お待たせしました!ついに最終回です!
ご納得頂けるかは分かりませんが、これが作者の書きたかったラストです!
カーテンの隙間から覗く光の眩しさに目を覚ます。
珍しく目覚ましよりも早く目が覚めてしまった。
ここ一週間ほど降り続いた雨が上がり、どうやら今日は朝から快晴のようだ。
ふと多機能付き目覚まし時計に目を向けると、メールを知らせるランプが点滅している事に気付く。
画面を開くと……
「なんだ……こりゃ?」
そこには知らないアドレスから、昨日付けでメールが一通入っていた。
[比企谷。明日話があるから、部活終わりでもいいから放課後特別棟の屋上まできて。相模]
以前に由比ヶ浜や一色から届いたメールと見比べてみる。
おおよそ女子高生とは思えないような色も華もない簡素で簡潔な内容。
「俺、なんか呼び出し食らうような事したっけ……?」
良く分からんがめんどくせえな……。
しかも特別棟の屋上かよ……。あそこにはあんま行きたくねえんだよなぁ。
このまま見なかったフリして逃げちゃおっかな?
時期が時期だし相手が相手だ。どうせ逃げやしないくせに一応現実逃避の為にそんな事を考えながら、目覚ましが鳴るまでのあと30分の浅い眠りについた。
× × ×
滞りなく奉仕活動(由比ヶ浜の勉強の世話)を済ませ、俺は約八ヶ月ぶりに特別棟屋上へと伸びる階段を上っていた。
そもそもが特に用事は無いとはいえ、意識的に避けてたんだけどな、ここ。
相変わらず荷物が散乱していて実に上り辛いが、やはり以前と同じように空いている一人分の隙間を縫うように踊り場まで辿り着く。
壊れてぶら下がったままの南京錠を外し屋上へのドアを開けると、梅雨の切れ間の湿り気を帯びた風が吹き込み、朱く染まった空が視界一面に広がった。
そして視線の先のフェンスには……
「居ねえじゃねえか……」
なにこれ?後ろから『やべー、ヒキタニまじで来たよ〜(笑)』って何人か集まってくんの?
そんなトラウマが一瞬頭を過ったところで、予想外に真横から声が掛かった。
「比企谷おっそい」
視線を向けるとすっげえジト目で不満そうな相模が壁を背にして座っていた。
おいおい、なんつーの?そんな短いスカートでそんな体育座りみてえな座り方してたら、前に回り込んだらパンツ丸見えになっちゃうんですけど。いいの?
とか思いながら、俺もそのまま壁を背もたれにして座った。
離れた位置で同じ壁を背に並んで座る俺たちは、お互い相手に視線も向けず正面を向いて話し始めた。
「いやいや遅いって、お前が部活終わりでもいいっつったんじゃねえか」
「部活終わりで“も”って言ったの!そういう時はいつから待ってんのか分かんないんだから、気を利かせて早く来るもんでしょ」
なんだよ、そのトンデモ理論……。ホント女の言葉ってのは難解すぎんだろ……。
マジで検定制にした方がいいんじゃねえの?
「……知るかよ……てかいつから待ってんの?」
「……は?うちが放課後に教室に居場所あると思ってんの?」
「は?じゃあお前終わってからずっと待ってたの!?補習とかあんじゃねえのかよ……」
「今日は補習無しにしてもらったのよ……あんたがいつ来るか分かんないから……」
チラっと相模の方に視線をやると、こいつもちょうど視線を向けてきたのか目が合ってしまい、お互い慌ててまた正面に向き直る。
「……だったら最初っからそう言えっての……。で?話ってなんだ?」
「え……?あ〜っと……、とりあえずあんたには…その、お礼を言っとこうと思ってさ……。なんていうか……、その……助かりました……ありがと……」
おいおいこいつマジで相模かよ……。なんかすげえ照れ臭いんですけど……。
「いや……別に礼をされるような事はしてねえよ……。ま、その……なんだ。……仕事だから気にすんな」
「ぷっ!ホント比企谷って比企谷だよねー!そう言うと思った!」
あ?このやろう。なんか照れてんのかと思ったら急に人を馬鹿にしやがって……。
ホント比企谷って比企谷だよねーってどういうことだってばよ。
「チッ……んだよ……。で?話ってそんだけか?」
「いや……それだけじゃないんだけどさ……」
そう言うともじもじと俯いてしまった。
なんだよこいつ……。急に礼は言うわ照れるわ馬鹿にするわ俯いちまうわ……マジで調子狂うっての。
「……あ!そういえばさ、今日ってうちの誕生日なんだよね。比企谷、なんかちょうだい」
「は?いや意味分からん……。なんでお前にプレゼントあげなきゃなんねえんだよ。……ああ……まぁおめでとさん」
「うん……ありがと。…………ってかいいじゃん!……あれだけお互いに恥晒した仲なんだからさ……、プレゼントの一つや二つくれたって……」
「なんで二つなんだよ。……ああ、まぁそうだな……。なんでもいいっつうなら、なんか適当に用意しとくわ……」
用意しちゃうのかよ。
「マジでっ!?うん!なんでもいいよ!……そーだなぁ、なんか可愛いピアスとかがいいかなぁ」
「なんでもいいんじゃねえのかよ……。てかなんでアクセサリーとか急にハードル上がっちゃってんの?」
そもそも嫌いなヤツから貰ったアクセサリーなんて身に付けたいもんか!?
あれか、自戒の為の呪いアイテム的なやつか……
やだ、八幡まだ泣いてなんかないもん!
「いいじゃん。安いのでもなんでもいいからさ、その……復帰祝いも兼ねてさ……」
復帰祝いって自分から要求するもんか!?
大体お礼をしに来たんじゃないのん?
むしろ快気祝いとして迷惑掛けたこっちに粗品とか用意してきてもいいくらいなんじゃないですかね?
まぁ要らんけど。
「復帰祝い……ねぇ。……そういやどうだ?その後は。上手くやれてんのか?」
するとまーた態度をコロッと変えてぷんすかしだしやがったよ……。
「そんなに気楽に上手くいってる?とか言わないでくんない!?マジでこっちは超大変なんだから……。優美子ちゃんてホントに女王様なんだもん!毎日毎日ご機嫌伺いで気ぃ使って、マジで毎日神経すり減らしまくりだっての!」
「ほーん……。優美子ちゃん、ねぇ。へっ……思ったより上手くやれてそうじゃねえか。お前、アレだろ?ちょっと前までは心ん中じゃ三浦とかって呼び捨てにしてたクチだろ?」
「……なっ!?」
ほらな?図星だよ。
「でもそんなに自然に優美子ちゃんなんて出てくるって事は、もう心ん中でもそう呼んでんじゃねえの?……どうだ?お前が思ってたよりずっと良い奴らだろ?」
すると相模は気まずそうに苦笑しながらもコクンと頷いた。
「……うん。ホント良い人たち……。やっぱまだまだ超怖いけどね」
「そりゃ良うござんした。……たく、しゃーねえな!んじゃ誕生日祝いと復帰祝いに、今度なんか用意しといてやっか」
「あんたセンス超無さそうだけど、期待しないで待ってるよ!」
「おいっ……。んで?わざわざ俺を呼び出してまでプレゼントの催促したかったわけか?」
「……!ち、違うっての!それはついで!……あんたには伝えなきゃいけないことあんのよ!…………ふぅ〜……よしっ」
深呼吸をして一息つくと、相模はおもむろにスッと立ち上がりそのまま歩き出した。
相模は目的地へと向かう道すがら、真っ直ぐ前を向いたまま話を始めた。ゆっくりと、丁寧に。
「ホントはさ、……もっと前からずっと言いたかったんだよね……ずっと言いたかった……」
こちらへは視線を向けることなく尚も続ける。
「さっきも言った通り、今日はうちの誕生日だからさ、今日をうちの新しい出発の日にしたいんだよね……。これをちゃんとあんたに伝えないと、新しい一歩を踏み出す事なんて出来ないからさ……」
俺は相模が何を伝えようとしているのか、なぜかなんとなく分かってしまった。
だったらこのままの態勢じゃいけねえな……と、その場で立ち上がる。
相模は目的地へと辿り着く。
そしてくるりと踵を返すと、背にしたフェンスに寄り掛かった。
そう。あの時と同じ場所。あの時と同じ体勢。
自分を見失い居場所を無くし、誰かに見つけてほしくて足掻いて藻掻いてし逃げ出して、見失ってしまった自分を誰かが捜しにきてくれるのを、ただ一人ずっと待っていたその場所へ。
そして相模は俯きながら、ゆっくりと、でもはっきりとその一言を口にした。
「比企谷……、ありがとう。…………うちを見つけてくれて」
そして俯いていた顔をゆっくり上げると、まっすぐに俺を見る。
「……自分自身でさえも自分を見失っちゃってなにがなんだか分からなくなっちゃって、誰かに見つけてもらいたくて駄々こねて彷徨ってたうちを……本当の意味でちゃんと見つけてくれたのは比企谷だけ……」
スカートの裾をキュッと握りしめ、さらに言葉を紡ぐ……。
「……あの時、比企谷がうちを見つけてくれなかったら、……比企谷がうちを見つけさせてくれなかったら、……うちはどうしようもなくみっともない人間のまま、それに気付かず今も過ごしてたと思う。……だから……」
感極まった想いを一旦落ち着けるように瞼を閉じ、ほんの一息分だけ間を空ける。
そしてその閉じた瞼をしっかりと開き、最後の一言を添える。
「……だからありがとう!」
風にたなびく髪を片手で押さえ、俺をまっすぐ見つめる夕陽に染まったその柔らかな微笑みは、相手が相模だと忘れてしまうくらいとても魅力的で思わず見惚れてしまいそうな、そんな素敵な笑顔だった。
そんな微笑みで一歩を踏み出そうとする相模に贈る言葉なんかは、とっくに決まっていた。
今の魅力的な微笑みの相模には全然かなわなそうだが、それでも精一杯の笑顔を向けた。悪顔になっちまってたかもしんねえけどな。
「おう、気にするな。仕事だ」
すると柔らかい微笑みから一転、にひっとした笑顔に変わる。
「へへっ!言うと思った!」
んだよコイツ……。さっきまでの柔らかい笑顔といいこの呆れて小馬鹿にしたみたいな笑顔といい、こんなに良い顔たくさんできんじゃねえか。
だったらこいつはもう大丈夫だろ。
ちゃんと一歩を踏み出せたじゃねえか。
「話は以上か?……じゃあ俺はもう行くぞ」
「うん!わざわざありがとう!」
相模に背を向け踊り場へのドアに手を掛けると、相模が「あっ!」と俺を呼び止めた。
「あのさ比企谷!今度さぁ!奉仕部に遊びに行ってもいいかな!?雪ノ下さん達にもお礼言わなきゃだし、比企谷のプレゼントも回収しに行かなきゃだし!」
「おう。好きにすりゃいいんじゃねえの?ウチは部外者の生徒会長が入り浸ってるくらい出入り自由な部活だからな。……ああ、でも遊びにくるだけなら自由だが、もう依頼は持ってくんじゃねえぞ!お前関連の依頼はマジで厄介でめんどくせえんだよ」
「へへっ!オッケー!それじゃあ飛びっきり厄介でめんどくさいヤツ用意しとくっ!」
そう言う相模の笑顔は本日一番の、ああ相模らしいなと思えるような、まさに等身大の女子高生らしい、悪戯心を目一杯滲ませる生き生きとした笑顔だった。
「へっ!くわばらくわばらっ」
苦笑いを浮かべ屋上をあとにし、俺はふと人生の苦さについて思いを巡らせた。
× × ×
人生とは苦く苦しく己の理想通りに上手くは行かず、長く険しい苦行のようなものである。
その苦さといったら、濃すぎて飲めたもんじゃないクソ苦いコーヒーのようなもんだ。
だがどんなにクソ苦くて飲めたもんじゃないコーヒーでも、たっぷりのミルクとたっぷりの練乳を自分好みに加えれば最っ高に美味いMAXコーヒーにだってなれるのだ。
つまりはどんなに苦く苦しい人生だって、自分の考え方と自分を支えてくれる周りの人間次第で如何様にだってなる。いくらでも最っ高に美味い人生に変えられるって事だろ?
そして俺、比企谷八幡は人生の苦さについてある一つの結論を導きだした。
「なんだよ。だったら飲めたもんじゃないような苦く苦しい人生ってのも、そうそう捨てたもんじゃ無いんじゃね?」
了
すみません!後書き長くなりますので、興味ない方は読まなくてもよいです><
最後まで読んで頂き本当にありがとうございました!
実はこの作品は、相模に「うちを見つけてくれてありがとう」と言わせたかったが為だけに書き始めた物語でした。
過去の失態を嘆くより、綺麗事を並べて謝るより、見失ってた自分を見つけてくれた八幡に「見つけてくれてありがとう」と伝えられなきゃ相模が救われる事はないだろうな…と、ずっと思っておりました。
なので八幡との恋愛事を期待していた読者さまには申し訳ないのですが、これが作者なりの終わらせ方なのです!
第一話を書き上げた時点で、自分でもびっくりするくらい「暗っ!」と思うほどで、こんなん見てくれんのかな〜……と思っていたのに、本当にたくさんの方に読んで頂いてたくさんの感想も頂けて、とてもとても嬉しかったです!
俺ガイルきっての不人気キャラ・さがみん嫌いの方に、なんだよこいつ結構可愛いじゃねーか!と思って頂けたなら本望です☆
追伸…………
えーと、さんざを完結詐欺完結詐欺と言われてしまったので先に言っておきますね!
もう完結なのでここから伸びるのは難しいとは思いますが、もしUA100000超えかお気に入り1000を突破するような事がございましたら、記念として後日談くらいでよければ書こうかな?と思っております!
先に言っといたので詐欺ではありませんよ!?
その場合、相模視点と八幡視点て、みなさんどっちがお好みですかね〜??
UAかお気に入りが突破するようなら、アンケートってやつを取るかもしれません!
それではまたいずれどこかでお会いできたら嬉しいです♪