「ともあれ、何とかなって良かったです」
「だな!闇のゲームとかビックリしたけど。栞が勝ててよかったぜ!」
レッド寮の食堂。
朝食の卓を囲みながら私達はノンビリとした時間を過ごしていた。
あの後、倒れた私をタイタンさんが背負って脱出してくれたらしい。
十代とウィンダだけでは割と荷が重かったこともあり、本当にありがたい。
ちなみにあの後タイタンさんは、私に礼を言っておいて欲しいと言って姿を消したそうだ。
明日香さんの兄の手がかりも見つかったらしく、大団円である。
「大団円、じゃない!」
「――ウィンダ」
そんなことを考えている私の頭がこつりと叩かれる。
振り返るとウィンダが起こった顔で私のことを見下ろしていた。
「みんな心配してたんだから!無茶なことをしないでよ」
「……ごめんなさい」
「ごめんで済めば警察は要らないの!」
むにむにとほっぽたをつかまれ左右に伸ばされる。
ウィンダの怒りは最もである。
自らの身を省みず、私はデュエルを行った。そして、最後には全員助かるかどうかの賭けまでしたのだ。怒られない理由がない。
「じゃあ、ありがとう――ウィンダ」
ただ、私はなんとなく嬉しかった。
こんなにも私のことを心配してくれる子が居ることに。
人形となったウィンダの頭をなでてみると、硬質だが少しだけぬくもりを感じることができた。
「こらっ!なにちょっと笑ってるのよ!」
「うにゅう……」
「本当に仲いいなお前ら」
「クリクリー!」
十代と《ハネクリボー》の苦笑を横目に、ウィンダから頭を叩かれ続ける。
今日はシャドールのデッキを改造して、一緒に戦おうか。そんなことを考えながら。
――
「……さらばだ、アカデミア」
デュエルアカデミア唯一の出入り口である波止場、万丈目は一人呟く。
十代に敗北し、そして三沢にも敗北した彼は、アカデミアでの居場所を失っていた。
前者ではクロノス教諭からレアカードの供与、そして後者では相手のデッキを海に捨てるという行為を行った上の話である。
中等部最強であったと言う自負、汚い手を使っても勝てず、退学になったという現実。
そして政界、財界に連なるデュエル界を征すると言う兄弟の野望が果たせなかったと言う悔恨。
「くそっ……!俺は……!」
それらの要素が交じり合い、彼は拳をきつく握り締める。
本土に戻って何処に行くというのか。
周囲にはデュエルの修行に行くと言ったが、当てはない。
「――ええと、ウィンダ。今度こそ使いますから機嫌直してください。――ええ!?むしろガスタかシャドールで固定しろ?いや、あの」
不意に聴こえた声に万丈目は振り返る。
そこにいたのは紅い服を着た少女だ。女のクセにレッドの制服を着ているヤツなんて一人しか居ない。万丈目は不快げに鼻を鳴らす。
「レッド名物のドロップアウトガールか何でこんなところに居る。俺を笑いに来たのか?」
「――はにゃ!?ま、万丈目さん。どうしてこんなところに!?」
「さんを付けたことは褒めてやるが、質問を質問で返すな!」
「ひっ!?すみません……ええと、一人でデッキ調整するために静かな場所が良かったので。誰もいない波止場がいいかなと」
「ちっ、嫌なタイミングに鉢合わせたもんだ」
万丈目はそれだけ言うと目を外す。
アカデミアで最後に見た相手がコイツとはなんとも皮肉な話である。
自信があった頃はマグレでカイザーを倒したという少女と言うことで探し回ったのに見つからず、自信をなくし、この学園を去る段になって向こうからやってくるとは。
「だが、丁度良かった――おい!ドロップアウトガール!」
「は、はい!」
「俺と、デュエルしろ!」
万丈目は自らのデッキをデュエルディスクにセットする。
栞もあたふたとしながらディスクにデッキを入れ、構える。
もし勝てたのであれば学園最強の称号とは言いがたいが、アカデミアに残してきたものはないと言い訳が出来る。
そして負けた場合は――
万丈目は唇をかみ締める。そんな可能性を考えて居る暇があったら前を向く。それが彼の流儀なのだから。
――
「デュエル!」
遊崎 栞
LP4000
万丈目 準
LP4000
「私の先攻。ドロー……モンスターを裏側守備表示で召喚。さらにカードを二枚伏せてターンエンドです」
「はっ!消極的なターンだな。俺のターン、ドロー!」
(この手札――勝つしかない。俺には後がない!)
自らの手札を見ながら万丈目は思考する。
今使っているのはクロノス教諭から貰ったXYZではなく、中等部時代を支えた地獄デッキ。
「俺は《地獄戦士》を攻撃表示で召喚!さらに《二重召喚》を使い召喚回数を増やし、《地獄戦士》を生贄とし《地獄詩人ヘルポエマー》を召喚する!」
地獄詩人ヘルポエマー
ATK2000 DEF1400
鎖を纏った悪魔が出現する。
戦闘で破壊されれば永続ハンデスを行うタダでは転ばないモンスターである。
「さあ《地獄詩人ヘルポエマー》!その裏側モンスターを攻撃だ!――『地獄の詩』!」
「伏せていたカードは《メタモルポット》です。このカードがリバースしたことによりお互いのプレイヤーは手札を全て捨て、5枚ドローします」
「弱小モンスター。しかも俺の手札を補充してくれるとはな……だが、それで機嫌をとったつもりか?手札の《闇より出でし絶望》の効果!このカードは相手の効果によって手札または墓地に送られたとき場に特殊召喚できる!」
一つ目のモンスターが破壊され、お互いが手札を捨ててカードをドローする。
万丈目の墓地から徐々に闇が染み出し、一つのおぼろげなモンスターが姿を現す。
闇より出でし絶望
ATK2800 DEF3000
「……私が墓地に捨てたのは《シャドール・ヘッジホッグ》《シャドール・ビースト》《シャドール・リザード》です。それぞれの効果で《シャドール・ドラゴン》を手札に加え、さらに1枚カードをドローし、《影依の原核》を墓地に送って《神の写し身との接触》を手札に加えます」
「成る程、墓地に送られて効果を発動するカードを利用したデッキか!だがお前の場はがら空きだ!そしてバトルフェイズはまだ終わっていない《闇より出でし絶望》でダイレクトアタック!――『ダークネスディスペアー!』!」
「ぐっ……!」
栞
LP4000→1200
「よしっ!――カードを1枚伏せてターンエンドだ!」
一気に栞のライフを半分以下まで削り落とし万丈目は小さく拳を握る。
大丈夫、自分は弱いわけじゃない。負けたのだってマグレだ。そう思い込むようにして神経を持ち直す。
意図的に万丈目は栞を見ないようにしていた。
「――私のターン、ドロー。……このモンスターは墓地に闇属性モンスターが3体だけの時特殊召喚できます。《ダーク・アームド・ドラゴン》を特殊召喚」
ダーク・アームド・ドラゴン
ATK2800 DEF1000
栞の場に現れたのは黒い鎧を纏った龍。
全身にマウントされたミサイルの射出口が鈍く光を放つ。
(ボチヤミサンタイ……でしたっけ)
遊戯王OCG界でよく囁かれる呪文、ボチヤミサンタイこと《ダーク・アームド・ドラゴン》が万丈目を睨みつけた。
「攻撃力2800だと……!だが、俺の《闇より出でし絶望》の攻撃力は同じく2800だ!簡単にはやられんぞ!」
「――《ダーク・アームド・ドラゴン》は墓地の闇属性モンスターを一体除外することで場のカードを1枚破壊することが出来ます――私の墓地に眠る三体のシャドールを射出し、《地獄詩人ヘルポエマー》と《闇より出でし絶望》、そしてセットカードを破壊します」
このモンスターが召喚される。それは即ち既に3発の銃弾がこめられているという意味に他ならない。万丈目の場は一気にがら空きになる。
「ちっ……!ドロップアウトのクセにやるじゃないか……!」
「そして《影依融合》を発動。手札の《シャドール・ヘッジホッグ》《ペロペロケルベロス》を融合し――糸に縛られた『えいこうのゆみ』――《エルシャドール・シェキナーガ》を融合召喚。墓地に送られた《シャドール・ヘッジホッグ》の効果で《シャドール・ビースト》を手札に加えます」
エルシャドール・シェキナーガ
ATK2600 DEF3000
現れたのは弓を構えた異形の人形。
糸がみちみちとその身体を締め付け続けるように見えるのは、人形とされたものが抵抗を続けるためなのだろうか。
「バトルフェイズ。《ダーク・アームド・ドラゴン》でダイレクトアタックします」
「まだだ!手札から《バトルフェーダー》を特殊召喚してバトルフェイズを終了する!」
バトルフェーダー
ATK0 DEF0
万丈目の手札から現れた悪魔が手に持った鐘をけたたましく鳴らすとその音に怯んだ《ダーク・アームド・ドラゴン》の攻撃が止まる。
「ではメインフェイズ2に《ダーク・アームド・ドラゴン》の効果、墓地の《シャドール・ヘッジホッグ》を除外して《バトルフェーダー》を破壊します」
「ちっ……弱小モンスターにしては良くやった」
「カードを二枚セットしてターンを終了します」
「俺のターン――ドロー!――残念だが俺はこの学園最強だったらしい!」
万丈目はにやりと笑う。
彼の手に握られたのは《死者蘇生》。
これで《地獄戦士》を復活させて《ダーク・アームド・ドラゴン》を攻撃すれば《地獄戦士》の効果で両者にダメージ。結果的に万丈目の勝利だ。
もし、伏せカードに対しても既に《サイクロン》は手札にある。さらに何らかの方法でリリースされても《地獄の暴走召喚》で3体並べてシェキナーガを三回叩けばよい。相手が効果を使おうと《ブレイクスルー・スキル》が墓地にある。
完璧だ。万丈目は自らの勝利を確信する。
「俺は《死者蘇生》を発動!蘇れ《地獄戦士》!」
《地獄戦士》
ATK1200 DEF1000
「――トラップ発動《強制脱出装置》です。《地獄戦士》を手札に戻します」
「……ぐぐ……だが《地獄戦士》を通常召喚。そして墓地の《ブレイクスルー・スキル》を除外して《エルシャドール・シェキナーガ》の効果をエンドフェイズまで無効化する!そして《サイクロン》で伏せカードを破壊だ!」
「伏せカードは《神の写し身との接触》です《エルシャドール・シェキナーガ》と手札の《シャドール・ビースト》を融合し《エルシャドール・シェキナーガ》を再び召喚します。そして効果によって《影依融合》を手札に加えます。さらに1ドロー」
「――だが、これで俺の勝ちは決まった!」
「まだ万丈目さんのメインフェイズは終わっていません。《エフェクトヴェーラー》を墓地に捨てて《地獄戦士》の効果をエンドフェイズまで無効化します」
「……くそっ!…俺はこれでターンエンドだ」
万丈目は手を握り締めながらターンを終了した。
――
万丈目がターンを終了するのを見て、私はほっと胸を撫で下ろす。
(ふう……本当に危ないところでした)
《ダーク・アームド・ドラゴン》を召喚したいと思って《シャドール・ファルコン》を墓地に落とさなかったのが完全に裏目だった。《シャドールビースト》で《エフェクトヴェーラー》を引けなかったら負けである。
《地獄戦士》は本当に厄介だ。
「私のターン。ドロー!私は《影依融合》を発動。《シャドール・ドラゴン》と《シャドール・ビースト》を融合します――『さがしもとめるもの』――《エルシャドール・ミドラーシュ》を融合召喚――《シャドール・ビースト》が墓地に送られたことで1枚ドロー」
「やっと私の出番ね!」
私の場に緑髪の少女の人形があらわれる。
まさかビーストの効果を使うためだけに読んだとは言えず私は誤魔化すように笑うしかなかった。
エルシャドール・ミドラーシュ
ATK2200 DEF800
「ぐ……だがそれだけでは俺のライフは削りきれない!」
「さらに《カードガンナー》を召喚します。このカードは召喚時にカードをデッキトップから3枚まで落として攻撃力を500ずつ上げるモンスター。デッキトップから3枚――《闇の誘惑》《月の書》《死者蘇生》を落として攻撃力を上昇させます――」
小さなおもちゃのようなモンスターがデッキからカードを吸い込み巨大化。
弱小モンスターと言おうとした万丈目が沈黙する。
カードガンナー
ATK400→1900 DEF400
「攻撃力--1900か」
万丈目さんが静かに呟く。もし《地獄戦士》の効果でダメージを与えたとしても、削れるのは700ポイント。
栞のLPの1200を削りきるには至らない。
「バトルフェイズです。《カードガンナー》で《地獄戦士》を攻撃します」
「《地獄戦士》の効果を発動!お互いにダメージだ!」
栞
LP1200→500
万丈目
LP4000→3300
万丈目さんの場から戦士が消える。
もはや、フィールドに遮るものは何もない。
「《エルシャドール・ミドラーシュ》と《エルシャドール・シェキナーガ》でダイレクトアタックします!」
「ぐああああああっ!」
万丈目
LP3300→0
万丈目さんが倒れるのを見届け、私は倒れこむ。
ああ、いつものことなのだがどうしてこうなってしまうのだろうか――?
――
「ったく。面倒のかかる女だ!」
万丈目は栞の身体をとりあえず適当な木陰に運ぶ。
デュエル後に気絶すると言うどうしようもない体質について、サボるためだろうと適当に考えていた彼だが、まさか本当だとは思っていなかった。
カードも併せて彼女のリュックに放りこむ。波止場で波に攫われたら大変だ。人のデッキを捨てるという外道行為を働いたことのある彼だが、そんなところに関係のないカードを放置するほど万丈目は堕ちていない。
「――まあ、この万丈目さんに勝ったんだ。今度は絶対にのめしてやる」
彼女の安全を確保したと考えた万丈目は、船へと乗り込む。
――とある変化に気づかずに。
「今度こそ、さらば――って!?」
不意に、万丈目は自らの手にカードが握られているのに気づいた。
美しい龍のカード。彼はそのイラストに思わず見入ってしまう。
「これは、あいつのカードか――」
《光と闇の龍》
この上なく清らかでこの上なく邪悪な美しい姿。
強力なステータス、そして自らの身を犠牲に味方を守る能力。
「――もう、船は出てしまったから返すことはできんな」
万丈目はカードを眺めながら船の上で一人ごちる。
「いや、次のステージで出会えるか」
次のステージを想像し、万丈目は口角を吊り上げる。
船出前の不安は完全に消えていた。
祝《闇より出でし絶望》召喚。
本編だとコストとしてしか使われないこのカード。実際召喚したらどんなソリッドヴィジョンだったか気になるところです。-