幌筵の小さな警備府   作:蛍火おぼろ

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新しい仲間が警備府に配属されました。

 執務室で秋窓はひたすら紙にペンを走らせる。その傍らには妖精が一人おり、気になる部分を指摘してきた。彼はしばし思考し、指摘された箇所に修正を加える。何度かそれを繰り返し、彼は大きく伸びをした。

 

「一度休憩するか」

 

 妖精が汗を流している事に気付いた彼は、ペンを置いて告げる。彼自身もちょうど休憩したかった為、都合がいい。妖精が茶の準備を始め、彼は時計を見る。当初の予定の時間が迫っており、さきほどの紙を引き出しに入れ、テーブルの上を綺麗にしとく。

 

「少し騒がしくなるから、落ち着くまで来なくていい。ゆっくりしとけ」

 

 急須を持った妖精は何度か瞬きすると、にっこりと微笑んで頷く。妖精専用の出入り口から立ち去り、それとほぼ同時に扉を叩く音がした。

 

「電、なのです。新しく配備された三人を連れて来たのです」

「わかった。入れ」

 

 返事をすると、扉が勢いよく開いた。電に似た容姿の少女が先頭に立ってふんぞり返っている。その後ろには慌てた様子の電と、セミロングの黒髪を後ろで一つ三つ編みにした少女が目を細めていた。正面に立つ少女は電と同じ艤装で、電と同型艦だろうかと推測できる。背後には水兵帽を被り、右目に眼帯を付けた少女は秋窓から目を離さずにいた。

 秋窓が入室者の様子を観察していると、先頭に立っている少女は秋窓を指差してニッコリと笑う。

 

「暁型三番艦の(いかずち)よ! かみなりじゃないわ! そこのとこもよろしく頼むわねっ!」

「元気が良いようで何よりだ。そちらの子は?」

 

 雷の返事に頷き、三つ編みの少女に問いかける。目を合わせられ、困ったように少女は微笑を浮かべた。

 

「僕は白露型二番艦の時雨(しぐれ)だよ。これからよろしくね」

「雷に時雨だな、了解した。後ろの方は?」

 

 前にいた三人が眼帯を付けた少女が見えるように、左右に散った。少女は前へ歩み、唇を動かす。

 

「五千五百トン型の軽巡洋艦、球磨型の木曾(きそ)だ。何かあれば言ってくれ」

 

 深緑の髪を揺らした彼女の声はとても頼もしく聞こえた。

 全員の挨拶が終わり、電が三人を連れて行く。御面を取ろうと雷が躍起になっていた事を除けば、問題なく顔合わせが済んだ。秋窓は茶でも飲もうとするが、肝心の急須がない。執務室のどこにもないのだ。

 

「いや、まてよ……。確か……」

 

 妖精が急須を持ったまま去ったのを思い出す。溜め息をつき、引き出しから紙を取り出した。そこには丸や三角の記号が描かれ、矢印で進行方向を示している。

 

「誰かが演習相手として来てくれるとは聞いたが、よりによってあいつとはな」

 

 彼は近い内に起きる演習の事で頭を痛めていた。それだけなら良かったのだが、相手が腐れ縁と分かるとつい熱が入ってしまうというもの。作戦を組み立て、歴戦の妖精にアドバイスを貰った結果が紙に書いた内容だ。ホワイトボードやモニターを使おうとしたのだが、妖精がどうしてもと言って譲らなかった事を思い出す。秋窓は紙を折って懐にしまい、妖精が戻ってくるまでに煎餅を出し始めた。

 

 しばらくすると妖精が戻ってきて、終わったのかと言いたそうに執務室を見回す。愛らしい行動に御面の下で笑みを浮かべてしまう。

 

「終わったぞ。茶にしよう」

 

 妖精は嬉しそうに頷き、秋窓も茶の準備に取り掛かる。彼は棚から煎餅を取り出して、妖精が食べやすい大きさに割っておく。あちらも茶を湯のみに注いでテーブルに置いてくれた。

 

「お前なら大丈夫か。顔が悪くても気にしないでくれ」

 

 事前に一言伝え、御面の紐を緩めて外す。顔を見た妖精は驚きを隠し切れないでいるが、怖がる様子はない。どこか安心した秋窓は、御面を置いて茶を啜る。

 

「ふむ、悪くない。もう少ししたら続きやるか」

 

 その言葉に頷いた妖精は、美味しそうに煎餅を口にして音を響かせた。それは聞いている秋窓の食欲までそそられる。釣られるように煎餅を手に取ると、香ばしい醤油の匂いが鼻をくすぐった。生唾を飲み込み、ゆっくりと粗食する。煎餅に染み込んだ味が口内で一気に広がり、彼を至福へと導く。

 

「美味い。今度皆に渡そう」

「司令官、少し聞きたい事が……」

「あ」

「……」

 

 秋窓は煎餅に夢中で扉を叩く音に気付かなかった。扉を開けた木曾は何かの資料と思われる紙束を持っているが、その視線は秋窓の顔を注視している。その理由は彼自身が嫌というほど理解していた。悲しい事に今は御面を外しているのだ。秋窓は震える手で御面を取り、装着する。煎餅と湯のみをテーブルに置き、冷たく言い放った。

 

「それで、聞きたい事はなんだ」

「あ、あぁ……。艦隊の編成についてなんだが」

「旗艦は木曾、お前に任せる。配備された艦娘情報を見たんだが、皆色々問題があるようでな、頼む」

 

 軽く頭を下げる秋窓に、木曾は困惑しながらも首を縦に振って執務室から出て行こうとする。

 

「木曾」

「なんだ?」

 

 秋窓は彼女が出て行く前に呼び止めた。顔をこちらに向けた彼女の視線はどこか暖かい。

 

「顔の事は口外しないように」

 

 御面で隠れた彼の表情を窺い知れない彼女は、手をあげて分かっていると一言呟いて立ち去った。

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