胡蝶の夢 遊戯王GX世界   作:くらげ(仮)

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3話 VS天上院明日香

 

(なんでこんな目に!?)

カードをシャッフルしながら私は考える。

 

「翔が捕まった!」

 

 十代の言葉から不幸は始まった。

 

「女子寮を覗いたとか言って捕まってる。このままだと退学だぜ!?」

 

 要約すると翔君が女子寮に覗きを行ったという話らしい。

 

「――それは冤罪だと思います」

「ああ、オレもそう思ってたところだ」

 

――数日間共に過ごしただけでもはっきりとわかることがある。彼にそんな勇気はない。

 せいぜいベッドの下に色々隠している程度だろう。

 ちなみに十代のベッドの下にあるのはカードだけである。三大欲求に勝るデュエル脳とは恐ろしい。……前田君のベッドの下?ディアンケトがあったよ?

 

「でも、助けに行かないと不味いですね」

 

 痴漢冤罪は立証できなくてもアウトである。

 証言だけで退学、悪くすれば犯罪者。

 

「――行こうぜ栞!女子がいたほうが何とかなりそうだからな!」

「そうですね。何とか説得してみましょう」

 

 男が男をかばったところでどうにもならない女の園。

 落ちこぼれといわれるオシリスレッドの私でも何とか説得の役に立てるかもしれない。

 十代に手を引かれながら私も走るのだった。

 

「さあ、デュエルの準備はできたかしら?」

 

 その結果がこれである。

 女子寮で翔君を捕縛していた女子三人を説得しようと声をかけたところ、翔君の冤罪をかけてデュエルしろという結論になった。

 まるで意味がわからんぞ!?

 

「――さっきも確認した通り私が勝てば翔君は見逃してくれるんですね?」

「ええ、二言はないわ」

 

私の確認に鋭い視線を送ってくる少女。

記憶が正しければ遊戯王GXメインヒロインの明日香だったはずだ。

(大きいですね)

 どこが、とは言わない。

 私だってレッド寮名物、牛乳とめざしでカルシウムはたっぷりとっているはずだ。

 きっといつか追いつけるはず。

 ちなみにそこに目が行くのは視線が鋭すぎて目が合わせられないというとんでもない理由だったりする。

 

「頑張るっス!游埼さん!」

「頑張れー!」

 

 二人の応援に手を挙げて答える。

 負けるわけにはいかない。

 

「――デュエル!」

 

 湖の上、私の三戦目が幕を開ける。

 

「私の先行、ドロー」

 

 手札を確認し、明日香さんのほうを見る。

(すみません、勝たせてもらいます)

 おいおいこれじゃmeの勝ちじゃないか!そんなセリフが脳裏によぎる。

 大丈夫、あれは負けフラグじゃなかった。

 

「――《鰤っ子姫》を召喚。その効果を発動し除外。デッキから《リチュア・アビス》を特殊召喚。手札に《シャドウ・リチュア》を加えます。さらに《ヴィジョン・リチュア》を手札から捨て《イビリチュア・ガストクラーケ》を手札に。そして魔法カード《リチュアの儀水鏡》を発動。手札の《イビリチュア・ガストクラーケ》を生贄にささげ《イビリチュア・ガストクラーケ》を儀式召喚」

 

イビリチュア・ガストクラーケ

ATK2400 DEF1000

 

場に現れたのは美しい女性の上半身と、邪悪なイカの下半身を混ぜ合わせたいびつなモンスター。

 魂と肉体、それぞれを別の儀式にささげられたとある少女の姿。

 凶悪な効果を持つリチュア唯一の制限カードだが、この世界での禁止制限では未だ無制限。エクシーズが使えず《セイクリッドトレミス・M7》が使えない以上こちらの方法で満足させてもらう。

 

「《イビリチュア・ガストクラーケ》の効果発動。相手の手札を二枚確認し一枚をデッキに戻す――《フュージョンゲート》をデッキに戻します。さらに《リチュアの儀水鏡》をデッキに戻すことで墓地の《イビリチュア・ガストクラーケ》を手札に回収。《シャドウ・リチュア》を手札から墓地に送ることで《リチュアの儀水鏡》をデッキから手札にサーチしてそのまま発動、場の《イビリチュア・ガストクラーケ》を墓地に送り《イビリチュア・ガストクラーケ》を儀式召喚。再び手札を二枚確認し一枚をデッキに戻します。――《エトワール・サイバー》をデッキに。さらに墓地の《リチュアの儀水鏡》をデッキに戻し墓地の《イビリチュア・ガストクラーケ》を手札に加えます。そして《シャドウ・リチュア》を手札から墓地に送り《リチュアの儀水鏡》を手札に加えます」

 

 イカの下半身が明日香さんの手札を貫き、デッキへと戻していく。

 彼女が持つ力はピーピングとデッキバウンスによるハンデス。

 十代の使う《ミラクルフュージョン》をはじめとして墓地のカードを使うカードはこのゲームにおいて一般的だ。ただハンデスする程度では逆転されてしまう。

 明日香さんが私をにらむ目が大変怖いが、勘弁してください。

 

「な、長いな……」

「すみません。もうちょっとかかります」

 

 十代の言葉に返答しながら効果の処理。

 このデッキ最悪のコンボはまだ続く。

 

「《サルベージ》を発動して《シャドウ・リチュア》二枚を手札に加えます。さらに《リチュアの儀水鏡》を発動し場の《イビリチュア・ガストクラーケ》を生贄にささげ《イビリチュア・ガストクラーケ》を召喚。さらに手札を二枚見て一枚をデッキにバウンス《サイバーチュチュ》を戻してください。墓地の《リチュアの儀水鏡》をデッキに戻すことで《イビリチュア・ガストクラーケ》を手札に。《シャドウ・リチュア》を墓地に送りデッキの《リチュアの儀水鏡》を手札に加えそのまま発動。場の《イビリチュア・ガストクラーケ》を生贄にささげ《イビリチュア・ガストクラーケ》を召喚。手札を二枚見て一枚バウンス《機械天使の儀式》をデッキにバウンス。《シャドウ・リチュア》を墓地に送り《リチュアの儀水鏡》を手札に加え――さらに《サルベージ》を発動します《シャドウ・リチュア》二枚を手札に。そして場の《イビリチュア・ガストクラーケ》を生贄に《リチュアの儀水鏡》を発動《イビリチュア・ガストクラーケ》を召喚――最後の手札である《ドゥーブルパッセ》を、デッキにバウンスします」

 

明日香さんが最後の手札をデッキへと戻しシャッフルする。

 その後ろの取り巻き――ジュンコさん、ももえさんは声も出ていない。

 そして、私の後ろにいる二人も、何も言葉を発していなかった。

 ソリティア、そしてハンデスロック。

 ――この学園で教えられるリスペクトの精神から外れた行為。

 

「ターンエンド」

「――私のターン!ドロー!」

 

 だが、明日香さんはあきらめない。

 彼女は手札をすべてハンデスされた程度であきらめるようなデュエリストではない。

 

「《強欲な壺》発動!二枚ドロー!カードを二枚伏せてターンエンド!」

「……私のターン」

 

 周囲からの視線が痛い。

 鼓動が早くなる。背中は冷や汗で濡れて薄ら寒い。

 ドローカードを確認し、そのまま召喚する。

 私がこのゲームを始めたきっかけである彼女がそこにいた。

 

「《リチュア・エミリア》を通常召喚」

 

リチュア・エミリア

ATK1600 DEF800

 

 現れたのは赤髪の少女。

 身体を持たないスピリットモンスター。

 肉体はガストクラーケの贄となり、その魂はメロウガイストと化した。

 リチュアの末裔として生まれ数奇な運命をたどることになった存在。

 初めて行ったカードショップのストレージ、右も左も分からない私は衝動的にこのカードを購入した。

 私は、その笑顔に惹かれたのだ。

 ソリッドヴィジョンに浮かぶ少女の姿を見て、私の体が落ち着いていくのを感じる。

 デッキが私を励ましてくれたのだろうか。だとしてら、とんだロマンチストだ。

 

「バトルフェイズ。二人で直接攻撃」

「トラップカード!《聖なるバリアー・ミラーフォース》!……っつ!?どうして!?」

「――《リチュア・エミリア》が存在するとき、罠カードは効果を無効化されます」

 

 ミラーフォースが発動しようとしたとき、エミリアが手の杖を振りかざす。たったそれだけの動作で必殺のトラップは跡形もなく消え去る。

 直後。

 触手と魔術。

 二つの攻撃が明日香さんを貫いていた。

 

明日香

LP4000→0

 

「――十代、あとは任せます」

「お、おう……」

 

 軽くお辞儀をして、船べりに座る。

 

「……リスペクトではないッス」

「私もそう思います」

「だったら……っ!」

 

 それ以上の言葉を翔君は口にしなかった。

 兄である丸藤亮、その相手と自分の最高の力を引き出すというリスペクトの精神を弟である翔君は誇りに思っている。

 ゆえにハンデスを繰り出し相手に何もさせず終わらせた私を彼は許せない筈だ。

 しかし、私が戦わなければ翔君は覗き犯として突き出されていたのだ。

 二律背反が彼の心を苦しめていた。

 

「……私のことは軽蔑してもいいですよ」

 

 湖の上で、十代と明日香さんがデュエルしている。

 本当に楽しそうなデュエルだ。

 私とは大違い。

 

「――どんなカードも使ってくれる人のことをきっと待っています。どんなにののしられても、環境の破壊者といわれても、彼らは使い手の命にしたがって戦ってくれます」

 

 翔君が無言でうなずく。

 

「私はこのカードが大好きです。それは事実なんです。許してくれという気もありません。軽蔑してくれてもかまいません。でも、好きなんです。――大好きなこの子を生かす方法はきっとこれが最適です。それに謝ることは私にはできません」

 

 デッキの《イビリチュア・ガストクラーケ》と《リチュア・エミリア》を撫でる。

 

「ありがとう、私のデッキ」

 

 私のほほに、白い指が触れたような気がして、にじむ視界を柔らかく撫でてくれた気がして。肩に触手がかけられて、肩をもんでくれたような気がして。

 凍てつきかけた私の心は、少しだけ明るくなった。

 

「さあ、気分を切り替えて観戦しますか。まだピンチは去っていません」

「そ、そうだったあ!?頑張れアニキー!」

「頑張ってください、十代」

「応!」

 

 複雑そうな表情だった翔君が、とたんにあせった表情に逆戻りをする。

 その声援を受ける十代はいつもの笑顔。

 私がやらかしたことなど頭にないのだろう。

 

「さ、あとで十代に有難うって言わないだめですね」

「見たいっス」

 

 盤面はめまぐるしく進行する。

 癖の強いトラップである《ドゥーブルパッセ》を《エトワールサイバー》とともに活用することで十代にダメージを叩き込む明日香さん。さらに《地盤沈下》と《サイバー・ブレイダー》のコンボまで決まる。

 対する十代は押されつつも《ハネクリボー》、《ヒーローシグナル》などを活用し簡単に場を開けない。さらに明日香さんの使用した《フュージョンゲート》を逆利用。《サンダージャイアント》による除去効果で一気に盤面を押し返す。

 しかし即座にやられないのが明日香さんだ。《リビングデッドの呼び声》で《サイバーブレイダー》を蘇生。逆襲の目を残そうとする。

 だが――

 

「HEROは何処からだって現れる!《平行次元融合》発動!」

 

 だが、それも十代の想定内。《サンダージャイアント》を二体呼び出すという暴挙の前に《サイバーブレイダー》は再び破壊され、デュエルの勝敗は決した。

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」

 

対する明日香さんも笑みを浮かべている。

 悔しくもあり、楽しくもある。

 それがデュエルだ。

 

「さ、帰るぜ、翔!栞!」

「ええ。見つかったら不味いです」

「有難うッス。アニキー!」

 

 帰り道の舟。

 疲れた私はゆっくりと眠りの世界へ入っていった。

 デュエルマッスル、本気で鍛えたほうがいいかもしれない。

 そんな思考の後、私の意識は闇へと堕ちた。

 

――

 

「おいおい、寝ちゃったのかよ」

「起こすのもかわいそうッスね――ボクが運ぶっス!」

「大丈夫か!?翔」

「大丈夫っス。ボクだって男っスから!」

 

 翔はゆっくりと遊崎の身体を持ち上げる。

 少しばかり重いが、むしろ一人の人間としては驚くほど軽い。

 暖かい吐息、静かだが確かな鼓動。そして、ほのかに感じるやわらかい感触。

 

「――游崎さんも、有難うッス」

 

 小声で翔が言った言葉は、栞、そして十代の耳に届かなかった。

 

「みいつけた――」

 

 そして彼らは気づかなかった。

 湖でのデュエルを見つめる、もう一対の瞳。

 その正体に気づくのは少しだけ後の話。

 




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