オリ主と第六駆逐艦隊   作:神域の

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EX-10 とっても過酷な罰ゲーム

 ボロ鎮守府の近くの空き地で、横に整列した俺達駆逐艦は、天龍の次の一言で絶望の底に叩き落とされる事となった。

 

「えー、チビ共。今から町内十周マラソンするぞ」

「はい?」

 

 俺は天龍の言葉に戸惑った。意味が分からなかった。

 だってマラソンだ。

 マラソンってめっちゃ走るヤツで、俺達は海から戻って来たばかりで疲れているし、今は真夏のまっ昼間。

 早い話、そんな状況でマラソンなんかしたら死にます。

 そんな天龍の言葉に、三人の駆逐艦も俺と同じ事を思ったらしい。

 

「てんりゅー!?私達、今さっき遠征から帰ってきたばっかりだよぉ!!」

「せめて休憩をもう少し取らせて欲しいというか、日が沈んでからにしようよ……」

「天龍ちゃんの鬼!!悪魔!!艦娘殺しぃ!!」

 

 三人の駆逐艦から溢れ出る文句。

 それを聞いて俺はもっと言えと思っていると、天龍はそれを無視して大きな声で、

 

「いいか!?俺達艦娘の……その中でもチビの駆逐艦に重要な能力は何か?って聞かれたら、一番に上がるのは体力……言い換えれば持久力だ!理由は至極単純で、駆逐艦が遠征に行ってる途中にバテたりして物資の輸送が遅れたら軍全体に迷惑が掛かるからだ!その事はチビ共もよーく理解してるよな?」

「「「…………」」」

 

 天龍の最もな意見に三人の駆逐艦が黙ってしまう中、俺は天龍の話しを聞いて、俺は遠征要員じゃないからマラソンしなくて良いんじゃね?と思った。

 そうと分かれば黙ってちゃいられない。

 ここは遠征要員達の為のマラソンに巻き込まれない内に、天龍に俺はマラソンは不要ですよ。と言わなければ!

 

「……あの、てん「だが」

 

 早速言おうとしたら、天龍はまだ言うことがあったらしく、俺に被せるようにまた喋り出したので、俺は言い掛けていた言葉を呑み込んだ。

 俺は空気の読める大人。なので俺の意見は天龍が喋り終わってから言うことにします。

 そんな風に俺は、天龍はよ喋り終われと思っていると、

 

「ーー確かに、疲れているお前らの気持ちも、良く分かる」

 

 ……と、天龍は先程の発言とうって変わって、俺達の意見に理解のある発言をした。

 俺はこの瞬間、空気を読んで喋るのを止めて良かったと感じた。

 だってさ、こう言うってことはワンチャンマラソンを止める可能性が出てきた訳で。

 その事は三人の駆逐艦にも分かったらしく、三人は驚いた後、お互いに顔を見合わせ、そして三人の代表としてなのか時雨がおずおずと口を開いた。

 

「ねえ天龍、それって」

「ああ……十周は止めーー」

「やったあ!!」「やったぴょん!!」

 

 天龍が喋り終わる前に、文月と卯月がお互いの手を取って喜びのあまりに跳び跳ねた。

 そんな二人に、天龍はまだ終わってないとばかりに「ーるがっ!」と大きな声で二人の喜びを遮ると、

 

「町内を皆で一周は走るぞ」

「「ええーっ!?」」

 

 天龍の結局走る発言に、文月と卯月は即座に嫌そうに声を上げた。

 

「結局走るなら変わらないぴょん!」

「そうだよてんりゅー。一周だけなら走らなくても良いと思うんだけどぉ……」

「ん?変わらないなら十周に戻しても良いんだぞ?」

「「一周走るのが良いと思います!!」」

「……あはは」

 

 俺は、三人のやり取りを見て苦笑いをする時雨を見て、普段からこの鎮守府はこんな感じなんだろうなと察した。

 それにしてもだ。

 最初は天龍に引きずられて来たときは、何かあるんじゃないか?と身構えていたが、この様子なら問題無さそうだ。

 走るのは面倒だが、いって町内一周だ。流石に十周と言われたら断っていたが、一周なら付き合うのも悪くない。

 そう思っていると、天龍が笑顔で俺に近付いて、俺の肩にポンと手を置いた。

 

「お前はしっかり十周な」

「えっ?」

「ああ、道が分からないって?安心しろ。走るルートはちゃんと教えてやるよ。その為に皆で一周だけ走るんだからな」

「いや、今のえっ?は、道が分からないのに走るんですか?の、えっ?では無くて、何で俺だけ十周なの?の、えっ?ですけど」

「だってお前は元気だろ?」

「死ぬほど疲れてますけど!?」

「ハハハ、馬鹿を言うなよ。死ぬほど疲れてるヤツが、嘘ついて俺にギンバイの濡れ衣を着せるかよ」

「あれは本当に俺が食べたんじゃなくてですねーー」

「そのくせ、言い訳をする元気もあるんだな。……よし、クソ響。お前は町内十周じゃ足りなそうだから二十周走れ」

「  」

 

 開いた口が塞がらなかった。そして何時の間に、逃がさないとばかりに天龍に掴まれていた肩が痛かった。

 こうなってしまうと天龍が何をしたいか分かる。分かってしまう。

 

 天龍は、皆でマラソンなんかする気は最初から無かったのだ。俺一人だけを炎天下の中、理不尽に走らせるつもりだったのだ。

 そして俺が文句を言えば、その分を追加で走らせるというオマケ付き。

 

 ……チクショウめ。

 

 そう思っても、俺は言うことはできない。

 言ったらどうせ、「もう十周追加な」と天龍に言われるのが落ちだから。

 何より、そんな愚痴より、今はもっと別の事を考えるべきだ。

 じゃないとこの天龍によって、俺は炎天下の中を延々と走らされる事に成りかねない。

 

 と、ここで俺は、天龍に言うべき言葉を思い付く。

 言うのはとても嫌で、今から憂鬱になりはするのだが……、

 

「……ハァ」

「なんだ?今度は文句でも出るのか?」

「いや、ひとつ聞きたいことがあって」

「お前の走る距離は減らさねえ」

「……ぐふっ」

 

 天龍のバッサリな発言に、俺は泣きそうになった。

 ……が、天龍。俺が聞きたいのはそういう事じゃないんだ。

 というか、俺は既に全く走らない事を諦めた。どうせ何を言っても天龍は俺を走らせるに決まってるのだから。

 ……ならば、俺が聞く事は唯ひとつ。

 

「ーーそうじゃなくて、走ったら終わりですよね?」

「はぁ?」

 

 天龍が、俺が言ったことが分からないとばかりに聞き返す。

 なので俺は、もっと分かりやすくーー、

 

「だから、俺が町内を二十周走ったら、それ以上は走らなくてもいいんですよね?走り終わった後や走っている途中で、もう十周追加……とか、走るコースを変える……とかはないんですよね?」

「……へえ」

 

 天龍は、俺の言っている意味を理解したらしい。

 感心したように呟くと、そして続けてーー、

 

「ああ、いいぜ。お前がしっかり二十周走ったら、それで終わりだ。追加は無いし、コースも変えねえよ」

 

 天龍の言葉に、俺は一先ず安堵した。

 確証を取った。

 これで少なくとも、現状よりも更に走る事はなくなったという事で……。

 

「……で、二十周ってなによ……」

 

 それでも二十周走らなければならない事実に、俺は今さらながら頭を抱えた。

 

 

 ちなみに、俺が町内を二十周走る事を承諾したのには理由がある。

 それは承諾しないと天龍が納得しない……というのも勿論あるのだが、それともうひとつ。

 実は俺は、このボロ鎮守府のある町内が広くない事を知っている。

 まぁ、思い返せばそれもそのはず。

 俺はこのボロ鎮守府にたどり着く為に、ボロ鎮守府の住所が書かれた紙を片手に、この辺りをしばしさ迷っていたのだから。

 無事な建物が珍しいこの場所では、住所の付けられた電柱などは中々見当たるものではない。

 お陰で俺は、あっちに行ってはこっちに行ってを繰り返し、鎮守府と呼べそうもないボロ小屋を探すのに苦労したという訳だ。

 

 つまり、何が言いたいかというと、この町内一周は本当に町内一周なら長い距離を走らない。

 そして、もし天龍が最初から町内を外れて長い距離を走らせようとするなら、俺はその不正を盾に天龍のマラソンを真正面から拒否出来ること。これが何よりデカイ。

 

 天龍は俺の事を良く思っていないし、俺がこの辺りの地理を知っているなんて思ってもいないだろう。

 つまり、天龍は最初から走る距離をかさましする可能性がある訳で。

 ……その時は、俺は走るのを止めるぞ天龍ゥゥッ!!

 

 画して俺は、天龍達の後を追いながら走るコースを教えてもらい、町内を一周した。そして……、

 

 

 

 

 

 

「……で、鎮守府の前を通って一周だ。分かったか?」

「…………ふぁい」(^q^)

「なんだ、その気の抜けた返事は。……本当に分かったのか?」

「ふぁい」(^q^)

「なんか釈然としないしスゲームカつくが……じゃあ残り十九周、しっかり走ってこい。それと追加はしないって言ったが、道を反れたり、途中でさぼったりしたら最初からやり直しだからな。分かったら行けっ!!」

「……ふぁい」(^q^)

 

 

 

 俺は天龍に言われて、一人だけでマラソンを始める事になったのだが、頭の中はそれどころじゃない。

 

 えらいこっちゃやでぇ。

 だって天龍は、普通に町内を一周した。

 そしたら俺は、天龍に「此処って町内から外れてませんかぁ?言ってる事と違う事は聞けませんねえ!!」って言ってマラソンを拒否する事が出来ない!!

 ……まあでもそっか。そうだよな。

 二十周だもんな。一周の距離が短くても、二十周も走らせればかさ増しする必要なんて普通はないか。

 つまり、こうなったら俺は二十周走るしかないって事ね。

 ……フフ、……フフフ。

 

「ーーチクショウ!!覚えてろ!?俺がやられても今に第二、第三のオリ主が必ずゃ…………」

 

 

 

 

 

 

 

「……響ちゃん、行っちゃったぴょん」

「ほっとけ」

「……ねえ天龍ちゃん」

「だから『ちゃん』じゃなくて『さん』にしろって毎回ーー」

「竜田ちゃんが天龍ちゃんって呼んでるから、うーちゃんもそうするんだぴょん!!それよりも、響ちゃんに本当に二十周マラソンさせるの?」

「……まあ、しょうがないだろ。あの態度だと。泣いて謝って反省するんなら許してやったのに、生意気に何が『走ったら終わりですよね?』……だ、あの馬鹿め。この炎天下の中を走れるもんなら走ってみろっての」

「なんか響ちゃん、可哀想だぴょん……」

「全然可哀想じゃないね、あんな自己中は。どうせ心のどっかに、『素直に走ってたら途中で許してもらえる』とか思ってんだろ。そう思いながらずっと走ってりゃいいんだよ、あんな奴」

「でもね?響ちゃんはうーちゃんの事ーー」

「それだってアイツは自分が助けたみたいに言ってるが、大方ル級が気紛れで戦うのを止めたんだろ。何せ俺と龍田でギリギリだったんだ。それなのに駆逐艦一隻で戦艦に勝てるもんか。運が良かったんだよ、アイツは。……分かったら鎮守府に戻るぞ」

「……うん。

 

………………あっ!?天龍ちゃん!!あそこっ!!響ちゃんが一周してきたぴょん!!」

「もうか?……やっぱり馬鹿だな。あんなに跳ばしたら最後まで持たないだろ」

「こっちに手を振ってるぴょん!!おーい……って、もう行っちゃったぴょん……」


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