「――よろしくお願いします」
二人目が自己紹介を終えて座る。そして次の生徒が自己紹介のために立ち上がる。
さっきのヘッドホンの奴か。
「灰崎静夜です」
クールな感じだな。だが、それを除いても何か周りの連中と雰囲気が違う。ただ者じゃないな。
「以上です」
そして席に座った。クールというよりもボッチ体質なのかもしれない。
「え~と、それだけ? 他にも何かないの? 好きな女性のタイプでも良いけど」
何で一番最初に出てくるのが女性のタイプなのだろう? 普通は好きな食べ物とかだろう。
「ありません」
「うーん、それじゃあ詰まらないから先生とディープキスしよっか? 罰ゲームの意味も込めて」
最初から思っていたが、この先生は痴女らしい。よく教師が務まるな。いや、ネオは普通の人間と価値観が違うことが多い、という研究結果を聞いたことがある。それが原因かもしれない。
「じゃあ、先生!俺と――」
「ふざけないでください!」
男子生徒Aの台詞を遮って、灰崎の後ろの小柄な女子が立ち上がった。小学生にしか見えない。本当に高校生か?
「静夜お兄様は私のものです! 貴方如きとキスなんてしません!」
「「「…………」」」
クラスを静寂が支配する。この女は何を言ってんだ? お兄様ってことは兄妹ってことだよな。それで私のもの?
「なるほど。あのチビッ子はブラコンなのね」
空気を読まずに雨音が発言する。するとチビッ子が雨音を指差しながら文句を言う。
「ちょっと、そこの人! 背が少し小さいからって私を子供扱いするのはやめてください!」
少し? 平均を大幅に下回る身長だろ。後、ブラコンは否定しないのか。
「ごめんごめん。確かに君みたいな子を好きなマニアックな人もいるものね」
それで謝っているつもりなのか、この女。
「キィィー! ムカつきます! お兄様も何か言ってやってください!」
「こいつは馬鹿なんだ。許してやってくれ」
兄が立ち上がってから頭を下げて謝った。妹とは全然性格が違うんだな。本当に兄妹なのかも怪しいレベルだ。もしかしたら兄というのは近所のお兄さん的な意味合いかもしれない。
「ねぇ、喧嘩なら自己紹介の後でしてくれる?」
「誰のせいで――」
妹は反論を言うことが出来なかった。何故なら先生の腕が蛇になって妹を絞めているからだ。
先生は蛇のビーストか。ビーストはネオの種類で動物の力を使うことが出来る。例えば犬のビーストなら鼻が良い、みたいな感じだ。
ネオはもう一種類あって、それはネイチャーと呼ばれている。こっちは炎や水といった自然の力を使うことが出来るネオだ。
「……次は君の自己紹介だからよろしくね」
ゾクッ。
急に雰囲気が変わった。この先生には逆らってはいけないと俺の本能が言っている。さすが特別クラスの担任。性格は痴女でも実力はただ者じゃない。
教室の雰囲気もさっきまでと変わって重い空気になっている。
「……はい」
妹が怯えながら返事をすると先生は満足そうに解放した。
「皆にも言っておくけど、私は今の貴方達よりも圧倒的に強いです。意見は歓迎するけど、逆らうのは許しません。もし逆らいたかったら私よりも強くなりなさい。分かったわね?」
さっきの妹の発言とは違う意味で教室を静寂が支配する。
にしても蛇ねぇ。獲物を丸呑みにするところとか、先生のイメージと合うな。
「じゃあ、気を取り直して元気に自己紹介の続きをしよう!」
雰囲気が戻ってハイテンションになる先生。さっきの今で元気に出来るとか、どんな大物だよ、って話だ。
「私は灰崎雫。静夜お兄様とは血の繋がった実の妹です! 少し身長が低いのでたまに勘違いされるけど高校生です! もしお兄様に手を出す雌犬がいたら容赦なくぶっ飛ばします!」
さっきの今で元気に出来る大物がいた。しかも先生に脅された張本人だ。さすが特別クラス。こいつもただ者じゃないな。ただの馬鹿である可能性もあるけど。
何と言うか見栄の張った自己紹介だな。後、俺の予想は外れたか。
だが、この馬鹿のおかげで空気が戻って自己紹介が続く。
次は俺に絡んできたリーゼントか。しかも一番前の席。後ろの生徒からしたらリーゼントが邪魔で黒板が見えないんじゃないか?
「俺の名前は杉崎剛だ! 言っておくが、このクラスの誰にも負けるつもりはねぇ!」
「へぇ、自信満々ね。先生、そういうの好きよ。でも、先生にも勝てるつもりなのかしら?」
「今は無理でも近い将来、先生よりも強くなってるよ!」
そんなに自分の力に自信があるのか、ただの馬鹿なのか。俺的にはただの馬鹿であった方が都合が良い。強い奴に絡まれるなんて面倒くさいだけだ。
「ねぇ、あのリーゼントってさっき飛鳥ちゃんに絡んでいた奴よね? もしかして知り合い?」
雨音が顔を近付けて俺に聞いてきた。
「ああっ! てめぇ、何してやがんだ!」
何か雨音と近付くと文句を言うな、このリーゼント。
「もしかしてお前の知り合いか?」
「いや、違うよ」
だろうな。念のために聞いたけど、今までの反応から分かっていた。
て言うか、この流れ。さっきの雫とかいう妹と同じじゃないか。
「文句は後で聞く。今は自己紹介を続けよう」
「ビビってんのか、あぁん?」
ビビってるよ。お前じゃなくて、お前の後ろにいる蛇に。
「何、修羅場? 先生、そういうの大好物だけど後にしてくれる?」
「……はい、分かりました」
怯えながら席に座るリーゼント。さっきの威勢はどうした?
「でも、良かったわね。すぐに決着をつけられるわよ」
ん? どういう意味だ?
だが俺のそんな疑問は無視されて自己紹介は続く。何人かの自己紹介が終わって次は雨音だ。
「皆のアイドル雨音眞由美です! よろしくね!」
一回転して横ピースをする雨音。あざとい。男子には好かれても女子に嫌われるタイプだな。
そして更に自己紹介が続いて俺の番。
「西条飛鳥です。趣味は睡眠。多い時は一日のうち二十時間は寝ています」
適当に自己紹介をして座ろうとすると先生にとめられた。
「可愛い名前の男子がいるからどんな顔かな、って思っていたら先生好みの可愛い顔してるわね」
これはさっきとは違う意味で怖い。具体的に言うと貞操のピンチを感じる。
「ちょっと二階堂先生!飛鳥ちゃんは私のものよ! 先生でもこれは渡せないわ!」
雨音が勢いよく立ち上がって先生に意見する。
て言うか、いつから俺はお前のものになったんだ?
「さっき逆らうのは先生よりも強くなったからって言ったわよね?」
「さっき先生は意見は許す、と言いました」
激しく睨み合う雨音と先生。何、この展開。周りの視線が痛い。
「へぇ、何人も生徒は見てきたけど私にここまで口答えしたのは貴女が初めてよ」
この先生、見た目は若く見えるけど何歳なのだろう?
「まぁ、いいわ。その度胸に免じて今日は許してあげる」
そう言った先生の顔は嬉しそうだ。自分に逆らう生徒が嬉しいのか? この先生も何を考えているのか分からない。
二話終了。
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