【Monday,December 31 2096
Person:operator4】
「全く、都合は分かるがこの一室から出れないとは」
「でもここで達也さん達に見つかりたい訳ではないでしょう?」
此方のちょっとした愚痴に対して、真夜がそう返してくる。
先の作戦の後、例のごとくパラシュート降下で真夜中に四葉の村へと降り立ち、秘密裏にこの部屋に案内されるまでに一日が既に経過していた。
とは言え実際にこの部屋で一日を明かした訳ではなく、丁度今朝方に案内された形になる。
恐らくは使用人が直ぐに向かえる為なのか、備え付けられているモニターには食堂の映像が映し出されていた。
「状況と様子を見る限り、この食堂でネタ晴らしをすると言う事で合っているのか。それとも、先に聞かせてくれるのか?」
そう聞いてみると、真夜はわざとらしく笑った。
「楽しみは後に取っておいた方がよいでしょう?・・・でも、あなた方にならさわりだけは教えてもいいかしら」
そう口にした後、まるで誇るように述べてきた。
「今日、この食堂で深雪さんを次期当主に指名するわ。そこに後一手を加えれば、達也さんは絶対に私達に、四葉に逆らえなくなる」
「甚だ不安だな。そもそも妹さん自身が四葉に忠誠を誓ってる訳ではない」
「えぇ、"本来なら"そうでしょうね」
まぁ、本当に注視すべきはそこではないのだが。
敢えて茶番に乗りつつ、此方の意図を口に出す。
「まぁ、万が一お前達が思惑通りに司波達也を手中に収める事が出来たら、お前たちのことを認めよう。尤も、我々は全く別の答えを手に入れてるがな」
「あら、"鴉"が今更常識や倫理観に縛られる筈も無いでしょうに」
そう答えてくるが、この調子では手駒にする価値さえない集団でしかない。
手足は問題ないのだ。四葉分家の"本命"を思えば、よくここまで日本社会の"意志"を捉えた策を巡らせたものだと思える。仮に四葉本家が真に四葉分家を抑える事が出来たならば、四葉真夜の思惑通りになっただろう。
"鴉"は、四葉を愛し子として認めただろう。
だが、最早不可能だ。
「まぁ、ゆっくりとコーヒーでも飲みながら見させてもらうさ」
「えぇ、楽しみにしていて下さいな」
そのやり取りを最後に四葉真夜は部屋から出ていく。
丁度、食卓を囲う人々が揃い始めている様子が見えた。
モニターの向こうでは食卓を囲みながら話す様子が見える。
無論、此方の分は無しだ。元々頼んでも居ないし、長居する必要性も感じられなかった。
丁度、装備を整えコーヒーをもう一杯淹れ終えた所で次期当主に関する話が聞こえてきた。
この中の話で意外だったとすれば、ここで四葉分家の面々が次期当主候補の地位を返上し、司波深雪を次期当主に推した事だ。
本来は分裂しても良い筈だし、その流れだったろう。しかし、彼らは最後まで"四葉"を捨てるつもりは無かった様だ。
何より、最終目的である"司波達也を四葉の中枢から遠ざける"と言う点では成功している。彼らが持つ"彼"に対する謎の嫌悪感が四葉真夜や四葉深夜に関連する何かに起因するのであれば、それらから遠ざけるだけで全てが済むのだから。
最後の確認を取るために、コマンドを開く。
〔operator4:確認だ。"司波一家"の現在位置と状況を教えてくれ〕
〔moderator10:現在"司波龍郎、及び司波小百合"は七草への亡命を成功させました。四葉分家の工作員も発覚する事無く離脱に成功しています。現在は七草が管轄する旅館に宿泊しています〕
〔operator4:よろしい、想定どおりだ。総員は予定通りに情報収集に励め。"彼"が完全に孤立しかけた状況を狙い、"我々"が抱き込む〕
〔moderator1:了解。大きな事象の兆候が見え次第連絡します〕
それを最後にコマンドを閉じる。
もう、結果は決まってしまった。
この場面になったら、流石に"彼"も一定の可能性に気がついているだろう。"彼"の反応を見るのも一興かもしれない。
そう思いなおし、彼らの話を区切りの良いところまで見る為に座り直す。
そして、モニター越しで見る限り、食堂の中に四葉真夜と
テーブルが直され、幾つか言葉を交わした後に四葉真夜が切り出す。
『さて・・・二人に残ってもらったのは、とても大切なお話があったからです。
当主ともなれば、結婚相手も自分の一存というわけにはいきません。これはさっきもお話したこのなのだけど、その話の前に・・・達也さん。
いきなりこんな事を言われても信じられないかもしれないけど・・・深雪さんは、貴方の実の妹ではありません』
その話を切り口にして、
曰く、自身の冷凍保存されていた卵子を用いて司波深夜を代理母として生ませたとか、自身の息子であるが故に妹さんの実の兄ではないとか。
本人は、裏工作を用いればDNA鑑定でさえ誤魔化せると思っているらしい。
下らない。結局のところ、事実とは他者にとって都合の良いように改変されるものであり、正規の手順を踏む必要が無いと言う事は自分自身が証明していると言うのに。
『それで先ほどのお話ですけど・・・深雪さん。貴方が四葉家の次期当主となる以上、残念ながら自由な恋愛は認めてあげられないわ。
・・・明日の次期当主指名と同時に、貴方の婚約者を発表します。その相手は、達也さんです』
そう四葉真夜が言い切った所で、"彼"の表情が変化する。
まさに、"絶望"だろう。最も手の出しようが無く、最も追い詰められるのは彼ら兄妹なのだから。
『・・・"叔母上"。理由は、後ほど教えていただきます。しかし、仮に叔母上の目的が俺と深雪を婚約させることだとしたら、既に手遅れかと』
『・・・どういうこと?』
その言葉と同時に、葉山の端末に通知音が鳴る。"彼"や、妹さんの端末にも。そして、此方の端末にも同様に。
部屋を出て行き、端末を開く。
そこには、全てを破滅へ導きかねない知らせが乗っていた。
『日本魔法協会広報
12月31日に、七草家は国立魔法大学付属第一高校の生徒である司波達也の御両親に対して"七草真由美と司波達也との婚約"を申し入れ、同日18時に司波達也の父である司波龍郎はその申し入れを受け入れる事を七草家、及び当魔法協会に対して通達しました。
魔法協会はこの婚約を支持し、この事がこれからの魔法師の発展に寄与する事を願うと共に祝福のメッセージとします。
12月31日 日本魔法協会広報部』
と言う事ですべてがぶっ壊れました。
本編でも述べるとは思いますが一応ネタ明かし。
大前提として、四葉真夜の思惑を見抜けたものは誰一人としていません。一方、このままではお兄様が四葉の中枢を握る人物になる事を恐れた四葉分家は七草に渡りをつけます。
目的は、七草真由美を"司波達也に嫁入りさせる事"です。
公式に次期当主が発表されるのが元旦と分かっていた以上、たとえ一日しか差が無かったとしても先にこれを達成してしまえば四葉分家の目的は達成されてしまいます。寧ろ、次期当主が事前に指名された事も目的通りでしょう。
ここでのキーポイントはお兄様が七草家に婿入りするのではないと言う事です。あくまでお兄様を"四葉達也"ではなく"司波達也"と言う立場に固定させる事で、お兄様は十師族の権力からは遠ざけられてしまう。また、他家も巻き込んでいるためそう簡単に覆す事はできない。
ここでのキーポイントは一応は親権を持っている司波龍郎と司波小百合になります。たとえお兄様と妹さんが婚約しなくとも、妹さんが次期当主となった以上はお兄様も権力を手に入れます。今までの扱い方からして、御両親は唯でさえお情けで生きながらえていた状況が更に悪くなります。と言うか四葉真夜の思惑を考えると抹殺まで考えられます。
そこで、四葉分家は四葉本家の目を誤魔化しつつ二名を七草に亡命・・・つまりは保護してもらった訳です。転職先はきっと確保されているでしょう。皮肉にもこれのお陰でFLT内でのトーラス・シルバーの地位は一気に向上するでしょうが、本人にとってはそれどころではないでしょう。
唯一述べるとしたら、こんな外道極まる謀略を巡らせた四葉分家連中と七草家当主は確実に地獄に落ちるでしょう。特に黒羽貢。
まぁもれなく妹様発狂コースになりかねませんが、来るべき一年までは平和なんじゃないかな。だって当人の意志もないわけではない・・・しね?
次回、未定。どっちにしても作者にとっては愉快な事になります。