魔法科高校と"調整者"   作:ヤーンスポナー

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区切りが良い所までは少しばかり間隔をつめて投稿しようかと思います。





第二章十九話~哀願~

【Sunday,December 30 2096

 Person:@;g>.=er[ "Tatsuya,S" 】

 

 

 

 

 

 "彼"の護衛により、本来想定された妨害の殆ど全てを撥ね退けて本家に着く事が出来た。

 唯一足止めをされたところも本家の直ぐ傍で新発田が直接向かってきただけであり、簡単に制圧が出来た。

 

 本来は、本家にたどり着くという目的を完璧に達成している。

 

 

 しかし、今の時点で状況を鑑みた場合は悪い方向へと向かっていた。

 

 

 黒羽の、そして新発田の発言と行動を見る限りではこの他に真柴と静の二つの分家が敵対している。一方、此方に味方しようとする分家は皆無だ。

 

 本来は、居なかった訳ではない。深雪の話では津久葉が"恩を売り"に来た様子ではあった。だが、そのチャンスは完全に無くなった。此方が圧倒的な勝利を収めたばかりに、恩を売る余地がなくなってしまったのだ。

 

 となると、津久葉でさえ敵方に合流する予想が立てられる。元々敵か味方か分からない者に頼るつもりは無かったとは言え、良い状況とは言えない。

 

 

 この状況下で、味方にすべき勢力は二つ。四葉本家と、"彼"の勢力。

 

 

 どちらか一つの場合、確実に依存度が高くなる。現時点ではまだ独立魔装大隊の力も頼りにはなるが、四葉分家を相手取る場合は物足りないだろう。

 

 幸い、今回の件により大幅に時間を稼げたはずだ。四葉真夜の意向次第ではあるが、まずは一段落がつけるだろう。

 

 

 

 

「それでは、聞かせて頂いても良いでしょうか」

 

「いいだろう。だが、聞けば後悔するぞ」

 

 到着から一日後に、黒羽貢と文弥、そして亜夜子が本家に到着した。幸い彼らより早く着いていたため、時間が空けば伝えてほしいと述べていた。

 

 そして、既に日も暮れ夕食も済ませた後に貢から呼び出された。

 

「聞かずに後悔するつもりはありません」

 

 そう述べた事で返答とし、貢の話を待った。

 

 

 

 何てことは無い、唯の彼らのセンチメンタルな罪悪感の吐露に過ぎなかった。

 

 "彼"であれば、力を持つことの意味も分からずに手を出した愚か者と笑うのだろう。

 

 どちらにせよ、過ぎた過去の話ごときで何年も煩わせてくれた事に対する呆れしかなかった。

 

 

 

「・・・よく分かりました。あなた方の理解しがたい行動の裏にあった動機がセンチメンタルな罪悪感に過ぎなかったという事が」

 

 そう、端的に評価する。相手の感情を逆撫でするような言動を取ったのは、単純に気を配る"価値"がないと思ったからに過ぎない。

 

 

 しかし、貢は感情を荒立てる事はなかった。

 

 

「そうだな、君にとっては下らない話だろう。だが、だからこそ、私はこの罪を子供達に背負わせる訳にはいかない。少なくとも、君を真夜さんの手に渡す訳にはいかない」

 

 

 この発言は、中々にリスクがあるものだ。FLTでの時とは異なり、ここには何処に四葉真夜の目があるのか分からないのだから。

 

 そして、それは貢自身も分かっているはずだ。

 

 

「・・・今の状況を理解していると言う前提で聞かせて頂きます。何故、そこまで拘るのです?」

 

 

 そう端的に聞くと、まるで枯れた老人のような笑みを浮かべながら貢は零した。

 

 

「簡単さ。出来る事なら、私は自分の子供達には幸せになってほしいというだけだ」

 

「・・・と言うと?」

 

「分からないか、分からないのだろうな。恐らくは、それも私達の罪だ」

 

 貢は更に何かを言い出そうとし、一旦首を振った。

 

「いや、私から言うべき事では無いな。だが、これだけは敢えて言わせてもらう。今ならば、今日の内ならばまだ間に合う。どうか、考え直してはくれないか。私も、自分の手で娘の幸せを摘み取りたくはない」

 

「仰る意味が分かりかねます。亜夜子は今回の一件とは無関係でしょう。そして、俺がどう振舞うべきかを最終的に決める事ができるのは深雪のみです。何を言われようと、意思を変えるつもりはありません」

 

 

 

 そう言い切った事で、ようやく貢は諦めた様子だった。

 

「・・・分かった、もう帰り給え。どうしても無理であるのならば、私にも、もう用は無い」

 

 貢がハンドベルで呼んだ家政婦の案内の下、玄関まで向かう。

 

 

 

 今回の様子を見ると、理由はさておき黒羽貢が持ちかけてきた話の動機はきわめて個人的な物であるのは確かだ。それも、分家間での企みに関わるものでさえない類の。

 

 そして、彼自身が焦りや苛立ちを見せたのもその"個人的動機"が基にしかなっていない。

 

 

 詰まる所、黒羽や新発田、真柴や静の目的は既に達成されているのではないか?

 

 

 もしや、と思う物はあるが確証が無い。本家が、四葉真夜の意志がまだ分からない以上は結論を出す事が出来ない。四葉真夜自身にそれを防ぐ手立ても最早ない。それに、達成可能な条件もかなり限られる。荒唐無稽ではあるが、もしそうであるのなら。

 

 

 既に何もかもが手遅れになり、

 

 

 

 泥舟と化した四葉本家に頼る事は出来なくなるだろう。

 

 

 

 




結構ぽろぽろとお兄様にヒントを出しすぎた感。ここまで来たら流石にお兄様も可能性は考慮するだろうかなと。しかしそれでもここまで来た時点で間に合いやしませんがね・・・。

お兄様の行動を鑑みる限り、思ったよりお兄様の自身に対する評価は低いです。同時に、彼自身幾らなんでも「妹と結婚させる為に戸籍を偽造させる」などと言う荒業までは想像できない。故に既に手遅れかなと。


何のことかって、最早分かりきった話かなと。

次回、オリ主回。馬に蹴られるのが一条とは限らない。それが本人達の意思かは別として。

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