この世界の中心は、   作:ルニャス

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反抗のリドウ

 

 ミラの特製スープと仲間の思いやりが功を奏したのか、元通りというわけにはいかなかったが、エルも食事は取るようになった。

 今までは、パパを助けるためにカナンの地へ行くのだと頑張っていた。その目的がいきなりなくなってしまったわけだが――旅の間に、世界の危機を知った。

 世界を救うためには、やはりカナンの地へ行かなければならない。

 幼いながらもそのことは理解しているのだろう。

 エルは、ビズリーの呼び出しに応じてマクスバードに向かい、カナンの地を出現させた。

 その直後にクロノスの襲撃を受けたが、ビズリーが手配していた携帯版のクルスニクの槍によって撃退に成功。いざ、乗り込もうとしたのだが――そちらの準備がまだ整っていないのだと、ヴェルから連絡が入ってしまった。

 カナンの地が空に出現したことで、色々と混乱も起きている。ガイアスやローエンは各方面へ指示する必要があるだろうし、エルにはまだ心身ともに疲労が残っている。

 なのでビズリーは一時解散を提案し、自身はユリウスを伴ってクランスピア社に戻ると告げた。

 それに同行を申し出たのはジュードである。また、ミラも、精霊ミラから四大を預かり、マクスウェル代行のような立場になっている今、カナンの地について、そしてそこへ行く方法も知っておく必要がある。エルのことは気になるものの、レイアたちに背中を押される形で、ジュードと共にクランスピア社に向かうことにした。

 一同がクランスピアの社長室に落ち着いたところで、ビズリーは口を開いた。

 「まずは、皆、ご苦労だった」

 「これで、カナンの地にいけるんですね?」

 ビズリーの労いの言葉を流して、ジュードが確認する。

 「…………」

 ユリウスは警戒心を抱きながら、ビズリーを見据えていた。

 「ああ。だがその前に、しておかねばならないことがある。ユリウス」

 「…………はい」

 「本日ただ今を持って、ユリウス・ウィル・クルスニクを、クランスピア社副社長に任じる」

 「!」

 予想外の辞令に、ユリウスは言葉を失った。

 「ユリウスさんが、副社長!」

 「……また、いきなりな話ね」

 「そうでもあるまい。ユリウスはもともとクラウン・エージェントだ。更に、公には出来ないがカナンの道標を揃えるという多大な功績をたてた。これくらいはあってしかるべき褒賞だ」

 驚くジュードとミラに、ビズリーはそう説明して見せた。

 「…………まだ、終わってはいない」

 ユリウスは、警戒を解かぬままにビズリーを見据えていた。

 カナンの地への鍵は揃ったが、実際に乗り込むまでにはもう一つ――ユリウスにとって何よりも重要な選択が残されている。

 ユリウスが副社長とされた今、ビズリーは他の人間を使うつもりなのだろう。恐らくはリドウを。だが――まだ、確定ではない。

 「無論、その通りだ。私は準備が出来次第、カナンの地へ向かう。ユリウス、お前には副社長就任の手続きといくつかの仕事がある。カナンの地に同行するには及ばない。――リドウはまだか」

 「…………」

 最後、ヴェルにむけた言葉を聞いた瞬間、ユリウスは安堵した。

 同行するのはリドウ。ならば、ユリウスが危惧する事態にはならない。

 これで――ユリウスが望む世界が、ほどなくやってくる。

 「――申し訳ありません、社長。リドウ副室長とは連絡が……」

 ヴェルがGHSを操作しながら面目なさそうに告げたとき、ユリウスのGHSがバイブで着信を知らせた。

 「…………」

 表示された名前を見て、ユリウスは目を瞠った。

 ルドガーだ。

 今朝、普通に仕事に行ったはずのルドガー。彼がこんな時間に連絡をしてくることに、ユリウスは俄かに嫌な予感を覚えた。

 短く迷った末に、通話を繋げる。

 「もしもし」

 「よお、お兄ちゃん」

 GHSから聞こえてきたのは、大事な弟ではなく――ユリウスの神経を逆なでする、リドウの声であった。

 「っリドウ……お前……!」

 ユリウスの口から苦々しく漏れた声に、皆の視線が集中した。

 「今、お前の大事な大事な弟は、俺と一緒に居るぜ?」

 「っ」

 「助けたいよなあ? 俺の要求はわかってんだろ? ユリウス副社長」

 リドウの粘りつくような声に――ユリウスは、怒りに震える低い声で問い返す。

 「……今、どこにいるんだ。声を聞かせろ」

 「マクスバード、エレン港だ。……ほらよ」

 GHSが受け渡される気配がして――

 「……ユリウス?」

 「ルドガー! 無事か!?」

 聞こえてきた声に、ユリウスは周りの目も忘れて訊ねていた。

 ルドガーの名前に、ジュードたちが反応した。ミラはユリウスに駆け寄って、GHSに耳を寄せる。

 「俺は平気だけど……俺、ユリウスが事故に巻き込まれたって聞いて……ごめん。もしかしなくても、騙された……んだよな?」

 「……お前が無事ならいい」

 平気だという言葉に、ユリウスは一先ず胸を撫で下ろした。

 リドウは、ルドガーを使ってユリウスを脅迫するつもりなのだ。

 ならば、ルドガーをすぐにどうこうすることはないだろう。

 「すぐに行く。リドウに代わってくれ」

 「はいよ、お兄ちゃん」

 人を嘲るようなリドウの声に、ユリウスは苛立った。

 リドウなどにルドガーの存在を掴ませてしまった己の迂闊さに、怒りがこみ上げる。

 「リドウ。ルドガーに傷一つでも負わせてみろ。……お前を橋にしてやる」

 「おお、怖い怖い。……それじゃ、待ってるぜ」

 ユリウスの恫喝にはおどけた返事をよこして――通話は切られた。

 「……弟、か?」

 会話を漏れ聞いていたビズリーは、ヴェルに視線を向けた。

 「……確認しました。ルドガー・ウィル・クルスニク様は、ユリウス副社長の弟です。……母親は、違うようですが」

 「……っ」

 一番知られてはならない人間に、知られてしまった。

 だが、今最優先すべきなのは、リドウからルドガーを取り戻すことだ。

 ユリウスは勢い良く踵を返し、社長室を飛び出していった。

 「っちょっと、待ちなさいよ!」

 「ユリウスさん! ルドガーを助けに行くなら僕たちも行きます!」

 飛び出したユリウスを追って、ミラ、ジュードも部屋を駆け出る。

 「……ふふふ。面白いことになっているじゃないか」

 低く笑って、ビズリーはヴェルに告げる。

 「予定通り進めろと伝えろ。多少手荒になっても構わんとな」

 「……承知しました」

 ヴェルの答えを背に、ビズリーは悠々と歩き出て――社長室には、何を思うか、目を閉じたヴェルだけが残された。

 

 

 

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