《聖占術師タロットレイ》をシャドールに組み込めないかと画策中。
「ねえ、起きて、おきーてーよ!」
「うみゅう……」
こつこつと頭を叩かれる感触で私は目を覚ました。
デッキ調節で随分と手をかけてしまったため、まだまだ大分眠い。
天候はそろそろ秋口に入りそうな気配。ベッドの中の心地よさがMAXだ。
「あ、ウィンダ。おはようございます……」
「まったく、栞はネボスケなんだから」
「おっしゃる通りで御座います――だからもう二分……」
「おーきーなさい!」
「はにゃ!?」
強引にベッドから剥がされ、床に転がされる。床と頭が激突する鈍い音が部屋に響く。
冷たいフローリングの感触で一気に目が冴えていく。
「う、うう……酷いです」
「これくらいしないとおきないほうが悪いのよ。ほら、さっさと着替えて歯を磨きなよ。朝ごはんに遅れちゃうよ?」
頭をさする私に、彼女――エルシャドール・ミドラーシュことガスタの巫女ウィンダは頬を膨らませて見せた。
月一試験以降、私はカードゲームの精霊が知覚できるようになっていた。
ただ、私自身は特に何かあったのか覚えていないのだ。
上級生の人とデュエルをしたことは覚えているのだが、どうしてかデュエル内容や会話をしたことも全く覚えていない。
クロノス教授や三沢からなんども聞かれたが、覚えていないものは仕様がない。
特に三沢には色々と聞いてみたいこともあったが、彼自身も話したくないのか、それについて言葉を濁した。
ちなみに試験の結果は昇格でも退学でもない現状維持だ。クロノス教授からペケで真っ赤に染まった答案を見せられた私はうなだれるしかなかったが、退学にならなかったのは正直嬉しい。
「おはよう御座います」
「クリクリー!」
「おっす!栞」
十代の周囲を飛び回るハネクリボーに挨拶して、朝食の席に付く。
ハネクリボーを撫でるとふわふわの手触りが心地いい。
「しっかしデッキ見つかってよかったな!」
「です。三沢には感謝しても仕切れません」
「そうっスね。見つかってよかったっス……ただ、犯人は一体誰だったんスかねぇ……とっちめてやりたかったっス」
「私としてはこの子達が戻ってきてくれただけでも充分ですよ」
「とはいえ、今度から気をつけないと駄目そうなんだな」
今、デュエルディスクにセットしているデッキを確認して私はにっこりと笑った。
デッキ紛失事件に関しても、私が気絶している間に三沢が拾ってくれて届けてくれたのだ。本当に友人に感謝だ。
「今日はその件で三沢の部屋にお邪魔しようかな、と。お礼をきっちりしないといけないですから」
「そうか。気をつけて行ってこいよ!」
「まあその前に補習ですけどね」
ペケだらけの私と十代は補習が確定なので朝早くから補習である。
味噌汁で口の中のものをすっきりさせてから私は食堂を後にする。
外に出れば雲ひとつない秋晴れの空。
「よしっ!いい天気です」
――
「お邪魔します」
「――おお、遊崎か。どうしたんだ?」
「先日のお礼を兼ねて、お菓子もって来ました」
「別にそこまで気を使わなくていいけどな。ま、もらえるものはもらって置くよ」
補習が終わり、三沢の部屋を訪れる。
事前に部屋番号を翔君から聞いていた(十代は忘れていた)おかげで割りとすんなりとたどり着くことができてほっとしていた。
ちなみに手荷物はトメさんに頼んで厨房を借りて作ったクッキーだ。十代と翔君、隼人君に何度か味見をしてもらって作った自信作だ。
「うわあ……こりゃすごいや」
(そうですね、数式だらけです…)
ウィンダの言葉に小さく頷く。部屋の中をのぞいてはじめに見えたのは部屋を埋め尽くす数式の山だ。
余白の部分にも、既にペンが走り始めており、全部が黒く染まるのは時間の問題だろう。
「ははっ。ちょっと引かれたかな。どうしても思いついたらすぐ書き留めないといけない性分だからね。たとえばこれは十代のデッキで融合と素材がきっちり揃う確率の数式、こっちは儀式召喚を1ターンで二回以上決めるための数式。そしてこれが――」
三沢が壁の中心、特に細かく書き込まれた数式を指差しながらにやりと笑う。
何度も手直しと書き直しが加えられたそれ。そして証明完了を示す二本の線。
「君――遊崎に勝つために考えた数式だ。入学試験、カイザー戦、そして俺とのデュエルがここに詰まっている」
「成る程――つまり、これは」
「この数式があってるかどうか、俺は答えあわせがしたい――遊崎、デッキは持ってきているか?」
「勿論です」
今日持ち歩いているのは、手元に戻ってきた影霊衣デッキだ。
ウィンダがちょっと不服そうに口を尖らせるが、我慢してもらおう。
「そして俺は数式を元に『闇』のデッキを改良し、新たなデッキを組んだ――ならば、することはたった一つ」
「宜しくお願いします」
二人で部屋を出て、イエロー寮の前に立つ。
観客としてイエローの生徒たちの多くが見つめているのが少し恥ずかしい。
見ればほとんどが三沢の応援だ。
本当に人望があって凄いなあ、と思う。
――端のほうで「女の子とデュエルなんて羨ましいぞコノヤロー!」と叫んでいる人々は抜きにしておこう。
「デュエル!」
三沢 大地
LP4000
遊崎 栞
LP4000
――
「俺の先攻。ドロー!」
三沢は自らの手札を確認してにやりと笑う。
事故の発生率こそ高いデッキだが、これならば支障なく動ける。
「まず魔法カード《おろかな埋葬》を発動。《ゼータ・レティキュラント》をデッキから墓地へと送る!」
《おろかな埋葬》。
手札を一枚使って墓地にカードを送るこのカードの強さを理解している決闘者はこのアカデミアにおいては少ない。事実、イエロー寮の生徒達は疑問の声を上げているものも多い。だが、このデッキにおいては重要なデッキエンジンである。
ソレを理解しているのか、栞は注意深く三沢を眺めていた。
やはり、手強い。
「俺はモンスターを裏側守備表示で召喚し、カードを二枚セット。ターンエンドだ!」
「私のターン――ドロー」
「トラップ発動!俺の新たなる方程式!《マクロコスモス》だ」
「!そのカードは――」
「このカードが存在する限り、墓地に送られるカードは全て除外される!温故知新、古い学問に俺の求める答えがあった!」
栞が苦々しくつぶやく。
《マクロコスモス》。それは墓地に送るカードを全て除外するカードである。
三沢は栞を倒すための答え、それを錬金術に求めて大徳寺先生に教えをこいた。デュエルモンスターズの世界の源流ともいえる錬金術。そしてその集大成ともいえる《マクロコスモス》を彼は大徳寺先生から受け取っていた。
デュエルモンスターズにおいて墓地は第二の手札と呼ばれるリソースと化す。特に栞が愛用している【影霊衣】【リチュア】や先日使用した【シャドール】は墓地のカードを使いまわすことで本来手札の消費が大きな儀式召喚、融合召喚を安定して行っている。
故にすべて除外してしまえば栞の行動はかなり制限されることになる。
自分もカードを除外しなければいけないデメリットがあるが、カイザーのように逆利用する手段はいくらでもある。
「《影霊衣の万華鏡》を発動します。《影霊衣の術師シュリット》を生贄に《ディサイシブの影霊衣》を儀式召喚。効果で《トリシューラの影霊衣》を手札に」
ディサイシブの影霊衣
ATK3300 DEF2300
機械の鎧を持つ竜人が場に降臨すると、ウィンダがヒュウと口笛を吹く。
「今のアバンス君たちって、ほんとに色々なものを鎧にしてるんだね……しかし機械の鎧ってどうやって作ったんだろ」
(そこは気にしたら負けだと思います)
「いや、まあ、あるものはあるでしょうがないんだけどね」
「《ディサイシブの影霊衣》の効果発動。セットカードを一枚除外します。モンスターを除外」
「――破壊されたのは《異次元の偵察機》だ」
「そのまま《ディサイシブの影霊衣》でダイレクトアタックします」
「トラップ発動!《聖なるバリア・ミラーフォース》だ。相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!展開を焦ったな」
「……く、私はモンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンドします」
「このタイミングで《異次元の偵察機》が帰還する!」
異次元の偵察機
ATK800 DEF1200
(……よし!)
苦々しげにターンを終了する栞を見つつ、三沢は内心でガッツポーズをする。
リリース要員、手札にモンスター。まさに理想的だ。
「俺のターン!ドロー!《異次元の偵察機》を生贄に捧げ《邪帝ガイウス》を生贄召喚だ!」
邪帝ガイウス
ATK2400 DEF1000
「《邪帝ガイウス》の効果発動!相手モンスターを一体除外する!そのセットモンスターを除外だ!」
「くっ《ファイヤーハンド》が……」
「さらに墓地の《ゼータ・レティキュラント》の効果発動!相手フィールドのモンスターを除外したときイーバトークンを生み出す!」
イーバトークン
ATK 500 DEF500
邪悪なる皇帝の生み出した炎がセットされていたカードを薙ぐ。
それに同調するように三沢の場に新たなトークンが生み出される。
攻撃力の高いモンスターを処理し、あっという間に形勢をもどす三沢の姿に歓声が上がる。
「イーバトークンと《邪帝ガイウス》でダイレクトアタック!」
「ぐ……ぐう……」
栞
LP4000→1100
「カードをセットして俺はこれでターンエンドだ!このタイミングで《異次元の偵察機》が俺の場に戻る!」
一気に半分以下まで栞のLPが削られる。
だが、彼女があきらめているようには見えない。ダメージを食らってたたらを踏みながらも、まっすぐに三沢の目を見据えている。
(本当に、デュエルの時は頼もしいな)
いつもは顔を焦って真っ青にしていたり、人に声をかけるのを躊躇したりしている人間とは思えない。
(だからこそ、俺はこいつを乗り越える――!)
彼女の身に起こったことを彼は知らない。デュエリストにできることはデュエルだけ。真実を掴むためにはデュエルするしかない。
そして、隣に立たなければ、恐らく彼女の姿は見えてこない。
「私のターン……ドロー!――《サイクロン》を発動して《マクロコスモス》を破壊します」
「甘いっ!トラップカード《魔宮の賄賂》だ。《サイクロン》の発動を無効にする!」
「くっ……でも1枚ドローできます……私は《強欲なウツボ》を発動。手札の水属性モンスター二体をデッキに戻して3枚ドロー!」
手札交換カード。
1枚目を引いた栞の表情は無表情だ。
2枚目を引いた彼女の表情がわずかに変化する。まるで何かを待っているかのようだ。
そして3枚目。
「私は《影霊衣の舞姫》を召喚。さらに魔法カード《マスク・チェンジセカンド》を発動!手札のカードを一枚捨てて《影霊衣の舞姫》を変身させ《M・HEROアシッド》へと変化させます」
M・HEROアシッド
ATK2600 DEF2100
赤髪の少女があらわれ、マスクを装着しHEROへと変化していく。
出現したのは酸の名を持つHERO。
少女を守るように立った英雄はその暴威を振るう。
「《M・HEROアシッド》の効果発動。相手の場の魔法・トラップを全て破壊しさらに相手のモンスターの攻撃力を300下げます」
「ぐうっ……やるな!」
三沢の場を吹き荒れる酸の嵐。
彼の新たな方程式、《マクロコスモス》が破壊される。
邪帝ガイウス
ATK2400→2100
異次元の偵察機
ATK800→500
イーバトークン
ATK500→200
「《M・HEROアシッド》でイーバトークンを攻撃。『acid rain』!」
「まだ、まだだ……!」
三沢
LP4000→1600
「私はこれでターンエンドです」
「俺のターン!ドロー!……《邪帝ガイウス》と《異次元の偵察機》を守備表示にしてターンエンドだ」
三沢が見せる消極的なターンに周囲の生徒からため息が漏れる。
だが、三沢はあきらめてはいない。
そもそもライフではまだ勝っている。どちらも手札が残っていない点も同じ。
反撃の牙を研ぎ続ける。
「私のターン。ドロー……バトルフェイズ!《M・HEROアシッド》で《異次元の偵察機》を攻撃!」
「ぐっ……だが、必要経費だ」
「ターンエンドします」
「まだ俺のライフは0じゃない!俺のターン!ドロー!」
そして、三沢はそのカードを引き当てる。
反撃の牙として、三沢が求めていたカードを。
「俺は《邪帝ガイウス》を生贄に--このモンスターは生贄召喚された闇属性モンスターを一体生贄にすることで召喚できる--これがこのデッキのエースだ!あらわれろ《怨邪帝 ガイウス》!」
怨邪帝 ガイウス
ATK2800 DEF1000
突如として現れた巨大モンスター。
その出現に騒然となるイエロー寮の生徒達。
「モンスター効果発動!このモンスターは、フィールド上に召喚されたとき場のカードを除外し1000ダメージを与える!さらに闇属性モンスターを生贄にした場合二枚除外できる!」
「遊崎のLPは1100--!ダイレクトアタックが決まれば三沢の勝ちだ!」
「よっしゃあ!決めてやれ!」
「--まだです!《エフェクトヴェーラー》を手札から捨てて《怨邪帝 ガイウス》の効果をエンドフェイズまで無効化します!」
「ならば《怨邪帝 ガイウス》で《M・HEROアシッド》を攻撃だ!
「うっ……ぐ……!」
栞
LP1100→900
「くっ……届かなかったか……ターンエンドだ」
三沢はターンを終了する。
三沢の場には巨大なモンスター。そして栞の場にはなにもおらず、手札も0。
観衆達もそれを理解しているのか三沢の勝ちを疑わない。
だが、三沢と栞だけは違う。
デュエルでは、勝ち負けが決まるまで何が起こるかわからない。
どんな緻密な数式でも、奇跡のドローによって覆される。それがデュエルだ。
「私のターン――ドロー!」
引いたカードをみて、栞の顔が綻ぶ。
三沢は、その表情を見て、鳥肌が立つのを感じていた。
「私は《HEROアライブ》を発動!ライフを半分支払ってデッキからHEROを召喚します。《E・HEROエアーマン》を召喚。そして《E・HEROエアーマン》の効果で《E・HEROブレイズマン》を手札にサーチし、そのまま召喚します。《E・HEROブレイズマン》の効果で《融合》を手札に。そして《融合》を発動!来てっ!《E・HERO Great Tornado》!」
《E・HERO Great TORNADO》
ATK2800 DEF2000
栞 LP900→450
それはカイザー戦の再現。
HEROの連続召喚からの融合。
現れた風の英雄を見て、三沢は苦々しげにつぶやく。
「やはり一筋縄ではいかないか……!」
「《E・HERO Great TORNADO》の効果発動。相手モンスターの攻撃力守備力を半分にします!『ダウンバースト』!」
怨邪帝 ガイウス
ATK2800→1400
「バトルフェイズ、《E・HERO Great TORNADO》で攻撃!『スーパーセル』!」
「ぐ、ぐああああっ!」
三沢
LP1600→200
「私はこれでターンエンド」
「俺の、ターン!……ドロー!カードをセットしてターンエンド」
引いたカードをみて、三沢は即座にそのカードをセットする。
一見あきらめたように見えるその布陣に言い知れぬ殺気が宿っている。栞の決闘者として生まれ始めた本能がそうつげていた。
「私のターン。ドロー!……バトルフェイズ!《E・HERO Great TORNADO》で攻撃『スーパーセル』!」
「――トラップ発動!《破壊輪》!」
三沢がトラップを宣言する。
モンスターを破壊し、攻撃力分のダメージを与える罠カード。
お互いLPは満身創痍。
その爆発を喰らった瞬間、二人のLPは0となる。
「倒せないまでも!引き分けまで持っていく!」
「――三沢のヤツ!自爆する気だ!」
「負けず嫌いめ――!だが、それでこそ最強のイエローだ!」
爆炎があがり、二人の姿が煙の中へと消える。
「――やったか!」
「速攻魔法《マスクチェンジ》!」
だが、そこにあったのは、倒れた二人ではなく、一人の風の英雄だった。
爆炎の中新たな力を手に入れたHEROが華麗に脱出する様を三沢は呆然と見ていた。
「《E・HERO Great TORNADO》を墓地に送り《M・HEROカミカゼ》を召喚します」
「――サクリファイス・エスケープか!」
M・HEROカミカゼ
ATK2700 DEF1900
「そしてまだ私のバトルフェイズは終わっていない。ダイレクトアタック――『神風撃』!」
「ぐ、く……ぐあああああああっ!?」
そして、新たなる風の英雄の一撃が、三沢のLPを削り落としていた。
三沢
LP400→0
「楽しいデュエルでした、三沢」
「ああ……こっちも楽しかったよ。今度は絶対勝つ」
「……いつもそればっかりですね。三沢は」
「ああ、それが俺の目標だからな」
悲嘆にくれた生徒たちがすごすごと引き上げる中、二人は握手を交わす。
そして、そのまま倒れこんだ栞の身体を、三沢は抱えてレッド寮へと歩く。人一人抱えるくらいは、彼の鍛え上げた筋肉にとってたやすいことだ。
「まったく不便な体質だな。どうしてこうなっているんだか」
少女をレッド寮に預けてから、三沢は一人ため息を付く。
考え事をしていたせいか、不意に甘いものが欲しくなって、ポケットに入っていたクッキーを取り出し、齧る。
チョコレートチップ入りの甘い味は、また食べたいと思わせる味だった。
二次創作の三沢デッキは結構作者の趣味が出て面白いと思います。
カード名とデュエル内容修正しました
うん、何やってんだ私。