「フッ!ハッ!」
ギィン!ギィン!
神聖ブリタニア帝国、そのアリエス宮に金属音が幾度と無く響く。
金属音の正体はレイピアである。
レイピアを握るのは二人の男、しかし片方は男と呼ぶにはあまりにも幼すぎる見た目をした少年、もう片方は成熟し、鍛え上げられた肉体が服の上からでもわかるほどの大男だ。
刃の無い練習用の模擬剣としての役割しか持たないレイピアで斬り合う二人、だがその様子は異端であった。
鍛え上げられた肉体を持つ大男が、幼い子供を追い込もうと鋭い突き少年に突き立てんと放つ、少年はそれを剣先だけ少しだけずらして軌道を変え、逆に突きを放ち大男を吹き飛ばした。
「見事だ!アールストレイム【君】!」
吹き飛ばされた大男は受け身を取り、流れるような動作で立ち上がる、少年はその動作に一切の隙が無いことを知っていた。
「ありがとうございます、ゴッドバルト卿」
模擬レイピアを鞘に戻して頭を下げる少年。
彼の正体はもうお分かりだろうが、昨今人気のチート転生者である。
転生によってこの【コードギアス】の世界にアールストレイム家の長男として産まれた彼は、妹のアーニャ・アールストレイムと共にアリエス宮に行儀見習いとして来たのだが、彼の目の前にいる大男、忠義の男【ジェレミア・ゴッドバルト】に剣の才能を見抜かれ、ジェレミアの主人である【マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア】に説得をし、こうしてジェレミア自身が稽古をつけている。
彼はジェレミアのこの行動に感謝している、もともと前世でも高い身体能力を遺憾無く発揮していたのだが、行儀見習いなどという使用人のようなことをしているのは彼にとって面白く無かった。
別に誰かのために尽くすというのが嫌なわけでも、奉仕するのが嫌なわけでもない、現に、彼は純粋にマリアンヌを敬愛するジェレミアに惹かれており、国では無く人に忠義を尽くすのも悪くないと思っている。
ではなぜ面白く無いのか、それは窮屈だからだ、行儀見習いというアリエス宮の中で主人に付き添い掃除したり料理をしたりなど、月斗にとっては別になんの苦にもならない、だが彼は前世では高貴な家の出であり、超常たる存在の剣となり盾となり死んでいくのが本望であるという家訓の家で生まれ、教育を受けてきた。
そんな彼が剣にも盾にもならずただただ使用人として過ごすなど許せるはずがない。
実際、行儀見習いとしてアーニャと招待された時も一度断っている。
だが物は試し、アリエス宮に行くとどうだろう、忠義に厚いジェレミア・ゴッドバルト卿という素晴らしき人格者がいたのだ、行儀見習いなど知ったことか!と言わんばかりに彼はブリタニア式の剣術をジェレミアに教えてもらい、メキメキと上達している。
ジェレミアから剣を教わり早くも一年が経っていた、ジェレミアとの勝率は五分五分を保っている。
ひとえにジェレミアの才能と努力、そして勘の良さがあって彼は未だに勝率が上がっていない。
かというジェレミア本人は、彼の才能に歓喜しつつ、いずれは自らを超え、マリアンヌに尽くして欲しいと思っている。
そんな美しすぎる魂を持つジェレミアに、彼の根底にある忠誠心は、完全に向いてしまっており、ジェレミアの尽くしているマリアンヌにも同様の忠誠を捧げている、が、原作知識を持っているため同時に警戒している。
他人が見れば本物の親子のような忠義の塊のような二人は、ほとんどの時間を一緒に過ごしていた。
ツキトside
初めまして、ツキト・アールストレイムです、レイピアで素振りしてますけどお気になさらず。
いきなり転生だと言われ原作知識を与えられてアールストレイム家の長男、アーニャの兄として生まれました。
大穴で枢木だと思っていたため驚愕、まさかのブリタニア帝国アールストレイム家に生まれました。
かわいい妹のアーニャと共に行儀見習いとしてヴィ家に来ましたが、そんなことはどうでもいいんです、ゴッドバルト卿はどこですか?ゴッドバルト卿を出しなさい。
「む、おはようツキト!朝から精が出るな!」
この爽やかで清潔感あふれる忠義の塊のような男の人は私の師、ジェレミア・ゴッドバルト卿です。
「おはようございます、ゴッドバルト卿」
「さて、準備運動は…………要らぬようだな、それでは始めようか」
ゴッドバルト卿がレイピアを抜き構えた、私もそれに従いレイピアを抜いた。
このレイピアはつい先日剣の腕を認められマリアンヌ様より贈られた剣です、二本が対になり二刀流で使うものだと聞いています、大戦中のマリアンヌ様も二刀流で戦ったのだとか。
「ふむ、やはりその剣は美しい、だが、それゆえに戦いには向かないな、こちらのレイピアを使いたまえ」
そう言ってどこからかレイピアを取り出して私に差し出すゴッドバルト卿、それを受け取り抜刀する、刃がついた真剣だ。
「では、始めようか」
「第2260回目の対戦、勝たせてもらいます」
「フフフッ、1131勝目は私が貰い受ける」
「いいえ、1130勝目は私のモノです」
「ふっ、では、いざ尋常に………」
ゴッドバルト卿がレイピアを構える、あれは本気の構え!
「正々堂々と…………」
ならばこちらも、持てる全力を持っていくのみ!
「「勝負!」」
「先手必勝!」
水の動きをイメージして流れるように連続の突きを放つ、すぐに見切られ避けられる、今度はゴッドバルト卿が深く踏み込んでの突き、辛うじて避けた先にゴッドバルト卿の剣が走る。
受け流して突きを放ちバックステップで距離をとる、ように見せかけて低姿勢から上方向への斜めの突き、ちょうどゴッドバルト卿の胸を貫通して絶命させることができる必殺の一撃。
しかしそれすら避けられる、そしてゴッドバルト卿が距離をとったところで拍手が聞こえた。
「ん?」
あの黒のロングヘアーは…………。
「「マリアンヌ様!」」
いつの間にかアリエス宮の主、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアがいた、私はゴッドバルト卿と共にレイピアを鞘に収め跪く。
「邪魔してごめんなさいね、でも真剣での試合は危ないわよ」
「申し訳ありませんマリアンヌ様!」
「それとツキト、また腕をあげたわね、二、三日見てない間にそうとう強くなったわね」
「ありがとうございます!」
微笑みながら褒めてくるマリアンヌ。
「ああ、ジェレミア、ちょうどさっきコーネリアにも言っておいたのだけれど、今日の警備は外れてもらうわね」
「なんですと!?」
ゴッドバルト卿は驚きで顔をあげた、私は無反応だった。
「聞こえなかったかしら?今日の警備は外れてちょうだい」
微笑みながらそう言うマリアンヌの目は笑っていない。
「い、イエスユアハイネス!」
ゴッドバルト卿もこの威圧感には頷くしかなかった。
「ありがとう、それじゃあ頑張ってね、二人とも」
そう言ってマリアンヌは立ち去っていった。
「私が何か失礼なことを働いてしまったのか?………はっ!?もしやツキトに行儀見習いとしての仕事をさせないから………」
ゴッドバルト卿が珍しく混乱している様子、まあ、いきなり【お前今日休んでいいよ】って言われたら、どうやって過ごそうか迷うことはあるでしょう。
でも相手は皇族、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア、そこらのコンビニのバイトなどとは訳が違う。
「ですがゴッドバルト卿、マリアンヌ様は賛成していましたが…………」
私は訳を知っていますけどね。
今夜はV.V.がマリアンヌを暗殺に来る日、アーニャがマリアンヌのギアスにかかってしまった原因はV.V.がマリアンヌを死の淵に追いやったことにある。
ならマリアンヌが殺される前にV.V.を殺せばいい、そう結論を出したところでぶつぶつと警護を解かれた理由を考えるゴッドバルト卿を連れてアリエス宮内に入る。
相変わらず無駄でよくわからない趣味全開の内装…………では無く、気品ある雰囲気で非常にシンプルな風景だ。
「あ、お兄ちゃん、おかえり」
出迎えてくれたのはちょうど手すりを拭いていたアーニャだった、かわいらしい見た目にメイド服が合わさり最強に見える。
「ただいまアーニャ、しっかりやっていたか?」
「うん、あと少しでおわり」
テンションが低いためか淡々とそう話すアーニャ、しかし兄だからこそわかる、アーニャは少しだけ嫉妬している。
ゴッドバルト卿とほとんどの時間を過ごしている私に嫉妬している目だ、その嫉妬の視線を今はゴッドバルト卿に向けられている、本人は気づいていないようですが。
さて、ゴッドバルト卿が警護を解かれた今、マリアンヌを守る者は一人もいない、私がマリアンヌを助け、コードを奪ってV.V.を殺し、偶然を装いマリアンヌの両目を潰してギアスが使えないようにするしかないですね。
それがこれからのルルーシュとナナリーのためになるはず、うまくいけばアールストレイム家とゴッドバルト家の評判も上がるでしょう。
深い考えはいらない、私はただ、ヴィ家の剣であればいい。
シリアスな空気が流れましたが、普通に昼食をとりました、昼食をとると言ってもゴッドバルト卿同様に、私も警護を任されていた身なので料理長が作ってくれた賄い程度の料理でしたが、料理長の出身地の素朴な味のスープがまた懐かしさ溢れるいい料理で………。
っと、長くなりそうなのでそれは置いといて。
「むむむ…………」
「ツキトさん!かけっこをしましょう!」
ルルーシュもナナリーも元気いっぱいですね、原作通りどちらもかわいらしい顔をしてます、アーニャには負けますが。
ナナリーはマリアンヌ暗殺後に記憶操作で目が見えなくなり歩けなくなる前までは走り回っていることが多いやんちゃな子だったというのは知っていましたが、まさかこれほど疲れ知らずとは………。
【閃光】のマリアンヌの血を受け継いでいるから当然といえば当然ともいえますがね。
問題はルルーシュです、原作同様に頭脳労働大得意、反面貧弱です、今も椅子に座って同い年の私とチェスをしています。
ついでにこれが4回目、戦局は私が有利、というかあと少しでチェックメイトです、さて、ルルーシュはここからどう巻き返してくるのか…………。
数分後……………
「…………ここ、かな」コン
「チェックメイト」コン
「うっ…………も、もう一回」
また勝っちゃいました、いや、巻き返してくれるのかと思ってたんですが……………まあ、経験の差でしょう。
「ツキトさん!かけっこ!かけっこしましょう!」
長い間待たされたナナリーがついに私の袖を引っ張って椅子から立たせる。
「しょうがありませんね、ルルーシュ様も気分転換にどうですか?」
体力のないルルーシュに少しでも体力をつけさせるために誘ってみる。
「じゃあ僕もやろうかな……」
それを聞いてナナリーは。
「本当ですかお兄様!それでは行きましょう!」
「ちょ、ちょっとナナリー!待ってよー!」
ルルーシュの袖を引っ張って走っていった、というより引きずっているというか………。
まあ、仲が良いことに悪いことはありませんし、問題はないとは思いますが、とりあえず私もついていきましょう。
数十分後………
「ゼェ………ハァ…………」
案の定ルルーシュはばててました、ナナリーはまだピンピンしてます、アリエス宮の周りをガムシャラに走り回れば当然疲れると思いますが、さすがにピンピンしてるのは絶対おかしい。
「ツキトさん!次は夫婦ごっこを…………」
「それだけはご勘弁を」
それをするたびにルルーシュのヤンデレっぽい視線が刺さるんです、やるんだったらルルーシュとナナリーの二人でやってください。
「あぁ!ツキト!ルルーシュ!ナナリー!」
「おいユフィ!ちょっと待て!」
いきなり声が聞こえたかと思うとこちらに向かって走ってくる人影が二つ、ユーフェミアとコーネリアですね。
ユーフェミアもコーネリアもかわいらしいです、しかしアーニャには劣ります。
「おはようございます、ユーフェミア様、コーネリア様」
「むー、んもう!いつも言ってるじゃない、そんなにかしこまらなくてもいいのよ」
「申し訳ありません、それは無理です」
「そう………残念ね」
シュン、と寂しそうな顔になるユーフェミア、しかしすぐ仕方ないことだと立ち直り、ナナリーに話しかける。
「ナナリーは何をしていたの?」
「ユフィ姉様、実はツキトさんと夫婦ごっこを………」
「まあ!夫婦ごっこ!ツキト、私と夫婦ごっこしませんか?」
「あ!ずるいですユフィ姉様!」
「あ、あの、つ、ツキト!わ、私と、夫婦ごっこを………」
「「「ヤンヤヤンヤ………」」」
今更ですけど、これって私にフラグ立ってません?
「ツキト」
「?……なんでしょうかルルーシュ様?」
「ナナリーとユフィと姉上、誰をとるんだ?」
「私には、その誰ももったいなさすぎます」
「そうかな?僕が思うに、ナナリーがいいと思うんだけど……」
「確かに、ナナリー様は優しいので幸せに暮らしていけるでしょう」
実際一時はナナリーとのフラグを立てて婚約して皇族入りしようかとも思いましたが、ヴィ家に支える身としてそれはどういうものなのか、と思いやめました。
しかし、フラグは立ってしまっている模様。
「ですが、ナナリー様本人にはもっと世の中を知っていただきたいのです、今のナナリー様にとって世界はこの狭いアリエス宮の中のみ、もっと広い世界を知って欲しいのです」
とご高説垂れましたけど半ば適当です。
というか、ユーフェミアとコーネリア、あげくアーニャにも立っていますよね、どうしてこうなった、ってかどうしましょう。
いや逆に考えるんです、ユーフェミアかコーネリアと結婚して皇族入りすれば発言力を強化できる、その発言力でルルーシュとナナリーの警護を強化すれば………。
いや待て私よ、ユーフェミアかコーネリアに婿入りするということは、二人の生まれたリ家に尽くすということになる、だめだ、私はリ家ではなくゴッドバルト卿とともにヴィ家に支える身、ナナリー様はまだいい、まだ許される、だがヴィ家ではないユーフェミアとコーネリアはだめだ。
よし、とりあえず方針を再確認だ。
まずヴィ家に支えるのは当初の予定通り変更なし、しかし問題はここから、マリアンヌはゴッドバルト卿に任せるとして、ルルーシュかナナリーのどちらかだ、同い年のルルーシュの専任騎士となればルルーシュを肉体的に鍛えることができる、ナナリーの専任騎士となれば政治の面で手助けができる、どちらを選んでもヴィ家のため、神聖ブリタニア帝国のためになる、まあ、その時になったら決めればいいか。
ひとまず……………夜になるまで待とう、全員が寝静まり、マリアンヌを暗殺せんとするV.V.を、殺すために。
全ては、ヴィ家のため、神聖ブリタニア帝国のため。
オール・ハイル・ブリタニア!