空色の使い魔   作:アゾ茶

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前話を勢いで書き上げたツケが回ったようだよ!


第四話 復讐

 アナンシが討滅されたことにより、主を失った『ハイタイド』が消滅した。それまで水の結界に包まれていたヴェルサルテイル宮殿は、水の底にあったことが嘘のように、戦闘の跡だけを残して元の景色を取り戻した。

 

 才人が地面に降り立つと、プチ・トロワの方からタバサがこちらへと駆けてくるのが見えた。

 

 「サイトッ!」

 

 「タバサ、無事だったか!」

 

 そう言って才人はタバサと合流すると、タバサに異常がないか確認した。

 

 「なんともないみたいだな。それにしても、なんであんな危険な真似をしたんだ!建物の中で大人しくしとけって言っただろ!」

 

 タバサの無事を確認すると、才人はタバサを叱った。

 

 「……ごめんなさい。あなたが心配だったから」

 

 「いいじゃないか、結果うまくいったんだからさ。あんただって、私らが助けに来なけりゃ、あいつにやられてただろう?」

 

 謝るタバサの後ろから、追いついてきたイザベラが口を挟む。才人はそちらへ顔を向けると、ムッとして言い返す。

 

 「そもそもお前たちが出てこなけりゃ、捕まることもなかったんだよ」

 

 「だが、あのままじゃあ、攻めきれなかったのも事実だがな」

 

 そんな才人をカイムがあざ笑う。

 

 「カイム~、お前どっちの味方なんだよ」

 

 「知らん、俺は事実を言ったまでだ」

 

 「~っ!……はあ、助かったのは事実だ、認めるよ。ありがとう。正直、あの時あんたたちが来なけりゃ、ヤバかった」

 

 カイムに言い負かされた才人は、少し唸った後、負けを認め、イザベラたちに礼を言った。

 

 「まあ、何の相談もなしに行動した私にも非はある。悪かったね」

 

 少しバツが悪そうにして、イザベラも謝った。

 

 「タバサもゴメンな。叱ったりして」

 

 「あなたが無事だったから、いい。それに危険なことをしたと自覚はしていてる」

 

 タバサに向かって才人は謝り、タバサもそれを許した。

 

 「しっかしまあ、すごいもんだねえ、自在法ってのは」

 

 イザベラが辺りを見渡して言った。

 

 「あれだけあった水がきれいさっぱりじゃないか」

 

 自在法によって制御されていた水は、主の消滅とともに消え失せ、今では花壇の花にも水滴一つついていなかった。崩れたゴーレムの残骸や、足跡のみが、ここで戦闘があったことを物語っていた。

 

 「この分だと復興もすぐに済みそうだねえ。問題は、空の玉座をどうするかなんだけど」

 

 そう言ってイザベラはため息をついた。

 

 「そういえば今回のパターンだとどうなるんだ?アナンシが喰ってたっぽいから、やっぱりみんな記憶がないのか?」

 

 変則的な状況に、フレイムヘイズとしての経験が浅い才人は、疑問を口にする。

 

 「"狂瀾"が喰ってた上に、その"狂瀾"も討滅しちまったからな。綺麗さっぱりだろうぜ」

 

 カイムがそれに答えた。その言葉にイザベラはため息をついて頷いた。

 

 「そうなんだよ。あんたがあいつを倒してから、騎士団はわやくちゃでね。今は各団長たちに任せているけど、それもいつまで持つか。大臣たちも状況が分からないだろうし、早急にまとめ上げる必要がある」

 

 そう言ってイザベラは頭痛をこらえるように頭を抑えた。

 

 「でも、玉座に就くには……」

 

 「ああ、継承権を持ってないとダメだ。つまり、私かこの子が王位を継ぐ必要がある」

 

 言いかけた才人を遮り、イザベラは自分とタバサを指差して言った。指されたタバサも、始めから分かっていたようで、特に驚く風もなく頷いた。

 

 「問題は、どっちが王位を継ぐかってとこなんだけど……」

 

 「お前、前王の娘なんだろ?ならお前が継げばいいじゃん」

 

 イザベラの言葉に、才人は何言ってんだ、という風に指摘する。指摘されたイザベラは首を振る。

 

 「ところがそう簡単に事がいかなくてね。今の家臣団の認識は、私たちの祖父王が身罷ったあと、玉座は空位ままらしい。オルレアン公は亡くなってるし、父上に至っては存在さえ忘れられてる」

 

 「そっか、ジョゼフは最初からいなかったことになってるのか。それもそうか……。あれ?それだと今イザベラはどういう扱いなんだ?」

 

 「そう、それが問題なんだ。どうやら私は、亡きオルレアン公の娘で、エレーヌの姉ってことになってるみたいでね」

 

 「あー、そうなってんのか」

 

 「この短時間でよくそこまで把握したな」

 

 才人が納得したように頷き、カイムが感心したように言う。

 

 「カステルモールと"地下水"から聞き出したのさ。というわけで、今、私とこの子は姉妹で、第一王女と第二王女ってことらしい」

 

 「でもそれなら、尚の事イザベラが王位を継ぐべきなんじゃないのか?第一王女なんだろ?」

 

 「まあ、そうなんだけどね……」

 

 「なんだよ歯切れ悪いな」

 

 煮え切らない態度のイザベラに才人は首をひねる。元々イザベラは第一王女である。血縁こそ変われどその地位は変わっていないので、なぜこんなにも躊躇しているのかわからなかった。

 

 「……私は、イザベラ姉さまが王になるのがいいと思う」

 

 「……エレーヌ」

 

 王位継承の話になって、沈黙を保っていたタバサが口を開いた。イザベラは気まずそうにタバサを見る。

 

 「いいのかい?本当のオルレアン公の娘はあなたなのに、私が王位に就いてしまって」

 

 「かまわない。元々第一王女はあなた」

 

 「それはそうだけど……。エレーヌが王位に就きたいなら、それでもいいんだよ?」

 

 「私は器じゃない。それよりもイザベラ姉さまが王になった方が、私は嬉しい」

 

 「……わかった。そこまで言われちゃしょうがない。私が王になるよ」

 

 そう言ってイザベラは小さく笑った。

 

 「よしっ!話はまとまったな!ところでタバサ、これから俺たちどうするんだ?学院に帰るのか?」

 

 そう言って才人はタバサに尋ねる。

 

 「もう日も暮れてしまっている。今からでは帰れない。今日はリュティスに泊まる」

 

 淡々とタバサが答える。

 

 「でも、今から行っても宿はあるのか?」

 

 「心配ないよ。二人共、しばらくプチ・トロワに滞在するといい。いろいろ後処理もあるしね。歓迎するよ」

 

 「……いいの?」

 

 「今更何言ってんだい。それに、あなたにもやってほしい仕事があるしね。あ、北花壇騎士団の仕事じゃないよ?王女としての仕事さ。オルレアン領も復興させる必要があるしね」

 

 「わかった」

 

 そう言ってイザベラとタバサはお互いに笑いあった。最早二人の間にわだかまりは感じられなかった。

 

 「そうと決まれば早く行こうぜ。流石に疲れた。休みたい」

 

 「なんでてめえが仕切ってんだ、間抜け」

 

 「うるせー」

 

 そこに才人が空気を読まずん割って入り、カイムに罵られた。それを見て二人は再び笑いあった。

 

 

 

           ★★★

 

 

 

 アナンシ討滅から三日が過ぎた。その間、イザベラとタバサはお互い忙しく動き回っていた。家臣団を取りまとめ、宮殿の修復を指示し、戴冠式の準備をして、諸外国へ向けて報せも出していた。そんな中、才人とカイムは、アナンシによる被害の調査をしていた。

 

 「やっぱりそんなに歪みが感じられないってことは、あんまり人喰いをしてなかったんだな、あいつ」

 

 「らしいな。奴の言う物語とやらが関係しているんだろう」

 

 「まあ、自分で喰って登場人物減らすような真似はしないか」

 

 「おそらくな。だがここら辺がそうってだけで、他も同じだとは限んねえぞ」

 

 「他の場所で喰ってたか。"燐子"に襲わせるっていう手もあるしな。それに、他の"徒"もいるか確かめないと」

 

 「ああ、奴の言っていた"あの女"ってのも気になる。『君主の遊戯』のことにも触れていた以上、"徒"どころか"王"の可能性もでけえ」

 

 「あれのプレイヤーたちは[革正団]にやられたんじゃなかったか?」

 

 「だがアナンシの例もある。討ち漏らしはありえることだ」

 

 「どうにも厄介だな」

 

 「ふん、厄介じゃねえ乱獲者がいるものか」

 

 「それもそうだな」

 

 宮殿の周りの森で調査を続けながら、才人とカイムは相談し合っていた。

 

 「サイト」

 

 するとそこに、来客があった。タバサだ。公務のため、普段の魔法学院の制服ではなく、王族らしく、青く豪奢なドレスを身に纏っていた。

 

 「タバサか、何か用か?」

 

 初日こそ、豪華に着飾ったタバサにドギマギしていた才人も、三日目ともなれば慣れることができた。それでも、まだ少し緊張してしまうが。しかし、それよりも、公務で忙しくしているはずのタバサが、宮殿の外にいることに疑問を覚えた。

 

 「明日の戴冠式の後、竜篭でオルレアン領に寄ったあと、学院に帰るから、それを伝えに来た」

 

 「そうなのか、わざわざありがとな。でもそれぐらいメイドさんとかに頼めばよかったのに。タバサ、忙しいだろ?」

 

 「私なら構わない。それに……」

 

 「それに?」

 

 「あなたと、少し歩きたかった」

 

 そう言ってタバサは少し頬を少し染めて俯いた。

 

 「お、おう。そうか……あ、あーっと、じゃあ、その辺り歩こうか」

 

 タバサの言葉に、緊張して、吃りながら返事をすると、才人は歩き始めた。しかし、タバサは付いて来ない。

 

 「どうした?タバサ」

 

 振り返ると、タバサがこちらに向かって手を差し出していた。

 

 「手」

 

 「て?」

 

 「手を、握って欲しい」

 

 頬を染めたまま、少し目を逸らして言うタバサを見て、才人は顔が熱くなるのを感じた。

 

 (か、かわいい)

 

 完全に見蕩れていた。顔を赤くしたまま、才人は固まってしまう。

 

 「……」

 

 「……」

 

 手を差し出したままのタバサと、硬直したままの才人。しばらく沈黙が流れた。

 

 (おい……おい!)

 

 「うわあっ!」

 

 (いつまでボサっとしてんだ。さっさと動け)

 

 (わ、わかったよ)

 

 カイムに叱咤され、才人は再起動を果たした。

 

 舞踏会の時のようにぎこちなくタバサの手を取った。

 

 「あっ」

 

 「じゃ、じゃあ行こうか」

 

 恥ずかしさでタバサの顔を見れないまま、才人はタバサの手を握って森の中を歩き出した。

 

 「……」

 

 「……」

 

 二人の間に再び沈黙が降りる。

 

 (やばい、何話していいかわかんねえ)

 

 (本当に情けない奴だな、てめえは)

 

 (だって、今まで戦いばっかりでこんな経験したことなかったんだぜ)

 

 内心焦る才人に、カイムは呆れる。顔には出さないが、冷や汗を書いている才人は、自分の手が汗で湿っていないか心配になった。

 

 「……ありがとう」

 

 「え?」

 

 そんな中、突然タバサからお礼を言われ、才人はポカンとしてしまう。

 

 「仇を、討ってくれて」

 

 「あ、ああ、そのことか。別にタバサが礼を言う必要はねえさ。"紅世の徒"と戦うのは、俺たちの使命だからな」

 

 特段、気負った風もなく、才人は答える。二年前から"紅世の徒"との戦いは、才人にとっての日常と化していた。"大命"が宣言され、新世界ができた後はしばらくそれから遠ざかっていたが、それでも、気持ちはあの頃と変わりなかった。

 

 大切なものを守るために戦う。それこそが、才人が自らに課した使命だった。

 

 「……私は、ずっと仇を討つことを考えて生きてきた」

 

 「……」

 

 ぽつぽつと、タバサが語り始めた。才人はそれを黙って聞く。

 

 「魔法は使えなかったけど、騎士団の任務をこなして、戦い方を学んでいたのはそのため」

 

 「……」

 

 「でも、学院に入って、ルイズや、あなたと知り合って、復讐以外にも生き方があるのではないかと考えるようになった……。でも私の生き方の根本には、復讐があった」

 

 「……」

 

 「今回、王宮に呼ばれて、姉さまから話を聞いて、私はどうしていいかわからなかった。復讐する相手が、全く別のもの、私では到底敵わない相手だったなんて……」

 

 「……」

 

 心中を吐露するようにタバサは話す。珍しく饒舌なタバサに、才人は口を挟む風もなく、黙って耳を傾ける。

 

 「でも、あなたが戦ってくれた。私の代わりにあなたが私の仇を討ってくれた。私の使い魔であるあなたが」

 

 「……」

 

 「私の復讐は、これで終わった。ずっと望んでいたことが果たされた。姉さまとも仲直りできて嬉しい、はず、なのに……」

 

 そこでタバサは言葉に詰まる。今のタバサは、自分の気持ちがわからなかった。念願であった復讐が叶い、母のことを除けば、憂うことがなくなったはずなのに、嬉しくないわけではない、しかし予想していたほどではなかった。自分で仇を取ったわけではないからか、心が晴れ切らず、むしろ空虚になってしまったようだった。

 

 「……フレイムヘイズってのはさ、基本的には復讐者なんだ」

 

 今まで黙っていた才人が口を開く。

 

 「もちろんそうじゃない人もいるけど、基本的には"紅世の徒"に自分の日常を奪われた人間が、契約してなるものなんだ」

 

 「……」

 

 タバサが才人を見る。召喚した日の説明以外、自分に元の世界の話をしてくれなかった才人が、急に話を始めたことに、僅かな驚きを覚えた。

 

 「俺もさ、復讐が理由でフレイムヘイズになったんだ」

 

 「……ッ!」

 

 隠しきれない驚きが、タバサの口から漏れる。話に聞くフレイムヘイズの成り立ちを考えてみれば、驚くようなことでもないのだが、タバサはなんとなく、才人は例外であるように感じていた。目の前の少年が漂わせる雰囲気には、復讐者特有の、張り詰めた気配を感じなかったからか、いつも陽気な自分の使い魔に、復讐という言葉はあまりにもそぐわなかった。

 

 「旅行中に襲われて、友達が喰われて契約したんだ。そしてその場で、敵を倒しちまった。復讐を復讐って思う前に、がむしゃらに仇を取っちまった」

 

 「……」

 

 今度はタバサが聞く番だった。

 

 「その後、この世の本当のことと、契約の意味を知った……。へこんだよ。まさか存在が無くなるなんて思ってもみなかった。父さんも母さんも、俺のこと覚えちゃいなかった。散々泣いたし、後悔もした。しばらくして立ち直って、周りからは適応力があるって言われたけど、どうかな、事実かもしれないし、慰めだったのかもしれない」

 

 「……」

 

 「まあ、そんなこんなで、復讐を果たした結果、俺には何もなくなっちゃったわけなんだけど、でも、そのおかげで築けた関係もあるんだ。師匠や外界宿の人たちとか、他のフレイムヘイズたちとかさ、それに、こいつとかさ」

 

 そう言って才人は胸のバッジを指で弾いた。普段ならここで罵るカイムだが、何も言わなかった。

 

 「復讐は何も産まないとかさ、復讐のあとには何も残らないとかさ、色々言う人もいるけど、結局は自分がどうしたいかなんだ。俺はあそこで戦わなかったら、自分で自分を許せなかった、もちろん後悔もしたけどな。戦わなくてもきっと後悔してた。色んなものを失ったけど、それと同時に色んなものを得た。何より、新しく自分を始められた」

 

 「……」

 

 「復讐せずにいたら、ずっとそのことで後悔して、過去に囚われたまんまだったと思うんだ。復讐を終えたことで、ようやく踏ん切りがついて、新しく生きられる。そう思うんだ」

 

 「……」

 

 「だからさ、タバサもこれからは自分がしたいように生きればいいんだ。今すぐには無理かもしれないけど、ゆっくりでもいいから、自分の人生ってのを歩めばいいんじゃないかな?」

 

 「自分の、人生?」

 

 「ああ」

 

 「私の、人生」

 

 「何がしたい?」

 

 「母様を助けたい。母様を助けて、昔みたいに一緒に暮らしたい」

 

 「他には?」

 

 「ルイズやキュルケと友達みたいに遊んでみたい。街に出かけて買い物したり、お菓子食べたり」

 

 「それで?」

 

 「魔法が使いたい。ルイズの言ってた虚無の魔法。使えるようになって、御伽噺のような冒険がしてみたい。他にも、たくさん」

 

 「じゃあ、全部しよう。タバサのやりたいこと全部やろうぜ」

 

 「全部?」

 

 「ああ、全部だ。せっかくの人生なんだ。欲張ろうぜ。あれもこれも全部だ。俺が一緒に居てやる。一人じゃできないことは俺も手伝う。だからさタバサ、悲しそうな顔をしないでくれ。タバサにはいつも笑顔でいて欲しいんだ」

 

 「本当に?」

 

 「ああ、本当だ。『空裏の裂き手』の名に誓って約束する」

 

 「絶対?」

 

 「絶対だ」

 

 「……嬉しい」

 

 そう言ってタバサははにかんだ。それを見て才人も笑った。

 

 「よし、それじゃあそろそろ帰ろうぜ。いい加減戻らないと、イザベラに怒られちまう」

 

 「うん」

 

 そして二人は来た道を戻り始めた。そこに来た時のような固さはなく、足取りも軽く少し駆け足で。

 

 いつの間にか、繋いでいた手のぎこちなさも、無くなっていた。

 

 

 

           ☆☆☆

 

 

 

 「なんだい、キスの一つもしないのかい」

 

 プチ・トロワの王女の部屋で、公務をさばきながら、ガーゴイルの目を通して二人の様子を見ていたイザベラがぼやいた。

 

 「せっかくあの子の仕事を代わってやって、行かせてやったのに面白くない」

 

 「一国の王女、いや、明日には女王になろうという御方が、出歯亀とはいただけませんな」

 

 机に置いた"地下水"が苦言を呈する。

 

 「うるさいねえ"地下水"。こっちは公務続きで退屈してんだ。このくらいの息抜き、多目に見るんだよ」

 

 「それにしてもいい趣味とは言えません。もっと自覚を持って頂けませんと」

 

 イザベラの裁可待ちの書類を手にしながら、カステルモールも諌める。

 

 「あんたも口うるさいね、カステルモール。なにさいい子ぶっちゃって、あんただって気になるくせに」

 

 「……そのようなことはございません。それよりも殿下、もう芝居を打つ必要もなくなったのです。言葉遣いを改められては?」

 

 「ふん、いらん節介だよ。こっちはこの言葉遣いを十年以上続けてるんだ、今更直せるものでもないさ」

 

 「そんなことをおっしゃって、本当は芝居を見破られていたのが恥ずかしくて、今更直そうにも直せないだけでしょう」

 

 「本当にうるっさいねえ"地下水"!今すぐ黙らにゃいと、溶かして鉄くずにしちまうよ!」

 

 「噛みましたな」

 

 「噛みましたね」

 

 「~ッッ!……私が即位した暁には、あんたらを即刻、侮辱罪で処断してやる」

 

 「おお恐ろしや」

 

 「それはそれとしてイザベラ様。追加のご公務をここに置いておきます」

 

 「はあっ!?公務はこれで終わりだろう!」

 

 「シャルロット様のご公務を肩代わりなされた分、増えております。それに明日が戴冠式ですので今日中にやる分も増えております」

 

 「……どれぐらいある?」

 

 「日付が変わる頃には終わるかと」

 

 「……王になんて、なるんじゃなかった」

 

 「そう思わぬ王はいないのです」

 

 多くの公務に苦しむイザベラをよそに、日は暮れていくのであった。

 

 

 

           ☆☆☆

 

 

 

 「つ、疲れた……」

 

 「姉さま、大丈夫?」

 

 なんとか日付が変わる前に公務を終わらせ、イザベラは寝室へと向かった。そこには既に寝巻きに着替えたタバサが先にベッドに入っていた。

 

 アナンシ討滅以来、二人はこうして、同じベッドで寝ていた。その姿はさながら本物の姉妹のようであった。

 

 「なんとかね」

 

 侍女を呼び出し、着替えをさせながらイザベラは答える。

 

 「よいしょっと、あー、ベッドってこんなに柔らかかったんだねえ」

 

 着替えを終えたイザベラがベッドへ入ってきた。二人で寝てもなお余るベッドに、並んで横になる。

 

 「明日は戴冠式」

 

 「そうだね、それが終われば私も女王だ」

 

 「……どんな気持ち?」

 

 「一国を統べる権力が手に入るんだ。悪い気はしないさ」

 

 「そう」

 

 「それよりあなたはどう?」

 

 「私は、これから私の生き方を探す」

 

 「そう。いいことだ」

 

 「姉さまは?」

 

 「ん?」

 

 「姉さまは、自分の人生を歩んできた?」

 

 「……何言ってんだい。芝居をしたのも、女王になるのも、全て私の意志だ。それが、私の人生じゃなくて何だって言うんだい」

 

 「そう」

 

 「……ねえエレーヌ」

 

 「なに?」

 

 「あなたのお母様の事なんだけどさ」

 

 「……うん」

 

 「どうやら、使われたのはエルフの毒だったみたいだ」

 

 「エルフ……」

 

 「そう、エルフの毒。だから国中の水のスクウェアを集めても、治せないみたいなんだ」

 

 「……そう」

 

 「すまないね、力になれなくて」

 

 「大丈夫。母様を治す方法は、絶対見つけてみせる」

 

 「そう、強くなったね」

 

 「姉さまと才人、それからルイズのおかげ」

 

 「ルイズ?」

 

 「私の友達」

 

 「そう、友達が出来たのか。それは良かった」

 

 「うん」

 

 「そうか、じゃあもう寝よう。明日は早いよ」

 

 「うん。おやすみなさい。姉さま」

 

 「おやすみ。エレーヌ」

 

 二人は挨拶の後、眠りについた。

 

 夜空に抱かれる双月の如く、二人の王女はベッドに抱かれて眠った。

 

 空位の玉座を抱くガリア最後の夜が、更けていった。

 

 




次話は日曜の深夜辺りに投稿予定です。
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