空色の使い魔   作:アゾ茶

3 / 13
第二話 ゼロ

 

 

 草木も眠る丑三つ時、という言葉が異世界であるここ、ハルケギニアにも適用されるかはわからないが、夜も半ばのこの時間帯は静まり返っていた。夜行性の獣や、幻獣のみ活動する時間で、他の生物は皆眠りに入っている。それはトリステイン魔法学院も同じことで、その学院の寮の一室、タバサの部屋にいるフレイムヘイズ、『空裏の裂き手』平賀才人とその契約した紅世の王“觜距の鎧仗”カイムだけが、その例外であった。

 

 「一体何のつもりだ。間抜け」

 

 「何のつもりって、何がだよ」

 

 カイムの問いに才人は何の事だかわからない、といった風に返す。

 

 「あの小娘の使い魔になると言ったことだ」

 

 「そのことか」

 

 才人はベッドで眠るタバサに目をやる。部屋に戻った後、一緒のベッドを使っても良いというタバサに、才人は、フレイムヘイズは特段眠る必要はない上に、眠るとしても床で問題はないと断り、部屋の隅で胡坐をかいていた。

 

 「俺にもわかんねえ」

 

 「わからんだと?考えなしに言ったのか馬鹿野郎」

 

 「あの時は気づいたらそう言ってた。なんでかな、そう言わなきゃいけない気がしたんだ」

 

 「惚れでもしたか、小娘相手に」

 

 嘲るような、からかうようなカイムに、才人はそんなんじゃねえよと返す。

 

 「忠誠心っていうのかな。あの時は心の内からそんな気持ちが湧いてきたんだ」

 

 「忠誠心?お前が?フレイムヘイズとしての使命の自覚もなかったのにか」

 

 「俺にもわかんねーよ。ただ、そう感じただけだ」

 

 「ふん。例の魔法とやらで操られているんじゃないのか」

 

 「そうかもしれねえ。ただ……」

 

 「ただ?」

 

 「悪くない気分だ」

 

 「ふん」

 

 カイムはそう鼻を鳴らすと『清めの炎』を使った。

 

 「うわっ!いきなり何するんだよ!」

 

 フレイムヘイズとして何百回も『清めの炎』を経験していたため、流石に慣れていた才人であったが、いきなり使われるのは心臓に悪い。

 

 才人の抗議の声を聞き流し、カイムは尋ねる。

 

 「どうだ?変化はあったか」

 

 「どうって、特に何もないけど」

 

 「精神錯乱の類ではないのか、それとも魔法とやらには効果がないのか」

 

 「まあいいじゃねーか。しばらくこのままでも。新世界が出来て、俺たちは殆どお役御免だ。焦ることはないさ」

 

 考え込むカイムに、才人は楽観的に返す。

 

 「間抜けが、お前は楽観しすぎる。そんなことだから契約とやらをされる隙を見せるんだ」

 

 「あれは仕方ないって。いきなりキスされるなんて思わねーよ」

 

 「何が仕方ないだ。あれが致命的な自在法だったらどうするつもりだったんだ」

 

 「それは、"徒"でもない普通の人間だと思ってたから……」

 

 「それを油断というんだ間抜け。フリーダーの奴に見られていたらまたどやされるところだったぞ」

 

 「その師匠とも当分は会うことはないさ。平気だって」

 

 「俺はそういう話をしてるんじゃない。お前の腑抜け具合を言ってるんだ」

 

 「わかってるって。悪かったよ。これからは気を付けるって」

 

 「ふん。だといいがな」

 

 「……」

 

 「……」

 

 そう言ったのち二人は黙る。

 

 夜の帳も降りきった今、聞こえるのは夜行性の獣の鳴き声だけだ。

 

 「なあ」

 

 沈黙を破り才人はカイムに話しかける。

 

 「なんだ」

 

 「怒ってるか?俺が使命を差し置いてタバサの使い魔になるって言ったこと」

 

 「ふん。別に怒っちゃいねえさ。ただ、お前の行動が突飛過ぎて付いて行けねえだけだ」

 

 「そのことなんだけどさ」

 

 才人は珍しく真面目な声色で語りだす。

 

 「これも何かの運命だと思うんだ。この世界に呼ばれて、タバサの使い魔になったのは」

 

 「運命だと?」

 

 「ああ、思えば、俺の人生ってそういうことばかり起こってるじゃんか。ある日突然"徒"に襲われて、そのままフレイムヘイズになって、かと思えば、すぐに決戦が起こって、使命も何も自覚のないまま、フレイムヘイズとしての役目も終わっちまった。そして今度は異世界に召喚されて、使い魔になれときたもんだ。これって何かの運命だと思うんだ」

 

 「驚いたな。お前はいつから運命論者になったんだ?そういうことをお前は嫌っていると思っていたが」

 

 「確かに前まではそうだったさ。でもな、ここまで来たらさすがに信じるしかないかなって」

 

 「ふん。それで大人しく運命に流されようって訳か。お前にしては随分と殊勝なことだ」

 

 「流されるんじゃねえよ。突っ走るんだ」

 

 「なんだと?」

 

 「ああ。もう運命に逆らうようなことはしない。かといって、ただ流されるだけなのはプライドが許さねえ。だったらさ、突っ走るんだ。俺を巻き込む運命を、突っ走って突っ切って、そんで、突き抜けてやる。俺に襲い来る運命を、俺は全部受け入れる。受け入れて、全力で楽しんでやる」

 

 「ふん」

 

 「呆れたか?」

 

 「まさか。ただ俺の契約者は、揃いも揃って使命とは別のことに心血を注ぐのかと笑っただけだ」

 

 「悪いな、付き合わせて」

 

 「……馬鹿野郎が。さっきも言っただろう、俺たち"徒"にとっちゃ、瞬きの間よ」

 

 「……ありがとな。相棒」

 

 「ふん」

 

 その後、二人は今後の行動について、夜が明けるまで語り合った。

 

 

 

           ★★★ 

 

 

 

 「あなたの力は目立ちすぎる」

 

 朝になって、起きたタバサと食堂へと移動しながら今後の方針を話し合う。

 

 目下最大の問題は、才人のフレイムヘイズとしての力をどうするか、だった。

 

 「やっぱそうだよなあ」

 

 「アカデミーに知られたら、厄介」

 

 「大抵の敵なら蹴散らせるぜ?俺」

 

 「私が困る」

 

 「……りょーかい」

 

 「当然だ間抜け」

 

 アカデミーに目をつけられないよう、異能をなるべく隠す方針となった。不承不承といった才人を、カイムが罵る。

 

 ちなみにカイムがしゃべることについては、インテリジェンスバッジということにしておけば問題ない、とのことだった。

 

 「ここでお別れ」

 

 食堂を前にして、タバサが切り出す。

 

 「どうして?中まで付いて行かなくていいのか?」

 

 「アルヴィーズの食堂には、貴族以外は入れない。あなたは厨房で食べて」

 

 「俺はフレイムヘイズだから、食わなくても大丈夫なんだけどな。けどまあ、食えるなら食っとくか」

 

 「また授業で」

 

 そう言って別れ、タバサは食堂へ、才人たちは厨房へと向かっていった。

 

 

 

           ☆☆☆

 

 

 

 「ねえタバサ?ちょっといいかしら」

 

 「なに」

 

 食堂へ入り、席に着き、本を読み始めたタバサに話しかけてくる少女がいた。ルイズだ。

 

 『ゼロ』と揶揄され、皆から敬遠されるタバサに、ルイズは何かと構って来るのであった。

 

 最初のころは、何が目的かと警戒していたタバサであったが、ルイズに悪意がないことを知ると、徐々に警戒を解き、今では普通に話を交わす友人といえる仲となった。

 

 「あなたの使い魔、なんて言ったかしら、えーと」

 

 「ヒラガサイト」

 

 「そうそう、そのヒリガル・サイトーン。彼はどこ?」

 

 「厨房。食堂には入れないから」

 

 「そういえば彼、平民だったわね」

 

 「サイトに何か用?」

 

 「用って程の事じゃないけど、ちょっと聞きたいことがあったのよ。まあ、居ないならいいわ、別の機会にしましょ。ところでタバサ、隣空いてる?よければ一緒に食べましょ」

 

 「構わない」

 

 そう言って隣へと座るルイズに、タバサは目もくれない。そんなタバサに気を悪くした風もなく、ルイズは話を続けた。読書中のタバサが、他人に目を向けることなど殆どないことは、短くない付き合いの中でルイズは学んでおり、気にしなかった。

 

 「あなたの使い魔ってどこにルーンが出たんだっけ」

 

 「左手」

 

 「そう、故郷はどこだって言ってた?彼、とても珍しい名前だけど、ハルケギニアの出身じゃないわよね?」

 

 「……東の方だと言っていた」 

 

 素直に異世界だとは言えず、タバサはそうごまかした。才人にも、出身を聞かれたらロバ・アル・カリイエだと答えるよう言っていた。

 

 「それってもしかしてロバ・アル・カリイエ?」

 

 「おそらくそう」

 

 「ふーん」

 

 「どうして?」

 

 「いえ、人間の使い魔なんて珍しいじゃない。だから気になったのよ」

 

 「そう」

 

 そんな二人の会話に割って入る者がいた。

 

 「あーら!お子様が二人並んでると思ったら、ルイズにタバサじゃない。おはよう、二人とも」

 

 「おはよう、キュルケ。何の用?」

 

 「……」

 

 赤い髪と豊満な体を持つ少女キュルケだ。

 

 投げやりに挨拶を返すにルイズに無言のタバサ。そんな二人の様子を気にもせずにキュルケは近寄ってくる。

 

 「そんなに邪険にしないでよルイズ。私とあなたの仲じゃない」

 

 「ヴァリエールとツェルプストーの間にあるのは因縁だけよ。それに私、ゲルマニア炎使いは品がなくて嫌いなの"微熱"のキュルケ」

 

 「あら、あなたの風もお世辞にも品があるとは言えないわよ?"爆風"のルイズ」

 

 「あんですって」

 

 「事実じゃない。何度杖を交わしたと思ってるのよ」

 

 「今からその回数増やしてもいいのよ、ツェルプストー」

 

 「望むところよ、ヴァリエール」

 

 そう言って火花を散らす二人の間に、実際に火花が起き、小さな爆発を起こした。

 

 「わっ」

 

 「きゃっ」

 

 「……貴族同士の決闘はご法度」

 

 タバサだ。自分を挟み言い合う二人にうんざりしたのだ。

 

 「いやねえタバサ。本気じゃないわよ」

 

 「そうよ、こんなの挨拶みたいなものよ。本気で決闘するわけないじゃない」

 

 「説得力がない」

 

 事実二人はこれまで何度も決闘騒ぎを起こしている。風のトライアングルと火のトライアングル、二人の決闘は毎度周囲に甚大な被害をもたらす。かといって二人は本気で仲が悪い訳ではなく、悪友のような関係だ。

 

 盛大に周りを巻き込んで、あっけらかんとしているトライアングル二人に、周りの生徒たちは何も言えずただ被害が来ないのを祈るばかりだった。

 

 「それにしてもタバサ。あなたその爆発使いこなしてるわねえ。ルイズよりあなたの方が"爆風"を名乗ったた方がいいんじゃない?」

 

 「ただの失敗魔法。今のはコモン・マジック。系統魔法なら威力も制御できない」

 

 「タバサの爆発は、わたしの爆風とは毛色が違うわよ。わたしのは火花散らないもの」

 

 「そうよねえ、そういえばあなたたち、使い魔は何を召喚したんだっけ?」

 

 「人間」

 

 「わたしは風竜よ。そういうあんたは?」

 

 「私は火竜山脈のサラマンダーよ。ねえタバサ、あなたほんとに人間なんて召喚したの?前からあなた変わってると思ってたけど、使い魔も変わったの呼んだわね」

 

 「余計なお世話」

 

 「タバサ、キュルケも悪気があって言ってるわけじゃないのよ。キュルケも言葉には気をつけなさいよ。あなたの悪い癖よ?それ」

 

 「あなたの説教臭さもね。ルイズ。まあ、私も悪かったわ、ごめんねタバサ、からかうつもりはなかったのよ」

 

 「別にいい」

 

 「さ、それじゃあ早いとこ朝食を食べちゃいましょ。じゃないと授業に遅れちゃうわ」

 

 

 

 

           ★★★

 

 

 

 「それでは今から皆さんに『錬金』をやってもらいましょう」

 

 教壇に立ったミセス・シュヴルーズという中年女性のメイジがそう言う。

 

 朝食が終わり、タバサと合流した才人は、一緒に教室で授業を受けていた。

 

 「いやあ、魔法ってのもすごいもんだなあ」

 

 「自在法とは大きく違うな」

 

 才人とカイムはタバサから系統魔法の説明を受け、シュヴルーズが行った『錬金』に目を丸くしていた。

 

 数々の自在法を目にしてきた才人たちにとっても、魔法はそのどれとも類することのないものであったため、新鮮な気持であった。

 

 「なあ、タバサもあれできるのか?」

 

 「私にはできない」

 

 「なんで?」

 

 「……」

 

 黙るタバサを才人は不思議そうに見る。

 

 「ミス・タバサ、私語が目立つようですね。それではあなたにやってもらいましょうか」

 

 話すタバサを見咎めて、シュヴルーズは指名する。

 

 「お、タバサ呼ばれたぞ、行って来いよ」

 

 「誰のせいだ間抜け」

 

 才人が促し、それをカイムが罵るが、タバサは立ち上がらない。

 

 「ミス・タバサ!どうしたのですか?」

 

 シュヴルーズが再び呼びかけると、キュルケが困った声で言った。

 

 「先生」

 

 「なんですか?ミス・ツェルプストー」

 

 「やめておいた方がいいと思いますけど」

 

 「なぜです?何か理由でも?」

 

 「あの子は『ゼロ』です」

 

 キュルケの言葉にシュヴルーズは息をのむ。

 

 『ゼロ』の二つ名に彼女はトラウマがあった。11年前、彼女が担当した生徒の中にもそう呼ばれた生徒がおり、その生徒に今回のような実演をさせてみたところ、散々な結果に終わったのだった。

 

 しかし、その子とタバサは別人だ。その子は最後まで普通の系統魔法は扱えず、学院長権限で特別に卒業していったが、タバサもそうとは限らない。自身のトラウマから、生徒の芽を摘むようなことはシュヴルーズはしたくなかった。

 

 「確かにミス・ヴァリエールの姉君、エレオノールさんは最後まで『錬金』もできませんでした、しかし彼女は彼女、ミス・タバサはミス・タバサです。失敗を恐れていては前へ進めません。さあ、ミス・タバサ、やってごらんなさい」

 

 「……わかりました」

 

 「不安なら俺もついてってやるよ」

 

 「お前がいたからなんになるんだ。間抜け」

 

 タバサは立ち上がり、教壇へと歩いて行った。才人たちもその後を付いて行く。

 

 途端に周りの生徒たちは机の下に隠れだす。シュヴルーズも祈るような面持ちでタバサを見つめる。

 

 「おい、何か変だぞ」

 

 「みたいだな」

 

 才人とカイムも、異様な雰囲気を感じ取り警戒しだす。

 

 「よいですか、ミス・タバサ。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです。肩の力を抜いて、決して緊張してはいけませんよ」

 

 こくりとタバサは頷くと、手にした杖を掲げた。

 

 そしてそのままルーンを唱え、杖を向ける。

 

 その瞬間、机ごと石ころは爆発した。

 

 「ッ!!」

 

 咄嗟に才人はフレイムヘイズの瞬発力で、タバサとシュヴルーズを抱え教室の後ろまで飛び退く。

 

 「   ッ!    ?」

 

 突然のことに才人は困惑するが、声が出ていないことに気付き更に困惑する。

 

 教壇周辺は大変なことになっていた、教壇は粉々になり、黒板は割れてしまっている。

 

 しかし、爆発の規模に比べて被害は少なかった。本来なら教室中が滅茶苦茶になっていても、仕方のないレベルの爆発であったにもかかわらずだ。思えば、爆音も聞こえなかったと才人は気づく。

 

 「         のか?あ、しゃべれる」

 

 才人は疑問を口にするが、その答えはすぐに返ってきた。

 

 「ふう、ナイスタイミングよキュルケ」

 

 「あなたもね、ルイズ」

 

 ルイズとキュルケだった。

 

 二人は結果を予想しており、ルイズが『エア・シールド』を、キュルケが『サイレント』をタイミングを合わせて使ったのだった。

 

 そのおかげで被害は最小限に抑えられた。

 

 「なるほどな。だから『ゼロ』か」

 

 納得したようなカイムの声に、タバサはわずかに顔を顰め、唇を噛む。

 

 才人も己の主人が何故『ゼロ』と呼ばれているのかを理解した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。