あいつの罪とうちの罰   作:ぶーちゃん☆
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その時彼女は激高し彼は微笑む



静寂をぶち破っていつものように部室へと入ってきた一色は、来客の存在に気付いて驚いた。

「………あ。」

いろはすいっけなーい☆と頭コツンとてへぺろっとする。出オチならぬ出あざとか。初っぱなから飛ばしすぎだろ……。

「すみません…。まさかお客様がいらっしゃるとは……」

まあそりゃこの部室に客が来ることなんてそうそう無いからな。
てか部員でない以上、一応あなたも分類で言えばお客さんなんですよ?招かれざる方向で。

「だから客が居ようが居まいが、ノックくらいしろっつーんだよ……。平塚先生かよお前は」

「次からは気をつけまーす!」

ああ、次からも気を付ける気はありませんね。

「てか何だか空気重くありませんか!?どうしちゃったんですかねー」

と、自然な流れで自分の椅子を用意し当たり前のようにいつも通り俺のすぐ隣に席を構える。
あれ?お客さん来てるってのに、なんで普通に奉仕部側に自分の居場所作ってんの?こいつ。

「………おい。今どう見ても依頼中だろ……。部外者はお引き取り願いたいんだが」

「やだなー、先輩!部外者だなんてみずくさい!」

先輩ってバカなんですかー?と言わんばかりの笑顔で俺の肩をバシバシ叩いてくるのだが、あれ?俺がなんか勘違いしちゃってたっけ?

「比企谷君。一色さんの相手をしていたら話が進まないわ。もうこのままでいいでしょう」

「そうだよヒッキー。いろはちゃんやっはろー!」

「結衣先輩こんにちはです!雪ノ下先輩もこんにちは!」

「こんにちは」

颯爽と登場してから随分と時間が掛かったが、ようやく穏やかな挨拶が交わされる。
だがまぁ一色の存在は悪くないかもな。
こいつのおかげで雪ノ下と由比ヶ浜の張り詰めていた空気が和らいだ。

こいつ、いつのまにか奉仕部が上手く回るための一部になってやがるな、ったく……!


だが依頼人達にとってはそうもいかないようだ。

「……え?うそ…」

「なんで生徒会長が…?」

と、余計に畏縮してしまった。

「あ、すみません。わたしも奉仕部の一員みたいなもんなんで気にしないでくださいー」

「一色さん。あなたを奉仕部部員として許可した覚えはないわよ?」

「むー!……だってしょうがないじゃないですかー…。せっかくマネージャー辞めて入部届け持ってきたのに、雪ノ下先輩が受理してくれないんですからー」

ぷんすかと雪ノ下に悪態をつく一色。
最初の頃の怯えはどこへやら、ホント仲良くなりましたよね、あなたたち。

「仕方ないでしょう?ただでさえ奉仕部と比企谷君に依存しているというのに、これで正式に部員として許可してしまえば、あなたは奉仕部を生徒会の私物と化しそうなのだから」

「そ…そりゃしちゃうかも知れませんけどー……」

しちゃうのかよ。

「お、おーい!二人共ーっ!ユッキー達が置いてかれちゃってるからー!」

まさか由比ヶ浜が突っ込み側に回るようになるとはな…。
実に面白い……と眼鏡をクイッとあげるフリをして一人遊びを楽しんでみたよ!
ニヤリとしてしまった所を見られたら通報されちゃうっ!

こほんっと頬を赤らめる雪ノ下と、てへっとする一色を放置して、とっとと本題に入らせて頂こうか。

「まだ詳しい事はなんも聞いてねえから、とりあえずどういった経緯でそんな事態になったのかを最初から教えてくれ。依頼を受けるかどうかはまずそこからだ」

奉仕部メンバーに生徒会長が加わった事で余計に話しづらそうだったが、結城と折澤は相模が新学期初日から不登校に至るまで。そして不登校になってから二人で相模の家に会いに行ったが門前払いに遭った事、そして以前相模から聞いた奉仕部とやらを思い出した事などを事細かに説明してくれた。


俺もそうだが、雪ノ下達も神妙な面持ちで聞いていた。

「そう……。それではこの件は私にも責任があるのね……」

はぁ…、めんどくせえな。やっぱりこいつはこう考えちまうのか……。

「……どういう事だ?」

「あなたなら分かっているのでしょう?依頼の為とはいえ、体育祭の実行委員長に無理に推したのは私なのよ」

「私たち……、な」

「でも実際には私が一人で動いたようなものだもの」
「ゆきのん!あたしだって一緒に説得しに行ったよ?ゆきのんだけの責任じゃないよ!」

ったく。本当にめんどくさいな、こいつらは……
思わず苦笑しちまいそうになる。

「あー、アレだ……。それはあくまで結果論てやつだろ。実際に体育祭でやらかしちまったのは相模自身なわけだし。それでもあの時の問題点に関しては相模に仮初めの自信を与えてやる事は出来た。あのまま実行委員長にもならずクラス内で悶々としてたとしても、結局また別の問題が起きただろう。何よりも文化祭でやらかしちまった事実は消せやしない。結局今のクラスになったらハブられるって事実は変わらなかったろうな。文化祭でイジけて逃げ出した相模ってやつに、体育祭実行委員長に立候補したってオプションが付いたってだけの話だ」


これは確かに詭弁かも知れない。雪ノ下を庇う為の。
ただ相模の性格と文化祭の失態を考えたら、クラスメイトが替わったらこうなった事はまあ間違いないだろう。

結果論だけで物事を考えるのは危険な考えだ。
ここでこんな行動を取ってしまったらこういう結果になってしまうかも。あんな行動を取ってしまったら……と、怖くてなんにも行動が取れなくなり身動き取れなくなっちまうからな。

あの時点では相模を実行委員長に推した事は決して間違いではないし、誰にも責められるべき事ではない。
だからこの件に関して雪ノ下も由比ヶ浜も気に病むべきではないだろう。


そんな成り行きを一色は大人しく聞いていたので、生徒会長として思うところがあるのだろうとふと視線を向けると、一色の表情は余りにも予想外だった。

光彩を失った瞳を半目に開き依頼人を見ていた。その眼差しは恐ろしく冷めたものだった。

そして一言。一色が発したと一瞬分からないようなとてもとても低い声で。


「雪ノ下先輩、結衣先輩、……まさかとは思いますけど、……こんな依頼受けるつもりじゃないですよね……?」

…………は?なに言ってんだこいつ。
こんな依頼って……

「おい一色。お前急になに言っ…」

「先輩は黙っててください。わたしは雪ノ下先輩達に聞いてるんです。」

超怒られちゃったんだけど……。超こわいよ。こわいろはすだよ……。
てかこいつ本当に一色か……?こんな風になったこいつ見たことねえぞ……

「一色さん…」「いろはちゃん…」

二人共また俯いてしまう。一色がぶち壊した静寂は、その一色本人によってさらなる静寂を呼んだ……。


× × ×


一色は黙ってしまった二人から依頼人に向き直って低い声で尋ねる。

「……あなた達が言っている相模先輩と言うのは、ここに居る馬鹿でお人好しな先輩を陥れて、自分だけ助かった人ですよね」

何言ってんだ、こいつ……。

「……自分の責任を放棄して逃げ出して、その責められるべき泥を全部先輩に被ってもらった癖に、その上さらに先輩の悪評を校内にばらまいて、先輩を校内一の嫌われ者にした張本人ですよね。という事は、あなた達もその行為に加担した張本人ということになりますね…」

後輩生徒会長の圧力に、結城達が怯えて絶句している。

「おい一色!おま」

「うるさい!」

もう敬語など忘れて俺を黙らせる。完全に冷静さを欠いてるし普段であれば止めるのだろうが、今の俺には止められなかった……。
一色の目の端に涙の粒が見えてしまったから。

「……保身の為に先輩を悪者にした癖に、いざ自分達が困ったら、その陥れた先輩を頼るってどういう事ですか?恥ずかしくないんですか?情けないと思わないんですか?卑怯だと思わないんですか……?」
ばんっ!と机を叩き悔しそうに手を握り締めていた……。

「一色……。お前そんな事知ってたのか」

「……はい。前に先輩が一度わたしのクラスに来た事あったじゃないですか。役員選挙の前に。その時に友達に言われたんですよ……。あの人って例の二年生じゃないの?って」

はぁ…と息をついて一拍開けてから話を続ける。

「正直その時はへーって程度だったんです。先輩に興味ありませんでしたし……。でもそれから色んな事があって仲良くなってきたらやっぱり気になっちゃって。まあ先輩の事だから、どうせまた自分を犠牲にして何かやらかしちゃったんだろうな……とは思ってたんですけど、詳細くらいは知りたいなと思って結衣先輩に聞いちゃいました……。そりゃ先輩が一番悪いとは思います。すぐに自分がどうでもよくなっちゃうんだから。周りの心配してくれてる人達の事なんて忘れちゃうんだから……。だから校内一の嫌われ者のレッテルを貼られるのなんて、そんな馬鹿な先輩に対しての罰としては当然だと思います……」


はぁ〜…。そういう事かよ……。
由比ヶ浜の方を見ると、俺に申し訳なさそうな視線を向けている。
隣の雪ノ下は俯いたままだ。


「……でもっ!それでもっ!……この人達のあまりの身勝手さに頭にきちゃいました。不登校になって自己完結してる相模って人本人より、むしろこの二人に。……自分達のせいで先輩がどれだけ苦しんだか考えもしないで、苦しめた張本人がその先輩を頼ろうとするだなんて……。たぶん雪ノ下先輩も結衣先輩も言いづらかったんだと思います。だからさっきまで空気重かったんですよね…?立場とか関係性があるから……。だからわたしが……。……すみません。興奮しちゃって……」

「……そうか」

まさか一色が俺の事でこんなに怒ってくれるなんてな。あー、くそっ……。なんてこった……。
雪ノ下と由比ヶ浜がおかしかったのは、まさか俺なんかが原因なのかよ……
こいつらも今の一色と同じような考えだったから、この依頼にあんなにも後ろ向きだったのか。


× × ×


「………あ、あのっ、……私たちっ」

「……失礼しましたっ」

結城と折澤は慌てて部室から逃げ出そうとした。
そりゃ当然だ。今や我が校の代表とも言えるような雪ノ下や由比ヶ浜、そして生徒会長の一色が、自分達に敵意を向けてる理由を知っちまったんだから。
だがな、俺はお前らを逃がさない。
こいつらの気持ちを知っちまったからこそ、このまま逃がす訳にはいかねえんだよ。

「おい待て。お前らはそれでいいのか?」

「………え?」

「逆に言えば、その大嫌いな俺に頼ることになっちまったとしても、それでも相模を救いたいと本気で思ったからこそここに来たんだろ?……マジで屈辱だよな。大嫌いな奴に頭下げるなんて」

「……………」

「俺だったら他人の為に大嫌いな奴に頭を下げるなんて絶対にできん。なにせ大嫌いなんだからな。だからこそ、そんな葛藤があったからこそ、ここに来るまでひと月も掛かっちまったんじゃねえのか?……でもそれでもお前らは来たんだろ?相模を助けたいから。それなのに年下の後輩にちょっとキレられたくらいで、そんなすぐに逃げ出しちまっていいのか?また簡単に見捨てちまうのか?」

そう。こいつらは仲が良かった友達を見捨てた。
それは確かに仕方なかった事かも知れない。なにせ相手は空気ってバケモンだ。

でもこいつらは見捨てた事を後悔した。なんとかしたいと思った。だからこそ大嫌いな奴が居ると知っていてさえも、ここに救いを求めてきたのだ。

そんな奴らをそんなに簡単に逃がすかよ、ばかやろう。

「先輩……っ!」

自分の、自分達の気持ちを吐き出してさえもやめさせたかった一色が、またも大声で食い下がる。
だがさっきと違って今度は止めてやるよ。お前らの気持ち知っちまったからな。

「一色!」

一色の言葉を遮るように、乱暴に名前を呼び黙らせると、ビクっと肩を震わせ親に怒られる前の幼い子供のような不安な顔で俺を見つめる。

そんな不安そうな顔すんなよ。だから俺は言ってやった。一色に。こいつらに。


「ありがとうな」


「……へ?………ふぇっ?な、なにを…」

こんな時まで律儀に言い直すなよ……
つい口元が緩む。





いつかの雪ノ下の言葉が頭をよぎる。

『……変わらないと、そう言うのね』

そして俺は変わらない、変われないと思った。そんなに簡単に人は変われないとそう思っていた。

だが何のことはない。いつの間にか俺は変わってたんだな。こいつらと一緒に居る事で。


俺は自分の事を理解されたいとは思わなかった。
良く知りもしないくせに理解したつもりになられるのが身震いする程いやだった。
そういやいつか海老名さんもそんなような事言ってたっけな。


だが今、俺を理解してくれて俺の為にこんなにまで怒ってくれた一色の、こいつらの存在が身震いする程嬉しく感じてしまう。

犠牲?俺は犠牲になんかなったつもりはねえよ…と、ほんの少し前までは怒りさえ覚えてたってのに、俺が犠牲になっている事でこんなにも悲しく思ってくれるこいつらの存在が身震いする程嬉しい。


なんだよ。俺変わっちゃってんじゃん。
変わったなんて簡単に口にする事を馬鹿にしてた俺が。なんで変わらなくちゃなんねえんだよ、なんで今までの自分を否定しなくちゃならねえんだよと、そう思ってた俺が。
それなのに今こんな気持ちになれている自分がなかなか悪くない。

だから、その思いも全部込めてのありがとうだ。


「俺の為にそこまで怒ってくれてありがとうな」

たぶん17年間の八幡史上最高の爽やかな笑顔のありがとうだな!
すると一色は……


「な、なななななななっ……なに急にそんな事言ってすっごい笑顔になっちゃってんですか!?……ちょ!ちょっと直視出来ないですっ!……き、ききききき気持ち悪すぎてむむむ無理でしゅ……すっ……」


と、顔を真っ赤にしてすげえ勢いでプイッとそっぽを向きやがった………。



…………え?
がんばって俺史上最大級の爽やかな笑顔を向けてやったのに直視出来ないくらい気持ち悪いのん?

恐る恐る雪ノ下と由比ヶ浜の方を向いてみる……。
あ……、目を逸らされて、それはもう凄い勢いでそっぽ向かれた。


あれ?なに俺調子に乗って爽やかな笑顔女の子に向けちゃってるのん?
爽やか(自称)じゃん。
やだもう恥ずかしい!今すぐ死にたい!

全俺が泣いた……。


× × ×



「……と、とにかくだな……」ああ〜!恥ずかしいよう!今すぐ帰って布団に顔うずめて悶えて叫びたいよう!

そんな新たな黒歴史に対する羞恥に悶える自分を悟られないように、俺は心を殻に閉じ込めよう。私は貝になりたい……


「俺はこの依頼を受けようと思う」


そりゃこんな依頼超めんどくせえよ。
大体こんな社会問題クラスの依頼、俺たちだけでどうにかなんの?ってレベルだ。

だが本来の雪ノ下なら確実に受けるだろう。
救いの手を求める依頼の中でも最大級レベルの依頼だ。
そしてさっきはああ言ったものの、こいつが責任を感じていないわけがない。たとえ大したことは出来ないにしても、何もせずここで断ったら、こいつの信念を全て否定することになるだろう。

本来の由比ヶ浜は絶対に助けたいと願うだろう。
ただ相模を助けたいという思いだけでは無く、少なからず責任を感じてしまっている大切な雪ノ下の為にも。
俺たち如きには解決する事なんか出来なかったとしても、ここでなんの手も差し伸べないようなら、こいつの友達を想う気持ちを全て否定することになるだろう。


でも今回、こいつらは俺のせいで自分達の信念・気持ちを自ら全て否定しようとしている。


そうじゃねえだろ雪ノ下。そうじゃねえだろ由比ヶ浜。
そんな私情で依頼を断っちまったら……


「……断っちまったら、奉仕部の存在意義そのものを否定しちまうだろ」

そうはさせたく無い。
俺のせいでこいつらに自分自身を否定させたく無い。
だからこの依頼だけはヤバかろうがめんどくさかろうが絶対に受ける。

それにあれだけ人は簡単には変われないと馬鹿にして意気がってた俺自身が人に動かされて変わっちまうんだもんな。それを不覚にも心地いいと思っちまってるんだもんな。
だったらあんなにどうしようもない相模だって、この二人の依頼人によって少しはまともに変われる事だってなきにしもあらず……だ。



雪ノ下は薄く微笑みながら言う。

「そうね…。あなたがそれを望むのなら、この依頼受けましょう」
ありがとよ雪ノ下。それでこそお前だよ。



元気に頷きながら由比ヶ浜は言う。

「そうだよねっ!やろうよ!ヒッキー!」

ありがとよ由比ヶ浜。ようやく笑顔になったな。



相変わらずぷくーっと頬を膨らませて、プイッと一色が言う。

「まったく……。馬鹿な先輩は勝手にすればいいですよーだ。もうわたしは知りませんっ」

ありがとよ一色。別にお前に決定権ないけどな。




こうして我が奉仕部は、結城由紀と折澤沙織という、二人の元クラスメイトからの相模南の不登校に関する依頼を受諾した。




いや〜……ダメですね。
やっぱりいろはす出しちゃうと、どうしたってヒロインにしちゃいますね><

今回いろはすを大活躍させてしまったので、次回からはいろはすの出演は自重しますっ!

ただしメインヒロインであるはずの相模の出番はしばらく一切ありません(笑)







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