あいつの罪とうちの罰   作:ぶーちゃん☆

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比企谷小町はいつだって兄より兄を見ている

 

 

その後結城と折澤から改めて正式に依頼され、また正式に謝罪を受けた。

 

 

本人達も言い訳がましくてゴメンとは言っていたが、単純に俺の真意を知らず本当に嫌な奴だと思っていた事、単純に相模を罵倒した事にムカついていた事、そして単純に根暗で気持ちの悪い俺が嫌いだった事で噂の歯止めが効かなくなったのだそうだ。

 

いや、最後の情報は別に正直に言わなくても良かったんじゃないっすかね…?

軽く泣きそうになっちゃったけど、さっき俺は貝になるって決めたもんっ!

 

 

ただ謝罪の際に、あくまでも悪いのは自分達であって相模は悪くない、だから救ってあげて欲しいのだと涙ながらに訴えてきたのが救いではあった。

 

確かに文化祭直後は近しい人間には愚痴を零していたそうだが、結局騒いでクラスに広めたのは取り巻き達である自分達なのだそうだ。ただそれが学校中にまで広まっちまったのは予想外だったらしいけども。

まあそこら辺は遥とゆっこ達が居るからな。

 

それどころか相模は体育祭直後にはパタリと俺の話題を出さなくなったらしい。

戸部あたりが『それナニタニ君だよー』などと寒々しいネタにして騒いでいるのを苦々しげに見ていたんだそうだ。

戸部って本当に戸部だわ。なにが戸部ってマジで戸部。

 

取り巻き達は単純に話題にも出して欲しくないのかとも思ってたらしいのだが真相は分からん。

まあ俺自身は自分がしでかした事ってのは理解しているし、こいつらには恨みも何もなく謝罪されるいわれはないと言ったのだが、ただその謝罪を聞いた雪ノ下達の気持ちが少し軽くなったのを感じられたのは良かったのかも知れない。

 

 

× × ×

 

 

結城達を帰す頃にはもう最終下校時刻間際になっていたので特にこれといった話し合いも出来なかったが、みんなお互いに難しい問題だという事は痛いほど分かっていた。

 

「しかしどうしたもんかね、これは……」

 

「あれだけ格好良く依頼を受けると豪語したのだから、多少なりとも何かしらの考えがあるものとばかり思っていたのだけれど」

あれ?雪ノ下さん?俺カッコ良かったのん?

でもそこを指摘すると視線で氷漬けにされちゃいそうだからやめとこうね。

 

「そんなもんあるわけねえだろ。そんな簡単に考え付くくらいなら、俺は17年もプロのぼっちやってねえよ」

 

「……ヒッキー」

 

「……せんぱい」

 

とても可哀相なものを見るような優しい眼差しで見つめられてしまいました。

時に優しさって残酷よね。

 

「それもそうね。あなたの悲しいトラウマに気付いてあげられなくてごめんなさい」

 

君の場合は哀れな優しさの中にも悦びが見え隠れするのはなんでなんですかね。

そんなネガティブな台詞をそんなにいい顔して言わないで!

トラウマに気付かなかった事よりもむしろそこに気付いて!

 

 

結局最終下校時刻のチャイムが鳴り、その日は重い足取りでそれぞれ帰路についた。

 

 

× × ×

 

 

疲れきった心と身体をシャワーで洗い流し、私はぱしゃんと音を立て湯船に入り肩までお湯に浸かった。

 

両手でお湯をすくい、ぱしゃりと顔に掛ける。

 

 

 

「ああぁぁぁぁ〜……染みる〜……」

 

 

初サービスシーンはまさかの八幡バスタイムよ☆

そんなくだらない一人遊びを堪能しニヤニヤしていると、いつまでも風呂から出てこない八幡お兄ちゃんに愛妹からお声が掛かる。

 

 

「お兄ちゃ〜ん!早く出てこないとごはん冷めちゃうよー」

 

「へーい」

 

 

いつもはこんな時間から風呂なんか入らないのだが、余りにも問題が難問過ぎて、ちょっと心身ともにサッパリしようと今日は夕飯前に入ったのだ。

 

 

風呂から出てくると、今日も相変わらず旨そうな見た目と香りの愛妹料理が所狭しとテーブルに並び、風呂上がりの腹と鼻腔をくすぐってくる。

 

「いただきます」

 

「いただきまーす!」

 

 

今日も兄妹仲良く礼儀正しく手を併せてから、さっそく料理に箸を伸ばす。

うん!うまい!やっぱり小町のハンバーグ最高!

 

「お兄ちゃん、今日なんかあった?」

 

味噌汁をズズッと啜りながら、マイエンジェルもとい妹エンジェル小町が尋ねてくる。

いっぱいいっぱいでそこまで頭が回らなかったが、まあそりゃこんな時間から疲れた顔して風呂入ってりゃ不思議に思うわな。

 

「あ?んー、まぁ色々とな」

 

「どったの?小町ちゃんに言ってみんさい?ほれほれ〜」

 

テーブルの下で足を伸ばしてお兄ちゃんのスネをぐりぐりしてくる。

なにこの可愛い生き物。

 

どうすっかな…。内容が内容だしなぁ……。

決して面白い話では無いし、一色が激高したっつう経緯もあるからなぁ。

あんまり小町に嫌な気持ちになって欲しくはない。

 

「なんか悩んでるんでしょ?お兄ちゃん分かりやすいもん。……………お兄ちゃんの悩みは小町の悩みでもあるんだよ?だから悩むときは一緒に悩もうよ……。あ!今の小町的にポイント高いっ」

 

ホントその最後の一言がなけりゃなぁ……

まぁ間違いなく可愛いから結局ポイント高いんだけどね!

 

ただ、小町には極力内緒事はしないようにしている。

また前みたいに喧嘩しちゃって小町が口きいてくれなくなったら、お兄ちゃんきっともう耐えらんないっ!

どんな内容であれ、言われないで悶々とする方が小町的にポイント低いだろうし、なにより悲しむからな。

 

「ちょっと……、いや、かなり厄介な仕事ができちまってな」

 

「そっか。まぁ悩みが仕事の事で良かったよ!未来のお義姉ちゃん達となんかあったら大変だけど、今のうちから理不尽でキツい仕事に慣れとくのは良いことだよねっ」

 

未来のお義姉ちゃん『達』ってなんだよ……。何人お義姉ちゃんを作る気なんですかね、小町さんは。

あと隙あらば兄の社畜特性を鍛えておこうとするのはやめようね。

 

「で?お兄ちゃんがそんなに悩むほどのお仕事ってなんなの?なんなら小町も手伝いにいこっか?」

 

 

 

小町は受験に見事勝利し、この春から総武高校の新一年生としての道を歩き始めている。

雪ノ下と由比ヶ浜に懐いてるから、てっきり奉仕部に入ってくるんじゃなかろうかと思っていたのだが、意外な事に入部してこなかった。

まぁちょくちょく遊びには来るんだが。

 

小町が言うには、せっかくのあの空間に自分が入り込んでしまうと色々と捗らないからだそうだ。なんのこっちゃ。

 

それと秋になったら生徒会役員選挙に立候補して生徒会に入るつもりらしい。

だから今は部活とかしないで、友人達との確固たる信頼関係を確立しておくことの方が重要らしい。

 

……この子ホントに僕の妹なんですかね?ホントに血繋がってるのん?

最近兄の様子がちょっとおかしくなりますよ?

 

それと『いろは先輩と一緒に総武高校を良くして行きたいんだ〜!そっちの方が色々と捗るし♪』とか言ってたのだが、さすがにこのコンビにはそこはかとない不安がいっぱいでお兄ちゃんとっても心配☆

 

 

「んー…。そうだな……。あんま小町は関わらない方がいいかもな…」

 

多少の不安はあったが、今日あった事やそれに伴った文化祭、体育祭の話などを小町に説明した。

 

話し終えるとやはり一色達の様子を思い出し、恐る恐る小町の様子を伺ってみた。

 

結論から言うと、小町の反応は俺の想像とは真逆のものだった。

なんかすげえによによしてやがる。

 

「むっふっふっ。いやー!お兄ちゃんは本当に皆さんに愛されてますなぁ〜!小町とっても嬉しいよ!」

 

「………別にそんなんじゃねえよ」

 

「ふっふ〜!なんか最近お兄ちゃんの捻デレ具合がかなり弱まってるよ!まぁこれだけあからさまに愛されてれば捻くれ切れなくなるよね〜!これはごみぃちゃんが妹離れする日も近いのかな……」

 

と急に感慨深そうに目を細める。

お母さんかよ…。まあうちの母ちゃん俺にそんな目しないけどな!

放任主義。むしろ放置主義まである。

でも小町さん?お兄ちゃんは一生妹離れなんて出来ませんよ?

 

「う〜ん……。でも確かにそれは大変そうだね〜。ちょっと小町は役に立たないかもしんないや……」

 

「そうだな。それにこういう問題はあんま部外者が首突っ込むもんじゃねえしな……」

 

さすがに複雑そうな顔してやがんな。

……そういえばずっと気になってはいたんだが、こいつはどうなんだろうか……?

 

「あー…、そういえばお前はどうなんだ?……その、大丈夫なのか?……俺みたいな兄貴が居たら、その…なんだ……」

 

「なーに言ってんのお兄ちゃん。小町は大丈夫だよ!そりゃ確かに小町は可愛いし?人気者だし?中には妬んでくる子もいるけどね〜。でもそれ以上に可愛いくて人望のある小町には味方がとっても多いのです!少数派のアンチ小町なんて封殺されちゃうのです!それに今さらごみぃちゃんの存在感なんて、小町の人望の前ではそれこそごみみたいなもんだよっ♪」

 

「そうかよ。ま、そいつは安心だ」

 

でもあんまりごみごみ言うとお兄ちゃん泣いちゃうよ?

ま、こいつに限っては今さら心配するような事でもないか。ずっと俺の妹やってきたんだもんな。

封殺ってあたりがさすが俺の妹って感じでちょっと怖いが、すでに周りにそういう根回しは済んでるのね……

 

「しっかしどうすっかな、全然なんも思い浮かばん。あまりにも俺と相性が悪い依頼だわ。なんも出来る気がしねえよ」

 

「そりゃそんな事がすぐ思い浮かぶんなら、お兄ちゃんずっとぼっちやってないもんね〜」

 

ふっ、さすがは俺の天使。よく分かっていらっしゃるぜ。なんかちょっぴり視界が滲むけどね。

 

「でもさ……」

 

あれ?まだなんか悲しいお知らせが続くんですかね、俺の天使さん。

 

「なんにも思い浮かばなくてなんにも出来ないのは、ちょっと前までのお兄ちゃんなんじゃない?」

 

「…………は?」

 

「だって、ここ最近のお兄ちゃんは本当に変わったよ?他人に理解されたり信じられたりするの、あんま怖がんなくなったじゃん」

 

マジかよ……

 

「奉仕部の皆さんやいろは先輩。戸塚さんや川崎さん達のおかげだね!あとついでに中二さん?」

 

参ったな。やっぱ天使だわ、我が妹は……

 

「今のお兄ちゃんなら、前のお兄ちゃんじゃ解決出来なかった事だって、きっとなんとかしちゃうんじゃない?だって今のお兄ちゃんは一人じゃないんだから!……………………どうしようお兄ちゃん!小町ポイントがとどまるところを知らないよっ!」

 

ああ、ホントにポイントカンスト寸前だったわ。

俺でさえさっき気付いたばっかだってのに、こいつには全部見えてたんだな。八幡検定免許皆伝だぜ。

 

ちなみにカンストしなかったのは材木座を数に入れたマイナス分な。

 

 

「だからさ、お兄ちゃん一人で分かんないんだったら、みんなに話聞いてみればいいんじゃないかな?今のお兄ちゃんだったら、難しい事は人に頼っちゃえばいいと小町は思うのです!」

 

すげーいい笑顔でニカッとする小町は、本当に羽が見えちゃうんじゃないのってくらいの天使っぷりだった。

 

「ああ……、そうだな。そうしてみるわ。ありがとな、小町」

俺は本日二回目の八幡史上最高の爽やかな笑顔で心からのありがとうを妹に贈った。

 

「うわぁ…!お兄ちゃんが本気でデレたー!」

 

真っ赤な顔であわあわ照れる小町(照れてるんですよね!?一色さんみたいに気持ち悪がってるわけじゃないですよね!?)に、いつものお返しをしてやるか。

 

「八幡的にポイント高かったか?」

 

ニヤァっと小町に笑顔を向けると、さっきまでの照れ具合はどこへやら、本気でドン引きしてらっしゃいました。

 

 

 

しゃあねえな。愛しの我が妹にここまで言われちゃ、お兄ちゃん頑張んない訳には行かなねえな。

 

うし!っと内心気合いを入れた俺に、あんまり気負わせない為の小町の応援が届くのだった。

 

 

 

「ま、お兄ちゃんらしく適当にがんばってねっ」

 




今回は人生初小町です!

前作では物語の都合上、出したくても出せなかったので、ようやくって感じです。
こんなカンジで問題ないですかね!?

あと今回は短めの二本が昨日一昨日の土日でかなり書けたので、次話も明日には上げられそうです。


ところで感想で何度かご質問頂いているのでこの場を借りてお答えさせて頂きますが、作者的には今作は前作とは別次元でのお話と考えております。

前作は原作の裏舞台を妄想して作ったお話で、今作は原作より未来の舞台を妄想で作ったお話なので、前作と今作を繋げてしまうと原作との整合性が取れなくなる可能性があるからです。

ですがあくまでも二次小説作品ですので、そこはもう読者様のお好みのほうで読んで頂くのが一番だと思っております。
なので前作のその後だと思ったほうが楽しめる読者さまは、そのままお楽しみ下さいませっ!

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