問題児たちが異世界から来るそうですよ?~『終の夜』の軌跡~   作:ブレイアッ

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3話『嵐の予感』

“ノーネーム”の門の前で二人の男女が別れを惜しんでいた

 

クロと耀である

 

「大丈夫、向こうでやることが終わったらすぐに帰ってくるから」

 

「うぅ………」

 

涙を流しながら耀の手を強く握るクロ

彼は人間になって「別れの悲しみ」を知った。といっても今生の別れでもないので端から見れば大袈裟に見えるだろう。しかし、彼にとってこの感情は初めてのもので程度というものを知らない

 

「さっそく忠犬って感じだな。クロ公は」

 

「ああ、“ノーネーム”に溶け込めているのは良いことだがここまで彼女にベッタリとはなぁ……まるで母親と離れたくない幼子のようにも見える」

 

「インプリンティングってやつか?」

 

インプリンティング、またの名を刷り込み

ノーベル賞を受賞し、近代動物行動学を確立した動物行動学者のコンラート・ローレンツの著書によって多くの人に知られている鳥類などによく見られるもので、生まれて最初に見たものを親と認識する習性のことを言う

 

「彼は人間のはずだが………なるほど、刷り込みか」

 

確かに、彼が目を覚ました時に最初に見た人間は春日部耀だ。それなら納得がいかないわけでもない

 

「犬には刷り込みなんてのは無いんだがなぁ………っと」

 

「わんっ!?」

 

十六夜はクロの首根っこを掴んで持ち上げる。持ち上げた時の犬っぽい声のせいで「コイツ、本当は人間じゃなくて犬系の獣人の類いとかじゃねえのか?」とか思ったがそれはそれで面白いので気にしないことにした

 

「いい加減にしろ、お前のご主人様が困ってるだろ。春日部の犬ならご主人様を尻尾ふって送るくらいしねぇと立派な忠犬とは言えねぇぞ?」

 

「うぅ……わかった。いってらっしゃい」

 

小さく手を振る。今のこの大型犬は捨てられた子犬のようだ

 

「………やっぱり連れて行く」

 

「ダメです!?というか無理です!招待状も無しにもう一人連れていくことは出来ません!」

 

黒ウサギの声が雲一つ無い“ノーネーム”の空に響いた

ついでに予定時間まで十五分を切った

 

:::

 

その日の夜

 

クロは門の前で座り込んでいた

 

「なんだ、まだここにいたのか」

 

「………………」

 

夜風に金糸のような髪とメイド服のスカートを揺らしながらレティシアがクロの元に来た

 

「………耀が帰ってきたらすぐにおかえりって言うんだ」

 

はぁ、とため息をつく。突然“ノーネーム”に来たと思ったら突然「犬」として耀になついたこの人間は見た目のわりに随分と幼い思考をしているようだ

 

「主殿が帰ってくるのはまだ先だぞ」

 

「それでも待ってる」

 

「こんなとこにいたら風邪を引くぞ」

 

「大丈夫、俺は風邪を引かない」

 

「何を言う、私のような吸血鬼ならいざ知らず、クロのようなただの人間なら一晩で風邪を引いてしまうぞ。帰ってきた主殿に風邪を移すつもりか?」

 

「人間なら……………わかった」

 

人間という言葉に反応し、大人しく本拠に戻ることにしたクロ。レティシアが来なければきっと耀が帰ってくるまでずっと門の前で待ち続けていただろう

今のクロにかつてただの殺戮兵器だった頃のシュウの面影はもうない

 

:::

 

クロの日記

 

人間になって『心』や『感情』というものが解るようになった

耀といるときは『うれしい』『楽しい』

耀といないときは『かなしい』『寂しい』

 

レティシアから幼子のようだとよく言われるが間違ってはいないとと思う。何故なら人間としては生後数日の身なのだから

 

耀が出かけてからは“ノーネーム”の子供たちの手伝いをしたり年少組の遊び相手になったりしてる

子供たちからは「クロ兄」って呼ばれてる。十六夜曰く「大型犬と遊ぶ感覚なんだろ」とのことだ

………………………誰が犬だ!

 

それはともかく、寝て目が覚めたら十六夜とレティシアが居なくなってた。リリに訊いてみたら耀のいるとこ………“アンダーウッド”だっけ?そこにすぐに行かないと行けなくなったらしく、俺を置いて耀のいるとこに行ったらしい。連れていってくれても良いのに………

 

 

「ん?」

 

ふと、ペンを止め窓の外を見る

空は曇っておりカタカタと窓が音をたてる

 

「なんだ……?このゾワゾワする感覚は………?」

 

嫌な予感がする。肌の表面に無数の針がチクチクと刺しているような、ピリピリするような感じだ

クロはペンを置き、すぐに部屋を出た

 

「農園の子供たちを本拠の中に入るように言っておかないと」

 

嫌な予感が的中しないことを祈りながらクロは武器庫に向かう足を速めた

 

:::

 

外に出ると肌を刺す感覚が強くなった

この感覚をクロはよく知っている

 

「………敵が来た」

 

戦いの予感だ

 

クロは農園にいたリリに何処かに子供たちが避難できる場所はないかと訊いた

 

「避難ですか……?それだったら工房の中が安全だと思いますけど………何かあったんですか?」

 

「嫌な予感がするんだ。ヘタしたら死人が出るかもしれない戦いの予感が」

 

「え!?」

 

「今の“ノーネーム”の中で戦えるのは俺だけだ。リリ、皆を少しでも早くその工房に避難させて」

 

「クロさんは………?」

 

「大丈夫、耀におかえりって言わないといけないからね」

 

「………………わかりました。死なないでくださいね、クロお兄ちゃんはもう“ノーネーム”の一員、家族なんですから!」

 

「家族…………ああ、約束する。絶対に死なない」

 

それを聞くとリリは尻尾をパタパタと忙しく振りながら農園の子供たちを連れて本拠の方に走っていった

 

「家族………………か」

 

目を閉じればまぶたの裏にかつての戦いの記憶がよみがえる。自分の子供を、家族を守るために死を覚悟して挑んできた兵士がどれだけいただろうか

危険分子は全て排除する。その思考のもとでクロは、シュウヤはどれだけの兵士をその手で屠ってきたのだろうか

かつてのシュウヤには『家族を想う』という感情が理解できなかった

しかし、クロには『家族を想う』という感情がある。今の彼を動かす心の原動力は『家族を守りたい』それだけだ

 

武器庫から弓と矢を取り、背中に槍を、腰に刀を持ち、太股や後ろの腰にダガーを隠し、舞台区画があったところに向かう。嫌な予感はイヤな気配となってはっきりと感じることができた。敵は、“ノーネーム”に向かって来ている

 

 

 

同時刻、“アンダーウッド”でも魔王との戦いが始まった




というわけで早速オリジナル入ります
今回の話の中でのクロを犬に例えると
前半:子犬
後半:番犬
そんな感じです
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