問題児たちが異世界から来るそうですよ?~『終の夜』の軌跡~ 作:ブレイアッ
戦いを再開してから何度打ち合っただろうか
数えるのもバカらしくなるほどの鉄と鉄のぶつかり合う音がこの荒廃した舞台区画に響いている
片手で振り下ろされたニタイパカイェの刀をクロは両手で構えた刀で受け止める。衝撃が刀を通じて痺れとして伝わり、折れたアバラに響く。クロの刀はすでにボロボロになっていた
「弱い!弱すぎるわ!小僧ッ!!」
竜巻と共に横一文字に振られたニタイパカイェのカタナがクロがカラダヲ吹き飛ばし、地面に叩きつける
「カハッ……!」
叩きつけられた衝撃で肺から一気に空気が抜ける
「ワシのゲームを解いたまではいい、しかし、ワシを討つことができなければ、お前は死に、奪われる!」
「ソイツは………自分のことを言ってるのか………?」
「その通りだ。わしらが弱かったせいで、住むところを奪われ、その
強さを証明するため、かつての出来事を繰り返さないために、この竜巻の魔神は魔王に身を堕とした。全ては強くあるために。だから彼は弱きを決して許さない
「………………そうかい、なら、俺は“家族”に“おかえり”って言うために、アンタに勝つ!俺は、クロは!まだ死ぬわけにはいかない!!たとえ相手が俺より圧倒的に強くても!!!」
クロはボロボロになった刀を構え、
「その目、まさにシヌタプカの戦士にそっくりだ……」
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“ノーネーム”本拠
工房の中に避難が完了し、子供たちは身を寄せあっていた
外からは幾度となく刃と刃のぶつかり合う音が聞こえる
その中でリリは一人、工房から抜け出していた
「助けを、呼ばなくちゃ」
向かう先は“サウザンドアイズ”の支店、フロアマスターである白夜叉ならば魔王が出たと知らせを受ければすぐに飛んできて助けてくれるだろう
“ノーネーム”の子供たちは幼いが決して無知というわけではない。誰もが魔王の恐ろしさを身をもって知っている。それゆえに、ただの人間であるクロが一人で魔王に勝ち、無事に帰ってくる可能性が低いことはイヤでも解る
もう誰も失いたくないから、新しい“家族”を失いたくないから、リリは走る
走っている最中に武器庫の扉の隙間から光りがもれているのに気づいた。扉を開けると武器庫の奥に掛かっている刀が光っていた
「これって………」
キィン!
金属音に似た音とまばゆい光りと共にリリの目の前にあった刀は武器庫の外に飛んでいった
「今のは………?」
飛んだ刀が残していった光の筋を目で追いながら外を見つめる
「そうだ!白夜叉様に助けを……!」
本来の目的を思い出したリリは全速力で走り出した
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「くっ……!なんじゃコイツらは!何も書かれていないギアスロールが降ってきたかと思えば突然現れてきおって!倒しても倒しても次々と湧いてきおる!」
東のフロアマスターである白夜叉の元に次から次へと全身を鎧で包んだ魔物が襲いかかる
サウンドアイズの支店がある街には避難する人々とそれを守らんと奮闘する腕に覚えのあるプレイヤーが魔物と戦いを繰り広げている
見上げれば空を覆う雲が広がっている。しかし、それは雲などという優しいものじゃない。あれはすべてこの魔物たちの群れなのである
「くっ、こうもいいように魔王に遊ばれるとは………!」
曇天の空を背に、こちらを嘲笑うかのように浮遊する五体の龍を睨み付けた
「白夜叉様っ!!」
白夜叉の背後から幼い女の子の声がする。振り替えると息を切らせた狐耳の幼い少女、“ノーネーム”のリリがいた
「クロさんを………助けてくださいっ!!」
その悲痛な叫びに、白夜叉の顔が変わった
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「ガッ……ハァッ!?」
口から血を吐く
既にクロは満身創痍、ニタイパカイェの蹴りによって彼の肋骨は折れて内臓に突き刺さっているのがなんとなくわかる
普通の人間なら意識を手放してもおかしくないほどの怪我、立ち上がることすらままならないだろう
しかし、クロは立ち上がり、目の前のニタイパカイェを睨み付ける。一歩、また一歩と歩みを進める。彼の背には“ノーネーム”の本拠がある。一歩引けばそれだけ子供たちが、家族が危険に侵される
「ヒュウ………………ッ!!」
刀を持ったままニタイパカイェに突撃する
「甘いわ!!」
飛び上がっての上段からの振り下ろし、その一撃はニタイパカイェの刀に叩き折られ、クロの持っていた刀の刃が宙を飛ぶ
しかし、クロは最後の武器が破壊されることさえも戦いに組み込み、足が地につく頃にはニタイパカイェの懐深くに入り込んでいた
「…………ッ!!」
右手の正拳突きを一発
その一撃は火事場の馬鹿力とでも言わんばかりの威力で無意識での力のセーブすらも振り切って放たれた
「ガッ……アァァァァァァ!!!」
先に悲鳴を上げたのはクロだった
右手の拳は砕け、腕からは折れた骨が肉と皮を突き破って飛びだしていた
「カハァ!?」
しかし、クロの一撃は無駄というわけではなく、腹を突かれたニタイパカイェは吐血した
「ぬぅ……まさかここまでやるとは………」
口の中の血が混ざった唾を吐き出しながらニタイパカイェが言う
「ハァ……ハァ……ハァ……」
対するクロの右腕はもう使えない。右腕を犠牲にしての急所を狙った起死回生の一撃は魔王の口からわずかな血を吐き出させることしか出来なかった。ドクドクと骨が突きだした右腕から血が流れる
「だが、これで終わりだ。せめてもの情けにすぐにヤチに送ってやろう」
ニタイパカイェはクロの首めがけて刀を振り下ろした
(あぁ……体が動かない…………ごめん、リリ……約束、守れそうにないや………耀も、せっかくまた逢えたのに…………ごめん)
クロが死を覚悟したその時
ギィン!
甲高い金属音が鳴り響いた
「何っ!?」
ニタイパカイェが驚きの声を上げる
彼の振り下ろした刀を浮遊する金色に輝く短刀が受け止めていた
「くっ!」
ニタイパカイェは後ろに飛び、クロから距離をとる
「驚いたな、まさかエペタムがここにあるとは」
エペタム
ユカラのニタイパカイェやポイヤウンペと同じくアイヌの口伝で語られてきた童謡に登場する刀の名である
エペタムとはアイヌ語で人食い刀の意。その名の通り自ら意思を持つ刀で夜になると一人でに飛んで近くの村の人間を殺し、朝になると元あった場所に戻っている。という他の地域では見られない非常に稀少な特徴を持つ怪剣である
しかし、このエペタムはただ人を食う怪物のような刀ではない。ちゃんと扱うことができれば戦士として活躍でき、祈りを込めればひとりでに飛び、敵を追い払う。怪物のような側面と守り神のような側面を兼ね備えた武器である
「ハァ……ハァ……ッ!!」
クロは左手を伸ばしてエペタムを掴んだ
荒れていた呼吸が落ち着く
乱れていた思考がクリアになる
体中に力が巡る
クロはどうすればニタイパカイェを倒すことができるかを考える
体力的にもこれ以上の戦闘は不可能、持久戦に持ち込めば右腕から流れる血のせいで倒れてしまうのはわかりきっている。たがら短期決戦、次の打ち合いこそが最後のチャンス
「行くぞ………!」
後のことは考えない。今は目の前の敵を倒すことのみに集中する
クロは一気に駆け出し、ニタイパカイェの目の前まで飛び上がる
「ふん!」
「っらぁ!」
ニタイパカイェの凶刃を辛うじてかわす。刃を纏っていた風がクロの頬を切った
「ふんっ!」
「グアァッ!! 」
ニタイパカイェはクロの右腕を掴み、クロの体をぶら下げるように持ち上げた。右腕に激痛が走り、思考が一瞬ふっ飛んだ
そんな中でクロはエペタムを自分の首筋に当て、一気に引き裂いた
「ぬぅっ!」
至近距離から飛び散った鮮血はニタイパカイェの視界を潰した。その一瞬の隙を逃さず、赤い血に濡れたエペタムをニタイパカイェに深々と突き刺した
「くっ……が、あぁ………!」
ニタイパカイェが苦悶の声をもらしながら後ろによろめく
クロは着地することなく、ドサリと地にふせた
「ガッ……ハァッ、ハァッ、ハァッ」
エペタムを手放したとたん体中から力が抜けた。もはや立つことすらできない
「グッ…………見事だ。だが、足らなかったな」
クロはエペタム魔王のほうを見ることはできない。だが、その声音で仕留め損なったことは理解した
(俺の、負けか………みんな、ごめん)
「いや、おんしはよくやったぞ。ご苦労であったな」
消え行く意識の中でクロは
最後は白夜王さまがどーんってしてくれました
元々霊格自体は低かったんです。竜巻の魔神、ニタイパカイェは
十六夜とバトルになったらクロみたいに苦戦することなく「ていっ」とやられます