俺は昔から誰かが死ぬ時間の何秒か前、もしくは数分前にタイムスリップのようなことができる。
例えば昔、妹の小町が学校から帰ってくる時間になっても帰ってこなかった日があったんだが迎えに行こうとしたその時、俺は小町が車に轢かれる十秒前にタイムスリップしていた。
何故、それが分かったかと言えばすぐ目の前に小町がいてそして曲がり角を猛スピードで突き進んで来る乗用車が見えたからだ。
その時はどうにかなったんだがそれ以来、ちょくちょく俺は過去へとタイムスリップできるようになった。
その死というものについては曖昧な定義がされているらしく、精神的な死だったり、肉体的な死だったり、ペットなどの動物の死だったりする。
二度目のタイムスリップは入学式の日、由比ヶ浜の犬を助けた時だ。
ただタイムスリップと言っても自由自在に飛べる訳ではないし、それが解決すればその未来が正史となるらしく、そのまま進んでいく。
そして今日、俺は三度目のタイムスリップを経験した。
―――――――――☆―――――――
「な、なんでなんだ」
「あ、あーし達間違ってなかったよね?」
周囲の連中はあり得ないものを見ているかのような様子で目の前の状況に戸惑っている。
奉仕部の活動の一環として俺達は小学生が自然教室を行っているのを手伝うということで千葉村へやってきていたのだが小学生の中にハブリを受けている少女――――鶴見留美を発見する。
会議の結果、彼女が置かれている状況をどうにかしたいという結論にいたり、葉山主導の下で考えた結果、留美たちの班だけ別ルートに追い込み、そこで話し合うということになった。
葉山らしい方法だったが俺は少し意外だった。
あいつのことだから全員の前で話し合いをするかと思っていたからな。
無事に留美の班を別ルートに追い込み、話し合いを始めた。
何故、留美をはぶるのか。何故、それを行うことになったのか。
原因なんてものはなく、ただ単に軽くはぶるターゲットが留美になっただけで周りと比べて少し大人っぽい対応をしている彼女が鬱陶しかったからということだった。
互いに互いをはぶっていた経験があったからか葉山は彼女たちをたがいに謝らせた。
こうして問題は解決した。
―――――――はずだった。
俺達が山から下りてみれば大きな騒ぎになっていた。
何事かと話しを聞いてみれば留美を鬱陶しく思ったメンバーが口論に発展し、思わず相手が手を出した瞬間、留美が足を踏み外し、そのまま落ちたらしい。
噂では外傷から見るに即死だったらしい。
「何が……何が間違っていたんだ」
留美が死んだのは自分のせいだと思っているのか葉山は今までに見たことが無いほどの焦りを見せている。
ひねくれている俺の目から見ても葉山の方法は悪手と断定することはできないし、かといって最善の手だったとは言えない。
俺が思うにはアフターケアが足りなかったんだ。
俺達は目先の事だけを解決して全てを解決した気になっていただけの自己満足、自己陶酔に浸っていただけのただのバカ野郎だったという訳だ。
俺達がするべきだったのは解決なんかではなく、解決の糸口を渡す、もしくは解決ではなく問題の解消を図るべきだったんだ。
「ヒッキーの言う通りだったね……問題を解消すべきだって」
「……今言っても後の祭りだろ」
そう言いながら帰ろうとしたその時―――――――――
「っっっ……」
山のふもとに降りていたはずなのに今俺がいるのは山の中だった。
……戻ったんだ。留美が死ぬ前の数分前に。
慌てて周囲を見渡しても留美たちの姿が見当たらない。
「由比ヶ浜。留美たちは」
「留美ちゃんたちはもう行っちゃったけど。でもこれで解決だね」
「……だといいけれど」
「……解決なんかしてねえよ!」
「ヒッキー!? どこ行くの!?」
その場から全力で駆け出し、留美たちが歩いていったであろう夜の暗い夜道を走っていく。
この道は本来のルートとは違う逸れた道だ。
明るいうちに俺達が確認はしたけどそれ以外にも逸れる道はいっぱいあったし、メンバーが留美を暗い所に引きずり込もうと思えば簡単にできる。
それにここは露出した大き目の岩だってある。
恐らく留美は突き飛ばされた際に足を滑らせ、露出した岩肌かなんかに頭をぶつけたんだ。
「見つけた」
俺達が考えていたルートから少しそれた道に留美たちの姿を見つけた。
その姿は明らかに言い争っている。
そしてゆっくりと留美を押し飛ばそうと両手が伸びていく。
死なせたりなんかしない……ボッチだからなんだ。はぶられているからなんだ! そんな理由を並べたってあいつが……留美が死ぬ理由にはならないはずだ。
そして留美が突き飛ばされる。
彼女の足元には地面から出ている大き目の岩があり、その後ろには背の低い、途中が折れて先端がとがっている枝の生えた木がある。
あのまま留美が倒れたら枝が後頭部に刺さる!
「留美ー!」
彼女の名前を叫びながら地面を強く蹴り、飛び出す。
ダイビングキャッチの要領で留美の後頭部を右手でもつと同時に左手を反射的に地面に向けてしまう。
「いっ! がぁ!」
留美は助けることが出来た。
でも俺の左手を先端がとがっている枝がつき破った。
「な、なに?」
「え? え? な、なんなの?」
「八……幡?」
抜くのは痛すぎるので枝を半分に折るが激痛が掌から全身に伝わると同時に血が流れ出てくる。
それを見て留美も留美を押し倒した連中も恐怖の色をした目で見てくる。
「いっでぇ……良かったな。人殺しにならなくて」
その一言が効いたのか連中は途端にへたり込み、涙を流し始める。
イテェ……最悪な日だ。
――――――――☆――――――――
翌日、俺は包帯を手に巻いた状態で皆が片づけをしている様子を見ていた。
結局、留美の問題は教師のところに知れ渡ることとなったが恐らく、この問題はこれ以上こじれるどころか収束に向かっていくだろう。
連中が人を殺したかもしれないという恐怖を持つことによってな。
学校側に付き添いとして来ていた保健室の先生の適切な処置により、俺の怪我はそう酷い物にはならなかった。
……結局、タイムスリップをした際のデメリットは俺自身が怪我をするという事か。
「お兄ちゃん」
「ん?」
小町に呼ばれ、振り返ると小町の隣に留美がいた。
「……あ、ありがとう」
「…………おう」
なんにせよ、助けられたんだ。俺は留美を。