矢野さんが好きすぎて書いた小説   作:linda

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帰省していたらパソコンのキーボード壊れてたので返ってから書きました。
その二で終わりますけど、それがいつのなのか私にもわかりません。

申し訳ないです。


何番煎じかもわからない上に時期遅れのクリスマスのやつその一

「―――あ」

 

目前の男は、割と驚いた顔。男というか、知り合いというか、友人なのだが。口から出たのはそんな呆けた言葉らしかった。

 

時刻は十時過ぎ、午後の。季節は冬。というかクリスマス。友人たちのクリスマスパーティから帰る途中、件の友人を見た。

 

薄いジャケットを着た彼は、口から寒そうな息が。かくいう私も同じように。コートもマフラーも手袋も完全防備の私からしてしまえば、ジーンズにジャケットのみの彼がとても痛ましく感じる。可哀想に、と思いながらさらに加えての耳当てを外しながら、呆けた彼を見やる。

 

ああ、と。

 

未だ彼の意識は戻って来てはいないらしい。失神はしていないだろうが、突然の事態に、とかいうものだろうか。口をパクパクさせている彼に、素朴な疑問を一つ。

 

「えっと、なにやってるの。笹木くん」

 

ギター片手、座り込んだ彼は私を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、大輔来てねえの?」

 

友人の平岡が、お店に来て早々呟く。先に座っていた私は、遅れてやってきた彼に目を向ける。

 

「らしい。あんまし気乗りしないんだってさ」

 

友人の磯川がそれに返す。私と同じ学校の一回生。平岡もそれに同じ。もちろん先ほど呼ばれた大輔(・・)なる人物もそれに同じ。加えて彼は違うが、他はここにいる人間は全て、アニメーション学科の者である。ちなみ()は音楽科。

 

今日は、クラスのリーダーの様なものである磯川と平岡の二名の発端によるクリスマスパーティ兼忘年会のため、私も含め十名ほどがこの店にやってきている。

 

「まじかよ、じゃあ、五人欠席くらいか」

 

アニメ科は総勢二十名。全員が参加するわけもなく、暇な人間が集まっている。デートなり、家族となり皆々思い思いの時間を送っている。

 

それにしても、笹木くんが欠席、か。何だかんだ言っても結局はやってくれるという、やれやれ系の彼が来ないとは珍しくもある。特別仲が良いとか、そういう感情があるわけではないが、よく皆で居るため少し寂しく思う。

 

「まあ、個人の自由ではあるからなぁ。良く集まった方ではあるしな」

「そうだな。…それに気乗りしねえのなら押しかければいいだけだしな」

 

にやり、と平岡が笑う。彼の家は溜まり場と化してしまっているため、今日も騒ぎ場になるらしい。彼を思うと少し胃が痛くなってきて、ご愁傷さまと心の中で拝んでおく。

 

やれやれ系は、結局は頼まれてしまえば断れないのだ。それが悪意を持ったことだと分かっていても。悪意というか、悪戯心というか。ドアを開け嫌な顔をしつつも、部屋に招き上げる彼を想像すると、少し笑みが浮かんだ。

 

いつも家で作曲をやっているらしいのだが、聞かせてもらったことは一度も無い。いつか聞いてみたい、と思うものではあるが頑なに嫌がりそうだ。じゃあどうして音楽科に入ったのだという話ではあるのだが。歌はだめだけれど曲ならいいらしく、インストだけは聞かせてもらえるのだが、いまいち歌が着かないと分かりにくいというか。うーむ。

 

 

「んじゃ、大輔も来たから、全員集合…かな?」

 

そうこう考えていると、磯川が声を上げる。すでに席に皆座っており、磯川の声を待ちつつも心はお祭りのような、そんな感じ。透明な液体の入ったグラスを笑顔でつかみながら磯川は周りを見渡す。

 

「それじゃあ、まあ、音頭とかなんかとるよりも、とりあえずはって感じで。みんなもそっちの方がよさそうだし」

 

ヤジを飛ばそうとした平岡に笑顔を向けつつ、彼はそのグラスを高く掲げた。全員もそれに合わせるようにグラスを掴む。私も習い、朱い液体の入ったグラスを掴んだ。

 

掲げたそれを、さらに高らかに。声を朗らかに響かせて彼は語る。

 

「乾杯。――――メリークリスマス」

 

『――――メリークリスマス‼』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあエリカ、またな」

「また今度ね、エリカ」

 

同級生が、平岡が、磯川が声をかけながら皆が二次会へと消えていく。行先はカラオケらしく、聖夜に沿った歌をきっとお歌いになられるのだろう。

 

私はというと、単純に眠くなってしまったし、少し疲れてしまったので先に帰ることに。結構皆酒も入っており、恐らくはカラオケで潰れてしまうだろう。例の彼は今日くらいはぐっすり眠れるだろう。それとも律儀に来るだろうと予測して待っているのだろうか。真偽は誰も知らず、行く本人と待つ本人達がきっと知るのだろう。

 

 

 

下宿先は先ほどのお店からそう遠くない位置にある。電車を使うほども遠くもないし、時刻は十時過ぎほど。酒が入った顔は火照っており冷ましたい気分だったので、タクシーを使わずに歩いて帰る。

 

コツコツと、タイルを蹴る音がする。黒いお気に入りのブーツの先がリズミカルに音を奏でる。あまり脳味噌も動かない状態にそれはなんだか心地よく、自然と足は軽くなった。

 

通りに出て左折。そのまま進んで信号待ち。歩いておよそ二百メートル。

 

歩行者信号の赤になんとなく落ち着きを覚える。時間の流れが正確。青に変わるその瞬間をじっくりと熱い脳みそで待ち続ける。コツコツと、秒針のようにつま先で時を刻む。少し詩的だっただろうかと苦笑い。それでも音は心地よく、そのリズムに合わせて鼻歌なんかを歌う。

 

たしか、前期のアニメのエンディング。染み入るバラードで内容にも即していて、個人的には一番好みの曲だったような気がする。もう今期も最終回が流れているころだ。帰ったら撮り貯めしているものを消化しようか、そういえば火曜日のあのラストは良かったな、とかそんなことを思っていると。

 

―――。

 

何か、音がした気が。

 

辺りには誰も。

 

一人で歩いているが、時間帯は夜十時。小さくても子供に間違われても、私はれっきとした女なわけで。このような事態に体が強張ることも、警戒してしまうことも自意識過剰ではないと許してほしい。

 

知らずつま先は地面についており、酔いもだいぶ冷めてきた。

 

警戒心はぬぐえず、耳を澄ませてもう一度。

 

―――――――――――。

 

今度ははっきりと。はっきりと、弦の音が聞こえた。ギターの音色だ。

 

「………?」

 

警戒を解きつつも、気にはなる。恐らく路上ライブのようなものではあるだろうが、地元では見なかったので気になる。”私、気になります”、とある彼女の言葉を胸に繰り返しながら歩きを進める。

 

信号は既に青になっていた。もう秒針の音は聞こえなくなってしまった。渡って右折。少し進んだところからだんだんと音が大きくなる。物珍しさ、聖なる夜に何と暇なことかと。

 

 

聞こえてきたのは定番のクリスマスソング。

 

私でも知っているその曲は進んだその道の先、人通りも少ない通りに端っこでその音は聞こえてきた。去年のクリスマスとか、気持ちを捧げたとか、私でも分かる英語。聞き取りやすい声と同時、耳に残る音。

 

ギターの音が、ではなかった。誰も見ていない中でリズムを刻む音でもなかった。声が、聞こえたのだ。私の鼻歌なんてわけないってものが。ゆっくりと歩みは遅くなる。

 

足が止まったのは決して、それが知り合いの顔だったからではないはずだ。

 

綺麗な音を、私は純粋に美しいと思ってしまった。聞き、惚れて思わず立ち尽くした。アレンジがすごかったとか気持ちの良いファルセットだとか、そういう技術的なところは分からないのだけれど。ただ心から、綺麗で、そして儚いと思ってしまったのだ。

 

演奏がゆっくりと終わる。

 

どこか寂しげな彼は、息を吐く。頭を数度かくと、もう一度息を吐いた。手がかじかんでいるらしく何度も何度も指に息を吐きかける。こすり合わせるその姿は、とても心に残る。何度も手を握り、握り、ピックを握る。それがどうしてか、かっこよくて。気づけばブーツの秒針が鳴る。

 

「あ」

 

響くは彼の声。美しいと思った彼の音。

 

「何やってるの、笹木くん」

 

ピックを落とした彼は呆然と私を見ていた。

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