空色の使い魔   作:アゾ茶

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第四話 買物

 ギーシュとの決闘から一週間と少しの日が経った。その間才人は特に問題を起こすこともなく、タバサの使い魔としての生活を送っていた。もっとも、タバサは自分のことは大体自分でやってしまうため、才人の仕事はほとんどなかった。なので、才人は日がな一日、ガンダールヴの力やこの世界のことを調べたり、"存在の力"を操る鍛錬を行ったりして過ごしていた。

 

 変わったことといえば、厨房に食事をもらいに行く度に、コック長であるマルトーをはじめとしたコックたちや、シエスタたちメイド一同から『我らの剣』と熱烈な歓迎を受けるようになったことと、キュルケから積極的にアプローチを受けるようになったことだろうか。

 

 魔法も使わずに貴族を倒した才人は、学院で働く平民たちから圧倒的な支持を得た。今では学院内で平民と会う度、尊敬の眼差しで見つめられる。才人は毎度、むず痒い気持ちになりながらやり過ごしていた。

 

 極めつけはキュルケだ。なんでも、ギーシュのゴーレムを事も無げに切り捨てた姿を見て、才人に惚れたらしい。決闘が終わった数日後の夜、キュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムに誘われて部屋に行くと、キャミソール姿のキュルケが才人を誘惑してきたのだ。突然のことに才人は戸惑い、キュルケに落ち着くよう求めたが、キュルケは止まらなかった。そのまま場の雰囲気に流されそうになった時、キュルケの恋人を名乗る男たちが現れ、争いを始めた。その混乱に乗じ、才人は逃げ出した。もちろんまんまと罠にはまった不甲斐なさに対するカイムの罵倒付きで。

 

 それ以外は決闘前と何も変わらなかった。決闘騒ぎを起こして、目だったことによるタバサからのお咎めもなしである。才人はそれが不思議だった。いつものタバサなら、言いつけを破ったサイトの頭を、己の杖で小突くぐらいのことはする。フレイムヘイズの才人にとって、そのことで痛みを感じることはないが、戒めに感じることはある。そのため今回も何発か殴られる覚悟ではあったのだが、決闘の結果をタバサに告げたら「……そう」とだけ呟き、あとは読書に戻ってしまった。もちろん異能を使わなかったこと、ルーンの力のことを説明したのだが、それでも特段変わった反応はなく、暖簾に腕押し状態であった。とうとう愛想を尽かされたのか、とサイトはなぜ自分がこんなにも焦っているのか不思議なほどにうろたえ、ここ数日悶々と過ごしていた。カイムはそんな才人を見て、己の契約者の不甲斐なさを嘆いていた。

 

 もちろんタバサが才人に愛想を尽かしたわけではない。これには訳があった。

 

 

 

 

           ☆☆☆

 

 

 

 タバサは悩んでいた。自分の使い魔の異世界人、平賀才人のことである。

 

 才人がギーシュとの決闘の時に見せた力について、決闘の後、ルイズから質問を受けた。

 

 彼はつい先日、『青銅』のギーシュと決闘し、勝ってしまった。決闘の前、自分は才人を叱り、彼が異能の力を使わないか監視するために、群集に混じって決闘を見ていた。結果、以前自分に見せた異能の力を使わなかったものの、剣一本で青銅でできたゴーレムを切り刻うという離れ業を見せた。そのことについて問い正すため、彼に近づこうとしたが、その前にルイズに捕まってしまった。

 

 ルイズに捕まり、そのまま彼女の部屋まで『レビテーション』で運ばれた。何事かと抗議する自分をあしらい、ルイズは決闘の時に見せた才人の力について質問を始めた。

 

 「ねえタバサ、あなたの使い魔の事なんだけど、さっきのあの力は何?」

 

 「……わからない」

 

 タバサは嘘をついた。異能の力こそ使わなかったものの、タバサは才人がフレイムヘイズとしての膂力で、あんな離れ業を行ったのだと考えていた。しかしその予想は半分正解で半分間違いであるのだが、タバサはそのことを知る由もない。そのためタバサはフレイムヘイズの力を隠すため嘘をついた。

 

 内心、いきなり核心について質問されたことに動揺していた。

 

 「そう。あなたは彼の主人だから、彼の力について何か知ってるかと思っていたけど、違ったのね」

 

 「そう」

 

 タバサは心底心当たりがないといった様子を取り繕い、心の内の動揺をいつもの無表情の下に隠す。

 

 「……この子はまだ力に目覚めきってないみたいね。今ここで説明してもいいけど、その前に姉さまに指示を仰いだほうがよさそうね……」

 

 そのため、ルイズが何事か呟いたのをタバサは聞き逃した。

 

 「なに?」

 

 「いいえ、なんでもないわ。それにしてもあなたの使い魔、すごいわね。ドットとは言えメイジに勝っちゃうなんて。もしかしてあなたの使い魔、噂に聞く『メイジ殺し』ってやつなのかしら?」

 

 「そうかもしれない」

 

 「それに剣を握った時、ルーンが光ってたわね。あれが才人のルーンの力なのかしら?」

 

 「ルーン?」

 

 「あら?あなた気づかなかったの?剣を握った時、わずかだけど左手のルーンが光ってたわよ?それにあの剣捌き、まるで伝説に出てくる『ガンダールヴ』みたいね」

 

 「『ガンダールヴ』……」

 

 「そっ。あなたも知ってるでしょ?始祖の使い魔。まあ、まだそうと決まったわけじゃないけど、とにかくすごい使い魔なのは間違いないわね。大事にした方がいいわよ」

 

 「わかってる」

 

 そう言って、タバサは黙ってしまった。それを見てルイズは微笑み、お茶にしましょ、と言って席を立った。

 

 そのままルイズの部屋でお茶をしてタバサは部屋に戻った。それから数日、ルイズに才人が『ガンダールヴ』みたいだと言われたことで悩んでいたのだ。そして、才人から説明を受けたことにより疑念は深まり、軽率な行動をした才人を叱ることも忘れていたのだ。

 

 そして虚無の曜日の前日の夜、鍛錬を終えて部屋に帰ってきた才人にタバサは切り出した。

 

 「明日、買い物に行く」

 

 「買い物?」

 

 「そう」

 

 「随分急だな。何を買うんだ?」

 

 「あなたの武器」

 

 「俺の武器?なんで?」

 

 「あなたは言った。武器を持った途端、身体能力が上がったと。そしてそれは恐らくルーンの力だと」

 

 「ああ」

 

 「なので、あなた専用の武器を買う。そうすれば、その力だけで戦っていける。あの力を隠したまま」

 

 「……それもそうだな」

 

 「明日は朝から馬で行く。今日はもう休む」

 

 「お、おう」

 

 「おやすみ」

 

 「お、おやすみ」

 

 怒涛の勢いでタバサは言い切ると、ベッドに入ってしまった。なんだかよくわからないけど、勢いに押し切られた才人は、部屋の隅に行き座り込んだ。

 

 しばらく、才人とカイムは何事か話していたが、どうやらすぐに眠りについたようだった。才人の寝息が聞こえるのを確認すると、タバサは目を開け、起き上がった。そのまま才人を見つめて、考える。

 

 思えば、彼を召喚してからの自分は変だった。誰にも頼らない、そう決めたはずなのに召喚当日から気を許しすぎているように思える。いくら自分の使い魔であるとは言え、少し軽率すぎる。今回の決闘だってそうだ。もっと厳しく言いつけないとダメなのに、叱るどころか、武器まで買い与えようとしている。ルイズに言われたことも関係しているけれど、それ以外の思いも、確かにあった。

 

 タバサはベッドから降り、忍び足で才人に近づくと、床に膝と手を付き、寝ている才人を覗き込む。

 

 「あなたは、何?」

 

 答えを期待しない問いを、タバサは漏らす。

 

 「あなたと私は、全然違うはずなのに、どこか似ているように思える」

 

 無口な自分と、明るい彼。昔の自分ならともかく、今の自分がどこか共感してしまうのは不思議だった。

 

 「フレイムヘイズって、何なの?あなたはなんで、戦士になったの?」

 

 フレイムヘイズについてタバサは、異界から来た化物と戦う戦士であり、復讐者だと教えられた。しかし目の前の少年が復讐者であるなんて、自分にはとても思えなかった。戦士だということは、このあいだの決闘でよくわかった。ギーシュを圧倒したあの剣技は、ルーンの力もあったとは言え、とても綺麗で、自分も思わず見とれてしまった。

 

 熱に浮かされたようにタバサは眠る才人を見つめ、知らず知らずのうちに、その顔に手を伸ばしていた。

 

 尋常ならざる力を持ちながら、自分とそう変わらないであろう年頃の、あどけなさの残る彼に、触れてみたいと思った。

 

 「何をしている」

 

 触れるまであと数サントというところで、眠る彼の胸元から上がった声にタバサは押しとどめられる。

 

 「ッ?!」

 

 「眠れないのか、この間抜けに何の用だ」

 

 「わ、たしは……」

 

 「ふん。さっきからブツブツと何か言ってたな。そんなにコイツのことが気になるか」

 

 「……」

 

 「なあ嬢ちゃん。お前が何かを抱えてるってことは、俺もこの間抜けもわかってる。だがそれを詮索するような真似はしねえ。個人の事情ってやつは、他人が軽々しく踏み込んでいいものじゃねえからな」

 

 「……」

 

 「だがな、それはコイツも一緒だ。フレイムヘイズってやつは、多かれ少なかれ、厄介な事情を抱えてる。しかもそれは、面倒誠な事にえらく繊細ときたもんだ。だから俺たちフレイムヘイズの間でも、契約時の事はタブーだ。いくら嬢ちゃんがコイツの主になったとは言え、そう易々とは答えらんねえ。納得いかねえだろうが、今日は引きな」

 

 「……そんなつもりでは、なかった」

 

 「だろうな。ああ、わかってるとも。だから今日は引け。このまま付き合いが続けば、いずれコイツから切り出す。それまでは嬢ちゃん、何も聞かないでくれねえか」

 

 「わかった」

 

 「この間抜けと違って、聞き分けがよくて助かるぜ。じゃあ今日はもう寝な。お前たち人間は、寝ないとロクに動けねえだろ」

 

 「そうする」

 

 そう言ってタバサは、立ち上がり、ベッドへと戻った。

 

 「ああ、それと……」

 

 ベッドに入り込むタバサに、カイムは、追って言葉をかける。

 

 「あんたの事情ってやつも、いずれ時が来たらコイツに教えてやってくれ。こう見えてコイツは、結構気にしてる」

 

 「……わかった。いずれ、時が来たら」

 

 「ふん」

 

 そう言って、カイムは黙ってしまった。

 

 そんなカイムを見て、なぜ才人が彼をいい奴と評したか、何となくわかった気がした。

 

 そしてタバサは今度こそ、眠りにつくのだった。

 

 

 

           ☆☆☆

 

 

 

 翌日、タバサたちが、朝早く起きて、学院を出立した後、それとは関係なく、趣味の編み物に興じていたルイズの部屋の扉を、慌ただしく叩く者がいた。キュルケだ。ルイズは、うんざりした顔をすると、『サイレント』を唱えた。しかし、キュルケは、ルイズが居留守を使っているのを察し、『アンロック』を唱えて、部屋に入り込んできた。

 

 ずかずかずかと、ルイズの目の前までやってきたキュルケは、ルイズの方を掴み、揺さぶり始めた。そしてパクパクと、口を動かす。何やら喋っているようであるが、『サイレント』が発動しているため、聞こえない。それに気づいたキュルケが、より一層揺さぶる力を強くする。流石にたまらなくなったルイズは『サイレント』を解いた。

 

 その途端、キュルケは早口にまくし立てる。

 

 「ルイズ!竜を出して!ダーリンたちを追いかけるのよ!」

 

 「あによ、ツェルプストー」

 

 「ルイズ、恋よ!恋なのよ!」

 

 「あんた年中発情してるじゃない」

 

 「発情じゃないわ!恋よ!ダーリンがタバサと馬に乗って出かけたの!あなたの竜じゃないと追いつかないのよ!」

 

 「なんでヴァリエールの私が、ツェウプストーのあんたの恋路を手伝わなきゃいけないのよ。余所でやって頂戴」

 

 「ルイズ?、あたしたち友達じゃない」

 

 「友達なら私の趣味の時間の邪魔しないで」

 

 「いいじゃない、小物入れなんていつでも編めるじゃない、今はあたしを助けてよ?」

 

 「帽子よこれ」

 

 「あら、ごめんなさい。てっきり小物入れだと」

 

 「帰って頂戴」

 

 「ごめんってば、今度編み物教えてあげるから」

 

 「結構よ、あなたに教わることなんてないわ」

 

 「そう言わずにお願いよルイズ」

 

 「あーもう、わかったわよ。わかったから離れて頂戴」

 

 「やった。流石ルイズ」

 

 そう言ってキュルケは離れる。そして解放されたルイズは立ち上がり、窓際に寄って窓を開け、口笛を吹く。

 

 すると、一頭のウィンドドラゴンが、窓際まで身を寄せてきた。

 

 ルイズの使い魔、シルフィードだ。

 

 シルフィードが来たのを確認すると、ルイズは窓際から、シルフィードに飛び乗る。その後にキュルケも続く。

 

 「いつ見てもあなたのシルフィードは素晴らしいわね」

 

 「当然でしょ。この私の使い魔だもの」

 

 褒めるキュルケに、なんてことはないとルイズが返す。

 

 「馬2頭を追いなさい。食べちゃダメよ」

 

 ルイズの命令に、シルフィードは一声鳴くと、空高く舞い上がった。

 

 

 

          ☆☆☆

 

 

 

 王都トリスタニア、トリステイン王国の中心地であり、街の中央部に座す王宮から、同心円状に建物が広がるトリステインで最も栄える街だ。

 

 タバサと才人はその街の中の武器屋にいた。

 

 「へえー、いろんな武器があるんだな」

 

 「キョロキョロしちゃダメ」

 

 二人が店に入ると、店の奥にいた店主が胡散臭げに見てきた。そしてタバサが貴族であることに気づくと、ドスの効いた声で話し始めた。

 

 「旦那。貴族の旦那。今日はどういったご用件で?」

 

 「武器を買いに来た」

 

 「へえ!?貴族が武器を!?こりゃおったまげた!」

 

 「なぜ?」

 

 「へえ、貴族は杖を振るもの、武器を振るのは平民と相場は決まってまさあ、それで、どのような武器が入用で?」

 

 「私ではなく、彼」

 

 そう言ってタバサは才人を指差す。

 

 指された先にいる才人を値踏みするように見た。

 

 才人はというと、棚に並んだ武器を、へーとか、すげーと言いながら見ている。

 

 「へえ、こちらの方が持たれるような武器を選べばいいので?」

 

 「そう」

 

 「では少々お待ちを」

 

 そう言って店主は店の奥に消える。

 

 「貴族の子供の道楽か、精々おだてて高く売りつけるとしよう」

 

 去り際に小声でそう呟いた。

 

 しばらくして戻ってきた店主は腕に細い剣を抱えていた。

 

 「このレイピアなんていかがでしょう?昨今では貴族様も下僕に剣を持たせるのが流行っているようで、そういった方々はこぞってこれをお買い求めになりまさあ」

 

 「どう?」

 

 店主の持ってきたレイピアを見て、タバサが才人に尋ねる。

 

 「うーん、ちょっと細身すぎるかな。俺としてはもっと取り回しのしやすい肉厚なのがいいんだけど」

 

 才人が難色を示す。

 

 「親父さん。もうちょっと短くて使い勝手良さそうなのない?」

 

 「はあ、少々お待ちを」

 

 そう言ってまた、店主は店の奥へと消える。

 

 「おい坊主。随分と注文付けるじゃねえか。お前さんに武器の良し悪しなんてわかるのかい?」

 

 突如聞こえた声に、才人とタバサは目を見開き、胸元のカイムを見る。

 

 「今のは俺じゃねえよ」

 

 あらぬ疑いをかけられたカイムが、抗議の声を上げる。

 

 なら誰だ?と周りを見渡す二人に、続けて声がかけられる。

 

 「ほーう!どうやらお仲間がいるみたいじゃねえか!おーい、こっちだこっち、剣が積んでる方だ」

 

 その声が聞こえた方へ顔を向けると、乱雑に積まれた剣の中の、錆だらけの剣から声が聞こえた。

 

 「何だあれ!神器か?」

 

 「ほお」

 

 「インテリジェンスソード?」

 

 才人が驚き、カイムが感嘆し、タバサが正解を言い当てた。

 

 「おう、そうだそうだ。オレっちはインテリジェンスソードだ。嬢ちゃんなかなか博識じゃねえか」

 

 鍔の部分をカタカタと鳴らし、剣が喋る。才人とカイムは、しゃべる武器という、前の世界では見慣れた景色に懐かしさを感じる。タバサはとても珍しい品に、興味深そうな目を向ける。

 

 「やいデル公!お客様にちょっかいかけるんじゃねえ!」

 

 すると、奥から戻ってきた店主が、剣を叱りつける。

 

 「っとと、失礼しやした。この剣、デルフリンガーというんですが、なにぶん口の減らないやつでして、手を焼いているんです」

 

 店主はそう言うと、手に持った幅広の短剣を勘定台に置く。片刃の頑丈そうな短剣だ

 

 「さて、旦那様方、このサクスなんてどうでしょう?鉈のように刃厚で幅広の短剣。全長40サントと小振りですが、その分取り回しやすく丈夫でさあ」

 

 「お、いい感じだな。これなら俺の体術とも組み合わせやすそうだし、『サックコート』と一緒でも使えそうだ」

 

 才人はそう言うと、短剣を手に取り軽く振る。そしてそのまま体を回し、その勢いに乗せて短剣を振るう。そして徐々にスピードを上げ、蹴りや突きとも組み合わせて短剣を振るう。洗練されたその動きは、さながら剣舞のようであった。

 

 「おお!」

 

 「……すごい」

 

 「こりゃおでれーた!あんた『使い手』か!」

 

 店主とタバサとデルフリンガーが、三者三様に驚きを示す。

 

 「これをくれ」

 

 一通り取り回し、短剣を勘定台の上に置くと、才人はニヤリと笑ってそう言った。

 

 

 

           ☆☆☆

 

 

 

 「いやおでれーた。現代にもまだ『使い手』がいやがったとは、こりゃおでれーた」

 

 「うるせえぞデル公。いい加減静かにしねーか」

 

 「うるせー!おめえだってさっきまであんなに騒いでたじゃねえか」

 

 「確かにそうだがよ」

 

 チンクエディアを80エキューで売り、タバサと才人を見送った後、店主とデルフリンガーは先ほどの才人の実力について興奮気味に話し合っていた。特に店主のはしゃぎようは凄く、こんな達人がうちの店の剣を買うなんて、と上機嫌であった。

 

 「こんにちはご主人」

 

 すると店にグラマラスな赤髪の美女と桃色の髪の美少女が入ってきた。どちらも貴族だ。立て続けの貴族の来客に、店主は目を丸くする。

 

 「おや!今日はどうかしてる!また貴族だ!」

 

 「ねえご主人」

 

 キュルケは髪をかきあげると、色っぽく笑った。迫り来るような色気に、店主は思わず顔を赤らめる。そのキュルケの隣では、ルイズがまたか、と言わんばかりの呆れ顔でため息をついている。

 

 「今の貴族が、何を買っていったかご存知?」

 

 「へ、へえ、剣でさ」

 

 「なるほど、やっぱり剣ね……。どんな剣を買って言ったの?」

 

 「へえ、チンクエディアという短剣を一振り」

 

 「短剣?どうして?」

 

 「お連れ様が大層気に入っていらして。へえ」

 

 「ダーリンが?ふうん」

 

 キュルケは、顎に手を当て考え込んだ。タバサは持ち合わせがなくて短剣を買ったのだと思ったが、どうやら才人は短剣を気に入っていたようだ。それならば自分はもっといい剣を買うべきだろうか?と考えた。

 

 「若奥様も、剣をお買い求めで?」

 

 「ええ、この店一番の業物を持ってきて頂戴」

 

 店主の問いに、キュルケは答えた。店主は少々お待ちを、と言って店の奥へと消えた。

 

 「どんな剣が出てくるのかしら?」

 

 キュルケは、待ちきれない、といった風にルイズに問いかける。

 

 「さあね、店構えを見る限り、期待しないほうがよさそうよ」

 

 肩をすくめてルイズが答える。

 

 「だっはっはっは!言うじゃねえか嬢ちゃん!まったくその通りだ!」

 

 ルイズの答えに、デルフリンガーが笑う。

 

 「何!?今の声!」

 

 「誰かいるの!?」

 

 二人はキョロキョロと店の中を見回す。

 

 「おーい、こっちだこっち。さっきもこんなこと言った気がするぜ」

 

 声の元である剣の山にルイズは近づき、錆び付いたデル不リンガーを引っ張り出す。

 

 「なにこれ、インテリジェンスソード?」

 

 「まあ、あたし、インテリジェンスソードなんて初めて見たわ」

 

 「おう、あんたらも詳しいな。なあ、あんたらさっきの嬢ちゃんと坊主の知り合いかい?」

 

 驚く二人に、デルフリンガーは尋ねる。

 

 「タバサと才人ね。ええ、私の友人よ」

 

 「そうかい、あんたらあの二人の知り合いかい。いやー、あの坊主すげーね。ありゃ結構な『使い手』だね」

 

 「ダーリンの事?そりゃそうよ!ダーリンてば剣一本でメイジに勝っちゃうんだから」

 

 我が事のようにキュルケは胸を張る。

 

 そんなキュルケを無視して、ルイズはデルフリンガーに尋ねる。

 

 「それよりあなた、だいぶ錆び付いてるわねえ、一体どれぐらい古いの?」

 

 「さあねえ、千だか二千だか、どれぐらい前に生まれたかだなんて忘れたよ。もしかしたら、六千年ぐらい前かも知らんね」

 

 「始祖ブリミルの頃じゃない!あなた、始祖ブリミルを知ってるの?」

 

 「ブリミル?あー、ブリミル・ヴァルトリ?そんな奴いたよーないなかったよーな」

 

 「こらあ!デル公!お前はまーたお客様にちょっかい出してんのか!」

 

 デルフリンガーがなにか思い出しかけた時、店主が大剣を抱えて戻ってきた。そしてそのまま、勘定台の上に置く。

 

 見事な剣だった。1.5メイルはあろうかという大剣だった。柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えである。ところどころには宝石が散りばめられ、鏡のように両刃の刀身が光ってる。見るからに切れそうな、頑丈な大剣だ。

 

 「あら。綺麗な剣じゃない」

 

 キュルケがそれに興味を示す。

 

 「若奥さま、流石お目が高くていらっしゃる。この剣はかの高名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿が鍛えた業物でさ。『硬化』の魔法がかかってるから鉄だって一刀両断ですぜ」

 

 「いいわね。ゲルマニアの錬金術師が鍛えたってところが特にいいわ。さぞ頑丈な剣でしょうね。おいくらかしら?」

 

 「お安かあ、ありませんぜ?」

 

 「ねえ、ちょっと待って」

 

 二人がさあ値段交渉に入ろうという時に、それを遮る者がいた。ルイズだ。

 

 「なにようルイズ。あなたもこの剣が欲しくなったの?」

 

 邪魔されたキュルケが抗議の声を上げる。

 

 「そんなんじゃないわよ。ねえ店主?そちらの剣も売り物かしら?」

 

 そう言ってルイズは、デルフリンガーを指差す。

 

 「へえ!?デル公ですか!?それはもちろんそうですが、これまたどうして?」

 

 「欲しいのだけれど、おいくらかしら?」

 

 「ちょっとルイズ!」

 

 デルフリンガーを買おうとするルイズに、キュルケが声をかける。

 

 「あなた正気?いくらインテリジェンスソードが珍しいといっても、あんな錆だらけの剣買ってどうするのよ!」

 

 「錆だらけでも、あれは立派な業物よ。歴史的価値も高いわ。それに、ちょっと興味あるのよ。あの剣が知っているであろう知識にね」

 

 キュルケは、やれやれと肩をすくめた。ルイズは昔からこうだ。歴史的価値のあるものを、やたら集めようとする。ルイズがキュルケの気の多さに呆れるように、キュルケはルイズのこういったところに呆れていた。黙っていれば最上級の美人なのに、学者じみた好奇心のせいで、男を寄せ付けないのだ。キュルケはいつもそれを、もったいなく思っていた。

 

 「あなたの好みはわからないわ。勝手にやって頂戴」

 

 「ありがとキュルケ。それで店主?この剣はおいくらかしら?」

 

 「へえ、そいつなら新金貨で200で結構でさ」

 

 「あら?インテリジェンスソードにしてはずいぶん安いのね?」

 

 「へえ、そいつは口うるさいわ、他の客に喧嘩を売るわで辟易してたんでさ。いい厄介払いです」

 

 「そう、じゃあ200で買うわ。お世話様」

 

 「おう、嬢ちゃん。俺を選ぶたあ、なかなか見る目があるじゃねえか」

 

 ルイズはお金を払い、デルフリンガーを受け取る。

 

 「じゃあキュルケ、わたし先に外に出てるわね。いつものカフェで待ってるから」

 

 そう言ってルイズは先に店の外に出る。そして、行きつけのカフェまで移動して、好物のクックベリーパイを頼む。

 

 注文してしばらくすると、笑みを浮かべたキュルケが大剣を持って現れた。

 

 キュルケの笑顔にルイズはすべてを察し、買い叩かれたであろう店主の冥福を祈った。

 

 「いい買い物したわ。これでダーリンのハートもゲットね」

 

 「自分の鍛えた剣が、色恋沙汰の貢物に使われるなんて、シュペー卿も夢にも思わないでしょうね」

 

 「あら、騎士に剣を送るのは、女貴族なら珍しくもないわ。それにちゃんとお金を払って買ったんだから、どう使われようとシュペー卿も満足でしょう」

 

 「どうせ買い叩いたんでしょう。あーやだやだ。ゲルマニアの拝金主義にはうんざりするわ。格式ってものがないんだから」

 

 「格式にとらわれて古いものありがたがって錆びた剣買うようなトリステインの懐古主義よりはマシよ」

 

 「あんですって」

 

 「なによ」

 

 そう言って二人はお互いににらみ合う。そしてしばらくしてどちらともなく笑い出した。

 

 「やーれやれ、いつの時代も、女ってのは訳のわからない生き物だあね」

 

 そんな二人を見ていたデルフリンガーが、ため息をついた。

 

 




シュペー卿の剣って実はちゃんとした業物だったと思うんですよね。トライアングルの巨大ゴーレムのこれまたトライアングルの錬金で鋼鉄に変わった拳を受けたら、そりゃあどんな剣だって折れるってもんです。
アニメ版のはともかく、原作のは間違いなく本物だったと思うんですよ。
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