前回の気持ち悪い虫で仕返ししようとする作戦は失敗に終わったどころか俺に不利益を被ってしまうという最悪な結果になってしまった。
だが今回、俺は2日間の期間で絶対に雪ノ下にギャフンと言わせることができる方法を思いつき、早速準備へ取り掛かった。
今回の仕返しの方法は俺だけでは成り立たない大変難しいミッションだ。だから俺は有力な支援者にコンタクトを取り、今こうして支援者である彼女に計画に乗ってもらえるように説得しているのだ。
「てなわけで雪ノ下をぎゃふんと言わせたい。その為にはお前の力が必要なんだ……由比ヶ浜」
「なんであたし?」
そう、有力な支援者とは由比ヶ浜結衣だ。俺と同じクラス、部活であり、最も喋っているであろうという女子の1人だ。ちなみに一番喋っているのは小町な。あ、八幡的にポイント高い。
「雪ノ下は犬が苦手だ。それは知っているな?」
「いや、今知ったんだけど」
「まあいい……そこでだ。お前のサブレを使う」
「あんまりいい感じはしないんだけどな~。だってゆきのんをぎゃふんと言わせるんでしょ? なんかゆきのんが怒る光景しか想像できないんだけど」
「ふっ。俺の完璧な計画の前に雪ノ下など一瞬で落城するさ…………手伝ってくれるか?」
そう尋ねると由比ヶ浜はう~んと首をひねり、考え始める。
ここで由比ヶ浜という有力な支援者を失ってしまえば俺が雪ノ下をぎゃふんと言わせるという作戦どころか計画さえもとん挫してしまうのだ。いわば彼女はキーポイント。
「まあヒッキーが全部責任負ってくれてバーゲンダッシュのアイス奢ってくれるなら」
「…………」
ど、どうする俺。責任を負うのは別に構わないんだが……バーゲンダッシュといえばカップアイスなのに一個500円もするといわれている超高級アイスではないか……今の俺の貯金の残高はキッカリ500円……それを由比ヶ浜に奢ってしまえば俺の貯金はゼロ……だ、だが!
「わ、分かった。奢る」
「やったー! 手伝う!」
ふっ……痛すぎる出費だが雪ノ下にぎゃふんと言わせる代償と思えばそんなに重くはない。
さあ、始まるぜ。
翌日の放課後、俺と雪ノ下は普段通り、奉仕部の部室で文庫本を読んでいるが由比ヶ浜はペットを病院へ連れて行くという嘘の欠席連絡を入れてもらっているので今日は部室にはいない。
計画はこうだ。まず俺が頃合いを見て奉仕部の部室を出る。そしてその数秒後に由比ヶ浜のペットであるサブレがあたかも校舎外から侵入してきたかのように見せながら雪ノ下が一人でいる部室へと送り込む。
あとは偶然を装って俺が部室に入ればそれで終わりだ……我ながら完璧すぎる。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
そう言い、立ち上がるが雪ノ下は見向きもせずに本を読む。
ふっ……そんな涼しい顔をしていられるのも今だけだ…………さあ、イッツショータイム!
「ひ、ひき」
「ん……うわぁ」
雪ノ下の怯えきった声が聞こえ、何事かと思う後ろを振り返るとなんと雪ノ下の胸の辺りに結構大きめなゴキブリが2本の触角をヒクヒクさせながらぴったりととまっていた。
さしもの雪ノ下雪乃であっても本質は女の子。ゴキブリがその身につけばこういう態度をとるのか……。
「ひ、比企谷君」
「な、なんだよ」
な、涙目で顔を赤くしている雪ノ下からなぜこんなにも目が離せないのだ。
「と、取ってっぅぃぁぁぁぃぁ!」
ゴキブリが行動を再開した途端、言葉になっていない叫びをあげ、早くとれと言わんばかりの目つきで俺を睨み付けてくるが涙目で睨み付けられても胸キュンするだけだ。
「わ、分かったから……う、動くなよ」
流石に俺もゴキブリを素手で撮るのは憚られるのでコンビニで買ってきた昼飯を入れていた袋の持ち手に手を通し、大きく広げながらゆっくりと雪ノ下の胸の辺りでコソコソしているゴキブリに袋を近づけていく。
雪ノ下をぎゃふんと言わせる作戦が……まあ、仕方がない。由比ヶ浜には出てくるのが遅くても待っていてくれと言っておいてよかった。
「ふぅ……動くなよ」
雪ノ下は涙目のままうんと頷く。
だからなんでそんなに可愛いんだよ……んん!
「よし……っっ!」
息を殺し、静かに静かにゴキブリに近づきながら射程距離に入れた瞬間、勢いよく袋の手持ちの部分に通しておいた手を突き出し、ゴキブリを袋の中へ封印しようとするが一瞬の殺気を感づいたのかゴキブリは翼を広げて雪ノ下から離れる。
だが突き出された俺の腕が急に止められるはずもなく俺の手は控えめな主張をしている雪ノ下の胸にまっすぐ向かっていき、そして。
「ぁ」
俺の両掌が雪ノ下の控えめな主張をしている胸にペタッとなってしまった。
雪ノ下は小さな喘ぎ声を発するとともに顔をすさまじい勢いで真っ赤にしていく。
「ヒッキーま…………」
さらに最悪なタイミングで痺れを切らした由比ヶ浜が部室内に入ってきてしまった。
「………………サブレGO!」
その後、俺は犬の真の恐怖と女性というものの真の恐ろしさを直視することとなった。