重い瞼を開けると窓には雨が残した水滴が大量に付いていた。
もう梅雨だなぁ、と思いながらタオルで水滴を拭き取る。
今は6月。梅雨の季節真っ盛りなのである。
漫画がたくさん入った(見る限り小説などはない)本棚からDRAGON BALLを手に取る。
俺は子供の頃からDRAGON BALLの大ファンだ。
誰もが一度はやった事があるであろうかめはめ波の練習や気のコントロールなんかの遊びを修行と称してやっていた事を懐かしく思う。
だが今や俺も27歳、子供らしさはとっくに抜けた。
結婚はしていない独身だ、両親がお見合い相手を見つけてきてくれるが何故かいつも話が噛み合わなくなるのだ。
神様の悪戯かよ、なんて厨二病な事を考えたりもした。
俺はDRAGON BALLの15巻をパラパラとめくりながらトイレのドアを開ける。
「うおっ!?」
なんじゃこれは!
俺の目の前には近未来的な機械がたくさん詰まった部屋が広がっている。
どうしたんだろ、ここはトイレだったはず……。
俺模様替えなんてしたっけかなー。
なんて現実逃避を図るがDRAGON BALLの漫画をポロリと足の上に落として猛烈に痛かったので現実らしい。
どういう事だ、床を外して隠し扉を開けると別世界って言う漫画的な展開ならまだ分かる。
だがなんでトイレに繋がっている!?
俺トイレ行きたいんだぞバッキャロー!
俺は一旦トイレのドアを閉め、隣の部屋のオジさんにトイレを借りた。
すんごいタバコ臭かったが我慢した。
オジさんも「トイレ壊れちゃって」と言うと何にも疑わずにトイレを快く貸してくれたのだ。
トイレの上の台にアニメの水着姿のフィギュアが飾ってあった事には触れちゃいけないと思った。
「本当ありがとうございます、助かりました。それじゃ」
そう言って足早にオジさんの部屋を去る。
さーて問題はあのトイレだなー。
いやさっきのはトイレ我慢しすぎてたせいでの幻覚かもしれない。
俺はさっきのは幻だと言い聞かせて扉を開けた。
即刻に閉めた。
どう見ても近未来的空間でしたありがとうございます!
やっぱ俺の頭疲れてんのかなぁ。
いやでも行ってみる価値はあるかもしれない。
俺は何かあった時用のためにケータイを片手に持ち、いざ行かんとその中に足を踏み入れた。
「……誰もいねぇ」
殺風景な場所だな。
俺はキョロキョロと辺りを見回しながら探索した。
ウィーン……。
「わ、自動ドアか、ビビったぁ」
ヒヤヒヤさせるぜ。
そう思いながら俺はテーブルの上に置いてある奇妙な服と何やら俺の密かな厨二心をくすぐるものを見つめた。
似ている、にすぎている。
そうかこの家の人はDRAGON BALL好きなんだな。
だからこれはスカウターと戦闘服か。
コスプレイヤーさんね、はい理解した。
つかコスプレイヤーさんじゃなかったら俺ヤバイっつのね!
「おい貴様」
「ひ、ひおう!?」
突然の声にバッと振り向く。
だが誰もいない、俺は「気のせいか」と呟くと下を向いた。
その直後俺の足には凄まじい程の衝撃が走っていたのだ。
俺はじんじんと痛む脛をギュッと抱えながらプルプルと震えた。
何だろう、まるで家の壁に思いっきり蹴り入れた感じだわ。
ヤバイ例えまで分かりにくいな。
「殺されたいのか貴様」
「と、トンデモない……」
俺はまだ痛む足をさすりながら顔を上げた。
その瞬間俺は戦慄した。
「べ、べじー、ベジータ!」
「様をつけろバカ」
フン、と鼻であしらう。
間違いない、絶対にベジータだ。
スゲェ目の前にベジータいる。
その証拠には先程に俺の脛を叩いた尻尾がユラユラと揺れていた。
ベジータの服装は戦闘服にスカウター。
スカウターをまだしている所を見ると、ここはフリーザの基地であろう。
しかも初登場くらいの若さだ、まだフリーザは死んでないということだ。
くそぉ、じゃあナメック星編はまだなってないか。
終わってくれれば良かったのによぉ。
出来れば魔人ブウ倒したその後日とかさ、もっとあっただろ!
「とっとと戦闘服に着替えろ、戦闘力2100のザコめ」
「はい……」
夢じゃない。
俺はDRAGON BALLの世界の住人に憑依しているんだ。
この身体の持ち主には悪いがこの身体貰います。
俺の身体自由に使っていいですよ。
俺は脳内をぼーっとさせて、オロオロとした様子で戦闘服に着替えた。
「な、ちょっと待て! なんだそれは」
「え、どうしました?」
ベジータの見つめる先は俺の尻。
……俺の尻ぃ!?
あれれーベジータってノーマルだよな?
ブルマと結婚したし子供も出来たしさ。うん。
俺もベジータの見つめる先を見る。
俺は目を見開いた。
尻尾がある! なんで、まさかサイヤ人なのか!?
いやいや他の種族だろう。
尻尾だけが生えている宇宙人も結構いるだろう。
俺は見たことないが。
というか俺の戦闘力が2100って高くね?
普通にサイヤ人の平均なんですが。
「何故だ! サイヤ人は俺たち以外にはもう居ないはずだ。話せ」
そう言うとズンズンと俺を壁に追い詰めるベジータ。
所謂今巷で話題の壁ドンだ。
生憎だが俺は男にされても嬉しくないしドキドキしないぞ。
どうせなら綺麗なおネェさんにされたいな、って嫁さんに怒られちゃうや。
そんな現実逃避もすぐ終わる。
俺は何か分からないがとにかく凄かった。
有りもしないハッタリをペラペラと喋り、ベジータを納得させたのだ。
こんな嘘言いまくって大丈夫かな、バレたら殺されそ。
そんなことを思いブルルッと身体が震えた。
「すいません……」
「ふん、早く行くぞ」
どこに行くんだよ。
その言葉をゴクリと飲み込みながらベジータの後を追った。
小さいなぁベジータって、悟空との身長差でも小さいって事はわかってたけどさ。
俺が181cmくらいだからベジータとは23cm差だな。
俺はひっそりと悟空に身長と頭脳だけは勝っているなと思って少し笑った。
ベジータの戦闘力をコッソリと見てみる。
18000か……やっぱスゲー強いんだよなベジータって。
俺の戦闘力は2000程度らしい。
でも亀仙人よりは強いよな? 多分130? くらいだったと思うし。
それからポチポチとスカウターを押し、おもしれーと遊んでいた俺だが一気に恐怖に落とされた。
突如ベジータが止まる、その扉の向こうにはトンデモない戦闘力の奴らが三人。
53万、フリーザだ。後の二人はザーボンとドドリアか?
ベジータなんというところに俺を連れるんだ!
殺す気!? 俺に何の恨みがあるんだよお前は!
俺たち初対面だろぉ……?
「入れ」
「はひ……」
頭が混乱しまくって呂律が回らない。
媚びなきゃ殺される! 忠誠しないと消される!
ボンっされるううう!!
「フリーザ様、新人を連れてきました」
「ほう、貴方がパプリさんですか」
「はい……」
とは言ったものの俺の名前ってばパプリって言うの?
やっぱサイヤ人なのか……。
純血のサイヤ人の名前って野菜の名前をもじってるからな。
多分俺の名前はパプリカからきてるんだろう。
にてもなんて単純な名前なんだろ。
そしてコイツは新人らしい。
だから挨拶しに来たのか……。
つかフリーザとサボーンたちを見て震えが止まらない。
でも堂々としてる様に見せる、だってナメック星でおどおどした部下殺っちゃってたもんな。
フリーザってばオドオドしてる部下嫌いとか言ってたし、あぁ恐ろしや。
そしてドドリアとザーボンも戦闘力2万以上。
せめて俺がスーパーサイヤ人であったならばぁ!
2000×50で10万は行けるというのに……。
フリーザは品定めをする様に俺を舐めるように見る。
ゾクリと背筋が凍りついたみたいだ。
俺の表情と身体は普通の状態を保っているが俺の精神はどうにかなってしまいそうだ。
これが本当の殺気というものなのだろうか?
「戦闘力2000程ですか……」
「ほぅ」
「弱ぇーなぁ」
止めろ今俺を見るなあぁぁ!
死ぬ、どうにかなってしまいそうだ。
俺は「初めましてフリーザ様、パプリです」と軽い自己紹介をする。
「ん? お前なんだそれ!!」
「え?」
ドドリア……さんの見つめる先はまたしても俺の尻。
サイヤ人と言うべきか、いやでもサイヤ人ってここでは嫌われてるからバラさない方が良いかな。
「コイツも我々と同じサイヤ人です」
「なっ」
ベジータ軽々話すなよおぉぉお!!
個人情報だぞ! これで俺の居場所は消えた……。
「生き残りがまだ居たとは驚きですねぇ」
「ベジータたち以外にもまだ居たとは……」
「信じられねぇなぁ」
あれ? 以外にも冷静な三人。
でも良かったー殺されなくて済むな。
俺は心の中でほっと溜め息を吐いた。
「まぁ良い、それではさっそく任務を与えましょう。ザーボンさん」
「はっ、この資料に乗ってある惑星イメッガを地上げして来なさい」
「はい分かりました」
「分かりました」
どっさりと積まれた資料を持ち、ベジータと二人でフリーザの部屋を去った。
っあー死ぬかと思ったぞ、ようやくフリーザのいない空気を吸えるぜ。
「おい貴様」
「パプリです」
「……新人」
「パプリです」
「…………パプリ」
こんな事を言っては殺されてしまいそうだが、ベジータは好きなキャラでもかなり上位だ。
そんなベジータに名前を呼ばれたい!
つっても俺の本名じゃないけどね、でもこれからそれが名前だから。
つーか考えてみればもう嫁さんやお袋達には会えないんだよな。
ちょっとホームシックになったりして、はは。
……考えたら悲しくなって来たな。
「何ですか?」
「お前に俺の部下を紹介する、一緒に地上げに行く奴らだ。挨拶しておけ」
「は、はい!」
それってナッパやラディッツの事だろうか。
というか仲間じゃなくて部下なのねー。
ベジータらしいなぁ。
長い長い廊下を歩く。
沈黙が続いていく、お願いベジータなんか喋って!
気まずいだろなんだこの雰囲気、苦手だ。
「ここだ」
「失礼しまーす」
ウィーン、扉が開く。
なんと言うサイバー感、厨二心をくすぐるぜ。
だって真ん中から開くんだもんな。
エレベーターとは違う感じだし。
俺は即座に椅子に座る二つの大きい影に目がいく。
一つは膝まで伸びた長い髪の毛のラディッツ。
もう一つはかなりの巨体でムッキムキのハゲ、ナッパ。
……でけーな二人とも。
と言うか純血のサイヤ人は髪が不気味に変化しないんだよな。
ラディッツの髪はよくギネさんの体内の絡まなかったなぁ。
そしてナッパな生まれた時からハゲなのか。
「誰だそいつ」
「ベジータ、なんだそいつは?」
ひゃーすっげぇ二人とも喋ってる。
ラディッツは特に出番とか少なかったからなぁ。
ある意味新鮮だ……。