あいつの罪とうちの罰   作:ぶーちゃん☆
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そして彼女と彼の想いが交錯する




ピシピシと雨が窓を打ち付ける音にふと目を覚まし時計を見た。

「もう五時か……」

いつの間にか雨が降ってたんだな。
そういえば今って梅雨だったっけ?もう曜日感覚どころか、今が何月なのかも考えてなかった。どうでも良かった。


うちの刻は、5月で止まってしまってるから。


ゆうべも結局ほとんど眠れず、そのままずっと布団に包まってぼ〜っとしていたら少しだけ寝てしまったらしく、気付けば今日もあと7時間もすれば終わろうとしてる。

あ〜……。そういえばゆうべから何にも食べてないな……。ちょっとお腹空いたかも。
食べてもたぶん吐いちゃうんだけど。


最近のうちの生活は大体こんなもん。
トイレとお風呂以外は部屋から出る事もせず、お母さんが作ってきて部屋の前に置いといてくれたごはんを気が向いたら食べる。
あとはただベッドで布団に包まってテレビを見たり音楽を聞いたり漫画を読んだり。


うちって何の為に生きてるんだっけ………?


いつも通りの思考回路は今日も通常営業のようだ。
テレビを見てても音楽を聞いてても漫画を読んでても、頭の中はその事か、もしくはあの事ばかり。


今日もいつもと変わらずに一日が過ぎていく……。もしかしたらこのまま全てがなんにも変わらずに過ぎていくのかな……?

そう思っていた時、不意にインターホンが鳴り響いた。


こんな時間にお客さんかな。また学校の連中かな……。
そういえば前に一度だけ由紀ちゃんと早織ちゃんが来てくれた事があったっけな。会わなかったけど。

でも不登校になってから友達が家に来たのはあれだけ。


『つまりさ、……誰も真剣にお前を捜してなかったってことだろ。わかってるんじゃないのか、自分がその程度の……』


いつかのあいつの言葉がまた頭を過る。

本当にその通りだ。あの時あいつが言っていた言葉は、何一つ間違いでは無かったんだ。

結局うちのことなんて誰も捜してない。
見つけて欲しくて駄々を捏ねても誰も見つけてくれない。


最低辺の世界の住人。


唯一うちを見つけてはくれたのは、大嫌いなあいつだけ……。


またあいつの事を考えてしまっている。
もうあいつの顔なんて、あいつの声なんて思い出したくもないのに……。


でも神様は無情にも、その思い出したくない声をうちに届けた。


× × ×


「おい!相模!居るんだろ!ちょっと話がある!降りてきてくれよ!」



………………なんで?



ありえない。だってうちは自分の部屋に居るんだよ?
誰にも犯される事のないうちのテリトリーに、なんであいつの声が届くの!?

これは夢?幻聴?
ついにおかしくなっちゃったのかな、うち……。

「ちょっと!あなた何考えてるの!?警察に通報するわよ!?」

少なくとも幻聴なんかでは無い……。
お母さんの必死の叫び声がする。

じゃあ夢だ。うちまだ寝てるんだ。
不愉快だから早く目を覚まそう……。


「おーい!相模!聞こえたか?出来れば早く降りてきてくんねえかな?早くしないと本当に通報されちまうよ!」


夢のはずなのに目が覚めない。
これは、夢じゃ…無いの……?

だったらなんで……?なんであいつが家に居るの!?
なんでうちを呼んでるの!?

「いいのか!?学校一の嫌われ者の俺が不登校になってる奴の家に突撃して補導されたなんて噂が広まったら、さらにとんでもない笑い者になるぞ!」


あいつの声は、うちを挑発するかのように響く。

なん…で?
なにしに来たの……?

笑いにきたの?馬鹿にしにきたの?大嫌いなうちの無様な姿を眺めに来たの……?


ふざけんな……ふざけんな……ふざけんな………!



「……ふざっけんな……」



うちは扉を叩きつける勢いで開けると部屋を飛び出しその声の元へと向かう。

怒りで震える足をなんとか動かし階段を降りると……、あいつが……比企谷がうちを見据えてた。


× × ×


死んだような目でうちを見る比企谷におもいっきり平手を叩きつけた。

「っか〜……痛ってぇ……」

「なにしに来た!あんたなにしに来たのよ!?」

うちは頭が真っ白になっていた。

不登校になってから……ううん、本当はあの日からずっと。考えたくもないのに…、思い出したくもないのに…、それでもうちの中から追い出せずに居座り続けていた比企谷が、今目の前に居る。

怒りなのか戸惑いなのか訳が分からない感情が溢れてきて、目の前のこいつに罵声を浴びせた。

「なにしに来たって聞いてんのよ!なに?大嫌いなうちの無様な姿を笑いに来たの!?大嫌いなうちの憐れな姿を見物しに来たの!?………ふっざけんなぁっ!」

もう一発平手を叩きつける。
もうなにがなんだか分からない……。状況も。自分も。こいつも。なにもかも……。

「南っ……!」

お母さんが心配そうにうちを見ているのかも知れない。
でもそっちにまで気が回らなかった。

今のうちには……、涙で滲んで良く見えないうちの目には、左側の頬が真っ赤に染まった比企谷しかうつらない。

すると比企谷の口が歪んだ。あの時うちを罵った時と同じように。

「ハッ!自惚れんなよ相模。誰がお前を大嫌いだって?お前、嫌うほど俺に意識されてると思ってんの?」

「ちょっとあなたいい加減に…」

「俺はお前の事なんてなんとも思っちゃいねえよ。無関心だ。自惚れんな」


ムカつく……。ムカつくムカつくムカつくっ……!


でも何にも言い返せない……。たぶんそれが真実だから。


「………だったら、……だったらなにしに来たのよ!?うちを笑いに来たんじゃないなら、うちに無関心なら……、あんたはこんなとこまで何しに来たのよ……」


今にも泣き崩れそうなうちに比企谷はこう言った。


「仕事だ。相模、お前を救って欲しいと依頼を受けた」


× × ×


「うちを……?うちを救う……?」

誰も捜してもくれないうちを?
誰も見つけてくれないうちを?


虚ろな目で見つめるうちに比企谷は答えた。

「ああ。お前を救って欲しいんだとさ。結城と折澤がな」

由紀ちゃんと早織ちゃんが?
だって……、あの二人はうちを裏切ったのに……。うちを見捨てたのに……。


「…………帰って」


なんなの?意味分かんない…。
なに?救って欲しいって。
自分達は見捨てた癖に、人に頼んで救って欲しいってなに?

しかもよりによってこいつに。奉仕部に……。


「………帰って。帰ってよ。うちはあの子達に救って欲しいなんて頼んでない……。あんたなんかにも頼んでない。ありがた迷惑よ」


くだらない。これだけ取り乱して泣いて叫んで殴って。
ただちょっとした罪悪感から逃れる為に面倒ごとを押し付けた連中と押しつけられた連中ってだけの話じゃない。

うちは踵を返し部屋に戻ろうとした。


「……ったく。また逃げんのかよ。お前はいつもそうだな」

さっきまでの頭に血が上った状態なら、またカッとなって言い返していただろう。
でも真相を知ったうちは、なんかもう冷めてしまった。

「そうね。うちはあんたの言ってた通りの最低辺の世界の住人だからね。逃げちゃうのよ、嫌な事から……」

振り向きもせずにそう言い捨て階段へと進む。
早くその階段を上って安全なテリトリーに戻ろう。
もうなんにも考えたくない。


「……結城と折澤、すげえ後悔してたよ。泣きながら相模を救って欲しいって助けを求めてきたよ」

ハッ……なにを今更。
ただ罪悪感から逃げたいだけじゃない。

うちも逃げてきたんだから、あんたらも逃げ出せばいいじゃない。

「あいつらさ、お前が学校に戻ってきてくれるんなら、お前と一緒にクラスから、学校から孤立したっていいんだとさ」


…………………えっ?


「お前を見捨てちまった事は後悔しきれないくらい後悔してて、もうあんな気持ちになるのは嫌だから一緒に孤立するとよ」


「………う…そ…?」


階段へと進めていた足が止まってしまった。
動けずにいるうちに、比企谷が畳み掛けてきた。

「お前さ、俺の事大嫌いだよな。自意識過剰とかじゃなくそう思うわ。お前だったら他人の為に俺に頭下げられるか?」

「………………」

「嫌いな奴に頭下げるのって、マジですげえエネルギー使うと思うんだよな。しかも他人の為にだぞ?」

「………………」

「その上自分たちも一緒に孤立する覚悟を決めたんだ。元々ぼっちの俺には良くわからんが、結構すげえ事だとは思う」

「………………」

「そんな二人の依頼を受けちまったからな。俺もハイそうですかと簡単にお前を逃がすわけにも行かねえんだわ」


……わけ分かんない。裏切ったくせに……。見捨てたくせに……。
なんでそこまでするの……?


そしてこいつも……。

うちの罪を一人で被った被害者の癖に、仕事だからって普通こんなことまでする?

バッカみたい……。


「……………って」

声が出せず小さな声になってしまい比企谷には届かない。

「……あん?」

「………あがって」

「……は?」

「いいからあがってて、うちの部屋。…………階段上って一番奥の部屋だから、勝手に入って待ってて……」

うちは何を言っているんだろう?
なんでうち比企谷を部屋にあげようとしているの?

「いやいや待て待て……!なんでそうなる?意味が分からんのだが……」

「ちょっ!ちょっと南!?」

慌てる比企谷とお母さんを無視してキッチンへと向かう。
どうやら軽くパニックになってるうちは、お茶を入れに行くらしい……。

「……いいからっ。……今お茶入れてくるからあがっててよ」

比企谷の返事も待たずにキッチンへと進む。
遠くで「あ、いや……」とか聞こえてくるけど知ったこっちゃない。

お前もパニックになればいいんだ。


× × ×


キッチンでお茶の準備を始めるとお母さんが慌ててうちを止める。

「ちょっと!南!?なんで急に部屋にあげるの!?……大丈夫なの?あんな子部屋に入れちゃって……」

「大丈夫だよ。あいつぼっちでヘタレのどうしようもない奴だから、別になんにも出来ないよ」

「で……でも……。なんで急に…?」

「………分かんない」

ホントに分かんない。うちは何をやっているんだろう。

もうひと月も不登校やってて、ひと月ぶりに人と話したかと思ったら急に部屋にあがれだなんて。

今まで男なんて部屋に入れた事ないのに、よりにもよってなんで比企谷……?


「とにかく大丈夫だから……。お母さんは心配しないで?」

心配するななんてどの口が言うのか……。
不登校になってこれだけ心配させといて、さらにこんな奇行に走っといて心配するなだなんて、我ながら無茶苦茶だ。

心配そうにうちを見つめるお母さんを無視してお茶の準備をする。


あいつはコーヒーがいいだろう。
あいにく家には練乳なんか常備していないから、ミルクと砂糖を思いっきりぶち込んでやるか。


お茶の準備を済ませ、お盆を持って階段を上る。


ふと今の自分の格好を思い出して顔が熱くなる。
いくら頭に血が上ってたからって……

「すっぴんで髪ボサボサでパジャマのまま男を部屋に入れるとか……」

ホントになにをやっているんだろうか。


たぶん、ひと月ぶりに……、違うか。ひと月どころじゃ無かった。
不登校になる前から、家族以外と話をする事なんてしばらく無かったな。

とにかく会話が出来た事が思ってたよりもずっと楽しかったのかも知れない。

比企谷はあくまでも仕事で来ただけだけど、それでも……。

あとは由紀ちゃんと早織ちゃんの話を聞けたからかな。


だから、あんな奴でももう少し喋っていたいと思っちゃったのかもしれない。



部屋の前まで到着するとノックもせずに扉を開ける。
自分の部屋なんだから、そんなに気を遣ってあげる必要なんかないよね。どうせ比企谷だし。



扉を開けると、さっきまでの偉そうな態度はどこへやら、比企谷が緊張した面持ちで所在なさげに床に座っていた。








最後まで読んで頂きありがとうございました!

ついに一話以来のヒロイン(仮)の登場のうえに、相模視点でのお話でした。
この対面は一話で済ますつもりだったのですが、前話よりもさらに長くなってしまいそうだったので二話に分けました。

いつも書きながら話を作るので、ホントに添削の削が出来ないなぁ……と嘆くばかりです。


それではまた!







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