ドヴォールの初任務
手ごろな分史世界が見つかったと連絡を受け、エルたちはドヴォールへと向かった。
分史世界へ移動すると、正史世界からは人が消えたように見える。そうなって騒がれるのは面倒だということで、エルたちは、人通りの少ない、ドヴォールの裏路地の一角から分史世界へと侵入した。
「ええと……まず、どうすればいいんですか?」
世界を渡る独特の感覚が収まってから、ジュードはユリウスに訊ねた。
「……正史世界と異なっている点を探す。俺が近づけば、異変が目に見える」
ユリウスは、ジュードと、そのジュードの背に隠れるエルを一瞥してから答えた。
「成程……」
「それじゃあ、早速街に出てみよっか」
考え込むよりまず行動! と早速レイアが街へ飛び出した。
聞き込みに出たところ、裏路地に白髪鬼が出て人を狩るという噂を拾ったので早速調査をしたが、それらしき事件には遭遇しなかった。
一通り裏路地を歩いてみても何も見つけられず、疲れたエルは、しゃがみこんでルルに話しかけた。
「いないね、鬼」
「ナァー」
「僕たちは聞いたことない噂だったけど、向こうでもある噂だったのかも」
「となると……これからどうしよっか? もう一度、噂を集めてみる?」
「……ユリウスさん、何か、手がかりとか、ないんですか?」
レイアと話したジュードが、ユリウスに質問した。
分史世界は、ユリウスの専門だ。何か、手がかりの手がかりがあるかもしれないと思ってのことだ。
「偏差が目安にはなるが、それだけだ。今はここの偏差が高い。この辺りのはずだ」
「そう、ですか……」
どこか突き放すような声音のユリウスに、ジュードは少々たじろいだ。
仕事中だからなのか、ユリウスの言動は厳しい感じがする。
まるで、仲良くするつもりはない、と言われているようで――それがエルにも伝わっているのだろう。エルは、ユリウスが居るときは、人の背に隠れようとすることが多かった。そのエルは今、ジュードではなく、レイアの背後でルルを構っている。
「――よお、あんたら。こんなところで何してるんだ?」
「え?」
「動くな」
横手から話しかけられて、そちらを向いたジュードは――背後から歩み寄って来た何者かに武器を突きつけられ、身体を硬直させた。
「!」
「っジュード!?」
「――何の真似だ」
驚くレイアに続いて、ユリウスが、短く問いただす。
そのユリウスを見て、襲撃者は目を瞠った。
「お前は……クラン社の!? は! 異界炉計画が失敗に終わった途端、リーゼ・マクシアに尻尾振った犬が!」
ジュードの横手の襲撃者二人が、ユリウスに武器を向けた。
「…………」
ユリウスは無言で目を眇めると――素早く引き抜いた双銃を撃ち放った!
「ぐあ!?」
「っ!」
撃たれた二人がその場に倒れこむ。
「きゃー!?」
「エル……!」
目の前で人が撃たれたのを見たエルが悲鳴をあげ、そのエルを庇うように、レイアが抱きしめた。
「な……!」
ジュードを捕らえていた男は、仲間を撃たれて動揺した。
その隙をついてジュードが男の腕を捻り上げ、逆に拘束する。
「ゆ、ユリウスさん……」
男を拘束しながらも、ジュードは困惑していた。
ジュードの位置からは、二人がどこを撃たれたのか、その生死も判別出来ない。
「……うう……っ」
「! あ、ま、まだ生きてる……!」
男の呻き声を聞き取ったレイアが、急いで治療をしようと駆け寄ろうとして――
「――レイアさん、下がってください」
「え……!?」
聞き覚えのある声に、思わず足を止めた。
直後、倒れている男二人を囲うように、ナイフが数本、降って来る。
突き立ったナイフは精霊術を発動させ、男二人の身体を焼き尽くした。
「な……この術は……まさか……!」
「う、うわあああ、た、た、助けてくれ……!」
見覚えのあるナイフと術に、ジュードは驚いた。
驚いたジュードが拘束を緩めてしまったその隙に、怯えた男が、ジュードの手を振り払って逃げ出した。
「――逃がしません」
再びナイフが飛来し、男の額に突き刺さる。
「っもう、やーだー!」
あまりの光景に、エルは目を閉じてルルをぎゅっと抱きしめた。
「……何者だ」
ユリウスは銃から剣に持ち替えた。姿を見せた老人相手に、使い慣れない銃では分が悪いと思えたからだ。
「……お久しぶりですね、ジュードさん、レイアさん」
ユリウスの誰何には答えず、白髪の老人は、ジュードとレイアに語りかけた。
「ローエン、どうして……」
一年ぶりの再会であったが、しかし、目の前で繰り広げられた光景があまりに衝撃的で、ジュードは素直に喜ぶことは出来なかった。
「……知れたこと。ドロッセルお嬢様、エリーゼさん、ガイアスさんの仇。シェルを消してしまった償いをしなければ」
淡々と語るローエンの身体に、黒い靄のようなものが纏わりついて見えた。
「ローエン、まさか……ユリウスさん……!?」
「――タイムファクターだ」
ジュードの問いにユリウスは頷いて――腕だけを変身させると、槍を手に、駆けた。
ユリウスの槍が、ローエン――タイムファクターを貫き、そして世界は壊れた。
「……これが……分史世界……」
「こんなのって……」
それぞれショックを受けるジュードとレイアを一瞥し――そしてユリウスは、エルを見下ろした。
「――カナンの地にいくということは、こういう世界を一つ一つ潰していくということだ。それだけの覚悟が君にあるのか?」
「……あ、あるよっ」
ユリウスの冷たい視線と厳しい声に気圧されたエルだったが、ルルをぎゅっと抱きしめてから、強がって反発した。
「だ、だってそうしなきゃ、カナンの地にいって、パパを助けられないんでしょ? 分史世界を壊さなきゃ、世界は滅んじゃうんでしょ? なら、しょうがないことだし」
間違ったことはしてないし、とエルは言い切った。
エルの言葉に、ユリウスは眉を顰め――
「…………その覚悟を、貫き通せればいいがな」
突き放すようにそういうと、身を翻して裏路地を出て行った。
「……やな感じ! べーだ!」
エルはユリウスの背中に向けて舌をだした。
同じ頃、ユリウスが去った道とは違うほうから、分史世界で倒したばかりのローエンが姿を見せた。
「――おや、ジュードさんにレイアさんではありませんか」
「! ローエン!?」
「えっと……本物、だよね……? ここ、正史世界、だもんね?」
混乱するジュードとレイアに、ローエンが穏やかに語りかける。
「……はて? 本物? 正史世界とは、一体なんのお話ですかな?」
「……ええと、実は――」
ジュードとレイアはローエンに経緯を説明し、ローエンが新たに仲間に加わった。