また一つ分史世界を破壊したジュードたちは、夜になってトリグラフまで戻ってきた。途中、故障車両が出たと車内で足止めをくい、ようやくの到着であった。
ちなみに、ユリウスは一人別ルートで帰っている。少しばかり、チームワークに問題がありそうな状況である。
「……あー、お腹すいたなあ……」
列車を降りて改札を抜けたところで、ジュードの幼馴染であるレイアが溜息と共に呟いた。
「そうだね、ご飯、食べそびれちゃったし……」
ジュードも同意した。車内販売のお弁当は売切れてしまっていたのだ。
「どっか店、あいてねえかなあ」
「こんな時間では、酒場ぐらいでしょうかね」
「酒場、面白そうー」
「でも私、未成年ですし……」
すぐに食事にしたいというのは全員一致の意見であったが、では何処で、というのが次の問題である。
「そうだ! そういえば、最近ここの駅の食堂、大人気なんだよ!」
「あ、知ってます。確か、トマト入りオムレツがすごく美味しいって聞きました」
新聞記者の卵をしているレイアが耳寄り情報を披露すれば、それにエリーゼが応じた。
「お、エリーゼ中々情報通だね」
「エル、トマト苦手!」
「ありゃ、そっかー。でも、他のもきっと美味しいよ! ねね、折角だからこれから行ってみない?」
「つったって、もういい時間だぜ? やってねえかもだし、そもそもそんなに人気なら行っても食えねえんじゃね?」
アルヴィンはすぐにも走り出しそうなレイアを止めた。そろそろ、一般の店は閉店する時間だ。
「そうだけど、覗いてみるだけ! こんな時間だから、空いてるかもだよ!」
「そうですね。どうせ通りがけです。覗いてみるだけ覗いてみましょう」
「うん、そうだね。いってみよう」
入れたらラッキー、程度に期待して、ジュードたちは噂の食堂を目指した。
「あ、あそこ……って、あー閉まっちゃう!?」
件の食堂は、一人の青年が店じまいをしているところであった。
「ん?」
レイアの大声を聞いて、青年は手を止めて振り返った。
「すいませーん、駄目ですか!? 終わっちゃいました!?」
「あ……えと」
「レイア、無理言っちゃ駄目だよ……って、あれ、貴方は!」
レイアに詰め寄られて戸惑う青年を見て、ジュードは驚いた。
テロ事件の日、駅まで案内してくれた親切な青年だった。
「! ジュード! 良かった、無事だったんだな!」
「あ、うん。そっか、心配してくれてたんだね。ありがとう。僕は無事だったよ」
名前を知られていたことにちょっと驚いたジュードだったが、青年のほっとした笑顔を見て心が暖かくなった。
「ジュードのお友達ですか?」
「うん。駅に行くのに迷子になっていたところを助けてくれたんだ。乗り込んだのが、テロにあったあの電車だったから、彼には心配かけちゃったみたいで……ごめん」
「いや、いいんだ。噂で、無事とは聞いてたから。目で見て安心したけど」
「そっか。ありがとう。……ところで、ええと」
「あ、悪い。俺が一方的にジュードの名前を知っているだけだったな。俺はルドガー。よろしく」
「うん、よろしく、ルドガー」
差し出された手を、ジュードも握り返した。
「そっか。ルドガーは駅の食堂で働いてるっていってたね」
「ああ。ジュードたちは……皆でご飯か?」
「そう。列車の遅れに巻き込まれて、食べそびれて……それで、最近評判のお店があるってレイアが……彼女、僕の幼馴染がいうから来てみたんだけど……」
ルドガーの身体の向こう、食堂のドアにはCLOSEの札がかけられているのが見えた。
言葉には出さずとも、残念オーラは伝わったらしい。
「ちょっと待って。店長、すいませーん」
ルドガーは小さく笑うと、ドアを開けて店内に向かって声をかけた。
「ん? どうした、ルドガー」
「えっと、友人がお腹すかせてるんで、調理場使わせてもらえませんか? 勿論、明日の仕込みは使いませんから」
「そうか。わかった。じゃあ後始末は頼んだぞ」
「はい、有難う御座います、お疲れ様です。――さあ、どうぞ」
あっさりと許可をとったルドガーは、ジュードたちを手招いた。
「え、いいの!?」
「ああ。といっても、賄い料理ぐらいしか出せないけどな」
「ううん、凄く助かるよ! 有難う、ルドガー!」
「流石ジュードの友達、お人よしだな」
「ほっほっほ。では、お言葉に甘えましょう」
「お邪魔します」
ようやくご飯にありつける、と皆はいそいそと食堂に入った。
一言で言って、ルドガーの料理は絶品であった。その美味しさに皆の胃袋は鷲掴みにされ、第一声後は食事に集中してしまったほどに。
「ご馳走様、ルドガー。すごく美味しかったよ」
「はは、ありがとう」
ジュードを始め、皆の率直な賛辞に、ルドガーは照れ笑いながら食後のお茶も用意した。
「ねえねえルドガー、ここで評判のトマト入りオムレツ作った人って、どんな人!?」
「え?」
「あ、私ね、記者の卵なの! インタビューしてみたいなって」
突然の質問に戸惑うルドガーに、レイアは胸を張ってから、メモ帳とペンを構えた。
取材する気満々のレイアに、ルドガーは控えめに応じた。
「えっと……考案したのは、俺なんだ」
「え、そうなの!? うっわー、すっごい! これはもう運命だね! ルドガー! 是非独占取材を!!」
「あ……悪い。そういうのは、ちょっと」
ずずいと身を乗り出したレイアに、ルドガーは申し訳なさそうに断りを入れた。
「えー、なんで!?」
「レイア、無理言っちゃ駄目だよ」
「ううー……でも、無理強いは良くないもんね、仕方ないか」
ジュードに窘められて、レイアはしぶしぶ退いた。
代わって身を乗り出したのは、アルヴィンである。
「なあ、ルドガー。お前さ、リーゼ・マクシアの果物仕入れる権限もってねえ?」
「仕入れの? いや、俺まだ下っ端だし」
「そっかー。じゃさ、上の人に頼んでみてくんねえ? 俺、今商売やってるんだけど」
リーゼ・マクシアの果物販売を手がけているアルヴィンだが、あまり捗々しくない状況である。どんな伝手でも頼ってみたいと、駄目もとでお願いする。
「……んー、話をしてみるだけならいいけど……でも、難しいと思う。契約だし」
「……だよなあ。やっぱ出遅れは厳しいよなあ」
嘆息するアルヴィンを見て、ルドガーは少し考えた後、口を開いた。
「……なあアルヴィン。今度、リーゼ・マクシアの果物と野菜をいくつか持ってきてくれないか」
「ん? 構わないが、どうするんだ?」
「仕入れ先を変えるのは無理だろうけど、新メニューで、リーゼ・マクシア産、リーゼ・マクシア風っていうのを考えれば、そのための材料は当然、新規ルートで仕入れだろ?」
「成程! そっかルドガー頭いいな! よっしわかった! 今度いくつか見繕ってもってくるから、よろしく頼むぜ!」
ちょっとした光明に、俄然アルヴィンはやる気になった。
何しろルドガーは、今大評判のトマト入りオムレツ考案シェフである。その新メニューともなれば期待できるし、話題性もある。上手くすれば安定したルートに化ける可能性があった。
「やってみるよ。あ、あと、リーゼ・マクシアはどんな料理を食べてるとかも知っておきたいんだけど……」 「それなら私に任せて!」
話を聞いていたレイアが、元気一杯に手を上げた。
「私の実家、料理自慢の宿屋なんだよ! お父さんの料理、すっごく美味しいんだから! お父さんのGHSの番号、教えるね!」
「それは嬉しい。ありがとう、レイア」
「えっへへ。完成したら味見させてね、ルドガー!」
ちゃっかりと、レイアは味見の予約を入れた。