この世界の中心は、   作:ルニャス

24 / 27
不器用な二人

 

 浜辺で貝殻を拾っていたエルの前に、突如、魔物が現れた。

 「っ下がれ! エル!」

 ユリウスは咄嗟に骸殻変身をすると、エルと魔物の間に割り込んだ。

 突き出した槍は魔物の身体を貫いたが、触手の一本が、ユリウスの右腕に巻きつく。

 「ぐ……っ!」

 みしり、と骨が軋む音を聞いた。

 魔物のほかの触手が、更にユリウスに迫る。

 「ユリウス!」

 その触手を、ミラが打ち払う。

 「気をつけて! 術が発動しかけているわ!」

 「ティポ!」

 ミュゼの警告に続いてエリーゼの声が響き、巨大化したティポが、魔物の身体を押しつぶした。

 「っ」

 右腕の触手が緩んだ隙に、ユリウスは身体を引いた。

 魔物から間合いを取ったところで、ユリウスの視界に、驚き硬直しているエルの姿が入ってきた。

 あの場所では戦闘に巻き込まれる。

 そう判断したユリウスは、エルに駆け寄ると、その身体を抱きかかえた。

 「っちょ、はーなーしーてー!」

 我に返ったエルが叫ぶ。

 ユリウスはエルの抗議を無視して跳躍。ある程度距離を取った場所に降り立つと、エルを放し、すぐさま戦闘へ駆け戻った。

 タイムファクターでもあった魔物を槍で貫き、ユリウスたちは正史世界へと戻る。

 そして――ユリウスは険しい顔で、エルの前に立ちはだかった。

 「――勝手に一人で動くなといっておいただろう!」

 「っ」

 開口一番の叱声に、エルは身を縮めた。

 が、負けん気の強いエルは、すぐに言い返した。

 「ひ、一人じゃないもん! ルルも一緒だし!」

 「そういうの、屁理屈っていうのよ。ルルは猫だから一匹」

 ユリウスが何かを怒鳴り返そうとするのより先に、ミラが言葉を滑り込ませた。

 先手を取られて思わず言葉を飲み込んだユリウスに、エリーゼが歩み寄る。

 「――ユリウスさん、怪我、見せてください」

 「……ああ、すまない」

 ここ最近は、当たりが柔らかくなってきたユリウスは、素直にエリーゼの手当てを受け入れた。

 「もう大丈夫だ、有難う」

 「いいえ」

 ユリウスが問題なく右腕を動かすのを見て、エリーゼは、ほっと笑った。

 そして――少し離れたところで、ちらちらと様子を窺っているエルを見る。

 「――エル。ユリウスさんに、助けてもらったお礼をいいましょう?」

 「……た、助けてくれなんて、頼んでないし」

 エリーゼが優しく促すのに、しかしエルはそっぽを向いてそういった。

 「そ、それに、眼鏡のおじさんは、そもそもエルのごえーなんでしょ! エルを守って当たり前……」

 「エル、それ、本気で言ってますか?」

 「…………」

 非難の篭ったエリーゼの問いに、エルは顔を俯けた。

 エルとて、お礼を言うべきだということは分かっているのだ。

 だが、叱られて、反発してしまった手前、そうそう素直にはなれなくて。

 そんなエルの気持ちを察したエリーゼが、柔らかく話しかける。

 「……素直になれない、嘘をつく悪い子のところには、バーニッシュは来てくれませんよ?」

 「でも、ちゃんと謝れる子のところにはー、きっと来てくれるよー」

 エリーゼとティポの言葉に、エルは、ちらりとユリウスを見てから――思い切って、顔を上げた。

 「…………ごめんなさい。……助けてくれて、ありがとう」

 小さめの声ながらも、謝罪と感謝の言葉は、しっかりとユリウスまで届いた。

 「…………無事なら、いい」

 ユリウスはそうとだけいって――踵を返した。

 遠ざかるユリウスの背中を見て、ミュゼが笑う。

 「……ふふ。なんだか良く似た二人ね。意地っ張りで、素直になれないところなんて、そっくり」

 「えー、エル、眼鏡のおじさんに似てなんかないもん」

 ユリウスと一緒にされたのが不満で、エルは唇を尖らせて文句を言った。

 「あら、似てるわよ~。ずっとあなたのこと気にかけているのに、素直に心配なんだって言えないところとか」

 「嘘だー。眼鏡のおじさん、エルのこと嫌いだもん。気にかけてるはずないし」

 ユリウスに優しくされた覚えのないエルは、ミュゼの言葉を信じない。

 が、そんなエルに、エリーゼとティポも言葉を重ねた。

 「そんなことないですよ、エル。確かに、ユリウスさんはちょっと、エルに厳しいかもしれませんけど……」

 「でも、エルが疲れてないかとか、危ないところにいってないかとかー、ちゃーんと見てるんだよー?」

 「え……? それ、本当……?」

 「……それこそ、エルの護衛だからじゃないの?」

 戸惑うエルに代わって問うミラに、ミュゼは微笑んだ。

 「ううん。きっと違うわ。だって、そういう視線じゃないもの」

 「……どうしてわかるの?」

 「うふふ、わかっちゃうのよ。私、お姉ちゃんだから。あれはね、お兄ちゃんの視線よ」

 「……兄弟って言うより、親子って歳の差だと思うけど」

 もうすっかり遠ざかっているユリウスの背中を見ながら、ミラは呟いた。

 ニ・アケリアで口論していた二人をみたとき、ミラは二人が親子だと思ったものだ。

 「ああ~、そうかもしれないわね」

 ミラの言葉に、ミュゼは手を打ち合わせて笑う。

 が、笑えないのはエルだ。

 「……エルのパパは……眼鏡のおじさんみたいに、怖くなんかないもん……」

 エルのパパは、料理上手で、優しくて、暖かくて、強くて、エルのことを大好きで――とにかく、ユリウスとは、全然違うのだ。

 だが――

 「……でも、パパは……パパの、剣は……」

 ユリウスの扱う双剣。その構えは――エルのパパに、似てなくも無い。

 いや、むしろそっくりといっても良くて――

 「……ううん、違う。エル、信じないもん……」

 けれどエルは、頭を振って、その思いを振り払った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。