇する咆哮》でも良いのだが、このカードの主眼は相手を裏守備表示にすることである。《儀式魔神リリーサー》はあくまでもこのカードを生贄に儀式召喚したモンスターのみに効果を適用するカード。一度裏側守備表示になった彼に特殊召喚封じの力は残されていない。

 

「――バトルフェイズ終了。メインフェイズ2にカードを一枚セットし、エンドフェイズに入ります」

「エンドフェイズ時に《皆既日蝕の書》の効果で相手の裏側守備表示のモンスターは全て表側守備表示になる。その枚数だけドローしなさい」

「《クラウソラスの影霊衣》《トリシューラの影霊衣》を表側守備表示にしてカードを二枚ドローします」

「私のターン、ドロー!私は《シャドールリザード》を反転召喚するわ。その効果により《クラウソラスの影霊衣》を破壊する!」

 

シャドールリザード

ATK1800 DEF1000

 

「……う、手札から《トリシューラの影霊衣》を捨てて効果を発動します。私のフィールドの影霊衣モンスターが効果の対象になったとき、その発動を無効にします」

「っ!じゃあ私は《魂写しの同化》を発動!《シャドールリザード》に装備して属性を水属性に変更!」

「水属性……!」

 

私が漏らした呟きに、ウィンダは口の端を歪める。

《魂写しの同化》。世にも珍しい装備魔法の融合カード。

場のカードを一枚以上使用する特性上、召喚権を消費するというデメリットがあるが、属性を変更できる利点がある。シャドールモンスター+水属性モンスターといえば儀式召喚封じのあのモンスターしかいない。

 

「私は場の《魂写しの同化》によって手札の《シャドールファルコン》と水属性の《シャドールリザード》を融合し――『夜の魔物』――《エルシャドール・アノマリリス》を融合召喚するよ!」

 

エルシャドール・アノマリリス

ATK2700 DEF2000

 

現れた仮面の悪魔に私は歯噛みする。

このモンスターの効果はお互いの手札、墓地からの魔法カードによる特殊召喚を封じること。即ちこのモンスターが健在な限り《影霊衣の降魔鏡》をはじめとする儀式魔法は全滅である。

 

「ぐ――来ましたか――」

「栞がその気だったら私だって容赦しないんだから。墓地に落ちた《シャドールファルコン》の効果を発動!このカードは墓地に送られたとき裏側守備表示で特殊召喚できる!――さらに《クリバンデット》を通常召喚――これでエンドフェイズまで移行。何も無ければ《クリバンデット》を生贄にして効果を発動するよ」

 

黒い毛玉のようなモンスターがデッキに走る。

強力な墓地肥やし能力を持ち、かつてはシャドールに3枚積まれた制限カードである。

 

「《クリバンデット》をエンドフェイズに生贄に捧げる事によりデッキトップを5枚めくり、その中の魔法、罠を一枚手札に加え、それ以外を墓地に送る!――《神の写し身との接触》《シャドールドラゴン》《シャドールヘッジホッグ》《シャドールビースト》《超電磁タートル》――!その中で《神の写し身との接触》を手札に加え、残りを墓地に送る!――そして墓地に送った《シャドールドラゴン》をチェーン3《シャドールヘッジホッグ》をチェーン2《シャドールビースト》をチェーン1においてそれぞれ処理!まずチェーン3で伏せカードを破壊!」

「……う、《王宮のお触れ》が……」

「恐ろしいもの伏せてるね……チェーン2で手札に《シャドールリザード》を加え、チェーン1で一枚ドロー!これでターンエンドよ!」

 

墓地から影糸が噴出、場を駆け巡ったそれは彼女の手にカードを握らせ私のセットカードを砕き散らす。

影糸に反応して私の傷口が少しだけうずいた。

 

「私のターン……ドロー。スタンバイフェイズ、メインフェイズ。《トリシューラの影霊衣》を攻撃表示に変更。さらに《マンジュゴッド》を召喚します――効果で手札に《ヴァルキュルスの影霊衣》を加えます」

 

マンジュゴッド

ATK1400 DEF1000

 

鉄の色をした万手の仏像が私の前に降臨する。

天を指差す万の手の先にカードが出現。私はそれを掴む。

儀式モンスターと儀式魔法、どちらかを手札に加える凶悪な能力。リチュアは専用サーチカードを持つが故に入らないが、儀式魔法を使うデッキでは必須とされるほどの威力を持つ。《儀式魔神リリーサー》もそうだが影霊衣の登場まで制限に落ちなかったのはそれだけ儀式召喚が舐められていたからなのだろうか。

 

「――バトルフェイズに入ります。まず《クラウソラスの影霊衣》の効果で《エルシャドールアノマリリス》の効果を無効化して攻撃力を0に変更します」

「――ぐっ。やっぱりそう来るよね……」

「バトル――《トリシューラの影霊衣》で《エルシャドールアノマリリス》を攻撃します」

「墓地の《超電磁タートル》を除外してバトルフェイズを終了するっ!」

 

氷の戦士の一撃を墓地から出現した電磁波が食い止める。

決闘中一度だがその効果は汎用性抜群。墓地にカードを落とすシャドールとは高相性だ。決めきれずに申し訳なそうな顔をする《トリシューラの影霊衣》だが、これに関してはどうしようもない。

 

「バトルフェイズを終了。ターンエンドです」

「私のターン、ドロー!スタンバイ、メインまで。――私は《ブラックホール》を発動!場のモンスターを全て破壊するわ!」

「――っ!来ましたか……!」

「そして墓地に送られたカードでチェーンを構築!チェーン2の《エルシャドールアノマリリス》によって《魂写しの同化》を手札に加え、さらにチェーン1の《シャドールファルコン》を裏側守備表示で特殊召喚!」

 

黒い渦が吹き荒れ、場のモンスターを敵味方問わずに吸い込んでいく。

とはいえ、墓地に送られて真価を発揮するのがシャドールモンスター。手札の損失の低減と場の維持もきっちりこなす。損をするのは私ばかりだ。

 

「さあ行くわよ栞!私は《神の写し身との接触》を発動!手札の《シャドールリザード》と《ペロペロケルベロス》を融合!――『栄光の弓』――《エルシャドール・シェキナーガ》を融合召喚!」

 

エルシャドール・シェキナーガ

ATK2600 DEF3000

 

現れたのは影糸に拘束された巨大な機械。

特殊召喚されたモンスターの効果を手札のシャドールモンスターを引き換えに無効にして破壊するモンスターである。

勿論シャドールモンスターは墓地に送られて効果を発揮するため、手札を送っても問題は少ない。

 

「さらに墓地に送られた《シャドールリザード》の効果でデッキから墓地に《シャドールビースト》を墓地に送り一枚ドロー!――良し!私は《シャドールドラゴン》を攻撃表示で召喚するわ!」

 

シャドールドラゴン

ATK1900 DEF0

 

炎竜星‐シュンゲイの姿を模した人形が彼女の場に現れる。

モンスターの攻撃力の合計は1900+2600。初期ライフ4000をきっちり削り落とすだけの威力はある。

 

「さあ、バトルよっ!《エルシャドールシェキナーガ》で攻撃っ!」

「手札の《ヴァルキュルスの影霊衣》を捨て墓地の《クラウソラスの影霊衣》を除外して効果を発動。バトルフェイズを終了します!」

「ぐ、決め切れないか……メイン2は何もせずターンエンド」

「ふぅん……」

 

私の咽喉に迫る機械の一撃を手札から飛び出した魔術師が食い止める。

墓地リソースを消費するがバトルフェイズをスキップする能力はいざというときに役に立つ。

中央に立つカイバーマンが小さく不満げに鼻を鳴らした。

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズ、メインフェイズ……墓地の《トリシューラの影霊衣》《影霊衣の降魔鏡》を除外して《影霊衣の万華鏡》を手札に加えます。さらに《儀式の準備》を発動してデッキの《ブリューナクの影霊衣》と墓地の《影霊衣の反魂術》を加えます。そして《ブリューナクの影霊衣》を手札から捨て《クラウソラスの影霊衣》を手札にサーチします」

 

少ない手札をサーチ連打で整え、勝利への道筋を考える。

お互いのライフは未だに無傷。私の場にはカードはない。ウィンダの場は《エルシャドール・シェキナーガ》《シャドールドラゴン》《シャドールファルコン》墓地には《ペロペロケルベロス》、手札には《魂写しの同化》がある。《シャドールビースト》でドローしたカードは不明。

未だに先行きは不透明だ。

 

「私は《影霊衣の反魂術》を発動、墓地の《儀式魔神リリーサー》を生贄に――《クラウソラスの影霊衣》を守備表示で儀式召喚します」

「また出たわね……」

 

クラウソラスの影霊衣

ATK1200 DEF2300

 

「さらに――《影霊衣の万華鏡》を発動。エクストラデッキの《虹光の宣告者》を生贄に《ユニコールの影霊衣》を儀式召喚します!墓地に送られた《虹光の宣告者》の効果で手札に《ディサイシブの影霊衣》を加えます」

「やっぱりそう来るよね……」

 

ユニコールの影霊衣

ATK2300 DEF1000

 

現れたのは長い髪の青年魔術師。

エクストラデッキから出たモンスター専用の《スキルドレイン》効果を持つモンスター。これで《エルシャドールシェキナーガ》を気にすることなく動くことが出来る。

 

「さらに《影霊衣の舞姫》を通常召喚します」

「エミリア……変わらないわね」

 

影霊衣の舞姫

ATK1600 DEF800

 

最後に展開したのは赤い髪を二つに縛った美しい女性。

手に握る杖に刻まれている紋章は影霊衣ではなくリチュアのもの。

かつて《リチュア・エミリア》と呼ばれた彼女は、今でも若い姿のまま戦っている。その肉体はガストクラーケと化したとき、既に正常な生命を逸脱したものなのだ。

その姿を、寂しそうな瞳でウィンダは見つめていた。

 

「バトルフェイズに入ります。《クラウソラスの影霊衣》の効果で《エルシャドール・シェキナーガ》の攻撃力を0に変更して《ユニコールの影霊衣》で攻撃します――!」

「やるわね……!ただ、破壊された《エルシャドール・シェキナーガ》の効果により私の手札に《神の写し身との接触》を手札に加える!」

 

エルシャドールシェキナーガ

ATK2600→0

 

ウィンダ

LP4000→1700

 

「そして《影霊衣の舞姫》で《シャドールドラゴン》を攻撃します。コンバットトリックで手札の《ディサイシブの影霊衣》を墓地に送り攻撃力を1000上昇させます――!」

「ぐっ……だけど墓地の《ペロペロケルベロス》の効果を発動!除外して《影霊衣の舞姫》を破壊するわ!」

 

影霊衣の舞姫

ATK1600→2600

 

ウィンダ

LP1700→1000

 

舞姫と魔法使い。

他の戦士たちの加護を受けた二人の攻撃がウィンダを直撃する。

舞姫が墓地から飛び出した魔犬の反撃によって砕け散るが、その戦果として彼女のLPを半分以上削り落としていた。

ウィンダが胸部を押さえ、俯く。

カイバーマンが漸く満足したとばかりに大きく頷く。

 

「ぐっ……あっ……はぁ……くく……なるほど、そういうことね……中々いい趣味してるじゃないの……」

「ウィンダ!?」

「なんでもない、なんでもないわよ!私のターン!ドロー!スタンバイ、メインまで――《貪欲な壷》を発動!墓地の《シャドールリザード》《シャドールビースト》《シャドールドラゴン》《エルシャドールアノマリリス》《シャドールヘッジホッグ》をデッキに戻して2枚ドロー!私は《月の書》を発動!厄介な《クラウソラスの影霊衣》を裏守備表示にして効果を封殺!《シャドールファルコン》を反転召喚!その効果で《エルシャドール・シェキナーガ》を裏守備表示で蘇生する!さらに《マスマティシャン》を通常召喚!デッキから墓地に《シャドールリザード》を送り《シャドールビースト》を墓地に送って一枚ドロー!」

 

シャドールファルコン

ATK600 DEF1400

 

マスマティシャン

ATK1500 DEF500

 

胸を押さえていた手を元に戻し、よどみなくプレイングを続けるウィンダ。

その口元には何かを悟ったような笑みを浮かべていた。

 

「さらに《魂写しの同化》を発動!《シャドールファルコン》を水属性に変更!そして《魂写しの同化》のもう一つの効果で手札の《シャドール・ヘッジホッグ》と融合!――現れろ!もう一つの『夜の魔物』!――《エルシャドール・アノマリリス》を特殊召喚!墓地に送った《シャドールヘッジホッグ》の効果で手札に《シャドール・ハウンド》を加える!」

 

エルシャドール・アノマリリス

ATK2700 DEF2000

 

「っ……!」

 

これでウィンダの場に3体のモンスターが並ぶ。

頼みの綱の《クラウソラスの影霊衣》は裏側守備表示。《儀式魔神リリーサー》のサポートも望めない。

私の額を汗がつつ、と流れる。

 

「バトルフェイズ!私は《エルシャドール・アノマリリス》で裏守備《クラウソラスの影霊衣》を攻撃っ!」

「――っ!」」

「そして速攻魔法発動!《神の写し身との接触》によって手札の《シャドールハウンド》と攻撃中の《エルシャドール・アノマリリス》を融合!――今ひとたび現れろ『夜の魔物』――《エルシャドール・アノマリリス》!そして《エルシャドール・アノマリリス》の効果で手札に《神の写し身との接触》を加える!」

 

エルシャドール・アノマリリス

ATK2700 DEF2000

 

ウィンダの場に再び現れる悪魔。

バトルフェイズ中の召喚なので勿論追撃のためだろう。

私の背中につつ、と汗が落ちた。

 

「――行くわよ栞っ!歯ぁ喰い縛りなさい!《エルシャドール・アノマリリス》で《ユニコールの影霊衣》を攻撃!私の言うことを聞かない阿呆のライフを削り取りなさいっ!」

「は、はにゃぁぁぁっ!?」

 

LP4000→3600

 

《エルシャドール・アノマリリス》の攻撃にあわせて私の頭部を拳骨で殴られたような衝撃が襲う。

目の前をちらちらと星が舞い、思わず私は地面にへたり込む。

ダークネスのときに比べればまだ軽いがそれでもダメージはある。決闘でリアルダメージを受ける感覚。これはまさか――

 

「ま、まさかとは思いますがこれって……」

「ええ、闇のゲームみたいね」

 

よろよろと立ち上がる私にこともなげに答えるウィンダ。

横ではカイバーマンがうむ、と腕を組む。

闇のゲームなのに随分と軽いノリである。

お願いを一つ聞くだけのはずが何時の間に私はデスゲームに巻き込まれたのだろうか。今さっきウィンダを攻撃したことを思い出し私の顔が青くなる。

 

「――とはいえ、命までは奪わない代物みたいだから問題はなし。ただ、全力でぶん殴るのにはもってこいね」

「ぶん、殴る……?」

「そうだ」

 

私の呟きに鷹揚に頷くカイバーマン。腕を組む姿はまさに社長そのものである。

 

「本来の絆とは傷つけあうことを恐れたりするものではない!お互いにぶつかり合い!練磨する中で育まれるもの!一方的に付き従ったり、嫌われることを怖がっていてはいつかその絆は破綻する――ならば!今ここで決闘を持ってぶつかり合うのだ!」

「――まあとにかく大喧嘩しようってこと。さっきの一撃、結構痛かったけど、栞って私に大分思う所でもあるの?」

「――」

 

あんまりな言葉に私は絶句する。

先に殴ったのは私だが、まさか無断で闇のゲームに巻き込まれるとは思わなかった。人を殴るのは正直、気分が悪い。それがウィンダならなおさらだ。

カイバーマンが何かいいことを言っているが、それはどうでもいい。

いまはふつふつと湧き上がるこの十数年間出てこなかった感情に身を任せるとしよう。

 

「……ふ、ふふ……」

「あ、カイバーマン。退避した方がいいよ、これ」

「ふぅん……たしかにそのほうが良さそうだな。私はもう片方の少年の相手をするとしよう」

 

カイバーマンが私の視界から揺らめいて消える。

彼にも色々言いたいことがあるが、それならば後回しだ。

私はウィンダを強く見据える。

彼女はそれを見て不敵な笑みを浮かべた。

 

「さて、私はこれでターンエンドよ――さあ、かかってきなさい海産物娘!」

「誰が……海産物……!私のターン……ドロー!スタンバイフェイズ、メインフェイズ……私は《貪欲な壷》を発動!《クラウソラスの影霊衣》《ディサイシブの影霊衣》《影霊衣の舞姫》《ブリューナクの影霊衣》《マンジュゴッド》をデッキに戻して2枚ドロー!」

 

やや震える手で私はカードをドローする。

海産物。

――その呼び名はいただけない。少なくとも私は《ヴィジョン・リチュア》系の顔でないことだけは自信をもって言える。

その手にはやけに都合のいいカードが握られていた。どうやら私のデッキも同じことを考えていたらしい。

 

「私は《影霊衣の舞姫》を召喚します」

 

影霊衣の舞姫

ATK1600 DEF800

 

「さっき戻したカードを引くあたり、持ってるわね……」

「そして、もう一枚も戻したカードです」

「……ちょっと待って、まさかそれってアレじゃないよね。攻撃力が1000上がる奴」

 

ウィンダが両手を振りながら一歩後退する。

だが私は待たない。

据わった瞳で彼女を見つめるのみだ。

 

「《マスマティシャン》は攻撃表示ですよね」

「……こ、このドSめ……」

「バトルフェイズに入ります。――《影霊衣の舞姫》で《マスマティシャン》を攻撃!コンバットトリックで《ディサイシブの影霊衣》を手札から捨て攻撃力を1000上昇させます――!」

「や、やっぱり、それなの……!?」

 

私の手の動きに合わせて舞姫が悪魔へと突貫する。その背中に竜の援護が飛ぶ。

 

「ウィンダの、馬鹿ぁぁぁぁぁぁっ!」

「う、うわぁぁぁぁっ!?」

 

ウィンダ

LP200→0

 

そして、その一撃を受けたウィンダは見事に吹き飛んだのだった。

決闘の終了。即座に遠くなっていく意識。

私は、ゆっくりと膝をつく。

 

「――どう、すっきりした?」

「私の台詞ですよ」

「折角回収したのにこの減らず口。間違いなくこれが栞の素ね。うん」

 

その身体をウィンダが受け止める。

吹っ飛ばされたはずなのに、随分と機敏だ。やはり私は精霊に恵まれている。

 

「……ウィンダ」

「どうしたの?」

「――これからも、よろしくお願いしますね」

「……うん」

 

遠くなる景色。

私の意識は完全に闇へと消えた。

 

数時間後、私が目覚めたのはアカデミアの保険室だった。湯あたりと診断された私はもっと身体に気遣えと鮎川先生にこってり絞られたのは別の話。

 




翔君、大金星。
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