どうしようもない僕がブリュンヒルデに恋をした   作:のーぷらん

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人がお酒を飲む場は少し特殊だ。昼から夜までお店を開けている店の雰囲気は、キッチンのドア越しでも分かるくらい変化する。昼のお客さんは元々知り合い同士で来ていて、その輪の中で楽しんでいる。会話は楽しそうにはしゃいでいるものだったり真面目なものだったり色々だけど、まるでそれぞれのお客さんが個室にいるがごとく他の人をシャットアウトする壁を持っているんだ。だけど、日が傾き、夜も深くなってくると、その壁は徐々に薄くなる。お酒を飲むと、人間が無意識のうちに張っているバリアがなくなり、店全体が一つの部屋であるかのような空気が出る。自室にいるようにくつろいで、話の輪に急に入ったかと思うと、ふいっと違うところに行ったり。お酒を飲むと、人間というよりも猫に精神が近くなるんじゃないだろうか。傍若無人。気ままで、我儘。人間世界にある『目の前の人と話す』『好き勝手してはいけない』などといった暗黙のルールなんて総スルー。

酒は百薬の長とも悪魔の水とも言うが、明らかに後者が正しいよ。あっさり人間辞めさせられてる。

僕はいつもなら夜は特にキッチンに閉じこもっているのだ。

次の行動が予測できない本能丸出しの人たちがいる場なんて恐怖の対象でしかない。

そう、いつもなら。

 

 

だが、今。

僕は理解していた。これは悪魔に屈して人間の自分を売り渡してもいい気分になる、と。

体が温かくなって、周りに壁がないどころか、自分と空気の間の境界線がなくなっている感覚。長風呂に入ったみたいに皮膚がふやけてお湯みたいにぬるい大気に溶けてしまいそうな感覚。それが途方もなく気持ちいい。かろうじて、僕は酔ってはいないけれど。いわゆるほろ酔いってやつ?あ、そんな名前のチューハイのCM見たことあるな。あれってどんな味がするのかな。のんでみたい。

 

「それにしても……カフェにこんなメニューあるんだな」

 

もぐもぐと咀嚼しながら弾くんが不思議そうに言った。早速飛ぶ厳さんの拳。速すぎて「痛ぇ!」「行儀が悪い」という二人の言葉がなければ、状況なんてさっぱり分からなかったよ。しかし、確かにパスタやサラダが似合いそうなシックな店内に、家庭的な日本の料理があるのはおかしいと思うよね。

「あー、……めにゅーにはないんだよ……だって、明日から、ドイツでしょう……すしとか、カリフォルニアロールみたいな、有名な日本食ならたべられる、だろうけど……なかなか、他のものは難しいだろうし……今日はとくべつ。

だから、他の人に、……喫茶『はなぶさ』の日本食がおいしいよー、って、せんでんしないでね」

無茶苦茶長い言葉を僕は話した。話しすぎて喉がかわいたなぁ。それに動かない頭を乱暴に動かして話したからつかれたよ。のみもののみもの。

マティーニを飲んで「ふぅ」と息を吐いた。レモンの果皮を加えたのは正解みたいで、ドライ・ジンやベルモットの辛みに対して、良いアクセントになっている。不思議なことにアルコールはいくら摂取しても喉が渇くんだ。飲み物なのにね。どの国家もIS開発に莫大な予算を費やしているみたいだけど、喉がかわかないお酒を開発する方が余程良いと思うな。で、もう一口。

ことんとマティーニグラスを置くと、前から手が伸びた。あ、まだマティーニにつけたオリーブを食べてなかったのに。

恨みがましい目で見ると、犯人は織斑くんだった。ごく自然な動作で僕のグラスの他にも空になった皿を重ねながら、「もったいないよな」と笑っている。うん、何のはなしだっけ。喉の渇かないお酒を造らないでIS開発に力を注ぐ日本人の技術がもったいないってはなしだっけ。

僕が一人で首をひねっている最中にも、織斑くんと弾くんは仲良く話し込んでいる。

「一夏は、ここの(まかない)いつも食べてるんだろ?いいなぁ。うらやましいぜ」

「だろ?英さんは、中華も作れるんだぜ。酢豚もうまかったし。ここの賄がおいしいから、いつも遅くまでバイト頑張ろうと思うんだよなー。昼にも食べられればいいんだけど学校あるし、夜だけの楽しみだな」

そんなこと思っててくれてたのか……今度の賄にはデザートもつけよう。

一人で頷いている僕はお酒で大分危機管理能力が低下していたのだと思う。彼の横にいる女性の目が獲物を見つけた肉食獣のごとく光ったのに気付かなかったのだ。

 

「「英さん!!料理教えてください!!」」

 

急な声に僕はびくっとした。鈴さんと蘭さんが熱い視線で僕を見ている。もちろんこれは恋する視線など甘いものではなく、諾と言わなければどうなるか分からないという脅しの視線だ。息苦しくなり、手を伸ばすとグラスが消えている。あれ?

「おー、二人とも料理習うのか、うまく出来たら食べさせてくれよ」

「「最初からそのつもりよ/です!!」」

そうそう、織斑くんに向ける熱い視線が恋の視線というものだよ。……あれ?

「大変ですね」

と、真耶さんが大人びた笑いを浮かべた。もしかして僕がこの二人に料理を教えることが決定している、だなんてこと……

「ねぇ、ふたりとも……」

「「何?/何ですか?」」

温かったはずなのに、背筋に冷たい汗が伝い落ちた。僕は必死でもつれそうになる口と頭を動かして訴える。

「あ……その、僕、店で、ていっぱいで、あの、……レシピわたすから、……それみて練習、でいいかな……」

すると、二人とも悩んだ顔をしている。何か言いたげに口を開けた二人を遮ってくれたのは千冬だった。

「二人とも。レシピを見て作った試作品を食べてもらえばいいだろう、たとえば、ここにいる一夏に」

彼女の一言に急に二人の目が輝いた。

「「食べてくれるわよね?!/食べてくれますか?!」」

「あ、ああ」

千冬ありがとう!ほっとしたのと、また女性と関わって面倒ごとに巻き込まれそうになったことで、安堵と疲れから深い息がもれた。

「どうしたの、英くん。ため息?」

「蓮さん、…べつに…」

「千冬ちゃんがいなくなるのが、寂しいんでしょ?」

「あたりまえです」

僕は人前で話すのが苦手だから蓮さんはたびたび話しかけてくれる。こういう面倒見がいいところや気が遣えるところは、看板娘だよね。

僕は千冬の方を見た。明日千冬はドイツに行くんだと思うと、例えようもない焦燥感だけが募った。彼女は相変わらず凛としているが、少々顔を赤くしている。ちょっと酔ったのかな。とは言っても、この面子の中、離れている彼女の元に届くくらいの大きな声で聞くのには勇気がないから、自分の飲み物取りに行くついでということにしてお冷を取りに行くことにする。

まるで最高級の絨毯の上のように、ふわふわした床を足で踏みしめながらキッチンのグラスを取り、製氷機を開けた。

(……のど、かわいた)

僕は彼女の分の他に自分の水も汲んでゆっくり飲み込んだ。

近くのシンクに行儀悪くもたれかかれば、ひんやりした感覚と同時に、心地よい気だるさに襲われる。一度もたれかかって初めて足が変だと気付いた。なんだか膝がくにゃくにゃで、骨がなくなったようにうまく立てない。うーん、困ったなと考えているとドアが軽い音を立てて開いた。

千冬。

 

「英さ…はなぶさ」

「千冬さ…ちふゆ」

 

あははと笑いあった。

千冬。やはりこれが自然だ。ベストだ。

気付けば彼女もシンクにもたれかかっていた。二人でグラスの水を飲む。二つ用意していたはずだが、二人の間に置いていたせいかどちらの飲んでいたものか分からなかった。でも、それでもかまわない。喉の渇きが癒されればどちらでも良かったし、千冬なら良い。

「これ、ありがとう」

差し出されたのはジャケットだった。見覚えがほとんどないからぼけっと見てしまったが、「海の日は、助かった」と言われて気付く。僕が千冬に会う直前に脱いだ丈の短い、えーと、ジャケットだ。名前は忘れたが。

ただ、お礼を言われたものの、寂しかった。

これで僕と千冬の会う理由がなくなった気がしたんだ。僕らの関係は本当にもろいと思う。織斑くんのように血のつながりもなく、五反田一家のように長く一緒にいて家族同然に思われているわけでもない。真耶さんみたいにたくさんの思い出を共有する友人でもない。ましてや、恋人でもない。胸がムカムカする。

酔ったのかな。

シンクに腰を預けた格好すら保てなくなってきた。床が絨毯どころか学生の頃乗っていた電車が急停車するときみたいにフラフラ揺れて、思わず千冬の方にも倒れ掛かった。

「は、はなぶさ?!英!」

彼女が名前を何度も呼ぶ。

焦っているようだけど、多分ちょっと酔いが回っただけ。

「ごめ……もうちょっと、このまま、で……」

だが、女の腕では支えきれなかったのだろう、ずるずると僕は彼女を巻き込んで床に座り込んでしまった。

僕の右腕から彼女の体温が伝わる。どれくらい時間が経ったのか。ほんの一分だったのかもしれないし、十分くらいだったのかもしれない。胸のムカムカはいつしか止んで、代わりにドキドキと鼓動がうるさいくらいに鳴り響いている。

振り返ってみると、この状況とか自然とさっき間接キスしてただとか情けないやらで体育座りをしている膝に顔をうずめてしまった。恥ずかしい。酔いが醒めたんだ。

お酒はやっぱり悪魔だったようだ。

こんなときに、僕を人間に戻すなんて!

「英?大丈夫か?吐きそうなのか?」

「だいじょぶ……も、ちょっと、まって」

優しい彼女には申し訳ないが、とてもじゃないが顔を上げられる状態ではなかった。きっと真っ赤で、恥ずかしくて死にたいって書いてあって、それでも妙に幸せそうな顔をしているんだろう。

「今日参加してくれて、嬉しかった。相変わらず料理もおいしかったしな……また食べたい」

千冬がぽつりと言った。ドイツに行くんだから、なかなか来れないよな。日本食は海外に行くと恋しくなると聞いたことがある。僕は向かいの棚を指さした。

「ちふゆ、あの……棚のなかのノート、出して」

彼女が不思議そうに取り出したものは一冊の何の変哲もないノートだ。100円で売っていそうな安っぽいデザイン。ところどころ古ぼけているものだが、僕の何よりも大切なもの。

「これ……中、見て……」

「……」

彼女のページをめくる音が聞こえる。

ぱら、ぱらり。

めくる音を聴きながら僕は後悔していた。

嬉しくないよね。ノートなら軽いし、ドイツに持って行くのにもかさばらないと思ったんだけど、作り方なんか自分でネットで調べればいいし……それでも、何か僕のものをもらってほしかった。

「……高校卒業のじきまで、じぶんで、料理作ったこと、なくて、……料理食べてもおいしくないって思ってたんだ……でも、料理してるとおなかが減って、自分で作れば、その料理ってぽんと出てくるものじゃないってわかって、……料理たのしくなって。これ、ずっとかきためてたレシピなんだ……ここの、その、料理人するまえのも入っているけど…………もらって?」

脈絡のない話だが、とにかくもらってほしかった。僕は顔をうずめたまま、彼女の反応を待つ。

「……いいのか?」

「え……」

「ここまで書くのは大変だったろう?……鳳や蘭のように欲しがるやつもいるぐらいなのに、それを……」

安心するあまり膝から顔をあげて千冬を見た。ずっと眼窩のあたりを押し当てていたから電灯がまぶしい。でも、そんなことより嬉しかった。僕の送ったものが迷惑にならないって分かったから。

「千冬なら、いいんだよ」

「………ありがとう」

そう言って彼女は小型の通信機を出した。……なに?

「料理は不得意でな……良ければ、その、通信しながら、料理を、作りたい……だめか?」

「あ、あ?ああ!もちろん教える!あああの、……携帯なくって……パソコンなんだけど……!え、と、」

言われていることに数瞬遅れて気付いた。ゲームやテレビ電話など出来ることは知っていたけど今までやったこともなかったから。

ちなみに一応パソコンくらい持っている。さすがに前世紀の固定型じゃなくてポータブルのパソコンだけどね。僕のパソコンは写真立てみたいに置いておける小型端末を付けてる……って、そんなのはどうでもいいんだよ!あ、アドレス交換ってどうするんだっけ?!

「ここ、英のアドレスを打ち込んでくれ」

慌てふためく僕に千冬が笑いかける。急いで打ち込むと(何回か打ち間違えたけど)、電話帳には僕のアドレスがぽつんと

 

「……携帯を昨日新しいものにしたばかりでな。登録するのは、初めて、なんだ

……英」

 

ちょっと早口で言う彼女をどうして可愛いと思わないでいられようか。

愛しくて、胸が苦しくて、桃色の頬をしながら目をそらす彼女をしっかり見たくて、座り込んだ姿勢のまま彼女の方を向く。向いた途端に床に上にあった彼女の手に僕の手が重なった。お酒を飲んだ二人の体は熱くて、同じ体温で、さもすれば一つになってしまいそうな程だったけど、千冬は雷に打たれたように身を震わせてこちらを見た。

女性だ。でも、千冬は他の女性とは違う。もっと、もっと、近くにいたいし、特別になりたいし、もっと、…………――感じたいんだ。

欲望につられてまつ毛の生え際が見えるくらい近づくと、ばっちり見開かれた黒曜の瞳にとらわれた。顔に当たる息がくすぐったくて、交互に吸ったり吐いたりするリズムを合わせる。同じ空気を吸っている。

甘くて、熱くて、苦しい。

そんな感覚が幸せだった。

白い肌と紅に染まった目元、軽く閉じられた目と、清楚に噤まれた唇。それが、僕が目を閉じる直前に映った視界のすべてだった。

もっと、と少し顔を傾けて彼女の放つ息を飲みこむように、近づいて、それでも止まらなくて、息の源に触れようと

 

 

 

 

 

 

 

「千冬姉!」

 

 

 

 

 

 

 

 

どん、という衝撃と冷たく堅い背中の感触。

「英さん?どうかしたんですか?」

次に目を開けたとき、見えたのはキッチンの少し汚れた天井と、織斑くんの顔だった。

「……あ……ねむくて」

僕はぎくしゃくと身を起こした。

「酔っちゃったんですよ。かなりペース早かったですから」と言う彼の顔が見れなかった。僕は、一体何をしようとしてたんだ……?

「千冬姉……」

「…!」

「明日早いそうなんで、今から撤収しますね」

「あ、ああ、うん。見送る……」

彼に助け起こしてもらいながら、キッチンから出る。机の上はきれいに整頓されていたけど、蓮さんや真耶さんは「片づけ手伝えなくてごめんなさい」と口々に言っていた。僕は首を振りながら、出来るだけ彼女の方を見ないようにしていた。

「「「「「「それじゃあ、おやすみなさい」」」」」」

「ご来店いただき、ありがとうございました」

深々とお辞儀をした。

外の空気は肌寒いくらいだ。ちらりと見ると彼女の後ろ姿が見えた。先ほどまであんなに近くにいたことを考えれば、この距離はかなり遠かったがそれで良かった。

僕と彼女は恋人じゃない。

なのに、あんな……もう一度地面を睨むようにして深々とお辞儀をする。謝罪の意味を込めて。アドレスは彼女の方にしか教えていない。ということは、千冬が僕にかけてくれないと、連絡がとれないということで……

もう、二度と会えないかもしれない。

時間が経って姿勢を正す。もうそこには誰もいなかった。最悪の気分のまま、振り返ると、……――いた。

 

 

 

「ねえ」

 

 

 

うさぎだ。完全に思考が停止した。

うさぎに不思議の国のアリス?ここ、現代日本だよね。異世界トリップとか、は。

見慣れたカフェが完全にうさぎの背景となっているのを確認してないない、と否定し、うさぎを観察する。というか、うさぎの耳をつけたアリスのコスプレをした女性だった。

……久しぶりに外に出たら、こんなのに引っかかるなんて。

先ほどまで『最悪』だと言ったことを撤回したい。今が最悪だ。

 

「ちーちゃんに付きまとうのやめてくれない。どうせ何か思惑があるんだろーけど、どこの組織?それにしては私の通信網に引っかからないし……個人で?ちーちゃん、ブリュンヒルデだから何か甘い汁でも吸おうとか?」

 

早口だった。僕の方を見ているようで目に入っていないという印象を受ける。思わず、後ろを振り向いても誰もいないから多分僕に向かって話しかけて

「ちょっと聞いてるのかな、君だよ、君。イトウハナブサ」

不思議な発音だった。まるで人間の名前じゃなくて、機械か無機物の名前みたいだ。僕の中で一つの言葉が思い浮かび、腑に落ちた。

僕と同じ、コミュ障。 

「何でこの天才束さんがこんな凡人の名前なんか呼ばなくちゃいけないんだよ、時間が全くもったいないよ。どういう了見で君は私の時間をつぶしてるんだよ。ちーちゃんに寄ってくる虫はいくらでも湧いてくるなぁ。いっそ――」

いや、絶対、僕以上だ。

時間の無駄だと思っているなら速やかにお帰り願いたい。胸がムカムカする。酔いは醒めたはず……本当に気持ち悪いかも。

とりあえず、この女を突破しないとカフェに戻れやしない。僕はたびたび話に出ている人の名前を口にした。

「ちーちゃんて?」

「ちーちゃんは、ちーちゃん。織斑千冬。ブリュンヒルデだよ。しらばっくれるの止めてくれるかな?時間の無駄」

(ああ、千冬の愛称。で、ブリュンヒルデって戦乙女のことだっけ?何でこの場面で?)

アニメや漫画の中でしか聞いたことがないワードに再び黙り込みながらも、僕は答えを導き出していた。それは重大な病。僕はひきこもりだけど、中学校のときは学校に行っていたから分かる。あの年頃の男子が特にかかりやすい、そして大人になっても心に傷跡を残すだろう病。

中二病。

(この女、多分千冬のファンなんだろうな……中二の入った)

それでどこからどう調べたのか分からないが、僕の存在を知り、千冬に近づくなと言いに来たと。

ますます胸のむかつきがひどくなった。

 

「ブリュンヒルデなんかどうでもいいよ。千冬はただの千冬だ」

 

千冬はただの女性だ。達筆で、絵が絶望的なまでに下手で、子どもっぽいところもあって、可愛くて、すごく優しい。

どうしようもない僕でも、それくらい分かる。目の前にいる女性が千冬をどう思おうと勝手だ。そりゃ、千冬は神格化するまでに魅力的だからブリュンヒルデと言っても差し支えないかもしれない。でも、彼女は人間だ。神様なら一人ぼっちで孤高でいいのかもしれないが、人間なら一人じゃ生きていけない。部屋とキッチンくらいしか行き来しない僕です

ら母さんと父さん、織斑くんがいなきゃいけないんだから。

なのに、何の特権があって、彼女を孤独にしようとしているのか。今までもこいつがこうやって彼女に近づく人間を追い払おうとしてきたのか、と思うと苛立ちしか募らなかった。それこそお前は神様のつもりか、と。

「僕が近くにいていいかなんて、お前が決めることじゃない。千冬が、決めること」

最高にキツい声が出た。

生まれてこのかたこんな声を出したことなんてなかった。

今日のことを思い出すと、千冬は二度と僕に近づきたくないと思ったろうけど。

でも、僕の後に彼女を幸せに出来る男が現れて、この女に何か言われないように……

そう思うと哀しいやらむなしいやら腹が立つやらで、胃の奥から何かがせりあがってくるのを感じた。

(ヤバい)

肩をぶつける勢いでうさぎの脇を通り過ぎ、ドアを手探りで閉め、トイレで思いっきり吐いた。

「う、うぇ……」

相変わらず最悪の気分で、口をゆすいだ後、僕はベッドに横になった。

体も心も疲れていた。

底なし沼のように体がベッドに沈み、意識はさらに暗いところに落ちていく。

 

 

(せめて、千冬は、幸せに眠れるように)

 

そう考えたのを最後に僕は完全に眠りに落ちたのだった。

 






一人称で酔っ払いの書くのが難しすぎてワロタ……あと、キスシーンまでいきたかったけど恥ずか死すぎて断念した……束さん口調と性格知らなさすぎてオワタ……


陳謝。

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