アナンシが討滅されたことにより、主を失った『ハイタイド』が消滅した。それまで水の結界に包まれていたヴェルサルテイル宮殿は、水の底にあったことが嘘のように、戦闘の跡だけを残して元の景色を取り戻した。
才人が地面に降り立つと、プチ・トロワの方からタバサがこちらへと駆けてくるのが見えた。
「サイトッ!」
「タバサ、無事だったか!」
そう言って才人はタバサと合流すると、タバサに異常がないか確認した。
「なんともないみたいだな。それにしても、なんであんな危険な真似をしたんだ!建物の中で大人しくしとけって言っただろ!」
タバサの無事を確認すると、才人はタバサを叱った。
「……ごめんなさい。あなたが心配だったから」
「いいじゃないか、結果うまくいったんだからさ。あんただって、私らが助けに来なけりゃ、あいつにやられてただろう?」
謝るタバサの後ろから、追いついてきたイザベラが口を挟む。才人はそちらへ顔を向けると、ムッとして言い返す。
「そもそもお前たちが出てこなけりゃ、捕まることもなかったんだよ」
「だが、あのままじゃあ、攻めきれなかったのも事実だがな」
そんな才人をカイムがあざ笑う。
「カイム~、お前どっちの味方なんだよ」
「知らん、俺は事実を言ったまでだ」
「~っ!……はあ、助かったのは事実だ、認めるよ。ありがとう。正直、あの時あんたたちが来なけりゃ、ヤバかった」
カイムに言い負かされた才人は、少し唸った後、負けを認め、イザベラたちに礼を言った。
「まあ、何の相談もなしに行動した私にも非はある。悪かったね」
少しバツが悪そうにして、イザベラも謝った。
「タバサもゴメンな。叱ったりして」
「あなたが無事だったから、いい。それに危険なことをしたと自覚はしていてる」
タバサに向かって才人は謝り、タバサもそれを許した。
「しっかしまあ、すごいもんだねえ、自在法ってのは」
イザベラが辺りを見渡して言った。
「あれだけあった水がきれいさっぱりじゃないか」
自在法によって制御されていた水は、主の消滅とともに消え失せ、今では花壇の花にも水滴一つついていなかった。崩れたゴーレムの残骸や、足跡のみが、ここで戦闘があったことを物語っていた。
「この分だと復興もすぐに済みそうだねえ。問題は、空の玉座をどうするかなんだけど」
そう言ってイザベラはため息をついた。
「そういえば今回のパターンだとどうなるんだ?アナンシが喰ってたっぽいから、やっぱりみんな記憶がないのか?」
変則的な状況に、フレイムヘイズとしての経験が浅い才人は、疑問を口にする。
「"狂瀾"が喰ってた上に、その"狂瀾"も討滅しちまったからな。綺麗さっぱりだろうぜ」
カイムがそれに答えた。その言葉にイザベラはため息をついて頷いた。
「そうなんだよ。あんたがあいつを倒してから、騎士団はわやくちゃでね。今は各団長たちに任せているけど、それもいつまで持つか。大臣たちも状況が分からないだろうし、早急にまとめ上げる必要がある」
そう言ってイザベラは頭痛をこらえるように頭を抑えた。
「でも、玉座に就くには……」
「ああ、継承権を持ってないとダメだ。つまり、私かこの子が王位を継ぐ必要がある」
言いかけた才人を遮り、イザベラは自分とタバサを指差して言った。指されたタバサも、始めから分かっていたようで、特に驚く風もなく頷いた。
「問題は、どっちが王位を継ぐかってとこなんだけど……」
「お前、前王の娘なんだろ?ならお前が継げばいいじゃん」
イザベラの言葉に、才人は何言ってんだ、という風に指摘する。指摘されたイザベラは首を振る。
「ところがそう簡単に事がいかなくてね。今の家臣団の認識は、私たちの祖父王が身罷ったあと、玉座は空位ままらしい。オルレアン公は亡くなってるし、父上に至っては存在さえ忘れられてる」
「そっか、ジョゼフは最初からいなかったことになってるのか。それもそうか……。あれ?それだと今イザベラはどういう扱いなんだ?」
「そう、それが問題なんだ。どうやら私は、亡きオルレアン公の娘で、エレーヌの姉ってことになってるみたいでね」
「あー、そうなってんのか」
「この短時間でよくそこまで把握したな」
才人が納得したように頷き、カイムが感心したように言う。
「カステルモールと"地下水"から聞き出したのさ。というわけで、今、私とこの子は姉妹で、第一王女と第二王女ってことらしい」
「でもそれなら、尚の事イザベラが王位を継ぐべきなんじゃないのか?第一王女なんだろ?」
「まあ、そうなんだけどね……」
「なんだよ歯切れ悪いな」
煮え切らない態度のイザベラに才人は首をひねる。元々イザベラは第一王女である。血縁こそ変われどその地位は変わっていないので、なぜこんなにも躊躇しているのかわからなかった。
「……私は、イザベラ姉さまが王になるのがいいと思う」
「……エレーヌ」
王位継承の話になって、沈黙を保っていたタバサが口を開いた。イザベラは気まずそうにタバサを見る。
「いいのかい?本当のオルレアン公の娘はあなたなのに、私が王位に就いてしまって」
「かまわない。元々第一王女はあなた」
「それはそうだけど……。エレーヌが王位に就きたいなら、それでもいいんだよ?」
「私は器じゃない。それよりもイザベラ姉さまが王になった方が、私は嬉しい」
「……わかった。そこまで言われちゃしょうがない。私が王になるよ」
そう言ってイザベラは小さく笑った。
「よしっ!話はまとまったな!ところでタバサ、これから俺たちどうするんだ?学院に帰るのか?」
そう言って才人はタバサに尋ねる。
「もう日も暮れてしまっている。今からでは帰れない。今日はリュティスに泊まる」
淡々とタバサが答える。
「でも、今から行っても宿はあるのか?」
「心配ないよ。二人共、しばらくプチ・トロワに滞在するといい。いろいろ後処理もあるしね。歓迎するよ」
「……いいの?」
「今更何言ってんだい。それに、あなたにもやってほしい仕事があるしね。あ、北花壇騎士団の仕事じゃないよ?王女としての仕事さ。オルレアン領も復興させる必要があるしね」
「わかった」
そう言ってイザベラとタバサはお互いに笑いあった。最早二人の間にわだかまりは感じられなかった。
「そうと決まれば早く行こうぜ。流石に疲れた。休みたい」
「なんでてめえが仕切ってんだ、間抜け」
「うるせー」
そこに才人が空気を読まずん割って入り、カイムに罵られた。それを見て二人は再び笑いあった。
★★★
アナンシ討滅から三日が過ぎた。その間、イザベラとタバサはお互い忙しく動き回っていた。家臣団を取りまとめ、宮殿の修復を指示し、戴冠式の準備をして、諸外国へ向けて報せも出していた。そんな中、才人とカイムは、アナンシによる被害の調査をしていた。
「やっぱりそんなに歪みが感じられないってことは、あんまり人喰いをしてなかったんだな、あいつ」
「らしいな。奴の言う物語とやらが関係しているんだろう」
「まあ、自分で喰って登場人物減らすような真似はしないか」
「おそらくな。だがここら辺がそうってだけで、他も同じだとは限んねえぞ」
「他の場所で喰ってたか。"燐子"に襲わせるっていう手もあるしな。それに、他の"徒"もいるか確かめないと」
「ああ、奴の言っていた"あの女"ってのも気になる。『君主の遊戯』のことにも触れていた以上、"徒"どころか"王"の可能性もでけえ」
「あれのプレイヤーたちは[革正団]にやられたんじゃなかったか?」
「だがアナンシの例もある。討ち漏らしはありえることだ」
「どうにも厄介だな」
「ふん、厄介じゃねえ乱獲者がいるものか」
「それもそうだな」
宮殿の周りの森で調査を続けながら、才人とカイムは相談し合っていた。
「サイト」
するとそこに、来客があった。タバサだ。公務のため、普段の魔法学院の制服ではなく、王族らしく、青く豪奢なドレスを身に纏っていた。
「タバサか、何か用か?」
初日こそ、豪華に着飾ったタバサにドギマギしていた才人も、三日目ともなれば慣れることができた。それでも、まだ少し緊張してしまうが。しかし、それよりも、公務で忙しくしているはずのタバサが、宮殿の外にいることに疑問を覚えた。
「明日の戴冠式の後、竜篭でオルレアン領に寄ったあと、学院に帰るから、それを伝えに来た」
「そうなのか、わざわざありがとな。でもそれぐらいメイドさんとかに頼めばよかったのに。タバサ、忙しいだろ?」
「私なら構わない。それに……」
「それに?」
「あなたと、少し歩きたかった」
そう言ってタバサは少し頬を少し染めて俯いた。
「お、おう。そうか……あ、あーっと、じゃあ、その辺り歩こうか」
タバサの言葉に、緊張して、吃りながら返事をすると、才人は歩き始めた。しかし、タバサは付いて来ない。
「どうした?タバサ」
振り返ると、タバサがこちらに向かって手を差し出していた。
「手」
「て?」
「手を、握って欲しい」
頬を染めたまま、少し目を逸らして言うタバサを見て、才人は顔が熱くなるのを感じた。
(か、かわいい)
完全に見蕩れていた。顔を赤くしたまま、才人は固まってしまう。
「……」
「……」
手を差し出したままのタバサと、硬直したままの才人。しばらく沈黙が流れた。
(おい……おい!)
「うわあっ!」
(いつまでボサっとしてんだ。さっさと動け)
(わ、わかったよ)
カイムに叱咤され、才人は再起動を果たした。
舞踏会の時のようにぎこちなくタバサの手を取った。
「あっ」
「じゃ、じゃあ行こうか」
恥ずかしさでタバサの顔を見れないまま、才人はタバサの手を握って森の中を歩き出した。
「……」
「……」
二人の間に再び沈黙が降りる。
(やばい、何話していいかわかんねえ)
(本当に情けない奴だな、てめえは)
(だって、今まで戦いばっかりでこんな経験したことなかったんだぜ)
内心焦る才人に、カイムは呆れる。顔には出さないが、冷や汗を書いている才人は、自分の手が汗で湿っていないか心配になった。
「……ありがとう」
「え?」
そんな中、突然タバサからお礼を言われ、才人はポカンとしてしまう。
「仇を、討ってくれて」
「あ、ああ、そのことか。別にタバサが礼を言う必要はねえさ。"紅世の徒"と戦うのは、俺たちの使命だからな」
特段、気負った風もなく、才人は答える。二年前から"紅世の徒"との戦いは、才人にとっての日常と化していた。"大命"が宣言され、新世界ができた後はしばらくそれから遠ざかっていたが、それでも、気持ちはあの頃と変わりなかった。
大切なものを守るために戦う。それこそが、才人が自らに課した使命だった。
「……私は、ずっと仇を討つことを考えて生きてきた」
「……」
ぽつぽつと、タバサが語り始めた。才人はそれを黙って聞く。
「魔法は使えなかったけど、騎士団の任務をこなして、戦い方を学んでいたのはそのため」
「……」
「でも、学院に入って、ルイズや、あなたと知り合って、復讐以外にも生き方があるのではないかと考えるようになった……。でも私の生き方の根本には、復讐があった」
「……」
「今回、王宮に呼ばれて、姉さまから話を聞いて、私はどうしていいかわからなかった。復讐する相手が、全く別のもの、私では到底敵わない相手だったなんて……」
「……」
心中を吐露するようにタバサは話す。珍しく饒舌なタバサに、才人は口を挟む風もなく、黙って耳を傾ける。
「でも、あなたが戦ってくれた。私の代わりにあなたが私の仇を討ってくれた。私の使い魔であるあなたが」
「……」
「私の復讐は、これで終わった。ずっと望んでいたことが果たされた。姉さまとも仲直りできて嬉しい、はず、なのに……」
そこでタバサは言葉に詰まる。今のタバサは、自分の気持ちがわからなかった。念願であった復讐が叶い、母のことを除けば、憂うことがなくなったはずなのに、嬉しくないわけではない、しかし予想していたほどではなかった。自分で仇を取ったわけではないからか、心が晴れ切らず、むしろ空虚になってしまったようだった。
「……フレイムヘイズってのはさ、基本的には復讐者なんだ」
今まで黙っていた才人が口を開く。
「もちろんそうじゃない人もいるけど、基本的には"紅世の徒"に自分の日常を奪われた人間が、契約してなるものなんだ」
「……」
タバサが才人を見る。召喚した日の説明以外、自分に元の世界の話をしてくれなかった才人が、急に話を始めたことに、僅かな驚きを覚えた。
「俺もさ、復讐が理由でフレイムヘイズになったんだ」
「……ッ!」
隠しきれない驚きが、タバサの口から漏れる。話に聞くフレイムヘイズの成り立ちを考えてみれば、驚くようなことでもないのだが、タバサはなんとなく、才人は例外であるように感じていた。目の前の少年が漂わせる雰囲気には、復讐者特有の、張り詰めた気配を感じなかったからか、いつも陽気な自分の使い魔に、復讐という言葉はあまりにもそぐわなかった。
「旅行中に襲われて、友達が喰われて契約したんだ。そしてその場で、敵を倒しちまった。復讐を復讐って思う前に、がむしゃらに仇を取っちまった」
「……」
今度はタバサが聞く番だった。
「その後、この世の本当のことと、契約の意味を知った……。へこんだよ。まさか存在が無くなるなんて思ってもみなかった。父さんも母さんも、俺のこと覚えちゃいなかった。散々泣いたし、後悔もした。しばらくして立ち直って、周りからは適応力があるって言われたけど、どうかな、事実かもしれないし、慰めだったのかもしれない」
「……」
「まあ、そんなこんなで、復讐を果たした結果、俺には何もなくなっちゃったわけなんだけど、でも、そのおかげで築けた関係もあるんだ。師匠や外界宿の人たちとか、他のフレイムヘイズたちとかさ、それに、こいつとかさ」
そう言って才人は胸のバッジを指で弾いた。普段ならここで罵るカイムだが、何も言わなかった。
「復讐は何も産まないとかさ、復讐のあとには何も残らないとかさ、色々言う人もいるけど、結局は自分がどうしたいかなんだ。俺はあそこで戦わなかったら、自分で自分を許せなかった、もちろん後悔もしたけどな。戦わなくてもきっと後悔してた。色んなものを失ったけど、それと同時に色んなものを得た。何より、新しく自分を始められた」
「……」
「復讐せずにいたら、ずっとそのことで後悔して、過去に囚われたまんまだったと思うんだ。復讐を終えたことで、ようやく踏ん切りがついて、新しく生きられる。そう思うんだ」
「……」
「だからさ、タバサもこれからは自分がしたいように生きればいいんだ。今すぐには無理かもしれないけど、ゆっくりでもいいから、自分の人生ってのを歩めばいいんじゃないかな?」
「自分の、人生?」
「ああ」
「私の、人生」
「何がしたい?」
「母様を助けたい。母様を助けて、昔みたいに一緒に暮らしたい」
「他には?」
「ルイズやキュルケと友達みたいに遊んでみたい。街に出かけて買い物したり、お菓子食べたり」
「それで?」
「魔法が使いたい。ルイズの言ってた虚無の魔法。使えるようになって、御伽噺のような冒険がしてみたい。他にも、たくさん」
「じゃあ、全部しよう。タバサのやりたいこと全部やろうぜ」
「全部?」
「ああ、全部だ。せっかくの人生なんだ。欲張ろうぜ。あれもこれも全部だ。俺が一緒に居てやる。一人じゃできないことは俺も手伝う。だからさタバサ、悲しそうな顔をしないでくれ。タバサにはいつも笑顔でいて欲しいんだ」
「本当に?」
「ああ、本当だ。『空裏の裂き手』の名に誓って約束する」
「絶対?」
「絶対だ」
「……嬉しい」
そう言ってタバサははにかんだ。それを見て才人も笑った。
「よし、それじゃあそろそろ帰ろうぜ。いい加減戻らないと、イザベラに怒られちまう」
「うん」
そして二人は来た道を戻り始めた。そこに来た時のような固さはなく、足取りも軽く少し駆け足で。
いつの間にか、繋いでいた手のぎこちなさも、無くなっていた。
☆☆☆
「なんだい、キスの一つもしないのかい」
プチ・トロワの王女の部屋で、公務をさばきながら、ガーゴイルの目を通して二人の様子を見ていたイザベラがぼやいた。
「せっかくあの子の仕事を代わってやって、行かせてやったのに面白くない」
「一国の王女、いや、明日には女王になろうという御方が、出歯亀とはいただけませんな」
机に置いた"地下水"が苦言を呈する。
「うるさいねえ"地下水"。こっちは公務続きで退屈してんだ。このくらいの息抜き、多目に見るんだよ」
「それにしてもいい趣味とは言えません。もっと自覚を持って頂けませんと」
イザベラの裁可待ちの書類を手にしながら、カステルモールも諌める。
「あんたも口うるさいね、カステルモール。なにさいい子ぶっちゃって、あんただって気になるくせに」
「……そのようなことはございません。それよりも殿下、もう芝居を打つ必要もなくなったのです。言葉遣いを改められては?」
「ふん、いらん節介だよ。こっちはこの言葉遣いを十年以上続けてるんだ、今更直せるものでもないさ」
「そんなことをおっしゃって、本当は芝居を見破られていたのが恥ずかしくて、今更直そうにも直せないだけでしょう」
「本当にうるっさいねえ"地下水"!今すぐ黙らにゃいと、溶かして鉄くずにしちまうよ!」
「噛みましたな」
「噛みましたね」
「~ッッ!……私が即位した暁には、あんたらを即刻、侮辱罪で処断してやる」
「おお恐ろしや」
「それはそれとしてイザベラ様。追加のご公務をここに置いておきます」
「はあっ!?公務はこれで終わりだろう!」
「シャルロット様のご公務を肩代わりなされた分、増えております。それに明日が戴冠式ですので今日中にやる分も増えております」
「……どれぐらいある?」
「日付が変わる頃には終わるかと」
「……王になんて、なるんじゃなかった」
「そう思わぬ王はいないのです」
多くの公務に苦しむイザベラをよそに、日は暮れていくのであった。
☆☆☆
「つ、疲れた……」
「姉さま、大丈夫?」
なんとか日付が変わる前に公務を終わらせ、イザベラは寝室へと向かった。そこには既に寝巻きに着替えたタバサが先にベッドに入っていた。
アナンシ討滅以来、二人はこうして、同じベッドで寝ていた。その姿はさながら本物の姉妹のようであった。
「なんとかね」
侍女を呼び出し、着替えをさせながらイザベラは答える。
「よいしょっと、あー、ベッドってこんなに柔らかかったんだねえ」
着替えを終えたイザベラがベッドへ入ってきた。二人で寝てもなお余るベッドに、並んで横になる。
「明日は戴冠式」
「そうだね、それが終われば私も女王だ」
「……どんな気持ち?」
「一国を統べる権力が手に入るんだ。悪い気はしないさ」
「そう」
「それよりあなたはどう?」
「私は、これから私の生き方を探す」
「そう。いいことだ」
「姉さまは?」
「ん?」
「姉さまは、自分の人生を歩んできた?」
「……何言ってんだい。芝居をしたのも、女王になるのも、全て私の意志だ。それが、私の人生じゃなくて何だって言うんだい」
「そう」
「……ねえエレーヌ」
「なに?」
「あなたのお母様の事なんだけどさ」
「……うん」
「どうやら、使われたのはエルフの毒だったみたいだ」
「エルフ……」
「そう、エルフの毒。だから国中の水のスクウェアを集めても、治せないみたいなんだ」
「……そう」
「すまないね、力になれなくて」
「大丈夫。母様を治す方法は、絶対見つけてみせる」
「そう、強くなったね」
「姉さまと才人、それからルイズのおかげ」
「ルイズ?」
「私の友達」
「そう、友達が出来たのか。それは良かった」
「うん」
「そうか、じゃあもう寝よう。明日は早いよ」
「うん。おやすみなさい。姉さま」
「おやすみ。エレーヌ」
二人は挨拶の後、眠りについた。
夜空に抱かれる双月の如く、二人の王女はベッドに抱かれて眠った。
空位の玉座を抱くガリア最後の夜が、更けていった。
次話は日曜の深夜辺りに投稿予定です。